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平成12年度
『
中高齢者の健康・いきいきライフスタイルづくり調査
』
報
告
書(
概
要
版
)
大阪府立公衆衛生研究所 労働衛生部
-- 概要版目次 --ページ
提言 『ここをチェック! 健康・はつらつ熟年』
1. 健康を維持していくために ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
2. 楽しく生きるために ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
3. 中年期からの用意 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
調査結果の概要
第1部高齢者の健康実態調査
Ⅰ. 高齢者のライフスタイルと生理機能;免疫指標・老化指標および血中ホルモンの比較 6
Ⅱ. 血中コレクチン濃度と各種ストレス応答物質との相関 ・・・・・・・・・・・・・・・ 6
Ⅲ. 1.高齢者の臨床検査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
2.機能低下
A.高齢者の聴覚閾値 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
B.高齢期の視機能;近視力および近点距離 ・・ 7
C.高齢期における握力変化 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
D.高齢期における反応時間の変化 ・・・・・・・・・・ 8
Ⅳ. 骨密度調査 ― 集中健康指導の効果 ― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
第2部 質問紙調査
Ⅰ.退職前から退職後への健康・生活の推移と健康影響要因 ・・・・・・・・・・・・・・・ 9
Ⅱ.定年退職者の健康・生活・就労の団体間比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
第3部 動物実験
Ⅰ.加齢に伴うマウス生理機能などの低下とその活性化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
Ⅱ.慢性的精神的ストレスマウスに誘導される神経伝達物質の解析 ・・・・・・・・・ 12
ここをチェック! 健康・はつらつ熟年
定年退職を迎える頃、これからが本当に人生を楽しめるようになります。働き続けてきた人 生から、自由に生きる人生へ・・・健康に楽しく過ごしたいものです。 私たちは1998-2000年に定年退職者を対象に「高齢勤労者の働きがいと健康に関する調査」を行ってきまし た。この成果を基に、このパンフレットを作成しました。1、健康を維持していくために
定期的に健康診断を受け、自覚症状が出る前に病気の元を絶ちましょう。
職場で受けていた定期健康診断を、退職後は市町村で受けられます。 55歳-89歳、現在あるいは将来の健康に不安を感じている人は 企業退職者508/885(57.4%) 地方自治体退職者1045/1587(65.8%) 齢を重ねるに従い故障が生じるのは仕方がないことです。100歳以上を生きた長寿者とい えども臓器それぞれの衰えは、普通の人達と同じだといわれています。 高齢者に多く見られる病気として、がん、脳血管疾患、心疾患、高血圧性疾患、糖尿病 などがあげられます(平成12年版高齢社会白書)が、これらはがんの1部などを除いて生 活習慣を工夫することで避けることができます。 60歳-75歳、現在の健康状態を、まあまあ・ 非常に健康と答えた人は 企業退職者 730/885(82.5%) 地方自治体退職者 1307/1587(82.3%) 一方、60-75歳、一般的な健康診断(身長・ 体重・血圧・血液生化学検査)で異常有りと 診断された人は、健康状態が非常によいと答 えた人の52%、まあまあ良い・普通と答え た人の76∼80%もありました(あまり良く ない88%、全く良くない100%)。 0 50 100 150 200 非常によい まあまあ健康 普通 あまり良くない 全く良くない 検査値異常なし 検査値異常有り 主観的な健康状態と検査結果 高脂血症 41% 高血圧 33% 肥満 26% 高尿酸血症 12% 糖尿病 8% 肝機能障害 8% 貧血 3% 右の表は、例えば検査を受けた人の41%が 高コレステロール血症や高トリグリセライド 血症と診断されたことを示しています。 生活習慣・食生活に影響される異常が高率 に見られます。 受診者にしめる診断結果の割合異常値が見つかったらまずかかりつけの医師に相談しましょう。
