†学校教育専攻 学校教育専修 指導教員:渡部雅之 原 著 論 文
注意の補償活動にみられる発達的変化
三
木
康
裕
†Developmental Study of Attentional Compensation
Yasuhiro MIKI
1.は じ め に 私たちは,日常生活においてさまざまな活動 を行っている。仕事,学業,家事などの作業を 含む活動については,子どものころには上手く できないものが多い。しかし,年を重ねるにつ れて上達していき,大人になるころには要領よ くこなせるようになっていく。そして,高齢に なるにつれてパフォーマンスは低下していくの が一般的である。全ての認知活動が加齢によっ て低下するのではなく,認知活動の種類によっ てことなる。特にワーキングメモリー機能は比 較的若い段階から加齢による低下が認められる。 ワーキングメモリーとは,人間の短期記憶を 司る機能の一つであり,さまざまな活動をする にあたっての,情報処理を行う役割をもってい る。例 え ば,会 話・読 書・計 算・推 測 な ど, 種々の認知課題の遂行中に,情報がいかに操作 され変換されるかといった,情報の処理に携わ る機能である。さらに,処理した情報を活性化 状態において一時的に維持する機能を支える働 きがあり,思考や学習といった様々な認知活動 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る。 (Baddeley, 1986ⅰ),1996ⅱ); 苧阪,2002ⅲ))。ワーキング メモリー内の機能は大きく 3 つのグループに分 け ら れ,視・空 間 ス ケ ッ チ パ ッ ド (visuo-spatial sketchpad),音韻ループ (phonological loop),中枢制御部 (central executive) とされ ている (Baddeley, 1986, 2000ⅳ); Baddeley & Logie, 1999ⅴ))。視・空間的スケッチパッドは, 視覚的・空間的情報処理を行い,音声ループで は言語に関する情報処理を行い,これら二つを 合わせて下位システムと呼ばれている。中枢制 御部ではこの 2 つのグループからの情報をまと めて管理する。管理の過程において重要とされ ているのが,注意制御という役割で,特定の対 象に注意を向けると同時に他の対象を抑制する 働きがある。それぞれは互いに独立しており, 各グループが情報を保持・処理することが,複 雑な認知過程の基盤となると考えられている。 さらに,これらのワーキングメモリーの特徴 として,容量という概念がある。これは,その 人が可能である情報処理能力を注意の容量とし てとらえ,その容量内であれば,短期的な情報 処理が可能であるという定義である (Baddely, 1986)。容量はまた注意資源ともみなされ,個 人差はあれど,限りがあることも知られている。 成人段階でもっとも大きくなり,加齢ともに減 少する。 加齢よって物事を右脳左脳の両方を用いるよ うになり,Cabeza (2001)ⅵ)はこれを HAROLD (hemispheric asymmetry reduction in oldadults) と名づけた。Reuter-Lorenz (2002)ⅶ) は,それが注意資源の補償活動を強く反映して いるという仮説を唱えた。もしこの仮説が妥当 であるならば,音韻ループのみを用いる課題や, 視空間スケッチパッドのみを用いる課題に比べ て,中枢制御部を共に用いる場合にパフォーマ ンスが低下するのではないか。本研究では,時 間経過のモニタリング機能が中枢制御部にある ことを確認し,HAROLD がワーキングメモ リーの発達のちがいを反映してどのように変化 するかという点を検討するため,篠原 (2002) の時間評価課題を基に 4 つの二重課題を実施し, 高齢者と小学生における注意資源の補償につい て検討する。 2.実験 1 計画 小学 4 年生・大学生・高齢者 (年齢 66〜75 歳) 各 10 名を被験者とした。パーソナルコン ピューター上に示される 7 つの数字の記憶・再 生を課した。