直接原価計算の外部報告支持論と原価配分の視点
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(2) 44(78). 横浜経営研究 第25巻 第2・3号(2004). 単化(simplicity of its computation)をあげる.. 計算との企業利益に対する影響が強調されすぎ. 「これ自体は会計方法を採用する際の唯一の. ることがあることに,注意すべきであるとして. 理由とはならないが,会計の機能を実行するた. いる.棚卸資産の回転率が早くなればなるほど. めのコストの観点から考えると,無視されるべ. 両者の差は小さくなり,製造間接費が低くなれ. きものではない.また,それは内部的な計算手. ばなるほど,両計算法の相違は問題とならなく. 続きの簡単化だけを指すのではなく,対外的な. なると指摘している10).. 保険契約や政府契約の監査,CPAによる会計 監査などにとって有用である.手間のかかる製. 2.3 Neilsenの支持論の特徴. 造間接費の配賦を検討する必要がなくなるから. Neilsenの支持論は,大きく分けると,二つ の点に集約される.それは,直接原価計算の利. である.」7). おそらく,この「簡単化」という言葉には,. 益計算機能からみた支持論と,棚卸資産評価の. 計算自体の簡単化(これは内部的な利点といえ. 点から見た支持論である.. るものである)に加えて,計算結果の検証にお. 前者の論点は,主に内部報告機能で確認され. ける簡単化という意味を持たせているものと思. ていた利益測定における直接原価計算の優i位性. われる.それが結果的に外部報告における利点. を,そのまま外部報告にも適用しようという考. につながる,という論理であろう.. え方を中心としている.また,期間利益の決定. 棚卸資産評価についても記述している.直接. の原則について,固定費の期間対応の正当性を. 原価計算の批判論の中に,棚卸資産評価が低く. 訴え,発生主義における費用収益対応の原理に. なる,という点を取り上げるものがある.直接. 照らし合わせて直接原価計算の計算構造を合理. 原価計算によって計算された棚卸資産は,製造. づけようともしている.先に引用した,「企業. 間接費を除外しているので,よろしくない.会. 利益を異なった会計期問について区分し,区別. 計関係者が長年親しんできた三位一体の原価. することを目的とする発生主義会計の中にこの. (trinity of cost)で評価していない,という批. ような変動が入り込むことが回避できる」11). 判である.これに対してNeilsenは,多くの点 を見落とした議論であるとして,次のように批. という指摘からそれが裏付けられる.損益計算 書の重視は,やはり先でも引用した,「帳簿記. 判する.. 録の重点を,棚卸資産評価から原価分析へと移. 「三位一体の原価といっても,棚卸資産評価. 動させるもの」12)という指摘からも裏付けら. が低価法や後入先出法,基準在高法などに基づ. れる.. いて行われれば,それぞれの方法に応じた結果. それに対して,後者の論点は,全部原価計算. がでてくる.三位一体の原価を評価しても,評. において起こりうる問題を突くことで棚卸資産. 価法が違うと,一定した結果はでてこない.. 評価での直接原価計算の優位性を説き起こそう. … また,これらの評価は,棚卸資産が運転. としている.それは,全部原価計算支持者から. 資本を表す程度を説明するものではなく,これ. の批判に対して,評価方法が異なると全部原価. らの棚卸資産の表示は企業利益表示の副産物に. 計算においても評価額は変化する,したがって,. すぎず,棚卸資産評価額の妥当な表示をするこ. 直接原価計算による評価に対して批判できるも. とは意図されていない.」8). のではない,という論理である.しかし,これ. ほかに,Neilsenは,直接原価計算が責任会. は批判のための批判であり,直接原価計算の優. 計と結びつきやすい点や,連結原価の分析に有. 位性を積極的に主張できるものではない.同じ. 用である点などを上げている9).. ような批判は,直接原価計算を採用している場. なお,最後に,彼は直接原価計算と全部原価. 合にも可能だからである..
