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フィンランド,ヘルシンキ郊外における美術を中心とした教育の現状について

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Academic year: 2021

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(1)フィンランド,ヘルシンキ郊外における美術を中心とした教育の現状について Education Centering on Visual arts in the Outlying Cities of Helsinki, Finland 小池研二 Kenji Koike 本論の目的 本論の目的は 2016 年 10 月にフィンランドで行った美術教育を中心とした現地調査につ いての報告を行い,考察を加えるものである。フィンランドでは 2016 年に小学校が,2017 年に中学校が新指導要領を実施している。本調査を行ったのはちょうどその時期であり, 学校現場の教師や校長は指導要領について,どのような印象を持ち,どのように生かそう としているのかを直接聞くことが大きな目的であった。そして学習指導要領作成の中心と なった調査官,大学の美術教育担当者からも話を聞き学習指導要領及び美術教育に対する 考え方について調査を行うこととした。また,小学校や中学校だけでなく,課外美術学校, 職業訓練専門学校といった日本の一般的な教育システムから見るとやや特殊な部類の学校 の美術教育についてもどのような教育を行っているかについて調査を行うこととした。さ らに美術館における美術教育についても調査を行い,一つの改革期にあるフィンランドの 美術教育について多角的に捉えていくことを試みた。 1.本論の概要 今回の調査では各学校等に対し通訳及び現地ガイドを通じて事前に照会しインタビュー 及び学校内の見学の許可を取った。調査先及び対応者は以下であった。 ①Nummelan koulu ヴィヒティ町立ヌンメラ小学校 2016 年. 10 月 3 日 9:00~11:30. 校長 Ms. Minna Öhman ミンナ・オーマン校長 3 年担任 Ms. Jenni Lähde イエニ・ラハデ先生 5 年担任 Mr. Tuomo Mäkitalo トゥオモ・マキタロ先生 ②Saarnilaakson koulu エスポー市立サールニラークソ中学校 10 月 4 日 10:00~13:00 校長 Mr. Jukka Kuittinen ユッカ・クイッテネン校長 美術・情報通信 Mr. Jouni Kupiainen ヨウニ・クピアイネン先生 技術教員 Mr. Pekka Kaikkonen ペッカ・カイッコネン先生 Mr. Jori Haapanen ヨリ・ハ ーパネン先生 テキスタイル・スペイン語教員 Ms. Päivi Junkkari パイヴィ・ユンッカリ先生 ③Espoo Museum of Modern Art エスポー市現代美術館 EMMA 10 月 4 日 13:30~15:30 Ms. Reetta Kalajo Chief Curator, education and customer service レーッタ・カラ ヨ氏 教育普及担当主任学芸員 28.

(2) ④エスポー市内課外美術学校 Espoon kuvataidekoulu Esbo bildkonstskola 10 月 4 日. 15:30~6:30. Ms. Maritta Poijärvi マリッタ・ポイヤルヴィ校長 ⑤Nummelanharjun koulu ヴィヒティ町立ヌンメランハルユ中学校 10 月 5 日 9:00~11:30 中学校長 Ms. Katri Mikkilä カトゥリ・ミッキラ校長 美術教員 Mr. Harri Hakala ハッリ・ハカラ先生 技術教員 Mr. Tuomas Vuorinen トゥオマス・ヴオリネン先生 テキスタイル教員 Ms. Sirpa Jaakkola シルパ・ヤーッコラ先生 ⑥Veikkolan koulu キルッコヌンミ町立ヴェイッコラ総合学校 10 月 6 日 9:00~12:00 Mr. Jussi Roms ユッシ・ロムス校長 美術科教員 Ms. Kristiina Tumelius クリスティーナ・トゥメリウス先生 ⑦Pekka Halonen Academy Keuda Group ペッカハロネンアカデミー(美術・芸術関係の職 業訓練専門学校・成人学校) 10 月 6 日 13:30~15:30 Mr. Markku Tyni マルック・トゥニ副校長 美術メディアアート教員 Mr. Jussi Juurinen ユッシ・ユーリネン先生 美術教員 Ms. Haruka Kashima ハルカ・カシマ先生 ⑧Aalto University アールト大学(旧デザイン工芸大学) 10 月 7 日 9:00~12:00 Dr. Mira Kallio-Tavin ミ ラ ・ カ ッ リ オ - タ ヴ ィ ン 博 士 , University Lecturer of International Art Education 美術教育担当 Dr. Tiina Pusa ティーナ・プサ博士 ⑨フィンランド教育省所管教育庁(国家教育委員会) 10 月 7 日 13:00~15:00 Mr. Mikko Hartikainen ミッコ・ハルティカイネン氏 ⑩Ateneum Art Museum 国立美術館 アテネウム 10 月 7 日 15:30~16:00 Ms. Erica Othman エリカ・オトゥマン氏,教育普及担当 10 月 8 日 11:00~12:00 Ms. Vappu Rossi ヴァップ・ロッシ氏 ワーックショップ指導員 2.中学校での調査 中学校は,サールニラークソ中学校,ヌンメランハルユ中学校,ヴェイッコラ総合学校 を調査した。ヴェイッコラ総合学校は小中一体型の学校であり,小中両方の調査を行った。 29.

(3) 2.1 サールニラークソ中学校 2.1.1 概要説明 サールニラークソ中学校があるエスポー市はヘルシンキの西に隣接し人口は 2 番目であ る。ヘルシンキとは地下鉄でも結ばれ通勤圏内となっている。サールニラークソ中学校で は主にクピアイネン氏が対応した。クピアイネン氏は美術科とともに情報通信を担当して おり,学校内やエスポー市全体の教員に対しても情報通信教育の講習を行うなど指導的役 割を担っている。氏の指導の下でサールニラークソ中学校は情報通信教育では設備,内容 ともにフィンランドでも先進的な学校である。氏の説明によると,同校では全ての教師は エスポー市が貸与した iPad を所有し,コンピューターの数も増えており,各教室にはコン ピューターを配備している。公立中学校ではあるが,定員 20 名のスペシャルメディアコー スという,入学試験を課すコースを設定している。このコースでは数学,フィンランド語, ICT 技術が入試科目であり,アートではコンピューターイメージやグラフィックデザインの 初歩を課したとのことである。授業では ICT を普通の生徒にくらべて 2 時間余計に学んで いる。概略の説明を受けた後,実際に ICT がどのように活用されているのか校内放送の施 設を見学した。ここでは数人の生徒が待機してくれていた。クピアイネン氏によると,校 内放送は朝の時間帯 5~7 分間生徒が放送をする。監督者が一人いて,2 台あるカメラの使 い方やズームアップの方法などを指示するとのことである。放送の内容はその日に関連す ることを選択している。クピアイネン氏が日本を訪れたときは日本訪問の内容について放 送した。このような放送施設は全ての学校に設置されているわけではないとのことである。 再度ミーティングルームで情報教育についての説明があった。サールニラークソ中学校 では,生徒は休み時間は普通にスマートフォンを使用している。情報提供のありかたにつ いてもクピアイネン氏が中心になって指導をしている。生徒は音声情報についてソフトを 利用しており,例えば美術館に行った感想をクラウドに載せて他の生徒がそれを聞く活動 をしている。プリントアウトするのと印象が変わるとのことである。デジタルデザインの 科目では,このような活動やデジタルグラフィックなどをしている。デジタルグラフィッ クでは,以前は有料のソフトを使用して いたが,現在はフリーソフトを使用して いる。これは生徒が自宅のパソコンにダ ウンロードして自宅でも使えることも考 えてのことである。 次に美術科における活動の記録方法に ついて説明があった。自分の活動を記録 するのは紙ベースのスケッチブックとデ ジタルの両方であるとのことである。図 1 は 9 学年のもので,活動についてのリス. 図 1 生徒の美術ノート 30.