数字記憶のため用意した数字記憶 課題は 2 つあり,空間的注意資源を用いる課題 (視空間課題) と,聴覚的・言語的注意資源を 用いる課題 (音韻課題) である。それぞれにつ いて時間作成を課さない非時間課題と,時間作 成を二重課題として課す時間評価課題があっ た。 (以下,視空間・非時間課題を MD-1,視 空間・時間課題を MD-2,音韻・非時間課題を PD-1,音韻・時間課題を PD-2 とする。) 3.実験 1 方法 被験者はパーソナルコンピューターから 30cm ほど目を離し,「3,2,1,用意はじめ。」 の音声と共に実験を開始した。MD-1 課題では, 7 個の数字が 10 秒間提示された。提示された 7 つの数字は画面全体に,ランダムに配置されて おり,数字は 3 cm 四方ほどの大きさの,1 桁 の整数であった。数字と数字の間は 10 cm ほ どの間隔があり,被験者はこの数字と位置の記 憶を求められ,7 つの数字を「声を出さずに」 10 秒間記憶した。その後 1 秒の空白時間が設 けられ,その次に 1 つの数字を除いた 6 つの数 字が再提示された。それから 4 秒経過時に,再 提示された数列はどの数字が除かれていたかを 答えた。4 秒経過時に合図音が鳴り,被験者は その音に従って解答することが求められた。 PD-1 課題では,7 個の数字列が 10 秒間提示 された。提示された 7 つの数字は画面の中央に, 横一列に配置されていた。数字は 3 cm 四方ほ どの大きさの,1 桁の整数であった。数字と数 字の間は 5 cm ほどの間隔があり,被験者はこ の数字を「声に出しながら」10 秒間記憶した。 これは,音声による記憶を促すためであった。 それから 4 秒経過時に,再提示された数字は元 の数列においてどの数字の右隣であったかを答 えた。4 秒経過時の合図は先程と同様である。 それぞれの課題は休憩なしでまず 10 試行行 い,十分な休息を取った。そのあと,MD-2 課 題と PD-2 課題を行った。2 つの課題の手順は, 基本的に先程の 2 つの課題と同様だが,4 秒経 過時の合図音がなく,被験者は 4 秒の時間経過 を自分で考えることにより,適切なタイミング で解答する必要があった。 解答として,被験者が入力したキー情報が経 過時間とともに記録された。 4.実験 1 結果 4 つの課題において,解答開始とした 4 秒経 過時点と被験者の解答開始時点の時間のずれを 算出し (以下「時間のずれ」と呼ぶ),年齢群 ごとの平均値を Fig. 1〜4 に示した。 どの要因で時間のずれが生じたのかを検討す る。数字記憶課題の種類,時間課題の有無,年 齢群,性差を要因とした,4 要因の分散分析を 行った。性差以外の要因で差がみられ,多重比 較によると小学生と大学生,大学生と高齢者と の間では差がみられるが,小学生と高齢者の間 では差がみられなかった。小学生も高齢者と同 様に注意の補償活動があったことを示唆してい る。 数字記憶への注意はどうだったのかを検討す る。先ほどと同じ要因の 4 要因の分散分析を 行った。全ての要因で差がみられなかった。こ れはどの被験者でも,時間課題を課さない場合 も課した場合でも,正しく解答しようとする働 きがあったことを意味する。
視空間スケッチパッドおよび音韻ループを用 いる課題において,時間課題の有無がどの程度 時間のずれに影響したかを個別に検討する。2 種類ずつ課題を組み合わせて分散分析を行った。 4 要因の分散分析において性差の主効果はみら れず,年齢群との交互作用も差がみられなかっ たので,要因から省くことにした。 時間評価のずれを従属変数とし,年齢群と視 空間課題の種類 (MD-1・MD-2) を要因とし て,後者のみ繰り返しのある 2 要因の分散分析 を行った。その結果,課題要因の有意な主効果 が認められた (F=113.47, df=1/27, p<.01)。 年齢群に有意な主効果は認められなかった (F=3.13, df=2/27, n. s.)。年齢群と課題との交 互作用も,有意ではなかった (F=1.66, df= 2/27, n. s.)