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若年母への対応に関する支援者の姿勢

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(1)

資  料

*1

首都大学東京健康福祉学部(Tokyo Metropolitan University Faculty of Health Science)

*2

東京女子医科大学看護学部(Tokyo Women s Medical University School of Nursing)

2006年9月14日受付 2007年4月13日採用

若年母への対応に関する支援者の姿勢

─北米における調査から─

Care provider attitudes towards teen mothers

in North America

安 達 久美子(Kumiko ADACHI)

*1

小 川 久貴子(Kukiko OGAWA)

*2

恵美須 文 枝(Fumie EMISU)

*1 抄  録 目 的  若年母への多様な支援が実施されている北米の支援者を対象に,支援者としての若年母への対応時の 姿勢を明らかにすることを目的に調査を行った。 対象と方法  若年母への支援にあたり必要な研修を受け,現在若年母への対面支援を行っている専門家の2つのグ ループに半構成的フォーカスグループインタビューを実施した。質問の内容は,「若年母を支援する際 の支援者としての重要な姿勢は何か」とし,得られたインタビュー内容を質的に分析した。 結 果  支援者としての若年母への重要な姿勢としては,理念(尊重する,判定をしない,信頼する,若年母 の持つ力を信じる),若年母のとらえ方(母である前にティーンエイジャーである,妊娠・出産をネガティ ブにとらえない),構え(多様な文化・価値観を理解する,真実を伝えること)の3つがあることが明らか になった。これらの背景には,若年母の特徴として,貧困,生育歴の中での不当な扱い,複雑な家族背景, 若年で妊娠・出産したことによる社会からの偏見や差別,思春期の若者の特色があることがわかった。 結 論  支援者は,若年母の現状や特徴と思春期の若者であることを理解し,自らが若年母を尊重し,肯定的 な姿勢で支援をしていくことが必要であることがわかった。 キーワード:若年妊娠,若年母,支援者,姿勢,北米 Abstract Purpose

This study explores attitudes among professional care providers in North America towards teen mothers where various support is provided.

(2)

若年母への対応に関する支援者の姿勢 Methods

Two focus group meetings were held with professionally trained care providers who are currently providing support to teen mothers. In a semistructured interview, the researchers asked them what they, as a care provid-ers, thought was the most important attitude towards teen mothers. Qualitative methods were then used to identify themes and analyze the responses.

Results

The attitude of the care provider toward teen mothers is discussed. Three themes emerged from the research: The Philosophy of Care Providers (respect, no prejudgment, trust, and belief in their ability), Provider Perception of Teen Mothers (they are a teenager before being a mother, non-negative perception of teenage pregnancy and motherhood), Attitude of Support (understanding various cultures and their sense of values, and being informed of factual information). The background of this study helped us understand that poverty, improper upbringing, com-plex family backgrounds, social discrimination towards teenage pregnancy and features of an adolescent youth are characteristics of teenage mother.

Conclusion

A care provider should be able to understand the present conditions, circumstances, and characteristics of a teen mother and adolescent youth, as well as respectively, but affirmatively counsel, guide, and suggest.

