冠水時の自動車通行の危険性に関する研究
STUDY ON THE RISK FOR VEHICULAR TRAFFIC IN A FLOOD SITUATION
押川英夫
1・大島崇史
2・小松利光
3Hideo OSHIKAWA, Takashi OSHIMA and Toshimitsu KOMATSU
1正会員 博(工) 九州大学助教 大学院工学研究院環境都市部門(〒819-0395 福岡市西区元岡744) 2学生会員 学(工) 九州大学大学院工学府海洋システム工学専攻(同上)
3フェロー 工博 九州大学教授 大学院工学研究院環境都市部門(同上)
Automobiles are considerably easy to be flushed away in a flood situation. In this study, risk for vehicular traffic in a flood situation was examined by a laboratory experiment. Hydrodynamic force on two types of model car (a compact car and a SUV car) which is set in the lateral center of the bottom of a straight channel was measured. Drag force coefficients (CD) and lift force ones (CL) under various
conditions with water depths and flow velocities were evaluated by the experimental results. In addition, hydrodynamic force and lift force on each prototype car were predicted by using CD and CL, and the risk
for vehicular traffic in a flood with a flow was estimated. As a result of this study, it is made clear that driving a car in a flood situation is significantly dangerous.
Key Words : Flood, flow velocity, vehicular traffic, drag force, lift force
1. はじめに 近年都市型集中豪雨の増加など,地球温暖化が原因と 思われる気候変動が報告されており,現在世界的に温室 効果ガス排出量の抑制などの温暖化緩和策が講じられて いる.しかしながら,少なくとも今後20~30年間は温室 効果ガス排出量に関係なく気温の増加傾向が続くとされ ており 1),今後も温暖化の進行に伴って降雨形態も変化 していく可能性がある.このような気候変動の下,現在 の防災機能では対応不可能な大規模水災害が起こること が危惧されている.また,都市型集中豪雨などはその予 測が困難であり,避難勧告などの行政の対応は遅れがち である.したがって,危機に直接遭遇することになる市 民一人一人の防災意識と危機回避能力を高めることが今 後重要になってくる. ところで,行政は徒歩を原則とした洪水氾濫時の避難 計画を作成しているものの,幼児や高齢者,要介護者な どの避難には必須ということもあり,実際には多くの水 害時に自動車が利用されている.長崎市を中心に299人 の死者・行方不明者をもたらした昭和57年7月豪雨では, 自動車の被害がとりわけ多く,自動車の被害数は約2万 台に上った 2).20人程度が自動車の流失などにより車内 に居たまま犠牲になったと推測されており,この災害は 堰 整流板 60cm 490cm 750cm 100cm 流れの方向 k B Z X 60cm 三分力計 X Y E 土台 土台 60 cm 堰 整流板 60cm 490cm 750cm 100cm 流れの方向 k B Z X 60cm 三分力計 X Y E 土台 土台 60 cm 図-1 実験装置の概略図(上図:側面図,下図:平面図) 車社会における水害の実態を象徴した事例として,洪水 氾濫時の自動車通行の危険性を示唆している.最近でも 平成22年7月の岐阜県可児市での水害 3)のように,氾濫 した水に自動車ごと流されて亡くなるというケースが多 く見受けられ,その対策は重要なものと考えられる. 本研究では,このような自動車通行に対する流水の危 険性について把握するとともに,最終的には市民への危 険性の周知,市民一人一人の判断力の向上を目指して模 型実験による検討を行った. 2.実験概要 (1) 実験装置と実験方法 実験には,長さ2200cm,幅60cm,深さ60cmの直線開 水路を用いた(図-1参照).対象車種は,小型車の日産 論文 河川技術論文集,第17巻,2011年7月 461
