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ノンエリートの学校から仕事への移行における日英比較 ―初期キャリアにおける雇用地位の変化と労働条件―

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ノンエリートの学校から仕事への移行における日英比較

―初期キャリアにおける雇用地位の変化と労働条件―

佐 野 正 彦*

A Comparative Study on Early School Leavers’

Transition from School to

Work between Japan and the UK

Employment Positions and its Shifts and Working Condition in early Careers

-Masahiko SANO

キーワード:学校から仕事への移行、若年労働市場、失業、NEET、縦断的調査

Abstract

We conduct a comparative study on early school leavers’ transition from school to work between Japan and the UK, with focus on their employment positions and its shifts and working conditions in their early career. We utilize data sets of major longitudinal studies in each country to monitor the process of youth transition from school to work, the youth Cohort Study of Japan and the Understanding Society: the UK Household Longitudinal Study.

Early school leavers in both countries are more likely to experience job insecurity or labour market exclusion in the transition to adulthood, compared to the youth with higher educational background. However more detailed analysis in this paper reveals that there are considerable differences in the way which and the extent to which they confront difficulties both inside and outside the labor markets.

はじめに

「若者の学校から仕事への移行」が世界的に深刻な状況となって久しい。欧米ではすでに1980 年代当初より、第二次オイルショックを契機に石油に依存してきた世界の経済成長とその構造は 終わりを告げ、同時に経済のグローバル化やIT革命に象徴される急激な技術革新が進むなかで、 産業構造や労働環境は地殻変動的な変容を遂げた。それはまた、人々の雇用環境や労働市場への 参入・定着のプロセスを大きく変化させ、貧困や格差の拡大、社会的排除のリスク拡大などの 震源として、私たちの経済や社会全体に深刻な影響をもたらすこととなった(1)。失業率の増大、 パートタイムや有期雇用など非正規の低賃金で不安定な雇用の急激な拡大、非労働力化して労働 市場から排除されるリスクの拡大などを示す指標をみると、労働市場へ新規に参入しようとする 若者の間には、より深刻なかたちでこの危機が広がっていることがわかる(2) * 大阪電気通信大学

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日本では、こうした矛盾は、欧米に約10年遅れる1990年代のバブル経済崩壊後に深刻化する。 2000年代に入ると、マスコミや政策文書に、「フリーター」(3)や「ニート」(4)(働かない若者)の増 加に象徴される若者の雇用の不安定化や非労働力化の問題が頻繁に取り上げられるようになり、 労働市場参入後も早期にかつ大量に離職してしまう問題なども含め、若者の雇用及び移行問題は 重大な「社会問題」として認識されるようになった(5) こうした若者の雇用や移行に関わる問題は学術的にも一大関心事となり、これまでに内外での おびただしい調査や研究が蓄積している(6)。この若者の雇用問題への学術的アプローチに関して 重要で不可欠な視点とされていることの一つが、若者の求職活動や就労状況は短期間のうちにも 変化を繰り返し、流動的であるがゆえに定点スポットで観察するのではなく、より長期にわたる 移行過程として捕捉する必要性である。「若者の学校から仕事への移行」(youth transition from school to work)というタームは学術用語として世界的に定着しており、この分野の不可欠かつ有 効な調査・研究方法としては、パネル調査やコーホート調査といわれる特定の若者集団を長期に わたって追跡、観察する縦断的調査が採用され展開している(7) 学校を離れて比較的短期間のうちに仕事を見つけ、一部にはジョブホッピングといわれる離転 職を繰り返しながら適職を見つけるための流動的な期間を挟みつつも、その後は安定的、継続的 な仕事に移行、定着するというパターンは、すでに多くの若者には過去のものになっている(8) むしろ、その標準的ルートから外れる若者が大量に発生し、不安定な仕事の離転職や失業・無業 状態への出入りを繰り返し、目まぐるしい雇用上の変転を経験するなど、仕事への移行の道のり は長期化し、多様化し、行きつ戻りつするジグザグで複雑なプロセスとなっている(9)。また、初 期キャリアにおける劣悪で不安定な仕事経験や、失業や労働市場からの排除の経験は、一時的な 問題をもたらすだけでなく、その後のキャリアにも永続的で深刻なマイナス効果、いわゆる「傷 跡効果」(scarring effects)をもたらすことなども確認されている(10) そこで本稿の目的は、若者の雇用、移行の実態を、プロセスとして経時的に捉えることのでき る既存の縦断的調査データに依拠しつつ、そこに国際比較という視点を入れて、あらためて若者 の移行問題を捉え直すことである。上にも述べたように、1980年代以降の若者の雇用及び移行危 機は、景気回復期にあっても構造的問題は改善されないこと、とりわけ、「不利な状況にある若 者の数が著しく増大した場合、・・・・大規模な取り残された若者の中核的集団を生み出し、若 者の雇用見通しがいつまでも暗いままであり続けるという危険性が高くなる」と認識されてい る(11)。同時に、リーマンショックを契機とする世界同時不況は、若者の間で雇用危機をより先 鋭化させ、広範かつ深刻な打撃を与える(12)。例えば「ネゴシエート(Negotiate: Overcoming early job-insecurity in Europe)」 と い う 調 査 プ ロ ジ ェ ク ト を 立 ち 上 げ たEUの 欧 州 委 員 会 (European Commission)は、若者が、成人期への移行において、雇用不安や労働市場からの排 除を経験することの長期的および短期的な影響を検証すること、またその悪影響を防ぐ効果的な 労働政策や若者支援政策を検証、構築することを、欧州共通の喫緊かつ優先的な課題であると認 識する(13) しかしながら、このように世界共通の若者の雇用問題、移行危機とでもいうべき状況は、他方で 各国固有の現れ方をしており、問題の深刻さの度合いや質にも国によって大きな違いがある(14) 若者の雇用や移行問題を考察する際の基本的な指標とされる、失業率やNEET率、雇用全体に占 めるパートや臨時雇用など非正規雇用の割合においても然りであり、あるいはそれらの男女格差 や学歴格差、階層格差などの現れにおいても、国ごとに大きな違いがある(15)。若者の雇用、移

