「ゲームを作るゲーム」の教育効果について
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(2) Vol.2012-EC-26 No.5 2012/12/16. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. うになり [2][4]、ゲーム要素の適用範囲の拡大が観測され ており、またそれを自覚的に適用する事例が増えている。 一方で、プログラミングの教育や電子工作、あるいは大 学の研究などで、「ゲームを作る」という過程そのものが 自己学習や教育過程に取り込まれている。古くから、例え ば「ラジオの製作」「マイコン BASIC マガジン」などで は、ゲームを題材とした電子回路やプログラムが多数紹介 され、初学者はそれらをそのまま再現したり、またそれを 改造することによって電子工作やプログラムを独学してき た。プログラミングを例にとると、その学習動機として、 市販ゲームが高価でまた種類も少なかった時代に手持ちの パソコンでゲームを遊びたい、という動機もあったことは. 図 1 ジョイスティック製作実習のための試作機. Fig. 1 Prototype of joystick creation kit.. 確かだが、自分でオリジナルのゲームを作ってみたいとい. もセンサの面白さ自体についての受講者からの言及を多数. う動機が強かったことは、先述の「マイコン BASIC マガ. 得てきた。提案教材ではセンサから得た値を圧電素子で音. ジン」でオリジナルゲーム作成講座の連載が繰り返し掲載. として出力する機能を持つが、これを利用して電子楽器の. されていたことからもうかがえる。. 構築を試みる例が出ている他、センサを使った遊びを提案. よいゲームを作る上では、核となるゲームルールのデザ. する例もあり、センサを使った入力の面白さは、提案教材. インとプログラミングだけでなく、グラフィックス表現に. の目的とは別に、利用可能性があると考えたのが、今回報. 気を配り、応答性能を向上させ、遊ぶためのインタフェー. 告したインタフェース構築教材の着想の発端になっている。. スデザインの設計にまで熟慮が求められる。ゲーム製作は 広範な知識と技術を求めるためにハードルが高いが、それ らの要素についての学習においては「面白いゲームを作る」 という動機を利用することができるため、特にものづくり 志向の学習者にとっては効果が高いことが期待できる。. 3. ゲームインタフェースの自作キットの開発 とワークショップでの使用事例 以上の知見をふまえ、今回はインタフェースデザインを 教える教材の一つとして、ゲーム用インタフェースの構築 を題材としたものを開発した。. 2.2 ゲームインタフェースの多様化. 元来、ジョイスティックの自作というのはパソコンを持. ゲームインタフェースの主流は、家庭用ゲーム機の普及. つ初学者向け電子工作の定番の一つで、自分の手になじみ. に従って十字ボタンやジョイスティックによる方向入力と. のよい配置を模索したり、少しでも操作性のよい部品を吟. 複数ボタン入力という形状に一度収斂したが、その後ゲー. 味して選んだりなと、ゲームのプレイアビリティを高める. ム内容の複雑化に対応するため、ボタン数の増加、アナロ. ための工夫の余地は豊富にある。また、配線を入れ替えて. グジョイスティック入力の(再)導入、振動フィードバッ. わざと入力しにくいジョイスティックを作るなども定番の. クの付加などがなされる。また、Nintedo DS 以降、新し. 遊びであり、ゲーム用入力機器の製作は学習者の関心を魅. いゲーム体験の提供のために入力インタフェースへの注目. きつけやすいことが想定された。. が集まり、Wii リモコンや Microsoft Kinect など、従来. そこで、今回はこれまで開発してきた教材の派生とし. のジョイスティック方式の延長にとどまらないものが現わ. て、センサ技術についての理解を深めることに加え、イン. れ、その様々な使い方の提案が続けられている。. タフェースそのもにについての学習機会を提供するための 教材を開発することとした。すなわち、様々な種類のセン. 2.3 計測を題材としたセンサ教材の開発. サをゲームの入力装置として使うことにより、どのような. これまでに我々は、科学的な計測を題材とした教材の開. センサがあり、またその特性を入力にどう活かすか、そし. 発を進めている [5]。この教材の目的は、「計測」という科. てそれによりゲームの体験がどのように変化するか、につ. 学の基礎的な行為を体験してもらうこと、またその計測を. いて学ばせることを目的として設定した。. センサを利用して電気的に行うことにより、コンピュータ. 先述のセンサ教材では、計測の題材は学習者に自由に選. を用いた計測の自動化および高速化の効果を利用すること. ばせているが、今回の教材では、対象をゲームに絞り、既. で情報科学との結びつきを学び、またコンピュータによる. 存のゲームのインタフェースを変えることがゲーム体験お. データの可視化について学ばせることにある。. よぼす影響を学ぶことに集中させる形式を採用している。. 我々はこれまでに二度、提案教材を使用した科学教室を 開催してきており、教材の開発目的についてはおおむね達 成できたと我々は感じている。その過程で、計測行為より ⓒ 2012 Information Processing Society of Japan. 3.1 ワークショップ用試作機 図 1 に、試作したデバイスの外観を示す。後述するよ 2.
