国際資本移動 と発展途上 国
経 済 の成 長 ・安定
一― ラテンアメ リカ と東南アジアの経験の比較 によって一一
0 は じおめに 発 展途上 国の経 済開発 ・安 定 に とって,海 外 か らの資金移動 が重要 な役割 を 果 た して い るこ とは言 うまで もない。 国際収支発展段 階説の い うよ うに,通 常 資金不 足 に あ る と考 え られ る途上 国 に とって,資 本 の輸 入が不可避 であ る。 そ れ に よって国 内の貯 蓄不 足 を補 い,開 発 の ため の投 資 をお こなってい くこ とが 必要 であ り,海 外 か らの資金移動 の動 向は途上 国の開発 の成否 をに ぎる要 因な の であ る。特 に1980年代 以降,世 界経 済,な かんず く国際金融市場 の重要 な変 化 ,す なわ ち金 融 自由化 の もとでの事 態 は,そ の こ とを容 赦 な く示 して きた。 1980年代,累 積債務 危機 の勃発 に よって,多 くの途上諸 国は経済 の停 滞 と不 安 定化 にみ まわれ た。他 方,80年 代後半か らの直接投 資の拡大 を契機 として東 南 ア ジア諸 国 。中国へ成長 の波及がお こ り,発 展途上諸 国の 中での例 外 的 な成 功例 として注 目を集め たの であ る。 国際資本移 動 の動 きは途上諸 国の運命 を分 け たの で あ る。 1990年代 にはい って も, これ ら諸 国の経済動 向 を大 き く左右 してい る。90年 代 には全体 として途上 国へ の資金流入が 回復 し,特 に新興 市場 国 (エマー ジン グ ・マー ケ ッ ト,以 下 EMsと 略 記)に は先進 国か らの投 資が流 れ込 ん だ。 こ れ に よって,束 ア ジアが 引 き続 き好調 に推移 したのに加 えて,ラ テ ンア メ リカ 諸 国 もよ うや く経 済 の安 定 と回復へ の軌道 に乗 ったか にみ えた。 この よ うな資 金 流入 回復 の要 因 としては, ラ テ ンア メ リカ側 の市場指 向的政策へ の転換 が評 浩 明 倉/Jヽ
美崎 皓 教授追悼号 (第309号 ) 価 されたことが指摘 されている。 そ して,80年 代か らの東アジア諸国の成功 と あわせ て, 自由化 ・開放化の政策の有効性 を示す もの と評価 されている。 しか し,90年 代 の中盤か ら,国 際資金移動の動向が途上国の経済 を著 しく不安定化 させ,経 済運営 を困難に陥れ る事態が, ラテンアメ リカ,東 アジア双方で発生 してお り,そ の ような評価 に疑間 を投げかけている。 これ らのケースでは,途 上 国はまさに 自由な国際資金移動の動向に翻弄 されてお り,東 アジアす ら例外 であ りえないことが示 されている。 本稿 では,80年 代か らの国際資金移動の動向 と途上国の開発 ・安定化の関連 につ いての以上のような展開 を検討す ることで,途 上国が世界経済の中でおか れてい る環境の変化 について考 えてい きたい。 そのために,東 アジア とラテン アメ リカの EMs諸 国の経験 を比較す る とともに,80年 代の累積債務危機 と今 回の通貨 ・金融危機 との比較す ることによって接近 してい く。 1 国 際資本市場の拡 大 と発展途上 国 (1)国 際資本 市場 におけ る途上 国の位 置 80。90年代 の発展途上 国へ の資本移動 の動 向は,世 界経済全体 におけ るその 変動 の結果 の一つ であ る。 その こ とを確 認す るため に世 界全体 の資本 の動 きを み てみ よ う。 第 1表 に よって長期 資本 (移転 を含 む)の 受 け入れ額 を見 てみ る と,世 界全体 で1980-82年 と1983-86年 にはそれ ぞれ年平均2570億 ドル,2880 億 ドル で あ った ものが,1987-90年 には5400億 ドルに拡大 してい る。 そ して, 1991-92年 で見 る と更 に年平均8450億 ドルヘ と増加 して い るのであ る。 この87 -90,91-92年 の時期 は,そ れ ぞれ東 ア ジアのエマー ジングマー ケ ッ ト諸国が 製造業 品輸 出 を拡大 に よる成長 の時期,ラ テ ンア メ リカのそれ らが低迷 か ら脱 し,成 長への軌道に復帰 しようとした時期 と重 なってお り,こ れ らの事態が世 界的な資本市場の規模 の拡大に伴 って生 じたことがわか る。 しか し,そ こでの発展途上地域の地位 は必ず しも高 くない。世界全体 の投資 受入額 に対す る途上国の シェアは1982-88年には42.8%で あったが,累 積債務 危機 を経 た1983-86年には27.1%に 急激に減少 している。1987-90年の世界全
第 1表 長 期純 資本移動 (構成比) 国 際 資本 移 動 と発 展 途 上 国経 済 の成 長 ・安 定 1 9 8 0 - - 9 2 各期 間中の年平均値 :10億 ドル 総額 先 進 国 途上 国 公 的移 転 直接投 資 ポー トフ ォ その他 1980--82 2 5 7 ( 1 0 0 % ) 1 4 7 ( 5 7 . 2 ) 110( 42.8) 38( 14.8) 55( 21.4) 52( 21.8) 112( 43.5) 1 9 8 3 - 8 6 2 8 8 ( 1 0 0 % ) 2 1 0 ( 7 2 . 9 ) 78( 27.1) 42( 14.6) 57( 19,8) 115( 39.9) 74( 25.7) 1 9 8 7 - 9 0 5 4 0 ( 1 0 0 % ) 4 5 8 ( 8 4 . 8 ) 82( 15.2) 7 1 ( 1 3 . 1 ) 161( 29.8) 194( 35,9) 114( 21.1) 1991-92 8 4 5 ( 1 0 0 % ) 7 0 0 ( 8 2 . 8 ) 145( 17.2) 1 2 3 ( 1 4 . 6 ) 154( 18,2) 411( 48.6) 157( 18.6)