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行問題をより大きな視点で総合的、抜本的に再検討しようとする際、若者の移行を大きく規定す る若年労働市場の構造的問題、そこでの若者の雇用状況や労働条件の比較分析することが、その 前提的、基礎的作業の一つとして、不可欠であると考える。 本稿では、この基礎作業として、我が国と英国の比較をする。その際、焦点を当てるのは、若 者の雇用や移行を考察する際に最も基本的な指標となる、労働市場における若者の雇用地位やそ の変化、さらに、初期キャリア段階での基本的な労働状況や条件である。比較対象とする若者層 は、一般に、失業や不安定な仕事に就くリスクが高く、また、就労後においても賃金や労働内 容、技能を向上させる機会など、基本的労働条件において不利な状況におかれる傾向が高いとい われる、非大卒のいわゆる早期離学、低学歴層である(16)。それぞれの国の早期離学層の雇用・ 移行実態の比較に際して活用する調査データは、若者の実態がより流動的で変化の多いことを視 野に入れ、日英の代表的な縦断的調査である「若者の教育とキャリア形成に関する調査(2007 ~ 2012)」と「社会理解調査:英国世帯縦断研究(Understanding Society: the UK Household Longitudinal Study)」(以下「Understanding Society」と略称する)のデータを使用する。比 較対象となる時期は、リーマンショックを契機とする世界同時不況期にあたる2007年から2010年 にかけての時期である(17)

データについて

本稿において検討するデータについて説明する。日本に関するデータは、我われ「若者の教育 とキャリア形成に関する研究会」が実施した「若者の教育とキャリア形成に関する調査(2007 ~ 2012)」というパネル調査である。この調査は、2007年4月1日現在で20歳である全国の若者 を対象とし、2007年から毎年、2012年までの5年間にわたって追跡した調査である(18)。有効回 収サンプル数は、第1回調査の1687人から始まり最終の第5回調査では891名となっている。本 分析は、20歳代初期4年間のトータルな移行状況の比較であることから、4回までの調査にたい し一貫して回答をしてくれたサンプルを抽出、使用している。そのうちの、2007年(20歳)時点 ですでに学校を終え、教育から離脱している者を、早期離学者として限定して分析を行ってい る。そのような者のサンプル数は、353人である。具体的な学歴でいえば、4年制大学卒未満、 主として高校、短大、高等専門学校や専門学校の卒業者あるいは中退者からなる。 他方英国のデータに関しては、「Understanding Society」 を活用する。この調査は、2009年か ら開始され、英国の約4万世帯を対象に、世帯全構成員のそれぞれの家庭生活、教育、雇用、財 政、健康、福祉などの幅広いテーマについて、年1回の面接調査にもとづいて追跡する調査であ る(19)。本比較分析においては、2009年の時に20歳~ 22歳であった者のうち、その時点ですでに フルタイムの教育を離れており、大学の学位を持っていない若者のサンプルを抜き出した。そこ に限定したサンプル数は509となった。 なお、移行プロセスに関する対象時期と期間、対象年齢をできる限り近いものにそろえる必要 があるため、日本の調査はウェーブ1~4(2007 ~ 2010年)、英国の調査に関してはウェーブ1 ~4(2008 ~ 2011年)のデータを比較する。

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第1章 若者の労働市場での地位、移行概要

第1節 雇用上の地位の変化 (1) 2 0 歳から4年間の変化 図1は、日英ぞれぞれの早期離学者の雇用上の地位の変化を男女別に示している。ウェーブ1 の時点で比較すると、日本の場合、男女間に雇用地位の構成においてそれほど大きな違いはな く、男女とも正規雇用が過半数を占め、正規雇用に関しては女性のほうが少し割合が大きくなっ ている(男性51.1%、女性56.1%)。続いて非正規雇用が多く(男性35.3%、女性30.7%)、無業 は男女とも1割をわずかに超える程度である(男性13.7%、女性13.2%)。これに対し、英国で は、男女間の雇用地位の構成に大きな違いがある。男性は正規雇用が最も大きい割合を占めるの に対し(48.1%)、女性で正規雇用は34.4%にとどまり、むしろ無業の割合が最大となっている (男性27.2%、女性44.9%)。男女とも非正規雇用の割合が最も小さくなっていて(男性20.7%、 女性24.3%)、正規雇用か無業かの両極に集中する構造となっている。 全体的な日英の比較でいえば、非大卒の早期離学層であっても、日本のほうが正規雇用に就き 安定した雇用地位を確保する可能性が大きい。日本では女性の場合も例外ではないのに対し、対 照的に英国の女性の不安定さが際立っており、半数近くの44.9%が無業状態に陥っている。これ は日本の女性の4倍近くの割合にあたる。 次に、4年後の時点での地位変化でいえば、英国の男性を除き、それほど大きな変化は見られ ない。日本の男性では、正規雇用が51.1%から57.2%へと6%程度上昇するという若干の安定化へ 向かう傾向がみられ、それらは非正規雇用と無業の双方からのシフトを供給源としている。日本 の女性の場合は、ほとんど変化が見られず、正規雇用に関しては増加せず固定化したままであり、 非正規や無業の割合もほとんど変化していない。他方、ウェーブ1の時点において最も不安定な 層が大きかった英国女性の場合も、安定化への傾向はほとんど見られず、正規雇用はわずかに 1%程度増えるにとどまり、就労者で増えているのは非正規雇用のみであり、その伸びも4%弱 にとどまっている。無業者は10%程度減少しているものの、それは、正規、非正規への雇用の若 干の増加にもよるが、むしろ大半は学生、つまり教育への回帰によって生じたものである(5.8%)。 一方で、英国の男性には、大きな変化が見て取れる。それは、正規雇用の拡大によって特徴づ けられる安定化傾向であり、その割合は、48.1%から63.8%へと15%以上の増加がみられる。そ の拡大は非正規及び無業の減少によって起きている。早期離学層における経時的安定化傾向は英 国の男性にのみ確認できる傾向であり、日本の男女も半数近くは不安定な状況を離脱しえないま まであり、英国女性に至っては、きわめて劣悪な状況に滞留し続けているといえる(非正規雇用 24.3%、無業34.5%)。 (2)雇用地位変化の実相 次に、4年間の雇用地位の変化をより詳しく見てみる。英国男性を除く他の層で、雇用地位の 構成割合に、したがって、正規雇用へと向かう安定化の傾向を含む変化がほとんど見られないこ とを確かめたが、これは、若者個々人で見た場合に地位のシフトがないことを必ずしも意味しな い。地位相互の出入りが激しくても、その流入流出が均衡している場合には、必ずしも、それぞ れの雇用地位構成の割合に変化が見られないことがあるからである。そこで、図2は、ウェーブ 1時点の地位ごとに、その4年後に地位がどのように変化したかを確かめ表したものである。

