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はじめに現状を変えようとすれば 反対があるものです 安全が確保されているなら 安全だから安心してください と丁寧に説明することが 行政の長の責任です 評論家のように 安全とともに安心が必要 と繰り返したことが 事態の混迷を招いた原因です 築地市場は 関東大震災で市場が壊滅的な打撃を受けたあと 日本橋

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大騒ぎをし、実質数百億円の損失を残した

豊洲市場の移転延期騒動は何だったのか

はじめに

1. 築地開業から豊洲移転決定までの経緯

2. 土壌汚染と健康リスク

3. 地下水浄化目標とモニタリング結果

4. 誤解-風評の蔓延

5. 築地現在地再整備の課題

6. 豊洲移転で 60 年累積赤字 1 兆円は詐欺的論理

7. 小池都知事の基本方針

8. 移転延期騒動が残した多額の損失

9. 五輪会場見直しで 400 億円圧縮の嘘

10. 小池都知事の言葉

2017 年8月

田中 雄三

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はじめに 現状を変えようとすれば、反対があるものです。安全が確保されているなら、「安全 だから安心してください」と丁寧に説明することが、行政の長の責任です。評論家のよう に、「安全とともに安心が必要」と繰り返したことが、事態の混迷を招いた原因です。 築地市場は、関東大震災で市場が壊滅的な打撃を受けたあと、日本橋にあった魚 市場と、京橋にあった青物市場を移転してできたものです。 日本橋は東京市街の中心でした。築地への移転に対し市場の人達からは、「私た ちは幕府の許可を得て、日本橋でこんなに立派にやってきたじゃないか」という激しい 反発があり、また、消費者による「築地で魚を買わない」という不買運動もあったと言わ れます。それでも移転が進んだのは、行政のトップが率先して推進したからだと思いま す。 築地市場の開業は昭和 10 年(1935 年)ですから、1990 年頃には、開業 50 年に達していました。鉄筋コンクリート建築物の平均寿命は 65 年と言われます。建設 期間を考えれば、築地市場再整備は、待った無しの段階であったわけです。 約 5 年を費やした築地現在地での再整備の頓挫のあと、築地の市場関係者は、 移転も止むを得ないという考えに傾いていったものと思います。 しかし、市場関係者が望んだ築地に近接した場所で、充分な広さがある土地は、 土壌汚染がある豊洲しかなかったわけです。 土壌汚染対策により、飲料水の水質まで地下水を浄化することはできませんでした が、専門家は、「建物内の安全性は保たれており、食べ物への汚染は起こらない」と強 調し、「地上と地下は分けて議論するべきだ」と繰り返したと報じられました。 しかし、都知事は、「地上と地下を分けて考えることはできない」と主張し、「安全とと もに安心が必要」と繰り返しました。それは、豊洲市場の移転延期の妥当性を主張す るためと思います。そのことが、豊洲移転騒動の混迷の主な原因と考えます。

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結局、豊洲市場の移転延期は、概ね当初の計画に落ち着きました。都議選で都 民ファーストが大勝すると、小池都知事への批判は聞かれなくなりました。

しかし、移転の延期は、実質的に数百億円の損失を残しました。辞任した舛添前 都知事と比べても、遥かに大きな損失です。移転延期騒動について整理しておくことが 必要との思で経緯をまとめました。

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1. 築地開業から豊洲移転決定までの経緯 築地市場の開業から、豊洲へ中央卸売市場を移転する小池都知事の基本方針 の発表までの経緯を手短に整理しました。 <築地市場の開業> 関東大震災で市場が壊滅的な打撃を受けたあと、日本橋にあった魚市場と京橋に あった青物市場を移転し築地市場ができました。築地市場の扇型の建物は、貨物列 車により食品を搬入すること想定したものです。 築地への移転に対し市場の人達からは、「私たちは幕府の許可を得て、日本橋でこ んなに立派にやってきたじゃないか」という激しい反発があり、また、消費者による「築地 で魚を買わない」という不買運動もあったと言われます。 それでも移転が進んだのは、行政の長が率先して移転を推進したためと思います。 豊洲市場についても、石原、猪瀬、舛添の各都知事は、その役割を果たしてきまし た。 <大井埋立地の計画> 東京都の資料「築地市場移転決定に至る経緯」に依れば、1970 年代には大井の 埋立地に総合市場を整備する計画が検討されました。しかし、その計画は築地の市 場関係者に受け入れられませんでした。 日本橋からの移転と同様に、築地から離れたくないという、市場関係者の思いが強 かったものと思います。 <現在地再整備と頓挫> 1980 年代には、築地の現在地で市場を再整備することが決定され、1988 年に築 地市場再整備基本計画が策定されました。工期 14 年、総工費 2,380 億円で再整 備する基本設計でした。環境アセスメントなどを経て、1991 年に建設工事が着手され ました。鈴木都知事の時代です。 しかし、現在地で営業を続けながらローリングにより行う築地再整備は、工期の遅れ、

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整備費の増大、業界調整の難航により、1995 年に中断されます。 1995 年に交代した青島都知事のもとで、現在地再整備の基本計画の見直しが行 われると共に、1998 年には臨海部移転の可能性の検討も始められました。 <移転への傾斜> 築地は銀座に隣接する一等地です。長年慣れ親しんだ築地を離れたいと考える築 地事業者は皆無であったと思われます。 しかし、多くの築地事業者は、築地再整備が不可欠であると認識し、現在地での 再整備の頓挫を経験して、移転も止むを得ないという考えに傾いていったものと思いま す。 <臨海部の候補地> 第三者的には、中央卸売市場が銀座に隣接している必要性はないと考えます。し かし、長年築地で営業してきた人達には、大井や環状 7 号線沿いの立地を受け入れ る考えは殆ど無かったものと思われます。 築地に近接し、30~40ha の広さの土地を探すことになりましたが、豊洲の東京ガス の工場跡地しか無かったわけです。例えば、晴海地区も候補に上がりましたが、広さが 十分ではありませんでした。 <築地残留派> 一方、築地残留を主張し続ける市場関係者もかなりいました。築地市場を現在地 で再整備する確固たる構想は、最近まで示されませんでしたので、現状の施設を補修 しながら使い続る考えだったのでしょう。 築地残留派の中には、豊洲移転の費用が捻出できない事業者も含まれていると言 われます。東京都は、資金融資制度を用意したようですが、財務状態が悪く、融資で きない事業者もいたようです。豊洲移転は、廃業に繋がる事態ですから深刻です。 都議会与党が豊洲移転を推進すれば、野党は築地残留派を支援することになり、 事態は混迷します。

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<石原都知事> 時代は少し遡りますが、1999 年に石原都知事が登場しました。新たに指名された 大矢中央卸売市場長のもとで、臨海部への市場移転に重点を置いた検討が進めら れました。 なお、青島都知事から石原都知事への引継ぎ書類には、既に豊洲市場移転という 豊洲の地名が記載された書類が含まれていたと報じられています。 今回の都議会百条委員会での証言によれば、大矢市場長は、「築地市場の現地 再整備は困難であり、豊洲移転しかない」と石原都知事に進言したとのことです。 2001 年に「現行の計画を改め、築地市場を豊洲地区に移転」する築地市場の整 備計画が策定されました。なお、東京ガスからの豊洲の土地取得や、汚染土壌の浄 化は先の事です。 <豊洲の土地取得> 当時、東京ガスの豊洲の工場跡地は、別の利用計画が進んでおり、東京ガスは市 場用地として売却することには、積極的ではなかったようです。そのような相手と交渉し、 土地取得の基本合意を取り付けたのは浜渦元副知事です。 その経緯は、百条委員会でもある程度明らかにされましたが、裏金のような不正の 事実は指摘されませんでした。 <土壌汚染の対策> 豊洲の土壌汚染の調査結果をもとに、専門家会議により土壌汚染対策の提言が 出されました。旧地盤面から 2m の深さまで土壌を全て掘削し、土壌を入れ替える。 2m 以深に土壌汚染が認められる場合には、汚染を処理する。その上で、汚染のない 2.5mの盛り土をすることになりました。 <4.5m の盛り土> 2m 深さまで掘削して土壌を入れ替え、更に 2.5m の盛り土をするのですから、