<出 所 > Griffith―」ones and Stallings,“New Global Financial Trendル,ス 形タクタα″ ゲ 動 物%α物夕脅oα%さル物力材容 α%冴 フレわガ冴ン七夕あグ容,V01.37 No.3,Fall 1995,pp.62-63. 体 の拡大 の時期 に も,そ の シェアは低 下 しつづ け15.2%へ 下 が ってい るのであ る。91-92年 には よ うや く17.2%へ 回復 して い る ものの,依 然世 界の資本 の大 部分 は先進 国に向か って い るのであ る。 また,87年 以降の急激 にその規模 が拡大 した時期 の投資形態別構成 を見 るな らば,83-86年 には直接投 資 とポー トフォ リオ投 資が全体 占め るシェアは,そ れ ぞれ39。9%,19,8%で あ った。 それが87-90年 には29.8%,35。 9%へ ,91-92年に は18.2%,48.6%へ と変化 してい る。 これ を見れば,資 本 の流れの拡大 には,85年 のプ ラザ合 意 に よる ドル相場調整局面 での 日本 な どの金融 自由化, 先進 国間 の相 互 の直接 投 資 の増加 が, また90年代 以降は,ポ ー トフォ リオ投 資 の拡大 が大 きな役 割 を呆 た して い るこ とが わか る。 (2)ア ジア とラテ ンア メ リカヘ の資本 の流れの特徴 つ ぎに,ア ジア とラテ ンア メ リカヘ の資本 の流れの特徴 を,発 展途上 国全体 の傾 向 と比較 す るこ とに よって,検 討 してみ よ う。 発 展途上諸 国全体 へ の資本 の流れの構成 を,第 2表 に よって見 てみ る と,80 年 以 前 に は,直 接投 資 とその他 投 資 (長 ・短 貿易信用や 融資 な ど)が 主要 な担 い手 であ った。80年代 には,累 積債務 危機 を反映 してその他 が流 出に転 じ,直 接 投 資が主要 な流 れ に な る とともに,ポ ー トフォ リオ投 資の流入が拡大 してい
途上国全体総額 直 接投資 ポ ー トフォ リオ そ の他 1977-82 1983-89 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 30.5 8 . 8 43.5 154.9 130。1 172.9 151.6 193.7 1 1 . 2 1 3 , 3 1 8 . 6 28,4 3 1 . 6 48.9 61.3 7 1 _ 7 -10.5 6.5 18,3 3 6 . 9 4 7 . 2 8 9 , 6 5 0 。4 3 7 . 0 29.8 - 1 1 . 0 6 . 6 89.6 5 1 . 3 34.5 39.8 85,1 1977-82 1983-89 1990とF 1991=F 1 9 9 2 年 1993とト 1 9 9 4 年 1995至F ア ジア 15.8 1 6 , 7 23.1 49.8 32.1 70.5 81.1 104.1 2 . 7 5 。2 9 . 4 14.3 14,4 32.7 4 1 . 9 52.4 0 . 6 1 . 4 - 0 。9 2 . 9 9 . 8 2 3 . 8 1 6 . 0 1 8 . 5 1 2 . 5 1 0 。1 1 4 . 6 32.6 7 . 9 1 4 . 0 23,1 33.2 1977-82 1983-89 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 ラテンアメリカ 2 6 . 3 - 1 6 . 6 18.5 23.0 53.1 63.4 47.2 6 1 . 8 5 . 3 4 . 4 6 . 6 1 1 . 2 1 2 . 8 1 3 . 9 1 7 . 7 1 7 . 1 1 . 6 - 1 . 2 1 7 . 4 1 1 . 4 1 7 . 8 5 1 . 6 1 7 . 4 1 0 . 0 19.4 -19.8 - 5 , 5 0 . 5 22.5 - 2 . 1 1 2 . 1 34_7 190 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) 第 2表 発 展途上 国へ の純 資本流入 10億 ドル 資料 :IMF,あ 勉物α力 %冴 働″筋′ソ'イα姥夕な fD夕υ冴9ク物夕%た,P/Oψ 夕びた,α%冴 ての Pθ″り Is鞘夕s, September 1996. a.1977-82,1983-89に ついては年平均の値。 b.そ の他投資には,長 短の信用などが含まれる。 る。 9 0 年代 以 降 につ い て み て み れ ば, そ の年 末 に メキ シ ヨ危機 が始 まっ た9 4 年 を境 と して, ポ ー トフ ォ リオ投 資 と直接 投 資 の二 者 だ け の 関係 は, 前 半 は ポー トフ ォ リオ優 位 , 後 半 は直接 投 資優 位 とな って い る。 この ように,途 上国全体 として資本流入の回復 した90年代には,特 に前半に ポー トフォ リオ投資の拡大がみ られ る。 このことは世界の資本の流れにおけ る ポー トフォ リオ投資の拡大の動 きと一致 している。 ラテンアメ リカ諸国はその
国際資本移動と発展途上国経済の成長 ・安定 191 傾 向 をよ り明確 な形 であ らわ してお り,ポ ー トフォ リオ投 資に主導 され た資本 流入 の 回復 であ る とい え る。90年代 におけ るその成長 の回復 は ポー トフォ リオ 投 資に支 え られ て いたのであ る。他 方,ア ジアは ポー トフォ リオ投 資の拡大 も 見 られ る ものの,直 接投 資が流入 を主導 してお り,ラ テ ンア メ リカ と対照 的 で あ る。94年末か らの メキ シ ヨ金 融危機 とその 「テキー ラ効 果」 が発生 した際 に は,こ の両者 の差 が問題 となった。す なわ ち,ポ ー トフォ リオ投 資が よ り移動 しや す い こ と, ま た直接投 資の よ うに生産能力 の拡大 改善 に直接結 びつ く性格 が 弱 い こ とが指摘 され,経 済 のア ジアでの安 定性 とラテ ンア メ リカでの不安定 1 ) の要 因 とな って い る とされ たの であ る。 2 EMs諸 国への資本移動 と危機 しか し,97年 におけ るアジアの通貨危機 は,ラ テンアメ リカが示 したような 不安定性か ら,ア ジア も免れていないことを示 してお り,こ の単純 な投資の性 格 に よる説明は何 らかの補強 を必要 とす るように思われ る。アジアでの事態 を 見 るためには,現 時″点ではデー タの制約はあるが,資 本移動の性格 と途上国の 成長 ・安定の関係 を分析す るために,90年 代投資が拡大 したエマー ジングマー 2 ) ケ ッ ト諸国についてよ り詳 しく見てみ よう。 ( 1 ) ラ テンア メ リカ E M s 諸 国 まず ラテンア メ リカ諸国か ら始め よう。第 3表 か ら,い ずれの国 も90年代に 純流入額 の大幅 な拡大 を経験 していることがわか る。 その中で も直接投資 と比 較すればポー トフォ リオ投資の拡大が急で,チ リを除けば,直 接投資をはるか に凌鴛す る規模 に達 している。けれ ども各国で,95年 には大幅な減少 を記録 し ている。 メキシヨ金融危機 と 「テキー ラ効果」の影響 である。純流入額でみる 1)UNCTADは ,ポ ー トフォ リォ投資の移動が途上 国経済にマイナスを与 えるこ とか ら, その移動 に制限 を力口えるべ きだ としている (T/2滋 α%グ Dω 冴の物夕%ナ妃りθ〃, 1995,P. 95。)。 2)通 常 EMs諸 国には, ここで取 り上げ る諸国には,通 常含 まれているアジアでの イン ド, 移行経済諸国が含 まれていない。 これは金融危機の影響 とい う分析 目的による。
192 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) 第 3表 EMs諸 国へ の資本流入 (100友アドル) 純 流入額 直接投 資 フォ リオポー ト その他 貿易 サービス収 支 準 備 財政赤字 (GDP比 ) アルゼ ンチ ン 90 9 ︲ 9 2 9 3 9 4 9 5 9 6 - 3 8 0 7 182 6938 10365 9173 256 7429 731 - 3 4 980 20308 4587 5133 10512 - 6 3 7 4 - 2 2 2 3 1906 - 1 2 4 9 8 1645 - 8 9 0 3 - 7 1 6 3 7954 2820 - 3 6 5 9 - 5 0 8 6 - 7 0 9 8 63 - 8 2 4 4592 6005 9990 13791 14327 14288 18104 -0.3% -0.5% 0,0% -0.6% -0.7% 0.0% ブラジル 9 0 9 ︲ 9 2 9 3 9 4 9 5 9 6 - 5 4 4 1 - 4 8 6 8 5889 7603 8020 29306 512 3808 7366 12321 44732 9235 - 6 2 7 7 - 8 7 6 5 - 3 4 0 1 - 5 5 1 9 - 3 8 7 4 7 16596 - 4 6 2 2 - 2 9 6 4 3900 - 1 5 8 3 - 3 5 7 6 - 2 1 7 5 7 7441 8033 22521 30604 37070 49708 58323 -6.2% -0.4% -3.9% -9.3% 0.0% 0.0% チ リ 9 0 9 . 9 2 9 3 9 4 9 5 9 6 3014 843 2931 2579 4494 1387 6342 1078 1581 730 - 9 7 5 742 1315 1377 6068.5 7041.3 9167.7 9640.3 13087.6 14139.8 14833。2 0.8% 1.5% 2.2% 1.9% 1.7% 2.5% メキシヨ 9 0 9 . 9 2 9 3 9 4 9 5 9 6 8441 25139 27039 33760 15787 -11781 2549 4742 4393 4389 10972 6963 - 3 9 8 5 12138 19206 28355 7570 - 1 0 8 0 3 9877 8259 3440 1016 - 2 7 5 5 - 7 9 4 1 - 3 1 1 0 - 9 3 6 9 - 1 8 6 1 8 - 1 6 0 1 0 - 2 1 0 6 9 7963 9863 17726 18942 25110 6278 16847 -2.8% -0.2% 1.5% 0.3% -0,7% -0.6% ラ 9 0 9 . 9 2 9 3 9 4 9 5 9 6 エ ズ ネ ヴ -5496 1651 2998 2801 -3591 - 2 9 9 6 76 1728 473 - 5 1 4 136 597 13022 56 707 621 261 347 - 1 8 5 9 4 - 1 3 3 1818 2694 - 3 9 8 8 - 3 9 4 0 8321 10666 9562 9216 8067 6283 11788 0.9% 4.4% -3.6% -2.9% -4.2% 0.0% ァ 9 0 9 . 9 2 9 3 9 4 9 5 9 6 ネ 4495 5697 6129 5632 3839 10386 - 9 3 - 1 2 - 8 8 1805 3877 4100 3495 4227 4440 2179 - 1 5 3 8 2541 1784 1059 2313 2344 1282 - 2 0 8 4 7459 9258 10449 11263 12133 13708 18251 0.4% 0.4% -0.4% 0.6% 0.9% 2.2% マ レー シア9 0 9 . 9 2 9 3 9 4 9 5 96 1783 5621 8746 10804 1288 7422 2332 3998 5183 5006 4342 4132 - 2 5 5 170 - 1 1 2 2 - 7 0 9 - 1 6 4 9 - 4 4 0 - 2 9 4 1453 4685 6507 - 1 4 0 5 3730 900 - 1 7 9 9 804 - 6 8 - 1 1 5 5 - 3 2 7 4 9754 10886 17228 27249 25423 23774 27009 -4.8% -4.4% -4.3% 0.2% 2.4% 0。9% 9 0 9 . 9 2 9 3 9 4 9 5 9 6 9098 11760 9473 10500 12171 21910 一 一 9 5 4 2 4 4 0 6832 9994 6583 3474 8812 16645 - 6 6 4 1 - 6 7 5 7 - 5 2 4 1 - 5 7 0 7 - 7 4 8 2 - 1 1 9 2 7 13305 17517 20359 24473 29332 35982 37731 4.5% 4.7% 2.8% 2.1% 1.9% 3.0% 学卒米斗:Iふ江F,r%筋 ″%α″θttα′「材%ασ筋′S物力るあ .
