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正規の簿記の諸原則と実現原則について

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正規の簿記の諸原則と実現原則について

太  田  善  之

1.はじめに  今日の期間損益計算を律する原則の一つに実現原則(Realisationsprinzip) があることは周知のごとくである。通常,この実現原則は慎重原則(Vorsichts− prinzip)の具体的現れとしてとらえられている。そこでは,利益は販売によ って(あるいは給付の交換その他の実現過程によって)現実化したときに初 めて計上される。この実現原則に従えば,利益はただその実現が見込まれる という程度の時点において計上することが禁止されるのである。  実現原則は,わが国においては公正なる会計慣行を成文化した企業会計原 則の中で,発生原則および対応原則とともに期間損益の計算における主要原 則として位置づけられているが,他方,ドイツにおいてはわが国のこの公正 なる会計慣行に対応するいわゆる正規の簿記の諸原則(Die Grundsatze ordnungsmaBiger BuchfUrung,以下, GoBと略す)の中に位置づけられて, 年度決算書(JahresabschluB,したがって貸借対照表,損益計算書および附属 説明書)の評価規定として商法上に編纂されている。1985年改正,翌1986年 から施行の商法典(Handelsgesetzbuch, HGB)はその第243条(作成原則) 第1項で,年度決算書はGoBに従って作成されねばならないことを述べた 後,第252条(一般評価規定)第1項第4号において,次のように規定してい る:    慎重に評価されねばならない。とりわけ,決算書作成日までに発生し   たあらゆる予見しうる危険や損失は,これらがかりに決算書作成日と年   度決算書の実際の作成日との間に初めて知るところとなったとしても,

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108 彦根論叢 第269号   考慮しなければならない。すなわち,利益は決算書作成日に実現してい   る場合にのみ考慮しなければならない。  本稿では,Baetge, Euler, Fey, Leffsonらの意見に依拠しながらまずGoB の内容についてその決定方法,目標およびシステムなどを述べた上で,特に 実現原則に絞ってそのGoB内での位置づけや考え方を検討する。それは,た とえばよく知られているように,一般評価規定である第252条第1項の第1号 から第6号までの諸規定は,Leffsonによって主張されたGoB論の中の上位         1) 諸原則(obere GoB)がとくに編纂されたものである点に見られるように, ドイツにおいては経営経済学g二のGoBをめぐる数々の理論や学説がこの 1985年商法典に結実している。したがって,理論と法規定との相互関係を解 きあかす上で,年度決算書に関わるGoBの意義およびGoBを構成する諸原 則の検討が重要であり,また,昨今の企業経営活動の量的・質的拡張,変革 に伴う新たな情報の開示要求への要請が,実現概念をめぐって生じている点 が特徴的であるからである。

2.GoBの内容

21.GoBの内容町回

 GoBは,あらゆる簿記原則および貸借対照表原則を包括するものであるか ら,簿記だけでなく,年度決算書にも関連する。それゆえに,商人の年度決 算書作成原則を明らかにしたさきの第243条第1項はGoBと結び付けられ, このGoBは,年度決算書の正規性にとっての上位基準として解釈の中心に 置いて考えられねばならない。そして,年度決算書の一般規範としてのGoB       2) は次の2つの課題をもつと考えられる。すなわち,(1)法律上,従うべき個別 規定を具体化すること,(2)法律が,年度決算書の作成にあたって考慮すべ き,一定の事実関係に対して適用しうる個別規定を持たない場合には法律上 の個別規定を補完することである。 1) Leffson, S.30 2) KUting/Weber, S.400

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      正規の簿記の諸原則と実現原則について  109 図1 GoB獲得のための帰納法と演繹法 (几帳面かつ尊敬に値する)商人の見解 帰 納  ・ 正規の簿記の諸原則  T 演 繹 簿記および決算書の目標  このような課題をもつGoBは,しかし,周知のようにそれ自体が不確定法 概念(unbestimmter Rechtsbegriff)であるので,その内容こそが充愼され なければならない。つまり,不確定法概念であるGoBは,個々の事例ごとに        3) 矛盾した裁定を通じて充令しなければならないような法律上の不備では決し てなく,それは具体化することが必要な法律上の概念である。したがって, ドイツにおけるGoB論争はこのGoBを体系的にとらえて内容充愼を如何 になしうるかという観点からのものであるといえる。  GoBの内容を如何にして決定するかということについては,理論上・学説 上を通じて論議されてきた。大まかに言ってそれらは帰納法(lnduktion)と 演繹法(Deduktion)に区別される。もちろん,帰納法・演繹法といっても数 学的な論理思考におけるそれらの解釈とは別物である。今,GoBの内容中耳       4) における帰納法・演繹法の論理思考を図示するならば,図1のようになる。  帰納法によってGoBを確定しようとする場合,商人の現実の貸借対照表 作成実務・慣行の中から一般的な原則を抽出することになる。しかしこの場 合には,彼らの主観的な利害が反映される結果,GoBの確定方法としてはふ さわしくないとされる。GoBは任意の性格を帯び,システムとして持たねば        5) ならない自己完結性を欠くが故に,帰納的な解釈は却下される。他方,演繹 3) Fey, S.42ff. 4) Baetge, S.3 5) ebd.; Leffson, S.29