(3) (79)45. 直接原価計算の外部報告支持論と原価配分の視点(高橋 賢). Neilsenの主張は,損益計算(書)を重視し た視点から行われたものである.それと表裏を. 売上高. なす棚卸資産評価問題に関して積極的な理論を. 売上総利益. $160,000. 展開してはいない.彼は,棚卸資産評価の問題. 一般管理費. 40000. を利益測定の問題から派生する二次的な問題で. 純利益. $120,000. 売上原価. $300,000. 140000. あると考えていたようである.. 3.Marpleによる未来原価節約説の展開. Marpleは,1956年,直接原価計算を支持す. この状態の損益分岐点販売量は10,66アトンで ある.. ここで,Marpleは次のような疑問を投げか. る論文を発表した13).ここでは,教室での先生. ける.. と生徒の対話形式をとっている.. 「この企業の損益分岐点は10,66アトンである. のに,売上が10,000トンである第1期に利益が 3.1全部固定費社のケース. 計上されているというのは,どこかおかしいの. 1)損益分岐分析と利益測定. ではないか.」14). 教室での議論の素材となるのは,「全部固定. 最初の一ヶ月の問に,この会社の経営者は,. 費社」の例である.次のような設例である.. 製品が貯蔵中に減耗する傾向にあることを知っ. 架空の会社「全部固定費社」は1975年に営業 を始める.この会社の原価はすべて固定費であ. た.そこで,第2期のはじめに月間の売り上げ を満たすのに必要な製品だけを生産するという. る.川岸にあり,動力・光熱を供給する水力電. 方針をとった.第2期の売り上げは第1期と同. 気設備をもっている.空気と川の水から合成肥. じく10,000トンで,それはすべて在庫によって. 料を製造し,その製品を長期的な固定価格契約. 満たされた.原価は固定費で,第1期と全く同. で販売している.従業員は年俸制で雇用してい. じであった.損益計算書は次の通りである.. る.したがって労務費は固定費である.工場の 生産量は,制御板のダイヤルを動かすだけで増. 売上高. 減できる.. 売上原価. $300,000. 140000. 売上総利益 第1期 原価の内訳:. 配賦漏れ製造原価. $280,000. 40000. 売上高. 10,000トン. 一般管理費. 生産量. 20,000トン. 純損失. 販売価格・. @$30. 原価(すべて固定費). $160,000. 320000 160,000. 売上高は同じであるのに,利益額が異なる.. 製造原価. $280,000. 「利益は販売を通じて初めて認識されるべき. 一般管理費. $40,000. であるというのが会計の基本的な原則ではない か.言い換えれば,原価の違いに考慮しながら,. 全部原価計算による損益計算書は次の通りで. 利益は売上高に比例すべきではないだろう. ある.. か.… こういつた意味では,この利益数字 は何の意味も持たない.… 損益分岐図表は,. 利益は売上高に比例するというこの理論に基づ いている.」15). この指摘からわかるように,Marpleは損益.
(4) 46(80). 横浜経営研究 第25巻 第2・3号(2004). 分岐分析の考え方を,利益測定の理論の中に取. 「この理論は,低価主義に適用される理論と. り入れようと考えている.. 同じである.低価主義では,原材料をある価格. 2)棚卸資産評価と未来原価節約説. で購入し,期末になってその原材料の時価が原. 「会計関係者の中には,固定費を製造原価と. 価より下がった:場合,原価を時価まで引き下げ. いうよりも期間原価であると考えているものも. る.この引き下げ時における市価は,節約され. いる.期間原価は,変動費すなわち製品原価の. る未来原価を表すのである.」19). ように棚卸資産に課すのではなくて,期間の収. 3)準固定費社の例. 益に対して課すべきであるという.この考え方. 次に,準固定費社のケースを考える.この会. が,この問題の解決にはならないだろうか.」16). 社のケースが全部固定費社のケースと異なるの. 固定費は,製造によって発生する原価という. は,固定製造原価と変動製造原価の両方が存在. よりも,時間の(経過によって発生する)原価. することである.他の条件は等しい.変動費は. である.発生した期間に償却すべきであって,. トンあたり$7,固定製造原価は月当たり. 棚卸資産に課すべきではない,というのが. $140,000である.正常操業度は月20,000トンで. Marpleの主張である.. ある.. 「変動費は,製造によって発生する.製造単. 伝統的な全部原価計算で損益計算書を作成す. 位数に比例して増加する.当期に発生した変動. ると,次のようになる.. 費は,次期に同じように支出される原価を節約. 第1期. する.(Variable costs incurred this period. 売上高. $300,000. save making the same expenditures next period.)したがって,変動費はそれが配分され. 売上原価. た製品が販売されるまで棚卸資産に繰り延べら. 