Key Words : teen pregnancy, teen mother, care provider, attitude, North America

Ⅰ.緒   言

 10代で妊娠・出産した女性(以下若年母)たちは, 若年母であることによる社会からの偏見や烙印を押さ れ(町浦, 2000;Price & Mitchell, 2004),ネガティブ な経験をしている。さらに,若年母たちは支援者との 関係の中で,威圧的な言動や見下された態度で対応さ れたとし,自分たちが若年母であるからであると感じ ており(Bailey et al, 2004;Price & Mitchell, 2004),支 援者に対しての信頼をもてなくしている(de Jonge, 2001)。また,若年母であることを特別視されている と感じることが,支援へのアクセスを妨げる原因とも なる(Hanna,2001)。このように支援者の若年母への 態度は,若年母たちの支援の受けかたへ大きく影響す るためその適切さが重要となる。これまで,支援者に 関しては,助産師が若年母たちの妊娠・出産を肯定的 に受け止めている(Bailey et al, 2004)や,医師,看護 師,助産師が若年母に対して,単純で,自己中心的で あり,適切な母親であることが難しいとして捉えてい る(Breheny & Stephens, 2007)といった支援者の若年 母に対する考え方については調査が行われている。ま た,若年母を対象とした調査の結果から,その特徴を 踏まえて支援を行うことが大切であり,自己信頼を もてるように促進していく(Hanna, 2001),看護師は, 思春期にある若年母にとって,母親であるということ は非常に困難なことであることを理解しケアを提供す ること(Clemmens, 2003)などが提言されている。こ れまでの調査では,若年母を主軸において調査が行わ れ,支援のあり方のひとつとして支援者のあるべき姿 勢や対応の仕方が述べられてきた。しかし,支援者が 若年母たちと対応するにあたって,実際にどのような 姿勢でのぞんでいるのか,支援者の姿勢そのものに焦 点はあてられていない。若年母への対応の基幹となる べき支援者の姿勢を明らかにすることは,若年母への 支援のあり方を考える上で切要なことであると考える。 したがって,本研究では,若年母への支援にあたって の研修を受けた若年母への支援専門家を対象に,支援 者の若年母たちへの対応時の姿勢と,その背景にある ものは何かについて明らかにすることを目的として調 査をおこなった。

Ⅱ.用語の定義

 本研究では,10代で妊娠し,出産を予定している, または出産した女性を若年母とした。また,専門家 としての姿勢とは,若年母への支援にあたっての理念, 態度,構え,とらえ方とした。

Ⅲ.方   法

1.調査対象とデータ収集時期  本調査では,調査地として若年母が年間5万3千人 前後で,15∼19歳の女性の5%近くが若年母であり, 州全体において若年母に対する支援活動を実施して いる(O’Connell, 2005)カリフォルニア州を選択した。 対象者のリクルートにあたっては,若年母の支援組織

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ているもので,以下の事項を満たすものとした。 1 )現在,若年母への支援を行っている。 2 )直接的に若年母たちへの関わりを持ち,対面での 支援を実践している。 3 )若年母への支援にあたり,必要な知識を学び,研 修を受けている。  データ収集は,平成17年9月に実施した。 2.データ収集方法  本研究では,支援者個人の意見というだけでなく, 共通の目的をもつ支援者仲間の中での共有化された意 見としてデータを収集することを目的とし,フォー カスグループによる半構成的グループインタビューを 行った。質問の内容は,「若年母を支援する際の支援 者としての重要な姿勢は何か」とし,対象者の属性な らびに支援の内容については,個別に聞き取り調査を 行った。インタビュー内容は,対象者に承諾を得た上 で録音するとともに,インタビュー時の参加メンバー の様子を観察し,記録した。インタビュー時間は2時 間程度とした。 3.分析方法  録音したインタビュー内容を逐語録にし,翻訳した。 翻訳にあたっては,米語を母国語とし,日本語にも堪 能な2名の北米人に,翻訳による意味内容の間違いや ズレがないかを確認し,修正した。特に,日本語への 翻訳によって,内容に変更が行われないように十分に 配慮した。分析にあたっては,グループインタビュー メンバーが表現した「内容」に注目し,言葉を生のデー タとして活用するという安梅(2003)の分析法を参考 とした。分析は,以下の手順によっておこなった。① 逐語録とその時点での観察記録を合わせてデータを熟 読し,②若年母への支援者としての姿勢について語 られている部分を重要アイテムとして抽出し,分析の 対象とした,③類似した重要アイテム毎に分類し,何 を意味しているのかに焦点を当てて内容を分析しサブ カテゴリー化し,さらにサブカテゴリー化されたもの をカテゴリーとしてまとめた,④次に,各サブカテゴ リーとその背景との関連性を検討した。信頼性と妥当 性を確保するために,以下のことを行った。①分析さ れたデータは,再度2名の北米人にデータとの整合性 を確認した,②分析は共同研究者である母性看護・助 し,各サブカテゴリー,カテゴリーの内容や基準を常 に確認し続けるとともに,生データとフィールドノー トに立ち返りながら分析を行った。 4.倫理的配慮 1 )調査に先立ち,調査対象者に本研究の目的,方法, 意義,調査に伴う利益,不利益,プライバシーの保 護,調査の中断,発言の自由の確保,結果の公表に ついて書面で説明し,同意を得た。 2 )インタビュー内容の録音,逐語録については,個 人が特定されるような内容の部分は,記号などにお きかえるなどとし,プライバシーの保護を厳守した。