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110 彦根論叢第269号 的な確定方法においては,一般的に,高次の情報内容を持つ一般的諸原則か らより低次の情報内容を持つ論理的に内包される原則が,原則間の論理的諸        6) 関係を分析し,組み立てそして証明しながら推論される。したがって,GoB の内容温言にとってこれは,簿記ないし年度決算書の目標を決定し,そこか らあるべき(ある意味で「当為」の)GoBを推論するという過程を踏むこと を意味する。とりわけ1985年の商法典においては,法律上の目標を志向しな いような方法によってGoBを確定するということに対して,考慮の余地が ないとされたのではあるが,実際には,一般に認められた統一的な法律上の (ないし,経営経済学上の)目標の確定ということが能わなかったために, 単純な演繹法の適用によるGoBの内容三二ということが否定される。  そこで,商法上GoBを演繹的に導出するためには目標に関わる諸要素を 比較考量し,法律的に承認される解決策を探さなければならない。それは,        7) 法学上の法律解釈と同様に解釈的方法をとることであるというのが今日支配 的な考え方とされている。解釈というのはこの場合,事実の特徴および法律 効果の意義と目的を認識し,規範や法律の一般的な理念の関連を示す手続き をいう。具体的にその解釈の方法としては,語義にしたがった解釈(Ausle− gung nach Wortsinn),意義の関連にしたがった解釈(Auslegung nach dem Bedeutungszusammenhang),歴史的・目的論的解釈(historisch−teleolo− gische Auslegung),客観的・目的論的解釈(objektiv 一 teleolo−       8) gische Auslegung)などが考えられる。  いずれにせよ,商法上のGoBを解釈的演繹法によって確定しようという 時には,貸借対照表を作成する企業や年度決算書に関わる様々な利害関係者 の異なる利害をまず顧慮し,次に立法者の求める利害調整を考慮して,たと えば,経営経済的な考慮から生じる年度決算書に対する要求や年度決算書に 6) Leffson, S.30 7)Baetge, S,4. Eulerはこれを解釈的演繹法(hermeneutische Deduktion)と名づける。 Euler, S.37ff. 8) Euler, S.37f.; Baetge, S.4f,; Fey, S.91ff.

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       正規の簿記の諸原則と実現原則について  111 図2 商法上のGoB獲得のための要約的方法としての解釈論     (几帳面かつ尊敬に値する)     その他の年度決算書の       コロ  ロ コロコ         商人の見解         利害関係者の見解 企業の写像される べき事実関係  一契約の形態  一技術的発展   たとえばEDV 解 釈 高 商法上のGoBシステム 経営経済的観点で 獲得された簿記,  ←一一…1 年度決算書の目標     i 法律(商法典)の規定の 解釈  一語義  一意義の関連  一立法者によって設   定された簿記,年   度決算書の目標  i一客観的・目的論的i  i に確定された簿i →i 記,年度決算書のi  : 目標      1  一憲法との一致 ついての仮定というような事前の判断をもってして始める。こうして,商法 上のGoBとして考えられる貸借対照表作成方法を得るために,あらゆる決 定要因が要約的に関係づけられ釣り合いをとって考慮された時に,初めて商       9) 法上のGoBの内容充唄ということが可能になるのである(図2)。解釈的演 繹法によって確定されたGoBは,一つのシステムとして諸原則を統合する ことになる訳であるが,解釈の基礎となる前提の変化そしてそれに影響され る解釈自身の変化,たとえば立法の変更とか判決の修正などによって不断に 発展する客観的な有機体という意味を付与される。状況の変化に応じたGoB の新しい展開が,法律上の目的により適合する事実関係の写像を生むことに なるといえる。 9) Baetge, S.4f.

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112 彦根論叢第269号 22.簿記および年度決算書の目標  簿記および年度決算書の目標はGoBの確定のために前提となる根本的基 礎である。この目標には文書記録(Dokumentation),会計報告責任(Rechen− schaft)そして資本維持(Kapitalerhaltung)の3つが考えられる。 22.1文書記録  文書記録は,基本的な簿記の目標である。簿記の主要な機能は,取引過程 を文書上に記録することにある。取引活動によって惹起される様々な貨幣運 動や財貨運動を正確性および完全性を保証しつつ,計画的に把握し,なおか つ体系的に秩序づける。備忘的意味から取引はまず記帳され,記帳された各 項目はさらに二次的に分類されて有機的に体系化される。取引の文書記録に よって簿記は会計システム全般にわたっての明瞭かつより確実な基礎を提供 する。この場合,さらに文書記録は,組織的な処置と結び付いて企業活動に おける不正行為を阻止し,とりわけ破産のような事態の時に企業財産を債権        10) 者や出資者のために確保するという機能をも併せ持つ。文書記録は情報提供 の準備に役立ち,年度決算書の目標を果たすための基礎となるのである。  現行商法典においては第238条に簿記義務が規定されているが,そこからこ       II) の簿記の目標が明らかになる。すなわち,その第1項においては,「すべての 商人は,帳簿に記帳し,そしてそこに自己の営業取引と自己の財産の状態を GoBに従って明らかにすることを義務づけられる。簿記は,それが専門的知 識のある第三者に対して相応する期間内に,取引と企業状態についての概観 を伝達しうるようなものでなければならない。取引はその発生から終了に至 るまで追跡できなければならない。」とされているのである。 22.2会計報告責任  会計報告責任の解釈にとっては,まず,企業の実質的な諸関係に適合した 写像である会計報告の受け手が自己の意思決定の支援のために情報を受け取 10) Leffson, S.157 11)Eulerは,第238条第1項は厳密な意味において簿記についての規範であって,年度決  算書に関する規定それ自身へは移しえないと指摘する。Euler, S.45, S.60