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日本であるか英国であるかを問わず、また、男女を問わず、ウェーブ1からウェーブ4の間の 地位の変化が最も少ないのは、ウェーブ1時点で正規雇用に就いていた若者である。日本の男女 と英国の男性のうち正規雇用に就いていた若者の8割強は非正規雇用の地位にとどまっている。 英国の女性でも、20歳頃の時点で正規雇用に就いていた者であれば75.9%は4年後においてもそ の地位を維持している。キャリア初期において正規雇用にとどまる最も確実な道は、離学後早期 に正規雇用にたどり着くことであるといえる。 他方、ウェーブ1の時点で非正規雇用に就いていた若者は、英国の男性を除いて、その過半数 を超える者が非正規の地位にとどまり続けている。これら日本の男女の5割強(男性54.2%、女 性55.7%)は4年後においても非正規の地位から離脱できておらず、同じように英国の女性の 55.3%も非正規雇用に就いたままである。他方英国男性の場合のみは、ウェーブ1の時点で非正 規であった者でその地位にとどまり続けている割合は19.2%にすぎず、半数を優に超える61.5% 図1- ① 雇用地位の変化 日本 図1- ② 雇用地位の変化 英国

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は正規雇用への移行を遂げている。その意味で英国の男性においては、非正規の仕事はその後の 正規雇用へのステッピング・ストーンになる可能性が非常に大きいといえる。それに比べると、 日本の男性の場合、非正規から正規雇用への移行を果たせるのは31.3%であり、日本の女性の 場合はその割合は23.0%、英国女性の場合は23.4%にとどまり、小さい。ただし、いずれの場合 も、非正規雇用から無業状態へ陥る下方移動する割合は比較的小さい。 最後に、ウェーブ1の時点で無業であった場合についてみてみる。日本の場合は男女とも非 正規雇用への移行のチャンスが最も大きく、それぞれ38.3%、40.0%であり、無業状態にとど まる割合を上回っている。しかしながら次に多いのは無業のままでいる割合であり、それぞれ 33.3%、36.0%と比較的大きい。それらに比べると、無業者の正規雇用への移行のチャンスは 極めて小さく、男性で11.1%、女性では20.0%に過ぎない。英国では、日本と違い男女ともに、 ウェーブ1の時点で無業である場合は、その過半数を超える者が、無業状態のままである(男性 50.0%、女性62.4%)。したがって、非正規雇用が男性の場合、安定的な仕事への可能性を与え るのに対し、キャリア初期の無業状態は、正規への移行はもとより非正規雇用であったとして も、就労への離脱が極めて難しい地位であるといえる。それは特に英国女性の場合に著しく、も ともとウェーブ1の時点で無業が女性の最大の割合を占めていたことと考えあわせると、早期離 学の多くの女性は無業の袋小路に閉じ込められる可能性がきわめて高いといえる。 第2節 労働市場と若者の移行 次に、このような若者の移行の実態は、労働市場の状況からどのような影響を受けるのかを見 てみることにする。ここでは、若者の居住地の失業率(20)を労働市場のパフォーマンスを示す指 標として使い、それぞれの国の各地域の失業率を高、中、低の3段階に分けた場合、労働市場の 失業水準がそこに参入しようとする若者の移行にどのように影響するのかを吟味する(図3)。 この場合も、若者の就労状況を定点スポットで見るのではなく、4年間のトータルな状況とし て把握するために、クラスター分析により、若者の就労状況を3つに分類した。すなわち、4年 間をトータルに見た場合、主に正規雇用として過ごした「正規雇用メイン」タイプ、主として非 正規雇用に就いていた「非正規雇用メイン」と、無業でその期間の大半を過ごした「無業メイン」 の3タイプである。 大まかにみると日本では男女とも、失業率が低く労働市場のパフォーマンスが比較的良好と思 われる地域ほど「正規雇用メイン」タイプが多く、「無業メイン」タイプが少なくなる傾向がみ られる。「非正規雇用メイン」については、男女とも、高失業率地域より低失業率地域で多くな る傾向がみられる一方で、失業率が中程度の水準の地域で最も少なくなっている。失業率の中程 度の地域の女性の場合、「正規雇用メイン」タイプと「無業メイン」タイプの2極のタイプが、 他の2つの地域より高くなり、「非正規雇用メイン」が少ないというイレギュラーがみられるが、 その理由についてはさらに分析が必要である。 他方英国については、失業率と移行タイプの構成に、男女とも明確な傾向が読み取れない。失 業水準が中程度である地域では、男女とも「無業メイン」が多くなっている。その中間レベルの 地域を除いた、高・低レベルの地域の比較を見ると、失業率の低い地域のほうが高い地域より も、「正規雇用メイン」と「非正規雇用メイン」を合わせた、ともかくも就労がメインになって いる者の割合が高くなっているという傾向はみられるものの、2つの雇用タイプを比較した場 合、男性では高い失業率の地域のほうが「正規雇用メイン」の割合が高く、逆に女性では「非正

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規メイン」の割合が高くなっている。それらの背景や理由を読み解くには、失業率と産業構造、 産業分野や職種とジェンダーとの関係など、より多様な視点を交えて分析する必要がある。

第2章 基本的労働条件

第1節 労働時間 ここでは、早期離学した若者の就労している仕事について、基本的な労働条件、すなわち労働 時間、総収入および時給についての比較をする。 (1)ウェーブ1時点での労働時間 まず、それぞれの国に関して、男女別及び雇用タイプ別に労働時間を比較する(図4)。 ウェーブ1時点での若者の労働時間を比較すると、一般に日本の若者は英国よりもかなり長時 間働いている。それは男女別及び雇用タイプ別のそれぞれのカテゴリーの比較においても当ては まる。両国の正規雇用の数字を比較すると、日本の男性および女性の正規雇用に就いている若 者は、それぞれ週当たり51.5時間、47.5時間働いていて、英国の同じカテゴリーの若者より男女 とも11.5時間も長く働いている。非正規雇用の場合も、日本の場合は、男性で38.2時間、女性で 36.6 時間働いており、英国の非正規雇用に就いている者より男性では14.8 時間、女性では18.7時 間も長く働いている。むしろ日本では非正規雇用といえども、英国の正規雇用に就いている者と 図3 地域失業率水準別以降タイプの分布