国際資本移動 と発展途上国経済の成長 ・安定 193 と,ブ ラジル ・ヴェネ ズエ ラを除 いて減少 してお り,特 に震源地 であ った メキ シ ヨは大幅 な流 出に転 じて い る。 ポー トフォ リオ投 資 につ いてみれば,ヴ ェネ ズエ ラの除 く各 国で流入額 が激減 してお り,や は リメキシヨでは大幅 な流出 と 3 ) なってい る。 その規模 は GDP比 で約 5%に 達 してお り, メキシヨ経済に深刻 な打撃 を与 えたのである。アルゼ ンチ ンで も全体 で ピー ク93年に GDP比 で 4 %の 純流入 を記録 していた ものが,95年 にはその約40分の 1の 規模 に,ポ ー ト フォ リオ投資について も,や は り93年の ピー クの 4分 の 1の 規模に縮小 してい る。チ リで も,GDP比 約 8%の 流入 を記録 した94年か ら一転,95年 にはその 4分 の 1に 縮小 している。特 にポー トフォ リオ投資は50分の 1近 くになってお り,テ キー ラ効果にさらされた といえよう。 ブ ラジルでは95年の減少は見 られず,む しろ流入額 を増大 させているが,こ れはその他投資の急激 な拡大 (貿易 ・サー ビス収支の大幅 な悪化に照応 してい ると思われ る)に よるものであ り,や は リポー トフォ リオ投資は,94年 の GDP 比 6%の 水準か ら 1%へ と縮小 しているのである。 しか し,ヴ ェネズエラにつ いては,90年 の 1年 だけのポー トフォ リオ投資の急拡大 (GDP比 20%以 上 に 達す る)を どう見 るかに もよるが,全 体 での流出は,94年 か ら始 まってお り, 必ず しも 「テキー ラ効果」が主因な しているとはいえない。 以上 の よ うに,ラ テンアメ リカ ・エマー ジングマーケ ッ ト諸国では,ヴ ェネ ズエ ラを除いて,90年代 におけるポー トフォ リオ投資の拡大 と「テキー ラ効果」 に よるその縮小が共通 してみ られた。 これによってこれ らの諸国は95年深刻 な 経済危機 に陥 ったのであるが,そ の ような罰 を受けねばならないほ ど,こ れ ら 諸国の経済運営 は悪 い ものであったのだろ うか。 メキシヨ金融危機 自体 は,ア メ リカの金利上昇 という国際環境の変化のなか 4 )
で, メキシヨ政府が,選 挙の年 ということもあり,貿 易 ・サービス収支の悪化,
3)IMF,効 物物α″ο%α′毘%α%σ物ブS筋然サたsに よって,各 国通貨立ての GDP額 を年末の為 替相場 に よ リ ドル立て評イ面した。 4)国 際環境の中で も,ア メ リカの金利水準は,ラ テンア メ リカヘの資本流入に大 きな影響 を字jよ ↓Ff (Calvo, G.A., Leiderlnan, L.and C.A/1.Reinhart “ Capital lnflows and/194 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) 為 替過 大評イ面化 に対応す る国 内経 済調整 ・為 替切 り下 げ な どの措 置 を遅 らせ て い き,為 替相場 防衛 の ため に準備 を使 い尽 くした後 で,為 替切 り下 げに よる調 整 を発動 した こ とに よる。為 替切 り下 げ その ものが ポー トフォ リオ投 資 に とっ て は利 回 り ・収益 を悪化 させ る要 因であ るのに加 え, そ の調整 され た相場 を維 持 で きる能 力 を投 資家 に信 じさせ るの に十分 な準備 を喪失 して しまった後 であ 5 ) 6 ) ったか らである。 このように危機の引 き金はメキシヨ政府の政策運営にある。 ただ,94年 の準 備急減 をもた らすほ ど, メキシヨ ・ペ ソは, したがってメキシヨは売 られねば な らなか ったのか とい う問題は残 る。 メキシヨは90年代にはいって大幅な貿易 サー ビス収支の赤字 を記録 し,93年 には GDP比 で 4%に 達す る。他方それ を 上 回って資本流入額 は増加 し,93年 まで準備額 は拡大 していったのである。 イ ンフレを為替相場 をアンカー として使 うことで抑制す る政策が,為 替の過大評 価化 をもた らしていたが,そ れは資本流入 とい う為替市場 でのペ ソ需要 を反映 していたのであ る。政府部 門の赤字 も改善 されてお り,94年 には NAFTAの 形成 に よって直接投資 も大幅に増大 しているなかで,国 内金融 システムの不安 があったにせ よ,95年 の厳 しい後退 を経験 しなければならないほ どの失政であ ったか どうか,判 断に苦 しむ ところである。 その余波 を受けた諸国については,何 らかの失敗があった とはよ り考 えに く い。 もっ とも影響が深刻 であったアルゼ ンチンは, コンバーティビ リティ ・プ ラン とい う, インフレ抑制のために通貨価値 を ドルにぺ ヽ/グ す る政策 を採用 し てお り,為 替の過大評価化 を招 いていたことは確かである。 その意味で,為 替 が売 られ る目標 にな りやす く,切 り下げの リスクか らポー トフォ リオ投資の手
ヽReal Exchange Rate Appreciation in Latin America:The Role of External Factors'',//F Stげ Fttzクタ容,V01.40.P.108-151, 1993. )。
5)こ の点 につ いて詳 し くは,拙 稿 「世 界経 済へ の再統合化 と経 済安定 一NAFTAと メキ
シヨ金融危機」 『阪南論集社会科学編』,31巻 4号 (1996年3月 )を 参照。
6)固定為替 レー ト制下 での,準備喪失の メカニ ズム をモデル化 した もの としては,Krugmarl, P., “A Model of Balance of Payments Crises", ユ ,物枠夕α′ ゲ ン'ダθ%の C″ 冴″ α″冴 B α% 力筋ど, V o l , 1 , 1 9 7 9 , がある。
国際資本移動と発展途上国経済の成長 ・安定 195 控 え,引 き揚げ を被 りやすか ったわけである。ただ為替過大評価化か ら貿易 ・ サー ビス収支 も悪化 してはい るが,そ の規模 は GDP比 で2.5%(94年 )と メ キシヨに比べ小 さい。アルゼ ンチンは95年の危機 をついにその為替価値 を守 り ぬ く形で乗 り越 えるわけであるが,そ のための国内緊縮政策による国民生活ヘ の打撃は大 きな ものであった。 ブラジル ・チ リについては,比 較的影響は小 さいものであった。ブラジルは メキシヨ ・アルゼ ンチンよ りも貿易 ・サー ビス収支の数値がよ く,財 政収支の それが悪い。為替ペ ッグによるインフレ抑制政策は開始 されたばか り (94年7 月開始)で あ り,過 大評価化 は進展 し始めた段階にあった。準備 は GDP比 で 8%を 確保 してお り,95年 中に もその額は増加 している。チ リにはさらに問題 が なか ったよ うに思 われ る。GDP比 20%以 上の準備 を蓄積 してお り,貿 易 ・ サー ビス収支,財 政収支 とも黒字基調で推移 していた。 このようなよい状況に もかかわ らず,両 国 ともポー トフォ リオ投資は大幅に縮小 されたのである。 この″点をよ り明確 にす るために,各 国の準備 と 「債務」 との関係 を見てみよ 7 ) う。 ここでは,借 入れな ど狭 い意味での債務 を含むその他投資 と,市 場での売 買 を通 して引 き上げが可能 なポー トフォ リオ投資を加 えた額 を広い意味で 一国 経済に とっての債務 と考 える。 この債務の累積額に対す る準備のカバー率 (準 備 クッシ ョン と呼ぶ ことにす る)を とると第 4表 の ようになる (債務累計の起 点は,資 本が流入に転 じた91年においている)。この数値 は一種の支払準備率 7)Calvoは メキショ金融危機 においては準備の減少 とい う流動性不足に関す る不安が, メ キ シ ヨ政 府 の支 払能力 その もの に関す る不安 へ と転化 して い った こ とに注 目してい る