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      正規の簿記の諸原則と実現原則について  113 るということ,そして,そのための有用な手段が貸借対照表,損益計算書, 附属説明書さらには欄外の注記として記載される補足的情報などからなる年 度決算書であるということを前提とする。商人は,いわゆる帳簿組織におけ る簿記手続の一巡の流れによって債券・債務,財産の状況,そして当該期間 の費用・収益の状況について知るのであり,それらを利害関係者に報告する     12) ことになる。すなわち,経済的になしうる債務弁済能力(Schuldendeckungs− potential)を十分に確保したかどうか(財政状態)について,そして分配権 限者として自己資本提供者および他人資本提供者に対して自由に処分しうる 資金を如何に配分するか(収益状態)について報告する責任があるという考 え方が支配的である。したがって,文書記録を基礎として情報提供者は利害 関係者に対して意思決定に有用な情報を提供するという会計報告責任が果た されることになる。  客観的・目的論的に,現行商法典から第242条(作成義務),第243条,第246 条(完全性,相殺禁止),第252条,第253条(財産対象物および債務の価値評 価)などからこうした会計報告責任は導き出すことができる。資本会社の場 合,その年度決算書はGoBに準拠して,資本会社の財産,財務および収益状 態の実質的諸関係に適合した写像を伝達しなければならないとする第264条       13) (作成義務)第2項の一般規範がこの会計報告責任について述べる。 22.3資本維持  支配的な考え方によれば,資本維持なる目標は会計報告責任という目標と 同時に達成される。  商法典第242条第1項は,さきの会計報告責任目標の表現として考えられる 12)Leffson, S.173ff.;Baetge, S.5.ただし, Eulerによれば, Schmalenbach的な意味に  会計報告責任を解釈して商事貸借対照表が企業の上昇ないし下降の程度,したがって,  企業の発展を写像すべきかどうかという点については疑問が存在する。慎重な態度によ  る貸借対照表の作成や客観化の要請,さらには継続性の原則も比較可能な利益の確定と  いうことに必ずしもつながりえないという。むしろ,GoBシステムは全体利益の配分割  合を決定するのに役立ちうるだけであり,商事貸借対照表の第一義的な意義および目標  として,配当基準金額の決定原則が考えられねばならないという。Euler, S.63ff. 13) Baetge, S.5f.

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114  彦根論叢 第269号 とともに,そこで提供される情報が企業の持つ経済的な債務弁済能力の確保 に関するものであり,また,企業から引きだしうる資本の程度に関わるもの である限り資本維持目標をも表す。第252条第1項第1号の貸借対照表一致の 原則は計算の正確性と,それによって資本維持および会計報告責任に役立つ。 慎重原則および不均等原則を規定する同士4号についての語義および意義の 関連から,資本維持目標が推定される。配分可能で引きだしうる,したがっ て,配当可能利益が慎重に決定され,所得源泉としての自己資本および企業 が維持される。第253条第2項,第3項の固定資産および流動資産の低価規定 の中にも資本維持目標を見いだすことができる。しかし,投資家への過大な 配当をもたらす積極的な収益状態の表示は,第264条第2項におけるGoBに 準拠した,一般規範で求められている財産,財務および収益状態の洞察から          14) 考えて許容されえない。       図3 LeffsonによるGoBの構造 有用な情報の伝達 情報伝達手段としての商法上の年度決算書 情報伝達の条件 重要性 正確性 明瞭性 完全性 比 可 性 t 事貸借対照表の概念に bをおく慣習 利益配当の制限のための

オ習

ゴーイング・ Rンサーン概念 期間

A属

対象による限定 匇ヤによる限定 実現   不均等 エ則   原則 @   一   一   一   一  一   一  一   一   一   一   一   −   −   ■   一  慎重

@原則

黶@一 ■ ■ ■ ■ ■ 一 一 一 一 幽

匡籍箋鍵

i正規の積立金設定・i

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14) ebd. ; KUting/Weber, S.406f,, S.802

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正規の簿記の諸原則と実現原則について  115 憲益田遮・ 颪瞳漕理旨 颪瞳﹄−+鵬e︾二〇思艦匿、亥逆所 載題鞄繋粁無 骨腫糊製e︾二〇思峡掻翼計 迷鯉eQっ自渕唾認蜘執   .  ● 罫絹G攣灘凶荒 鐘誌e曜糊  二二G坦暇目渕蛆寝鯉e遡羅甑祐e︾β姻細︵の臼︶︿ト×あ﹁盈握鍛侵二の禽蜘糧思遜黙る柘鱈無浬C罧↑ 攣鋸翠 鯛〒躍蝉 矩期C踵轟餐輩刃窪捺裡転 颪瞳嘩畦謹罧も%嶋 颪瞳ロ訟迷一爬羅蝦 哩融農軍\辰瞳懲濯 蛆、翼謬 e蕊距罧奪  ︵塑身上11嘉〒醍撫→劇〒迩鯉 剣〒上下 渕判〒蟄罫 贈艦灘鰹価器甘駐融。食畑駅 畢猛寅箪  眞臆溜枢軽 測〒器慰撫圏 劃選日 迷讐C岬〒三酉e製華 姻鯉溜隈廷e腸躍 ↓ ’ → → ︵颪麟纈羅11︶蚕耀く国民あ 颪曄姻聾靴 蚕蟹贈喘細採 → 腿皿郎州C抽鯨出魑叶る%講罷鍵 くト×あ凶oOC判奥歯C長円  寸区

