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寄稿 クレジットカードデータから見る消費の姿 水門善之 野村證券金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト 2007 年野村證券入社 債券クオンツアナリストとして 日本国債及び金利デリバティブの市場分析に従事した後 米国留学を経て 2013 年より日本経済担当エコノミスト 2007 年東京大学大学院

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Academic year: 2021

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(1)

1 日本において GDP の約 6 割を占める消費の動きをいち早く把握すること は、日本の景気の基調を考える上で重要であろう。本稿では、速報性の高 いクレジットカードの取引データに着目することで、消費の現状把握(ナウキ ャスティング)を行った。なお本手法は、クレジットカードデータの速報性を 活用することで、GDP 一次速報の公表日に対して 2 カ月弱早く、当該期の 消費の推計が行える点も特長である。 昨今、海外景気の減速を背景に日本の生産活動に減速の兆しが見ら れる。海外景気の減速は外需依存度の高い製造業を中心に、企業行動 に影響を与える。一方で、日本の GDP の約 6 割を占める個人消費は どうだろうか。国内の消費は、昨年 10-12 月期は堅調に推移していた ものの、年明け以降は弱含みを示唆する統計も見られている。景気の 基調的な動きを左右する消費の動きをいち早く把握することは、日本 の景気を考える上で重要であろう。本稿では、速報性の高いクレジッ トカードでの消費データに着目することで、個人消費の現状把握(ナ ウキャスティング)を行いたい。 個人の消費行動を観測する方法はいくつか存在する。そもそも個人 消費とは人々(家計部門)が、財やサービスを購入する行動等である。 そのため、需要側(家計)と供給側(企業)の両面から、消費行動を 観測することができる。需要側の統計の代表的なものとしては、総務 省の家計調査が挙げられる。例えば、個人が家計簿をつけている場合、 家計調査は、それを反映したデータになる。ただし、家計調査はアン 水門善之 野村證券 金融経済研究所経済調査部 シニアエコノミスト 2007 年野村證券入社。債券クオンツアナリストとして、日本国債及び金利 デリバティブの市場分析に従事した後、米国留学を経て、2013 年より日本 経済担当エコノミスト。2007 年東京大学大学院修士課程修了。2013 年米 ミシガン大学経営大学院修了。2017 年度人工知能学会研究会優秀賞受賞。

景気の基調的な動きを左右す

る消費

「クレジットカードデータから見る消費の姿」

寄稿

消費の観測方法

(2)

2 ケートベースの標本調査であり、回答者の特性に依存するサンプルバ イアスの存在は否めない。一方で、供給側の統計としては、小売業の 売り上げデータを集計した経済産業省の商業動態統計の小売業販売額 が挙げられる。本統計は GDP の推計には限定した範囲でしか用いられ ないが、消費の実態状況を把握する上では有用な統計である。また、 最近では小売店の売上データを直接計測する方法として、POS データ (商品が販売されたときに記録されるデータ)を用いる試みも盛んに 行われている。ただし、POS データは品目別の情報が紐付けられてい る一方で、消費者の属性との紐付けが難しいという面もある。これら の点を踏まえ、本稿では、人々の消費行動を直接的に把握する方法と して、クレジットカードの使用履歴のデータに着目したい。 クレジットカードの使用履歴データについては、いくつか一般に利 用可能なデータが存在している。一つは、経済産業省の特定サービス 産業動態統計調査に基づくクレジットカードの取扱高データが挙げら れる。本統計は、統計の公表までに 1 か月超のラグがあることから、 速報性の観点からは有用性に劣る。ただし、取引高データ自体は消費 の動向把握には有用であり、実際、同統計におけるクレジットカード の取引高データを小売店の売上データ(商業動態統計)と比較すると、 概ね連動していることが窺える(図表 2)。更に、日本百貨店協会が公 表している全国百貨店の売上データを、クレジットカードの取扱高デ ータ(百貨店、総合スーパー、その他小売店)と比較すると、両者の 連動性の高さが確認できる(図表 3、4)。

クレジットカードの取引データ

は販売店の売上データと連動

(3)

3 このように、小売店における売上データは、クレジットカードの取 引データとある程度連動している。実際、百貨店等における人々の消 費行動においてクレジットカードが多く用いられる点を踏まえると、 両者の連動は自然だろう。では GDP 消費全体との関係はどうだろうか。 図表 6 に GDP 消費とクレジットカード取引額の比較を掲載した。こ れによると、GDP 消費の額に比べて、クレジットカードを用いた取引 額は、2 割弱に留まっている。それにも関わらず、クレジットカード の取引データを、実際の GDP 消費と比較すると、ある程度の連動性が 確認できる(図表 5、7)。このことは、クレジットカードを利用する か否かに関わらず、人々の消費の基調的な動きはある程度共通してい ることを示唆している。これらの点を踏まえると、クレジットカード の取引データを把握するだけでも、GDP 消費の概ねの動きを把握でき ることが期待できよう。

クレジットカードの取引データ

は GDP 消費全体とも連動

(4)

4 ただし前述の通り、これまで用いてきた特定サービス産業動態統計 調査のクレジットカードデータは、データの公表までのタイムラグが 長い。そのため、本稿では、カード会社 JCB が保有するクレジットカ ードデータを用いてナウキャスト社が公表している JCB 消費 NOW 指 数に着目したい。本指数は、実際の対象月の速報データが、翌月月初 に公表されるものであり、その速報性は高い。更に、同指数は特定サ ービス産業動態統計調査のクレジットカードデータとも、連動した動 きをしている(図表 8)。そのため、速報性の高い JCB 消費 NOW 指数 の動きを捉えることで、消費の現状把握(ナウキャスティング)が可 能となろう。

(5)