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4.5m の盛り土で覆うことになります。4.5m は随分な厚さです。 例えば、築地で土壌汚染が検出された時には、小池都知事は、アスファルトで覆わ れているので安全上問題は無いと言っています。4.5mもの盛り土は、安全上必要で はありません。 豊洲は海に囲まれており、高潮の時にも、海水に漬かっては具合が悪い訳です。豊 洲の旧地盤面は、平均的海面より約 2m 高いだけでした。一方、周辺地域の地盤面 は、平均海面より 4.5m 高くなっています。豊洲市場を造るにあたり、その地盤面を周 囲に合わせて、平均海面より 4.5m 高くすることにしました。そのためには、2m の掘削 面から、4.5m の盛り土をすることが必要になったわけです。 <地下空間> 豊洲の建物の下に盛り土が無く、地下空間が有ったことが大問題になりました。大き な建造物では地下ピット(地下空間)を設け、そこに配管や配線を配置するのが一 般的です。それら設備の保守点検も必要になりますから、地下ピットは 3~4m の高さ が必要です。 盛り土の上に、建物の地下ピットが置かれ、その上に建物の一階がくると、一階床 面は、盛り土上面である地盤面より 3~4m 高くなります。高床式の建造物になります。 トラックで物を搬入するためには、道路も地盤面より 3~4m の高くしなくてはなりません。 そんな設備を作ったら、設計者は馬鹿じゃないかと言われます。建設費も増大します。 築地のアスファルト舗装と同様に、地下ピットも汚染土壌を覆う機能があるので、豊 洲市場の設計者は、建物の下に盛り土は必要ないと考えたものと思います。当たり前 のことです。 盛り土や広大な地下ピットは、隠せるものではありません。しかし、地下ピットの下に 盛り土がないことを説明しなかったのは、都の担当者の失敗でした。誰がその指示を出 したのか、犯人探しが行われたのは周知のとおりです。 <専門家会議の地下水浄化目標> 専門家会議報告書には、地下水浄化目標は、建物建設地とそれ以外に分けて示

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されています。建物建設地は地下水環境基準(飲料水基準)、それ以外は排水基 準(飲料水基準の 10 倍)を目指した地下水処理を行うと記されています。 なお、建物建設地で飲料水基準を目指すのは、「安心」のためと断っています。また、 汚染地下水の残存にも言及しており、飲料水基準に完璧に浄化することは難しいと 考えていたことを窺わせます。 <技術会議の地下水浄化目標> 次に行われた技術会議で、地下水浄化目標は修正されました。技術会議報告書 には、「市場の安全・安心をより一層確保するため、地下水の浄化は、建物下と建物 下以外を区別せず、施設建設前に環境基準以下に浄化する」と記されています。 修正理由は、経費及び工期短縮の観点とされ、安全のためではありません。建物 下とそれ以外の地下水浄化を分ける専門家会議の計画では、建物の周りの地下に 遮水壁の設置が必要になります。一方、敷地全体を環境基準以下に浄化する場合 には、その遮水壁が必要なくなり、工期や経費が低減がするということです。 想像ですが、技術会議の過程で行われた新技術・新工法の公募により、都の担当 者は、飲料水基準まで浄化することに自信を持ったのではないかと思います。 しかし、結果を見れば、浄化後の豊洲の地下水には、飲料水基準を超える汚染が 残っていました。必要がないのに、飲料水基準まで浄化できると考えたのは、都の担当 者の間違いでした。それにより大変な批判を受けることになりました。 <汚染と健康リスク> 汚染と健康リスクについて説明しておきます。豊洲市場は、建屋内や地上の人や食 品が、汚染物質に触れない設備になっています。 そのため、汚染された土壌は、盛り土や地下ピットで覆われています。また、地下水 が地上に染み出さないよう、地下水の上昇が制御されています。 地下水に含まれるベンゼンのような揮発性物質のガスは、土壌の層を通って地上に 出てくる可能性があります。しかし、地上に出た時の濃度が大気汚染の環境基準を超 えないように計画されています。環境基準とは、長年そのような環境で暮らしても健康

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に問題が生じない値です。 専門家会議報告書によれば、平均的な土壌特性下で、地下水中のベンゼンを地 下水環境基準の 110 倍以下にすれば、計算上、地表のベンゼン濃度が大気汚染に 係る環境基準以下になることが示されています。また、地上や建物内の環境を毎週測 定し、環境基準以下であることが確認されています。 福島第一原発の後、科学的安全に対する信頼が損なわれてしまいました。大地震 の際に液状化で、ベンゼンを含む地下水が噴き出すことを心配する人もいるようです。 しかし、ベンゼンの発癌性は、長期間その様な環境にいると問題になるもので、液状 化したら、そこに近付かなければいいだけです。なお、豊洲市場は液状化対策も実施 しています。 <地下水モニタリング結果> それまで地下水モニタリング結果は、地下水環境基準以下でしたが、第8 回に 201 カ所の観測箇所のうち 3 カ所で環境基準を超えました。最大で環境基準の 1.9 倍と、 高い値ではありませんが、移転延期発表の後であり、驚きで受け止められました。 第 9 回モニタリングでは、94 カ所が環境基準を超えました。最高はベンゼンが環境 基準の 79 倍で、多くの人は豊洲市場は使用できないと考えたことでしょう。

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<専門家の見解> しかし、専門家会議の平田座長は、「建物内の安全性は保たれており、食べ物への 汚染は起こらない」と強調し、「地上と地下は分けて議論するべきだ」と繰り返したと報 じられました。 日本を代表する環境リスク分野の研究者である中西準子氏は、「基準を超え、不 安なのは分かるが、有害物質が揮発して地上に出て人が吸ったとしても、濃度は相当 薄く、人体に健康被害が出ることは考えにくい」と指摘したとされます。 <都知事の発言> それに対し、小池都知事は、「地上と地下を分けて考えることはできない」と主張し ました。「安全」に関し、上記の専門家以上の知見を有していると思われないので、地 下を分けて考えられない理由は「安心」の観点でしょう。 しかし、「安全」が確保されているのなら、都民にその事を説明し「安心」してもらうこ とは、行政の長の責任です。実際、築地市場で汚染が検出された際には、知事はそ のような趣旨で発言しています。 豊洲移転延期の妥当性を主張するため、安全とともに安心が必要と繰り返した小 池都知事の発言が、事態の混迷を招いた主な原因と思います。 <マスコミ報道> 多くのマスコミ報道には、科学的情報が欠けていました。公共放送であるNHKのア ナウンサーがニュースの中で、専門家の見解を紹介したならば、地下水と安全に関する 誤解が、このように広がることはなかったと思われ残念です。 TV のワイドショウの多くに、真面な報道を期待することは無駄かもしれませんが、風 評を広めることには強力でした。豊洲市場の安全に対する誤解は強まる一方でした。 <政治の動き> 風評が広がった時、科学的に正しい情報を提供し、説明し説得することは政治の責

