山梨大学医学部附属病院に入院した成人急性骨髄性白血病の
治療成績の検討
永 嶋 貴 博
1,2),桐 戸 敬 太
1),濱 中 聡 至
1),野 崎 由 美
1),
中 嶌 圭
1),三 森 徹
1),國 玉 眞 江
1),岩 尾 憲 明
2),
西 山 真由美
3),柳 光 章
4),小 松 則 夫
1) 1)山梨大学血液・腫瘍内科,2)同 輸血細胞治療部,3)社会保険山梨病院内科,4)日立横浜病院 要 旨: 1998 年 8 月から 2008 年 8 月までに当院に入院した未治療成人急性骨髄性白血病(AML) 症例 48 例について臨床像と治療成績を検討した。男性 25 例,女性 23 例,年齢中央値は 56.5 歳。 FAB 分類では M2 の症例が一番多く,M0 と M6 の割合が多かった。治療の適否と治療法は患者毎 に決定された。36 例に寛解導入療法が施行され,28 例が完全寛解に達した(寛解率 77.8 %)。70 歳以上の症例 10 例中 4 例に寛解導入療法が施行された。累積生存率は 5 年で 36.8 ± 7.3 %で,FAB 分類,染色体核型と入院時期別の生存期間解析では有意差は認めなかった。当院の成人 AML の治 療成績は全国的な臨床試験とほぼ同等であることが確認され,疾患分布に地域性がみられる可能性 が示唆された。 キーワード 急性骨髄性白血病,治療成績 はじめに急性骨髄性白血病(acute myeloblastic leukemia; AML)の治療成績は 1970 年代より徐々に向上 し,完全寛解率は 60 %から 70 %に,また長期 の生存率は 25 %から 35 %に上昇したと報告さ
れている1)。本邦でも日本成人白血病治療共同
研 究 グ ル ー プ ( Japan Adult Leukemia Study Group; JALSG)による最新の(2008 年 11 月現 在 ) 臨 床 研 究 AML201 で は , 完 全 寛 解 率 は 78 %,4 年生存率は 49–53 %と欧米とほぼ同等 の成績となっている2)。しかし,実地医療の現 場では臨床試験の除外規定にあたる症例も多 く,年齢や合併症に併せた個別的な治療が行わ れているのが現状であり,論文に報告される臨 床試験の成績は実際の治療成績を十分に反映し ていない可能性がある。そのため,単施設での 成績解析を行い,その地域における実際の治療 成績を解析することは重要な意義がある。そこ で,当院に入院した未治療成人 AML 症例につ いて,臨床像と治療成績を解析した。 対象と方法 1)症 例 対象は 1998 年 8 月から 2008 年 8 月までに当 院に入院した未治療成人 AML 症例で,カルテ または退院サマリーよりデータの取得が可能で あった症例とした。骨髄異形成症候群より病型 移行したものは除外した。 1,2)〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 番地 3)〒 400-0025 山梨県甲府市朝日三丁目 8–31 4)〒 244-0003 神奈川県横浜市戸塚区戸塚町 550 番地 受付: 2008 年 12 月 15 日 受理: 2009 年 2 月 27 日
原 著
2)治 療
治療の適否と治療法は年齢,合併症等に基づ い て 決 定 さ れ た 。 JALSG AML95 研 究 3)か AML97 研 究4)に 則 っ て , AML- M3 に は all trans retinoic acid(ATRA)を主体とした寛解 導入療法(ATRA 45 mg/m2)が行われ,M3 以 外には daunorubicin(DNR)と cytarabine (AraC)の併用(DNR 50 mg/m2,day1-3, AraC 100 mg/m2, day1-7) か , idarubicin ( IDR) と AraC の併用(IDR 12 mg/m2,day1-3, AraC 100 mg/m2,day1-7)による寛解導入療法が行 われた。寛解後療法は 9 コース行われた(通常 療法)。高齢者や上記化学療法の認容性が低い と 思 わ れ る 症 例 に は C A G 療 法 ( A r a C 1 0 m g / m2, × 2 , d a y 1 - 1 4 , a c l a r u b i c i n 14 mg/m2,day1-4, filgrastim 200 Òg/m2 ,day1-14)5)か AraC 単独療法(AraC 5-20 mg/m2)6)が 行われ,寛解後療法は個別に行われた(少量療 法)。同種移植の適応は個別に判断された。 3)臨床的背景 病型分類には FAB 分類を用いた。予後因子 については,JALSG の予後分類7)に準じ,FAB 分類では M0,M6,M7 以外を,染色体分析で は t(8 ; 21),inv(16)を予後良好因子とし た。本解析では t(15 ; 17)も予後良好因子に 加えた。血液内科が独立した 2004 年 10 月 1 日 を境に,それ以前に診断された症例を A 群, 以降の症例を B 群とした。 4)統 計