。 時間のずれを従属変数とし,年齢群と音韻課 題の種類 (PD-1・PD-2) を要因として,後者 のみ繰り返しのある 2 要因の分散分析を行った。 課 題 要 因 の 有 意 な 主 効 果 が 認 め ら れ た (F=21.57, df=1/27, p<.01)。年齢群において 有意な主効果が認められた (F=7.34, df=2/27, p<.05)。課題と年齢群との交互作用も有意で あった (F=8.31, df=2/27, p<.05)。 Fig. 1〜4 において,MD 課題のほうが全体 的に時間評価のずれが大きいことが認められる。 時間のずれにおいてどのくらい違いがあったか を検討する。まず,時間評価を含まない MD-1 課題と PD-1 課題では,どの程度差が見られた かを検定した。時間のずれを従属変数とし,年 齢群と課題の種類 (MD-1・PD-1) を要因と して,後者のみ繰り返しのある 2 要因の分散分 析を行った。課題要因の主効果は認められな かった (F=2.41, df=1/27, n. s.)。年齢群にお いて主効果が認められた。(F=11.47, df=2/27, p<.01) 課題と年齢群との交互作用で,有意差 が認められた (F=3.69, df=2/27, p<.05)。 では,時間評価を加えた 2 種の課題において, どの程度時間のずれが生じたか。時間のずれを 従属変数とし,年齢群と課題の種類 (MD-2・ PD-2) を要因として,後者のみ繰り返しのあ る 2 要因の分散分析を行った。課題要因の有意 な 主 効 果 が 認 め ら れ た (F=28.21, df=1/27, p<.01)。年齢群において有意な主効果が認め られた (F=20.39, df=2/27, p<.05)。課題と年 齢群との交互作用においても有意な主効果が認 Fig. 1 MD-1 課題による各年齢群の時間評価のずれ Fig. 2 MD-2 課題による各年齢群の時間評価のずれ Fig. 3 PD-1 課題による各年齢群の時間評価のずれ Fig. 4 PD-2 課題による各年齢群の時間評価のずれ
められた (F=5.04, df=2/27, p<.05)。 5.実験 1 考察 正答数に関する分析の結果,全ての課題,全 ての年齢群において,性差を問わず正答数の違 いは見られなかった。これはどの被験者でも, 時間課題を課さない場合も課した場合でも,正 しく解答しようとする働きがあったことを意味 する。 では,時間のずれはどうだろうか。Fig. 1 か ら Fig. 4 までを見ると全体的 に MD-2 課題が 時間のずれが大きい。小学生と高齢者は,時間 課題を課された場合に,時間のずれが顕著に なっている。4 要因の分散分析の結果,課題間 と年齢群において大きな差がみられる。しかし ここでも,性差による差はみられないため,本 実験で用いられた注意資源は,性別によって得 意不得意の分かれるものではなかったと言える。 MD-1 課題と PD-1 課題の時間のずれは,課題 間では差は見られなかったが,MD-2 課題と PD-2 課題との間に差が見られる。時間課題が 追加されたことで,MD-2 課題のほうが時間の ずれが顕著になっている。これについては 3 つ の解釈が可能である。 一つ目は,中枢制御部以外のシステムが時間 注意に関する機能を担っていることである。 MD-2 課題のほうが PD-2 課題と比べて,時間 評価のずれが大きいということは,視空間ス ケッチパッドにより大きな負荷がかけられたこ とになる。両課題に共通する点は時間課題であ るので,時間評価をワーキングメモリーで処理 する際に,視空間スケッチパッドの注意資源を 多めに用いるため,MD-2 課題においてより大 きな時間のずれが生じたという可能性がある。 Fig 2 を 見 る と,小 学 生 と 高 齢 者 に お け る MD-2 課題での時間評価のずれは,大学生と比 べて大きく差が開いている。注意資源の少ない 小学生と高齢者は,MD-2 課題において視空間 スケッチパッドに,非時間課題と時間課題とい う二重の負担がかかり,時間評価のずれが大き くなったのではないか。