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〈特集: 精神科診療における精神療法・カウンセリングの必要性について〉私の精神療法的対応--その断片的覚書

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Academic year: 2021

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(1)Bulletin of Center for Clinical Psychology Kinki University Vol. 6 : 3 〜 4 (2013). 3. 特集:精神科診療における精神療法・カウンセリングの必要性について. 私の精神療法的対応 ─ その断片的覚書 ─ 千 頭 孝 史 (CHIKAMI, Takashi) 三国丘病院. 私は昭和 55 年、精神科医として出発したが、意識的に精神療法に取り組んだことはなく、 その時その場で患者さんの反応に触発されつつ、試行錯誤で自分なりのやり方を身につけて きたというのが実感に近い。ここでは、治療者が患者側(家族も含む)になんらかの変化を 期待して、患者―治療者間の言語的あるいは非言語的交流を図る過程を「精神療法」と呼ん でおく。この交流は、通常、双方向的だが、治療者から患者側へのあるいはその逆の方向の どちらかが優位になることもある。また、構造化された診察場面で、患者が語ることを治療 者が傾聴すること自体、患者の尊厳と自由を取り戻し、その後の治療関係を決定する重要な 契機になる。さて、以下ではそういった精神療法的対応の一部を紹介させて頂く。 1 .夜道を一人で歩く妄想患者さん 50 歳代の主婦Aさんが、夫に伴われて受診。「私が買い物に出ようとすると、自宅近くに 止まっていた車が急発進する。常に誰かにつけられている。」等の訴え。疎通性は比較的良 好。Aさんの訴えと御家族からの話しを別個に傾聴した後、以下のように述べた(要点の み)。「例えば、夜道を一人で歩いている時に、背後から足音が近づいてきたら、誰でも、凶 暴な男に襲われるのではないかと想像して緊張し身構えるだろう。今のあなたも、一人で夜 道を歩いているような寄る辺なさを感じており、警戒心が高まっているのかもしれない。警 戒心というアンテナの感度が過敏になりすぎて雑音まで拾っている可能性もあり、もしそう なら、あなたのアンテナの感度を下げることは私にできるかもしれない。一度思い切ってそ の可能性にかけてみてはどうだろうか。」 ここでは、急性期の妄想患者さんに対して、夜道を一人で歩く時の心もとなさ、という誰 でも体験していることの連続線上に、現に患者さんが体験していることと、その背後にある かもしれない寄る辺なさや孤立感を捕らえてみたものである。患者さんが、被害的内容より 自分の孤立した状況を語り出せば、ひとまず治療に導入しえたと思えることが多い。また、 アンテナの感度を下げる治療と説明することで、薬の効果をイメージし易くなり、服薬を受 け入れてくれるのではと思っている。次回受診してくれるかどうか保証の限りではないが。.

(2) 4. 近畿大学臨床心理センター紀要 第 6 巻 2013年. 2 .困った時は、患者さんにお願いしてみる。 ある日の夜、20 歳代の女性患者Bさんが急に暴れだし、収拾がつかないのですぐ来て欲 しいと、主治医ではないが管理者として私に緊急コールが入った。前日入院した方で、さき ほどから粗暴な男性の言動のようになり暴れだしたとのこと。解離性同一性障害で、男の交 代人格が突然出現したとみて病棟に駆けつけた。病棟の喫煙室(当時はあった)の隅にあぐ らをかいている。(初めまして、私は千頭と申しますが、Bさんですか?)「オレはCや。」 (Bさんとはどういう御関係ですか?)「あいつの友達で様子を見にきたんや。」(あなたから 見てBさんはどんな人ですか?)「優柔不断で頼りないな」(治療に役立てたいので、このこ とをBさんにお伝えしていいですか?)等。長時間が流れ、深夜に粗暴な行動をされないよ うにこの場を収拾する頃合とみて、(他の患者さんもお休みになっていますし、もう 11 時で すので、そろそろBさんの所に戻って頂けませんか?)「せっかく 5 年振りに出てきたんや。 もうちょっとおらせろ。」(私もそろそろ帰りたいので、急いでもらえませんか?)「そやな、 あいつのベッドで寝るから、薬をくれや。案内しろ。」詰所で薬をのんだ後、スタッフがB さんのベッドに案内し、静かに眠りについた。翌日はBさんに戻っており、昨夜の顛末を告 げると覚えていないとのことであった。 私としては、主人格のBさんは知らず、いきなり交代人格Cさんと出会うことになった訳 で、Cさんを一人の人格として対応するしかなかった。Bさんなりの現実への適応手段とし て創出した劇的世界へ、一時とはいえ参入しえたのは貴重な体験であった。 3 .躁病患者さんの悔しさ 家族に無理に連れてこられた 50 歳代の躁状態の患者さんに対して、次のような話を切り出 した。 「あなたは、うつ状態で辛い時には、周囲の人達は何も言わなかったのに、自分が元気 になり、自分を取り戻して自由に行動できるようになったら、とたんに周囲の人達は自分のこ とを病人扱いし、無理に病院に連れて来られて悔しい思いをしているのではないですか?」と。 その方は思いがけず流涙し、躁うつ病であることの説明と治療を受け入れてくれた。躁状態で も極期をすぎ、どこかで疲労感を覚えている患者さんには、治療導入に有効であることがある。 4 .最後に 患者さんの訴えや症状について一言。治療者の患者さんに対する心理的反応はもちろん、 患者さんを取り巻く周囲の状況およびそれらに対する患者さん自身の反応の総体が症状であ ることを心に留めておきたいと思う。さらに薬物療法を行う場合には、薬物による生体の反 応も症状を修飾する。それと、孤立した状況は、どのような病であっても大きな回復阻害要 因となり、家族の支え、デイケアや作業療法などの社会的療法の重要性を痛感させられてい る。医師一人の力は微力なものである。.

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