信頼できるかかりつけの医師を見つけておきましょう。 「⃝△は身体に良い。」と聞 くとつい試したくなります。け れど、異常値がみつかったら、 まずかかりつけの医師に相談 し、異常の原因を調べましょ う。 状態によっては「身体によ い」はずが反対に悪くすること もあります。また、他の病気が 原因で異常値がでる場合もあり ます。 糖尿病 Ⅰ型:自己免疫疾患やウイルス感染、運動危険、薬物治療必要 Ⅱ型:生活習慣、食事・運動療法が有効 その他 型によって原因が異なり、治療方法が違います。運動は、Ⅱ 型では有効ですが、Ⅰ型では危険なことがあります。 高尿酸血症 尿酸産生過剰型:遺伝的代謝異常、白血病を含む造血器疾患 アルコール過剰摂取、プリン体過剰摂取など 尿酸排泄低下型:遺伝的腎疾患、腎不全、脱水、薬物副作用 それぞれの型でも原因はいろいろです。原因によって治療法 が異なります。
生活習慣病にならないために、
過食・過飲酒・運動不足による肥満、精神的ストレスを防ぎましょう。
禁 煙
煙草の害はご存知の通りです。ガンや心臓病だけではなくニコチンによる血管収 縮作用によって肩こり・手足のしびれ・首のこりなども引き起こします。 思い立ったら吉日、禁煙しましょう。 ○食事を楽しみましょう。 ・心とからだにおいしい食事を、味わって。 ○1日の食事のリズムから、健やかな生活リズムを。 ・朝食で、いきいきした1日を始めましょう。 ・夜食や間食はとりすぎないようにしましょう。 ・飲酒はほどほどにしましょう。 ○主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。 ・多様な食品を組み合わせましょう。 ・手作りと外食や加工・調理食品を上手に組み合わせて。 ○ごはんなどの穀類をしっかりと。 ○野菜・果物、牛乳・乳製品、豆類、魚なども組み 合わせて。 ・たっぷり野菜と毎日の果物で、ビタミン、ミネラル、 食物繊維をとりましょう。 ・牛乳・乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などで、カル シウムを十分にとりましょう。 ○食塩や脂肪は控えめに。 ・塩辛い食品を控えめに、食塩は1日10g未満に。 ・脂肪のとりすぎをやめ、動物、植物、魚由来の脂肪を バランスよくとりましょう。 ・栄養成分表示を見て、食品や外食を選ぶ習慣を。 ○適正体重を知り、日々の活動に見合った食事量を。 ・太ってきたかなと感じたら、体重を量りましょう。 ○食文化や地域の産物を活かし、新しい料理も。 ○調理や保存を上手にして無駄や廃棄を少なく。 ○自分の食生活を見直してみましょう。 ・自分の健康目標をつくり、食生活を点検する習慣を。 ・家族や仲間と、食生活を考えたり、話し合いましょう。 新しい食生活指針(抜粋) (平成12年3月/文部省・厚生省・農林水産省決定)2、 楽しく生きるために
仕事あるいは趣味・スポーツ・ボランティア活 動・地域の活動など生きがいになるものを探し ましょう。 それが、健康のためにもなります。 左の結果は、 ・睡眠時間が少ない、 ・趣味やスポーツの時間がない、 ・ストレスが多い、 ・ヘビースモーカーである、など 不健康な生活習慣が重なった人は、がんや 感染性疾患などに対する免疫抵抗力(PHA 反応)が低いことを示しています。 不健康な生活習慣の数 0 1 2 3 4 10 20 0 30 40 5060 70 80 r=-0.40 P<0.05 安 全 の た め に ◆あなたが糖尿病など慢性疾患の診断を受けている場合、 安定期では運動はよい結果になることが多いですが、 まずかかりつけの医師に相談して下さい。 ◆次の様な症状がある場合には、出来る運動が限られま す。医師に相談して下さい。 ・原因不明の症状や、胸の痛み。 ・網膜剥離、白内障でレンズを移植、レーザー治療後。 ・転倒後、痛みが続いたり歩きにくい(骨折の可能性)。 ・異常な動悸、息切れ、不整脈。 ・原因不明の体重減少が続いている。 ・肺炎など、発熱を伴う感染症。 ・発熱して、脱水症や動悸がする。 ・急性深部静脈血栓症。 ・発症中のヘルニア。 ・足や足首のが痛くて、治まらない。 ・関節の腫れ。 柔軟性を保つ運動 ストレッチ(筋肉や腱をのばす) です。身体をしなやかにし、とっさの 動きで身体を傷めることが少なくなり ます。筋力や持久力はつきません。 強化運動 筋力を付ける運動です。 身体の代謝を高め、肥満や糖尿病 骨粗鬆症を防ぐ効果もあります。 持久力を付ける運動 呼吸数や心拍数を上げる運動です。 心肺機能を改善します。 貴方が生活する上で必要なスタミナ を向上させます。 60歳で1分間に脈拍が108になる程度の 強さに相当するウォーキングなど。 1回30∼60分、最低週3回。 バランス運動 片足立ちなどの運動です。足の筋 肉をつけ、転倒などを防ぎます。日常的な運動(身体を動かす)を心懸けましょう。