-マーチとSUV車(スポーツ用多目的車)のトヨタランド クルーザーの2種類とした.これは,自動車の大きさや 形状などから判断して,比較的流されやすいと推測され る小型車と,逆に流されにくいと推測されるSUV車とで 比較検討を行えるように選定したものである.実験には, 市販のプラスチック製の1/24サイズの模型を組み立てて 用いた.対象車種の実車の公表値 4), 5)と模型それぞれの 諸元を表-1に示す. 模型に作用する力の測定には三分力計(定格容量 500gf)を用いた.路面にタイヤが接触した状態で車の みに働く力の測定が困難であったことから,実験におい ては模型に自動車底部の形状に合わせた薄い土台を結合 させたものを,横断方向の水路中央で三分力計に取り付 け,流水が模型および土台に及ぼす力を測定した.更に, 模型を上から支柱によって吊り下げ,土台から1mm程度 浮かした状態で固定することによって,模型への力が土 台にかからない状態でも同一の水理条件で土台にかかる 力の計測を行い,その値を差し引くことで,自動車のみ に作用する力を評価した.なお,鉛直方向に関しては浮 力も働くことになるが,静水時の実験を併せて行うこと で,ここでは自動車の形状のみにより発生する揚力(係 数)を評価している.揚力は上向きを正としており,揚 力係数も同様に上向きが正である. (2) 実験条件 小型車およびSUV車それぞれの実験条件を表-2,表-3 に示す.流れと車の向きの関係については,前述の長崎 水害において車の進行方向に対して平行に水が流れてき た場合には流失被害が少なく,水流が横,斜めからの場 合に流されたケースが多かったとの報告 2)もあることか ら,まずは危険側を検討することとして,主流(X方 向)に対して車が直角に設置された場合を検討対象とし た.なお,小型車における水路床勾配は1/50,SUV車で は1/100とした.表-2および表-3中に示されたそれぞれ の水深hにつき3種類(小型車ではSeries1~Series3,SUV 車ではSeries4~Series6)の実験条件(Re≡UE/ν,Fr≡U / (gh)1/2,Uは断面平均流速,Eは車の全長,ν は水の動粘 性係数で0.01cm2/s,gは重力加速度で9.81m/s2)で測定を 行うことで,各水深における抗力係数,揚力係数のRe依 存性などを検討している.ただし,SUV車でのh=2.0cm のSeries6については,今回の実験装置一式では実施困難 であったために行なっていない.測定はサンプリング周 波数100Hzで2分間とし,得られたデータを平均するこ とで力の評価を行っている. 3.実験結果および考察 (1) 模型実験の結果と考察 各実験条件における,模型と土台を結合させた状態で の力のX方向の測定値(模型と土台に働く抗力)をH,Z 方向の測定値(模型と土台に働く揚力,浮力,自重の 和)をWとする.さらに模型を土台から離した状態での X方向の測定値(土台のみに働く抗力)をH’,Z方向の 測定値(土台のみに働く揚力,浮力,自重の和)をW’ とする.また,流水中の模型に働く浮力については,自 動車設置地点の上流側と下流側で水深が異なるために正 確な浮力の評価が困難なことから,ここでは模型に接す る上流側と下流側の水深の平均値により流水時の水深を 表-1 対象とする実車と模型の諸元 対象車種 重さ (kg) 全高 k(m) 全長 E(m) 全幅 B(m) 小型車 970 1.535 3.695 1.66 SUV車 2430 1.89 4.89 1.94 小型車の模型 0.08832 0.062 0.154 0.072 SUV車の模型 0.16074 0.076 0.200 0.079 表-2 小型車の実験条件
Series1 Series2 Series3 水深 h(cm) 相対水深 h/k U (cm/s) Re (×104) Fr U (cm/s) Re (×104) Fr U (cm/s) Re (×104) Fr 1.0 0.16 30 4.5 0.96 50 7.5 1.60 80 12.0 2.56 1.5 0.24 50 7.5 1.30 70 10.5 1.83 101 15.2 2.63 2.0 0.32 70 10.5 1.58 90 13.5 2.03 116 17.4 2.62 2.5 0.40 90 13.5 1.82 110 16.5 2.22 133 20.0 2.69 3.0 0.48 110 16.5 2.03 130 19.5 2.40 150 22.5 2.77 表-3 SUV車の実験条件