(Calvo,G.A.,“ Capital Flows and lMacroecOnomic Managementi Tequila Lessons", r%ル枠2冴ゎ%クブン,クタクタαブリr Fttα%び夕&Eび θ%θ物グごs,V01,l No.3, P,213-215)。 ま た, E p e t e i n とG i n i t s のA s s e t s B a l a n c e M o d e l は,国 の資産 ポジションによって借入れ可 能 ( 経常収支赤字継続可能性) が決 まるとす る(Epstein,G.and H Ginits,“I n t e m a t i o n a l Capital MIarkets and National EcOnonlic Policyル タ 妃夕υゲσ御 のrF″ルタク2α″θクα′PO↓″グびα′ E∽ %θ竹ノ,V01.2 No.4,Autumn 1995。 )。 さ らに, Dooleyに よって も, 固定 レー ト 制下 では, 投 資の利益 を保証す る役割 を準備が果たす ことが指摘 されている (Dooley,M. P,, “Capital COntrols and Emerging帥 Iarkets'', /22あタタ″夕2α″θ%α′万θ″タク2αブ`アF″%α%び夕どを ど6.θ%θ%リグびs,VOl.l No.3,July 1996,p.201-202.)。
196 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) 第 4表 EMs諸 国の準備 クッシ ョン アルゼンチン ブ ラ ジル チ リ メキシ ヨ ヴェネズエラインドネシアマレー シア タ イ 年 年 年 年 年 -266,1% 1588,2% 163.4% 97.7% 131.1% - 1 6 2 , 1 % - 2 2 7 0 。3 % 5 2 6 , 7 % 3 1 4 . 3 % 1 3 2 . 1 % 1589.5% 300.3% 183.4% 146。3% 151.1% 86.9% 44.0% 34,7% 8.1% 28.8% -0,7% 390.6% 159.9% 396.2% -403.5% 2 1 9 , 6 % 1 2 2 . 0 % 8 9 . 7 % 8 1 . 5 % 6 3 . 7 % 6 7 0 . 7 % 3 3 2 . 2 % 2 4 8 . 1 % 3 2 0 . 6 % 2 1 1 . 9 % 1 7 6 . 7 % 1 1 6 . 9 % 9 2 . 9 % 7 7 . 9 % 6 1 . 6 % 資米斗:IMF,r%ル タ?夕α″θ%α′F″%α%び筋′S筋″団ヴ岱 準備 クッションは,91年 か ら対象年 までの、ポー トフォ リオ投資純額 とその他投資純額の累 計額 を、準備額で除 したもの と考 え られ る もの で あ る。 これ を見 る と, メ キ シ コは93年 時 点 で準備 ク ッシ ョ ンが34,7%に 低 下 して お り,量 的積 増 しに もか か わ らず,瞬 時 に逆 転 が 可 能 な ポー トフ ォ リォ投 資 な どの動 きへ の腕 弱性 が 高 ま って い た こ とが わか る。 そ し て94年 に は それ は 急 激 に悪 化 して い る。 それ に対 し,ア ルゼ ンチ ンにつ い て見 る と,や は り94年 にか け て悪 化 して い るが,そ れ は メ キ シ ヨの93年 よ りは,は るか に よ い。 ブ ラ ジル ・チ リにつ い て は それ ほ ど明瞭 な悪化 の傾 向 は見 られ ず, 8 ) 「債務 」以上 の準備 を確保 してい る。 したが って, メ キシ ヨ以外 の諸 国に とっ て,95年 の危機 は まさに余 波 であった としか考 え様 が ない。 アルゼ ンチ ン ・ブ ラ ジル ・チ リにつ いては,危 機 の95年,ポ ー トフォ リオ投 資の減 少 に もかか わ らず,直 接投 資 は拡大 を続 け てお り,こ の こ とは二つ の タイプの投 資の行 動 の 基 準 の差 を明確 に示 す とともに,ポ ー トフォ リオ投 資の減少 が示す ほ ど投 資適 格 が失 われ て い なか った こ とを示 して い るの では ないだ ろ うか。 修)ア ジア EMs諸 国 ア ジア EMs諸 国 では,80年 代 後半 以 降直接 投 資 は順 調 に拡 大 し,92年 まで は 3国 いずれ にお いて も直接投 資 とその他 投 資に よって資本 の純 流入が大部分 構 成 され てお り,90年 代 のは じめか らポー トフォ リオ投 資が大 きな地位 を 占め て い た ラテ ンア メ リカ との明 らか な違 い をみせ て い る (第 3表 )。同時期,直 の
接投資の拡大 とあわせ るように,粗 国内投資の対 GDP比 率 も上昇 してお り,
8)た だ,危 機 の発生の結果,95年 前半一時的に急激に準備額が減少 し,準 備 クッション率 は大幅 に悪化 してい る。国際資本移動と発展途上国経済の成長 ・安定 197 経 済 の拡大 が直接投 資 に よって支 え られていた こ とが わか る。 この点が95年の ラテ ンア メ リカの危機 の影響 が ア ジアで軽微 であ った こ との一つの理 由 とされ て い るこ とであ る。 しか し,93年 以降 につ いては,マ レー シア を除 き,ポ ー ト フォ リオ投 資が大幅 に拡大 して い る。 タイ,イ ン ドネ シアにお いて93年,ポ ー トフォ リオ投 資 は直接投 資 との地位 を逆転 させ,時 を同 じ くして粗 国内投 資 は 頭 打 ちな い し後 退 に陥 る。 したが って,ア ジアにお いて もそれ までの直接投 資 主 導 の好循環 が,92/93年 を境 に その機 能 を低下 させ てい るこ とが わか る。 そ れ に代 わ って ポー トフォ リオ投 資の拡大 が起 こってい るのであ る。 97年の通貨危機 の震源 とな った タイの特徴 をよ り細か く挙 げれば, まず,93 年 以 降直接投 資 は減少傾 向にあ るこ とが指摘 され る。 この点 は増加 も経験 して い るイン ドネ シア,減 少幅 が小 さいマ レー シアに劣 ってい る。 したが って ポー トフ ォ リオ投 資へ の依 存 とい う点 で もよ り高 くな って い る。GDP比 で見 た純 流 入額 の規模 で も,93・ 94年には 8%台 ,95年 には13%と メキ シ ヨの ピー ク時 (93年)を 上 回 る水 準 に達 して い る。 また,準 備 ク ッシ ョンは95年にはか な り 低 下 して い る。 貿易 サー ビス収支赤字 につ いて も同様 に悪化 してお り,財 政赤 字 の状 況 が よい こ とを除 け ば95年時点 で メキ シ ヨの危機 前夜 の状 況 と類似 点 が 多い こ とが わか る。 ただ,タ イの場合95年の純 流入 の拡大 にはその他 投 資が圧 倒 的 に寄 与 してお り,こ の点が メキ シ ヨ と異 な る。 このその他 投 資の拡大 は, 60%以 上 が金融期 間の支 払義務 の増加 に よって拡大 に よってお り,通 貨危機 の 一 つの引 き金 となったタイ国内金融不安 の兆候 を示 している。 他 の二 国 につ いて は,95年 時点 の数値 か らい え るこ とは少 ないが, まず両 国 ともそれ まで好調 であった貿易 ・サー ビス収支 が,赤 字 に転 落 してい るこ とが 目立つ。 また イ ン ドネ シア は95年,純 流 入総額 が GDP比 5%に 達 す るが,こ の拡大 には ポー トフォ リオ投 資の拡大 よ りは直接投 資の それが寄 与 してい る も 9)こ れ ら 3国 何 れにおいて も,直 接投資拡大 とともに,粗 国内投資の GDPに しめ る割合 は,20%台 か ら30%台 へ と上昇 している。特 にタイは40%台 近 くまで上昇 している (IMF, あ 物物αサわ%α′毘%α%σ物ブS筋燃体 に よって計算)。 10)I酌IF, r%沈夕々″αサヴθ%α′毘%`7%び夕αブSサαゑsガcs.