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116 彦根論叢第269号

23.GoBシステム

 Leffsonによれば,有用な情報の伝達のための必要条件が枠構造原則たる        コ 正確1生,明瞭性そして完全性の要求であって,これらは文書記録に適用され る。期間限定原則として実現原則および対象限定・期間的限定の原則を挙げ る。そして継続性および慎重性が補足的原則としてとらえられる。比較可能 性は情報提供の必要条件であるので,公準として考えられる。図3は,会計 報告に関する諸原則が,情報の受け手にとって有用な情報の伝達という目的 のために,そして計算書作成の慣習に応じて年度決算書によって如何にして         15) 推論されるかを示す。したがって,彼のGoBシステムにおいては,有用な情 報伝達という意味における会計報告責任という目標が極めて重視されている 会計報告責任目標 図5 III.会計報告責任原則   一実現原則 LeffsonによるGoBシステムの修正     客観化の必要条件 1.枠構造原則   一正確性(恣意性の排除)    明瞭性   安全性    (そのつど以下の諸原則の考慮    のもとで)   一経済性(有用性/重要性)   一比較可能性 II.システム原則   一ゴーイング・コンサーン概念    (目的原則)   一収支的評価   一個別評価 V.貸借対照表対象物についての定   義原則   一借方計上原則    貸方計上原則   一計算限定原則 15) Leffson, S.179ff. 資本維持目標 IV.資本維持原則   一不均等原則   一慎重原則

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       正規の簿記の諸原則と実現原則について  117 点が注目される。  次に,このLeffsonの考え方を修正してGoBシステムを展開したBaetge        16) 17) およびFeyによる図をそれぞれ図4,図5として掲げる。  BaetgeはLeffsonの考え方をより発展させて3つの目標を明示しそこか ら具体的にGoBの諸原則を導き出している。彼の場合は,文書記録という目 標もあらゆる法律形態をとる企業体,したがって商人全般にとっての基礎と して,統一的なGoBシステムの中に組み込んでいる。他方, FeyはLeffson の考え方を修正・発展させて,とくに制度会計上に慣行として定着している 不均等原則の体系的な解釈のためにまず,GoBシステムを構成していくこと を考える。  Feyによれば,個々のGoBのシステム正当性ということが重視されるが,

それはGoBの諸原則が内心的に合目的なGoBシステムの構成要素として

形成されることによって実現される。その場合,合目的なシステムというこ とは目的論的なシステムとしてGoBを理解することとされる。このために 彼は,過去の成果の限定と将来の損失の先取りに対して等しく適用され,会 計報告責任と資本維持という目標間に存在する矛盾を避けるような統一的な       18) 法規則を補足的に求める。  Leffsonによって要求され, Baetgeによってさらに拡大・修正された枠構 造原則(正確性,明瞭性,完全性,経済性そして比較可能性)は,確かにGoB        19) の諸目標の実現のための枠組みを提供するが,それ自体具体化を必要とする。 そのためにシステム原則を上位原則と下位原則の中間段階に設定する。それ がゴーイング・コンサーン概念,収支的評価および個別評価の原則である。  FeyのシステムがLeffson(およびBaetge)のそれと構造的に異なる点 は,さらに,目的論的システムにおいては諸原則の具体化のプロセスは相互 16) Baetge, S.6 17) Fey, S.107 18) Fey, Abschn.4, S.104f. 19) Fey, S.105f.

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118  彦根論叢 第269号 に意味を補い合いながら行われるが故に,矢印で厳密に導出する体系として       20) 描かれていない点にある。さらに会計報告責任目標と資本維持目標を区別し        21) て理解している点が挙げられる。そして,借方計上原則,貸方計上原則およ び計算限定原則という定義原則(Definitionsgrundstitze)を最下部に位置づ けることによって,補足的に会計報告責任目標,資本維持目標を客観化しよ うとしている。

3.GoBシステムと実現原則

 上に述べてきたように,GoBは簿記および年度決算書の目標からの解釈を 通じて個別規定の具体化を行いその補完を為し,内容の充填を図っていく。 それはGoBが一つのシステムとして有機的関連を持つ体系を構築すること を意味する。このGoBシステムの中で,実現原則がどのように解釈されて位 置づけられているかがここでの課題である。ただし,GoB自身,解釈的演繹 法による発見の過程を経るから,経済的状況の変化や新技術の出現のような 新たな発展に対して不断の変遷を遂げる。それ故,実現原則についてもGoB の中に編纂されている限りにおいて1985年目現行商法典の解釈を中心として 行われるが,それはまた新しい状況に対して変化していく実現概念・実現原 則のあるべき姿を探る出発点を確認するものでもある。 31。Baetgeによる実現原則の理解  Baetgeによれば,実現原則は定義原則の中で理解される(図4を参照のこ と)。定義原則は,主に,比較可能な期間成果の確認による会計報告責任のた めに役立つ。年度決算書でもって,企業の全体成果が期間成果に分割される。 したがって,なぜ,どのように年度決算書の期間成果が算定されるかという 20) Fey, S.106 21)ただし,これら目標とその適用領域というものは決して孤立して考えられるものでな  いことは,先のFey自身の説明からも伺える。したがって,資本維持目標というものは  同時に会計報告責任目標を持ち,またその逆も成り立つ。しかし,Leffsonと同じくGoB  システムの重点は会計報告責任におかれることを認めている。Fey, S.108