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ほぼ同じかそれ以上の時間を働いている。 なお、両国とも、正規雇用に就いている若者のほうが非正規雇用の若者よりも長時間働いて いるが、絶対的な正規・非正規の時間格差は、日本の男性では13.3時間、女性では10.9時間、英 国ではそれぞれ男性で16.5時間、女性で18.1時間である。正規雇用に対する非正規雇用の労働時 間の相対的格差でいえば、日本の場合、非正規は正規雇用に対して男性では74,2%、女性では 77.0%の労働時間に対し、英国では、男性では58.6%、女性で49.6%であり、英国の正規と非正 規間の労働時間格差がかなり大きいということが言える(21) なお、同一の雇用タイプの男女間格差についてみると、日本の正規雇用に関してのみ、8.6時間 という大きな格差がみられるが、他のカテゴリーでは男女格差は3時間以内で相対的に小さい。 (2)労働時間の経年変化 ウェーブ1から4にかけての労働時間の変化をみると、日本の男性正規雇用が週当たり3.6時 間長時間労働となり、英国の女性非正規雇用も同じく3.6時間の長時間化することを除いては、 他のカテゴリーの労働時間の変化は2時間未満でほとんど見られない。したがって、労働時間に おける男女及び雇用タイプ別格差にも大きな変化は見られない。日本正規雇用における男性の長 時間化による男女格差の拡大(4.7時間)と、他方、英国の非正規における女性の長時間化によ る男女格差の縮小(4.4時間縮小し、絶対的格差は1.1時間となる)が確認される程度である。 第2節 賃金(月収の比較) (1)ウェーブ1時点での賃金比較 次に、ウェーブ1から4にかけての総月収とその変化を、雇用タイプ及び性別に検討する。図 5は、それぞれの国のウェーブ1の時点での男性正規雇用を100とした場合の、男女および雇用 タイプごとの相対的賃金の大きさと、そして4年後の相対的賃金の変化を示している。 まず、ウェーブ1時点での雇用タイプ及び男女別の月収の相対的格差を見ると、日本では、同 図4 週当たり労働時間とその推移 (時間) (時間)

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じ雇用タイプであればいずれも男性が女性を上回っているが、男女間の格差は相対的に小さい (正規雇用8.4%、非正規雇用3.4%)。英国でも同じ雇用タイプ間では男性優位であるが、その格 差は大きい(正規雇用25.8%、非正規雇用16.6%)。 次に、雇用タイプ間の賃金格差は、正規雇用優位で日英とも大きい。日本の正規・非正規間の 格差は、男性で26.0%、女性で21.3%の開きがあり、英国ではさらにその格差は大きく、男性で は45.5%、女性で36.3%もある。この日英における雇用タイプ間の格差の大きさの違いは、先に 見た労働時間格差の影響も大きく受けていると推定される。 (2)賃金の経年変化 次に、ウェーブ1から4にかけての月収の変化を検討する。日英の月収の変化をカテゴリー別 にみた場合、この間に明確な賃金上昇の傾向がみられるのは、日本の場合、男女双方の正規雇用 のみであるが、その上昇率は男性の場合に著しい(男性15.4%、女性5.2%)。正規雇用の賃金上昇 には、年功のみならず労働時間の上昇も影響を与えていると推測できる。他方、日本の非正規で は賃金の上昇は見られず、具体的には、男性で変化がみられず、女性非正規ではむしろ4.1%の減 少がみられる。 他方英国では、正規雇用に関しては男女双方に上昇傾向がみられるが、男性の4.0%の上昇に対 し、女性は22.9%もの上昇がみられ、日本とは対照的に賃金の上昇傾向は女性に顕著である。また、 非正規雇用に関しても、男性の場合は9.0%も減少があり、逆に女性では14.4%の上昇がみられ、結 果として、非正規に関しては男性の賃金を女性が上回るようになっている。女性正規雇用の月収の 上昇に関しては、このカテゴリーにおける労働時間の上昇は微増であったことから考えると、時間 の拡大以上に賃金プレミアがあったことが推測できる。他方、女性非正規の賃金上昇は、労働時間 の上昇(週当たり3.6時間、20.1%の時間上昇)の影響に負うところが大きいと推測される。 なお、4年間の変化を全体的に見ると、日本では男女間および正規・非正規間の格差が明らか 図5 月当たりの総収入と変化

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に拡大している。これに対し英国では、女性が正規、非正規を問わず、賃金を大きく上昇させて いるのに対し、男性の場合、正規雇用の微増、非正規雇用の減少となり、男女格差は縮小してい る傾向がみられる。英国の場合も、正規と非正規間の格差に関しては、男性の格差拡大が顕著と はいえ、男女ともに拡大傾向は認められる。 第3節 時間給の比較と変化 (1)ウェーブ1時点での時給比較 なお、賃金を総収入で比較した場合、労働時間がコントロールされていないので、男女間や雇 用形態間の、実質的な労働の市場価値を比較したことにならない。そこで、以下では、日英のそ れぞれのカテゴリーの賃金を時給換算して、比較してみたい。図6は、各国のウェーブ1の男性 正規雇用の時間当たりの平均賃金を100とした場合の、男・女と正規・非正規に分けた4つのカ テゴリーごとの相対的な市場価値を比較したものである。 ウェーブ1時点での日本の時給を比較した場合、正規の男女、非正規の男女の4つのカテゴ リー間にほとんど格差がないことが解る。男性正規雇用に対して格差が最大であるカテゴリー の女性非正規雇用でも1ポイント弱の格差しかない。これに対して、英国では、男性正規100に 対し、女性正規の時給が最小となり82.1%でしかなく、男性非正規で92.5%、女性非正規雇用で 88.9%と、大きな格差が存在している。女性正規の時給が、男女非正規雇用の時給を下回ってい ることも注目に値する。英国について男女格差を同じ雇用タイプで比較した場合、既に指摘した ように正規雇用の男女格差が極めて大きく17.9ポイントもあり、非正規の場合、男女格差は3.6 ポイントと小さい。正規と非正規雇用の格差は、男性の場合7.5ポイント正規が上回り、女性の 場合は、非正規雇用の時給のほうが正規雇用のそれを6.8ポイントも上回る複雑な構図となって いる。 (2)時間給の経年変化 次に、ウェーブ1から4までの変化を見てみることにする。日本では、正規雇用において男女 とも時給がほぼ同程度上昇し(男性7.8ポイント増、女性7.3ポイント増)、正規雇用間の男女格 差はほとんど変化なく推移している。他方、日本でも、非正規の男女がともに時給を相対的に減 少させた結果、男女とも、ウェーブ1時点ではほとんどなかった正規と非正規雇用の時給格差は 男女とも大きく拡大して、ウェーブ4の時点では、男性で11.6ポイント、女性で17.1ポイントの 格差が生じている。特に、女性非正規雇用の時給が8.9ポイントも減少したことから、非正規雇 用間にあっても男女格差が1ポイント未満だったものが6.0ポイントに拡大している。 英国では、女性が正規、非正規雇用とも時給を大幅に増加させることによって、格差構造は 大きく変化することになる。ウェーブ1時点では、4つのカテゴリー中、最も時給が低かった 女性正規雇用は、82.1ポイントから100.3ポイントへと18.2ポイントも大幅に時給を上昇させ、男 性正規雇用との格差を一挙に縮小することとなった(格差4.2ポイント)。唯一男性非正規雇用の みが、ウェーブ1時点から時給を減少させ、逆に、女性非正規雇用は時給を88.9ポイントから 100.1ポイントへと11.2ポイントも上昇させた結果、非正規雇用間では、むしろ女性が男性の時 給を15.6ポイントも上回る結果となった。なお、この女性非正規雇用の時給は、女性正規雇用と もほぼ同じ水準となり、時給格差が解消されている。こう見ると、英国の早期離学層の中では、 男性非正規雇用のみが時給に表れる市場価値を低くしていると判断できるが、一つの解釈として