老化による機能の低下や幾つかの病気を防いだり進行を遅らせる効果があります。Exercise: A Guide from the National Institute on Aging(米国立老化研究所)より抜粋
運動は4種類に分けられます。それぞれを組み合わせたり、
3、中年期からの用意
健康(生活習慣病)に対して
50歳代に健康状態が非常によいと 答えた人は、75-79歳になっても病 気や不具合なことがない人が25%で すが、調子が良くないと答えた人で は70-74歳代には全ての人が病気や 不具合がある状態になっていまし た。「退職して元気になりました」 という人もいますが、やはり中年期 の無理を反映しているようです。 退職前の健康状態と現在の健康状態 ○ ● ◇ ○ ○ ○ ● ● ● ◇ ◇ 60-64歳 65-69歳 70-74歳 75-79歳 年 齢 階 層 60 50 40 30 20 10 0 ●:退職前健康状態よかった。 ⃝:退職前健康状態ふつうだった。 ◇:退職前健康状態よくなかった。 歳をとっても判断力などは衰えにくい と言われていますが、一方、筋力や反応 速度の低下が見られます(右図)。その ために、出来ると思っていたことが、簡 単に出来なくなりあわてることがありま す。無理をしないで、
自分に会った仕事や趣味を。
0 1000 800 600 400 200 61-65歳 66-70歳 71-75歳 判別反応 弁別反応 単純反応 平均反応時間の年齢による推移調査した約1割の家庭に要介護者がいました。 大部分は父母・義父母と配偶者です。高齢者が高 齢者の介護をしているのが現状です。 市町村の福祉課には要介護者の状態に合わせた メニューが用意されています。
介 護
家族だけで頑張らずに、制度を利用しましょう。 要介護者の内訳(単位:%) 父母・義父母 43.0 配偶者 38.0 子ども 11.3 姉妹・義姉妹 3.5 本人 2.1 その他 2.1 大阪府立公衆衛生研究所 労働衛生部 537-0025 大阪市東成区中道一丁目3-69 TEL 06-6972-1321 FAX 06-6972-2393 ホームページ http://www.iph.pref.osaka.jp 「50才位になったら、自分の将 来設計をしっかりつくり、それに添っ て、本職を適当に手抜き(?)していっ てもいいと思う。そして、とにかく活動 的、積極的、やじ馬的な人間になってい くこと。」 質問紙調査自由記述より6
調
査
結
果
の
概
要
第 1 部 高齢者の健康実態調査
Ⅰ.高齢者のライフスタイルと生理機能;免疫指標・老化指標および血中ホルモンの比較 高齢化社会の到来を前に、健康な質の高い生活を維持するためのライフスタイルを明らかにす ることは重要な課題となっている。以前より、高齢者のライフスタイルは免疫機能や老化などの 生理指標に反映されることを明らかにしてきた。今年度は、シニア大学に参加している 61-80 才の男子高齢者 26 名を対象に、健康に関わる諸項目に関する聞き取り調査を行い、同時に末梢 血リンパ球の免疫機能、アポトーシス関連遺伝子産物発現に加え、新たに血中神経伝達物質量な どの生理指標を測定し、健康度の指標となる生理指標を模索した。 聞き取り調査は、ライフスタイル、ストレス、生活出来事、経済的余裕、健康状態などの項目 を含め、個人の総合的な健康情報を得ることを目指した。個々人の回答の中に健康を害する危険 因子があるかどうかを当所で作成した基準で判定・点数化し、合計して危険因子数とした。免疫 機能測定では、末梢血中の単核球を分離培養し、T 細胞(細胞性免疫に主要な役割を果たすリン パ球の亜集団)の機能を測定した。すなわち非特異的分裂刺激剤フィトヘムアグルチニン(PHA) や Streptoccocal enterotoxin A(SEA;スーパー抗原の一種)に対する増殖活性、イン ターロイキン2(IL-2; Th1型サイトカインでガン免疫や細胞性免疫に働く)およびIL-4(Th2 型サイトカインでIgE抗体産生などに関係する)の産生能を測定した。T細胞は加齢とともに ア ポトーシス(細胞自滅)を起こし減少する。