Series4 Series5 Series6 水深 h (cm) 相対水深 h/k U (cm/s) Re (×104) Fr U (cm/s) Re (×104) Fr U (cm/s) Re (×104) Fr 2.0 0.26 60 12.0 1.36 70 14.0 1.58 ― ― ― 2.5 0.33 60 12.0 1.21 70 14.0 1.41 80 16.0 1.62 3.0 0.39 60 12.0 1.11 70 14.0 1.29 80 16.0 1.48 3.5 0.46 60 12.0 1.02 70 14.0 1.20 80 16.0 1.37 4.0 0.52 60 12.0 0.96 70 14.0 1.12 80 16.0 1.28 4.5 0.59 60 12.0 0.90 70 14.0 1.05 80 16.0 1.20 462
-0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 h (cm) 測定 値 (N ) H H' D -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 h (cm) 測定 値 (N ) W W' m L 図-2 水深とX方向の力の関係(Series-3) 図-3 水深とZ方向の力の関係(Series-3) 0 1 2 3 4 5 6 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 Relative Depth (h/k) D rag C oef fi cen t Series1 Series2 Series3 0 1 2 3 4 5 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 Relative Depth (h/k) D rag C oef fi cen t Series4 Series5 Series6 図-4 相対水深と抗力係数の関係(小型車) 図-5 相対水深と抗力係数の関係(SUV車) 代表させることとした.すなわち,それらの平均値を水 深とする場合の静水時の模型と土台に働く浮力と自重の 和mから,同一水深における静水中での土台の浮力と自 重の和m’(=0.023N)を引いた値を模型のみに働く浮力 と自重として代用した.以上より,自動車模型のみに働 く抗力Dおよび揚力Lはそれぞれ以下の式で求められる. H H D= − ′ (1)
(
W W) (
m m)
L= − ′ − − ′ (2) 一例として,横軸を水深とした小型車のSeries3における 結果をX方向については図-2,Z方向については図-3に 示す.X方向ついては,H’が非常に小さいためにHとD はほぼ等しくなっている.これは,H’がほぼ底面せん 断応力に相当することから,H’はHと比較してかなり小 さくなることが想像されるため,妥当な結果を示してい るものと考えられる.一方,図-3のZ方向の各種の力に ついては,主流と直角方向であることから,値の絶対値 が小さくなっているとともに,hの変化に応じて複雑な 挙動を示している.結果的に車の形状による揚力は,そ れ程大きくはないものの負値となっており,いわゆるダ ウンフォースとして働いている. 実験により得られた自動車模型のみに作用する抗力D, 揚力Lをもとに,小型車とSUV車の各条件における抗力 係数(CD)および揚力係数(CL)を以下の式により求めた. ) 5 . 0 /( 2 x D D U A C = ρ (3) ) 5 . 0 /( 2 z L L U A C = ρ (4) ここで,ρ(=1000kg/m3)は水の密度,A x は各水深におけ る流れ方向の(水面下の)車の投影面積,Az はZ方向の 投影面積(車底部の断面積)である. 小型車,SUV車それぞれに対して求められたCD を相 対水深h/kに対してプロットした図を図-4および図-5に 示す.小型車では,最も相対水深の低い条件を除いては ReおよびFrの変化によるCD の違いはほとんど見られず, 条件依存性の小さい結果が得られている.一方,SUV車 ではReおよびFrの増加に伴ってCD は小さくなっており, ある程度の条件依存性が認められる.また,両車種とも に相対水深の増加に伴って抗力係数が減少していること が分かる.次に小型車,SUV車それぞれのCL を相対水 深h/kに対してプロットした図を図-6,図-7に示す.以 上の結果より,CD,CL ともに小型車ではReおよびFrへ の依存性の小さい結果が得られているが,SUV車では条 件依存性が比較的大きいことがわかる.