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       正規の簿記の諸原則と実現原則について  119       22) ことに定義原則は関わる。  実現原則は期問的に適正な成果確認のための礎である。どのようにして財 産対象物は結合プロセスの最初から販売による最後まで評価されるべきか, そして企業給付はいつ市場で販売されたものとしてみなされるかということ から,次の2つの要素を実現原則は含む。  まず,実現原則は,企業に流入したり自家製造した財貨および給付は取得       23) 原価もしくは製造原価によって評価されるということを確定する。すなわち, 購入過程→(製造過程)→販売過程(→回収過程)という企業の経済活動の うち,購入過程の段階では当該支出額が取得原価として借方計上されること によって成果中立的(erfolgsneutral)に扱われることになる。そして,原則 としてこの取得原価としての成果中立性が,その後の実現の時まで保ち続け られるということが実現原則にとっての最初の要件である。  つぎに,実現原則は,貸借対照表を作成すべき企業の財貨および給付がも はや取得原価もしくは製造原価によって評価されずに,その販売によって発 生した収益が販売価格の高さにおいて実現したとして扱われるべき時点を確 定する。この時点において財貨もしくは給付は販売市場においてその価値差 異(Wertsprung)を実現し,その対価として支払手段ないし債権増加分の形        24) における獲得された収入金額が評価の基準となる。それ故,この価値差異は 特定の時点において実現ということと結びつけられ,たとえば,獲得された 販売価格とその時点までに蓄積された金額との差額概念として顕現化する。 概念的には,流入した財貨・給付に対して購入過程以後,製造過程を通じて 企業内を通過していく中で企業の価値付加活動によって成果が不断に蓄積・ 増加されていくという事態を考えることができるが,あくまでも企業活動の       25) 頂点において価値差異が実現するとみなすのである。 22) Baetge, S.11 23) ebd.; Leffson, S.252ff.; Moxter (1984), S.1783 24) Baetge, S.11 25)Leffson, S.247ff.を参照のこと。

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120  彦根論叢 第269号  通常の場合であれば,財貨もしくは給付を販売市場における販売行為によ って貨幣もしくは貨幣同等物と交換する時点を実現時点として考えるのであ るが,より詳細に検討するならばつぎの4つの条件が満たされた時に実現時          26) 点に到達したと考える。  (1)購入契約が締結される  ②債務者として商品ないし給付が調達される  (3)財貨が発送ないし給付すべき企業の処分権の範囲を離れる  (4)計算可能性が与えられる  これら4つの条件を満足させる実現時点は,たとえばとくに販売に利益を 結び付けるという点で,客観的かつ慎重に利益を確認することに役立つ。し たがって,給付の販売から生ずる収益を給付関連的に期間化するのであり, そのことによって期間的に適正な(そして比較可能な)成果の確認に役立っ のである。さらに,この実現時点の選択によって,財貨もしくは給付はこの 比較的遅い時点まで取得原価ないし製造原価以上に評価されずにいるという 点で資本維持に対する一種の貢献も果たす。 32.Feyによる実現原則の理解  商法典第252条の規定に「慎重な.る」評価を求める表現があるところがら, 実現原則の一般的理解が資本維持目標から解釈されるのに対して,Feyは実 現原則を客観的な会計報告作成の観点から理解しようとする(図5を参照の こと)。未実現利益の評価を避ける意味においては実現原則も確かに資本維持 目標に叶う。しかしながら,Feyは,実現時点を資金の回収時点にまで遅ら        27) せたほうがより資本維持目標に適すると考えて,彼のGoBシステムの中で 26)Baetge, S.11. Leffsonによれば実現の基準として,(1)発送,(2)契約義務の履行,(3)受  け取り手の利用可能性,(4)所有権の移転,(5)受取拒否を示すような情報が決算日後にな  いこと,という5つが挙げられる。Leffson, S 265ff.さらに,かつてSeichtは実現の基  準として6つの要件を挙げて検討している。Seicht, S.183ff. 27)たとえば,Schneiderは,その内容はともかく資本維持という観点から考えるならば,  販売市場で販売され,収入の流入が生じた時点で利益が実現すると考える。Schneider, S.  116

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       正規の簿記の諸原則と実現原則について  121 は実現原則を会計報告責任原則として把握しているのである。呼称は違えど, 基本的にはBaetgeと同じようなとらえ方を彼もしているといえる。  他方,Feyの場合,実現した成果の確認に関するこの実現原則と将来の損 失の確認に関する不均等原則を,システム原則のうちとりわけ収支的評価と ゴーイング・コンサーン概念の観点から解釈するのである。さらに,Leffson やBaetgeにおいては取得原価原則を実現原則の構成要素としてとらえてい るのであるが,Feyにおいては収支的評価の枠内で直接的にその意義を認め ている点で相違がみられる。  すなわち,収支的評価とは財貨に対して実際に給付された支払いでもって 財貨数量を写像することを意味する。財貨運動とは反対に流れる貨幣もしく は貨幣同等物の動き,したがって購入した要素に対して流出した支払いを, 販売した給付に対して流入した収入を割り当てるのである。簿記の中におい てこの収支的評価に基づいて反映される実際取引を,正確かつ明瞭かつ完全 なる表示として統合する年度決算書は,当然に収支的性質を持って客観化の 要請に応ずるのである(図5の枠構造原則を参照されたい)。  ゴーイング・コンサーン概念の観点からすれば,継続企業における実際の 利用ということに基づいて評価が行われるから,これは,実際に支払われた 価格(過去の成果)と多分実際に将来支払われるであろう価格(将来の損失) が財産対象物に割り当てられることを意味する。それ故,収支的評価という       28) ことは原則的に名目計算として名目的な資本維持を達成するのである。  さらに,Leffsonの考えによれば,値付け(Bepreisung)と評価(Bewertung) とを区別して取得原価を借方においては下方に,貸方においては上方に修正        29) する場合を不均等原則による評価とする。しかしながら,Feyの考えによれ ば,不均等原則は実際に予想される貨幣損失を先取りしてその分を財貨数量 に割り当てるのであるから,Leffsonの解釈における値付けであり,Feyの解        30) 釈においては収支的評価の枠内でとらえられることになる。それ故,取得原 28)Fey, Sユ20ff. 29) Leffson, S.255ff. 30) Fey, S.122ff.