老化指標として T 細胞のアポト-シスを抑制する遺 伝子産物Bcl-2および促進する遺伝子産物Fas発現、およびT細胞数を測定した。神経伝達物 質としてはストレスに関連し、加齢で低下傾向を示すコーチゾン、セロトニンおよびアドレナリ ン量を測定した。 解析の結果、(1)総合的な健康度を示す危険因子数は、PHA反応、SEA反応、IL−2産生能、 T 細胞数およびコーチゾン量と有意に逆相関した。(2)ストレス関連性症状および疾患の数は PHA反応、SEA反応、IL−2とIL-4産生能、T細胞数およびコーチゾン量と有意に逆相関した。 (3)ライフスタイルの各項目でみると、スポーツの時間と Bcl-2 陽性細胞数やT 細胞数と有 意に相関した。また、コーチゾン量やセロトニン量はそれぞれ睡眠時間あるいは趣味の時間と有 意に相関した。(4)生理指標間ではPHA反応やSEA反応は末梢血中のT細胞の比率やBcl-2 と有意に相関しており、免疫機能の高い人は老化も遅延している可能性が示された。以上、高い 免疫機能を維持し、老化を防止するためには良好なライフスタイルを持ち、積極的にスポーツや 趣味を持つことが重要であることが確認された。また、健康で積極的なライフスタイルを持つこ とが血清神経伝達物質レベルの維持にも重要であることが新たに明らかとなった。 Ⅱ.血中コレクチン濃度と各種ストレス応答物質との相関 ヒトの血中に存在するコレクチンの生理的な機能の一つとして、細菌、真菌、原虫、ウイルス 等の微生物に対する基礎免疫に関与している可能性がある。しかし、コレクチンがどのような機 序で宿主の防御に関わっているのか、詳しくは解明されていない。コレクチンは補体のカスケー ドと並行して補体の活性化を導くことが明かとなり、また、凝集活性により病原体を物理的に排7 除しやすい大きさにする働きをしていることも報告されている。これらの機能によって宿主の基 礎免疫に係わっているものと考えられる。このような働きを持つコレクチンの血中濃度と各種ス トレス応答性物質との相関を把握することは基礎免疫能とストレスの相関の一端を把握する上で 重要なものと考えられる。本研究では 26 名を対象として、コレクチンの一つであるマンナン結 合レクチン(MBL)の血中濃度の測定を行い、この価と、アドレナリン、コーチゾン、セロトニ ン濃度との相関について検討した。その結果、MBL濃度と、アドレナリン、コーチゾン、セロ トニン濃度との間に相関は見られなかった。 Ⅲ-1.高齢者の臨床検査結果 自治体 OB、同年代の地域住民および野外ボランティアグループについて、高齢者の臨床検査 結果を概観した。自治体 OB について言うと、収縮期血圧の平均値は 144.2mmHg と正常上限値 139mmHg を上回っている。また、拡張期血圧、 HbA1c、総コレステロールおよび中性脂肪の平 均値は正常上限値の 90%前後と比較的高い値を示した。異常値率をみると、BMI では、太りす ぎと判断される 25 以上が 28.4%と 1/4 を超えている。収縮期血圧では高血圧と判断される 160mmHg を超える者が 20.1%と高率に見られた。また、総コレステロールの異常値率は24.7%、 中性脂肪の異常値(200mg/dl≦)率も 26.8%と比較的高い比率を示した。全体的には、 BMI、血 圧、HbA1c、総コレステロールおよび中性脂肪など、生活習慣病に関連する一群の指標に異常値 を示す者が高率にみられた。 自治体 OB と地域住民との比較で,異常値率に大きな差の認められるのは、総コレステロール (自治体 OB 24.7%、地域住民 13.9%)、中性脂肪 200mg/dl≦(自治体 OB 26.8%、地域住民 14.3%) である。いずれも自治体 OB の異常値率が高い。 また、自治体 OB と野外活動ボランティアグループと比較すると、両群は比較的類似した傾向 を示している。両群とも BMI 異常値率が高く、総コレステロール異常値率、中性脂肪異常値率 とも高い。ただし自治体 OB は野外活動ボランティアグループよりも血圧の高い者が多い。 Ⅲ-2.高齢期の機能低下 A.聴覚閾値: 加齢に伴う聴力の低下は20歳頃から既に始まり、8000Hz、4000Hzの高音域 から低下が始まり、加齢に伴い漸次低音域に障害がおよぶ。会話音域は500Hz∼2000Hzであり、 会話音域の聴力レベルは3分法聴力レベル(500Hz、1000Hz、2000Hz の最小可聴域の平均値) であらわされる。3分法聴力レベルが30dB(A)以上であれば日常生活に支障をきたす。 今回の調査では会話音域の聴力レベルが左右どちらかまたは両方の耳に聴力低下( 30dB(A) 以上)があった者が20.0%にみられた。