売上総利益. $160,000. れる.」17). 一般管理費. 40000. これがMarpleの未来原価節約説である.. 純利益. 140000. 12,000. さて,第1期末の10,000トンの在庫製品は,. 第2期. 貸借対照二上どのように表示されるのか.. 「この10,000トンの在庫肥料は,全部固定費. 売上高. 社にとって何の価値もないというのが論理的で. 売上原価. はないだろうか.第1期において追加生産する. 売上総利益. のに余分な原価がかかったわけではない.また,. 配賦漏れ製造原価. $140,000. これを第1期に生産しても,それによって第2・. 一般管理費. 40000. 期以降に発生する原価を節約しなった.会社に. 純損失. とって在庫が持つ唯一の価値は,将来節約され. $300,000. 140000 $160,000. 180000. 遡. る原価で測定されるとするのが論理的ではない. ここで,直接原価計算方式で損益計算書を作. だろうか.」18). 成する.. こう考えるにしても,第1期末における在庫 品は市場価値を持っており,農民はこの10,000. トンの肥料に対していくらか支払うのではない か.評価額がゼロというのはおかしいのではな. いか.こういう疑問を学生があげるが,先生 (Marple)は次のように答える..
(5) 直接原価計算の外部報告支持論と原価配分の視点(高橋 賢). 第1期. (81)47. 3.2Marpleの支持論の特徴. Marpleの支持論は,大きく分けると二つの. 売上高. $300,000. 変動売上原価. 70000. 論点から構成される.一つは,利益測定の問題,. 限界利益. $230,000. もう一つは棚卸資産評価の問題である.. 固定製造原価. $140,000. 一般管理費. 40000. 純利益. 第2期(第1期と同じ). 前者の論点は,損益分岐分析の原理を利益測. 180000. 定の理論に持ち込もうとするものである.損益. 遡. 分岐分析における利益測定の妥当性をより強く. 印象づけるために,全部固定費社や準固定費社 という極端な細図を使って説明している.そこ. では,利益は製造活動の関数ではなく,販売活 全部固定費社は2期間合計で$40,000の損失. 動の結果生じるものである,という立場を鮮明. を出したが,準固定費社は同じ2期間合計で. にしている.. $100,000の利益を上げている.これは,準固定. 上記のような損益計算を実現するために,固. 費社の原価の中に変動費が含まれていたからで. 定費を時間の経過によって発生する原価だとし,. ある.変動費は工場が閉鎖された第2期には発. 期間対応させることを考えるのだが,彼の思考. 生していない.. の中では,それが棚卸資産評価の問題と結びつ. 二つの会社は,1期間平均で利益額の差が. いた.これがもう一つの論点である棚卸資産評. $70,000ある.この原因として,準固定費社で. 価問題の中心をなす未来原価節約説へとつなが. は,第2期に$70,000の変動費が棚卸資産とし. つたと考えられる.. て繰り延べられたということがあげられる.. ここでとりあげた論文以降で,Marpleが未. この例から,変動費と固定費の性格の違いを. 来原価節約説を取り上げたのは,1961年の論文. 次のように説明する.. である.そこでは次のように指摘している.. 「変動費は,製造活動が原因で発生し,製造. 「変動製造原価は,現在製造活動を行うため. 活動によって変動する現金支出原価(out−of−. の原価であり,製造を行わなければ発生しない.. pocket costs)である.準固定費社で第2期に. 将来,その製品に関しては,それと同じ原価は. 繰り延べられた$70,000の変動費は,第2期に. 必要ない.したがって,変動費は,製品が販売. おける原価を節約したことになる.したがって,. されるまで繰り延べることができる.. 変動費を,その製品が販売される第2期まで棚 卸資産として繰り延べることは,論理的なこと. 一方,固定製造原価は,生産量の如何に関わ らず発生する.それは拘束された原価であり,. である.」20). 計画された原価であり,用役の提供を準備して. ここで,変動費のことを現金支出原価である. おくための原価(readiness−to−serve cost)で. としている点に注意すべきである.. あるからである.また,企業が製品を製造しよ. 最後に,棚卸資産評価における法則を次のよ. うがしまいが将来負担しなければならない原価. うにまとめている.. である.また,その一部がその期の製品に割り. 「一般的にいえば,次のようになる.期間利. 当てられるために,次の期には減少することの. 益の決定において,将来に対して対応するため. ない原価である.」22). に棚卸資産に繰り延べられるべきなのは,過去. 前述の論文とさして変わったところはない.. に発生したために将来発生しない原価だけであ. Marpleの中ではこの未来原価節約説はあまり. る.」21). 発展しなかったということができる.. これ以降のMarpleの論文には,未来原価節.
