2019年にロシア連邦の外食市場の売上規模は前年比8.4%増、1兆6,600億ルーブルとなり
記録的な売上高となった。
要因としては、近年、宅配サービスによって外食市場は成長し続ける傾向で、外食チェーン
店だけではなく、一部のレストランも宅配システムを取り入れている。
レストラン来店者の80%は少なくても1回はインターネットによる宅配サービスを利用したこ
とがあり、来店者の42%は月に1回以上利用している。主な利用者は16~35歳の若年層であ
る。
出所:ロシア連邦統計局 16(1)売上規模
外食市場のほぼ大半をファストフードが占めている。
ファストフードのグローバルブランドは成長しており、トッププレイヤーはサブウェイ、マクドナ
ルド、KFC、バーガーキング
ファストフード店は、市場成長率の高い100万人規模の都市(ボロネジ、モスクワ、ウファ、チ
ェラビンスク、エカテリンブルグ、サンクトペテルブルグ、ノボシビルスク、ヴォルゴグラード、オ
ムスク、カザン)に多く見られる傾向
マクドナルド モスクワ市内(ニューアルバート通り) バーガーキング モスクワ市内(アルバート通り) 17 出所:ロシア連邦統計局(2)カテゴリー別割合
レストランに次いで、昨今人気がある宅配サービスの平均価格は高い傾向となっている。
店舗数が多いファストフード店の平均価格は一番低い。
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出所:NDP Groupロシア市場研究センター(2019年外食市場調査)
ロシア人の外食費の割合で、ファストフード店が半分以上の51%を占め、前年同期比17%
増加した。一方、レストランでの食費は23%となり、前年同期比11%減少した。コーヒーショッ
プや食堂の割合も増えており、その他の施設は(小売店、ホテル、バーなど)13%を占めてい
るが、前年同期比3%減少した。
51% 23% 8% 5% 13% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% ファストフード店 レストラン 食堂 コーヒーハウス その他 カテゴリー別 ロシア人の外食費の割合 パーセント 19 出所:NDP Groupロシア市場研究センター(2019年外食市場調査)(4)ロシア人の外食費の割合
新しいブームの到来
①ステーキ
ロシア政府は農場に巨額な投資をして、海外産のブラックアンガス牛を国内で飼 育、結果的には良質な牛肉がロシア国内で流通するようになった。この3年でステ ーキ専門店、ハンバーガー屋が爆発的に増えてきている。②高級志向のハンバーガー
「バーガー・ヒーローズ」(モスクワを中心に10店舗)は、グルメバーガーとして若 者を中心に人気がある。大手レストランホールディングスのRest Artグループから 出資を受けるなど話題となっているほか、牛肉加工大手のザレチノエの「プライム ビーフ」を使用している。 また、ロシア最大の外食グループ「ノヴィコフ・レストラングループ」が運営する「フ ァルシュ」(モスクワ市内6店舗)は牛肉加工大手のミラトルグと提携、1号店では多 い時には1,000個/日のハンバーガーを販売している。③ラーメン
「Ramen Izakaya KU」はメニュー開発から本格的にこだわり、ロシアのラーメンブ ームの火付け役的存在、2年でモスクワ市内4店舗まで拡大した。 また、モスクワ市内の本格ラーメン店「ラーメンクラブ」をプロデュースしたのは高 級日本食レストランのMAKOTO。モスクワ市内の空港にも店舗を構える。リーズナ ブルな価格でラーメンを提供している。 ミラトルグ社の牛肉を使用している ステーキレストラン「トログリル」 バーガー・ヒーローズ Ramen Izakaya KU 20
(5)最近のトレンド
新しいブームの到来
④デリバリー市場の急成長
ロシア国内のデリバリー市場は成長を見せており、前年比(2018年)でも19%の成 長率を見せている。これまではデリバリーフードはパーティーなどで利用されること が一般的であったが、近年はランチや夕食でも一般的に利用する傾向が高くなっ てきている。背景にはデリバリーフードの仕組み自体がロシアの消費行動にマッチ していることと、宅配を頼んでも店内で食べるのと同じ値段である。⑤既存の市場や工場をリノベーションしたフードコート