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任です。政治家には、科学的に判断する能力は無いかもしれません。しかし、専門家 に意見を聞くことができるし、判断に必要なデータを請求することもできます。 しかし、政治家は、間違った考えでも世論に迎合しないと、支持を失うと考えるので しょうか。都議会にも、誤解を正そうという動きは乏しかったように思います。更には、風 評というべき主張を繰り返す野党もありました。 <その後の動き> 築地市場について、開放型施設であることによる安全性の欠如が指摘され、土壌 汚染も検出されました。その結果、豊洲市場は安全性で築地市場より劣っている訳で はないという意見が増加しました。 築地残留派は、安全性から経済性へと論点をシフトします。築地にスリムな施設を 再整備し、長期の維持管理費を考慮すれば、築地市場の現在地再整備の方が経 済的であるという主張です。しかし、ローリングで行う築地再整備の構想は、広く受け 入れられるまでには至りませんでした。 <都知事の基本方針表明> 都議選公示の直前に、豊洲移転問題に対する小池都知事の基本方針が出されま した。「築地は守る、豊洲は生かす」がキャッチ・フレーズです。最初に記載したように、 概ね当初の計画に落ち着いたものと言えます。 なお、築地は食のテーマパークに再開発するということですが、具体的内容は示され ていません。10 か月近く、豊洲移転は総合的に判断して方針を出すと言い続けたにし ては、検討不充分な内容です。工程も資金面の検討も済まない段階で、都の関係 部局の検討も行われずに出されたもののようです。 <残された損失> 豊洲市場に直接係る事項でも、移転延期により損害が発生しましたが、その他にも 多額の損失が発生しています。大型事業は随分以前から計画されており、それらを無 視して計画を変更すると、多くの損害が発生します。築地地区の環状2号線の開通

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遅れと、東京五輪の関連が大きな問題ですが、数え上げれば、多くの事項があり、関 係者は迷惑を被ったものと思います。重要な問題であり、別途に項目を立てて記載し ます。

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2. 土壌汚染と健康リスク 豊洲市場の地下水汚染が検出された時、地下水は飲料水や洗浄などに使用する わけでなく、下水に排水するだけだから問題は無いという意見が、インターネットに多数 掲載されました。 もっともな意見ですが、土壌や地下水の汚染と健康リスクの関係を、もう少しハッキリ させておこうと思います。 <健康リスクに対する基本的考え方> 豊洲市場は、汚染した土壌や地下水が、市場の建物内や地上の人や食品に、直 接触れない設備となっています。それが土壌汚染対策法の基本的要求です。 また、地下水中のベンゼンのような揮発性物質は、土壌の層を通って地上に出てく る可能性があります。地上や建物内のベンゼンなどの濃度が、大気汚染に係る環境 基値以下になるよう計画し、環境測定により確認しています。なお、大気汚染に係る 環境基値とは、そのような環境で長期間生活していても問題が生じない値として決め られたものです。 <具体的対策> 具体的には、前項を満足するよう、下記の対策が採られています。 ◆旧地盤から約 2m の深さまでの土壌が全て掘削・入れ換えられ、更に、その上に 2.5m の盛り土がなされています。それにより、汚染土壌の直接曝露による人の健 康リスクおよび生鮮食品への影響は生じません。なお、建物下については、地下ピッ トが盛り土に代わる機能を果たしていることは前述のとおりです。 ◆更に、2m 以深についても、処理基準を超える汚染が確認された土壌は、処理 基準に適合するよう処理されています。 ◆市場内では、地下水の飲用利用は予定されていないため、飲用による健康リス クはありません。

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◆地下水は水位上昇を防ぐ管理が行われ、また、毛管上昇を防止する砕石層が 設けられている。それにより、汚染地下水が地上に露出することによる、人の健康リ スクおよび生鮮食品に影響を生じることを防止しています。。 ◆汚染地下水に含まれるベンゼンなどの揮発性ガスが、土壌の層を通って地上に 出てくる可能性がありますが、地上や建物内のベンゼンなどの濃度が、大気汚染に 係る環境基値以下になるように計画されています。 <大災害時の対策> 福島第一原発の事故の後、科学的な安全に対する信頼が損なわれてしまいました。 首都直下大地震の際に問題は無いのかという指摘があります。 敷地が液状化し、地下水中のベンゼンなどの有害物質により、市場の大気が環境 基準を超える事態が考えられます。しかし、そのような環境で長期間生活すると健康リ スクがあるという問題で、短時間の被曝が問題となる原子力災害とは本質的に異なる ものです。 豊洲市場が液状化して環境が悪化した場合には、市場が復旧するまで、そこに近 付かなければよいだけです。なお、豊洲市場は、液状対策も実施されています。

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3. 地下水浄化目標とモニタリング結果 3.1. 地下水浄化目標 専門家会議、技術会議の報告書により、どのような目標で地下水浄化が行われた かを紹介します。 <役所の委員会> 専門家会議の委員が、地下水浄化目標を指示したと思っている人が多いと思いま す。しかし、議事録を読むと、東京都の担当者が地下水浄化の目標を提案し、専門 家がその計画で充分であるとして了承したものであることが分かます。 国の中央省庁などでは、多くの委員会・審議会が開催されています。一般に、委員 はその分野を専門とする名が知れた大学教授などが務めます。それに、市民の意見を 代表する者として、名の知れた少数の委員が加えられます。 委員会資料は、役所の担当者の指示を受け、その種の仕事に慣れているシンクタ ンクが作成するのが一般的です。 委員会では、役所側が委員会資料を用いて審議事項を説明し、それに対し、委員 がコメントします。委員会に慣れた委員は、手短に 2 分間程度て自分の意見を述べ、 8 割がたは役所の計画を肯定し、2 割程度で改善・考慮すべき点を指摘すると言われ ます。 <汚染地下水の健康リスク> 汚染土壌対策が実施される以前の豊洲市場の地下水からは、例えば、地下水環 境基準の 10,000 倍というベンゼンも検出されました。飲料水として利用しない豊洲市 場の地下水の浄化は、何を目標に行われたのでしょうか。 豊洲市場は、人や食品が、地下水に直接触れることはない施設になっています。そ のため、地下水による健康リスクは、地下水に含まれるベンゼンやシアン化合物などの 揮発性の有害物質のガスが、土壌の層を通って地上に上がってきて、地上や建物内

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の大気が汚染される場合に限定されます。 地下水中の有害物質の濃度が高い場合、地表に出た大気中の有害物質の濃度 が、大気汚染に係る環境基準を超える可能性があります。 例えば、ベンゼンの大気汚染に係る環境基準は、長年そのような環境で暮らしても 健康に問題が生じない値として、1 年平均値が 0.003mg/m3 以下であること、と決め られています。 専門家会議報告書(9-8 頁)には、豊洲市場の場合、平均的な土壌特性下で は、地下水中のベンゼンを地下水環境基準の110倍以下にすれば、計算上、地表の ベンゼン濃度が大気汚染に係る環境基準以下になることが示されています。 なお、今や設備が完成していますから、計算値に頼らなくても、地上や建物内の環 境を測定して確認することができ、毎週、空気測定が行われています。 「豊洲市場における水質調査及び空気測定の結果」によれば、例えば、地下水に 環境基準の 79 倍のベンゼンが検出された5街区の地表や青果棟内のベンゼン濃度 は、大気汚染の環境基準である 0.003mg/m3 を下回っていることが確認されていま す。 豊洲市場の地下水中の有害物質は、地下水環境基準のおよそ 100 倍くらいまで は、大騒ぎしないでよいことを覚えておいて下さい。 <専門家会議での地下水浄化目標> 前項は、科学的に安全なレベルです。一方、専門家会議報告書の提言の地下水 浄化目標は、食の「安心」も考慮した値です。 専門家会議報告書には、地下水浄化は、建物建設地とそれ以外に分けて、次の ように記されています。 建物建設地 ◆……食の安全・安心という観点を考慮し、……地下水中のベンゼン濃度、シア ン化合物濃度が地下水環境基準に適合することを目指した地下水処理も建物 建設前に行う。