これまでの先行研究で は,中枢制御部に時間評価を処理する機能が備 わっていることが主張されていたが,それだけ でなく視空間スケッチパッドにも,時間評価を 処理する機能が備わっている可能性がある。 二つ目は,ワーキングメモリー自体の発達の 違いである。高齢者は全体的に,音韻ループに 比べて,特に視・空間スケッチパッドの方が加 齢による衰えが大きいという解釈である。また, 小学生の発達段階においても,音韻ループのほ うが先に成熟し,視空間スケッチパッドの発達 は遅れているため,今回の実験でも MD 課題 のほうが時間評価のずれが大きくなってしまっ たとも解釈できる。しかし,音韻ループに比べ て,特に視・空間スケッチパッドの方が機能と して劣ることを示した先行研究はないので,こ の可能性は低いだろう。 そこで考えられるもう一つの可能性は,難易 度についてである。MD 課題が PD 課題よりも 難易度が高いため,より多くの注意資源が必要 であったことである。そのため中枢制御部では 視空間スケッチパッドに向けた補償活動が行わ れ,時間課題に対して注意を向けることが困難 であったかもしれない。MD 課題に取り組む際 にはより多くの注意資源を用いたため,結果と して PD 課題のほうが時間課題について注意を 向けることができたと解釈される。PD 課題は 時間課題が課せられた場合,年齢間での時間評 価の差が見られたが,MD 課題では差は見られ なかった。つまり,小学生や高齢者だけでなく, 大学生にとっても MD 課題は難易度が高かっ たため,その結果時間評価のずれが大きくなっ たと考えられる。 MD-1 課題と PD-1 課題との比較では,課題 間の主効果は見られず,課題と被験者との交互 作用も差が見られていない。時間課題を課さな い場合では難易度に差はなく,その年齢群も等 しいパフォーマンスを見せたのである。逆に時 間課題を課した場合,MD-2 課題と PD-2 課題 では,課題間において主効果が見られる。小学 生と高齢者は,HAROLD のような注意資源の 補償活動によって,難易度の違いが生じたのか もしれないが,十分な注意資源が備わっている はずの大学生でも,MD-2 課題の時間評価のず れが大きかったのは,難易度が問題だったので はないか。もし,この差が難易度によって生じ たものだとすれば,二重課題において音韻ルー
プより大きな負荷が視空間スケッチパッドにか かったといえる。この仮説を否定することがで きれば第 3 の可能性も消え,はじめて第一の可 能性について検討することができる。 以上のことから,時間処理が中枢制御部のみ で行っているのか否かという結論を下す前に, MD 課題は PD 課題に比べて難易度の違いが あったという可能性を排除するために,MD 課 題の内容を変えて,なるべく PD 課題と難易度 の差をなくした上で,実験 1 での結果を確認す るという目的で実験 2 を行う。 6.実験 2 計画 実験 1 と同様,小学 4 年生・大学生・高齢 者 (年齢 66〜75 歳) を各 10 名被験者とした。 各年齢群とも男女 5 人ずつで,特記すべき障害 はもっていなかった。キーボードのテンキーの みを模した,USB 式電卓を付属品として取り 付け,被験者はこの電卓のキーを押すことを求 められた。 実験 1 の MD-2 課題では,大学生を含む被 験者全体の時間評価のずれが PD-2 課題よりも 大きく,2 つの課題の難易度に大きな違いがあ ると考えた。そこで大学生に,視空間スケッチ パッドの注意資源を主に用いるような,新たな 視空間課題を実施して,実験 1 での大学生にお ける PD-1 課題と PD-2 課題とで,時間評価の ずれが極力等しくなるように,難易度を調整し た。 従来の視空間課題では,画面上にランダムに 7 つの数字を表示し,被験者に場所とその数字 を記憶してもらった。このランダムの配置が難 しい原因ととらえ,過去に,Folk らの行った 実験を参考にした (Folk et al., 1992)ⅷ)。