しかしながら, 小型車における最もReの小さいSeries1 (Re=4.5×104~ 16.5×104 ) の範囲で既にC D およびCL のRe依存性がある 程度小さくなっていることから,SUV車に関してもReが 463--0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 Relative Depth (h/k) L ift C oe ffic en t Series1 Series2 Series3 -0.6 -0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 Relative Depth (h/k) L ift C oe ffic en t Series4 Series5 Series6 図-6 相対水深と揚力係数の関係(小型車) 図-7 相対水深と揚力係数の関係(SUV車) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 Relative Depth (h/k) Ψ U=0.1m/s U=0.5m/s U=1.0m/s U=1.5m/s U=2.0m/s U=2.5m/s 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50 Relative Depth (h/k) Ψ U=0.1m/s U=0.5m/s U=1.0m/s U=1.5m/s U=2.0m/s U=2.5m/s 図-8 流速Uに応じた小型車の相対水深と危険率Ψの関係 (M’=100kg,p =0.2,µ=0.5) 図-9 流速Uに応じたSUV車の相対水深と危険率Ψの関係 (M’=100kg,p =0.2,µ=0.5) Series1と同程度以上でかつ最も大きいSeries6 (Re=16.0 ×104 ) におけるC D ,CLについてはRe依存性の小さい結 果が得られているものと判断して,小型車,SUV車とも に最もReの大きいSeriesにおけるCD とCL を用いて今後 の実車の評価を行うこととする.なお,本来CD とCL の Frへの依存性についても十分な検討が必要であるが,以 降では簡単のために考慮されていない. (2) 実車の評価について a) 実車の評価方法 実験により得られたCD ,CL をもとに,実際の自動車 が水深に応じてどの程度の流速まで流されずに耐えられ るかについて以下のような試算を行った. 表-1に示されたように,車両質量は小型車で970kg, SUV車で2430kgである.ここでは,運転者を除くと車内 に人や物が殆どのっていない状態から,人や物が多く のっている状態までを想定し,人を含む積載物全ての質 量M’が100kgから500kgまでの検討を行った.なお,総 質量Mは各車両質量にM’を加えた値である. 江守(1993) 6)によるとタイヤと濡れたアスファルト路 面の摩擦係数はµ=0.45~0.6,濡れたコンクリート路面で はµ=0.5である.また,酒井(2000) 7)によると濡れた滑り やすいアスファルト路面の摩擦係数は速度0の場合の µ=0.63程度から速度の増加に伴って線形的に減少すると 報告されていることなどから,本研究ではµ=0.5を基準 値として,µは0.4~0.6の範囲をとるものとした. 浮力に関わる浸水率を考慮する際に必要な自動車の空 隙率p(自動車の外観の体積に対するエンジンルームなど の水の入り込む空隙の割合)については,JAF(2010) 8)が 自動車をクレーンで吊り下げて水中へ下ろし,自動車の 浸水状況などを調べる実験を行なっており,この実験に おける自動車に働く浮力と自動車の全重量(車重と積載 物重量の和)がほぼ釣り合った状態をもとに概算したp =0.5を上限値とした.また,過去の被害例や実験等では, 水没初期に自動車が浮く状況や水没の進行に伴い車内へ の浸水が生じることが報告9)されていることなどから, 浸水が生じない最も危険側のp=0を空隙率の下限値とし, 概略の基準値としてはp=0.2とした.なお本研究では, 簡単のために浸水過程は無視することとし,一定の空隙 に速やかに浸水するものと仮定した. 実際の車が流されるかどうかを評価する際には,以下 に示す無次元流体力Ψ(≡流水により車が受ける力F/流 水に対する車の抵抗力R)を用いた.FおよびRは,それ ぞれ以下の式(5),(6)で表される. x D U A C D F = =0.5 ρ 2 (5) ) (Mg f L R=µ − B −
(
)
{
1 0.5}