(4) トが設けられてあり,ページ数やテーマがあって,できたらチェックを入れる構造である。 プロセスが重要であり,自己評価を適切にすることが必要であるとのことであった。作品 の計画段階のアイデアスケッチもスケッチブックを使用し,その記録もする。デジタル方 式の作品も記録しており,9 年生になると使い慣れている。評価については,グループを 2 つに分けて,片方のグループに対してもう片方が感想を言い評価も行う。学年が終わった とき点検のための保護者のサインが必要である。単に作品を制作するだけでなく,活動を 記録したり評価したりして活動そのものを重視している姿勢が改めて確認できた。 2.1.2 授業の様子 テキスタイルと技術の授業を見学した。どちらも実技の教科であり,製作活動という面 で美術とつながるものであった。担当のユンッカリ氏はテキスタイルとスペイン語を担当 している。このように,フィンランドでは授業数の関係で,特に美術や技術など授業数の 少ない教科では複数の教科を担当する教員が普通のようであった。参観した授業は 7 年生 で必修である。この学年ではミシンを使用して,ズボンを作っていた。この後刺繍をする。 他の課題としては編み物をする。授業は 6 回くらいで,全て学校で行い家では行わない。 ここでは,寸法を測ること,測定して拡大縮小することなどを学ぶ。ロゴマーク等を刺繍 するが,これらのデザインについてはネット上から探してくるなど自由であった。クラス の人数を聞いたが,15 名が普通で,16 名以内で行っている。これは技術とクラスを分けて 行っているためと思われる。時間数については,現在は週 3 時間で行っているが,新指導 要領が実施されると週 2 時間に減り,それは残念であるとのことである。なお,美術に関 しては,時間数は変わらないが,選択の時間は減るとのことである。 テキスタイルと ICT の関連はどうか質問したところ,コンピューターを使って模様を探 す等で使用しているが,製作においては使用していない。また,教室にはかなり本格的な 織機が設置されており,興味のある生徒には使わせるとのことであった。 次に技術の授業を参観した。担当はペッカ・カイッコネン氏であった。7 年生の授業で, 溶接をしている。製作する課題は特に決まってなく,自由に作っていた。旧制度の学習指 導要領で実施しているため,5 学期に設定されている 1 年間のうち,技術を重点的にやりた い生徒は 4 学期を技術,1 学期をテキスタイル,もう一方の生徒はその逆を行うことになっ ている。新学習指導要領になれば半々になるだろうとのことであった。授業では,切断, 溶接,曲げる,研磨,穴をあけるなどを学ぶ。7 年生は必修,8,9 年生は選択であり,途 中で科目を変更はできない。今の方式は自分の技術の才能を伸ばしていくことができ,中 にはアコースティックギターを作る生徒もいる。また,スピーカーなどを製作し,エレク トロニクスも学んでいく。技術室の設備は金工と木工,塗装の設備が完備しており行き届 いていると感じたが通訳の話ではフィンランドでは平均的だそうである。 クピアイネン氏が行った美術の授業も参観した。 生徒の人数は 3 名欠席で 20 名であった。 7 年生の授業で遠近法のうちの一点透視図法の基礎を教えて,目的としては,マンガを作っ て 2 次元の中に 3 次元を表現するのだそうである。授業ではミーティングルームで見たス 31.

(5) ケッチブックを使用していた。ちょうど,目標と表紙を作ったところであった。体裁はス ケッチブックというより普通のノートといった印象が強い。7 年生ではいくつかのテーマが ありそこから選んで学んでいく,パワーポイントを使って,美術館や博物館もしくはバー チャルの美術館を選び自分たちでテーマを選ぶ。デザイン,芸術に関するテーマ,建築等 自分でどんなものを選ぶか来週まで考えてくることになっていた。 2.2 ヴィヒティ町立ヌンメランハルユ中学校 2.2.1 授業の様子 ヴィヒティ町はエスポーから北西にある静かな町であった。ヌンメランハルユ中学校で は校長のミッキラ氏が対応してくれた。始めにテキスタイルの授業を見学した。その後ミ ッキラ氏及び,テキスタイル担当のシルパ・ヤーッコラ氏に話を聞いた。ミッキラ氏はド イツ語とスエーデン語の教師であった。ミッキラ氏の説明から授業の形態については自治 体毎に違いがあることがわかった。つまりここでは,テキスタイルと技術を半分ずつ全員 にやらせていた。また,テキスタイル担当のヤーッコラ氏によると 7 学年ではぬいぐるみ のようなものを製作しており,男子はキャラクターもの,女子は猫や犬などの動物を作り たがる傾向があるという。他に古着などをリサイクルすることを教えている。フィンラン ドでは昔からハンドクラフトは人気があり,最近では毛糸で靴下を編ませるなどの授業を している。中学生はいろいろなことに興味を持つが,大人になって再度興味を持ったとき にこの経験が生きると考えているようである。 美術の授業はハッリ・ハカラ氏の担当であった。7 年生の授業で,服装のデザインを考え る授業であった。ハカラ氏が作成した人体のプロポーションを表したプリントを生徒に配 布し,そのプリントに沿って生徒はデザインを考えていた。プリントには男性と女子のデ ザインがあったがどちらをデザインしてもよい。生徒の中には刀を持った侍や忍者をデザ インしている者もいた。 授業中ではあったがハカラ氏から話を聞くことができた。氏は同校へ来て 2 年目で,2012 年にデザイン工芸大学(現在のアール ト大学)を卒業している。4 日間はこの 学校で教えて,1 日はヘルシンキの学校 で教えている。複数の教科を教えたり, 複数の学校で教えたりするのはフィン ランドでも普通に行われていることが わかった。日本でも生徒数の減少等で 複数の教科を教えることや,美術科の 常勤教員を配置せず時間講師のみで対 応している現状が出てきているので, 興味を持って聞いた。美術の授業時数. 図 2 ファッションデザイン 32.

(6) は 7 年生では週に 2 時間,2,3 年生は選択である。選択科目で写真技術があって,半年間 週 2 時間 8 年生に設定されている。他には選択科目でメディアクラスが 8,9 年生であり, それはハカラ氏と国語科の教員とで教えるとのことであった。 いわゆる教科担当以外にカウンセリング担当の教師からも話を聞いた。学習内容について 何を選択するか指導をしたり,中学校以降の進学相談をしたり,自分の得意なことを探さ せたりする。仕事の現場で体験学習させることもあり,その指導もする。指導員は 2 人だ った。ハカラ氏が指導すると話していたメディアクラスの生徒の記事について話を聞いた。 生徒が書く記事は,遊び場について批評することや,未成年者の飲酒,かみたばこの問題 等を扱っている。これらの記事は専用のソフトを使って保護者や一般の人も見ることがで きるとのことである。 技術の授業を参観した。技術はトゥオマス・ヴオリネン氏の担当であった。参観時はち ょうど近くの小学校の 6 年生が授業を受けに来ていた。2 ヶ月間ここで授業を受けるのだそ うである。また 12 月からはテキスタイルの授業を受ける。ナイフやはさみを立てる収納具 やサウナで使うひしゃくを製作していた。小学生は木工が中心で,ひしゃくの銅製の皿の 部分はヴオリネン氏がバーナーで焼き鈍しをするなど手伝っていた。ひしゃく製作は鍛金, リベット止め,金属のねじり,木工などいろいろな工程を学べるよい教材だそうである。 小学生は午後には小学校で授業があるが,給食は特別にこの中学校でとっていくことにな っている。ヴオリネン氏によると技術は小学校 3 年生から始まるが新学習指導要領では 1 年生からで,それは半分遊びになってしまう,技術の授業時間が低学年に下ろされること により,中学段階での時間数が少なくなってしまうこと,今までは技術や家庭科に重点的 にできたことが半々になってしまい,結果的に時間数が減ってしまうことに不満があると のことだった。氏はこの日 7 時間受け持っており,この後 7 年生と 9 年生がきて授業をす る。7 年生はステンレスパイプを切断し磨いて指輪を製作,9 年生は自由に製作させること になっている。この学校の技術室は最新の設備が完備しており,フィンランドでも最も進 んでいる設備ということであった。 3. 総合学校での調査 3.1 ヴェイッコラ総合学校 3.1 概要説明 キルッコヌンミ町はエスポーの西側にあり,ヘルシンキ中心部から 30 キロほどである。 ヴェイッコラ総合学校は同町立で小中学校が併設された総合学校である。同校は先進的な 学校として世界各国から視察を受け入れており,渋谷区の中学校からも短期の研修生徒を 受け入れている。最初に同校の校長であるユッシ・ロムス氏から説明を受けた。以下はそ の概要である。 これまでの指導要領でも教科横断型のことは言われていた。しかし,今回の指導要領で ははっきりと組み込まれている。小学校は 1-6 年まで新指導要領に移項しているが,中学 33.