Ⅳ.結   果

1.対象者の背景(表1)  研究参加者は,支援組織からの本研究に関する情報 を受けて,調査への協力の申し出があった2つの支援 者ネットワークのメンバーとした。その結果,それぞ れのネットワーク構成メンバーの特徴により,看護職 者グループ(以下グループA),教師・ソーシャルワー カグループ(以下グループB)の2つのグループに実施 した。  グループAは,主に地域の保健センターを活動拠点 として支援を実施している保健師,看護師4名である。 グループBは,主に学校や地域における若年母への支 援機関で活動している教師,ソーシャルワーカー5名 である。  若年母の支援経験年数は,3∼17年であり,10年以 上の経験を持つ者が過半数を超えた。現在支援してい る若年母の人数は,20名前後であった。  今回の支援者が支援している若年母の年齢は,12∼ 19歳であり,16∼17歳が最も多かった。人種は,ヒ スパニック系が最も多く,次いでアフリカ系であった。 特徴としては,低所得者層が多く,片親,シングルマ ザー,ドメスティック・バイオレンス(以下DV)被害 者などがあげられた。支援時期は,妊娠期から児の年 齢が2歳前後までであった。 2.インタビュー結果  分析の結果,8つのサブカテゴリーが抽出され,8つ のサブカテゴリーは,姿勢のもつ意味内容から3つの

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若年母への対応に関する支援者の姿勢 カテゴリーに分類した(図1)。以下,それぞれのカテ ゴリーについて分析した結果を示す。【 】は,サブカ テゴリー名,「 」は,実際に語られた内容を示す。 1)理念 【尊重する】  A,B両グループともに最も重要であるとした支援 者の姿勢が【尊重する】であった。尊重には,若年母 自身を一人の人間として尊重することはもちろんのこ と,彼女らが選択したことについても尊重すること が重要であると述べていた。「尊重」をあげた背景には, 支援する若年母の多くが低所得者層であり,貧困や ホームレスといった生活そのものの維持さえ難しい状 況にあること,さらに両親の離婚や身近にDVを経験 し,自らも虐待にあっていることなどがあり,親から 大事に育てられた経験が少ないことをあげていた。さ らに,若年母たちが,大人から子ども扱いされること について抵抗感をもちやすいことから,一人の人とし て彼らをみているという態度を示すことが重要である としていた。 「最も大切なのは,彼らを尊重すること,先ずはそ こから始まる,大切にされた経験が少ないので,彼 らを認めてあげることが重要」 「彼らが選択したことに対しては,尊重する」 「大人はティーンと対応するとき,相手を子どもと して捉えやすい,そのことをティーンはよく思って いない,だからティーンを一人の人として尊重する ことが大切である」 【判定をしない】  全ての支援者たちは,【判定をしない】ということを あげた。その背景には,若年母たちが過去の経験(非行, 低学力,人種問題など)から,マイナスの判定をされ 表1 支援者の背景 若年母の 支 援 歴 職種 支援方法 支援対象者について 活動場所 形 態 主な支援内容 支援人数現在の (最も多い歳)主な対象者年齢幅 主な人種 対象者の主な背景 グループA C 15年 保健師 センター 訪問指導ヘルス 分娩準備栄養・健康管理 母乳,FP* 15∼20名 14∼19歳

(17歳) 妊婦・褥婦 African American 40%Hispanics 40%

低所得者 片親、両親がいないシン グルマザー DV**経験者 D 17年 保健師 センターヘルス 教 室 分娩準備栄養・健康管理 母乳,FP 20名前後 15∼19歳 (17歳) 妊婦∼産後2歳くらい Hispanic 50∼60% 低所得者 英語が話せない約3割 DV経験者 E 8年 看護師 センターヘルス 教 室 分娩準備母乳、FP 児のフォロー 10∼30名 15∼19歳 (16歳) 妊婦∼産後2歳くらい Hispanic 50∼60% African American 30% Asians 10% 低所得者 移民