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122  彦根論叢 第269号 価に代わって販売価格で貸借対照表化されなければならないという実現原則 によって決定される時点を変更するのが不均等原則である。  すなわち,貸借対照表作成人が当該財貨の販売によって獲得される販売価 格が取得原価より低いと判断する時点において,不均等原則を適用し歴史的 取得原価に代えて未実現の販売価格を認識する。販売価格の貸借対照表化時 点が実現時点より前の時点に移動するのである。実現原則および不均等原則 には収支的評価ということが依然として保たれる。したがって,収支的評価 を上位の法規則としてとらえる彼のGoBシステムの中では,実現原則も不 均等原則も,購入市場を志向する収支的評価から販売市場を志向する収支的        31) 評価へ変更しなければならない時点を確認するものである。 33.Eulerによる実現原則の理解        32) Eulerによれば,先に述べたように,商事貸借対照表の第一義的な意義およ び目標としての配当基準金額(配当可能利益,AusschUttungsrichtgr6Be)の 決定という点で,商法上のGoBシステムは位置づけられる。  そのGoBシステムは,利益確認原則としての実現原則,不均等原則および 客観化原則によって特徴づけられる。それで実現原則によって収入・支出計        33) 算を収益・費用計算に変換する評価規定が生ずるのである。実現原則によっ て実現した期間販売利益としての商事貸借対照表利益は,損失先取り概念の 表象である不均等原則によって補足され決定される。これら両原則に合致す る利益確認原則の主要な問題は,当該期間の支出が十分な確率をもって将来 の販売を産み出すのかということに関わる不確実性にある。したがって,慎 重に利益確認を実施する必要性から,客観化原則と,その他簡単化原則 (Vereinfachungsprinzip)が商法典に編纂される。前者にとっては独立的評 31) Fey, S.124 32)注12)を参照のこと。 33)Euler, S.61.実現原則自体は期間限定原則,取得原価原則および減価償却原則によっ  て特徴づけられると言う。ebd.;Moxter〔1984〕,S.1783f.

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      正規の簿記の諸原則と実現原則について  123 図6 EulerによるGoBシステムの理解 配当可能利益の決定

U

簡単化され,客観化され,そして慎重性に裏付けられた       損失先取り的な販売利益 慎重性の要請 客観化の要請 実現原則 簡単化の要請 不均等原則 一期間限定  原則 一取得原価  原則 一減価償却  原則 個別評価原則  一独立的評   価可能性  一有償取得 企業継続性原 基準日原則 継続性原則 価可能性(selbstandige Bewertbarkeit)と有償取得(entgeltlicher Erwerb) という原則に具体化される個別評価原則が支えとなり,他方,後者にとって は企業継続性原則(FortfUhrungsprinzip),基準日原則および継続性原則が役  34) 立つ。図6は以上の原則間の関係を明らかにしたものである。  さて,実現原則の解釈にあたってEulerは,商事貸借対照表の目標との関 連から,実現原則が配当可能利益の確認をまず目的とするものであるならば, 商品および給付売上による債権が「あたかも確実であるかのように」(so gut     35) wie sicher),したがって処分可能な形による財産増加が存在する時点で利益 が実現すると考える。いつ商品および給付売上に条件づけられた利益が準確 実性(Quasisicherheit)をもって発生したか,ということが利益の証明にと っての基準となる。その意味から実現原則は準確実性ある債権に関する原則 とも称しうる。これをより具体化するためには対価に対する債権の借方計上, 34) Euler, S.62f. 35) Knobbe−Keuk, S.192 ; Woerner, S.773f.

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124 彦根論叢第269号 したがって,販売者の危険はいつ少なくなり見通せるようになるかというこ と,そして本質的に担保不足の危険性および債権貸倒の危険性の問題を考え          36) る必要があるとみなす。  契約の種類に応じてサービス給付の場合には給付行為の提供,加工引渡の 場合には給付成果の発生という主要給付の作用として考えられる契約の履行        37) (VertragserfUllung)は,基本的に利益の実現時点としては遅すぎるし,給       38) 付行為(Leistungshandlung)を実現基準と考えるのにも制限がある。 Euler は結局,一般的に双務契約の場合には価格危険の移転があって初めて準確実        39) 性という条件が満たされると考える。これが一般的で客観的な利益の証明基 準であり,また対価請求権を脅かす危険性の削減を表現することによって, 貸借対照表の配当規定目標から結果として生じてくるのである。  ただし,これを補う補足的な実現基準として,経済的所有権が販売者から 購入者へ移転したかどうかが問われる。価格危険の移転という基準が機能し ない場合の二次的基準として,財産対象物の経済的帰属性の交換と債権の確 実性との間の関連についての仮定に基づく,経済的所有権g)移転という考え        40) 方が類型的な基準として使われなければならない。  利益実現において求められる準確実な債権は,また独立的に評価可能なも          41) のでなければならない。この独立的評価可能性は慎重原則に照らして解釈さ れる。それで,販売によって誘発された債権が評価可能でなければならない ということは,実現原則に内在すべき自明の理である。しかしながら,年金 請求権のように,将来の収入が客観的な基準に従って推定から見積もられな ければならない場合には,評価者の裁量に委ねられる部分がある。さらに, 36) Euler, S.67ff, 37) Euler, S.72f. 38) Euler, S,79ff. 39) Euler, S.82ff., S.103. ; LUders, S.1945 ; Woerner, S.774ff. 40)Euler, S.102f.;Ltiders, S.769ff.なお,利益の期間帰属性が明らかな時には,たとえ  ば購入老や運送屋への対象物の移転あるいは注文者による製品の引取,さらには計算書  をもって利益実現の基準とすることができる。Eu】er, S.U6f. 41)Euler, S.120f.;Moxter〔1987〕,Sユ846ff.