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は、ウェーブ1~4までの時点で、男性非正規が大幅に正規雇用へとシフトしたことが関係して いると考えられる。すなわち、それなりの市場評価の高い仕事に就いていた男性非正規は、正規 へと移行し、市場価値の低い男性非正規のみが非正規にとどまっている結果ではないかと。 第4節 職種構成 (1)ウェーブ4時点での職種構成 最後に、職種構成についてみてみる(図7)。先にウェーブ4の時点で比較をすると、日本では、 男女間の違いもさることながら雇用形態間の職種構成の違いがより顕著である。男性の場合、正規 雇用であれば、「半・非熟練職」(販売職・サービス職・保安職・生産工程作業員・輸送労働者など) の割合(37.1%)が一番多くなっているものの、「管理職・技術職」(21.0%)、「熟練職(マニュアル)」 (28.4%)にも相当の割合の分布がみられ、これら中位水準職種を合わせると半数近くになる。他 方、男性でも非正規雇用の場合は、「半・非熟練職」(77.4%)が突出して多く、他は、「熟練職」の 12.9%、それ以外では10%以下の分布しかみられない。日本の女性の場合も、男性と同様に、正規 雇用では、「半・非熟練職」が最も多い割合を占めるものの(31.9%)、「熟練非マニュアル」(事務職) (28.7%)や「管理職・技術職」(27.7%)にも広く分布しており、「専門職」にも8.5%が就いている。 他方、女性非正規雇用の場合は、男性非正規雇用と同様に、「半・非熟練職」に56.3%が集中してい る。残りは、「熟練非マニュアル職」に18.8%が、「管理・技術職」に18.8%が分布している。 次に英国の場合をみると、ウェーブ4の時点では、日本と同様に正規、非正規雇用の間の職種 構成に大きな違いがみられるほか、男女間の職種構成にも大きな違いがみられる。まず、男性の 職種構成を見ると、正規雇用ではかなり広範な職種への均等な分布がみられる。「熟練非マニュ アル職」(26.2%)が一番大きな割合を占めるものの、「半・非熟練職」(24.6%)や「管理職・ 技術職」(23.8%)、「熟練職」(23.0%)と続き、これら4職種はほぼ拮抗した割合で分布している。 対照的に、男性でも非正規雇用となると「半・非熟練職」が突出して多く72.0%が集中してい 図6 時給とその変化

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る。残りは、「熟練非マニュアル職」に16.0%で、他は10%以下となっている。女性に関しては、 正規雇用の場合、「熟練非マニュアル職」に半数近い45.7%が就いており、次いで「半・非熟練 職」に22.2%、「管理職・技術職」に21.0%が就いている。女性非正規雇用の場合は、男性の場 合とは違い女性正規雇用と類似の職種構成となっていることを特徴としている。すなわち「熟練 非マニュアル職」に38.2%が就いており、次いで「半・非熟練職」に34.5%、「管理職・技術職」 に14.5%が就いている。 なお英国の場合、ウェーブ4時点になると時給に関しては、女性の正規雇用と非正規雇用の間にほ 図7 職種構成の変化

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とんど格差がなく、またそれは男性正規雇用の平均時給ともそん色がないことを確認したけれど、そ の一つの理由の説明として、英国女性は正規・非正規雇用を問わず、比較的高い中位水準の「熟練非 マニュアル職」が主力となるような職種構成となっていることを挙げることも、それなりに合理的で あるように思われる。 (2)経年変化 なお、両国の経年変化を過去に向かって逆にたどってみると、日本の場合はすべてのカテゴ リーで職種構成にほとんど変化がない。先に、雇用形態、雇用の地位の構成にはほとんど変化が 少ないとみたが、非正規雇用においては男女ともに「半・非熟練職」が突出して多く、彼らの 日々の仕事における単純な内容の繰り返しが、技能や労働能力の蓄積を妨げ、それが安定的な雇 用や正規雇用への離脱、移行にとって桎梏になっていると考えられる。 他方、英国では、男性正規雇用と女性の正規雇用、非正規雇用の両方において職種構成に変化 がほとんど見られない。しかし、男性非正規雇用においてのみ、その構成に大きな変化がみられ る。男性非正規雇用の場合、ウェーブ4の時点で圧倒的な割合を「半・非熟練職」が占めるよう になっているのに対し(72.0%)、ウェーブ1の時点では半数近くを「熟練非マニュアル職」が 占め(40.4%)、「熟練職」も23.1%を占めており、中位水準以上の職種を合わせると3/ 4近く を占めていた。この変化をどう見るべきか。かつて非正規雇用に就いていた男性の職種が、下方 向にダウングレードしたのだろうか。第1章で、英国の男性非正規雇用のみは、60%近くの者が 4年間に非正規から正規雇用への移行を遂げていることを見た。中位水準職以上の仕事に就いて いた多くの非正規雇用の男性が、この間に正規雇用への移行を遂げ、結果として非正規雇用に 残った者の職種構成が「半・非熟練職」に偏るということになったと推定される。

