大型建造物内の調査を目的とした小型飛行ロボット
‐不整地移動ロボットの協調調査システム
著者
桐林 星河
号
60
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
工博第5183号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00120514
きりばやし せいが
氏
名
桐 林 星 河
授
与
学
位
博士(工学)
学 位 授 与 年 月 日
平成28年3月25日
学位授与の根拠法規 学位規則第4条第1項
研究科,専攻の名称 東北大学大学院工学研究科(博士課程)航空宇宙工学専攻
学 位 論 文 題 目
大型建造物内の調査を目的とした小型飛行ロボット-不整地移動
ロボットの協調調査システム
指
導
教
員 東北大学准教授 永谷 圭司
論 文 審 査 委 員
主査 東北大学教授 澤田 恵介 東北大学教授 吉田 和哉
東北大学教授 田所 諭 東北大学准教授 永谷 圭司
論 文 内 容 要 旨
巨大地震に代表される大規模災害が発生すると,多くの建物は被害を受ける.被災した建物内の人を救助する ためには,まず要救助者がどこにいるかを把握しなければならない.また,建物自体の詳細な情報を把握するこ とで,二次災害を防ぐことが可能となる.そこで,これまでに,人間に代わって被災建造物内の調査を行う「レ スキューロボット」の開発が望まれ,多くの研究がなされ,また実用されてきた. レスキューロボットによる調査を行うにあたり,大きな課題の一つが,大型建造物内の高所調査である.この 課題が重要な要素を持つ例として,2011 年 3 月に発生した東日本大震災により被災した福島第一原子力発電所内 の調査が挙げられる.被災した原子炉を廃炉するためには,被災状況を把握することが必須であるが,漏洩する 放射線量が高く,人間が長居することは不可能であり,ロボットによる調査が求められる.原子力発電所の発電 炉は,地上高 50m 近くあり,建屋内の複数のフロアにわたって多くの構造物が存在する.また,天井高の高い フロア内の天井付近を配管が行き交っており,それらの放射線量を計測することが廃炉計画の制定に重要である とされている.一般的な地上を移動するロボット(UGV : Unmanned Ground Vehicle) による高所調査では,重 く安定した基礎と長大な腕を持つロボットが用いられるが,発電所内部の通路は狭く,また,階段が非常に急で あるため,走行可能な範囲が限られ,十分な範囲の調査が行えない.これに対し,高所調査を行うロボットとし て,地上移動型ではなく,飛行型のロボット(UAV : Unmanned Aerial Vehicle) を用いる手法が,近年,注目さ れている.ところが,飛行型ロボット,特に屋内調査に利用可能な回転翼型ロボットは,消費電力が大きいため 飛行時間が短く,調査可能な範囲を広げることが難しい.そこで,本研究では,UGV と UAV を組み合わせるこ とで,より広い範囲の調査が可能になるシステムについて提案し,実験を元に有用性の検証を行う.更に,UGV と UAV を組み合わせた調査システムにおける課題を解決するために,(1) UGV 上で UAV を充電するシステム, (2) テザー着陸機構を持つ折りたたみ可能な UAV,(3)電線により地上から電源供給するシステム,の三種類につ いてそれぞれ提案し,検証する.これらの研究により,UGV-UAV 協調調査システムの有用性を確認するととも
に,同システムの性能向上を実現する. 本論文は全六章から構成される. 第二章では,UAV と UGV による協調調査する手法につい て,有用性を検討するため,既存のロボットを用いた実験を行 ったので,これを報告する(図 1).この実験は,東日本大震災で 被災した東北大学の研究棟の内部を調査することを目的とする が,被災した研究棟は,地上 9 階建てで,広範囲にわたって被 害を受けたため,入居者は荷物を残した状態で退去していた. そのため,床面には障害物が散乱したまま残されており,UGV では侵入できないエリアが複数存在した.このようなエリア を UAV で調査することで,調査範囲の拡大を図る.UAV の 電力消費を最低限に抑えるために,UGV 上に設置したヘリ ポートで UAV を運搬し,UAV による調査が必要な地点でロ ボットを離陸させ,調査を行うというシナリオを提案し,こ れに基き実験を実施した.二つのロボットにより収集された 建造物内の地図情報を図2 に示す.図中の黄色の領域がUGV により情報収集した領域,緑色の領域が UAV により情報収 集した領域となる.このように,UGV と UAV を組合せるシ ナリオにより,調査範囲を拡大することに成功した.一方, UAV については,大きく分けて三つの課題が実用化に向けて の大きな障壁となることがわかった.ひとつ目の課題は,飛 行時間の短さである.UGVによりUAVを運搬したとしても, 飛行可能な時間自体は変化しない.二つ目の課題は,UAV の ペイロードである.屋内調査の場合,狭い通路やドアを通り 抜ける必要があるため,ロボットの寸法が制限される.その ため,推力を得るために有利となる大きなプロペラを使うこ とはできず,ペイロードが限られる.三つ目の課題は,着陸の困難さである.提案したシナリオで調査するため には,UAV は繰り返し,UGV 上のヘリポートに着陸する必要がある.ところが,着陸制御は,世界的に見ても, 未だに精力的に研究が行われている分野であり,今回のような未知環境を対象とする場合,十分な着陸精度を繰 り返し得ることはできていない.そこで,以降の章にて,これらの課題を解決するための三つの異なるアプロー 図1 屋内調査する UAV と UGV 図 2 調査により得られたマップ(参考文 献[1]より引用) 図1 屋内調査する UAV と UGV 図 3 構築した UAV と UGV