(3) Vol.2012-EC-26 No.5 2012/12/16. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. た。ワークショップブースの配置を図 2 に示す。図にある ように、ワークショップを実施する主テーブルに加え、提 案教材を利用した入力装置を体験できる展示テーブルを用 意し、ワークショップ参加者が構築した入力インタフェー スを体験できるコーナーを設置している。 ワークショップでは、対象とするゲームとして Super. Tux Kart および Tux Racer というオープンソースのレー スゲームを使用した。両方とも、XY 軸のアナログ入力に よって、左右の方向および加速度を調整するもので、ボタ ン操作は今回は使用しなかった。アナログ入力のレース ゲームを対象とした理由は、アナログセンサの特性を活用 できることと、XY 軸それぞれの使い道が明確に分離され 図 2 「かながわサイエンスフェア」におけるブースレイアウト. Fig. 2 Illustration of the booth layout at Kanagawa Science Fair.. ており、それぞれに別々のセンサを利用することに意味を 持たせることができるためである。 ワークショップの進め方は、最初に曲げセンサを X 軸 に、圧力センサを Y 軸に挿して、センサとジョイスティッ. うにワークショップ開催時間および準備期間の制約によ. ク入力の基本的な関係について説明し、次に、センサを入. り、今回はブレッドボードを使用した簡易な実装で済ま. れ替えて体験させることで二つのセンサの特性の違いにつ. せている。85mm×55mm のブレッドボードに mbed NXP. いて理解を促し、最後にどちらのセンサも自由に取り替え. LPC1768 およびミニ USB 端子を載せたもので、指定され. させ、好きな入力インタフェースを構築させる、という手. た箇所にセンサの足を挿して使用する。使用するセンサに. 順とした。. は、Phidgets inc. が提供するスライダやダイヤルなどの. 今回用意したセンサ群の中では、我々が観察した限りで. 基本的なセンサ群の他、曲げセンサや温度センサなどを用. は、X 軸にダイアル入力を、Y 軸にスライダの構成をとる. 意した。今回の試作機では、XY 軸の入力にセンサからの. ことが、入力のわかりやすさでは優れていたように見えた。. アナログ入力をそのまま使用した。ボタンの入力について. 特に、レースゲームがそれ程難しくないため加速度の微調. は、デジタル入力のみ対応している。ブレッドボードのピ. 整が必要なかったため、Y 軸についてはスライダを最大値. ン数制約により、2 ボタンまでの対応とした。. で固定(アクセル踏みっぱなしに相当)できることが、操. ファームウェアはセンサからの入力値を加工し、USB. 作のしやすさにつながったものと考えている。. ジョイスティックの信号に変換して送信する。センサは. ワークショップ参加者の間では、圧力センサの操作感覚. mbed の ANALOG IN の値を 8 ビットで扱い、0∼255 の. について支持が多く、主に加速度入力にこれを利用する者. 値を-128∼+127 に変換する。このため、一部のセンサで. が多かった。しかし中にはハンドル操作に圧力センサを使. は-128∼+127 のすべての範囲を入力することができない。. うことを楽しむ者も数人見られた。圧力センサをハンドル. また、圧力センサなどはニュートラル入力を表す 0 を安定. に使用する場合、ニュートラル入力が先述した理由により. して入力し続けることは難しい。ファームウェアは実習中. 難しいため本来はハンドル操作には向かない筈だが、一人. は変更しないことを想定しているが、値域の変換について. の参加者は、指先の力の加減で操作できるため慣れればか. 特別な対応が必要なセンサについては、プログラムを書き. えって手をほとんど動かさずに簡単に入力できるのがよい、. 換えて対応する。. という意見を述べていた。また、ニュートラル入力ができ ない難しさをかえって楽しんでいる様子も観察された。. 3.2 サイエンスフェアでの事例. 変わったセンサの使い方の例としては、照度センサを. 我々は提案教材を利用したワークショップを、2012 年 7. 使って、会場の天井照明と床との明るさの違いを利用して. 月 14 日にそごう新横浜店内新都市ホールで開催された「か. ハンドル操作に用いようとした者がいたほか、振動センサ. ながわ発・中高生のためのサイエンスフェア」において、. を加速度入力に用い、センサを振ることで前に進むという. 明治大学理工学部の展示として開催した。一回のセッショ. インタフェースを構築した者がいた。. ンが 40 分で、6 名を対象とし、合計 5 セッションを実施し. なお、多く聞かれた意見として、各センサが筐体や机に. た。インストラクターとして、教員 1 名(著者)に加え大. 固定されていないため両手で操作するのに難があるという. 学 2 名が参加した。ワークショップ参加者の年齢層は、イ. ものがあった。これについては、紙箱などの工作も取り入. ベント名は「中高生のための」とあるが、実際には小学校. れることですぐに改善できると考えている。また、ブレッ. 低学年から高校 2 年生にわたった。参加総数は 30 名だっ. ドボードを使用したため配線が抜けやすいなどの苦情が. ⓒ 2012 Information Processing Society of Japan. 3.