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       正規の簿記の諸原則と実現原則について  125 法律的ないし現実的理由から少なからぬ確率をもって全面的に不履行となる 恐れがある場合にも,独立的評価可能性が問題となることがある。その他, 個別評価原則との関係でこの独立的評価可能性を考えることがここでは要求 される。  たとえば,交換取引の場合に商法上の実現原則は交換利益の証明を要求し        42) ているのかどうかという問題がある。そもそも,交換においては販売行為の 意図を欠くが故に,利益の実現が拒否されるという意見がある。しかし,現 物反対給付のための現物給付である交換は民法の上で考えるならば,等価購 入を念頭において販売を約束する購入契約である。したがって,相互に貨幣 請求権を計算することができる。この考えを貸借対照表法上に移して考察す れば,交換は成果中立的な購入に従う成果作用的な販売に対応する点から, 利益の実現を考えることができる。また,配当との関係で交換の場合には貨 幣の流入がないことが指摘される。しかし,交換はその売上代金を直接的に 再投資する販売と似ている。どちらも流動性という要件を欠いている。利益 は対価である債権の準確実性と結び付く販売によって生じるものであって, その処分可能性とは直接的には関係ないのである。さらに,無形のものを除 き,一般的に交換によって獲得された有形の財産対象物は,市場等が存在す ればその価値は相互に検証可能であり,少なくとも最低価値を実際的に確実 に推定することができる。交換による財産増加は,個々に事例を検討しなけ ればならないが,独立的に評価可能であると考えられる。  商品および給付売上によって惹起される債権は,取得原価との関係で,収 入先取原則(Einnahmenantizipationsprinzip)に基づいて予想される収入で 評価される。利益が客観的に把握可能で配当しうる状態になって未決取引は 終了するが,それは貨幣流入で評価される対価が発生する限りにおいてであ       43)る。通常それは名目価値で取得原価として評価されることである。 42) Euler, S.123f£ 43) Euler, S.130ff.

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126 彦根論叢第269号 4.要約と結論に代えて  会計学上の問題に対して,米国においては,個々の分野毎に,基準設定機 関から対処的に意見書・概念規定等が提出され慣行を形成していくのに対し て,ドイツにおいては,理論・学説などの展開のもとに,法律上の中に条文 として直接的に規定を編纂していく。そのために,現行の1985年商法典のな かにおけるGoB,そして,収益認識基準としての実現原則の理解は,会計学 上の(あるいは広く経営経済学上の)理論の解釈と合わせてなされる必要が ある。この観点でなされた本稿の内容を以下に要約する。  (1)法律上の不備ではなく,不確定法概念であるGoBの内容充填にあた   っては,数学的な意味における帰納法および演繹法ではなく,経営経済   学上,法律上の目標から解釈的に演繹されなければならない。そうした   目標として文書記録,会計報告責任そして資本維持の3つが推定される。   Leffsonは,有用な情報の伝達という立場で会計報告責任を重視して   GoBシステムを構築する。 Baetgeは,3つの目標をGoBシステムの中   に並列的に明確に位置づける。Feyは,文書記録を基礎に,会計報告責   任および資本維持のそれぞれの目標を客観的な年度決算書の作成の前提   と考える。  (2)諸原則の目標に関連する有機的組織体として体系化されるGoBシス   テムの中で,実現原則をどのように理解するかについて,Baetgeは,全   体成果の期間的な分割である期間成果の確認に関わる会計報告責任に役   立つ定義原則の中で考察する。その時,実現原則は取得原価による評価   と実現時点の確認という2つの構成要素を持つ。実現時点についてはさ   らに,企業活動が頂点に達したことを判断するための条件を4つ掲げる。   Feyは,実現原則を不均等原則とも関連させて,収支的評価とゴーイン   グ・コンサーン概念から解釈する。実現原則はこの時,実際に支払われ   た価格を財産対象物に割り当てるものであって,将来支払われるであろ   う価格を同じく財産対象物に割り当てる不均等原則と比較すれば,いず