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◆……残存する汚染地下水については、地下水管理を行い、地下水の上昇によ って人の健康被害が生じるおそれのない状態を維持していく。 建物建設地以外 ◆……残存する地下水汚染については、揚水した際に処理を行うことなく下水に 放流できる濃度レベル(排水基準に適合する濃度)で地下水管理を行っていく とともに、将来的には地下水環境基準達成を目指す。 建物建設地は地下水環境基準、それ以外の土地は地下水環境基準の 10 倍とい うことです。 引用した記載は、東京都の担当者が原案を用意したものであることが議事録から 分かりますが、お役所的注意を払った文章であり、解説しておきます。 先ず、建物建設地で地下水環境基準を目指すというのは、「安心」のためと断って います。また、安全上必要なら、「地下水環境基準に浄化すべき」と簡潔に表現すると ころを、婉曲に「地下水環境基準に適合することを目指した地下水処理も行う」と記 載し、更に、残存する汚染地下水にも言及しています。 これは、「地下水環境基準を目指すが、汚染地下水が残るかもしれない」、という意 味でしょう。 更に、建物建設地以外は、地下水環境基準の 10 倍とされていますから、健康リス クの点からは、豊洲市場の地下水は環境基準の 10 倍で問題無いとはっきり言ってい るのと同じことです。なぜなら、地上に出てくるベンゼンなどのガスを問題にしているので すから、建物下だけ浄化のレベルを高めても、効果が乏しいわけです。 建物下を地下水環境基準としたのは、安心の観点に加え、万一問題が発生した場 合に、地中を掘り起こすことができないことを、東京都の担当者が危惧したものでしょう。 それでも心配だったため、散々非難を浴びた地下空間を設けたわけです。移転反対 者から種々の批判を受けながら、プロジェクトを進めてきた苦労の跡が窺われます。

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専門家会議報告書の「10.おわりに」には、次のように記載されています。 「……第 3 回専門家会議からは一般傍聴者との意見交換が行われることとなり、 ……人の健康保護のみならず食の安全安心を保証するための上乗せ的対策立 案の原動力となったことは事実である。」 この記載をどう読むかは、ひとにより異なるでしょうが、私には、過剰な浄化策を提言 した専門家委員の忸怩たる思いが込められているように感じます。 <技術会議での地下水浄化目標> 豊洲市場の地下水浄化は、専門家会議の提言にもとづき実施されたわけではあり ません。技術者会議で修正が行われました。 技術会議報告書には、下記の様に記載されています。 「市場の安全・安心をより一層確保するため、地下水の浄化は、建物下と建物下 以外を区別せず、施設建設前に環境基準以下に浄化する。」 変更理由は、第5回技術会議の会議録によると、経費及び工期短縮の観点と説 明されています。安全のためではありません。 建物下とそれ以外の地下水浄化を分ける専門家会議の計画では、建物の周りの 地下に遮水壁を設置する計画でした。敷地全体を環境基準以下に浄化するという変 更により、建物周り地下の遮水壁が必要なくなります。それにより、地下水浄化の経 費が低減し工期が短縮するわけです。 想像になりますが、技術会議の過程で行われた新技術・新工法の公募により、東 京都の担当者は、地下水環境基準まで浄化することに自信を持ち、また、経費と工 期の算定の結果から、建物下の遮水壁をやめて、全体を環境基準まで浄化した方が 経費も納期も短縮できる、という考えに至ったものと思われます。

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3.2..地下水浄化実験 地下水浄化工事の詳しい情報は公表されていないようなので、代わりに、地下水 浄化実験をもとに考えてみます。豊洲新市場予定地の汚染物質処理に関する適用 実験委託(その2)を参照しました。 豊洲市場の汚染物質の処理に関し、数種の実験が行われています。汚染地下水 の浄化実験は、下図に示すように、豊洲市場の 10m 四方の実験箇所を鋼矢板で囲 い、揚水井から汚染水を揚水し、復水井から水道水を復入することで、実験箇所の 地下水を浄化するものです。

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10m 四方の実験範囲に、揚水井が 4 箇所、復水井が8箇所、観測井が中央に 配置されています。観測井のデータが地下水環境基準に達するまで、揚水と復水が 繰り返されたものと思います。 しかし、実験区画の中央に位置する観測井が、環境基準に達したからと言って、 10m 四方の全域が環境基準に浄化された保証はありません。全域を完全に浄化す るなら、少なくとも 5 箇所くらいの観測井が必要なように思われます。 また、同報告書には、実験結果の適応性について、「土壌汚染が認められず、地下 水汚染のみが認められる区画について、……揚水・復水処理が有効であることが実 証された。」と記載されているのも、少し気になるところです。 豊洲市場の工事では、表層 2m の土壌を全て除去し、2m 以深について、高汚染 土壌を掘削除去した上で、上記のような地下水浄化が行われました。 しかし、局所的な汚染土壌や汚染地下水の残存は避けがたいように思われ、それ が、後述する第9回地下水モニタリングでの異常データに繋がったものと想像されます。 例えば、汚れたプールの水を、飲み水の水質に入れ替える場合を考えてみましょう。 汚れた水を完全に抜き、プールを綺麗に拭いたうえで、水道水を注入しなければ、飲 み水の水質にはならないでしょう。 それに比べ、土壌中の地下水を、完璧に飲み水の水質にすることは、はるかに難し いと考えられます。 健康リスクに対する科学的見地からは必要が無いのに、豊洲移転反対派の批判の 中で、地下水を環境基準まで浄化すると決めてしまったことは、都の担当者の大きな 失敗であったように思います。

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3.3.第 9 回地下水モニタリング結果 科学的な健康リスクの点からは、地下水汚染は環境基準の100倍くらいまでは、大 騒ぎする必要がないことを上述しました。 大幅に余裕を見て、排水基準(環境基準の 10 倍)くらいが、地下水浄化目標と して妥当な水準と私は考えています。 そのような観点で、第 9 回地下水モニタリング結果が、排水基準を超えているか否 かで整理して下図に示しました。 ベンゼンは、101 件の調査地点のうち 6 件、シアンも 101 件のうち 3 件が、排水基 準を超えていました。ヒ素は排水基準を超えたものはありませんでした。 シアンの 3 件は、何れも排水基準の 1.2 倍で、地上の空気測定値は大気汚染の 環境基準を下回っており、心配するレベルではありません。 ベンゼンの 6 件のうち、最大は排水基準の 7.9 倍です。地上の空気測定値は大気

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汚染の環境基準を下回っていますが、心配する人も多いと思い、調査結果を少し整 理してみました。 調査地点は、下図のように、アルファベットと数字の座標で管理されています。因み に、地下水環境基準の 79 倍の値が検されたのは、5 街区の K37 の場所の観測井で す。 どこの調査地点から、高濃度のベンゼンが検出されたか分かるように、5 街区、6 街 区、7 街区の各々について、三次元グラフでベンゼン濃度を示しました。 縦軸は地下水中のベンゼン濃度です。なお、ベンゼンの地下水環境基準は 0.01mg/L で、0.1mg/L が排水基準です。3 つのグラフとも最大目盛りは 0.8mg/L に なっています。 下図は、環境基準の 79 倍のベンゼンが検出された 5 街区のデータです。なお、79 倍に次いで高い検出値は、環境基準の 9 倍ですから、排水基準を下回っています。

