群馬大学医学部附属病院泌尿器科での
献腎移植の臨床的検討:20年間の歩み
羽 鳥 基 明, 林
雅 道, 町 田 昌 巳
関 原 哲 夫,
尾 康 滋,
見
勝
田 中 俊 之, 関 根 芳 岳, 新 井 誠 二
中 里 晴 樹, 柴 田 康 博, 山 本
巧
曲
友 弘, 小 池 秀 和, 伊 藤 一 人
川 口 拓 也, 加 藤 雄 一, 山 中 英 壽
鈴 木 和 浩
要 旨 1987年から慢性腎不全の臨床治療として腎移植治療を継続的に施行している. 2006年までの 20年間で 19 例の献腎移植を施行した.移植腎生着率は,1年 95%,5年 76%,10年 44%であり,患者生存率は 1年 100%,5 年 87%, 10年 73%であった. 移植腎機能喪失原因は, 死亡が 4例と最も多く次いで慢性移植腎症が 3例で あった. 現在当科外来通院中の 11名の血清クレアチニンは 1mg/dl前後であり移植腎機能は非常に良好であ る. また, 合併症は腎移植後 13年経過する 1症例に循環器系の合併症を認め薬物療法中であるが, その他の 症例には合併症をほとんど認めず, 外来通院の 11名は非常に高い QOL を保持している.(Kitakanto Med J 2007;57:165∼168) キーワード:腎移植, 免疫抑制療法, 移植成績 は じ め に 群馬大学医学部附属病院における腎移植は泌尿器科主 導で開始され, 現在までその流れは受け継がれている. 生体腎移植は 1977年 3月に第 1例目を施行し, 献腎移 植は 1978年 11月に第 1例目を施行した. しかし, 慢性 腎不全に対する臨床治療 (根本的治療) として軌道に 乗ったのは,サイクロスポリン (CSA)を免疫抑制療法の 中心にすえた 1987年からであった. ここでは 1987年か ら 2006年までの 20年間の当科における献腎移植症例 19 例の臨床的検討を記載する. 方 法 1987年 1月から 2006年 12月までの 20年間に施行さ れた 19 例の献腎移植症例を対象に, レシピエントなら びに腎提供者の概要, 移植腎生着率, レシピエント生存 率,再透析導入理由,死因,移植後合併症などを検討した. 結 果 図 1に年次別の移植数を示す. 一番多いときでも年間 3例であった. 表 1に 19 例のレシピエントの概要を示す. 男性の割 合が約 63%と女性より多く, 移植時平 年齢は 45.7歳, 平 透析期間は 14年であった. 腎移植者の血液型は B 型が一番多かった. 腎移植前透析方法は血液透析の割合 が約 8割を占め, 透析導入疾患も慢性糸球体腎炎 (IgA 腎症含む) が約 7割を占めていた. 表 2に腎臓提供者の概要を示す. 男女比はほぼ同じで あり, 腎提供時平 年齢は 43.2歳であった. 死亡原因は, 通外傷による脳損傷と脳血管障害が 2大要因であっ 165 Kitakanto Med J 2007;57:165∼168 1 群馬県前橋市昭和町3-39-15 群馬大学大学院医学系研究科 泌尿器病態学 野 平成19年1月5日 受付 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-15 群馬大学医学部附属病院泌尿器科 羽鳥基明た. また, 当院においては 2006年に第 1例目の心臓死下 腎提供を経験した. 表 3に献腎移植後の初期免疫抑制方法の概要を示す. CSA+代謝拮抗薬 (アザチオプリン (AZ) またはミゾリ ビン (MZ))+ステロイド (Pred)+抗ヒトリンパ球ウマ 血清免疫グロブリン製剤 (ALG) の組み合わせが最も多 かった.タクロリムス (TAC)+AZ+Pred+ALG で初期 免疫抑制を開始したが, TAC による腎毒性のために TAC を CSA に変 したものが 2例あった. 新しい代謝 拮抗薬のミコフェノール酸モフェチル (MMF)と抗IL-2レセプター抗体のバシリキシマブ (BAX) 発売後は,代 謝拮抗座薬として MMF を 用し, ALG に代わって BAX を 用している. 