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      正規の簿記の諸原則と実現原則について  127   れも等しく販売市場を志向する評価を行うが,いっその評価をするかと   いう時点に関して相違が現れるにすぎない。Eulerは,商事貸借対照表の   意義および目標を配当可能利益の確認という立場でとらえ,商品および   給付売上による準確実な債権の発生をもって利益は実現すると考える。   したがって,双務契約においては,一般的に価格危険の移転を基準とし,   さらに補足的に類型的な判断基準として経済的所有権の移転を利益の実   現の要件とみなす。その他,利益の実現にとっては,独立した評価可能   性が与えられるかどうか,当該債権が期待される収入によって取得原価   として評価されるかどうか,ということが考えられなければならない。  GoBは年度決算書にとっての遵守規範として存在する。そして,年度決算: 書自体は商法典に組み込まれ,利害関係者の多様な利害の調整手段として, 彼らの意思決定に有用な情報を提供することによって会計報告責任を果たす。 この情報提供のために,取引として生ずるあらゆる事象を文書記録として残 すことがまず求められる。文書として記録を残すことによって企業活動のす べてを概観することが可能となり,文書はまた客観的で検証可能な証拠とな りうる。  このことはさらに,税法上の規定を商法上に採り入れて商法と税法との一 致を求め,あるいは,所得税法第5条第1項(1)における,経営財産は商法上 のGoBに従って表示されなければならないとする,いわゆる基準性原則の 適用とともに,課税額算定のための課税利益確認にとっての文書記録の証拠 としての位置づけの重要性をも示すものである。  GoBは,この文書記録を基礎的任務として会計報告責任と資本維持という 目標を果たすための一般規範であり,GoBによる個別規定の具体化・補完を 通じて,年度決算書は実質的諸関係に一致した写像を提供するのである。  その写像として提供される情報のうち,収益状態に関わるものが実現原則 によって認識される企業成果である。年度決算書の目標として法律上考えら れる会計報告責任と資本維持のために,利害関係者に対して実現原則に基づ く客観的で,慎重に決定された損失先取り的な販売利益情報が,配当のため

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128 彦根論叢i第269号 の基準金額となる。配当可能利益を報告することによって利害関係者に対す る会計報告責任を果たし,名目計算としての名目資本維持を果たすのである。  もちろん,処分可能性の追求として厳密に配当可能利益を計算するのであ れば,収支計算によって損益計算を行う現金主義に拠らざるをえない。回収 計算の結果,資金余剰として残る現金が具体的に配分されるのみである。し かし,制度上商法典に編纂されている実現原則に基づく収益の認識は,企業 の大規模化の進んだ信用経済下における投下貨幣資本の維持計算のために現 在の(あるいは,適正な期間損益計算という目的のために「実現原則」が必 要であるとされた当時の)社会的・経済的状況を考慮し,利害調整の末選択 されたものである。現金による回収時点に至る前のより早い時点(「実現時 点」)に基づいて利益(「実現利益」)を認識する基準を「実現原則」と呼称 し,この「実現原則」による利益こそ配当可能であると考えたのである。  したがって,商法典上の実現原則を年度決算書の目標に照らして考えるな らば,上述の意味における処分可能性を追求する立場からのみ会計報告責任 を遂行し,資本維持目標を果たすといえる。それ以上の意味をこの実現原則 に求めることは合理的ではない。逆に,配当可能利益の算定という意味とは 違った立場でGoBシステムの体系を構築し,その中で年度決算書の目標を 法律上措定しまたは解釈し,収益の認識基準を考察していくとするならば, たとえば,物価変動会計をめぐって論じられるように,業績評価のための利 益確認というその対極にある目標に関して行われることは当然考えられる。  この目標にとって実現原則の有効性が疑われる場合には,実現原則とは異 なる概念の確立こそが求められよう。純粋に業績評価のための利益の確認が 必要であるならば,利益の処分可能性を考慮しなくともよいのであるから, いわゆる「実現時点」の変更もありうるし,「実現」そのものも問われる必要 がないのである。この変化こそが常に変貌する経済的・社会的状況に対応し て展開するシステムとしてのGoBの持つ特徴であり,そのことによって常 に利害関係者の意思決定に有用な情報伝達ということを通じての年度決算書 の目標遂行につながるのである。

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正規の簿記の諸原則と実現原則について 129        参 考 文 献 Baetge, J., Grundsatze ordnungsmtiBiger Buchftirung, Der Betrieb (DB), 39.Jg. Beilage    Nr. 26/86, 1986, S.1−15 Euler, R., Grundsatze ordnungsmaBiger Gewinnrealisierung, IDW−Verlag, 1989 Fey, D., lmparitatsprinzip und GoB−System im Bilanzrecht 1986, Duncker & Humb−    lot, 1987 Knobbe−Keuk, B., Bilanz−und Unternehmenssteuerrecht, 5.Aufl., Otto Schmidt, 1985 Ktiting, K.IC.一P., Weber, Handbuch der Rechnungslegung, 2.Aufl., Schtiffer, 1987 Leffson, U., Die Grundsatze ordnungsmaBiger BuchfUrung, 7.Aufl., IDW−Verlag, 1987 Ltiders, J., Realisationszeitpunkt und wirtschaftliche Betrachtungsweise, DB, 39.Jg.     (38), 1986, S.1944−1946 Moxter, A., Das Realisationsprinzip−1884 und heute, Betriebs−Berater (BB) , 39Jg. (28) ,    1984, S.1780−1786       , Selbsttindige Bewertbarkeit als Aktivierungsvoraussetzung, BB, 42Jg.(27),    1987, S.1846−1851 Schneider, D., Realisationsprinzip und Einkommensbegriff, in: Bilanzfragen, Fest−    schrift zum 65. Geburtstag von Prof. Dr. Ulrich Leffson, hrsg. von J. Baetge, A.    Moxter und D. Schneider, IDW−Verlag, 1976, S.101−118 Seicht, G., Die kapitaltheoretische Bilanz und die Entwicklung der Bilanztheorien,    Duncker & Humblot, 1970 Woerner, L, Die Gewinnrealisierung bei schwebenden Geschaften, BB, 43.Jg. (30) 1988,    S.769−777 .

参照

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