まとめにかえて

本稿では、日英の非大卒者を中心とした早期に教育を離脱し労働市場やその他の活動に移行し ようとする若者の、初期キャリアを中心とした経験、活動についての比較を行ってきた。一般的 に、1980年代以降の労働市場における流動化や不安定化の影響を、若者たちは著しく被ってきた といわれている。わけてもその矛盾は、低学歴や資格を持たない者、女性、人種的マイノリティ に属する若者において著しく、彼らは、比較的短期間で直線的に仕事への移行、定着を果たすと いうかつての標準的なルートから外れ、不安定な仕事を離転職し、失業や非労働力状態への出入 りを繰り返すなど、仕事への移行は困難に満ち、長期化し、ジグザグで複雑なプロセスとなるリ スクが高くなったといわれてきた(22)。日英の若者も例外ではなく、少なくとも20歳代前半にお いては早期離学者の半数近くは安定的な仕事に就くことができていない。特に英国女性はその割 合が60%を超える。 しかし、その危機や不安定な状況の現れをより詳しく見れば、量的にも質的にも日英間に大き な違いのあることを確認することができる。本稿では、男女間および雇用形態間の格差構造に注 目し、その移行リスクや不安定さの現れにおいて、いくつかの特徴的傾向を確認した。 まず、①雇用地位に関する安定化へ向かう経時的傾向は、英国の男性にのみしか確認できな い。すなわち、調査対象期間中の4年間において、日本の男女と英国の女性は、20歳前後に正規 雇用に就いていなければ、その後において正規雇用に移行する可能性は極めて低い。英国の男性

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を除くと非正規からの正規雇用への移行の可能性は30%以下であり、無業からでは更にその可能 性が低い。唯一、英国男性の非正規の仕事からは、4年間に6割以上もの正規雇用への移行が確 認できる。20歳前後に無業であるというポジションは日英とも継続するリスクという意味で、そ の対極の傾向を示し、4年後もそのポジションにとどまる割合が大きい。それでも、日本の無業 層では、正規雇用への移行する者の割合は極めて小さいものの、ともかくも非正規を含めた仕事 への移行を男性では50.0%が、女性では60.0%が果たし無業状態から離脱している。他方で英国 では、無業にとどまり続ける者が男女とも最大の割合を占め、4年後でも、男性の50%、女性の 60.2%は無業の地位にとどまり続けている。 次に、②労働条件のうち労働時間に関していえば、日本のほうがかなり長時間働く傾向がみら れる。これは正規、非正規雇用を問わず、また男女ともに当てはまる傾向である。なお労働時間 の格差は、両国とも男女間より正規、非正規間の格差が大きい。4年間の労働時間の変化に関し ては、日本の男性正規雇用と英国の女性非正規に小さくない増加傾向が確認できるが、他のカテ ゴリーでの変化は小さい。 ③月当たりの総賃金に関していえば、20歳前後の時点では、雇用形態が同じであれば日英とも 男女格差は小さい。他方日英とも雇用形態間の賃金格差は大きい。ただし、それは労働時間の影 響によるものが大きいと推定される。しかし、4年間の変化で見ると、日英とも、特徴的な変化 が観察できる。日本では、男女とも正規雇用においてのみ賃金上昇が確認できる一方で、英国で は、正規・非正規とも女性の賃金上昇が確認できる。 ④賃金を市場価値として換算した時給で比較すると、日本では20歳前後においては男女間、正 規・非正規雇用間の格差がほとんど見られず、4つのカテゴリー間の時給水準はほぼ平準化して いた。しかし4年後において、正規雇用においてのみ時給の上昇がみられ、その結果、雇用形態 間の格差が顕著になる。他方、英国では、雇用形態を問わず女性に時給の上昇が顕著にみられ る。その結果、20歳前後に著しかった正規および非正規雇用間の格差と、またそれぞれの雇用形 態のなかでの男女格差が解消され、正規雇用の男女と非正規雇用の女性の時給はほぼ同一水準と なる。男性非正規のみが他の3つのカテゴリーに比べ20%前後も低くなる。 なお、この時給比較でもって男女の賃金格差の解消と即断することはできない。すなわち、月 当たりの総賃金で見ると、労働時間の格差の大きさもあって、同一雇用形態間での男女賃金格差 は小さいにもかかわらず、4年後には正規雇用と非正規雇用の月収格差は2倍近くにまで拡大す ることを想起すべきである。しかも、4年後の時点において、英国の男性の63.8%は正規雇用の 地位にあり、一方女性はその約半分の35.4%しか正規雇用に就いていないことにも留意しておく 必要がある。 最後に、⑤職種構成をみると、日本では、男女とも早期離学者の職種は、正規雇用でも「半・ 非熟練職」が最大の割合を占めるものの、「熟練非マニュアル職」、「熟練職」や「管理職・技術職」 もそれなりの割合を占めている。対照的に日本の非正規雇用では、「半・非熟練職」が突出して 多い。「半・非熟練職」のような、単調・ルーティンの仕事では技術や技能を蓄積、形成する機 会がなく、そのことが、20歳前後に非正規雇用に就いている場合、後に安定した仕事への移行が ほとんど見られないことの一因になっていると考えられる。 他方、英国では正規雇用において男女とも、中位水準以上の「管理職・技術職」、「熟練職」や 「熟練非マニュアル職」から「半・非熟練職」へと幅広くほぼ均等に分布している。これに対し て、非正規雇用に関して、男性は日本と同様に「半・非熟練職」が突出して多い特徴がある。し

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かし、これはウェーブ4時点での職種構成であり、ウェーブ1の時点では、「熟練非マニュアル 職」が最も多く(40.4%)、次いで「熟練職」(23.1%)が多く、「非・半熟連職」は13.5%にとど まっている。すなわち、このような職種構成の経年変化を見る限り、ウェーブ1時点で「熟練非 マニュアル職」や「熟練職」であった多くの者は、ウェーブ4の時点までに正規雇用へと移行し ていったと推測ができる。中位水準以上の職種に就いていた非正規雇用の男性は、ある程度のレ ベルの仕事をこなす中で技能や職業能力を蓄積することができ、安定的な正規雇用の地位へと移 行を果たすことができたのではないかと推測される。 英国では、女性の場合は、非正規雇用に就いている場合であっても、職種構成が必ずしも 「半・非熟練」に偏ることなく、むしろ「熟練非マニュアル職」が最も大きな割合を占め、「専門 職・技術職」も多い。つまり、女性の場合は、非正規であっても正規雇用の職種構成とかなり類 似している。そのことが、女性の非正規、正規雇用間の時給格差が少なく、男性正規雇用に比べ ても遜色なない比較的高水準であることに合理的な説明を与えてくれる(23)。ただし、女性の場 合は、長時間労働を好まず、自発的にパートなどの短時間の仕事を選んでいる者が多いために、 男性のようには正規雇用への移行は促進されないのではないかという推測が成り立つ。