198 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) のの,準 備 クッションはタイ同様悪化 して きている。マ レー シアの場合は92年 までの成長パ ター ンの経路か らずれ始め,そ れ までの驚異的成長がかげ りを見 せ は じめたことはマイナス要因であるが,少 な くとも95年時点では,タ イのよ うな兆候 は見 られない。 しか し97年の事態が示す ように,ラ テンアメ リカの場 合 と同様,タ イー国の危機 は他 の二国に も波及 していったのである。 3 国 際資本移動の 自由化 と発展途上 国 ( 1 ) 累 積債務 危機 の経験 との比較 これ まで見たように,世 界の資本市場の拡大は,こ れ ら諸国の経済を国際資 本市場の動向 と不可分 に結び付け る結果 を招 いた。80年代以前において も累積 債務危機が示す ように,そ の動向は途上国の生殺与奪 を握 っていたのだが,以 下の よ うな点において今 日の状況 とは異なっていた。 まず,途 上国へ流入す る資本の形態が異なっていたことは容易に分か ること であろ う。 このことはその性格 を本質的に変 えている。80年代以前において途 上 国への資本移動は,国 家が借 り手 となる借款が中心 となっていた。特に借 り る能力 を持つ途上国においては,使 途に制限の加 わる国際機関などか らの借入 れ よ りも,市 場的取 り引 きによる民間銀行か らのそれが選択 されたのである。 経済開発の主導的役割は国家がにない,比 較的長期的展望 にたって利用 してい くこ とが可能 で,資 金供給側の干渉か ら自由な借款が選択 されたのである。 こ の ことは60年代以降の途上国側の経済主権獲得 とい う目的に添 っていることで あ り, また70年代の供給過剰の国際資本市場 とい う好条件の下 で,直 接投資よ りも望 ましい ものであるとい う評イ面がなされていたのである。貸 し手の側 も, 累積債務危機の発生 までは sovereign debtとして返済に疑間がない もの とみ な し,借 り手途上国の政策運営,経 済パ フォーマ ンスなどは問題 にされなかっ た。 他 方9 0 年代 にお いては,借 款形態 に代 わ って,投 資形態が復 活 してい る。 こ の こ とは,債 務 危機 の後 では返済の必要 の ない資金 として歓迎す らされた。 し か し,そ れ は資金 の 回収 ・利益 の獲得 が投 資者 の責任 に帰 され るこ とに よるの
国際資本移動と発展途上国経済の成長 ・安定 199 であ るか ら,当 然 資金 の利用 につ いて,投 資家側,つ ま り先進 国企業 ・金融機 関 の意志 が よ り支 配 を及 ぼせ る形 に変化 した こ とを意味す る。 しか も金 融技術 の革新 と途上 国金 融市場 の 自由化 は, よ り自由な動 きをす るポー トフォ リオ投 資 を拡 大 させ て い る。 これ は市場 での売買 を通 じて 自由に出入す る事 が で き, 直接 投 資 よ りも自由であ る。 もちろん証券 が大 量 に売 られ る際の価格低下 は投 資家側 の損失 とな るが,国 際資本 市場 におけ る途上 国の重要性 は,累 積債務 危 機 前 に比べ格段 に低 下 してい る。 ポー トフォ リオ投 資の主力 を成す ミュー チ ャ ル ・フ ァン ド資金 な どは リス ク分 散 の一構 成要素 として途上 国市場 を利用 して い るのであ り,そ の市場へ の忠誠 は薄 く,価 格維持 に コ ミッ トしよ り大 きな損 失 を被 る危 険 を冒す よ りは,損 失が で きるだけ小 さい うちに売 り抜 け るこ とを 選 択す る。 さ らに途上 国の民営化や規制緩和 の結果,資 金 の受 け手 も国家 に代 わ って, 民 間 の主体 が 台頭 して い る。 メキ シ ヨ危機,タ イ ・バー ツ危機,い ずれ もその 後 に深刻 な国内の民間金 融機 関の危機 を招 いて い るこ とに,そ れは示 されてい る。つ ま り,開 発 におけ る国家 の役 害Jが根本 的 に変化 してい るのであ る。 そ こ では国家 は先進 国側 の資本 に 自由かつ安 定 した活動 の環境 を提供 す るこ とを求 め られ てい る。 自由主義 的構 造 改革 を果 た し,あ るいはそのプ ロセスヘ の以降 を順 調 に示 し得 た国のみが,EMsと して主要 な資金 の受 け手 に な り得 たの で あ る。 この こ とは逆 に見 れば,80年 代 の累積債務 危機後 に,国 際金 融機 関が コ ンデ ィシ ョナ リテ ィ として,少 な くない途上 国側 の抵抗 を受 けなが ら強制 し, 途上 国経 済 に負担 を もた ら した正統 派の緊縮 的マ クロ経 済政策や 自由主義 的経 済構 造 改革政 策 が,90年 代 にお いては,国 際資本市場 の 中に当然従 うべ きもの として組 み込 まれ,過 酷 に強制 され てい るこ とが わか る。現 に メキシ ヨ ・アル 11)Calvo, 。 ク.σ″., 1996, p.215. 12)世 界銀行 は,国 家 と市場 との この よ うな関係 の必要性 の主 張 を展 開 してい る (World Bank, 材 レ″ D夕の 物物 サ父のο″ 1997.)。また,刀ヽ池洋一,西 島章次編 『市場 と政府 一ラテンア メリカの新 たな開発の枠組み』アジア経済研究所1997年,で は, ラテンアメリ カの社会格差の存在の もとで市場 がそれ を悪化 させ る可能性 な どを指摘 し,政 府の新 たな 役割 の可能性 を探 っている。