中耳炎の既往歴のある人が25%存在し、この群では会 話音域で 40%の人に左右どちらかまたは両方の耳に聴力低下がみられ、全体に比べ明らかに高 率であった。中耳炎等聴力低下の要因となる可能性のある人を除いた普通群では、会話音域での 聴力低下者は13.0%、4000Hzでは57.4%でり、8000Hzではいずれの群でも80%以上であっ た。在職時の事務職と技術職の比較では会話音域の聴力低下者は技術職の方が高率であった。 B.視機能: 60∼74歳の男性について、読書など近作業に必要な「近視力:視距離30cmの 位置においた指標を読み取る視力」と、どの程度近くまで明瞭に見えるかを表す「近点距離:眼 に指標を近づけていって、明瞭に見える位置とぼやけはじめる位置の境目までの距離」を高齢男 性について調べた。近視力、近点距離とも左右それぞれについて裸眼で測定した。
8 高齢者の裸眼近視力はかなり悪く、平均値±標準偏差は、右眼が 0.33±0.22、左眼が 0.35 ±0.25で、年齢階層別に5歳きざみでみた場合、両眼とも加齢にともない若干の低下を示した。 (右眼は60∼64歳0.34、65-69 歳0.33、70-74歳0.28。左眼は60-64歳0.37、65-69 歳0.34、70-74歳0.29)。 裸眼近点距離もかなり延長しており、平均値±標準偏差は、右眼が25.1±8.1cm、左眼が24.5 ±8.4cm で、年齢階層別に 5 歳きざみでみた場合、両眼とも加齢にともない若干の延長を示し た(右眼は60-64歳24.2cm、65-69歳25.7cm、70-74歳26.2cm。左眼は60∼64歳23.8cm、 65-69歳25.0cm、70-74歳24.9cm)。 C.握力: 多くの身心機能は高齢化に伴い低下する。調査では握力低下の実態を調べた。高 齢期おける握力は生活の実態を反映しやすい。日常的に使っていればその低下は少ないが、使用 されないと容易に低下する。 男性61∼75歳について調べた握力は、右手は、61∼65歳37.2Kg、66∼70歳37.2Kg、71 ∼75 歳 33.8Kgであり、60 代後半はまだ低下していないが、70台になるとかなりの低下(60 代前半に比べて9.1%の低下)を示した。他方、左手握力は、61∼65歳35.7Kg、66∼70歳35.0Kg、 71∼75 歳 31.8Kg であり、左手も、60 代前半に比べ 60 代後半はまだ低下していないが、70 代前半になると右手と同様にかなりの低下(60代前半に比べて10.9%の低下)を示した。 D.反応時間: 高齢期の反応時間の延長の実態を調査した。反応時間は機器システムの操作 や車両の運転において、操作性・安全性の観点から考慮されなければならない人間要因である。 190 名の男性高齢者(61∼75 歳)に、①単純反応課題(表示画面に何か数字が提示されればキ イ0を押す)、②弁別反応課題(数字1の提示にキイ1を押し、数字2の提示にキイ2を押す)、 ③判断反応課題(提示数字の偶数/奇数を判断し、奇数時はキイ1を偶数時はキイ2を押す) と いう3種類の課題を課し、各反応時間を測定した。 61∼65歳の各課題の平均反応時間はそれぞれ、296、521、736msec.であり、各課題とも60 代前半から後半の5歳の加齢で8∼10%、60代前半から70代前半の10歳の加齢で18∼19% の反応時間の延長をみた。また、分布からみた反応時間の加齢効果は判断反応時間によく反映さ れており、個々人の高齢者の機能低下を知るには、判断反応時間も検討する必要がある。 Ⅳ.骨密度 ― 集中指導の効果 − 骨粗鬆症にみられる骨密度減少の最大の要因は加齢であるが、遺伝的素因やライフスタイルに よる影響も大きく、現在では骨粗鬆症は生活習慣病の一つに位置付けられている。女性は男性に 比較し、骨格が小さく、妊娠・閉経など女性ホルモンの影響から加齢に伴って骨量が減少する。 とくに、閉経が骨粗鬆症のリスク・ファクターの第一位にあげられている。女性の骨粗鬆症を予 防するためには、若年期に最大骨量を高めておくことと、閉経後の骨量減少を最小限に留めるこ とが重要である。 今回、若年期、とくに、閉経前女性を対象として、栄養・運動指導を行い最大骨量を高めるこ とが骨粗鬆症の予防につながると考え、1 年間、毎月、骨の健康増進のためのテキストを送り指 導を行った。調査開始時,半年後、1 年後に骨密度を測定した。中間時にはインストラクターに よる運動指導も行った。骨の健康指導をしていない対照群との比較では、1 年後の骨密度の減少 に差は認められなかった。しかし、1 週間の牛乳摂取量や1日の歩数の増加、とくに、意識して