この 実験では上下左右に 5 つの箱を用意し,その中 に刺激物をいれた。被験者はしばらく記憶して から,特定の条件を満たす刺激物の場所を示す ことを求められ,その反応時間が計測された。 今回の実験では,被験者に提示する画面に正 方形 3×3 の 9 マスの場所を設定し,そこに数 字を配置した。全 9 マスのうち 7 マスに,1〜9 の数字を一つずつ 10 秒間提示し,その間は静 かに記憶してもらった。その 1 秒後,前に提示 した 7 つの数字のうち一つだけを再提示した。 被験者はその数字のあったマスを選択し,同じ く 3×3 のキーが備わった USB 式電卓のボタン を押すことで解答した。 このために用意した数字記憶課題は空間的注 意資源を用いる課題 (視空間課題) の一種であ り,実験 1 以上に空間的注意資源を用いる性格 の強い課題 (視空間・時間課題) である。実験 1 と同様に,時間作成を課さない非時間課題と, 時間作成を二重課題として課す時間評価課題が あった。時間評価課題によって注意分割を生じ させ,非時間課題と比較することにより,各年 齢群でどの程度時間作成にズレが生じるかを測 定し,注意資源の補償が生じる程度を比較した。 年齢層の 3 群 (小学生・大学生・高齢者) は被 験者間要因であり,2 種類の課題は被験者内要 因 で あ る。(以 下,視 空 間・非 時 間 課 題 を MD-3,視空間・時間課題を MD-4,とする。) 本実験の被験者は,実験 1 の被験者と同じな ので,PD-1 課題と PD-2 課題については,実 験 1 で実施した結果を流用する。 7.実験 2 手続き 被験者はパーソナルコンピューターから 30 cm ほ ど 目 を 離 し,「3,2,1,用 意 は じ め。」 の音声と共に,正方形 3×3 の 9 マスの中の 7 つに,1 桁の数字が提示されるのを記憶した。 第一のタイプでは,被験者が回答する際 4 秒 の間隔をあけた。最初の 7 つの数字が提示され た画面が消えてから 4 秒後にブザー音が鳴り, 被験者はその音が鳴ったらすぐに USB 式電卓 の該当する位置のボタンを押して回答した (以 降,MD-3 課題とする)。第二のタイプでは, 被験者はブザー音なしに 4 秒の間隔を心の中で カウントしたあと,正解と思うボタンを押して 回答した (以降,MD-4 課題とする)。 データとして,被験者のボタン入力時間と, 押したボタンの情報が記録された。 8.実験 2 結果 実施した 2 課題において,解答開始とした 4 秒経過後と被験者の解答開始時点での時間のず
れを算出し,年齢群ごとの平均値を Fig. 5 と Fig. 6 に示した。 どの要因で時間のずれが生じたのかを検討す る。時間のずれを従属変数とし,数字記憶課題 の種類 (MD 課題と PD 課題),時間課題の有 無,年齢群,性差を要因とした,4 要因の分散分 析を行った。数字記憶課題の種類で有意な主効 果がみられた (F=5.34, df=1/27, p<.05)。時 間課題の有無で主効果がみられた (F=117.28, df=1/27, p<.01)。年齢群において主効果がみ られた (F=134.53, df=2/27, p<.01)。性差に お い て 主 効 果 は み ら れ な か っ た (F=1.98, df=1/27, n. s.)。 次に各要因との交互作用について検討する。 数字記憶課題の種類と時間課題の有無との交互 作用はみられなかった (F=1.00, df=1/27, n. s.)。 数字記憶課題の種類と年齢群との交互作用もみ られなかった (F=1.34, df=2/27, p<.01)。数 字記憶課題の種類と性差との交互作用もみられ なかった (F=2.39, df=1/27, n. s.)。時間課題 の有無と年齢群には有意な交互作用がみられた (F=23.48, df=2/27, p<.01)。時間課題の有無 と 性 差 に も 有 意 な 交 互 作 用 が み ら れ た (F=30.97, df=1/27, p<.01)。年齢群と性差と の交互作用はみられなかった (F=0.97, df= 2/27, n. s.)