(7) 校では,制度上はまだ始まっていないといっても意識的には新指導要領が始まっている。 ロムス氏は社会と歴史,起業家教育を教えることがある。ロムス氏は今年で 9 年目である。 フィンランドの義務教育について説明があった。フィンランドの義務教育は,昔は短かっ た。基礎学校が 4 年くらい,その後職業と進学する人に分かれた。しかし,60 年代になっ て国民一律に 9 学年の義務教育を課することを決めた。その当時は小中学校の区分けがは っきりしていて,中高がくっついていた。教科専門の先生がいるのでそうなっていたので ある。90 年代になって小中がくっつきだして,98 年にはっきりと小中は一律の学校に規定 された。ヴェイッコラの場合は,歴史は古くて,一律になったのは 98 年,昔は,小中の校 舎は別々だったし,小学校は学級担任,中学校は教科専門が教えていたがスムーズにつな がるように仕向けた。それから,もっと低学年,6 歳児託児所保育園の子供とたちと小1の 垣根も低くしてスムーズにつながるようにしている。先生方も小中が別れていたが今は顔 を合わせることが多い。中学校の先生は小学校の先生に生徒のこれまでの経歴を聞くこと ができるし,小学校の先生は,教科横断型でやっていたのでそれを中学校に伝えることが できる。相乗効果である。美術の場合は小学校の先生が美術をどう評価するかわからない ので評価の方法を小学校の先生に伝える。旧指導要領では小学校の 1-4 年生までは評価の 点数を付けなかった。新しい指導要領では 1-5 年までは点数を付けない1。6 学年だけ付け るようになった。しかも昔は先生が一方的に付けていたが,新指導要領では,自己評価と か,最終的な作品だけでなく,プロセスとか全体的な評価をするようになった。また,フ ィンランドの学校制度であるが大学へ行くには高校へ行かなければならないのではなく別 の道もある。選択肢は増えた。人生は終身教育ではないが,場合によってはいろいろ学ば なければならない。だからいろいろなコースがある。職能大学は博士は出せない。博士号 をとるには大学に入らなければならない。フィンランドは予算的な要素では,緊縮財政と か政治的な問題とかあるが,できるだけ若い人たちを優先させている。昔は 2,3 の大学に 行くこともあったが今はできるだけ1つに絞ってほしい,そしていくつか継続するときは 有料になることもある,とのことであった。また,日本でも最近は社会人になってから大 学に入る人も徐々に増えてきたと話したところ,フィンランドでは高齢者の場合は,学位 は求めない場合が多いので,オープンユニバーシティなどで興味のあるものを学ぶ人が多 いそうである。 カリキュラムについては,フィンランドでは学習指導要領に細かな記載はなく,時間数は 自治体が決めたり学校が決めたりする。つまりナショナルカリキュラムは基本的なことを 決めているに過ぎないのである。そして,ヴェイッコラ総合学校の方針は一般的な市民の 基本的な技能を養ってほしいのであり,特定の技能に特化していないことを強調していた。 日本における PISA ショックについて話したところ,ロムス氏は社会的な要素,学校自体 の要素,先生方の要素,それら全てが大切であろう,結局学校や社会は今後も変わるので, 10 年後どうなるか考えなければならない,予測しなければならないと述べていた。このあ たりは日本の新学習指導要領の考え方に通じるところであると感じた。 34.

(8) 美術については同席しているクリスティーナ・トゥメリウス氏も加わってのインタビュ ーとなった。美術の評価についてトゥメリウス氏は,学習において各個人で目標が違う, それを考慮しなければならない,ただ,自己評価も子供によって甘い子も厳しい子もいる のでバランスは先生がアドバイスをする,1 つは個人的な能力も加味するしクラスの中での 位置も考えなければならない,とのことであった。 また,ロムス氏との話の中で 10 年後の社会を考えなければならないことに関連し,その 様な社会では美術がますます重要になると思うがどうか,と質問したところトゥメリウス 氏は,美術は結局時間数を減らされていく,しかし美術自体が教科横断型要素を持ってい るし,他と融合しやすい,想像力を養うこと,自己達成,問題解決能力の学習で美術は大 切な学びである,私たち教師が働きかけないと一般市民はただのお絵かきと思ってしまう, 他の教科との連携で美術の大切さを伝えていくことも重要だと語っていた。さらにロムス は必ずしも教室で授業をするだけでなく,応用等が大切で,人生を送る上で美術の学びが 重要だと人々に考慮してもらうことが大切であると意見を述べていた。情報通信技術に関 しては,手段であって従来の方法に付加価値をつけて考えることが大切であること,トゥ メリウス氏もコンピューターグラフィックも大切であるが,手を使って描かせることは大 切であると答えていた。 次に小学校の授業については,16 のクラスがあり,10 名の先生は専門に特化している。 何か専門科目を教えることができるのである。つまり小学校の学級担任でもあるし,教科 専門の先生でもある。また,テーマによるユニット学習をしているのか聞いたところ,テ ーマは 1 日,1 週間の時もあるし,グローバリゼーションや環境といったテーマの時は先生 がテーマに沿って授業を考える,それが継続して将来生かせることがある,よければ続い てやるし,さらに検討することもあるとのことだった。 他校との連携については, 学区域に 1-6 学年だけの小学校がありそことは連携している, 高校とは地理的な問題があり連携していないそうである。美術では国立公園のビジターセ ンターと連携し,自然遊歩道に絵を描いたり自然学習をしたりしている。また,美術やハ ンドクラフトはエストニアやラトビアの学校と提携し作品を交換したり,生徒が行き来し たりしているとのことであった。 3.2 小学校の授業参観 6 年生の授業を参観した。科目は美 術である。テキスタイルも担当してい るアイノ・ペルットゥラ Perttula Aino 氏が担任をしている学級であった。授 業のテーマは中世で,このテーマが春 まで続くそうである。教室の壁に生徒 の描いたお城の絵が貼ってあった。お 城を学習してそこで遠近法も扱ってい. 図 3 6 年生 家紋のデザイン 35.

(9) るそうである。当日は紋章を学んでいた。自分の家紋を描いて家族を表している。最終的 には台紙に貼って,中世の特別展をこのコーナーで実施しそこで展示をする。また,国語 で中世の文章をやり一緒に融合する。体育とも融合するそうである。劇はやるのか聞いた ところ,今はやっていないが可能性はある,他にも昔の食べ物,衣装,中世の音楽,中世 は非常に多くの活動があるとのことであった。 アイノ氏は美術とテキスタイルを専門に教えることができる。 4. 小学校での調査 4.1 ヴィヒティ町立ヌンメラ小学校ではミンナ・エーマン校長,ヴィヴィアンナ・ニュー ストロム副校長,イエニ・ラハデ教諭等が対応してくれ学校の概略,授業の様子等を説明 してくれた。ここでは特に小学校の美術の授業について参観をした2。 5.小中学校以外の学校の調査 5.1 エスポー市内課外美術学校 5.1.1 概要説明 フィンランドでは放課後に行われる多様な教育施設がある。その中の 1 つである課外美 術学校について調査をした。場所は次に述べるエスポー市の現代美術館に隣接している。 校長のマリッタ・ポイヤルヴィ先生から話を聞いた。以下はそのインタビューの内容であ る。ポイヤルヴィ氏自身は元々テキスタイルの芸術家として勉強し,今は美術の資格を持 ち,さらに芸術を享受する資格を持っている。また児童心理学の資格も持っている。始め に学校全体の説明があった。この学校で大切にしていることは先生たちみんなで話し合っ て決めることである。エスポー市の方針,エスポーで何を大切にしているか,それから一 緒に行動すること,共同体というつながりを大切にすること,そのようなことを大切にし ている。作品を作るときの自由度,作るときのクリティカルな態度,新しいことに挑戦す る気持ち,失敗してもめげないチャレンジ精神これらを大切にしている。子供たちは情報 過剰な世界にいるので,子供たちにどんな趣味興味を選択させるのか,強いモチベーショ ン,やる気を引き出すことが課題になっ ている。自覚とか自己意識を高める,芸 術活動芸術品に触れることがとても大切 なことだと述べている。教員もただ単に 上から指導するのではなく,インタラク ティブで議論しながら共に作品を作って いく。他人の良いところを評価したり, 批評したりしながら作っていく。芸術は 自分の感情とか心情に影響を与えるので 情緒的なところにも影響を与える。最近. 図 4 課外美術学校 校内 36.