チを提案し,検証する. 第三章では,ひとつ目のアプローチとして,UGV 上で UAV を充電する方式を提案する.この方式を用いることで, ロボットを帰還させずに,繰り返し飛行させることが可能と なり,飛行時間という課題について解決を図ることができる. また,繰り返し着陸を実現するため,着陸時の許容誤差の大 きなヘリポートの開発を行う.この提案方式を実現するため には,外部から制御可能な充電器や,UAV に用いるリチウム 系バッテリを安全に充電するためのバッテリ管理デバイスが 必要となる.そこで,これらのデバイスの開発を行い,提案 手法の検証を行った.構築した UAV-UGV 協調調査システム の外観を図 3 に,充電システムの構成を図 4 示す.このシス テムを用い,実際の調査ミッションを想定した評価実験を行 った結果,同じ飛行調査時間を得るためのミッション合計時 間を 1/3 程度に短縮可能なことが確認された.一方で,要求 仕様一杯の寸法で構築したヘリポートを用いても,着陸に失 敗することがあることが分かった. 第四章では,二つ目のアプローチとして,UAV に折りた たみ機構を搭載し,プロペラ径を拡大する「可折型マルチロ ータ機」を提案すると共に,提案する特殊な UAV を繰り返 し安全に着陸させるための手段として,テザー方式を提案す る.この手法では,UAV を運搬時に小型化することができ, 調査対象空間で展開することで,十分なペイロードを得るこ とができる.ペイロードが拡大することにより,より大きな バッテリを搭載することが可能になるため,飛行時間の延長 についても期待できる.また,テザー方式は,UAV の機体と ヘリポート間を,鋼製ワイヤのテザーで結び,ヘリポート上 に設置した巻き上げ機構でテザーを巻き上げることで,強制的に UAV を着陸させる手法である.この方式では, テザーによる飛行領域の制限を受けるが,本研究が目的とするような屋内高所調査では,その制限が大きな問題 とはならず,むしろ,飛行範囲が制限されることで,不測の事態が発生した場合においても安全が保てるという 図 5 構築した可折型マルチロータ機 図 6 テザーを引きながら飛行する可折 型マルチロータ機 図 4 構築した充電システム構成
メリットとなる.提案を基に実装した UAV の外観を図 5, 実験の様子を図 6 に示す.折りたたみ時に従来機体と同寸 法となる機体では,ペイロードは最大で 4 倍程度の改善を 得られ,それに伴い,最大で 3 倍程度の飛行時間を得られ る.さらに,テザーによる着陸を行うことで,繰り返し半 径 10mm 程度に着陸することが可能であった. 第五章では,三つ目のアプローチとして,UAV に電線 により電源を供給する有線給電方式を提案する.この手法 では,地上から電源を供給するため,UAV には搭載できな い巨大な電力源を用いることが可能になり,連続飛行時間 を拡張することが可能となる.有線給電システムの概要を 図 7 に,飛行実験の様子を図 8 に示す.構築した有線給電 システムによる飛行実験の結果,有線給電に用いる電線の 種類により,到達可能な高度,ペイロードの余裕が大幅に 影響を受けることがわかった.そこで,UAV の実機を計測 することで,新たにアクチュエータ系のモデル化を行うと 共に,有線給電システムに用いるべき電線の選定手法につ いて提案する.この提案手法を用いることで,要求される 高度まで到達可能な有線給電システムの構築が可能となる. 以上に示した提案及び結果より,UAV-UGV 協調調査 システムは,福島第一原子力発電所のような大型な建屋内の調査に有用であることを確認した.更に,運用する 対象に合わせて,複数の性能向上手法を提案し,それぞれの手法について実運用上での有用性の検証を行った. 本研究により,UAV-UGV 協調調査システムの実用性を高め,レスキューロボットとして運用可能となったと言 える. 参考文献
[1] Nathan Michael, Shaojie Shen, Kartik Mohta, Yash Mulgaonkar, Vijay Kumar, Keiji Nagatani, Yoshito Okada, Seiga Kiribayashi, Kazuki Otake, Kazuya Yoshida, et al. Collaborative mapping of an earthquake- damaged building via ground and aerial robots. Journal of Field Robotics, Vol. 29, No. 5, pp. 832 841, 2012. [2] Seiga KIRIBAYASHI, Jun ASHIZAWA, and Keiji NAGATANI. Modeling and design of tether powered multicopter. In 2015 IEEE International Symposium on Safety, Security, and Rescue Robotics, 2015.
図 8 有線給電方式の実験の様子(参考文 献[2]より引用) 3RZHUFDEOH 7HWKHU :LQGHU %DWWHULHVIRU 8$9 8*9 8$9 図 7 提案する有線給電方式