200 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) ゼ ンチ ンは危機 後 厳 しい緊縮 政 策 を強 い られ て い る。 この ような変化 を簡潔 にまとめれば,そ の利用法に問題があるにせ よ,国 家 が資本の調達 ・利用 を管理 していた80年代以前の状況か ら,累 積債務危機 とそ れに対処す るための強制 ない し余儀 な くされた 自由主義的構造改革 をへて,90 年代 においては,国 家が資本によって選択 ・評価 され る状態へ と変化 している, 1 3 ) とい っことがで きる。 ( 〕 自由化 した国際金融市場 と途上国の成長 ・安走 この ように,80年 代,先 進国や国際金融機関がになっていた役割,す なわち, 途上国に 自由主義的マ クロ経済政策 ・構造改革政策 を強制 し,そ れ を果たす国 にのみ資金 を酉己分 す るとい う役害Jを,今 日の国際金融市場はになっている。 そ れでは,そ のことは発展途上国の成長や安定 をもたらす ものなのであろうか。 8 0 年代後半か らの途上国への資本流入が,受 け入れ国の経済の成長に貢献 した ことは間違 いない。特 に累積債務危機 に苦 しみ,従 来の銀行か らの借入れ とい う資金調達 の道が閉 ざされたラテンア メ リカ諸国に とって, 自国金融市場の 自 由化に よって国際金融市場 に統合 されたことが,新 しい資金流入の道 を作 り出 したこ とは確かである。 ただ しラテンアメ リカ とアジアでの二つの危機 は,そ の ような役割 を呆 たす国際金融市場の問題″点を示 しているように思われ る。 危機 を発生 させ た要 因につ いて,IMFは 途上 国の 自国金融 システムの管理 能力;マ クロ経済管理の不健全 さなどを指摘 している。 しか し国際金融市場に も危機発生 をもた らす性質はある。 その もっとも重要 な点は,国 内のように国 家権 力に よる強制力や保証 を持 たないこ とであ る。 この ような市場 では, 投 資 され る資本の利用効率 (プロジェク トの評イ面や企業の将来性)よ りも,借 り手 の側 の支払能力 (準備資産や資源)と い うリス ク回避面が重視 され る。 しか も, 13)こ の こ とは何 も途上国に限った ことではない,今 や先進諸国 も,国 家に よる資本の コン トロー ル を失 い,経 済運営の不安定化 を余儀 な くされている (本山美彦 『倫理 な き資本主 義 の時代 一迷走す る貨幣欲』三嶺書房 1996年,第 9章 )。 14)IMF,あ 物物αサグθ%α″て克zクガ筋″ソ'イα%々夕なすZ)夕υ夕′2ク%リタ%決ら酔 θψ夕び次勇 α%冴 アζタノPθ″qノムs勿容, September 1996, pp.110-115. 1 5 ) E p s t e i n & G i n i t s , の . 冴サ. , p p . 6 9 6 - 6 9 7 .
国際資本移動 と発展途上国経済の成長 ・安定 2 0 1 そ の支 払 能 力 の評 価 は, 国 家 の後 ろ盾 が な い市 場 なの だか ら, 市 場 の環 境 に よ って大 き く左右 され る ものにな らざるを得 ない。先 に見 た よ うに,危 機 は もっ とも状 態の悪 い国か ら発生 し,同 様 の問題 を もつ と考 え られ る国に波及 してい くの だが,そ の調整 はあ ま りに も急激 に訪 れ る。 「テキー ラ効 果」 の場合,ア ルゼ ンチ ン も為 替 の過大評価 に よる貿易 サー ビス収支 の悪化 とい う問題 を持 っ て い たが,そ れ は メキ シ ヨ危機 前 には攻撃 されてはいない。 メキ シ ヨにおけ る 危機 発 生 が,突如投 資家 の リス ク評価 を変 え るの であ る。影響 を受 け た他 の国々 につ いて は,経 済実 態 に問題発生 原 因は見 出す こ とが で きず, ま さにその よ う な リス ク評価 の急激 な変動 のみが事 態 を説明 で きる。 そ して ラテ ンア メ リカ諸 国 で96年に は資本 の流入が 回復 してい るこ とか らすれば,明 らか にその リス ク 評価 の変 更 は資本 の投 資先調整 にオーバー シュー トを もた らしてお り,各 国の 経 済運営 に問題 が あ った として も,過 大 な懲 罰 といわ ざるを得 ない。 そ して, その こ とに よる調整 の責任 は途上 国が負 わねば な らないの であ る。 さ らに, メ キシ ヨ とタイの危機 発生 のプ ロセ ス も,国 際金融市場 が国家 の後 ろ盾 を持 たない市場 であ るこ との負担 を途上 国が負 わねば な らない こ とを示 し て い る。 危機 の発生 にはいずれ も為 替相場 の事実上対 ドルペ ヽ/グ 政策が大 きな 要 因 とな って い る。 この もとで為 替 が過 大評イ面化 されて いた とい う点 では,受 け入 れ 国側 の問題 が なか ったわけ では ない。 しか し,こ の過 大評イ面は海外 か ら の大 量 の資金 流入 に よって可能 とされ てお り,そ の こ とで海外か らの資金 は高 い収益 を得 るこ とが可能 とされ ていた ものであった。受 け入れ国側 の市場 には 確 か に大 きな歪 みが存在 したが,そ の歪み こそが海外 か らの資本 に高収益 を も た ら していたの であ る。 そ して歪 みが大 き くな る と今 度 は為 替投機 とい う別 の 資金 が そ こか ら利益 を得 よ うとす る。危機 が示 した よ うに為替相場 の変更 は, イ ンフ レ抑制 な どの その政策 目標達 成 を危険 に さらす だけ でな く,政 府,銀 行 , 企業 の対外債務 の返済負担 をます こ とで経済混乱 を もた らす。 さらにそれ は国 内の ポー トフォ リオ投 資の収益率 を悪化 させ,売 り逃 げの動 きに よって資本 の 流 れ の逆転 させ ,更 な る相場切 り下 げか ら一 層の資本 流 出 とい う悪循環 をまね くこ とで加 速 され る。 この こ とを避 け るため には為 替相場 の円滑 な調整 が行 わ
202 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) れ ねば な らないが,そ の責任 も途上 国のみが負 う。投機 の挑戦 の排 除は途上 国 のみの力 で行 われねば な らなか った。結果 として途上 国側 が敗れ,為 替相場調 整 を余儀 な くされ,そ の こ とが危機 を引 き起 こ して始め て国際的金 融支援 が間 題 とされ たの で あ る。 けれ どもその時点 では メキシ ヨもタイ も資産 であ る多額 の準備 を既 に失 って しまってお り,支 援 され る資金 も返済 しなければ な らない もの なの で あ る。先進 国間 で,完 全 な もの とは いえない まで も為替相場水準 に つ いて双 方が責任 を持 つ形 で機 能 してい る協調 な どはないのであ る。 そ して, 準備 の喪失 に よって相場維持 され てい る間は,投 資 され た資本 は高 い収益率 で 売 りぬ け るこ とが で き, ま た為 替調整 が大 きければ大 きいほ ど, したが って途 上 国経 済へ の影響 が大 きいほ ど,投 機 資金の利益 は大 き くな るのであ る。 