(10) はデジタル化も急速に進んでいる。デジタル化が進展したといっても従来からの伝統的な 手法,絵を描いたり,粘土工作をしたり,写真を撮ったりということがやはり大切である。 であるからデジタル化はあくまで手段である。学習しながら学習する,今社会が変化して いるので自分が自分なりに自己向上していくことが大切なのである。子供たちそれぞれ長 所があり,それを自分自身が認識して伸ばすことが大切なのである。 規模についてであるが,スタッフと生徒数は国内最大規模である。学習内容のカリキュ ラムとデザインテクノロジーを行っている。生徒数は 1314 名,年齢層は5-20 歳をカバー している。1 年間とか半年間の生徒は 1300 人だが,短期のショートの参加者は重複してい るかもしれないが 2000 人くらいだ。芸術に接したこともない子供もいる。 参加方法であるがネットで申し込む。先着順である。昔は,応募期間は 4 月とか決まっ ていたが,今はキャンセル待ちとかで入ってくる人もいる。 年齢層 5,6 歳は週 2 時間で,去年は 182 名,7-12 歳は週 2-3 時間 参加者は 840 人,そ れから上級者の応用クラス,13-20 歳は週 3-4 時間. 292 名だ。ここはこの学校のキャンパ. スでは一番大きいがエスポー市内に 10 カ所に分散している。自宅から近いところに分校を 設けているので楽に通える。最終的には卒業作品ディプロマをする。16 歳の時点で行うか どうか決める。約 3 年間応用のコースを経た人が行う。指導教官はいるが自力でやる。デ ィプロマを取るためには芸術家の講義を受ける必要がある。だいたい参加者は 20~40 名で ある。ワークショップは 13-20 歳の応用のコースでいろいろなメニューがある。来年はコ ンピューター情報通信,創造的な高度技術,デザインテクノロジーも行う。デザインテク ノロジーでは,新しい試みとしてアールト大学の工芸部門や学校の先生と共同して高校で やることを試みている。今エスポー市は 10 校高校があるが,3 校はデザインテクノロジー の授業をはじめている。3 つの学校のうち海辺の学校がアールト大学のキャンパスに移動し た。他は美術に特化した高校である。将来的には全ての高校に行って共同することを計画 している。 グループは実際に 116 ある。1 つのグループは 10-12 人くらいだ。 学費は例えば 5,6 歳の Preparatory education は 220 ユーロ 週 2 時間 で半年間の費用 である。 この学費で予算の 3 分の 1,残りの半分が国,残りがエスポーから出ている。 年間 160 万 ユーロかかる。施設は 1 つの屋根の中にいろいろな施設が含まれているものがどんどん増 えていく。そうすると学校が終わるとすぐにいける。 ここの教授陣であるが,全体で 45 名の教授陣がいて 7 名が選任で残りが時間講師でそれ 以外に維持管理をしている人がいる。アールト大学の教員養成の 1 年目の教育実習はこの 学校で行うことが多い。チームを作ってプロジェクトを作って教えている。スタッフが会 合をしたり,専門家を招いて研修をしたりしている。上から押しつけるだけでなく,先生 方の意見を聞いていいところがあればすくい上げていく。2 週間に 1 回会合を開く。学校活 動においては学校評価,自己評価をする必要がある。 37.

(11) (スライドを見て)これは小さい子たちの活動で,ジャクソンポロックの活動である。 相互作用だから先生たちと意見交換をする。ゴミを減らそうという活動で,ゴミ箱自体を 楽しいものにしている。ペンキを貼ったり,シールを貼ったりして子供たちが特定の場所 に配置する。子供たちは非常に自慢だそうだ。私はまだ見たことはないが,かなりの数に 上っている。また,ルモキッズという家具専門メーカーとタイアップして子供が考えたも のを,デザイナーがデザインして商品化している。他のプロジェクトもあって本の出版で 詩集の表紙を書いてほしいとか,音楽コンクールの賞品を送るなどしている。 有名人を呼んで知名度を高めている。キアズマ(ヘルシンキにある現代美術館)の前館 長で,子どもの権利を主張するオンブズマンを呼んだ。美術の大切さを国会に訴えに行っ た。美術の社会的な位置が学校だけなのかどうか,時間数を減らすのはどうなのかなども 含めて訴える。この学校でも一般的な子供たちに楽しんでもらいたいが,できれば深いと ころまで教えたい。そうすると予算が足りない。いま,9つの小学校の課外活動に先生を 派遣して美術学校で教えるのよりは軽い内容の課外活動をおこなっている。 以上が説明の内容である。日本では放課後の活動を部活動,つまり学校でカバーしてい るのが普通である。しかしフィンランドは,放課後は放課後で地域にこのような施設が設 けられており,専門のスタッフが専門の施設を使って幅広い年齢層に教育を行っている。 調査に行く前からこの種の学校については聞いていたが,実際に話を聞き施設を見学して このような教育施設が存在していることの有効性を感じた。また,学校と地域,今と将来 をつなぐ学習の中で美術が果たしている役割も大きく,無理なく自然な形で美術が生かさ れていることを強く感じた。 5.2 職業訓練専門学校・成人学校 ペッカハロネンアカデミーの調査 5.2.1 概要説明 美術の専門学校であるペッカハロネンアカデミーについて調査をした。日本では美術関 係の専門学校や,予備校がこれに近いかもしれないがそのどちらとも異なっており,興味 深い教育施設であることが調査の結果わかった。当日は副校長のマルック・トゥニ氏,美 術メディアアート教員ユッシ・ユーリネン氏, 美術教員ハルカ・カシマ氏が対応してくれた。 カシマ氏は日本人であり,日本との微妙なニ ュアンスの違いなど詳細に教えてくれた。 最初にトゥニ氏から全体の説明があった。 その説明の最中でも,ユーリネン氏,カシマ 氏からも補足があった。インタビューの内容 を記す。 まず学校の概略であるが,職業教育を行って いる教育機関でグラフィックデザイン,ビジ. 図 5 ペッカハロネンアカデミー校舎 38.