F 11年 看護師 思春期クリニック 個別相談 分娩準備健康管理 不明 12∼19歳(16歳) 妊婦∼出産 Non-Hispanic white 40%Hispanic 30∼40% Hispanic系では,3世代家族が多い グループB G 17年 教師 高 校 教 室 妊娠・出産・育児指導 愛着形成 28名 15∼19歳 (18歳) 妊婦∼産後2歳くらい Hispanic 60%white 15% 低∼中所得者 比 較 的 安 定 し た 家 庭 で 育 っ て い る シ ン グ ル マ ザー H 3年 SW 支援機関 個別相談 個別プログラム作成と相談 児のフォロー 15名前後 14∼19歳

(17歳) 妊婦∼産後2歳くらい African American 30%Hispanic 50%

低所得者 保護者の教育に関する意 識が低い DV経験者 I 7年 SW 支援機関 個別相談 個別プログラム作成と相談 児のフォロー 20名前後 15∼19歳

(17歳) 妊婦∼産後2歳くらい African American 40%American Indian 10% 文化的背景により,若年母を容認している J 9年 教師 高 校 教 室 妊娠・出産・育児指導 学業継続支援 20名前後 15∼19歳 (18歳) 妊婦∼産後2歳くらい white 30∼40%Hispanic 20% 近隣の地域とくらべると,比較的経済的には良い K 13年 教師 高 校 教 室 妊娠・出産・育児指導 職業支援 12∼20名 15∼19歳 (17歳) 妊婦∼産後2歳くらい Hispanic 40%Asians 10% 最近の移民が多い FP*:家族計画指導  DV**:ドメスティックバイオレンス 理   念 若年母のとらえ方 支援にあたっての構え 【尊重する】【判定をしない】【信頼する】【若年母の持つ力を信じる】 【母である前にティーンエイジャーである】 【妊娠,出産をネガティブにとらえない】 【多様な文化・価値観を理解する】 【真実を伝えること】 図1 若年母を支援する際の支援者としての姿勢

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りに,負の影響を及ぼすことをあげていた。 「彼らは(判定に)嫌悪を感じる,判定により,彼ら は口を開かないであろう」 「大人に対する不信感を持っているから,判定され ても納得がいかない」 「判定してしまうことは,相手の考えを否定するこ とになる,(中略),カウンセラーとの関係ができあ がらない」 【信頼する】  前述の2つに次いで支援者たちが重要であるとした ものに,若年母を【信頼する】があげられた。その背 景としては,信頼された経験が少ない若年母たちが, 支援者から信頼されることにより,人を信頼すること を知ることができるとし,同時に支援者との関係性を つくっていく上で有効に働くと述べていた。 「先ず相手を信頼すること,それが私たちの基本だ と思う」 「人から信頼された経験が少ない,信頼されている ことを実感すると何でも話をしてくれるようにな る」 【若年母の持つ力を信じる】  さらに,支援者たちは,彼女たち【若年母の持つ力 を信じる】ことであると述べた。若年母たちは,大人 にくらべ,柔軟であり,多くのことを吸収できる力を もっており,支援によって大きな変化をとげること, これからの未来に多くの可能性を持っていることを経 験していた。その経験から,彼らの将来性を信じ,支 援にあたっていた。 「若年母は大きな力を持っている,だからその力を 信じる,彼らには,未来がある,彼らは自分でその 未来をつかむことができると信じている」 「自分も16で子どもを産んだ,そして,支援を受けて, 最終的には大学院にも行くことができ,今この仕事 についている,私のような仲間は沢山いる」 2)若年母のとらえ方 【母である前にティーンエイジャーである】  支援者たちは,若年母たちを【母である前にティー ンエイジャーである】としてとらえていた。その背景 としては,ティーンエイジャーとして仲間と一緒にす ごすこと,親に甘えることが若年母にとっては重要で あることや,母親だからといって,大人になったわけ しての役割も担わなくてはならいことは容易ではない と語った。若年母は,社会的な経験も乏しく,自己中 心的な考え方になりやすいこと,現実認識や客観的 に物事を考えることが難しいことも理解したうえで支 援にあたることが重要であると述べた。さらに,妊娠 や出産,育児について殆ど何も知識がないだけでなく, 基本的な食や,身体に関する知識もほとんどないので, 支援にあたっては,すべてスタートラインからはじめ ることが大切であると述べた。 「彼らは,ティーンエイジャーである,(中略)友達 と遊びたいと思うのは当然である,母親だからと いって,ティーンをあきらめることはない」 「妊娠・出産したからといって,直ぐに大人になる わけではない,彼らはこれまで自分中心できた,急 に赤ちゃんのことを最初に考えて,といっても難し い」 「ティーンエイジャーであることと母であることは, 彼らにとって2つの世界を同時に生きることであり, とてもタフなことである,(このことを)われわれは, 理解しなければならない」 【妊娠,出産をネガティブにとらえない】  若年で妊娠することは,北米社会においても受け入 れられ難いハンディを背負う対象として特別視されて いた。若年母たちは,社会からのこのような偏見と合 わせて,妊娠,出産,子育てにより学業が中断された り,就業が妨げられたり,自分の将来がみえなくなり やすい現状があるとした。そのため,若年母自身も妊 娠・出産をネガティブにとらえやすくなると支援者は 考えていた。したがって,支援者自身が,【妊娠,出 産をネガティブにとらえないこと】,そして,それを 若年母たちに伝えることが重要であると述べた。 「彼らは,妊娠したことを人生の終わりのようにと らえている,妊娠,出産は決して,人生の終わりで はない」 「妊娠したから今ここにいて,このクラスに参加で きるのよ,だから友達や私たちとも会えたのよとい うことを伝える」 3)支援にあたっての構え 【多様な文化・価値観を理解する】  支援者たちは,人種や文化が異なる人々が多い社会 の中で,複雑な問題を抱えている若年母たちを対象と