腎移植後に移植腎静脈血栓症で腎移植翌日に移植腎摘 出を施行した症例が 1例, 移植腎機能発現までに最長で 約 2ヵ月の血液透析を施行した例が 1例あったが, その 他の 17例は腎移植後 1∼ 2週間で移植腎機能の発現を 認めた. 表 4に献腎移植後の腎臓生着率と患者生存率を示す. 上段に当科の成績を下段かっこ内に日本臓器移植ネット ワークの 1995年 1月 1日から 2005年 12月 31日までの 1657例の成績を示した. 現在の当科における移植腎生着 観察期間は, 4ヵ月から 13年である. 移植腎機能喪失原因は, 移植腎機能を保持した状態で の死亡が 4例, 慢性移植腎症による透析再導入が 3例, 移植腎静脈血栓症による移植腎摘出が 1例であった. 移 植腎静脈血栓症は, 腎移植翌日に出現し緊急手術を施行 したが, 移植腎の摘出となり残念な結果となった. 死亡 による移植腎機能の喪失が 4例と最も多かった. 次いで, 今までは慢性拒絶反応といわれていた病態が現在では慢 20年間の献腎移植症例の検討 図1 当科における年次別献腎移植数 表1 19 例の献腎移植レシピエントの概要 性 別 男性 12名 女性 7名 移 植 時 平 年 齢 45.7歳 (12歳∼61歳) 平 透 析 期 間 14年 (5年∼30年) 血 液 型 A 型 6名 B型 7名 AB型 2名 O型 4名 腎移植前透析方法 血液透析 15名 腹膜透析 4名 腎不全の原因疾患 慢性糸球体腎炎 13名 妊娠腎 2名 巣状糸球体 化症 2名 有馬症候群 1名 腎 化症 1名 表2 腎臓提供者の概要 男性 10名 女性 9 名 腎提供時平 年齢 43.2歳 (19∼74歳) 死亡原因 通外傷 (脳損傷) 9 名 くも膜下出血 7名 脳梗塞 1名 喘息発作 1名 急性心筋梗塞 1名 表3 献腎移植後の初期免疫抑制療法 CSA+AZ or MZ+Pred+ALG 13名 TAC → CsA+AZ or MZ+Pred+ALG 2名 CSA+MMF+Pred+BAX 3名 TAC+MMF+Pred+BAX 1名 CSA ; サイクロスポリン, AZ ; アザチオプリン, MZ ; ミゾ リビン, Pred; プレドニン, ALG ; 抗ヒトリンパ球ウマ血清 免疫グロブリン,TAC ; タクロリムス,MMF ; ミコフェノー ル酸モフェチル, BAX ; バシリキシマブ 表4 献腎移植後の成績 群馬大学医学部附属病院 泌尿器科(19 例) 1年 3年 5年 8年 10年 生着率 95 82 76 44 44(%) ( 86 78 72 61 ) 1年 3年 5年 8年 10年 生存率 100 100 87 73 73(%) ( 95 92 89 86 ) ( )内は 1995∼2005年 日本臓器移植ネットワーク(1657例) 166
性移植腎症と 称されるようになったが, 移植腎生検で 確認された慢性移植腎症 3例であった. 慢性移植腎症に よる透析再導入時期は, 腎移植後 6年で 2名, 移植後 8 年で 1名であった. 透析再導入となった合計 4名は現在 も生存中である. 死亡者 4名の死亡原因は, すべて循環 器系の合併症であった. 腎移植後 3年目で腹部大動脈瘤 破裂, 収縮性心外膜炎手術後, 腎移植後 5年目で胸部大 動脈瘤手術後, 腎移植後 7年目に急性心筋梗塞でそれぞ れ 1名の合計 4名の方が死亡した. 死亡直前の血清クレ アチニンは全例 2 mg/dl以下であり移植腎機能は良好で あった. 現在当科外来通院中の 11名の血清クレアチニ ンは 1 mg/dl前後であり移植腎機能は非常に良好であ る. また, 合併症は腎移植後 13年経過する 1症例に循環 器系の合併症を認め薬物療法中であるが, その他の症例 には合併症をほとんど認めず, 外来通院の 11名は非常 に高い QOL を保持している. 察 腎移植成績の向上には,初期・維持免疫抑制療法,急性 拒絶反応に対する治療法の飛躍的な進歩が大きな役割を 果たした. 