=µMg− −p ρVwg− CLρU2Az (6) 464-0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 Relative Depth (h/k) Ψ p=0p=0.1 p=0.2 p=0.3 p=0.4 p=0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50 Relative Depth (h/k) Ψ p=0p=0.1 p=0.2 p=0.3 p=0.4 p=0.5 図-10 空隙率 p に応じた小型車の相対水深と危険率Ψの関係 (U=1.5m/s,M’=100kg,µ=0.5) 図-11 空隙率pに応じたSUV車の相対水深と危険率Ψの関係 (U=1.5m/s,M’=100kg,µ=0.5) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 Relative Depth (h/k) Ψ 小型車, M'=100kg 小型車, M'=300kg 小型車, M'=500kg SUV車, M'=100kg SUV車, M'=300kg SUV車, M'=500kg 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 Relative Depth (h/k) Ψ 小型車, µ=0.4 小型車, µ=0.5 小型車, µ=0.6 SUV車, µ=0.4 SUV車, µ=0.5 SUV車, µ=0.6 図-12 積載物質量M’に応じた相対水深と危険率Ψの関係 (U=1.5 m/s,p =0.2, µ=0.5) 図-13 摩擦係数µに応じた相対水深と危険率Ψの関係 (U=1.5m/s,M’=100kg,p=0.2) ここで,fB は自動車に働く浮力,Vw は自動車の水面下 の体積である.Ψ>1は流水によって流されることを意味 する. b) 実車の評価結果 洪水の流速による危険度の差異を把握するために, M’=100kg,p=0.2,µ=0.5の場合について,U=0.1, 0.5, 1.0, 1.5, 2.0, 2.5(m/s)の流速をパラメータにして,横軸を h/k,縦軸をΨとして小型車およびSUV車における危険 率を評価した結果をそれぞれ図-8,図-9に示す.ただ し,図-8以降においては,CD およびCL の実験結果に直 線内挿を適用して,実験条件(数)の不足を補うよう に,プロットに基づいてある程度滑らかな曲線を描い ている.これより,両車種ともに,Ψはh/kの増加に 伴って急増することが分かる.特に,小型車ではh/k≒ 0.27,SUV車ではh/k≒0.39でΨが著しく大きくなってい るが,これらはR=0,すなわち車が浮いてしまう状態に 相当する.ちなみに長崎水害の報告 2)では,ドア上 10~20cmで自動車が浮き始めたとされており,この値は 本研究の小型車では水深40cm程度と考えられる.した がって,前述のh/k≒0.27,すなわち実水深の41cmとほ ぼ等しいことから,本研究の解析や条件がほぼ妥当な ものと判断される.また両車種ともに,流速の増加に 伴って危険率が著しく増加していることが分かる.特 に小型車ではU>2.0 (m/s) になると,h/k=0.21(実水深 で32cm)程度でも流されてしまうことが分かる.また, 比較的強いSUV車においてもU>2.0 (m/s)になると,h/k =0.31(実水深で59cm)程度で流されることが理解され る. 次にU=1.5m/s,M’=100kg,µ=0.5の場合について,小 型車およびSUV車における空隙率pの違いがΨに与える 影響をそれぞれ図-10,図-11に示す.p=0とp=0.5にお けるΨ=1となる点のh/kの差をみると,小型車で約0.07 (実際の水深の差で11cm),SUV車では約0.08(実際 の水深の差で15cm)と,両車種ともにpによって流さ れる限界の水深に顕著な差異が認められる.これより, 自動車の水密性や浸水速度などの不確定な要素を包含 する空隙率が,自動車が流水に流されるかどうかに比 較的大きく影響することがわかった. 次に同乗者の人数の違いなどの積載物重量による危 険度の差異を把握するために,U=1.5m/s,p=0.2, µ=0.5 の場合について,車種とM’=100, 300, 500 (kg)の積載物 質量をパラメータにして,横軸をh/k,縦軸をΨとして 465
-小型車およびSUV車における危険率を評価した結果を 図-12に示す.これより,両車種ともにM’の増加に伴っ て危険率が小さくなることが分かる.また,最小の M’=100kgの場合と最大のM’=500kgの場合の危険率の幅 がSUV車と比較して小型車の方が顕著に大きいことか ら,小型車の方が積載物重量の影響を大きく受けるこ とが理解される. 自動車の速度や路面の状態によってµの値が変化する ことから 7),U=1.5m/s,M’=100kg,p=0.2の場合につい て, 車種とµ をパラメータにして小型車およびSUV車 の危険率を評価した結果を図-13に示す.これより,両 車種ともにµ の増加に伴って危険率が低下するものの, 小型車では前述のU, p, M’と比較して, µ の影響は顕 著に小さく,SUV車ではM’と同程度であることがわか る. 