国際 金 融市場 の この部分 での安 定性保 証 の責任 と負担 は途上 国が負 わねば な らない の であ る。 4 む すび一国際金融市場 における構造的権力 と発展途上国 以上の よ うに 自由化 された国際金融市場 は,発 展途上国に資本獲得 と成長の チャンスをもたらす と同時に, 自由主義的構造改革 と国際均衡優先のマ クロ経 済政策 を強制 し, さらに安定性確保 のための負担 を負わせ ている。ただここで 注意 しな くてはならないこ とは,国 際金融市場の 自由化は, グローバ リゼヽ一シ ョンの名 の もとにいわれ るような,技 術的進歩や単に市場の諸力が要求す る効 率性の追求 に合致す るもの として,必 然的に帰結 していることではない とい う こ とである。市場 自体 は一つの社会的制度であって,市 場の機能 をどのように 利用す るか, どのように制限す るかは,社 会の選択の問題 である。完全 な自由 市場の もとで利益 の総和が最大になるとい うことは,利 益 についての一つの価 値判断 を前提 に してのみいえることである。市場の 自由化か らは利益 を受ける 集団 もあれば,損 失 を受け る手段 も当然存在す るのである。 したがって市場の 自由化 は社会 の さまざまな勢力間の駆け引 きをへてのみ決定 され る政治経済学 的過程 なのである。 第二次世 界大戦後は, 自由主義的国際経済秩序の もとで も比較的管理 されて
国際資本移動 と発展途上国経済の成長 ・安定 203 きた国際金 融市場 が,70年 代 後半 か ら自由化 されて くるのは,一 方 では資本 を 国 内経 済活動 の下 に従 属 させ て きた Embedded Liberalism(鋳 こ まれ た 自由 主義)の,つ ま リケ インズ主義 的政策 に軸 をお く福祉 国家が機能 しな くな るこ と で各 国内的 に 自由 な資本市場 を求め る同盟 が成 立 した こ と,他 方 では 自由 な市 場 を作 るこ とで膨大 に流 出す る ドルの海外保 有 者 に よる利用,さ らには還 流 を 図ろ うとしたアメ リカの政策意図 とによる。 このことによって ドルは 自由化 さ れた国際金融市場の基軸通貨 とな り,引 き続 きス トレンジのい う金融面におけ る構造的権力 を握 りつづ け るのである。 このアメ リカによる自由化 によって, 資本投資先 としての競争圧 力 とい う理 由 と国際基軸通貨 となった ドル を支 えざ るを得 ない とい う理由か ら他 国の 自由化 は余儀 な くされたのである。 さらに,ア メ リカを中心 とす る先進国は知識面での構造的権力,す なわち市 場重視 の 自由主義的経済学のイデオロギーが正 しい知識 としての正統性 を確保 し, また国際政治経済関係 において,何 が問題 とされ るべ きかについて設定す る リー ダー シップ を握 り続けてい る。特 に I M F な ど国際金融機 関において, その問題設定が支配力 をもつに至 って,そ の金融力は発展途上国に対 しては強 制 力 を もつ関係権 力 となるこ とが で きたのであ る。I M F な どの コンデ ィシ ョ ナ リティは,途 上国 とっては国際経済の支配者か らの要求に等 しい ものであっ た。そこではすべての途上国が同 じ政策 を要求 され, 自由な国際市場 に統合 さ れていったのであ る。 その結果, か つての よ うに途上国同士が連帯 して権力に
16)Underhill,G.R.D.,“Keeping Governments out of Politics:Transnational Securities NIarkets,Regulatory Cooperation,and Political Legitilnacy'',R夕υ物切 てア r物彪枠2α″θ%α′ S物 冴う夕s, Vol. 21, pp.251-278, 1995, pp.252-254.
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18)Helleiner, E.テ “Explaining the Globalization of Financial WIarkets i Bringing States Back in'l R夕 υグビ切 ゲ r%ルγ%αサゎ%α″Fろ″院ca′ Eびθ%ο″ノ VOl・ 2 No.2, Spring 1995, pp。323--324.
19)Hills, 」., ``Dependency Theory and its Relevance today:International lnstitutions in Telecommunications and Structural Power", R夕 υ彦2t ゲ r物物枠夕αレグθ%αブS物 冴ゲタs, ヽアol. 20, pp.169--186, 1994, pp.174--175.
204 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) 挑戦 し,国 際秩序 の修 正 を求 め るこ とよ りも,途 上 国同士 が競争す るインセ ン テ ィブが働 くこ とにな る。 この 自由 な国際金 融市場 は,後 ろ盾 としての国家 を持 たない市場 であ るため に,そ の発展 の ため には 「最後 の貸 し手」 とな る政府 間の協 力が不可欠 であ り, 先進 国蔵相 中央銀行総裁会議 な どの政策協 調 の枠組 みや,国 際決 済銀行 に よる 民 間銀行 の 資本 準備 率 規 制,IOSCO(国 際証 券 委 員会 機 構 )で の証 券 市場 規 制 当局 間の協 力 な ど,さ まざまな枠組 みが形成 され てい る。 しか し,対 途上 国 にお いて は,実 際 に危機 が始 まってか ら初 め て先進 国側 の対応が行 われてい る の であ り,そ の 自由化 の進展 に たい して遅 れて い る といわ ざるを得 ない。 さら に い えば,国 際資本移 動 は途上 国の景気変動 に対 して,そ の変動 を緩和す る方 向 で働 くとは限 らず,二 つ の危機 での よ うに停 滞気味 となった経済 に よ り厳 し いデ フ レ効 果 を与 え る方 向で も働 くのであ る。 自由化 を進展 させ た側 に,そ れ を補 完す るシステム を構築 す る責任 が求 め られ よ う。