当科においては, 1986年にカルシニューリン インヒビター (CNI)である CSA が臨床 用可能になっ た後の 1987年より腎移植療法が慢性腎不全に対する臨 床治療として定着した.現在では CNI として 用できる 免疫抑制剤は, CSA と TAC の 2種類がある. CSA は 2000年にマイクロエマルジョン化した改良製剤 (ネオー ラル) へと進化した. また, 代謝拮抗剤も, 以前は AZ, MZ が主流であったが, 2000年 MMF が発売され現在当 科を含めた多くの施設で 用されている. さらに, 2002年に抗 IL-2レセプター抗体の BAX の発売後は初 期免疫抑制療法として抗ヒトリンパ球ウマ血清免疫グロ ブリン製剤 (ALG) を 用することはほとんど無くなっ た. 現在当科における初期免疫方法は, CNI+MMF+ Pred+BAX の 4剤併用療法である. MMF と BAX の 用によって, 2004年からは急性拒絶反応の出現はほとん ど無くなり, ステロイドパルス療法抵抗性で CD3抗原 モノクローナル抗体のムロモナブ CD3 (OKT3) やデオ キシスパーガリン (DSG) を 用することは無くなった. また, Predの 用方法にも大きな変化が生じ, Predの早 期減量や 用量の減少が可能になった. 当科でも腎 移植後の 28日目の Pred投与量が, 当初は 20mg/dayで あったが現在では 5 mg/dayとなっている. それでも急 性拒絶反応の出現はほとんど経験しない. 急性拒絶反応の減少によって移植腎生着率は向上した が, 長期における移植腎の生着率向上にはまだ解決すべ き問題がある. 以前は慢性拒絶反応と呼ばれていた病態 が, 現在では慢性移植腎症という呼称に統一された. こ れは短期でない移植腎機能喪失原因には, 免疫反応だけ でなく高血圧や高脂血症や糖尿病や肥満などの生活習慣 病の関わりが関与することが判明してきたからである. 腎移植患者は移植腎機能が安定していると, 透析療法時 代の長年の飲水制限, 食事制限から開放されて少し過食 になる. 本能のひとつである食欲を制限されていたのだ から, その気持ちは十 に理解できる. 加えて, 尿毒素の 消失により舌で感じる味覚が鮮明になり, Predの影響で 食欲も湧いてくる. 腎不全の根本的治療である腎移植療 法の根幹は, 食事制限からの開放と位置づければもっと もなことであるが, 現在では腎移植後も軽度の食事療法 を施行することが一般的になっている. これは, 高血圧 や高脂血症の予防と治療につながっている. 食事療法に 加えて, 高血圧治療はカルシウム拮抗剤による十 な降 圧療法やアンジオテンシン変換酵素阻害剤やアンジオテ ンシン受容体拮抗薬による腎保護作用を図ることが一般 的となっている. 高脂血症に対しても HMG-CoA 還元 酵素阻害薬投与を積極的にするのが一般的となった. 当 科においては, 1999 年頃よりアンジオテンシン変換酵素 阻害剤, アンジオテンシン受容体拮抗薬や HMG-CoA 還元酵素阻害薬は積極的に投与している. 日本の統計 や施設報告 では, 腎移植後の死亡原因で は, 脳血管障害や感染症が多いが, 当科の死亡原因は循 環器系合併症のみであった. 2名は死亡前に診断不可能 であったが, 胸部大動脈瘤症例 (透析歴 17年) と収縮性 心外膜炎症例 (透析歴 19 年) は, 定期検査で診断できた ので非常に残念な結果となった. これらの症例を経験し てから, 定期検査をさらに慎重に施行しているが, 幸い なことに現在のところ当科外来通院中の 11名に大きな 合併症は認めていない. 免疫抑制状態にある腎移植後患者に悪性新生物の出現 が高いとされ, 諸家の報告 があるが, 当科ではまだ症 例数が少ないことや長期観察患者も少ないことによるた めか悪性新生物の出現を認めていない. 悪性新生物の発 見には, 当科の定期検査で注意をすることはいうまでも ないが, 患者本人に情報を与え人間ドックや市町村の定 期 康診断を積極的に受診するように指導している. 