。 また,数字記憶課題の種類,時間課題の有無, 年齢群との交互作用はみられなかった (F= 1.56, df=2/27, n. s.)。数字記憶課題の種類,時 間課題の有無,性差との交互作用もみられな かった (F=1.47, df=1/27, n. s.)。数字記憶課 題の種類,時間課題の有無,年齢群,性差との 交互作用もみられなかった (F=2.34, df=2/27, n. s.)。 数字記憶への注意はどうだったのかを検討す る。10 試行中何問正解したかという正答数を 従属変数とし,数字記憶課題の種類,時間課題 の有無,年齢群,性差を要因とした,4 要因の 分散分析を行った。数字記憶課題の種類で主効 果はみられなかった (F=1.56, df=1/27, n. s.)。 時間課題の有無で主効果はみられなかった (F=2.37, df=1/27, n. s.)。年齢群において主効 果はみられなかった (F=0.93, df=2/27, n. s.)。 性 差 に お い て 主 効 果 は み ら れ な か っ た (F=1.37, df=1/27, n. s.)。 次に各要因との交互作用について検討する。 数字記憶課題の種類と時間課題の有無との交互 作用はみられなかった (F=2.37, df=1/27, n. s.)。 数字記憶課題の種類と年齢群との交互作用もみ られなかった (F=1.20, df=2/27, n. s.)。数字 記憶課題の種類と性差との交互作用もみられな かった (F=2.28, df=1/27, n. s.)。時間課題の 有無と年齢群との交互作用もみられなかった (F=1.09, df=2/27, n. s.)。時間課題の有無と性 差との交互作用もみられなかった (F=3.27, df=1/27, n. s.)。年齢群と性差との交互作用も みられなかった (F=0.35, df=2/27, n. s.)。 また,数字記憶課題の種類,時間課題の有無, 年齢群との交互作用はみられなかった (F= 2.31, df=2/27, n. s.)。数字記憶課題の種類,時 間課題の有無,性差との交互作用もみられな かった (F=3.54, df=1/27, n. s.)。数字記憶課 題の種類,時間課題の有無,年齢群,性差との 交互作用もみられなかった (F=3.59, df=2/27, n. s.)。 難易度を調整した結果,実験 1 の MD-1 課 Fig. 5 MD-3 課題による各年齢群の時間評価のずれ Fig. 6 MD-4 課題による各年齢群の時間評価のずれ
題と PD-1 課題に比べて,実験 2 の MD 課題 (MD-3) と実験 1 の PD 課題 (PD-1) は差が 少なくなっている。そこで,難易度に差がなく なったかを検討する。 時間のずれを従属変数とし,年齢群と課題の 種類 (MD-3 と PD-1) について,後者のみ繰 り返しのある 2 要因の分散分析を行った。課題 要 因 に お け る 主 効 果 は 認 め ら れ な か っ た (F=1.29, df=1, n. s.)。年齢群において,有意 な主効果が認められた (F=6.56, df=2, p<.01.)。 課題と年齢群との交互作用は認められなかった (F=0.70, df=2, n. s.)。 続いて,時間のずれを従属変数とし,年齢群 と課題の種類 (MD-4 と PD-2) について,後 者のみ繰り返しのある 2 要因の分散分析を行っ た。課題要因における主効果は認められなかっ た (F=0.11, df=1, n. s.)。年齢群において,有 意 な 主 効 果 が 認 め ら れ た (F=47.63, df=2, p<.01)。課題と年齢群との交互作用は認めら れなかった (F=1.44, df=2, n. s.)。 年齢群について,どの年齢間で差があったの かを検討するために,多重比較を行った。小学 生と大学生,大学生と高齢者との間では差がみ られるが,小学生と高齢者の間では差がみられ なかった。 9.