9 日光に当たるなど、生活習慣を改善していこうといった行動の変化がみられた。このことから、 当該指導は生活習慣の改善をもたらし、今後の骨粗鬆症予防に効果があることが示唆された。
第2部
質問紙調査
Ⅰ.退職前から退職後への健康・生活の推移と健康影響要因 退職前の就労・生活の諸状態(退職前 10 年間位の状況)と退職後の健康・生活状態について 質問紙調査を実施・解析し、退職前と退職後で、健康状態と生活習慣がどのように推移したか、 また、退職後の健康状態に影響を及ぼしている退職前の要因および退職後の要因は何か、さらに また、退職後の生きがいに影響を及ぼしている諸要因は何かといったことを明らかにするといっ たことを目的として、調査を実施した。 調査は質問紙法によった。調査票は記名式で、回答者の属性、過去の在職時の生活・健康状態 と現在の生活・健康状態などで構成した。解析対象者は某自治体退職者男性 301 名(有効回答率 67.8%)。平均年齢は68.5歳(SD=4.3、範囲54∼78歳)である。 1.定年前と定年後の比較 主観的な健康感: 平均的には定年後に悪くなっているが、悪くなり方は定年前の状態によっ て異なり、定年前よかった群では、定年後よいままでとどまる者が 43%、普通に移行する者が 49%、悪いに移行する者が8%で、比較的悪化した者は少ない。定年前普通であった群では、 よいに移行した者が16%いるものの、普通にとどまる者が67%おり、また悪いへの移行が17% と定年前によかった群よりも多い。他方、定年前悪かった者は比較的少ないが、よいに移行した が26%おり、普通に移行した者も63%おり、定年後悪いにとどまる者は10.5%と少ない。 運動・スポーツ習慣: 定年前は 42%が実践していたにすぎないが、定年後はウォーキングを 含めて72%が実践するようになっている。 趣味や気の休まること:定年前は、充分打込めたが4%、まあまあできたが62%と併せて66% であったものが、定年退職後は、実践しているが77%と増えている。 喫煙習慣: 定年前に吸っていた者は 54%であるが、定年後は 30%と減少している。また、 退職後も喫煙している者について一日の喫煙本数をみると、退職前は平均 24.8 本(SD=9.5、 範囲5∼45 本)であったが、退職後は、平均 20.1 本(SD=8.6、範囲 3∼40 本)と減少して いる。 飲酒習慣: 退職前はほぼ毎日飲んだ者が 53%、週3∼4日飲んだ者が 12%いた。退職後は ほぼ毎日飲むかどうかと2件法で尋ねたが、はいと回答した者が 64%いる。定年前ほぼ毎日飲 んだ者では定年後もほぼ毎日飲んでいる者が 90%いるが、定年前は週3∼4日と回答した者で は、定年後ほぼ毎日は 67%とやや少なくなる。他方、定年前は週に1∼2日であった者でも、 定年後にはほぼ毎日飲むようになった者が 34%もいることに留意したい。定年前から定年後に かけて引き続き飲んでいる者について飲酒量の推移をみると、定年前は日本酒換算で平均 2.2 合(SD=1.1、範囲1.0∼8.0合)で、定年後は平均1.6合(SD=0.8、範囲0.5∼5.0 合)と 少なくなっている。 在職時の睡眠充足感別にみた退職後の睡眠時間: 在職時かなり睡眠不足ぎみであった群は 6 時間35分(SD=71 分)、在職時やや睡眠不足ぎみであった群は6 時間57分(SD=60 分)、 在 職時睡眠が足りていた群は7時間4分(SD=64 分)と、不足気味であった群ほど退職後に睡眠10 時間が短く、在職時の睡眠習慣が退職後の睡眠習慣に影響していることが分かる。 身心のストレスの状況: 定年前は強いストレスがかかっていた者が 53%いるが、定年後はそ のうちの66%がストレスから解放されている。 生きがい・充実感: 退職前に強い生きがいをもっていた者は 73%であるが、退職後は 68% と若干減少している。在職時に生きがい・充実感を得ていた者では退職後にも生きがい・充実感 をもっている者が多い。しかし、在職時に生きがい・充実感を強くもてなかった者でも退職後に は強い生きがい・充実感を得るようになった者も多くおり、その比率は42%にもなっている。 2.退職後の健康状態(調子の悪い所病気の症状の有無)に影響を及ぼしている諸要因 退職後の健康状態と関連する要因:重回帰分析(ステップワイズ法)での解析結果を要約する と、退職後の健康に有意に関連する退職後の要因は、①「よく眠れず疲れがとれない」ことの有 無と②年齢要因である。①の要因は現在悩み・ストレスを抱えているかどうかやそれらの解消に 関わる趣味や気の休まることをもっているかどうか、さらにまた、経済的余裕と関連している。 