透析患者の妊娠出産は非常に困難であり, 腎移植後に 妊娠出産を希望する女性が多くおりその報告 もされて いる. 当科においても生体腎移植後の妊娠出産例は経験 しているが, 献腎移植症例に関しては 40歳以上の女性 が腎移植レシピエントとなっており残念ながら, まだ献 腎移植後の妊娠出産例は経験していない. 腎移植療法を慢性腎不全に対する臨床治療と開始して 以来 20年経過した. 症例数は 19 例と少ないが, 全国平 の成績を何とか維持できている背景には, 我々の力だ けではなく関係各位の並々ならぬご協力を頂いたおかげ 167
であるとあらためて痛感している. この場を借りて関係 各位に深甚の謝意を表します. 参 文 献 1. 日本腎移植臨床研究会,日本移植学会.腎移植臨床登録集 計報告 (2005) −3 2003年追跡調査.日本移植学会誌 2005; 40: 358-368. 2. 内田和治. プログラフ多施設間長期成績調査―長期 7年 間のまとめ―. 今日の移植 2006; 19 : 380-389. 3. 石川 勲,近澤芳寛,佐藤一賢ほか.30年間における腎移 植 260例の経験. 賀沢医科大学雑誌 2005; 30: 522-530. 4. 内田和治. 腎移植成績. 臨床透析 2006; 22: 1339-1347. 5. 猪阪善隆,高原 郎.長期生着に影響を及ぼす因子―高血 圧・高脂血症―. 今日の移植 2005; 15: 655-659. 6. 東間 紘. 腎移植患者の妊娠と出産. 今日の移植 2005; 18: 673-678.
Examination of Cadaveric Renal Transplantation at
Gunma University Hospital during 20-year Period
Motoaki Hatori,
Masamichi Hayashi,
Masami Machida,
Tetsuo Sekihara,
Yasuharu Matsuo,
Masaru Hasumi,
Toshiyuki Tanaka,
Yositake Sekine,
Seiji Arai,
Haruki Nakazato,
Yasuhiro Shibata,
Takumi Yamamoto,
Tomohiro Magari,
Hidekazu Koike,
Kazuto Ito,
Takuya Kawaguchi,
Yuichi Kato,
Hidetoshi Yamanaka
and Kazuhiro Suzuki
1 Department of Urology, Gunma University Graduate School of Medicine
Abstract
In 1987 we started renal transplantation program with cyclosporine at our institution, Department of Urology in Gunma University Hospital.During this 20-year period, we have performed 19 cadeveric renal transplantations.The graft survival rates were 95% (1 year), 76% (5 years), 44% (10 years), and patient survival rates were 100% (1 year),87% (5 years),73% (10 years). These results were similar to those of nationwide study and reports from other institutions.(Kitakanto Med J 2007;57:165∼168)
Key Words: renal transplantation, graft survival rate