ロシア国内は歴史的な建物が多く、新しいビルを建てるのが法律上困難な場合 もあるため、既存の建物をリノベーションしたスタイリッシュなフードコートが人気を 博しており、来場者数も伸びている。 ロシアの大手デリバリー 「Яндекс.Еда(ヤンデックスエダ)」 ロシアの大手デリバリー 「Delivery Club」 車庫をリノベーションした モスクワの人気フードコート「デポ」 「デポ」フードコート内は連日、人で賑わっている 21(5)最近のトレンド
モスクワでの日本食ブームについては、現在、モスクワとロシア国内を合わせて約3,000店
舗の日本食レストランが営業している。但し、日本食レストラン以外にもレストランやカフェでも
寿司ロールが提供されているので、寿司ロール自体、ローカルフードになっている。加えて、
日本の居酒屋で提供されている大衆料理のほか、鯛焼き、たこ焼き、抹茶スイーツ等のストリ
ートフードといったこれまで見られなかった業態も現れており、ロシア国内のフードコートでも
提供されている事例がある。
ロシア国内主要都市における日本料理店の店舗数(出所:ロシア各地の飲食店の最新情報サ イト「日本料理店」)※カラオケ店、寿司バー、寿司・ロール宅配店、和食専門店以外の日本料 理を提供している各国料理店を含む。) ロシアのローカルフード「スシロール」 サンクトペテルブルグ中心部の たい焼きカフェ 22(6)日本食レストランの現状
モスクワ市内 主な日本食レストラン
ЯКИТОРИЯ「ヤキトリヤ」 1999年オープン、モスクワで日本料理を楽しめる初の和食レストラン。来店客 には箸の正しい持ち方、おしぼりの使い方、わさびとしょうがの食べ方を教え、 ロシアでは初のウナギ入りのフィラデルフィアロールを提供した。現在モスクワ 市内に47店舗、モスクワ州(モスクワ市除く)23店舗、その他ロシア国内とCIS の3ヶ国には26店舗。 Гин-но Таки「ギンノタキ」 2000年にオープン、現在モスクワ市内に4店舗。モスクワのグルメ評論家から 高い評価があった。店内ではおいしい手作り日本料理とユニークで美しい和風 のインテリアを兼ね備えている。リラックスした雰囲気の中で料理とコミュニ ケーションを楽しめる。 Ichiban Boshi「いちばんぼし」 シンガポール資本の日本食レストラン、現在モスクワに4店舗。店内は気楽 に食事できる雰囲気で、ファミリーや学生のグループ客が多い。刺身、寿司、 ロール、スープ、麺、ご飯、お茶、鉄板焼など、バラエティ豊かな日本食メニュー が揃っている。 23(6)日本食レストランの現状
モスクワ市内 主な日本食レストラン
Ramen Izakaya KU シベリアの首都の100万人都市ノボシビルスクを拠点に複数の飲食店を運営 するレストラングループ「デニスイワノフ」が2017年9月にモスクワ市内の中心部 にオープンしたラーメン居酒屋。自家製麺機を導入しており、店舗内はオープ ンキッチンのスタイルをとっているため製麺や調理の様子も見ることができる。 メニューは、ラーメンのほか、居酒屋メニュー等豊富なラインナップを揃えてい る。ラーメンについては替え玉も提供している。Kitchen & cafe CORNER
日本食レストラン「Kitchen & cafe CORNER」は新旧アルバート通りに隣接し ており、スモレンスカヤ駅から徒歩圏内にある。フランスの三ツ星レストランで の勤務経験がある小林克彦氏がシェフを務めており、本格的な日本食のほか デザートも提供している。 Марукамэ「丸亀製麺」 ロシアの関連会社が運営、モスクワ市内に6店舗。日本から製麺機等の調理 機材や出汁を取るかつお節などを輸入、うどんの材料となる小麦粉はロシア産 を使用している。運営システムも日本と同じ食堂形式をとっており、かき揚げな どもトッピング可能。平均単価は200ルーブル~250ルーブル前後で、日本の味 が手軽に安く食べられるとあってロシア人に人気がある。 24
(6)日本食レストランの現状
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日本食レストラン A
メニュー 価格 (ルーブル) 価格 (円) エビカニラーメン427
730
チャーハン287
490
