Japanese Physical Therapy Association
NII-Electronic Library Service
Japanese Physioal Therapy Assooiation理学
療 法
学第
40
巻第
4
号289
〜
291
頁 (
2013
年)
疾
患
別
セ
ミ
ナ
ー
循 環器疾
患合
併
例
の
評価
と
治療
戦
略
*渡
辺
敏
* *循 環 器 疾 患
は特 別
な領 域
では ない口常 臨 床 に おい て
,
循 環 器 疾 患 合併例 に 特 別 な 評価と治 療が 必要で あ る と は 思 わ ない。
運 動 器 疾 患 で あ れ 脳 血管疾患で あ れ,
肺で のガス交 換・
心 臓での血液循 環・
末梢で のエ ネルギー
産 出といっ た,
「エ ネルギー
供 給シス テ ム」が作 動し てい るこ とが 前 提で日常 生 活 活 動 が 可 能となる。 このエ ネ ル ギー
供 給シ ステム の作 動状 況 を把 握 するた めに,
循 環 器 領 域で よく使わ れ る種々 の評 価と治療 戦 略 が 必 要であるだけの話である。
また一
方で,
理 学 療 法 治 療 手 技である運 動療 法は筋 力 増 強 運 動であれADL
運動であれ,
心拍 数や血 圧の変 化 を伴 うこと は 誰しもが知
っ てい る。
この変化
を病
態 生 理 学 的に考 察し て治 療 戦 略を 立 て る こ と は,
運動
器疾
患であれ脳
血管
疾 患であれ循 環 器 疾 患となん ら変わ ら ない。
違う
とす
れ ば大腿骨頸部
骨 折や脳 襖 塞 など と心筋 梗 塞な どの主病名
が異な る だ けの話である。
た とえば循 環 器領域でも よく使
わ れ る評
価 項目 である収 縮 期 血 圧 は,
上腕 動脈をマ ンシェ ッ ト で 圧 追 し,
ステ
ー
ト を 使 用 し て コ ロ トコ フ音を聴 取 する,
以 上の手 段で指標 と な る 収 縮 期 血 圧が測 定で き る。
測定 結 果は140mmHg
で あっ た。
この症例 が 大 腿 骨 頸 部 骨 折の 単 独 疾患 で あ れ ば140mmHg
の収縮期血 圧 は 特に問題 な し と判 断 され るであろう。 心筋 梗 塞の急 性 期で あ れ ば140mmHg
の収 縮 期 血 圧は管 理が必 要と判 断 する。
こ こで,
再 確 認 してお きたい事 項は,
あた かも前
者は治療
戦略を 立て てい ない ように思われるが,
「問 題な し と判 断 する こ とも,
管理 が必 要と判 断 する ことも」どちら も同じく治療
戦略 を立て たことを意 味する。
以 上,
本セ ミナー
で は,
「循 環 器の理学 療 法は 口常生 活 活 動 の基 本 項 目であ り (図1),
特 別な領域で は ない 」を 持 論 に,
循 環 器 疾 患 合 併 例の評価と治 療 戦 略につ い て解 説 する。
齲
△
御 系 、
呼 吸
・
循
搬 送 系 )
図1 循 環器 領 域 と 口常 生 活 活 動 た が,
急 性 期に は急 性 腎 障 害 を合 併して治 療に難 渋 した。 交 感 神 経 遮 断剤や アンジオ テ ン シ ン変 換 酵 素 阻 害 薬,
利 尿 薬,
脂 質 異 常 症 治療 薬に加 え 経口糖 尿 病 薬の投 薬 治 療を継 続し な が ら外 来通 院 となっ
た。
肥 満によ る膝 関節 痛で運 動 療法の継 続にも工夫
が 必要であっ た。
こ の よう
な症 例 を評 価 する には図2に提 示 し た項目 は最低 限 評 価や情 報 収 集が必 要である。
個々 の評 価 内 容や解 釈の仕 方は成 書1−
5)を参 照 していた だ き たいが,
循 環 器 疾 患 合 併 例であっ ても,
図2
と 同等 な評 価 が 必 要であ り,
結 果 を解 釈できる能 力 が 我々理 学 療 法 士にも要 求 される。 さら に 上 記 の 評価に加 えて,
今回 理学 療 法の対 象となっ た 主病 名の評 価 と考 察を行 うことで,
循 環 器 疾 患 合 併 例の評 価が完 了 すること に な る。
確 認し て おき たい 点は,
「すべ て の理 学 療 法 対 象 例に おい て 循 環 器領域 の 評価と考 察は,
主 病 名の評価より先 行 して 行 うべ きである」
以 上 で あ る。
循 環
器領 域
の評価 法
たと え ば,
独 り暮 ら しの中年 男 性 が 脂 質 異常 症 などの動 脈 硬 化促 進因 子を もっ て お り,
運 動 習 慣のない生活を送っ て い る と 心 筋 梗 塞に罹患し やす くなる。
心 筋 梗 塞の重症 度は軽 症であっ *Evaluation of Cardiovascular Complications and Treatment
Strategies
* *
聖マ リア ンナ 医科 大 学 病 院リハ ビ リ テ
ー
ション 部(〒216
−
8511川 崎 市 宮 前 区菅生2−
16−
1)
Satoshi
Watanabe,
PT:Departrment of Rehabilitation Medicine,
StMarianna
University
School of Medicine Hospitalキ
ー
ワー
ド;循 環 器 疾 患.
合併 症.
治療 戦 略 循 環 器 領 域 の 治 療 戦 略 そ れでは我々 が 「循 環 器 疾 患 合 併 例の評 価 と治療 戦 略 」 を立 てる ポ イン トはなんだろう? 第一
には.
