日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-68 256
-教師のメンタルヘルスリテラシーが児童の抑うつ,不安に与える影響
○竹森 啓子1)、下津 咲絵2)、佐藤 寛3) 1 )関西学院大学大学院文学研究科、 2 )京都女子大学発達教育学部、 3 )関西学院大学文学部 【問題と目的】 児童期におけるメンタルヘルスに関する問題の早期 発見および予防の重要性が指摘されている。児童期に おいて抑うつ,不安,攻撃行動,発達障害が特に問題 視され,これらはそれぞれ複雑に絡み合って現れるこ とも多い。そのような児童期での早期発見,予防のた めには,子どもを取り巻く大人のメンタルヘルスリテ ラシー(以下,MHL)が有効であると主張されている (大久保ら, 2011)。高いMHLを有することで早期の治 療につながることが指摘されているものの,児童のメ ンタルヘルスに関する教師のMHLについては検討され てこなかった。 教師と児童との関係については複数研究報告がなさ れている。例えば三島・宇野(2004)は担任教師に対 して受容的である,親近感が持てると評価している学 級の児童生徒は、そうでない学級の児童生徒に比べて 学級雰囲気を肯定的に認知することを明らかにした。 松沼・五十嵐(2016)は,児童が認知する担任教師か らのソーシャルサポートは学級適応感を高めることを 報告している。すなわち,児童が教師をどのように認 知しているか,教師からのサポートをどの程度知覚し ているかを考慮することが,教師の児童への影響を検 討する際に重要となる。 そこで本研究では,教師の有する子どもに関する MHLが児童のサポート知覚を媒介して児童の抑うつお よび不安に与える影響について検討することを目的と した。 【方法】 対象者 関西圏の小学校で 4 〜 6 年生を担任する教師 1 4 名( 男 性 9 名, 女 性 5 名, 平 均 年 齢 2 9 . 2 1 歳, SD =4.42歳)および各学級に在籍する児童355名(男子 176名,女子177名,性別未記入 2 名,平均年齢10.61 歳,SD =0.88歳,年齢未記入 2 名)を分析対象とした。 教師への調査材料 ( 1 )MHL 子どものメンタルヘルスに関するリテラ シー尺度(子どもに関するMHL尺度; 竹森ら, 2017) を用いた。「知識」,「積極的関心」,「対処法」の 3 因 子30項目について 6 件法での回答を求めた。 児童への調査材料 ( 1 )抑うつ 児童の抑うつの程度を測るため,バー ルソン児童用抑うつ性尺度日本語版(DSRS- C ; 村田 ら, 1996)を使用した。本研究では自殺項目を除いた 17項目 3 件法を用いた。 ( 2 )不安 児童の不安の程度の測定としてスペンス 児童用不安尺度(SCAS; Ishikawa et al., 2009)を 用いた。38項目 4 件法での回答を求め,本研究では合 計得点を使用して分析を行った。 ( 3 )サポート知覚 児童が知覚した教師からのサ ポートの測定のため,小学生用ソーシャルサポート尺 度短縮版(嶋田ら, 1993)を使用した。「学校の担任 の先生」について 5 項目 4 件法での回答を求めた。 手続き 調査は学校長および教頭から承諾を得た小学 校で行った。教師には空き時間での各自での回答後, 回答前の学級児童対象質問紙の入った封筒への封入を 求めた。その後,担任教師により児童への回答および 回収直後に児童の前での封入を求めた。すべての学級 での回答終了後,学校ごとに郵送で質問紙を回収し た。 倫理的配慮 本研究は京都女子大学臨床研究倫理審査 委員会の承認を得て実施した(許可番号: 29-6)。調 査実施時,対象者には無記名での回答を求めた。担任 教師には回答は強制ではないこと,本調査は教師自身 の評価には無関係であることを質問紙表紙に記載して 説明した。児童には回答は強制ではなく途中で回答を 止めても良いこと,本調査は成績には無関係であるこ とを質問紙表紙に記載の上,担任教師により口頭で説 明した。担任,児童ともに質問紙の回答および提出を もって調査協力に同意を得られたものとした。 【結果】 児童の得点から学級ごとに算出した平均値を各担任 教師に付し,担任教師のMHLが与えるそれらへの影響 について検討した。すなわち,教師のMHL得点と各学 級児童のサポート知覚,抑うつ,不安の平均得点につ いて共分散構造分析によるパス解析を行った(N =14; Fig. 1)。教師のMHLはどの因子も児童のサポート知覚 や抑うつには影響を与えなかった。一方でMHLの内, 対処法のみ児童の不安への負の影響が確認された(β =-.16, p <.01)。さらに児童のサポート知覚は抑うつ および不安に負の影響があった(β=-.39, p <.001; β=-.16, p <.01)。 【考察】 児童がソーシャルサポートを知覚することで抑うつ や不安が低減することが示され,これは先行研究(e.日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-68 257 -g., 齋藤・神村, 2008)に一致する結果であった。ま た,児童は教師のMHLの高さをサポートとして知覚し ておらず,直接的な影響はほとんどないことが示され た。よって,担任教師は児童に関するMHLを単に高め るだけでは不十分であることが示唆されたことに本研 究の意義がある。一方で,担任教師からの有効なサ ポートは学級の特徴で異なることが指摘されているが (松沼・五十嵐, 2016),本研究では学級の特徴を考慮 しなかった。今後は,児童がサポートとして教師の MHLの高さを知覚するまでの過程の検討や,学級の特 徴を踏まえた検討が望まれる。 【主な引用文献】 三島 美砂・宇野 宏幸 (2004). 学級雰囲気に及ぼす 教師の影響力 教育心理学研究, 52, 414-425. 大久保 千恵・市来 百合子・堂上 禎子・井村 健・谷 口 尚之・谷口 義昭 (2011). 中学校におけるこころ の健康とメンタルヘルスリテラシーに関する心理教育 とその効果についての研究 教育実践総合センター研 究紀要, 20, 79-84. 竹 森 啓 子・ 下 津 咲 絵・ 石 川 信 一・ 神 尾 陽 子 (2017). 子どものメンタルヘルスの問題に対する態 度質問紙の作成 日本心理学会第81回大会発表論文 集.