(4) Vol.2012-EC-26 No.5 2012/12/16. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. あったが、これについては専用基板およびセンサ固定用ソ ケットの使用によって解決できる。. 4. 議論 ゲーム作りが楽しいのは、ホビープログラマには昔から よく知られていることではあるが、その楽しさをインタ フェースデザインの教材に持ち込むことについては、感触. [2]. [3] [4] [5]. を感じることができた。ワークショップによって、 イン タフェースの工夫によって新しいゲーム体験が産まれると いうことについては理解されたと言えると我々は考えて いる。しかし、どんなインタフェースであれ、ゲームの面 白さに引きずられてプレイするうちに慣れていき、それに. [6]. McGraw-Hill Osborne Media (2003). Gray, D., Brown, S. and Macanufo, J.: Gamestorming: A Playbook for Innovators, Rulebreakers, and Changemakers, O’Reilly Media (2010). Rosenbaum, E. and Silver, J.: Makey Makey, http: //www.makeymakey.com/. 井上明人:ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネス を変える,NHK 出版 (2012). 福地健太郎,茂木大佑:センサによる計測を題材とした小 学校高学年向け教材の開発とその活用事例,情報処理学会 研究報告. HCI, ヒューマンコンピュータインタラクション 研究会報告, Vol. 2011-HCI-145, pp. 1–8 (2011). 社団法人日本機械工業連合会,財団法人デジタルコン テンツ協会:平成 19 年度シリアスゲームの現状調査報 告書,http://www.dcaj.org/report/2007/ix2_2.html (2008).. よってインタフェースのデザインの悪さを突破する例も多 く観察された(サイエンスフェアには単に遊びに来た児童 も多い)。これはゲームを取り入れることの弊害とも言え る点である。面倒なインタフェースだからこそおかしみが 産まれ、それが故に面白く遊べてしまい、またそれへの習 熟過程がまたゲームになってしまうという構造を本教材 は、また「ゲームを作るゲーム」という教材デザインは本 質的にはらんでいる。 また今回は、 「自分用」のものを作る実習であったが、こ れが他の人に遊ばせるためのインタラクションデザインと いう課題であったら、どのような結果が出るかは興味の対 象となる。実際にはインタラクションデザインを職業とし て選択するのであれば、それは必ず他人向けのデザインと いうことになるため、今回の実習ではそうした点について は学ぶことができない。. 5. 関連研究 MIT Media Lab と Sparkfun が共同開発している Makey Makey[3] は、身近な日用品をタッチセンサ化し、それを ゲームインタフェースとして利用するためのツールキット である。一般的なセンサのイメージにとらわれず、青果物 や水槽の水など様々なものをインタフェースとして利用で きる点に優れているが、タッチ認識によるデジタル入力の みを対象としており、またスライダやノブのような物理的 な操作部品を動かすインタラクションは提供されない。. Bill Budge らの “Pinball Construction Set” は、自分 でオリジナルのピンボール台をデザインできる初のコン ピュータゲームである。内部に簡易な物理シミュレーショ ンが取り入れられており、台の形状やレイアウトの自由度 が高く、ピンボールではないゲームをその中に構築する者 も多かった点において、 「ゲームを作るゲーム」の嚆矢と捉 えることができる。 参考文献 [1]. DeMaria, R. and Wilson, J. L.: High Score!: The Illustrated History of Electronic Games, Second Edition,. ⓒ 2012 Information Processing Society of Japan. 4.
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