最後に,M’=100kg,p=0.2,µ =0.5の場合の図-8,図-9を市民向けに書き換えた例として,Ψ=1となる点を描 いた図-14(小型車),図-15(SUV車)を示す.横軸 は実水深,縦軸は流速で表記されており,車の速度表 示でより一般的な単位(km/h)も右軸で併記している 点に注意されたい.また,図中には参考として,M’は 同一の100kgで最も危険側の条件と考えられるp=0, µ=0.4と最も安全側と考えられるp=0.5, µ=0.6の場合も 併記している.図-14,図-15より大よそ平均的と思わ れるM’=100kg,p=0.2,µ=0.5の条件において流速が 2.0m/s (=7.2km/h)を超えると,小型車では脛程度の水深 (31cm),SUV車でも膝上程度の水深 (57cm)で車は流さ れてしまうことが理解される.p=0, µ =0.4の最悪の場合 を見ると,U >2.5m/sにおいて小型車では水深26cm, SUV車では48cm(膝程度)以下で車は流され得る. 4.おわりに 本研究では,冠水時の自動車通行の危険性を把握す るために模型実験による検討を行なった.その結果, 小型車とSUV車では小型車の方が遥かに流されやすい ことが分かった.具体的には2.0m/s (=7.2km/h)程度の流 速があれば,小型車では脛程度の水深 (31cm),SUV車 では膝上程度の水深 (57cm)で車は流され得る.さらに 悪条件が重なった場合には,小型車では僅か26cm, SUV車では48cm(膝程度)で車は流され得る.市民の 危険性の認識は我々よりも更に低いと想像されるため, 今後はここで得られたような結果をもとに,冠水時の 自動車通行の危険性を広く社会に訴えていく必要があ るものと思われる. 謝辞:本研究を実施するにあたり,九州大学大学院工 学研究院の藤田和夫氏に多大なるご協力を頂いた.ま た,JAFおよびJAF Mate社の関係者には実験データをご 0 1 2 3 4 5 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 水深(m) 流速 (m /s ) 0.0 3.6 7.2 10.8 14.4 18.0 流速 (km/h) p=0.5, µ=0.6 p=0.2, µ=0.5 p=0, µ=0.4 危険側 安全側 0 1 2 3 4 5 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 水深(m) 流速 (m /s ) 0.0 3.6 7.2 10.8 14.4 18.0 流速 (km/h) p=0.5, µ=0.6 p=0.2, µ=0.5 p=0, µ=0.4 危険側 安全側 図-14 冠水時の小型車通行の危険性の判読図 (M’=100kg) 0 1 2 3 4 5 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 水深(m) 流速 (m /s ) 0.0 3.6 7.2 10.8 14.4 18.0 流速 (km/h) p=0.5, µ=0.6 p=0.2, µ=0.5 p=0, µ=0.4 危険側 安全側 0 1 2 3 4 5 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 水深(m) 流速 (m /s ) 0.0 3.6 7.2 10.8 14.4 18.0 流速 (km/h) p=0.5, µ=0.6 p=0.2, µ=0.5 p=0, µ=0.4 危険側 安全側 図-15 冠水時のSUV車通行の危険性の判読図 (M’=100kg) 提供頂いた.なお,本研究の一部は,環境省の環境研 究総合推進費(S-8-2(2))の支援により実施された. ここに記して関係各位に深甚なる謝意を表します. 参考文献 1) 文部科学省・経済産業省・気象庁・環境省:IPCC第4次評 価報告書統合報告書政策決定者向け要約,2007. 2) 高橋和雄・高橋裕:クルマ社会と水害 -長崎豪雨災害は 訴える-,九州大学出版会,182p.,1987. 3) 可児市:7・15豪雨災害検証報告書,2010. 4) http://cars.jpn.org/body/n002100884.html 5) http://kakaku.com/kuruma/km_toyota/70100110065/grade/14/ 6) 江守一郎:新版 自動車事故工学,技術書院,261p.,1993. 7) 酒井秀男:走りを支えるタイヤの秘密,裳華房,116p., 2000. 8) JAF:豪雨から車と身を守れ! 冠水路と水没時,車はどう なる?,JAF Mate,Vol.48, No.5, pp.22-25,2010.
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(2011.5.19受付)