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若年母への対応に関する支援者の姿勢 していることから,【多様な文化・価値観を理解する】 ことが支援の方向性を決めていく上で重要であると考 えていた。支援者のスケールで考えないようにするこ とや,支援者たちにもいろいろな人種の人がいること が必要であり,同僚同士でもそれぞれの文化や価値観 についてディスカッションをしていくことが大切であ ると述べていた。 「人種や宗教によって10代で子どもを産むことのと らえ方が違う,そこ(どのような人種や宗教なのか) を理解する」 「カウンセラー自身が,いろいろなバックグラウン ドをもっているから,心理学を学んだ人,元警察官, メキシコ系の人もいれば,黒人もいる,そういう中 でいろいろな考え方を話していき,自分のWAYだ けにとらわれないようにする」 【真実を伝えること】  支援者たちは,若年母は,総合的な視点で現実を把 握する能力が未だ充分ではないため,彼らが現実を正 しく認知し,自分たちの将来に向かって,現実的に歩 んでいくことができるように【真実を伝えること】が 大切であると述べた。また,安定した家族への憧れを もち,その理想と現実とのギャップを理解でき難い状 況があると語っていた。 「現実を理解していないことが多い,今どういう状 況なのか,今後どういう可能性があるのかを伝える」 「子どもを産んだら,何か新しい世界が待っている と,ロマンティックに考えている,でも現実はそれ だけでないことを伝える」