実験 2 考察 実験 1 の Fig. 3 と,実験 2 の Fig. 5 を比較す ると,実験 1 の音韻課題 (PD-1) と実験 2 で の視空間課題 (MD-3) との間で,時間のずれ は少ないと捉えることができる。この両課題に おいては,時間のずれにおいて課題の種類によ るパフォーマンスの違いは見られなかった。年 齢群での違いはみられるものの,課題と年齢群 の交互作用において差は見られなかった。この 2 つの課題は時間評価を含まないので,ワーキ ングメモリーの各機能に特別大きな負担がか かっていたとはいえない。そのため,課題の違 いによる時間のずれはきわめて小さくなったと 解釈できる。正答数について検討すると,どの 年齢群でも差は見られず,課題要因の差も見ら れなかった。これは,全ての被験者が両課題を 問題なく解答できたことを意味する。これらの ことから,時間のずれと正答数の両方において 課題間の差は見られなかったため,新しく実施 された視空間課題 (MD-3 課題) と,実験 1 の 音韻課題 (PD-1 課題) との難易度は等しく なったと解釈できる。また,性別による違いも 見られなかったため,実験 1 と同様,どちらか に有利に働くような注意はなかったといえる。 実験 1 の音韻課題 (PD-1) と実験 2 での視 空間課題 (MD-3) に時間課題を追加した,実 験 1 の音韻時間課題 (PD-2) と実験 2 の時間 視空間課題 (MD-4) について検討する。両課 題間で,時間評価のずれにおいて課題の種類に よるパフォーマンスの違いはみられなかった。 年齢群での違いはみられるものの,課題と年齢 群の交互作用において差は見られなかった。こ れは,課題間において被験者の解答時間のずれ に差はないということが分かる。正答数につい ても検討すると,課題要因と年齢群の両方にお いて差は見られなかった。MD-3 課題と PD-1 課題に時間評価を加えた場合,二重課題によっ て時間のずれは大きくなったものの,PD-2 課 題と MD-4 課題との間で,数字の解答に対す る負荷はそれほど変化していないことが分かる。 時間のずれにおいても両課題間の差は見られな い。そのため時間に関する注意は,PD-2 課題 と MD-4 課題においてほぼ同程度の負荷で あったことが分かる。 時間のずれと正答数という 2 つの観点におい て,音韻時間課題と視空間時間課題では課題間 の差は見られなかった。つまり,ワーキングメ モリーの処理として,時間課題は音韻ループと 視空間スケッチパッドのどちらかに特別に大き な負担を強いたとは言えない。そのため,時間 課題は音韻ループと視空間スケッチパッドのど ちらかに偏って用いられていないことが証明さ れた。ワーキングメモリーの機能として,音韻 ループと視空間スケッチパッドの両方から独立 している組織は,中枢制御部である。そのため, 時間課題の処理,すなわち時間の情報処理を 行っている組織は,中枢制御部であると解釈で きる。これは,Fortin らの時間情報処理に関 す る 一 連 の 研 究 (Fortin & Breton, 1995ⅸ); Fortin & Rousseau, 1987ⅹ); Fortin, Rousseau, Bourque & Kirouac, 1993ⅺ))や,篠原 (2002)
の先行研究を支持する結果となっている。ただ し,中枢制御部が主体となって時間評価を行う 情報処理を行っているという先行研究での主張 を受け入れる前に,もう一つ検討しておくべき 可能性がある。 それは,時間評価を行う情報処理が,中枢制 御部を含むワーキングメモリー全体で行われて いる可能性である。各機能で等しく情報処理の 負荷を分散させているという,注意分散説であ る。そのため,音韻時間課題 (PD-2) と時間 視空間課題 (MD-4) においても差が見られな かったのである。もしそうならば,今回の実験 において中枢制御部は時間評価の一部のみを処 理すればいいので負担は軽くなり,時間評価を 加えた二重課題において注意の補償活動がみら れた場合でも,中枢制御部で特別大きな負荷が 生じたとはいえない。