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論文要旨
看護学専攻 分野名 広域実践看護学 主研究指導 教員名 中村 美鈴 学籍番号 DN1401 氏名 上澤 弘美 論文題目 生命の危機的状態で初療に救急搬送された患者の家族が辿る 代理意思決定のプロセスと看護実践の検討 Ⅰ.研究背景 初療に救急搬送される患者は,自己の意思を伝えたり判断する能力を持てない場合が多 いため, 家族が患者に代わり患者の生命に関わる判断や決定などの意思決定を求められる。 しかし,初療での代理意思決定プロセスは明らかにされておらず,看護師自身も,家族の辿 る意思決定のプロセスが分からない理由から,家族への支援ができないことにジレンマを 生じている。そのため,生命の危機的状態で初療に救急搬送された患者の家族が辿る代理意 思決定のプロセスを明らかにし,代理意思決定を担う家族に共通してみられるプロセスを 知ることで,看護実践を検討していくことが初療での看護実践上の課題であると考えた。 Ⅱ.研究目的 本研究の目的は,生命の危機的状態で初療に救急搬送された患者の家族が辿る代理意思 決定のプロセスを明らかにし,今後の看護実践について示唆を得ることである。 Ⅲ.研究方法 本研究は,質的記述的研究方デザインを選択した。逐語録に起こした発言記録をデータ化 し,事例-コード・マトリックスを参考に分析を行った。信頼性と妥当性の確保では,定期 的に指導教員からスーパーバイズを受けながら進め,細部に亘り意味内容が違っていない か,体験内容を誤って分析していないかを審議を通して確認してもらいながら妥当性を高 めた。 Ⅳ.倫理的配慮 本研究は自治医科大学倫理審査会(承認番号 臨大 17-006)および該当医療施設の審査を 受け承諾を得た後に,対象者には研究目的,方法,研究参加の任意性,匿名性の確保や個人 情報の保護,データの公表およびデータの管理方法について書面を用いて説明し書面で同 意を得た。 Ⅳ.結果 生命の危機的状態で初療に救急搬送された患者の家族が辿る代理意思決定のプロセスの 段階として抽出された概念的カテゴリは,【衝撃的な出来事の中で錯綜する思い】,【直面し た患者の状況に募る不安と恐怖】,【様々思い浮かべて,患者の意思を忖度する】,【大きく迷 いながらも決断に向きあう】,【成果がみえない患者の姿に気持ちが揺らぐ】,【治療結果とし ての患者の状態に左右される代理意思決定への思い】の 6 つであり,3 種類のプロセスが見 出された。以下に説明する。 プロセスA 家族は【衝撃的な出来事の中で錯綜する思い】を抱きながら待合室で待機する ことになる。病院で患者と面会した家族は,患者の意思も分からないまま,治療の選択を担- 2 - うことになり,【直面した患者の状況に募る不安と恐怖】,【様々思い浮かべて,患者の意思 を忖度する】,【大きく迷いながらも決断に向きあう】が同時進行となっていた。家族の多く は,様々な思いから医療者に治療を任せていた。治療開始後,患者の状態によって【成果が みえない患者の姿に気持ちが揺らぐ】ことになるが,この揺らぎは,患者の回復が確信でき たことで収まる。しかし,家族が思い描いていたような回復ではない時には悩み,揺れる思 いを持続させており,家族は治療後の患者の状態によって【治療結果としての患者の状態に 左右される代理意思決定への思い】が帰結せずに続いている。 プロセスB 家族が病院到着後から,何度も説明があり,治療の選択まで時間があったこと で,患者の意思が分からないものの他の家族と話し合い,考えたことで【様々思い浮かべて, 患者の意思を忖度する】ことができ,【大きく迷いながらも決断に向きあう】ことができて いる。治療開始後は,【成果がみえない患者の姿に気持ちが揺らぐ】ことはなく,患者が回 復していく姿をみることで【治療結果としての患者の状態に左右される代理意思決定への 思い】は帰結する。 プロセス C 家族は患者の緊急性が高いことから,病院到着後に【大きく迷いながらも決 断に向きあう】ことになる。家族は,患者の意思を知っていたが,医療費などの問題から 【様々思い浮かべて,患者の意思を忖度する】ことに難渋する。しかし,医療者の介入によ り問題が解決することで決断することができていた。治療開始後は,患者の回復を案じ【成 果がみえない患者の姿に気持ちが揺らぐ】ことになる。しかし,患者が回復してきたことで 【治療結果としての患者の状態に左右される代理意思決定への思い】は軽減していった。 Ⅴ.考察 家族は突然予期しない患者の危機的な状況に遭遇し衝撃をうけ,情緒的に混乱している ことが推察される。また,病院で患者の姿をみた家族は,更なる衝撃をうけながら見通しの 不確かさによる不安や恐怖を体験していたと考えられる。家族は衝撃をうけ混乱している 状況で,説明の内容を理解や想像もできない中で意思決定を迫られるが,多くの家族が医療 者に治療を任せていた。栗原らは,家族自身で治療方針の選択を判断できる領域ではないと 捉えており,治療の選択を医師に任せることでコーピング行動をとっている(栗原ら,2007) と述べており,家族はコーピング行動として医療者に治療を任せていたと考えられる。また 家族は治療の選択後も揺らぎを生じていた。この揺らぎは,先行きが不確かな状況に対する 揺らぎの他に,本当にこの治療を選択して良かったのかという治療の選択内容に対する揺 らぎであると考えられる。患者を少しでも楽にしてあげたい,少しでも長く生きていてほし いと願い,家族は治療を選択していたが,実際に意識がない患者の姿を目の当たりにして, 様々な思いが巡り揺らぎ続ける。患者は治療により状態としては落ち着いているが,家族の 目にはそのようには映らず,先行きが見えない状況から,選択した治療に迷い揺らぎながら も何かに希望を見出したいという心理状態が交互に現れ,葛藤に似た気持ちとなり,患者の 回復とは反するように,患者の意思はどうだったのか,選択した治療で良かったのかと家族 のみがその時の時間に取り残されている状況でいることが考えられる。 Ⅶ.結論 1. 生命の危機的状態で初療に救急搬送された患者の家族が辿る代理意思決定のプロセス の段階として抽出された概念的カテゴリは,【衝撃的な出来事の中で錯綜する思い】, 【直面した患者の状況に募る不安と恐怖】,【様々思い浮かべて,患者の意思を忖度す
- 3 - る】,【大きく迷いながらも決断に向きあう】,【成果がみえない患者の姿に気持ちが揺ら ぐ】,【治療結果としての患者の状態に左右される代理意思決定への思い】の 6 つであ り,これらは,患者の状況や家族の背景などにより,同時に進行したり,それぞれの間 を行きつ戻りつするなどのプロセスを辿っていた。 2. 家族が様々な思いに揺らぎ続けながら,反復的なプロセスを辿っていることを念頭に おき,その都度家族の言動や思いを直接確認したうえで,家族が今どの段階にいるのか を見極め,その時点で必要な看護を提供していく必要がある。 3. 患者・家族を取り巻く全ての背景の問題や,揺らぎ続ける家族に対する看護を,初療の 看護師のみで行うには限界があり,全てを初療で帰結することはできない。そのため, 入室先の病棟看護師に患者・家族の状況を説明し,問題解決のための介入や家族への看 護が継続して行われるようなシステムを構築していく必要がある。 キーワード:初療 家族 代理意思決定 プロセス