Ⅴ.考   察

1.支援者および支援対象者について  本調査の対象における若年母への支援経験年数は, 10年以上の者が多く,現在支援している若年母も20 名前後であり,支援経験が豊富な人達であった。若年 母の支援内容は,看護職者は分娩に向けての準備や母 乳栄養,家族計画についての指導や,身体面への援 助を主に行っていた。教師は妊娠・出産・育児に関す る全般的な指導,学業継続や就業に向けての支援を実 施していた。カウンセラーは個別相談を中心に,若年 母の個別のニーズに合わせた支援プログラムの作成を 行うと同時に,児の発育,発達についてのフォローを 行っていた。このように,職種や活動場所によって内 容は類似した部分と異なっている部分があったが,そ れぞれの専門性を生かした支援を実施していた。これ は,若年母にとっては,多面的な支援を得ることとな り,彼女たちのもつ様々なニーズにも対応が可能であ ると考える。さらに,支援者の中には,自らが若年で 出産をし,支援を受け,現在支援者として活動してい る者もいることがわかった。自らが若年母であった者 が,支援者の中に存在することには,支援される若年 母にとっては,若年母の先輩としてのロールモデルや, 仲間としての存在となり,より支援を受容しやすいの ではないかと考える。また,他の支援者たちも,彼ら を通して若年母をより深く理解することができると考 える。  支援対象者については,調査地となったカリフォル ニア州がメキシコと隣接していることもあり,ヒスパ ニック系が多い傾向がみられたが,人種は様々で,人 種の坩堝といわれる北米の特徴を反映していた。また, 低所得であることや家族の問題など,その背景には複 雑な状況があることが推測された。 2.理念について  支援者たちは,大切なもの,根本にあるものとして 【尊重する】【判定をしない】【信頼する】【若年母の持つ 力を信じる】をあげた。この背景には,思春期は,も ともと脱衛星化や心理的離乳と呼ばれる時期,いわ ゆる第2反抗期であり,大人に依存した状態から脱出 し,独立したいという意思が強くなる時期であり(平 井, 1993),そのこと自体が大人への接近を妨げるとい う特徴と,さらに家族との離別や,虐待,差別や偏見 など成育歴のなかでの大人に対する不信感が,大人で ある支援者との関係作りを難しくさせてしまうという 支援者の考えがあった。したがって,若年母へ,尊重 していること,信頼していること,判定しないことを 示すことは,支援する側とされる側の関係を築くため にとても重要であると考えており,肯定的に受け入れ るといった姿勢が基本であるとしていた。さらに,今 回の調査では,尊重・信頼されること,判定されない ことを若年母自身が体験し,対人関係の大切さを学び 取ることにより,若年母自らもそのような行動がとれ るようになるという支援者の意図もその背景にあるこ とが新たにわかった。  また,これまでは,若年母たちはマイナスの評価 をうけていることが多かった(Breheny & Stephens, 2007)が,本研究の対象者たちは,若年母達のもつ柔 軟性や将来性を高く評価しており,適切な支援が行わ