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ベンゼンの79倍が大きく報じれらましたが、局所的なものであることが分かります。汚 染が一部に残ってしまったものと推測されます。 地上の大気環境は問題がないのですから、個人的には大騒ぎすることではないよう に感じます。今後、地下水管理システムによる揚水で、この値は低下していくかもしれ ません。 もし、測定値が下がらないなら、「安心」の観点で、10m四方程度の局所的な追加 の地下水浄化を行うべきかもしれません。10m 四方なら、豊洲市場の敷地の 4000 分の一であり、実施可能だろうと想像しています。 下図 6 街区のベンゼンでは、29 の調査地点のうち 5 点が排水基準を超えています。 内訳は、排水基準の 2.3 倍、1.4 倍が 2 件、1.2 倍、1.1 倍です。汚染の残存として、 2.3 倍は少し高い値であり、今後、低下するかフォローすべきでしょう。

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3.4.検出値上昇原因の推測 第 9 回地下水モニタリングのデータは、「新たに設けられた専門家会議、第 4 回」に 掲載されています。 同会議の映像を見ると、第 9 回のデータは、それまでの 8 回と大きく異なっており、 専門家委員も、過去にそのようなデータの変化は経験したことはないと話しています。 東京都の担当者は、第 9 回の地下水モニタリング・データは、暫定値としたいと述べて います。 専門家からは、地下水試料の採取・分析上の問題の可能性も考えられるという意 見もありました。例えば、試料中に汚染土壌の粒子が含まれた場合、分析値は有害 物資の溶出値と大きく異なることが述べられています。 分析値が正しいなら、豊洲市場の敷地内に汚染した地下水が残存していたことに なります。 第8 回と第9 回の間に起きた事項は、地下水管理システムの本格稼働です。地下 水の揚水により、豊洲地下の地下水流動が大きくなり、それにより、多くの箇所で地下 水モニタリング値が悪化したものと想像されます。 以下は、私の推測です。例えば、上記の汚染地下水浄化実験で、1 箇所の観測 井で確認したのなら、その点は環境基準になったとしても、10m 四方の実験区域には、 環境基準まで浄化さていない地下水が残っている可能性があります。 また、豊洲市場敷地の地下水浄化工事では、201 の調査地点が環境基準に達す るまで浄化が続けられたものと思います。しかし、広大な豊洲市場の敷地内の調査地 点以外には、汚染地下水や汚染土壌が残っている可能性があります。 モニタリング箇所が環境基準に達し、浄化処理が終了した後、遮水壁で囲まれてい る豊洲の地下水は、降雨による上昇や、降雨の影響がない建物下の地中への緩やか な地下水流動しかなかったでしょう。そのため、モニタリング箇所の水質は、環境基準で 維持されていたと想像されます。

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汚染地下水としては、浄化直後の時点から残留していたもの、浄化後かなりの期間 が経過した間に汚染土壌から溶出したもの、今回の地下水流動により汚染土壌から 溶出したものなどが考えられます。それらが、地下水管理システムの稼働による地下水 流動により、調査地点に達したと考えます。 しかし、汚染地下水が残っていても、それほど非難されることではありません。上記の ように、環境基準は、安全上必要なレベルに比べて充分に低いのですから、敷地全域 を完璧に環境基準にする必要はないわけです。 もし、そのようなことを望むなら、恐らく、モニタリンク箇所を数倍に増やし、数倍の浄 化処理を行わなければならないでしょう。それは、小池都知事の言葉を用いるなら、ワ イズ・スペンディングではないということになります。 豊洲市場の「安全」は、地上や建物内の環境値で評価されるべきものです。「豊洲 市場における水質調査及び空気測定結果」として、地上と建物内の空気中のベンゼ ン、シアン、水銀の濃度が毎週測定されています。

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4. 誤解-風評の蔓延 豊洲市場の健康リスクの点から地下水は、環境基準の 100 倍くらいまでは、心配し ないでよいことを前述しました。地下水浄化目標を環境基準としたのは「安心」のため であり、「安全」のためではありません。 繰り返しになりますが、環境基準の79倍のベンゼンが検出された時点でも、豊洲市 場の安全は保たれていました。それではなぜ、誤解や風評が生まれたのでしょうか。 <誤解の発生> 誤解を生んだ最大の原因は、小池都知事による豊洲市場の移転延期であると思 います。 それに先立ち、第 7 回までの地下水モニタリングで、豊洲市場の地下水は環境基 準を満たしており、地下水には問題がないと考えられていました。なお、実際には環境 基準を超える汚染地下水が残存しており、東京都の担当者はは、それに気付かなか ったわけです。 小池都知事の豊洲移転延期の発表で、延期理由として「安全性への懸念」、「巨 額で不透明な事業予算」、「情報公開の不足」の三つのがあげられました。 その内、移転延期がどうしても必要な事項は、安全性に関し最終回の地下水モニタ リングが済んでいないことだけです。その他は、豊洲移転と並行して検討できるもので す。 小池都知事にとっては、都知事選の期間に豊洲市場の問題は立ち止まって考える と言った公約を実行しただけかもしれません。 しかし、豊洲市場に移転する業者は、既に300億円規模の投資を行い、人の手配、 設備のリース契約を済まし、低温倉庫は通電して冷却を始めていました。 移転まで2ヶ月余りの段階で、突然延期が発表されたのですから、地下水モニタリン グが極めて重要な事項と、殆どの人が考えたとしても当然でしょう。 そして、これまで環境基準を満たしていた地下水が、移転後の最終モニタリングで環

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境基準を超え、豊洲市場の安全が確保できないことになったら困る、と考えたとしても 無理からぬことです。 地下水の水質が少しくらい悪くても、豊洲市場の安全が損なわれるわけではありま せん。しかし、そのことを認識していた人は限られており、移転延期の発表は、多くの人 に地下水と安全に関する誤解が植え付けました。 <風評の蔓延> その後、誤解・風評を広める事項が次々に発生しました。 先ず、いわゆる「地下空間」が発見されました。豊洲市場に関する種々の書類には、 地下空間のことが書かれており、東京都の担当者が隠したわけではないと思います。 移転反対派の批判の中で、積極的に説明したくなかっただけと想像されます。 間が悪いことに、地下空間には水が溜まっていました。工事の最終段階の問題です から、騒ぎにならなければ、仮設の排水ポンプで排水し何事も無く終わったことでしょ う。 共産党都議の調査で、「猛毒のヒ素が環境基準の 4 割も含まれている」と指摘され ました。ヒ素が毒物であることも、環境基準の 4 割であることも間違いではありません。 後に、ミネラルウォータの基準よりも低いものと揶揄されましたが、都議によるこのような 表現は典型的な風評です。野党とはいえ、政治が言うべきことではないと思います。 次に、8 月に採取されていた第 8 回の地下水モニタリングの結果が出て、201 箇所 のモニタリングデータのうち、3 点が初めて地下水環境基準を超えました。ベンゼンが環 境基準の 1.4 倍、ヒ素が 1.9 倍でした。 排水基準(環境基準の 10 倍)よりも充分に低く、騒ぐような値では全くありませ。 そのことは、インターネットなどには多数指摘されていました。しかし、ほとんどのマスコミ は、地下水環境基準は飲料水の基準であり、豊洲市場では飲料水として利用しない ので心配する必要はない、と説明しませんでした。

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もし、公共放送であるNHKのアナウンサーがニュースの中で、そのように説明したな らば、誤解がこのように広がることはなかったと思われ残念です。 テレビのワイドショーに、まともな報道を期待するのは無駄かもしれませんが、一方で、 風評を広めることには強力です。豊洲市場の安全に対する誤解は強まる一方でした。 <政治の動き> 風評が広がった時、科学的に正しい情報を提供し、説明し説得するのは政治の責 任であると考えます。 政治家には、科学的に判断する能力は無いかもしれません。しかし、専門家に意見 を聞くことはできるし、判断に必要なデータを請求することもできます。繰り返しになりま すが、専門家は今でも、豊洲市場の安全は保たれていると強調しています。 政治家は、間違った考えでも世論に迎合しないと、支持を失うと考えるのでしょうか。 都議会にも、誤解を正そうという動きは乏しかったように思います。 誤解の原因を作ったのは小池都知事です。豊洲移転は科学的に判断すると繰り返 していますが、専門家の意見に耳を傾けているようにはみえませんでした。移転延期の 正当性を主張するため、一貫して風評を助長する発言を続けてきたように感じます。 それでは、誤解は解消しません。