また、退職前の要因で退職後の健康に有意に関連する要因は、③在職時の健康状態と、④在職時 の生きがい・充実感である。③の在職時の健康状態は、在職時の生きがい・充実感、運動習慣の 有無、趣味や気の休まることの有無と関連していた。 在職時の主観的な健康状態と退職後の健康状態との関係: 在職時よかった群では退職後に悪 い者が 53%あるが、在職時ふつうだった群では 66%、在職時悪かった群では 74%と、在職時 に悪かった群ほど退職後も悪いという者が多い。 在職時の生きがい・充実感と退職後の健康状態との関係: 在職時強い生きがい・充実感を持 っていた群では退職後の健康が悪い者が 61%なのに対して、在職時強い生きがい・充実感を持 っていなかった群は 53%であり、在職時強い生きがい・充実感をもっていた群の方が退職後は 健康者比率が低くなっている。在職時の強い生きがい・充実感が不健康な生活習慣と結びついて いる可能性が示唆される。 年齢要因と退職後の健康状態: 調子の悪い所や病気の症状のある者の比率は、60-64、65-69、 70-74、75-79 歳の区分でそれぞれ 44、59、55、75%であり、加齢に伴い上昇する傾向が認 められる。 退職後の生きがい・充実感に影響を及ぼしている諸要因: 重回帰分析(ステップワイズ法) で解析すると、有意に影響した要因は、退職後の変数から、「経済的余裕」、「健康状態」、「趣 味や気の休まること」であり、過去の在職時の変数から、「在職時の生きがい・充実感」および 「在職時の健康状態」であった。 Ⅱ.退職者の健康・生活・就労実態についての団体間比較 表8に、各質問項目毎の団体OB間比較の要約を示す。いずれも、男性 60∼74 歳の結果であ る。比率と良し悪しの相対比較を◎○●で示した。団体OBごとの特徴や問題を以下にまとめる。 ① 機械製造A社 OB は、生活満足度、健康ともよいレベルにある。趣味や運動、地域活動もそれ なりのレベルである。しかし、経済的悩み・問題を持つ者が若干多い。就労比率は低く、また ボランティアなどの活動も少ない。 ② 放送B社 OB は、生活満足度、主観的健康感ともよいレベルにあるが、通院比率が若干高い。 経済的な問題も少なく、趣味や運動も多くが行っている。ただし、地域の諸活動やボランティ ア活動が少ない。また、約半数の者は就労している。
11 ③ 野外活動を行っているC団体は、生活満足度、健康、経済的な状態、趣味・運動、ボランティ ア活動への参加など、非常に高いレベルにある。ただし、自治会活動はそれなりにあるが、神 社・寺院、教会などの世話や活動が低い。また就労比率は他集団に比較して著しく低い。 ④ D 市役所 OB は、生活満足度と主観的健康状態がやや悪い。現状では経済問題の訴えは必ずし も多くないが今後の収入不安の訴えは多い。地域諸活動やボランティア活動はよくなされてい るが、趣味や運動については、まだまだ低い水準である。就労者比率は多い方である。 ⑤ E市役所OBは、生活満足者比率は高いが主観的健康状態がやや悪い。現状では経済問題の訴 えもやや多く、また今後の収入不安の訴えも多い。趣味や運動については、まだまだ低い水準 である。就労者比率は低い。 ⑥ G市役所 OB は、生活満足者の比率が低い。主観的健康状態はよい者が多い。経済問題の訴え はやや多いが、今後の収入不安の訴えは比較的少ない。地域諸活動などはよくなされているが ボランティア活動は少ない。趣味や運動については、まだまだ低い水準である。就労者比率は 低い。 ⑦ F 自治体 OB は、生活満足度、主観的健康感ともよいレベルにあるが、通院比率が若干高い。 経済的悩みも少なく、地域の諸活動やボランティア活動にも多く参加している。企業 OB に比 べ、趣味や運動が少ない。就業比率は高い。
第3部
動物実験
Ⅰ.加齢に伴うマウス生理機能の低下とその活性化 加齢に伴い、基礎代謝を含めたほとんどの生理機能は次第に衰退してゆくことが知られている。 自立した生き甲斐のある健康的な高齢期・老齢期を過ごすためには、この時期の健康をどのよう にして維持するかという問題に行き着く。昨年度はマウスを用いて加齢に伴う免疫機能の低下の 表8.企業/団体間比較の要約(男性,60∼74歳について) (数値は比率で単位は%。 