たとえ,小学生と高齢者 のようにワーキングメモリーの機能が大学生と 比べて劣っている場合でも,音韻課題と視空間 課題の両方について,過度の負担を伴わない注 意の補償活動を行うことができる。その結果, 本実験でも大学生と変わらない結果が期待でき, どの年齢群においても,大きなパフォーマンス の差は見られないはずである。しかし実際には, 実験 1 の Fig. 2 や,実験 2 の Fig. 6 のように, 小学生と高齢者の時間評価のずれは大学生と比 べて差が顕著である。分散分析においても,年 齢群間での差は見られる。そのため,時間評価 を行う注意資源をワーキングメモリーの各機能 に分散させているという仮説は棄却されるだろ う。 10.総 合 考 察 実験 1 と実験 2 を通して,中枢制御部が主体 となって時間評価を行う情報処理を行っている という,先行研究での主張が支持されるという 結果になった。そのため音韻ループと視空間ス ケッチパッドでは,時間評価を行う情報処理が 行われていない,あるいはわずかにしか行われ ていないので,その分中枢制御部に大きな負荷 がかかることになった。 小学生と高齢者は音韻ループと視空間スケッ チパッドの両方が,大学生と比べて機能が劣っ ている。しかし,ワーキングメモリーの機能が 劣 っ て い た と し て も,高 齢 者 に つ い て は, HAROLD のような中枢制御部からの補償活動 が作用することで,大学生と変わらないパ フォーマンスを見せることができる。本実験で も,できるだけ正解を多くすることを求めてい たので,高齢者のワーキングメモリー内では, 音韻ループと視空間スケッチパッドのそれぞれ に負荷のかかる課題を行うために注意資源が割 かれるという,中枢制御部からの補償活動がな されたと言える。その結果正答数の検定でも, 年齢群での差は見られなかったが,一方で時間 のずれは大学生と比べて顕著に劣っていたこと がその裏づけとなる。 続いて小学生はどうだろうか。正答数に関す る分析では,小学生は高齢者と比べて時間のず れも正答数も差がない。小学生も高齢者と同様 に,大学生と比べて機能が劣っている状態であ るが,両課題の正答数は大学生と変わらない成 績 を 残 し て い る。し か し そ れ に 追 加 し て, MD-4 課題と PD-2 課題のように,時間評価な どの時間に関する注意資源をさらに必要とされ た場合には,大学生と比べて時間のずれが顕著 に表れ,高齢者と同程度の成績であった。しか し,正答数に関しては大学生と差は見られな かった。 これらの解釈として考えられるのは,子ども における注意資源の補償活動である。高齢者の HAROLD のような,中枢制御部の注意資源を 他の視空間スケッチパッドや音韻ループに分割 することで,課題のパフォーマンスを一定水準 以上に保とうとする働きがあったのではないか。 その結果,中枢制御部自身の行うべき時間評価 のための注意資源をあまり用いることができな かったことが考えられる。注意の補償活動の代 償となる,中枢制御部の注意資源の不足により, 小学生も高齢者と同様に時間評価は適切に行う ことができなかったと考えられる。その結果, MD-4 課題と PD-2 課題では年齢群による時間 評価のずれが顕著に表れたのではないだろうか。 本実験のような行動研究では,課題モデルや 被験者の相対的な差での検討しかできていない。 実際のワーキングメモリーでの活動をより詳し く 検 討 す る た め に は,fMRI や PET な ど の
ニューロイメージング手法との併用が理想的で ある。この手法は脳の血流量を感知して,血流 量の多い部分を捉え,その部分は現在その人の 思考に使用されていると判断している。そのた め,ニューロイメージング手法単体では,単純 な血流量しか測定できないため,詳細な脳のメ カニズムまでは特定できない。行動研究と ニューロイメージング手法との併用により,さ らなる脳のメカニズムを解明できるだろう。 引 用 文 献
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