5 前章で確認した通り、GDP ベースの消費とクレジットカードの取引 データが連動している点を踏まえ、本章では、速報性の高い JCB カー ドの消費データから、直接 GDP の消費の推計することを試みたい(図 表 9 の推計手法 1)。また、GDP の消費は、財とサービスに分類する ことができるが、JCB のカードデータについても同様に内訳を分類す ることができる。両データの財とサービスの消費額は品目の偏り等に 違いがあることから、動き自体は完全には一致しないが、財同士、サ ービス同士が、ある程度対応した関係にある点を踏まえ、以下では JCB カードの財・サービスの両消費系列を説明変数とした、GDP ベースの 消費の推計も行いたい(推計手法 2)。なお本稿では、使用するデータ の特性を踏まえ、GDP 消費の推計の際には線形の回帰モデルを用いた。 モデリングの背景等については、本稿巻末の補論を参照されたい。

JCB カードデータを用いた消費

のナウキャスティング

(6)

6 これらの手法に基づいて、GDP の名目消費を推計した結果を図表 11 に示した。図中には、比較対象として、日本経済研究センターによる ESP フォーキャスト調査に基づくエコノミストの予測値(各社平均値) も併せて掲載した。こちらは、JCB カードデータを用いた推計と予測 の条件を合わせるために、GDP 一次速報値の公表月の前月月初におけ る ESP フォーキャスト調査に基づく予測値を掲載している。これらを 基に、図表 11 中に GDP 消費実績値と、各種推計値・エコノミスト予 想値の予測誤差(平均二乗誤差)を掲載した(いずれも名目前年比同 士の比較)。これによると、相対的にはカードデータを用いた推計値 2 の予測精度の高さが窺える1。なお、本稿では 2019 年 4 月 1 日に公表 された JCB 消費 NOW 指数の 3 月分までの速報値を用いて、2019 年 1-3 月期の GDP 消費の推計している。実際の 1-3 月期の GDP 統計(1 次速報値)が、5 月 20 日に発表される点を踏まえると、本手法は、 GDP の公表に対して 2 か月弱の先行性を持って、推計が行える点も特 長であろう。 1 ESP フォーキャストの消費のエコノミスト予想値は季節調整済みの実 質前期比ベースで集計されていることから、本稿では名目前年比への変換 を行った。各期において実質値を名目値に変換する際のデフレータ及び、 季節調整係数は、SNA ベースの実績値を使用した。また、カードデータ を用いた推計値は、2016 年度から 2019 年度までのデータを用いたイン サンプルでの推計結果ではある。これらの点を踏まえると、実際の予測精 度は幅を持って見る必要がある。

(7)

7 最後に、本稿で着目した JCB カードデータ等のオルタナティブデー タを用いた経済分析について論じたい。近年注目されるオルタナティ ブデータの多くに共通して言える点は、そのサンプル期間の短さであ ろう。例えば、本稿で着目した JCB カードデータ場合、2015 年以降 のデータが利用可能なものとして存在しているが、季節性を除去する 為に前年比に変換してしまうと、そのサンプル期間は 2016 年以降と、 非常に短いものとなってしまう。 JCB カードデータに関しては、本稿で用いた財消費、サービス消費 の分類よりも、更に細分化された分類データが存在していることから、 本来であれば、それらの情報をモデルに組み込むことで、ナウキャス ティングの精度を上げることが期待できる。しかし、そのような複数 の変数をモデルの構築に用いたり、またはモデルの関数形自体を、非 線形もしくは高次元のものにした場合では、サンプル期間が直近 3 年 分(2016 年以降)しかない月次もしくは四半期データを扱う上では、 モデルの統計的な妥当性を客観的に裏付けることは非常に難しくなる。 特に、経済動態といった緩やかに変化する特性を持つ事象を分析対象 とする場合では、粒度の細かいデータ、もしくは細分化された複数の 時系列データを用いた非線形のモデルを構築すると、いわゆる過学習 (オーバーフィッティング)の問題に陥りやすく、またモデルの妥当 性の検証(いわゆるクロスバリデーション)を行うにしても、サンプ ル数が少なすぎるという問題が生じてしまう。このことは逆に、将来 的にサンプル期間が長くなるにつれて、複数の変数を用いたモデルや、 それらのデータを用いた非線形のモデルの妥当性が検証しやすくなる ことを意味する。そのため、今後、時間の経過に伴ってデータのサン プル期間が延長されることで、統計的な裏付けを持つモデルの予測精 度も向上していくことが期待される。 また、関連するトピックとしては、現在、日本政府が推進している キャッシュレス社会の実現に向けた指針も挙げられよう。例えば、政 府は未来投資戦略 2018 において、2027 年 6 月までに、キャッシュレ ス決済比率(クレジットカード及び電子マネーによる決済額の民間最 終消費支出に対する比率)を倍増し、4 割程度まで引き上げることを 目指すとしている。現状での同比率が 2 割程度であることや、これま でのクレジットカード取引額割合の上昇ペースを踏まえると(図表 7)、 挑戦的な試みであるように見受けられる一方で、仮にこれが実現した 場合、経済分析はもとより、様々なマーケティング分析等に利用可能 なデータも、格段に充実することが期待できる。また、キャッシュレ

補論. カードデータ等の活用に

関する考察と今後の展望

(8)

8 ス社会の推進自体は、人口減少社会を迎える日本において、人手不足 の問題が顕在化しつつある小売業等の省力化投資を促すものであり、 結果、様々な経路を通じて日本の生産性向上に資することが期待でき る。このような多面的な論点を踏まえつつ、今後、政府が推進するキ ャッシュレス社会の実現に向けた取り組みに注目していきたい。 水門善之 野村證券 金融経済研究所経済調査部 シニアエコノミスト

参照

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