(6) 48(82). 横浜経営研究 第25巻 第2・3号(2004). 約説を強調するものは少ない.セグメント別の. 2)資産認識の基準. 収益性分析の有用性を訴える論文が主である.. 資産の本質を規定する前に,次のような議論. それに代わり,Marpleの未来原価節約説をさ. を行っている.. らに発展させたのが,1960年代のGreenや. 「全部原価計算は伝統的に原価凝着によって. Horngren, Sorterである.. 護られてきた.… ある原価が製品に対して. 4.1960年代における原価回避説の展開 ’ 4.1 Greenの原価回避説. 1)資産の本質. 結合力を持っているとか密接な関係を持ってい るとかいうのは,詩的(poetic)で,擬人化さ れたものであり,分子の再編成を示唆するもの である.結合性についての会計的なテストが何. Marpleから4年後, Greenが資産の本質に関. ら行われない場合,会計関係者はどの原価が密. する論文を発表した23).. 着するのかを決定する必要がある.実務におい. Greenは,資産の本質を次のように定義して. て慣習的に行われているこの決定法は非常に多. いる.. 岐にわたっている.これは,驚くべきことでは. 「『資産』という用語の定義の多くのものは,. ない.なぜならば,このような測定は,会計関. 『未来』という言葉や,『期待される』とか『受. 係者にとって必然的に直観によるものとなるか. け取るサービスの貯蔵』,『潜在力』といった未. らである.」25). 来を暗示させるような言葉を含んでいる.資産. 以上の議論の結果,原価を製品に関連させる. に固有の必要条件は,未来へ便益を提供する能. のかそれとも期間に関連させるのか,というこ. 力である.,. とが問題となるという.原価を製品に割り当て. … 未来の便益は,期末棚卸にどの原価を. るのは,費用・収益対応の伝統に根ざしている. 含めるかを決定する有用な基準となる.. とする.. … 『今年度のそれらの費目(一固定製造. 「再び,製品を選ぶべきか期間を選ぶべきか,. 間接費といわれている固定資産税,監督者の給. という問題が持ち上がる.なぜ製品を選択する. 与,火災保険,建物保全費,減価償却費など). のか.製品原価が有力なもので,職能グループ. が発生した結果,次年度の原価発生をどの程度. の中でもっとも大きなものであるためなのか.. 減少させるというのか?』継続企業の考え方を. もしそうだとしたら,それは『付加価値』の意. 採れば,今年度の原価の発生が,次年度の原価. 味においてはそれは真実であるのか.. の発生を不要にするわけではない,という結論. … 期間について何か会計関係者は反感を. をとらなければならないようである.このこと. 持っているのだろうか.」26>. は別にこれらの費目の重要性を否定するわけで. この最後の問題,即ち「期間」の問題につい. はない.. て次のように考えている.期間というものは,. … 製品への必要性は期末棚卸資産への按. 企業の損益計算を行う際に不可欠なものである.. 分(配賦)を必要とするわけではない.資産は,. 企業の活動停止まで報告書の作成を保留してお. それが内包する原価回避(cost obviation)を. けば,報告書は正確ではあるだろうが,まった. 表す数字で記録されるべきである.」24). く役に立たないものとなる.その一方で,すべ. これが,Greenの原価回避説である.未来の. ての原価が妥当な方法(dicernible manner). 原価発生を回避できないものは,資産として繰. で凝着しないという事実によって,「期間は便. り延べるのではなくて,期間的に対応させよう. 宜的な代理変数である」といった見解をとるも. というのである.. のもいると指摘する27>.. 全部原価計算では原価の蓄積(accumulation).