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として支援者の中に若年母であった者がいることが, よりその実感を高めていると考える。そして,これま で言及されることがなかったが,若年母たちの力と将 来を信じて支援にあたることが支援者のモチベーショ ンを高めていることがわかった。 3.若年母のとらえ方について  支援者としてどのように若年母をとらえるかについ ては,【母である前にティーンエイジャーである】【妊 娠,出産をネガティブにとらえない】ということがあ げられていた。Breheny(2007)らの調査では,思春期 であることが母親としての適切さを阻むと支援者たち が考えていた。しかし,本調査では,思春期である ことをマイナスとして捉えるのではなく,友人たちの 交流を通して,対人関係を学びながら,社会的スキル の獲得や,より広い人間関係を構築していく(落合他, 1995)という,思春期の特徴をありのままを受け止め ることが大切であるとしていた。そして,Clemmens (2003)が,思春期と母親としての両方の役割を果た していくことは容易でないと述べたと同様のことが語 られていた。支援者は,このことを十分理解した上で, 彼女たちの支援を行うことが重要であり,母親役割の 達成に主眼が置かれ,彼女たち自身が思春期の若者と しての欲求や課題を持っていること軽視してはならな い。  思春期においては,十分なSelf-Concept, Self-Esteem が重要であり,様々な因子により影響を受けるとい われている(Rice, 1996)。妊娠・出産を間違ったこと, 悪いことと受け止めることは,自己肯定感を引き下げ ることにもつながる。しかしその反対に,母親として の役割を果たすことができると,自分自身を肯定的 に受け止めることができるようにもなる(Wahn et al, 2005)。その意味でも,支援者が妊娠・出産を否定的 に捉えるのではなく,肯定的にとらえ,若年母たちに それを示していくことが重要である。 4.支援にあたっての構え  支援を提供して行く上での構えとしては,【多様な 文化・価値観を理解する】【真実を伝えること】があげ られた。若年母たちは,人種もさまざまであり,文化 や価値観も多様である。若年母たちへの支援は,出産 や育児,教育の継続,就業,ソーシャルスキル,さ や価値観に影響を受けることが多い。個別性と多様性 に応えた支援をしていくためには,支援者側の視点だ けで支援内容や方法を考えるのではなく,その若年母 がもつ文化や価値観を十分に理解したうえでそれらを 吟味することが重要である。  さらに,若年母たちは,社会経験のなさから,自分 たちの置かれている現状や社会の状況を適切に理解し ていくことが難しいと支援者たちは述べていた。これ までの調査からも,妊娠や母親になることが現実から の逃避であること(Wahn et al, 2005)や若年母は,妊 娠していない同年代の女性に比べ,Romanticismの傾 向が高いことが指摘されている(Medora et al, 1994)。 したがって,若年母たちが,現実を正しく把握した上 で,自分にあった選択ができるためにも,真実を伝え ていくことが重要であることがわかった。 5.支援者たちの姿勢からみえてきたもの  今回の結果に示された姿勢は,一般の人々を支援す る上でも基本的な姿勢であるととれるものが多かった。 しかしながら,支援者たちはそのことを何度も繰り返 し強調していた。なぜならその背景には,大きな二つ の若年母に特有な現状があるからであると考える。ひ とつは,若年母と支援者という関係には,未成年者と 成人という関係があり,大人同士の場合と比べて,互 いの関係が対等であることを妨げられやすいという現 状である。もうひとつは,一般的に,妊娠し,母親 になることは肯定的に受け入れられることが多いのに, 若年で妊娠することは否定的に捉えることが多いとい う極めて対照的な現状である。したがって,一見,支 援者としては当然と思われるこの姿勢が,実際の若年 母との関係においては,亡失されやすいのではないか と考える。これは,若年母たちがケア提供者たちから の不親切な態度を体験しており,繰り返し支援者たち への注意を喚起している(Treffers et al, 2001;WHO, 2004)ことからも裏付けられる。  さらに,若年母にとって支援者は,単に支援の提供 者であるだけではなく,モデルとなる人であり,支援 者との関係から人との関係を学んで行くという側面が あるということがわかった。したがって,支援者とし ての姿勢を若年母へ意図的に提示することが重要であ り,若年母への支援における特徴であると考える。

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若年母への対応に関する支援者の姿勢

Ⅵ.結   語

 北米カリフォルニア州において若年母たちへの支援 活動を実施している専門家を対象にフォーカスグルー プインタビューを行った結果,若年母への支援にあ たっては,支援者は,【尊重する】【判定をしない】【信 頼する】【若年母の持つ力を信じる】を理念とし,【母で ある前にティーンエイジャーである】【妊娠,出産を ネガティブにとらえない】として若年母をとらえ,支 援提供時には,【多様な文化・価値観を理解する】【真 実を伝えること】を構えとして,支援にあたっていた。 これらの背景には,貧困,生育歴の中での不当な扱い, 複雑な家族背景,若年で妊娠・出産したことによる社 会からの偏見や差別,思春期の若者の特徴があること がわかった。若年母の現状や特徴と思春期の若者であ ることを理解し,支援者自らが若年母を肯定的に受け 止め,相手を尊重していくことが重要であることが示 唆された。  尚,本研究は,平成17年度文部科学研究費補助金(基 盤研究C 課題番号17592278)の助成を受けた。 文 献 安梅勅江(2003).ヒューマン・サービスにおけるグルー プインタビュー法 科学的根拠に基づく質的研究法の 展開,45-49,東京:医歯薬出版.

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参照

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■2019 年3月 10

教育現場の抱える現代的な諸問題に応えます。 〔設立年〕 1950年.

中学生 高校生 若年者 中高年 高齢者 0~5歳 6~15歳 16~18歳 19~39歳 40~65歳

成 26 年度(2014 年度)後半に開始された「妊産婦・新生児保健ワンストップ・サービスプロジェク ト」を継続するが、この事業が終了する平成 29 年(2017 年)

種別 自治体コード 自治体 部署名 実施中① 実施中② 実施中③ 検討中. 選択※ 理由 対象者 具体的内容 対象者 具体的内容 対象者

(出生 1,000 人あたり、2019 年 /UN IGME 調べ).