注釈

1 Raffe,D.(2008)“The concept of transition system”, Journal of Education and Work, Vol.21 (4), pp.277-296.

2 たとえば、OECDは、2006年以降「若者の雇用(Job for Youth)」という若者の雇用と移行危機 に関する国際比較研究をスタートさせ、日本を含む16カ国のOECD加盟国の調査を行い、国ごとの 報告書を刊行している。その総括的報告書が、OECD(2010)Off to a Good Start? Job for Youth, OECD Publishing, Paris である。それらは、移行危機における若者の雇用と失業の状況を分析す るとともに、OECD諸国で実践され、有効な効果を上げた雇用政策や支援政策を明らかにしたり、 新しい課題などを提言している。 3 「フリーター」という言葉が政策文書に登場し、広く耳目を集めるようになったのは、内閣府が 2003年に刊行した『平成15年度国民生活白書』においてであり、フリーターを「15~ 34歳の若年(た だし、学生と主婦を除く)のうち、パート・アルバイト(派遣等を含む)及び働く意志のある無職 の人」と定義している。なお、厚生労働省『労働経済の分析』(平成12年版)においては、フリーター を15 ~ 34歳と限定し、「現在就業している者については勤め先における呼称が『アルバイト』又は 『パート』である雇用者で、男性については継続就業年数が1~5年未満の者、女性については未 婚で仕事を主にしている者とし、現在無業の者については家事も通学もしておらず『アルバイト・ パート』の仕事を希望する者。」と定義していた。 4 日本の政策文書において「ニート」という用語は公式には使われていない。しかし、2004年に、厚 生労働省が、我が国の無就学、無業状態にある15歳から34歳までの若者は推定で52万人以上にもの ぼると警鐘を鳴らして以来、こうした無業状態に陥っている若者に、マスコミや研究者が、英国で 使われていたNEET(Not in Education, Employment or Training)というタームを当てはめて呼 称するようになって、「ニート」という用語は、広く定着している。政府が統計等において実際に 使用している公式の用語は、「ニート」ではなく、「若年無業」である。厚労省はこの「若年無業」 を、「15 ~ 34歳の非労働力人口のうち,家事も通学もしていない者」と定義しているが、総務省 は、同じく「若年無業」を「非労働力人口のうち、年齢 15 ~ 34歳、学卒、未婚者であって、家事・ 通学をしてない者」と定義している。こうしてわが国では、学生や家事をしている主婦を除いた非 労働力化した若者、すなわち求職活動を行っていない無業状態にある若者を、一般に「ニート」と 呼称するようになっているが、「フリーター」の定義と同様、政府内にも定義をめぐる異同があり、 したがってそれぞれの定義に従った「ニート」の数や割合の推計にも大きな違いが生じている。な お、以下で説明するように、英国で使われ、今ではOECDなどの国際統計において一般に使用され るNEETと、日本で使用される「ニート」には、その定義において大きな違いがあることに留意し なければならない。

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  国際的に若年雇用の重要指標とされるNEETという用語は、もともとは英国において、社会的 排除の取り組みを選挙公約に掲げて政権についた英国の労働党が、政府機関・社会的排除防止 局(Social Exclusion Unit)を設立し、その査報告書『格差に架橋する』(Social Exclusion Unit (1999) Bridging the Gap: New Opportunities for 16-18 years olds not in Education, Employment

or Training, The Stationery Office)が、若者支援政策の重要性を説き、その優先的ターゲット

を「教育、雇用、職業訓練に参加していない16 ~ 18歳の若者」(not in education, employment or training)としたことに起源がある。その頭文字を取り、「NEET」と略称するようになって以来、 OECDなどの国際的比較統計においても標準的用語として用いられるようになり定着している。   この「NEET」と日本で一般に使われている「ニート」という定義との決定的な違いは、無業状態 の若者のうち、失業者、すなわち求職活動を行っている若者を含む点であり、逆に家事をしている 主婦を除く点である。本稿での分析では、日本的定義の「ニート」ではなく、失業者を含む若年無 業者を指す、国際的用語としての「NEET」とその定義を使う。 5 乾章夫、本田由紀他編『危機のなかの若者たち 教育とキャリアに関する5年間の追跡調査』東京 大学出版会、2017年や佐野正彦「若者の雇用と格差―『結果の格差』と『機会の格差』からの考察」 (生活経済政策研究所『生活経済政策』No.254、2018年3月)、9-15頁など参照。 6 溝上慎一、松下佳代編『高校・大学からの仕事へのトランジション 変容する能力・アイデンティ ティと教育』ナカニシヤ出版、2014年、1-9頁。

7 OECD(2010)op. cit., pp. 111-113.

8 Cockx, B. and M. Picchio (2009)“Are Short-Lived Jobs Stepping Stones to Long Lasting Jobs?”,

IZA Discussion Paper, No. 4004, Bonn, pp. 646 - 675.

9 Bowers, N., A. Sonnet and L. Bardone (1999) Giving Young People a Better Start: The

Experience of OECD Countries Preparing Youth for the 21th Century, OECD Publishing, Paris 

や Bassanini, A. and R. Duval (2006) “Employment Patterns in OECD Countries: Reassessing the Role of Policies and Institutions”, OECD Social, Employment and Migration Working

Paper, No.35, OECD Publishing, Paris などを参照。

10 欧州委員会の「Negotiate: Overcoming early Job-insecurity in Europe」というプロジェクトでは、 若者の初期キャリアにおける仕事の不安定(job-insecurity)経験が、長期的かつ深刻な悪影響を もたらすことを、「傷跡(瘢痕化)効果」(scarring effects)と定義し、その把握と対策を検討して いる。たとえば、European Commition(2017) “Policy Brief no. 5 : Long term consequences of early job insecurity”。また日本でも小杉礼子『若者の初期キャリア―「非典型」からの出発のた めに』(2010年、勁草書房)などにおいては、若者の初期キャリアにおける失業や非正規雇用の経 験などの躓きは、その後のキャリアにおいて長期的な傷跡として影響を与え続けることを明らかに している。

11 OECD(2010)op. cit., pp. 11-13.

12 Stoilova, R., P. Boyadjieva, P. Ilieva-Trichkova and V. Krasteva (2017)“Negotiating transition to adulthood in economic hard times”, NEGOTIATE Working Paper No.5.4, European Commission, pp. 5-20 やAyllón, S.(2016) “Negotiating private life: consequences of early job insecurity and labour market exclusion for household and family formation”, NEGOTIATE

Working Paper No. 5.2, European Commission, pp.7-12参照。

13 Buttler, D., P. Michoń , S. Ayllón Gatnau and C. Zuccotti (2016) “Understanding the subjective consequences of early job insecurity in Europe”NEGOTIATE Working Paper No. 4.3, European Commission, pp. 3-7.