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5. 築地市場の現在地再整備の課題 豊洲市場の安全が議論の焦点でしたが、築地市場についても安全性の問題が指 摘され始めました。築地市場の敷地で過去に行われた都道の建設工事で、土壌汚 染が検出されていることが分かってきました。築地市場の使用履歴からは、その他にも 土壌汚染の可能性が高いことが指摘されました。 また、開放型施設である築地市場の安全上の問題も指摘されました。閉鎖型施設 である豊洲市場の方が、築地市場より安全性が高いという主張は、説得力あるもので した。 築地残留を主張するなら、築地の再整備を前提に考えることが必要になりました。 これまで、築地市場を現在地で再整備する確りした構想は殆どありませんでしたが、 2017 年 4 月に市場問題 PT の小島座長の私案として、築地市場の現在地再整備 構想が唐突に出されました。 同私案は、その後検討を加え市場問題 PT の報告書に盛り込まれました。長期の 維持管理費を考慮すれば、豊洲市場よりも、築地市場のスリムな現在地再整備案の 方が経済的であるという主張です。 しかし、築地市場の営業を続けながら現在地で行う再整備には多くの課題があり、 小島座長の主張が世間に全面的に受け入れられるには至りませんでした。本項では、 築地市場の現在地再整備の課題を紹介します。 <日本人なら 100 歳以上> 築地市場の開業は昭和10 年ですから、満82 年になります。鉄筋コンクリート建物 の平均寿命は 65 年と言われますから、平均寿命を 25%以上超えています。 日本人の年齢に例えるなら、100 歳以上の高齢です。海辺で海水を使う施設です から、老朽化はもっと進んでいるでしょう。 この先数年なら、耐震補強をして使い続けることも可能かもしれません。しかし、行 政の仕事は20年、30年先を見て計画するものです。築地に留まるなら、市場を新設

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することが不可欠です。 <過去の検討> 市場問題 PT の座長私案という位置づけで、事業費 734 億円、7 年間で築地市 場を改修する構想が出され、その後、ある程度の見直しが行われました。 しかし、市場の営業を続けながら、ローリング計画に従い市場を改修することには、 多くの困難が伴うことが、過去の検討と 1990 年代に行われた失敗の事例が示してい ます。 多くの検討のなかで、2010 年に出された下記調査報告書の情報を紹介することに します。 東京都中央卸売市場築地市場の移転・再整備に関する特別委員会小委員会 調査報告書(案) 「東京都中央卸売市場築地市場の移転・再整備に関する特別委員会」は 2009 年 9 月から 2011 年 10 月に行われ、2010 年 10 月に 250 頁余りの上記調査報告 書(案)が出されています。 都議会民主党からの築地現在地再整備の検討要求を受け、東京都の議会局と 知事本局が具体的な調査を行ったもののようです。築地での新市場案としては、基本 的に次の 3 案が検討されています。 A 案:築地市場の全機能を、晴海地区に一時移転し、更地になった築地に新市 場を建設するもの。施設の多層化により、築地市場の全機能を現在地に再整備す る。 B 案:築地市場の積替品に係る機能を、晴海地区に恒久移転することで、築地 施設を縮小。その上で、築地市場の一部機能を晴海に一時移転し、現在地でローリ ングにより新市場を建設する。 C 案:B 案と類似であるが、晴海地区への恒久移転を、積替品と大口向けに係る

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機能に拡大したもの。

報告書に掲載されいてる完成予想図を下記に示します。 A 案

B・C 案 (外観は B 案、C 案ともほぼ同じ)

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市場問題 PT 座長私案 市場問題 PT 座長私案は、築地で営業を続けながら、ローリング計画に従い改修 を行うもので、調査報告書の B・C 案の課題が参考になると思います。 <B・C 案の課題> 同調査報告書には、工期や事業費に影響を及ぼす課題が記載されており、主なも のとして下記があります。 ・環状第2 号線 ・アスベスト除去 ・土壌汚染 ・埋蔵文化財 ・環境アセスメント <環状第 2 号線と豊洲移転延期> 環状第2 号線は、1946 年(昭和21 年)に新橋から千代田区神田佐久間町ま での約 9.2km が、都市計画道路として計画されました。その後、1993 年には、都心 部と臨海部の連携強化を図るため、江東区有明まで延長する計画に変更されました。 有明、豊洲、晴海、汐留、新橋、虎ノ門を経て神田佐久間町に至る14kmの道路で す。

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虎ノ門から神田までの約 8km は外堀通りと呼ばれ、有明と豊洲間の約 1km と共 に、以前から供用されていました。 残りの約 5km は、2003 年以降に整備が開始されたもので、2014 年に新橋から 虎ノ門までの 1.4km が開通しました。 虎ノ門からは地下トンネルで新橋、汐留を通過し、現状計画では、築地市場の跡 地に地下トンネル出口を建設し、高架道路で築地大橋に繋がる計画です。しかし、豊 洲移転の延期により、築地の地下トンネル出口の建設予定は決まっていません。 2003年に4,000億円規模の事業費で着手した環状第2号線の整備事業のうち、 開通しているのは約 1.4km で、残る約3.4km は開通の目途が立っていません。 <築地地区の環状第 2 号線> 上記の調査報告書 A 案の完成予想図には、築地大橋が示されていません。築地 市場と隅田川は、地下トンネルで通過する計画です。 B・C 案では、A 案よりも市場の建物が小さくなっているため、環状第 2 号線は、市 場を分断し、築地大橋に直線的につながっています。 市場問題 PT 座長私案の完成予想図をご覧下さい。築地大橋から、S 字カーブで 地下トンネル出口につながるルートが描かれています。市場の建物との干渉を避ける ため、道路を曲げなければならなかったものと想像されます。 筆者に道路計画の知見はありませんが、トンネルを抜けると急な S 字カーブがあった ら驚きます。暫定道路ならともかく、恒久的な都心の幹線道路としては具合が悪いと 思います。専門家による検討が必要でしょう。

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このまま建設し、恒常的な渋滞や事故多発箇所になった場合には、多額の費用を 掛けて築地大橋を移設し、直線的なルートに変更することが必要になるでしょう。 <アスベスト除去> 調査報告書には、アスベスト除去に関して12頁を割いた記載があります。吹付けア スベスト等を密封状態で除去することと、アスベストを混ぜた屋根スレート瓦を手ばらし することが必要です。市場を営業しながらのアスベスト除去工事には、多くの課題があ ると記されています。 アスベスト除去工事エリアを隔離するとともに、市場関係者との調整が必要です。ま た、点在する残存アスベスト範囲を、まとまった形で除去できる様に、工事のローリング 計画に反映することが重要になると記載されています。 アスベスト除去問題については、市場問題 PT も認識しているようです。しかし、食 品を扱う施設の問題です。素人考えではなく、環境分野の研究者など専門家による 検討が必要になるでしょう。 <土壌汚染> 昭和 20 年 12 月に進駐軍により青果部仲買人売場が接収され、ランドリー工場に 改造され使用されました。全てが返還されたのは昭和 30 年3 月のことです。 当時は、ドライクリーニングの廃溶剤は、土に埋めて処分するのが一般的で、後にテ トラクロロエチレンなどによる地下水汚染が関心を集めました。築地でも土壌汚染の可 能性が高いと考えられています。 築地市場の開業以前は、海軍省技術研究所や海軍学校があった場所です。また、 昭和 29 年 3 月には、水爆実験の被災船第五福竜丸の積み荷が埋設処分されてい ます。その他、築地市場の敷地内に給油所や車両整備工場があったことも指摘されて