ロール寿司セット (29貫)1,487
2,542
エビ天ぷら(3本)375
641
エビ餃子(7個)333
569
マルガリータピザ537
918
ハンバーガー499
853
みそ汁127
217
枝豆167
285
日本食レストラン B
メニュー 価格 (ルーブル) 価格 (円) しょうゆラーメン470
803
親子丼399
682
かつ丼399
682
牛丼450
769
カツカレー450
769
カリフォルニア ロール(12貫)499
853
エビ天ぷら(3本)499
853
みそ汁120
205
枝豆198
338
1ルーブル≒1.71円換算(7)
モスクワ市内の日本食レストラン価格表(抜粋)
26
日本食レストラン C
メニュー 価格 (ルーブル) 価格 (円) カレーラーメン330
564
鶏キノコ焼きそば320
547
ロール寿司セット (24貫)1,390
2,376
エビ天ぷら(3本)240
410
エビ餃子(5個)330
564
カルボナーラ360
615
ハンバーガー490
837
みそ汁110
188
枝豆150
256
ラーメン店 A
メニュー 価格 (ルーブル) 価格 (円) しおラーメン580
991
しょうゆラーメン640
1,094
みそラーメン580
991
とんこつラーメン740
1,265
つけ麺580
991
鶏白湯ラーメン780
1,333
牛しおラーメン740
1,265
牛しょうゆラーメン780
1,333
半チャーハン320
547
餃子(5個)360
615
1ルーブル≒1.71円換算(7)
モスクワ市内の日本食レストラン価格表(抜粋)
ロシア人は経済不況にあるにも関わらず、外食をすることを控えてない。ロシア国内の投資
家もこのような状況に対して飲食分野に注目をしている。傾向としては、高級で大型のレスト
ランの開店数は減少し、代わりに高額な機器や投資を必要としない規模の飲食店(ファストフ
ード店やカフェ等)が増加傾向にある。
カテゴリー別では、カフェ、食堂、バー、ファストフード、ピザ店、コーヒーハウスは伸びている
傾向、一方で日本食レストランはスシロールが国民の認知を得てから15年程度経ったため、
マーケットには新しい物が必要となった状況。特にラーメンのほか、近年ではアジア系の新し
い食が少しずつ流行りだしている。
外食店は投資コストの少ない所への進出が拡大している。例えば、モスクワだとリノベーシ
ョンしたフードコート、サンクトペテルブルグはショッピングセンターのフードコートが人気
これまでは宅配サービスはパーティーなどで利用されることが一般的であったが、近年はラ
ンチや夕食など一般的に利用する傾向が高くなってきている。背景には宅配サービスの仕組
み自体がロシアの消費特性(中食文化)にマッチしている点である。なお、宅配サービスの価
格は店内サービスと同じ価格である。
27(8)まとめ
28
近年、ロシアでは東南アジア料理への関心が高まっている。
5年前まで、ロシア国内ではグルジアや中央アジア料理の需要が高かったが、現
在はベトナムやタイ等の東南アジア料理が大いに人気を集めていて、その市場は
成長を続けている。要因として、ロシア人はレストランにある定番料理に飽きてきて
、珍しくて新しい料理への趣向が高まっていると考えられる。
東南アジア料理の魅力は、調理時間が短く、スパイスやソースの種類が豊富で、
新鮮な材料と低脂肪でヘルシーな料理でありながら量が多いことである。
出所:ユーラシア情報局「TANYANA」(2018年) 「フードサービス」誌(2019年12月号)(1)アジア料理の躍進
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東南アジア料理の躍進の要因の一つとして、ベトナムやタイ等の東南アジアの国
々へ旅行するロシア人が年々増加していて、帰国後も本場と変わらないクオリティ
の料理を母国でロシア人が求めていると推測される。
出所:Коммерсантъ、Известия(ロシア国内新聞社) 2019年11月掲載記事 ロシア観光協会(ATOR)(1)アジア料理の躍進
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ロシアの人気料理ランキングで、昨今、ベトナム料理の躍進がある。2018年10月