14 Quintini, G. and T. Manfredi (2009) “ Going Separete Ways? School-to-Work Transitions in the United States and Europe”, OECD Social, Employment and Migration Working Paper, No.90, OECD Publishing, Paris.

15 例えば、OECDに加盟する諸国において、2017年の若者の失業率(15-24歳)の平均は11.9%であり ながら、最大はギリシャの43.6%、最低は日本の4.6%である。また、NEET率(20-24歳)につい ては、OECD平均が15.4%、最大30.1%(イタリア)、最小5.6%(アイスランド)であり、パートタ イム率(15-24歳)については、OECD平均は30.9%、最大71.2%(オランダ)、最小4.9%(ハンガ リー)であり、非常に大きな格差がある。いずれも、OECDデータサービスにより検索(https:// data.oecd.org/)。 16 OECDは、学校を離れた後、安定した仕事を獲得する上で、特に困難に直面している2つの集団の 存在を明らかにしている。それは「取り残された若者」と「うまく入り込めなかった新参者」であ る。前者の「取り残された若者」は、資格がなかったり、移民や民族的マイノリティ出身であった

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り、貧しい地域や辺鄙な地域に住んでいるなど、いくつかの不利な条件を累積させており、その規 模は、NEETや後期中等教育を受けていない若者の数から推計できるという。第二の「うまく入り 込めなかった新参者」とは、後期中等教育の修了資格は持っているが、好況時にさえ安定した雇用 を獲得するのが難しく、一時的な仕事、失業、無業状態の間を頻繁に行き来したりする集団だとい う。この集団規模は。臨時雇用に従事している人々の割合で推計できるという(OECD(2010)op. cit.)。   本稿が対象とする早期離学者は、大卒に代表されるより長期の教育を受け、高い資格や技能を有す る若者たちに比べ、こうした2つの困難に直面している集団に属している者を多く包摂していると 考えられる。 17 英国の若者も、2008年と2011年の間に、世界的経済危機の影響を直に被ったといわれている。こ の時期、若者の失業率は上昇を続けたが、他の欧州の国に比べるとそのダメージは比較的小さく、 臨時雇用などの不安定な仕事に就く若者の割合も小さいと報告されている。しかしながら、この 経済不況の時期に失業等のリスクが高かったのは、大卒未満の低学歴者であり、労働力人口や失 業率で見た場合不利な状況に置かれ続けていた(Bussi, M. and J. O’Reilly (2016) “Institutional Determinants of early Insecurity in the UK”, European Commission)。

   なおこの時期、日本でもリーマンショックは派遣切りなど深刻な雇用危機、不安をもたらした が、若者の失業率や非労働力率などを見る限り、そのダメージは欧州の平均レベルよりはかなり低 く、英国と比べてもそれらの指標は低かった。 18 この調査の概要に関しては、若者の教育とキャリア形成に関する研究会『若者の教育とキャリア形 成に関する調査 最終調査結果報告書』2014年、8-25頁、乾彰夫、本田由紀、中村髙康編『危機の 中の若者たち 教育とキャリアに関する5年間の追跡調査』(2017年、東京大学出版会)、3-24頁に 詳しい。

19 Knies, G.(2018), “Understanding Society: the UK Household Longitudinal Study Wave 1-8 User Guide”, University of Essexや、Lynn, P.(2009) “Sample Design for Understanding Society”

Understanding Society Working Paper Series No. 2009-01” , Economic & Social Research Society など参照。 20 この場合の失業率とは、若者だけでなく労働力人口全体に対する失業者の割合である。 21 なお、日英それぞれの調査の質問項目の違いから、同一の定義と基準にもとづく正規雇用と非正規 雇用の区分ができない。日本の調査の場合、正規雇用と非正規雇用の区別は、職場における呼称を 基準にしており、たとえば正規雇用とは、「正社員」や「正規従業員」等で呼ばれる雇用形態を指し、 非正規雇用とは、「パート」や「アルバイト」、「派遣社員」などで呼ばれる雇用形態を指し、必ず しも労働時間は両者の区分の基準とはなっていない。これに対し、英国の場合は、フルタイムでか つ無期雇用の雇用形態を正規雇用とし、パートタイムあるいは有期雇用、臨時雇用の場合は、非正 規雇用と分類している。さらに、データソースである調査や一般的な法律上の定義では、パートタ イムを、労働時間が週当たり20時間未満であることを基準として分類しており、したがって、必然 的に短時間労働の被雇用者はすべて非正規雇用に分類されることとなる。これに対し、日本の職場 の常識からすると、正社員並み、正規雇用並みに長時間働いていても非正規雇用と呼ぶことは少な くなく、またパートタイムと呼称する場合は、労働基準法で規定される週当たり40時間以下、すな わち英国の2倍に当たる時間が基準とされる場合が多いと推定される。したがって、正規雇用、非 正規雇用とも、日本のほうが、英国よりは、平均労働時間が長く算出されることに留意しておく必 要がある。

22 Furlong, A. and F. Cartmel (2006) Young People and Social Change; New Perspective, OUP. 23 Olsen, W., V. Cosh, S. Kim and M. Zhang(2018)“The Gender Pay Gap in the UK: Evidence

from the UKHLS”, GSRでは、同じくUnderstanding Societyのデータを使って、若者、成人を 含む英国の労働力人口全般の賃金における男女格差を分析している。それによると、労働市場の全 般的傾向としても、本稿で確認した若者の男女格差と同じ傾向がみられ、非正規雇用に関しては、 男性よりも女性のほうが時給換算した場合の市場価値が高い傾向がみられるという。ただし、正規 雇用に関しては男性の賃金は女性よりかなり高く、しかも、正規雇用率は男性がはるかに女性より 高いため、労働市場全般としてはやはり男性優位の賃金格差は緩和されているとはいいがたいと結 論付けている。この状況は、若年早期離学層の場合にも当てはまると思われる。

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 本研究は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(C)、代表:佐野正彦)「英国における教育から労働市 場への移行・統合に関するパネル調査実施のための予備調査」(JP16K04581)および(基盤研究(B)、 代表:乾彰夫)「若者の移行に教育・労働市場・社会保障制度が与える影響に関する国際比較研究」 (JP18H00986)から助成を受けた研究成果の一部である。

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