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います。 築地大橋の橋台部の工事の際に、土壌から環境基準を超えるヒ素とフッ化物が検 出されたことも最近公表されました。 土壌汚染対策は、技術的には問題はありません。しかし、工事開始前に、市場全 域の汚染を把握することは難しく、ローリング工事の都度、汚染が発見され、工事を中 断して処理をすることが問題になると指摘されています。それにより、予定外に大幅に 工期が伸び、工事費の増大に繋がる可能性があります。 <埋蔵文化財> 埋蔵文化財に係る問題は、土壌汚染よりも厄介な問題かもしれません。築地地区 は、江戸幕府老中であった松平定信などの大名屋敷等が位置しており、都指定文化 財の「浴恩園跡」があります。また、浜離宮に隣接していることなどから、試掘調査を行 う必要があり、遺跡が発見された場合には、埋蔵文化財包蔵地に指定される可能性 が高いと調査報告書には記載されています。 ローリング工事の各段階毎に調査を行うことになり、発掘調査が終了するまで、建 設工事は着工できません。その度に工期が延長され、市場売場の仮設期間が長期に 及ぶ可能性があり、市場の営業に混乱を招く恐れがあると調査報告書は指摘していま す。一般に、埋蔵文化財の調査には長期間を要するものです。 <環境アセスメント> 東京都では、敷地面積 10ha 以上の大規模開発事業などでは、事業段階環境ア セスメントが必要になります。また、敷地面積 20ha 以上の場合には、加えて計画段 階アセスメントが必要になります。調査報告書には、次のように記載されています。 豊洲市場の場合には、計画段階アセスメントは約半年を要し、その後、中央卸売

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市場が事業段階アセスメントの手続きに入る調査計画書の提出までに約1年半かか っている。 一方、事業段階アセスメントから手続きが行われている事例は多数あるが、手続き に要する期間は、事業者の事業計画の進捗状態、説明会や都民意見に対する見解 書の作成に要する時間により異なるため一概にはいえない。概ね 1 年~2 年かかる場 合が多い。 B・C 案の場合、敷地面積20.7ha で、計画段階アセスメントと事業段階アセスメン トが必要であり、概ね 3 年~4 年を要するものと推測されると記載しています。 なお、PT 座長私案について、環境アセスメントについて、どの様な説明があったのか は知りません。 <その他の課題> 上記に主な事項を示しましたが、その他、気になる事柄を列記します。 ①築地事業者との調整 営業を続けなが行うローリング工事では、売場の移動や売場面積の縮小が不可欠 です。約1000の築地の事業者に計画を説明し、調整することが重要になります。それ は、1990 年代に約5 年と 400 億円を費やした築地再整備の失敗で得られた教訓で す。 しかし、市場問題 PT による先日の築地市場での説明、意見交換会の混乱を見る と、そのことが分かっていないのではないかと心配になります。 ②豊洲市場交付金の返却 豊洲市場の整備には、建設費の一部として約 208 億円が国から交付されています。 豊洲移転が取り止めになった場合には、国庫に納付することが必要となる可能性が指 摘されています。経済性評価には、考慮すべき事項でしょう。

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③HACCP 認証など 東京五輪の選手村の食品流通管理は検討中のようですが、HACCP(ハサッ プ)のような衛生・管理システムを求められた場合、開放型施設の築地市場では対 応できません。また、築地改修案は東京五輪には間に合いません。 晴海の選手村では、隣接する築地市場の食材が使用できない事態が起きるかもし れません。 ④環状第 2 号線の開通 環状第 2 号線も、築地市場に劣らず重要な施設です。4,000 億円規模の大事業 ですが、虎ノ門から有明までの約 5km の事業のうち、1.4km しか開通せず、全通の 目途が立たないのは困ったものです。都心部と臨海部の連携強化という事業目的が 達成できません。 環状第2号線は、その便益を評価して事業に着手したものと思います。4,000億円 規模の事業費なら、年間百数十億円の便益があると想定したものと思われます。 厳密にどう評価するのかは知りませんが、豊洲移転延期により環状第2号線の開通 が遅れることは、実質的に年間 100 億円前後の損失が発生しているのと同じと考えま す。 市場問題PT座長私案の築地改修案では、いつの段階に環状第2号線の建設に 着手できるのかを示すことが必要です。また、経済性評価には、環状第2 号線の開通 遅れによる損失を考慮すべきでしょう。 築地市場の現在地再整備は、豊洲移転問題全体を左右するもので、数千億円の 事業費に係る問題です。それに対し、市場問題 PT の構想はあまりにも安易です。構 想が予定通りに進まなかった場合に発生する、莫大な損害にに対する真剣さが欠けて いるように感じます。

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6. 豊洲移転で 60 年累積赤字1兆円は詐欺的論理 少し刺激的なタイトルを付けました。2017 年4月8日の市場問題 PT 小島座長 ほかによる築地市場での意見交換会の資料には、「60 年間の累積赤字 約 11,420 億円」、というタイトルの市場会計の収支試算の資料が掲載されています。 ・ 先ず、豊洲を含まない現在の市場会計は、僅かながら黒字で推移していると説 明されます。 ・ 次に、豊洲市場は、減価償却費を考慮すると、年間 100 億円の赤字になるとあ ります。 ・ 最後に、豊洲を含む11市場の市場会計の60年間の累積赤字が1兆円を超え ると説明されます。 このように説明されれば、誰だって豊洲に移転すると、1兆円もの赤字が発生すると 思ってしまうでしょう。 それを信じて、豊洲移転なんて絶対ダメとウェブ・ページに書いている慌て者もいます。 しかし、小池都知事や特別顧問の言葉は、よく吟味することが必要です。 結論を言えば、1兆円規模の赤字は11市場全体の話です。豊洲市場の建設は、 築地の跡地の売却益利用を前提にしたもので、豊洲市場だけに限定すれば、減価償 却費を考慮しても、60 年間の累積赤字は5分の 1 くらいなものです。1兆円云々は、 市場会計全体の話であり、以下に説明します。 <60 年間の市場会計損益計算書> この先60年間の11市場全体の損益計算ですから、仮定を含む大雑把なものにな らざるを得ません。 市場問題 PT 第 1 次報告書には、H27~H40 年度までの損益計算書が掲載さ れています。都の中央卸売市場が作成したものと思われます。H27~H29 は実績値 です。 上記の小島座長等による築地市場での意見交換会の資料には、H90 年度までの 10 年毎の損益計算が示されています。両者をつなぎ合わせて、60 年間の累積損益 を調べてみようと思います。築地市場の意見交換会の資料には、少し間違いがあるよ