(12) ュアルメディアアート,写真を教えている学校である。学生のうち半分は義務教育である 中学校を終えて入学し,半分は高校を卒業して入学してくる。枠は 76 名,ビジュアルメデ ィアアートの入学倍率はほぼ 3 倍,それ以外はほぼ入学できる。全校生徒は 205 名である。 義務教育を終えてくる場合は 3 年間,高校を卒業してくる場合は 2 年間で卒業できる。こ の場合数学や語学はほぼ免除される。成人学校は成人教育であり,若い人よりは年齢の高 い層を対象としており 40 人が定員であるが,若い人もいる。年間予算は 210 万ユーロであ るが,緊縮財政なので,来年は厳しいことが予想される。病欠は 5%,他の大学等への進学 は 5-10%である。美術が好きな生徒が入学してくるので,モチベーションは高い。実際筆 者が教室を参観したところ生徒が積極的に制作に取り組んでおり,やる気は十分に感じら れた。メディアではコンピューター,写真はカメラを使うことが多い。他は従来の絵を描 いたり彫刻を作ったりしている。教員はアールト大学や美術大学を出ている。教員免許を 全員持っている。進学先,就職先は 5-10%がアールト大学や美術大学に進んで,10%は職 能大学に進む。他は自営業,フリーランスでアーティスト,グラフィックアートの会社に 就職する。10 名くらいの人はすぐに職に就かない人もいる。この学校は国際的なつながり もあり,ArteCult という制度があり,学生に対してヨーロッパとつながっている。また Hanako という日本とのつながりがある制度があり,先生が一人日本に派遣された。こちら の学校と日本の専門学校の交換留学システムで,3 ヶ月間,長くて 12 週間であるが留学す るシステムである。Hanako はこの学校だけでなく,フィンランドの教育庁が立ち上げたも ので,美術だけでなく,料理など多くの専門が対象である。しかし美術が多い。交換留学 の相手先について質問したところ,この学校のレベルは中等教育より少し上であり,高校 生や大学へ来る前の人が対象になるであろうとのことであった。日本では専門学校は規模 が小さいので,高校生も可能であると理解しているそうである。 学校自体の歴史は古く,フィンランドの独立前 1906,7 年といった時期には美術やグラ フィックではなく,農業,ハンドクラフト,軍隊への教育などを行っていた。1985 年くら いから徐々に美術を教えるようになり,さらにメディアなどを教えている。 このような大変古い時代からある学校ではあるが,どうも学校の位置づけが理解できなか ったのでカシマ氏の聞いたところこのような回答であった。つまり,専門学校と理解して ほしい。フィンランドでは中学を卒業して高校へ行くのは 50%である。だから,専門学校 へ行く割合が高い。専門学校は高校を卒業した後とか,大学レベルで資格を取った後,来 る人もいるので,必ずしも日本の専門学校と同じではない。3 つの分野がそろっているのは フィンランドでも他に例がなく,立地環境もシベリウスなど昔から芸術家が集まった場所 だそうで,回りを自然に囲まれており創作活動には最適だと筆者も感じた。先生たちは芸 術家なので授業が終わったら自分の作品を制作している。また,全員が専門分野の組合組 織に所属している。先生は芸術家なので,制作に集中するときは 1 週間とか特別に配慮し ている。逆に配慮をするとそれが授業によい形で反映されるとよいと思っている。また, 技術革新が最近は激しいので,グラフィックデザインなどは自分で接しているからこそ授 39.

(13) 業に反映できる。実際に先生自身も制作しているのは良いことだという。ここに務めてい る先生は職業組合の中でも幹部であり,他の作家や組合組織から最新の情報も入るので, これらも授業に役立てている。 ここの教員になるのは難しいか尋ねたところ,家庭的な事情や務めることで時間等が縛 られることになるから,本人の意志によるが芸術家としてすぐれていても教師として才能 があるかは別である。そういった意味でここに応募するかどうかは,限られることになる。 これまでどのように教えてきたかも考慮する必要があるとのことである。また,システム として教職は別に取らなければならない。特にファインアートの分野では全員が教職を取 るとは限らない。日本では大学の中に教職のコースがあって取ろうと思えば勉強しながら 取れるが,フィンランドでは必ずしもそうではない。普通は芸術課程のマスターを取るに は 5 年とか 7 年かけて教職を取ればさらに 2-3 年かかる。長引くと 10 年くらいかかる。そ うなるとやはり考えることになるのだそうである。またフィンランドでは教職は仕事をし ながら取ることが可能であり,それはフィンランドにとってプラスになる。2 ヶ月に 1 回く らい約 2 週間の集中講義,ネットを使ったやりとりをして,自分の仕事をしながら,職場 の理解を得てやっていけるのがフィンランドでは多く,それが素晴らしいと言うことであ る。 5.2.2 校内の調査 次に校内を見学した。先ほど述べたとおりこの学校は非常に古く,建物も 100 年ほどた ったものと思われる。ゆったりした環境の中で美術にどっぷりつかって学んでいけるのは とても幸せな環境と感じた。最初に見たのはグラフィックデザインの教室で,そこは Mac が並んでいた。メディアアートの教室はウインドウズで,PC 実習室は 3 つあり常に生徒が 使用している。アトリエにいた 1 年生に話を聞いた。彼女は東京の ICU に 1 年間留学して いたそうである。彼女の話ではこれからイギリスに留学する。禅などのメンタルスペース, 床の間とか精神的な空間や,仏教の精神や美術に興味がある。油絵をやっており,ここで は 1 年間のコースでマスターコースをやっている。彼女のように,大学留学を経験し,次 の留学のステップとして通っている生徒も いる。目的も学習期間も多様な生徒が在籍し ており,多様性のある学校であることがわか った。次に彫刻の教室を見学した。入学した とき専門は決まっていないで,1 年生の最後 に専攻を決める。このときは 2 つくらい専門 を考えてその後決定するのだそうである。ま た,日本の予備校的な意味合いもあり,1 年 間ここで学んで他へ行くこともあり得る。ア ールト大学,ファインアートの芸術大学は入 るのは 4%である。ストレートで入るのは難. 図 6 ペッカハロネンアカデミー 室内 40.

(14) しくてたいていどこかの大学にいてそこから入る。それが普通のコースである。24,5 歳に なってから入る人もいる。例えばこの学校にいて,ここで美術をやっていこうと考える, そのベースを与えることがここではできると言う。芸大の芸術専門の学部は 25 人の枠があ り,一番いいときはここから 7 名が入学した。大体 1-4 名はここから入学しているとのこ とである。 コースの中ではメディアアートコースが最も人気があり 2 つのクラスがある。内容を尋 ねたところメディアという名前が付いていても絵画,彫刻,写真等美術に関するものを一 通り行う。最終的な卒業制作でアニメーションや動画を選択する学生もいるそうである。 費用についてであるが,奨学金は返還義務のあるものないもの 2 種類あるが,いずれに せよ補助金がある。また画材は学校から支給される。しかし卒業するとお金がかかるので, そういったことも教えていきたいと話していた。 次に焼き物の教室を見学した。1 年生の作品が並んでいたが 3 年生は自由に制作する。ヘ ルシンキのノキアの旧ファクトリーが展示スペースになっており,そこで卒業展覧会を開 催する。芸術家は発表することも大切で発表や展示についても学んでもらう事になってい る。 アトリエのある建物の 1 階に移動した。学生が制作をしていた。ここでも教員から話を 聞いた。それによると,16 人くらいの学生寮がある。遠くの人たちは学生寮に入る。寮の 2 階には 3 年生のスタジオがありそこで卒業制作をする。部屋は 2 人で 1 つを使う。授業以 外の時間に作業するには教員から許可が必要になる。美術は授業時間内で完成させるのは 難しいので授業外の時間を活用しなければならない。最終作品(卒業制作)を作るのは 1, 2 年生にも励みになる。また,美大に入学するためには自分の才能を見せなければならない。 そのために作品の他に,ポートフォリオを見せる。ポートフォリオは自分の制作の過程を 見せるものである。また,ポートフォリオの形は個人に任せており従来型のファイルのも のもあるしネットの形を取るものもある。徐々に全てネットの形になるかもしれない。 以上で全てのコースを紹介してもらい,内容も細かく教えてもらった。全体の印象はい ろいろな役割を果たしている学校である。予備校であり,専門学校であり,高校でもある。 説明を受けても日本ではぴったりとあてはまる学校がない。日本はほとんどの生徒が高校 に進学するためここに対応する学校がないのであろう。学校が小さな規模のため先生と生 徒の仲はとても良いとのことであった。また,イベントとしてはバレンタインデーの時が 一番大きなイベントで,誰でも来て良いそうである。生徒はお店を出して作品などを売る。 将来職業人として自分の作品に価値をつける,芸術だけやっていると自分の価値がわから ないのでそのような活動も大切な経験になる,とのことであった。将来はギャラリーや画 材屋などに就職する人もいる。いろいろなところで強調されているが,創造性を大切にし ている。そして問題解決能力はいろいろな分野で役立つ。芸術は将来どうなるかわからな いが,でもそれを学んでいく。ものをつくっていくことは大切なことだ,と最後に話して いた。芸術を大切にしていく姿勢,ある意味では純粋な芸術教育の姿がここにあると言う 41.