統 計 解 析 に は 「 StatMate III for Windows, ver3.18,アトムス社」を使用した。生存に関 する因子の検定には cox 比例ハザード法を用 い,生存率は Kaplan-Meier 法で計算し,生存 期間の検定には logrank 法を用いた。 結 果 対象症例は全 48 例であり,生死不明の打ち 切りは 2 例(4.8 %)であった。性別は男性 25 例,女性 23 例(表 1)。年齢中央値は 56.5 歳 (16 − 91 歳),29 歳以下が 21 %,60 才以上が 54 %と二峰性の分布を示した(表 2)。FAB 分 表 1.患者背景
類では,M2 が 18 例と最も多く,予後不良の表 現型は 16 例だった。入院時期で分けた解析で は , 7 0 歳 以 上 の 高 齢 者 は A 群 3 / 1 9 例 (15.8 %),B 群 7 / 29 例(24.1 %)と B 群に 多い傾向を認めた。FAB 分類では,B 群で M6 が多い傾向を認めた; A 群 1 / 19 例(5.3 %), B 群 6 / 29 例(20.7 %)。染色体分析では,予 後良好核型は A 群 5 / 19 例(26.3 %),B 群 6 例/ 29 例(20.7 %)であった。同種移植は 9 例(A 群 3 例,B 群 6 例)に施行された。 (寛解導入療法) 48 例中 36 例(75 %)に寛解導入療法が施行 された(表 2)。この 36 例中 25 例(69 %)に 通常療法が行われ,残りの 11 例(31 %)では 少量療法が行われた。寛解導入施行症例に 70 歳以上の高齢者は 4 例含まれ,最高齢は 77 歳 だった。高齢者の治療の内訳は,通常療法 1 例 (IDR/AraC 療法: M0 症例,70 歳),少量療法 3 例(CAG 療法: M6 症例,70 歳と M2 症例, 71 歳,ATRA 療法: M3 症例,77 歳)だった。 1 コースで 28 例が完全寛解に達した(寛解率 77.8 %)。4 例は寛解に到達せず,4 例が治療中 に死亡し評価不能だった。死因の内訳は,原病 1 例,脳出血 1 例,感染 2 例であった。なお, 48 例中 12 例では寛解導入療法が施行されなか ったが,その理由としては,高齢 6 例,合併症 (肺炎,脳出血)3 例,他院での治療を希望 2 例,治療拒否 1 例であり,うち 2 例が固形腫瘍 を合併していた。 (生存率) 全 48 例の累積生存率は 5 年で 36.8 ± 7.3 % だった(図 1)。FAB 分類での表現型不良群 (M0,6,7 ; n = 16)と良好群(それ以外; n = 32)での累積生存 率はそ れぞれ, 27 ± 11.5 %と 37.6 ± 9.2 %で,両群間に有意差は認 めなかった(図 2,P = 0.799)。染色体分析で は核型良好群(n = 11)と不良群(n = 37)で 累積生存率はそれぞれ,48 ± 16.4 %と 24.8 ± 7.6 %だった。両群間に有意差は認めなかった (図 3,P = 0.10)。入院時期でみると,A 群 (n = 19)は 5 年で 28 ± 10.6 %,B 群(n = 29) 図 1.全体の生存解析(n = 48). 表 2.年齢別寛解導入療法施行数
は 3 年で 37.7 ± 10 %だった。両群間に有意差 は認めなかった(図 4,P = 0.429)。これら 3 因子(表現型,染色体の核型,入院時期)を cox 比例ハザード法でも検討した(表 3)。生存 に関し有意な因子は認められなかったものの, 染色体の核型は生存に関わる傾向が最も強く認 められた。 考 察 過去 10 年間の対象症例は 48 例で平均 4.8 例/年だった。山梨県統計年鑑によると平成 10 年から平成 17 年の県の人口は 88 万から 89 万人で8),白血病の全国推定年齢調整罹患率 (平成 14 年)は人口 10 万人あたり 4.1 であり9), 図 2.FAB 分類別の生存解析.表現型不良群(n = 16),表現型良好群(n = 32).両群 間に有意差なし. 図 3.染色体所見別の生存解析.核型良好群(n = 11),核型不良群(n = 37).両群 間に有意差なし.