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うですが、大雑把な推定であり、大勢に影響はないので、そのまま使うことにします。 下表がつなぎ合わせて作成した損益計算書です。H30 年度に築地から豊洲市場 に移転する表になっています。表をクリックすると拡大します。 東京都中央卸売市場、市場会計の損益計算書 単位:億円/消費税抜 H27 H28 H29 H30 H31 H32 H33 H34 H35 H36 H37 H38 H39 H40 H50 H60 H70 H80 H90 営業収益 147 152 153 169 169 169 169 169 168 168 168 168 168 167 166 164 162 160 150 売上高割使用料 31 32 33 33 33 33 33 33 32 32 32 32 32 31 29 27 25 23 21 施設使用料 79 79 79 82 83 83 83 83 83 83 83 83 83 83 63 63 63 63 63 雑収益 36 40 41 54 54 54 54 54 54 54 54 54 54 54 54 54 54 54 54 営業費用 167 225 227 305 309 313 316 319 322 325 328 331 335 338 368 398 428 458 417 管理費等 116 174 175 196 196 196 196 196 196 196 196 196 196 196 196 196 196 196 196 減価償却費 51 51 52 109 113 117 120 123 126 129 132 135 139 142 172 202 232 262 221 △ 20 △ 74 △ 74 △ 136 △ 140 △ 143 △ 146 △ 149 △ 154 △ 157 △ 160 △ 163 △ 166 △ 170 △ 202 △ 284 △ 266 △ 298 △ 269 営業外収益 34 88 47 35 35 80 69 58 46 35 35 34 34 34 35 35 35 35 35 営業外費用 7 59 18 24 24 24 15 15 15 12 9 6 4 4 4 4 4 4 4 7 △ 44 △ 45 △ 125 △ 128 △ 87 △ 93 △ 107 △ 123 △ 134 △ 134 △ 135 △ 136 △ 140 △ 171 △ 208 △ 285 △ 267 △ 228 特別利益 - - - 388 - 744 744 744 744 744 - - - -特別損失 4 - - 1,191 68 5 35 - - - -3 △ 44 △ 45 △ 929 △ 196 652 616 637 621 610 △ 134 △ 135 △ 136 △ 140 △ 171 △ 208 △ 285 △ 267 △ 228 51 3 15 △ 23 △ 22 23 20 9 △ 4 △ 12 △ 9 △ 6 △ 5 △ 5 1 △ 1 △ 3 △ 5 △ 7   単年度損益 営業損益 データ出所 市場問題プロジェクトチーム第1次報告書、66頁、損益計算書 東京都専門委員による説明と意見交換、2017年4月8日、築地市場講堂、 豊洲移転案、13頁 経常損益 当年度純損益 経常損益 (減価償却費等除く) <60 年間累計値> H30 から H89 年度までの 60 年累計値を計算し、次頁の表に示しました。豊洲市 場のみと、豊洲を除く 10 市場の値も併記しましたが、それらは後述します。 同60年累計値の表で、営業収益と営業費用の差額は、約1兆4,200億円です。 この値には減価償却費が考慮されており、一方、築地市場用地の売却益は考慮され ていません。 上記に、営業外収益と営業外費用を含めたものが経常損益で、約1兆 2,300 億 円です。営業外収益で大きな項目は、一般会計から市場会計への補助金で、約 1,200億円が含まれています。ほとんどの自治体で、中央卸売市場は経済的に成り立 たないので、それなりに補助金が投じられているようです。 上記に、特別利益と特別損失を含めたものが純損益になり、60 年累計で約9,500 億円です。特別利益の主なものは、築地市場用地の売却益で、特別損失の主なも のは、築地市場の閉鎖によるものです。 以上は 11 市場全体の損益ですが、次に、豊洲市場だけの 60 年累計の損益を調 べることにしましょう。

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単位:億円/消費税抜 11市場 豊洲市場 豊洲を除く 10市場 営業収益 9,790 3,964 5,826 売上高割使用料 1,625 658 967 施設使用料 4,079 1,806 2,273 雑収益 3,240 1,500 1,740 営業費用 23,498 8,990 14,508 管理費等 11,760 5,340 6,420 減価償却費 11,738 3,650 8,088 △ 14,209 △ 5,026 △ 9,183 営業外収益 2,206 0 2,206 営業外費用 348 0 348 △ 12,352 △ 5,026 △ 7,326 特別利益 4,108 4,596 △ 488 特別損失 1,303 1,299 4 △ 9,544 △ 1,729 △ 7,815 △ 169 △ 1,376 1,207          市場会計60年累計値 営業損益 経常損益 当年度純損益 経常損益 (減価償却費等除く) <豊洲市場だけの営業収益> 下表は、H27 年度の築地市場と、移転初年度の豊洲市場の営業収益と営業費 用を示すもので、市場問題 PT 第1 次報告書に掲載されているものです。 豊洲市場の移転初年の営業収益は、使用料が 43 億円、その他が 25 億円と推定 されています。 人件費等 委託料 光熱水費 資産 減耗費 その他 築地市場 (H27年決算額) 40 11 50 7 26 4 8 10 0 3 12 44 豊洲市場 (開場後概算額) 43 25 68 7 82 4 34 42 1 0 71 160 営業費用 築地市場と豊洲市場の営業損益 (出所:市場問題PT第1次報告書) 使用料 その他 計 営業収益 管理費等 償却費減価 計 本庁分

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市場の使用料は、売上高割使用料と施設使用料に分けられます。60 年間の損益 検討では、前者は 5 年毎に 3%ずつ減少すると仮定されています。市場の取扱数理 量は減少すると予測されており、それを反映したものです。 現在の10 市場の売上高割使用料の割合は約30%です。豊洲市場にもその割合 であると仮定すると、初年度の売上高割使用料は12.9億円、施設使用料は30.1億 円になります。 売上高割使用料が5年毎に3%ずつ減少すると仮定すると、60年間の累計は、6 58億円になります。施設使用料とその他の 60 年累計は、単純に 60 倍して、各々 1,806 億円と 1,500 億円になります。 従って、豊洲市場の営業収益の 60 年累計は、3,964 億円になります。 <営業費用> 同様に、市場問題PT 第1 次報告書によれば、豊洲市場の初年度の営業費用の うと管理費等は89億円、減価償却費は71億円と推定されています。管理費等の60 年累計は、単純に 60 倍して 5,340 億円です。減価償却の 60 年累計は次項以下に 示します。 <建設費> 2017 年以降に予定されている豊洲市場の改造 費を除くと、豊洲市場の建設費は、用地取得費用な どを含めて5,884億円です。そのうち、減価償却費の 対象とされるのは 3,050 億円とされています。 残りの 2,462 億円の多くは、用地の取得と土壌汚 染対策に要した費用です。その費用により、土壌汚 染対策を施した 40.7ha の土地が、東京都の資産と して残ったわけです。市場問題 PT によれば、その土 地は、4,000 億円前後で売却できる可能性があると 言われます。

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<減価償却費> 減価償却対象の3,050億円を償却年数で割った額が、年間の減価償却費の一部 になります。償却年数の取り方はいくつか考えられますが、60 年間の総額は 3,050 億 円です。 加えて毎年の減価償却費には、長期の大規模補修の費用を考慮する必要があり ます。大規模補修にいくら掛かるかは推測になります。なお、毎年必要な設備補修費 は、営業費用の管理費等に含まれています。 市場問題 PT 第5回に中央卸売市場が提出した資料には、他の中央卸売市場 や類似の大規模施設の実績などに基づく長期大規模補修費が参考値として紹介され ています。因みに、東京国際展示場の 21 年間の実績を年間にすると 8.5 億円になる そうです。 4 月 8 日の市場問題 PT 小島座長などによる築地市場での意見交換会の資料に は、減価償却対象額の1/3 の約1,000億円を設備と考え、設備更新を15年としたう えで、その 20%だけを更新することを仮定しています。その場合、15 年毎に 200 億円 の大規模補修費が発生します。60 年間では 600 億円になります。 その値を用いると、60年間の減価償却費の累計は、3,050億円と600億円を合わ せた 3,650 億円になります。 <築地の売却益> 築地市場用地の売却益については、幾つかの試算があるようですが、都の市場の あり方戦略本部の資料「中央卸売市場会計の持続可能性の検証」(2017 年 6 月 15 日)の値を用いました。 平成 33 年に 4,596 億円で一般会計に売却(有償所管換)するもので、環状 2 号線用地を除いた面積で、埋蔵文化財調査費用等の 200 億円を差し引いた額にな っています。損益計算書では、特別利益として計上されます。 <築地市場閉鎖の特別損失>

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