(15) 印象を持った。 6. 美術館での教育活動の調査 6.1 エスポー現代美術館 EMMA での調査 6.1.1 概要説明 教育普及担当主任学芸員のレーッタ・カラヨ氏から説明を受けた。カラヨ氏は,大学で 芸術史,PR 部門を勉強し,さらにマスメディアの部門も卒業したそうである。カラヨ氏は 社会と市民とのつながりをコーディネートする仕事をしていて, 部下は 40 人いる。その内, 5 名が学校専任で他の 35 人が普通の市民担当の人たちである。以下氏の説明である。 この市民サービスはこちらに来館された人に芸術作品に触れて親しみを持ってもらうこ とが目的だ。アート作品はそれを通じて世界を理解する事ができる手段でもある。芸術自 体,多分野にわたる領域で,そういったものを扱う。同時に芸術を扱うことによって過去 の歴史を知る,それは世界史,日本史,フィンランド史などだが,自分の歴史を振り返る ことも可能だ。芸術作品はいろいろなストーリーがある。来訪者にどのように紹介してい るのかを説明する。まず,一般的なガイドツアーがある。特定のテーマに沿って話しをす る。子供向け,大人向けでテーマごとに様々である。毎年子供から大人まで 10000 人から 13000 人がガイド付きツアーに参加する。それから外国人も来るのでその場合は英語で対応 する。スエーデン語系の人たちが来たときはスエーデン語で対応する。 もちろん,作品を鑑賞することも芸術に接することだが,同時に自分自身芸術を作るこ とも自己体験といえると思うが,それも大切なことだと考えている。実際体験をしてもら う場所はこのワークショップの場所か館内のどこかで行う。 年齢に応じて,テーマもバラエティに富んでいる。ワークショップはこちらで最初から アレンジしたもので募集したり参加者からの希望でオーダーメイドしたりするものもある。 音楽とかドラマとか,芸術の他の分野とつなげるときもある。ワークショップは年間 3000 人から 4000 人が参加する。イベントがいろいろ行われる。芸術家を呼んだり,音楽家を呼 んだり,演劇やパフォーマンスなどもやっている。 この美術館自体,展示だけに終わらせず, 広範囲なサービスを行いたいと考えている。 いろいろな要素を組み合わせて市民サービ スを提供している。そして実際市民が参加 することにより,芸術と関わる喜び,つく りだす喜びを市民に感じ取ってもらいたい。 イベントは年間大小約 60 回である。昨年参 加した人は約 28000 人である。 この美術館は周辺地域と関係を強めてい て日常に訪れてもらえる場所になっている。. 図 7. 42. EMMA 館内.

(16) そして,実際遊園地に出かけるような気持ちで美術館を利用してもらいたい,自分自身の 自己啓発の場というか,鑑賞や活動を通して芸術の接触を深めてもらいたい,それがねら いである。 次は学校とのコンタクトについてである。学校との関連は修学前,託児所保育園の時期 から始まって,義務教育機関,高校生,市内に大小合わせて 200 校くらい学校があるが, もちろん学校は美術館を先生,生徒ともに無料で利用できる。一部の学校とはプロジェク トを立ち上げて積極的に美術館と関わっている。 エスポー市としては,子供たちに年間 1 度は美術館のような芸術施設や体育施設,劇場 などの施設に来てほしいという目標がある。もちろん学校との関連とは担任の先生との関 係が重要になる。プロジェクトを立ち上げるには,先生と相談して決める。こういう文化 的な行事についてはエスポー市が全額または一部を補助する。EMMA は,現在財団が運営し ている美術館である。ただ,財団といってもかなりの部分はエスポー市に頼るところが多 い。フィンランドでは入場料でカバーできるのはコストの 10~15%だ。だからもちろんそ れだけではやっていけない。プロジェクトの場合は,フィンランドの教育文化省や国のお 金それから文化事業にお金を拠出してもらう財団に申請してお金を出してもらう事もある。 次にこの建物について説明する。建物は 8 本の支柱で支えられている。他に柱はない。 壁も支持構造ではない。だから移動が可能である。下は仕切りを特別に作った。隣はタピ オラ西高校だ。この中には 4 つの種類の違う,美術館が入っている。 現代美術館 EMMA は床面積がサッカーコートくらいの広さがある。2000~2006 年に改修工事 をして 2006 年に再オープンした。1964 年に完成した。この建物はタピオラの教会,それか ら光の教会をデザインした建築家(Aarno Ruusuvuori)がデザインした。あれ(Futuro House) はプラスチックでできている3。同じものは 1000 個くらい世界各地にあるはずだ。73 年に 石油危機があって,建築費がかかりすぎるので作るのをやめた。その前は,移動が可能だ し,軽量だしコストもかからないはずだったのだが。2012 年にこちらに設置した。プロト タイプである。夏だけ中に入れる。この現代美術館の他に文化歴史博物館,時計の博物館, おもちゃ博物館もこの建物の中に入っている。他の美術館と提携しているのでいろんな分 野と垣根を越えてイベントを開催することも可能になっている。EMMA の一角にタピオヴィ ルッカラ4のガラス工芸のコーナーを作る。奥さんは陶芸家である。この夫婦の作品の一部 書き残したものなどをどのように展示するか,双方向のコミュニケーションがとれるよう な展示法を検討中である。 芸術学校との関連は芸術家を呼んでくることや,芸術学校の先生が生徒を連れてきて先 生が解説することでこちらを使うこともある。 次に 2 階に行き作品を前に説明を受けた。この展示品のアーティストは外人もいるしフ ィンランド人もいる。財団が所有している作品を展示している。常設展である。この財団 は自分たちの展示施設がないので EMMA に展示している。外国人の作品もあるので,外国の 状況も知ることができる。展示方法は一般の人に見てもらったり,解説をしたりするので, 43.

(17) 教授法の専門の人と協議してどのくらいのスペースを確保したらいいか,どう展示したら いいかを十分考えてから決定している。 学校の見学については,普通はクラスの数が 25 名なのでそのくらいがくる。最大 35 名 くらいまで対応できる。ワークショップは,マックスで 25 名である。普通はワークショッ プの場合 1 団体 20 ユーロ前後大人の場合は 80~100 ユーロくらいかかる。 費用はケースバイケースで市が払う場合もあるし,保護者が払う場合もある。遠足とか 特別なイベントの時は学校には資金がないので,エスポーだと 20~30 ユーロ保護者に出し てもらうと 2,3 回は美術館に来られる。ワークショップは普通絵画とかだけではなくて演 劇とかとコラボでやるのが楽しかった。芸術家の一部は積極的に自分の作品を紹介してい る。そういう人とはうまくいく。芸術作品を展示してもどういう人が作ったかわかる。そ ういうことも大切である。2 階に展示されている宮島達夫の作品を見て現地の人たちは興味 を持つ。10 歳くらいの子供たちは最初にこの作品を見せて興味を持たせる。日本人の作品 は少ない。必ずしもヨーロッパ世界の作品だけではない。アジアの作品も扱っている。た だまだアフリカの作品がないのでそれは残念だ。 以上がカラヨ氏からの説明である。決して派手な展示ではないし,展示内容も現代美術 のみで一般にはわかりにくい面もあると思われる。しかしどうすれば市民が美術に興味を 持つか,より豊かになるのかを真剣に考えている姿勢が見えて好感が持てた。そして前述 の課外美術学校や高校が隣接していることも各施設の連携のしやすさという面で有効であ ると考えた。また多くの学校がここに訪れることを聞いて学校との連携もしっかりしてい ることを実感した。 6.2 国立美術館 アテネウムの調査 6.2.1 概要説明 10 月 7 日にエリカ・オトゥマン氏にワークショップ等の美術館での美術教育について説 明を受け,8 日には指導員のヴァップ・ロッシ氏からワークショップ前の時間に話を聞いた。 以下はオトゥマン氏の説明である。 1983 年まではデザイン工芸は(現在のデザイン美術館ではなく)ここにあった。美大もこ の建物の中にあった。例えば今のカフェテリアは陶芸があった。ミュージアムショップに は陶芸の釜があった。今のアールト大学のデザイン分野と,美術家や美術科の先生になる 大学がここにあった。この建物自体は 1887 年にあった。その当時は 2 つの美術館と 2 つの 美術の学校がここにあった。91 年からここはワークショップの場所になって依然として学 習の場所になっている。普通はワークショップをするが,インタラクティブの活動は美術 館の展示スペースでも行う。 (オトゥマン氏は)91 年ここに就職した。ワークショップという概念も当時は非常に珍 しかった。最初の頃,託児所保育園の年齢の子供と家族向けの2つを対象にスタートした。 次に成人以上対象,18 歳以上を対象とした。大人向けは 3 週間続けてやったが今は 1 回 2 44.