丸印記号は各項目における企業/団体間の「よい・悪い」または「多い・少ない」の相対的位置づ け) 生活満足 主観的 通院者 経済的悩み 今後の収入 運動スポーツ 趣味 自治会の 神社・寺 院, ボランティア 就労(パート, 者の比率 健康感 の比率 をもつ者 に不安 ウオーキング 世話・活動 教会等活動 等の活動 自営等も) A社 ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ○ ● ● 機械製造 94.0 83.5 55.7 19.9 24.5 73.2 78.8 27.3 13.5 14.8 32.8 B社 ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ● ● ● ○ 放送 92.4 85.6 61.4 14.2 20.3 72.6 86.6 15.8 8.3 11.7 49.7 C団体 ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ● ◎ ●● 野外活動 94.4 90.9 47.3 7.3 16.4 86.4 94.1 30.4 5.8 67.3 22.0 D市役所 ● ● ○ ● ● ●● ● ○ ◎ ○ ○ 年金者連盟 90.5 72.7 58.6 15.9 29.4 46.7 57.9 31.3 34.4 23.5 50.0 E市役所 ○ ● ● ● ●● ● ● 年金者連盟 93.7 65.2 - 20.9 32.9 45.3 56.7 - - - 38.5 G市役所 ●● ○ ○ ● ○ ●● ● ○ ◎ ● ● 年金者連盟 84.1 80.1 55.2 19.2 25.4 50.6 63.2 27.8 28.5 14.0 41.5 F自治体 ○ ○ ● ◎ ○ ● ● ◎ ○ ○ ◎ 93.1 83.8 63.1 9.1 23.9 61.1 56.1 36.4 10.7 35.4 61.412 推移を調べ、次のような成績を得た。すなわち、マクロファージ系細胞の貪食能は、加齢に伴う 機能低下が少なかったが限界寿命近くでは低下した。IgG 抗体の産生能は高い機能が維持されて いる期間は短く、生涯にわたって加齢とともに次第に低下した。これらのことから、高齢期・老 齢期に自立した健康的生活を過ごすためには、中年期より免疫系の機能を維持することが重要で あることが示唆された。 今年度は低下した免疫機能の活性化に漢方薬が効果を示すかどうかを調べた。さらにマウスに おける臓器中 DNA 損傷率の加齢に伴う変化を生涯にわたって調べた。その結果、漢方剤の麻黄 附子細辛湯は高齢期・老齢期の低下した免疫機能を高めることが明らかとなった。また臓器中DNA 損傷率は大脳では 1.5∼3 ヶ月齢以後増加しその後 30 ヶ月齢まで緩やかに増加した。しかしそ の他の臓器では DNA 損傷率の増加は中年期まで緩やかに増加したが、その後は同じ程度に維持 されるか、あるいは減少した。 Ⅱ.慢性的精神ストレスマウスに誘導される神経伝達物質の解析 精神的ストレスが生活習慣病や炎症性疾患の病因あるいは増悪因子となることはよく知られて いが、そのメカニズムはよくわかっていない。そのため、ストレス負荷モデルマウスを作成し、 ストレスの作用機構を検討した。単独隔離ストレスを雄マウスに長期間(2∼90 日間)負荷し、 アレルギー性接触皮膚炎(細胞性免疫が関与する炎症の一種)に及ぼす影響を経時的に調べた。 その結果、急性期(2 日目)には接触皮膚炎は抑制され、慢性期(30 日目)には著明に増強 されることを見出した。増強の機序として皮膚の抗原提示細胞で、接触皮膚炎の誘導に関わるラ ンゲルハンス細胞の機能亢進がみられた。これらの変化にはストレス関連性の神経伝達物質の関 与が考えられる。そこで、ストレス負荷マウスの血清中神経伝達物質の経時変化を追跡した。そ の結果、ストレスホルモンとして、免疫抑制作用を持つコーチゾンは、急性期に有意な増加を示 し、神経ペプチドのサブスタンスP は慢性期に有意な上昇を示した。情動に関わるセロトニン量 に変化は認められなかった。皮膚局所での神経伝達物質の放出と関連するリセプターのmRNA の 動態を調べたところ、コーチゾン刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)のリセプターのmRNA 発現 は急性期に上昇し、サブスタンス P のリセプターのmRNA や calcitonin gene related peptide(CGRP)のリセプターのmRNA発現は慢性期に上昇した。
以上のことから、単独隔離ストレスでは、急性期に脳下垂体副腎の軸が作動しコーチゾンが放 出され接触皮膚炎が抑制されること、慢性期には末梢で、サブスタンスPなどの神経ペプチドの 産生亢進が起こり、炎症が増幅される可能性が示された。また、単独隔離ストレスの影響には性 差があることも判明した。