山梨県の白血病罹患数は年間約 36 人と推計さ れる。当院小児科の初発急性白血病症例数は年 間 7 ∼ 8 例であることから,成人白血病は約 28 例となる。白血病には AML だけでなく急性リ ンパ性白血病や慢性白血病も含まれ,慢性白血 病は全白血病の約 20 %を占め,急性白血病の 骨髄性とリンパ性の比率は成人では 4 : 1 であ ることから10),成人 AML の年間罹患数は約 18 人と推計される。従って,解析の対象となった 10 年間では約 180 例の発症が予想される。さ らに,県内には血液内科を持つ専門施設は 3 病 院であることを考えると,単純計算では 10 年 間の受入数は 60 例となり,当院の受入数はや や少ない結果であった。実際に,平成 19 年度, 当院では白血病疑いの紹介患者 10 例前後が満 床のため入院できなかった。当院は大学病院で 診療科の病床数がほぼ固定されているため,白 血病発生数に対し,十分対応できていなかった 可能性が考えられる。年間の受け入れ症例数は, A 群(2004 年 9 月以前)の 3.2 人/年と比べ, B 群(2004 年 10 月以降)では 7.2 人/年と増 加してはいるが,十分な病床数の確保が今後の 重要な課題であると考える。 当院入院症例の年齢分布は,年齢中央値は 56.5 歳だったが,29 歳以下の若年者が 21 %を 占めた。山梨県の平成 16 年の白血病年齢階級 別死亡数をみると,0–29 歳の割合は 11.6 %, 15–29 歳は 4.7 %だった11)。本邦の平成 19 年の 白血病年齢階級別死亡数も同様の動態を示し, 0–29 歳の割合は 4.2 %,15–29 歳は 2.5 %だっ た12)。これらの数字と比較すると,当院では 若年患者が多かったと判断される。井野らは藤 田保健衛生大学における 10 年間の 29 歳以下 AML 患者の割合は 12.4 %であったとし13),若 年者の割合が高いことを指摘している。同様に, 当院は県内唯一の大学病院であるため,若年者 の紹介が多かった可能性がある。 A M L の 病 型 別 で は , 全 体 で M 2 が 1 8 例 図 4.入院時期別の生存分析.A 群(n = 19): 2004 年 9 月 30 日までの症例,B 群 (n = 29): 2004 年 10 月 1 日以降の症例.両群間に有意差なし. 表 3.比例ハザード解析
(37.5 %)と最も多かった。これは,Kuriyama らの日本人 AML1,427 例の解析において M2 が 最も多く 34 %を占めるとする報告14)と合致す る結果であった。一方,M0,M6 に関しては, 同報告ではそれぞれ 2 %,3 %であるのに対し て,当院では 16.7 %,14.6 %とその比率が高 かった。この理由は現時点では明かではないが, Callera らはブラジル,サンパウロ州サンジョ ゼ・ドス・カンポス市では M1 が 43.6 %を占 め,同じ国の他の都市より明かに頻度が高いこ とを報告している15)。本邦での地域による疾 患分布は検索した範囲では明かではないが,山 梨県の地域性があるのかもしれない。 治療成績についてみると,28 例(77.8 %) に完全寛解が得られている。AML-M3 例と 65 歳以上の高齢者を除いた日本の AML 症例の標 準的な治療成績を示すと考えられる AML201 研究では寛解率は 78 %であり2),本研究は M3 を 3 例,70 歳以上を 10 例含むものの,ほぼ同 等の成績である。前出の井野らは,129 例中 81 例(62.8 %)が完全寛解と報告している。本研 究と同様の大学病院単一施設の解析であるが, 骨髄異形成症候群からの病型移行例や二次性白 血病例を含み,本研究よりも高リスクの患者が 含まれているため,比較は難しい。 本研究の 5 年の生存率は 36.8 %であったが, 一方,JALSG AML97 研究では 46.9 %とされて いる16)。本研究の生存率の方が低い理由とし ては,臨床研究の対象とならない 65 歳以上の 高齢者も含まれていること,それにより治療強 度の低い少量療法の症例も多く含まれているこ とが上げられる。井野らは 5 年生存率 28.6 % と報告しているが,リスクの高い症例が含まれ ていることが影響していると考えられる。 FAB 分類による表現型と染色体分析による核 型で分けた生存率の解析では,それぞれの 2 群 間で有意差は認められなかった。症例数が少な いことや,核型良好群の 2 例に一般的に予後不 良核型といわれる複雑核型17,18)を伴っていた ことが原因として考えられる。新たな予後因子 とされる NPM1 遺伝子,FLT3 遺伝子等の評価 は今後の課題である19)。 入院時期で分けた解析でも生存率に有意差は 認められなかった。B 群では高齢者や M6 症例 が多かったが,血液内科の独立,白血病に対す る分子標的薬20)や,新規抗生剤・抗真菌薬の 登場,また院内では無菌病室の増築や同種造血 幹細胞移植の開始といった治療環境の整備が負 の影響を相殺した可能性が考えられる。今後は 受け入れ症例数を増やし,さらに症例数を重ね ることで,地域における治療成績を明らかにし たいと考えている。 謝 辞 予後調査にご協力頂いた山梨大学付属図書館 本館ならびに医学分館の方々へ深謝します。 参考文献
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