(18) 時間半でテーマに踏み込む,大人の場合はそういう風にやる。児童,生徒,学生は基本的 には無料である。2 時間半大人向けは 31 ユーロ入館料とコーヒー代,材料も全て込みだ。 子供たちが来た場合,館内にある作品,1 点~3,4 点を学芸員が 30 分くらい説明する。グ ループは 9:30 位に来館する。普通は 2:30 だ。短くても 2 時間は行う。 さらに画像を見ながら説明を聞いた。ワークショップの様子が写し出され,絵にあわせ て衣装を着ている5。以下オトゥマン氏の説明である。 下に劇場があって絵画に描かれているビフォア,アフターを考える。想像してストーリ ーを考える。子供らしい考えはディスコへ行った帰りとか考える。最初は 30 分くらい作品 について鑑賞する。最初は美術史みたいなこともやるし,子供たちがどのような反応をす るかも楽しみだ。ニーズとして 20 名前後,小学生だと 25 名前後である。3 年生を対象に, 衣装が必要だからこちらで作ってドラマをやった。 これ(生徒の作品)は 1 つの風景を描いて,風景は作品と関連するものでもそうでない ものでも構わないが風景の分析というか,場合によっては改変することもある。グループ 作業になる6。これはグリーンスクリーンで,ここに寝て写真を撮って作品と合成する。こ れを見れば作品鑑賞をしてどういう風に理解したか鍵をつかめるかもしれない。 これ(所蔵作品)はフィンランドの有名な作品で所蔵している7。多くの美術教員が扱い たがる作品で,ブランかと王寺様というタイトルでストーリーがある。引率の先生に最初 にストーリーを教えて子供たちがストーリーから絵を描く。ストーリーから自分なりの解 釈をして自分なりの表現をする。必ずしも絵を描くときに静物や人物や風景を描くのでは なくて目を閉じてストーリーから描くこともある。 これ(生徒作品)はイスラム教徒のつながりである。博物館の装飾とかモザイク模様と か共通性もあるわけだ。イスラム教に関する展示もあった。鏡を使ってシンメトリーや放 射状の模様が角度によって変わるが,それを見る。美術館の床にも使われている。数学と の関連もある。これはタイルをつくったものである。ヘルシンキは移住者が多いが,よう こそという言葉は 19 集まった。招待状に 19 の言葉を記入して,オープニングは父兄と一 緒に来た。この展示会を行ったのは映画館が入っている建物でおこなった。そこにイスラ ムの模様があった。こういうときには多文 化,外国のことを理解する,それを強調し ている。 これ(野外で活動している写真を見なが ら)は外に設置しているカメラオブスクラ だ。大きいものだ。特別に作っている。こ れは平日だと先生に引率された子供たち, 休日だと家族が来くる。2011 年の春に行 った。大学のアレクサンドル先生が指導し た。これはカーラーソンというスエーデン 図 8 アテネウム スタジオ 45.

(19) の画家がいて彼が部屋の壁面を描いた。アレクサンダーさんはそれを屏風のように区切っ ていった。これはフィンランドの古い様子の絵だ。実際は小さい絵なのだが,大きく拡大 している。1 つのクラス 25 名くらい一度には入れる。子供たちは絵の中に自分を描いてい るような事もある。 これ(ワークショップの写真を見ながら)はヘルシンキ大学の小学校の教員養成課程と のタイアップである。週末は常に学生が一緒についてくる。コマを作っている。子供たち は学生の指導によって模様をつけたり,どのくらい回るか競争したりした。 次にアテネウムのホームページを見ながら説明があった。 これはアテネウムのホームページだ。これは学校の生徒たちだ。ワークショップについ て書いてある。これはファイルがあって特別展とか最大 A4 でプリントアウトできる。この 部分はフィンランド語とスエーデン語で書かれている。これは学校の教員またはグループ リーダーと後は先生に引率されたグループに対してどういうサービスを提供するかを書い てある。ここの部分は鑑賞したりするか,どんな目的があるか書いてある。 学習指導要領とこちらの案内とがどのように合っているかが書かれている。自画像が主 体の特別展がくる。実際ここに来る前に自画像に関する設問があって子供たちに聞いて見 ることができる。これはここに所蔵されている自画像だ。これは今やっている特別展の説 明である。これについてどういう風に設問するか,作業させるか例としてあげている。こ れはフィンランドの歴史,これは昔はこうだったというテーマ,自画像,カレワラである。 これは関連する画像で,学校で使う場合はスクリーンで生徒に見せることも可能である。 これらは美術の先生も協力して作ってもらった。美術館に来る前にどんな活動をしたかそ の例がある。ただ小学校の先生は全教科を教えるので,忙しいし,自分もそんなに勉強し ていないし,先生にも教えなければならない。これは 1 つの私たちの所蔵作品を使えば美 術の授業ができるという例を示している。 ヘルシンキ大学の全部で 120 人くらい小学校の先生を目指す学生の 1 年生を 7 グループ に分けて 2 時間半に渡って教えた。結局小学校の先生になる学生は授業も限られている。 美術は 10 コマしかない。1 コマを美術館や博物館に来て自主的なことをする。そのときに さわりというか美術館の使い方を話して,実際に先生になったときに使ってもらえるよう にしている。実際自分でワークショップを体験して,収蔵作品をみてそれを絵に描くなど の活動することができるようにする。 日本をテーマにしたものもある。これは自然の素材を使って 3 年生を対象にしたものだ。 これは明日のワークショップで,紙粘土で食べ物を作る。年齢は問わない。 普通参加する場合はインターネットで申し込む。学校だったら担任が申し込む。先生が こういった活動に熱心であれば,同じ学校の別のクラスを連れてくる。もちろんできれば いろいろな学校から来てほしい。一回ワークショップをした学校は後回しにする。年間ワ ークショップに参加するのは 6000 人である。 3000 人は明日のようなノンストップのものだ。 それは申し込みも必要ない。20~25 名,多かったら外で待つ。明日の活動は,予約は必要 46.