から2019年11月、ロシア国内のベトナム料理店の数は約2倍の440店舗まで増加、
ロシア国内の飲食業界の中で成長率は一番であった。
2016年、モスクワ市内のダニーロフスキー市場にオープンしたカフェ「ボー」(Bổ)
は行列のできる人気店となり、ベトナム料理のブームを起こした。その後、全ロシア
でベトナム料理店が続々と増え始めた。
特に、ベトナムのストリートフードともいえる「フォー」がヒット商品となった。フォー
の平均価格は350ルーブル、調理が早くてヘルシーで、手ごろな価格でお腹いっぱ
いに食べられるのが人気の理由である。
ロシア国内のアンケート調査によると、ベトナム料理の人気の理由は、辛すぎず甘
すぎずロシア人の口に合うシンプルな味、安くて量が多いという回答が多かった。ま
た、客層は大学生から年寄りまで幅広い。
出所:Коммерсантъ、Известия(ロシア国内の新聞掲載記事) (2019年11月)(2)アジア料理の躍進 ベトナム料理
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集客力の高いフードコート内に臨場感のある店舗を構えており、ベトナムの屋台の
雰囲気、オープンキッチンで来店客が香りを楽しめる。また、材料や調理方法を間
近で見ることで、料理に対する信頼感を持つことができる。このような取組みが、ロ
シア国内でのベトナム料理のブームを呼んだ。
モスクワ市内ダニーロフスキー市場内 ベトナム料理店「ボー」 モスクワ市内人気フードコート「デポ」内 ベトナム料理店「バイン ミー」 モスクワ市内の日本食レストラン Ichiban Boshi「いちばんぼし」でもフォーを提供(2)アジア料理の躍進 ベトナム料理
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人気の高いベトナム料理に続き、タイ料理への関心も高くなっている。
タイ料理のレストランの店舗数は年々増加しており、モスクワでは約100店舗でタイ
料理を提供している。ロシア人にとってタイは人気観光地であり、帰国後も本物のタ
イ料理を食べるために、週一回タイ料理店を訪れる人がいるほどである。
タイ政府では、自国料理店の海外への出店を支援する国家プログラムがあり、全
ての品質基準を満たしたタイ料理店に対して「Thai Select」認定証を発行している。
料理の品質だけではなく、店内の雰囲気やインテリアなどに対して認定されるもの
で、この認証マークの店舗では、本格的なタイ料理を味わうことができる。
ロシア国内のタイ料理店は主に3つカテゴリーに分けられている。「本格的な雰囲
気で伝統的なタイ料理を提供する店舗」、「様々な国の料理をミックスしたモダンな
雰囲気の店舗」、「ベジタリアンメニューや魚介・海鮮料理等を提供する専門店舗」
に分けられており、幅広い客層をターゲットとしている。
出所:ユーラシア情報局「TANYANA」(2018年) 「フードサービス」誌(2019年12月号)(3)アジア料理の躍進 タイ料理
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辛い料理が一般的ではないロシアにおいて、タイへの渡航者数増加により、トムヤ
ムクンやグリーンカレーをはじめとする本場タイ料理の人気が出始めている。
モスクワ市内 人気のあるタイ料理レストラン 「BLACK THAI] モスクワ市内の日本食レストラン ЯКИТОРИЯ「ヤキトリヤ」でも タイ料理のトムヤムクンを提供している。 モスクワ市内 人気のあるタイ料理レストラン「Thai Pattara Restaurant」
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日本に訪れるロシア人は、東南アジアにはまだ及ばないが年々増加傾向にある。
本物の日本食を食べるロシア人も増えていることから、ベトナム料理やタイ料理の
レストラン同様、今後ロシア国内で本物志向の日本食レストラン進出可能性が大い
に期待される。
出所:日本政府観光局(JNTO)(4)日本外食企業 ロシア進出の可能性
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