種々 の評 価 結 果に対 して 「病態(
検 査 数 値 が高い こと で想 定さ れ る事 象や低い こと で想 定さ れ る事
象)
」,
.
「病 期 6)(急 性 期で想 定さ れ る事 象や慢 性 期で想定さ れ る事 象)
」,
「重 症 度(
重 症度が高い ことで想 定 さ れ る事 象や 重 症 度 が 低い こ と で 想定さ れ る事 象 )」な ど,
複 数の要 因につ い て評 価 結 果を解 釈し,
前
述のエ ネルギー
供給
シ ステ ム に対 する負 荷 強 度 設 定をする こ と に集 約さ れ る。
これ が N工 工一
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Japanese Physioal Therapy Assooiation290
理 学 療 法学 第40
巻 第4
号 脚1リハピ リテー
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図3 環 器 領域の治 療 戦 略 隣 〃 期患 者
・
家 族
BWB 聞P 【妃 方 粟鰯血
液検
査
投 薬
図2 心 筋梗 塞の評 価 内容 ま ず 理 学療 法 治療 戦 略 に お け る安 全 限 界の設 定 を意 味 する。
第二 に は
,
理 学 療 法の治 療 効 果7}を 『中 枢 効 果(
心 臓の収 縮・
拡 張 能の改 善に よ る効果)』と し て求め る か,
「末梢効果 (筋 力 および末 梢 循 環 能 改 善に よ る効果)」と し て 求 め る か,
が 次の大 切 なキー
ワー
ドになっ てい る。
多 くの場 合 投 薬 に よ る 心 収縮能の改 善や除水に よ る心 拡 張 能の改 善な どの中枢 効果 は 医 学的治療によっ て生みだされる。
し か し,
心 収 縮 能の改 善だけ で は 運動 耐 容 能の改 善には結びつ か ない。
これ はLVEF
(
Left
Ventricular
EjectionFraction
) と 運 動 耐 容 能の相 関が弱
い こ とで理 解 が 容 易である。一
方 理 学 療 法に よ る筋 力の改善
は 運動
耐 容 能 と良好 な相 関 関 係 を示し,
末 梢効
果 は 理学療法
が寄 与す る部分 が大きい。
し た がっ て,
近年の心 臓 リハ ビ リテー
ショ ン の分 野 で は,
陏 酸 素運 動 と 無 酸 素 運 動』の併用 8)が よいと さ れており,
両者の処 方比率が 重 要 と なってい る。
こ れ が 理学療 法 治 療 戦 略に お け る有 効下 限の設定を意味 す る。
以上の ように
,
第一
の手順 で 設定
し た安
全 限 界と(
な に を管 理 指 標として) 第二 の手 順で設定
し た有効
下 限 の(
な に を効 果 目標 と して) 範囲内に,
実践する 理学療法
が位
置 する よう
に調 整 することが,
治 療 戦 略 を立て る こ と を意味
する(
図3)
。
合 併 症
と して の考
え方
循 環 器 疾 患の合併症 は多 岐に渡る が,
「虚亅血・
ポンプ・
不 整 脈 」 に 大 別 し て 考 え る と 整 理 が容 易と な る (図4)。
また,
「な にが どこまで管理 で き る 環 境 下で理学 療 法を実 施して い る の か] 我々自身が実 施 環 境を把 握 する こ とも重 要である。
虚血は専 門 的 な検 査が 必要である こ と はいう までも ない が
,
良
図4 合 併 症と して の考 え方 理学 療 法 実 施 中の管理 と しては最 低 限モニ ター
心 電 図 が 必 要で あ る。
ま た,
モニ ター
心 電図管理下でも8割 程 度の管 理 能 力で あ る こ と を 理解してお く。
その うえで,
環 境が整わない場 合は 虚 血閾値との関 連が強い 二重 積 (心 拍 数x 収 縮 期 血 圧 ) をひと つ の管
理指
標とする こ とも可 能である。 具体 的には 「虚 血 閾 値 で得ら れ た 二重 積の値 未 満で理 学 療 法 を 実 施 す る」ことで虚 血 の誘
発を回 避で きる。 当然二重 積だけでは管理能 力は さ ら に低 くなる が,
「糖 尿 病や高 齢 者 などの自覚 症 状のみを管理指 標と すれ ば」 管 理 能 力はない と同じである。
ポ ンプ機 能は LVEF (Left
Ventricular
Ejection
Fraction
)な どの検査に代 表 されるが
,
単一
運 動で の変 化 を評価 する に は 血 圧測定が優れて い る場 合がある。
した がっ て,.
単一
の運 動に 対 する変 化,
病 期 に伴 う継 時 的 な変 化 な ど,
観 察 ポ イン トを 明 確にして管 理 す ることが 望 まれる。
その他,
数H
間の観 察 期 間 を要 するが 体 重 増加 や 下 肢の浮 腫 ま た は尿 景の減 少 な どの評 価 項 日を加 える こ とで管 理 能力は向 上 する。
不 整 脈の管 理 も最 低 限モニ ター
心 電図 が必要 で あ る。
脈の触 診で は脈 拍 数 を 測定し てい るだけ で,
心 拍 数や 不整 脈を 評価し て い る こと に はならない。
動i
季や め まい は 不整 脈の 症 状 で は あ るが,
動悸
や めまいがあ
るか ら必ず
不整脈
が 原 因 で あ る と は特 定で き ない。
特に 理学 療 法十 が 治 療 対象 とする脳 塞 栓 症 例の半 数以 上 が 心房 細 動を有して いる事 実は理 解 するべきである。
N工 工一
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Japanese Physioal Therapy Assooiation循 環 器 疾 患 合 併 例の評価 と 治療 戦 略