(20) ない。申し込みはそれなりの覚悟が必要だが,明日のワークショップは気軽に来られる。 以上が説明であった。この後オトゥマン氏が開発した透明な板を使った友達の顔を描く ツールを紹介してもらった。このように美術館の教育担当もいかに楽しい鑑賞を体験でき るかを常に考えていることがわかった。アテネウムはフィンランドでも最も格式のある美 術館だが非常に鑑賞教育にも力を入れており親しみのある印象を持った。 7. その他の機関での調査 7.1 アールト大学での調査 7.1.1 概要説明 美術教育担当であるミラ・カッリオ-タヴィン博士,ティーナ・プサ博士に話を聞いた。 ミラ氏は新学習指導要領の編纂に関わり,美術教育の中心的な存在である。新学習指導要 領では国家教育委員会の調査官以外の 7 人の中の 1 人である8。また 2018 年にアールト大 学で開催された国際美術教育学会(INSEA)の責任者である。ペッカハロネンアカデミーの 卒業生とのことであった。プサ氏はミラ氏とともにアールト大学で美術教育を研究してい る。以下はインタビューの内容を整理したものである。 まず大学についての説明があった。大学は昔の 3 つの大学,経済,デザイン工芸,そし て工科大学が 2010 年に合併した。名前はアールト大学になった。研究と教育,デザイン関 係も含めて効率的に社会に対する影響力を強めるために行った。学生も単位を広範囲な中 で取れるようになった。そういう特典がある。最終的には社会に対するインパクトを増や すことである。大学の規模は,学生が 20000 人。職員が 5000 人で 350 人が教授職だ。性格 の違う大学が合併したことによって,科学技術とビジネス,サイエンス,アートが 1 つに まとまる,それが目的だ。頑張れば世界のいくつかの有名大学のなれるのではないかと思 って目指しているところだ。学部のような組織が 6 つに分かれている。アートの中にテー マやストーリー性のあるもの,デジタル,アートの新しい潮流についての研究開発という こともやっている。学部の中を見るとさらに細かく分かれている。アート全般,デザイン, 建築,メディア,映画もそうだ。芸術的な,それからもう 1 つは教育的な活動を活発にし て国内的にも国際的にも水準を保ってい る。マスターコースは 3 つの勉強ができ る。学部からマスターまで継続して学ぶ。 博士課程もある。 大学が融合した教育の例としてバイオ ラボというのがある。ここでは,生物的 なものとアートと結びつけていく。どの ような結びつきがあるかだが,例えばミ ツバチを蜜を集めるためだけではなく, いろいろな成果が発生する。それをアー 図 9 移転後のアールト大学 47.

(21) トとして扱うとかそんな例がある。 美術の先生を要請するプログラムは,修士まで行う。フィンランドで美術の教師として 就職するためには修士が必要である。他の学部を出て就職してもう一度美術の教員を目指 してこの大学院に来る場合は一部の単位は認められるが,かなりの単位を再び取ることも あり得える。 今我々が所属している美術科教員養成の学生は約 300 人だ。年間 30 人くらい新入生が入 ってくる。その内 18 名くらいが過去に履修していない,本当の新入生,それから 10 名が 他のところで履修してきた学生である。合わせて約 30 名である。それ以外に例えば小学校 の先生の免許を持っているが美術の免許を取りたいとか他のテキスタイルやハンドクラフ トの先生が免許を取りたいとか,60 単位くらいだが,それを年間 3 名くらい受け入れる。 留学生は 5 名から 10 名だ。留学生は普通半年で 30 単位,30 単位は講義と実習を含めて英 語で授業を行っている。希望によっては半年を 1 年とかに伸ばすことは可能だ。今対応し ている国は,ウガンダ,トルコ,スペイン,ロシア,日本の京都からも来ている。普通は ヨーロッパだ。博士課程にも多くの国の人が来ている。 他に Nova といって英語のみで授業を行うクラスは外国人のみで占められている。年間 10 から 12 名の枠があってフィンランド人は 2 人くらいしか参加しない。それを卒業しても, フィンランドの美術の先生になれるのではなく,マスターの美術コースということになる。 教育専攻の学生でも副専攻も取る。アールト大学は 1 つになったので,副専攻科目は工 学系でも経済系でも自由になっている。ただ先生になる人は,普通はテキスタイルとかと 組み合わせることが多いし,小学校の先生の免許と組み合わせることが多い。少しまれな 例として生物とか数学とかあるが,それはごく少数だ。 教育実習については毎年学部にしろ,修士にしろ実習期間というのがあって,最初は短 期間行って上級になると大学の附属の小学校,中学校で教えることになる。それからさら に上になると美術館やペッカハロネンのような美術学校などに行くこともある。 それ以外に成人教育にも行く。それは 4 年目に社会福祉関係でもいいし,それと美術と 融合したような場所でもいいし,学校以外の場所でも実習を行う。 期間はマスターに続くものでは実習で一番長いものは 2 ヶ月くらい続く。しかしそれは ずっと行っているわけではない。 Nova は開始して 2 年目だがアジアからも多く来ている。これは北欧の大学が連携して行 っているプログラムだが,20 名位の定員があっての 16 の大学が参加している。重点項目が あり,芸術では,教育の現場としては学校の中だけではなくそれ以外のところで行うこと も望ましい。最初の期間はどこかの大学へ入り,その後は他の大学へ移動する。集中講義 をすることもあるし,ネットも使用する。費用については,これまでアジア人も含めて費 用はかからなかったが,来年(2017 年)からはヨーロッパ圏外から来る学生は年間 15000 ユーロかかる。 新しい時代の要請から学校を変えていかなければならない。アールト大学は全然違った 48.

(22) 大学が合併したので分野を超えて新しい事ができるかがうかびあがってきた。副専攻とし て芸術とは違う経済とか自然関係とかそれは非常に興味がある。現在は試行錯誤の段階で ある。社会的な変化で美術は社会的に広くなってきた。ヨーロッパへの移民の流入などで いろいろな文化が入ってきた。それから社会的変動として少子化,高齢化,そういった場 面において芸術はどうあるべきかが問われている。この教員養成学科を卒業しても教員に なるだけではなくて,昔では考えられないような広い範囲になってきた。 (いろいろな可能性が出てきたと言うことですね。 ) フィンランドは,以前は地理的な面や言葉の問題もあってある意味では同一性が高い面 があったが,今はいろいろな人が入ってきて,ネットも広がっていろいろ影響も与えてき た。それに応じて美術教育,美術も変化しなければならない。 これは昔と違って教室だけではなくていろいろな場面で美術に出会うことが多くなり, それから若い人の意見をくみ取る,文化をどういった面で美術に生かすか,美術の立場が 変化しているし,企業との連携を考えていかなければならない。昔とは違った連携体制を 考えていかなければならない。歴史ひとつにしても昔は 1 通りのものだったが,今は 1 人 1 人の歴史とか多様性を帯びた要素がある。フォーマルとインフォーマルとノンフォーマル といろいろな関係,教室内,教室外,それとは全く違った関係,がある。 次に新指導要領について説明があった。詳細は調査官からということであったが,研究 者の立場としての意見も聞くことができた。以下その内容である。 これは美術だけでなく全体について言えることだが,旧指導要領では,フィンランドと 関係しているところ,しかし今ではフィンランドの中にいろいろな文化が入ってきたので, フィンランドの中に多様性があるという考え方だ。また,性別もあやふやになってきてい るということも考えに入れている。いわゆる広い範囲の物事を理解する力,特定な科目で はなくて広い観点から,それから何か物事と美術との関係で理解する力が示されている。 ただ新学習指導要領には何を使えとか道具は何かとかそういうことは書いていない。個 人的なビジュアルカルチャーの見方はそれぞれ違うが,先生は野放しにするのではなく, しっかりと指導するのである。また美術だけに限らず教科横断型の授業で,もっと広いテ ーマで学んでいくこともある。テーマに沿って教科横断型の授業が行われることになる。 10 年後の改訂にはさらにそれが強まると思う。それから,これまでは先生方は自分の専門 を扱っていれば良かったのだが,今回の改訂では教科横断型になっているので,他の先生 とのチームワークも求められる。新しい,理論,姿勢も求められる。 特に現代芸術は,社会的な現象とか政治とかそういうものと深い関係があるが,現代芸 術で表現されたものが私たちの社会のどういう事を表現しているのか,政治的な影響があ るかもしれないが,そういうことを加味しながら新学習指導要領では考慮しようとしてい る。 新しい指導要領では自己の批判能力を高めるとかそういった能力も触れられている。そ 49.

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