(7) 直接原価計算の外部報告支持論と原価配分の視点(高橋 賢). (83)49. と取り崩し(releasing)の間隔がずれていく場. ィの営業目的に捧げられた経済的資源である.. 合に,利益測定が不正確になる.具体的に,そ. それは期待される業務に対するサービスポテン. れは在庫レベルの変動として現れる.. シャルの集合体である.」』32). 経営者や投資家にとって,企業の全生涯にわ に立たない.経営者や投資家によって有用で理. このように,HorngrenとSorterは,資産の 本質をサービスポテンシャルの集合体としてみ ている.そのような資産を構成する原価は,何. 解しやすい報告書の作成には,期間における収. が適切であるか.. 益の測定と原価の消滅の測定が必要になる.こ. 「ある原価が将来の営業活動に何の影響も与. のためには,期末に報告される資産を,それが. えないとしたら,それは無関連原価であって意. もたらす未来の便益という点においてのみ,認. 思決定には役立たない.資産は関連原価のみで. 識するという考え方があるという28).この「未. 構成されるべきであり,その原価は将来の結果. 来の便益」としてGreenが考えたのが,未来に. に影響を与える.もし原価が将来の結果に影響. おける原価の回避であった.. 力を持たないとしたら,それは将来の原価の発. たる報告書は,(たとえ正確ではあっても)役. 生に何の影響も与えないことになるので,サービ 4.2 Horngren and Sorterによる未来原価回避. スポテンシャルを持っていないことになる.」33). 説の展開. 関連原価こそがサービスポテンシャルを持つ. 1961年,HorngrenとSorterは,外部報告へ. ものであり,資産となりうる.ここで問題にな. の直接原価計算の適用を支持する論文を. るのは,関連原価とはなにか,サービスポテン. Accounting Review誌上に著した.これは,有. シャルとはなにか,ということである.. 名な直接原価計算論争の口火をきった論文であ. ②関連原価と未来原価の回避. る.この論文の目的は,直接原価計算が現存す. 原価がサービスポテンシャルを持つかどうか,. る一般に認められた会計原則(GAAP)に矛盾. 資産となりうるかどうかは,その原価が関連原. しないということ,そして,直接原価計算が現. 価であるかどうかにかかってくる.彼らは,関. 行の損益計算書よりも外部報告の利用者にとっ. 連原価とは将来の原価を減少させるような原価. て有用な情報を提供するものであるということ. であるとし,次のような二つのタイプがあると. を示すことにあった29)。これ以降の論文では,. する.「将来において(1)同じタイプの原価. 前者の論点が強調され,検討が加えられていく. の再発生を回避する」原価と,「(2)他の原価. ことになる.ここでは,HorngrenとSorterに. (機会原価となりうるもの)を減少させる」よ. よって展開された直接原価計算支持論を検:了す. うな原価である34).将来の原価を減少させない. る.以下,便宜上1961年の論文を61年論文,62. ような原価は,無関連原価であって,資産では. 年の論文を62年論文,64年の論文を64年論文と. ないとしている.. 呼ぶことにする30).. つまり,ある原価が関連原価であるというこ. 1)GAAPとの整合性∼未来原価回避説. と,すなわちサービスポテンシャルを持ってい. ①資産の本質. るということは,その原価が未来の原価を回避. HorngrenとSorterは,資産の本質をどのよ. する力をもっている,ということである.もし. うに考えているか.それは,62年論文に端的に. そのような能力を持っていれば,その原価は資. あらわれている.. 「AAA『会社財務諸表会計及び報告基準. 産となりうる.これがHorngrenとSorterの未 来原価回避説である.前述のMarpleやGreen. 1957年改訂版』31)によれば,資産は次のよう. と基本的な考え方は同じである35).未来の原価. に定義される.『資産は特定の会計エンティテ. の発生を回避するということは,それはマイナ.
(8) 50(84). 横浜経営研究 第25巻 第2・3号(2004). スのキャッシュアウトフローが生じることを意. ただし,こうしたケースは,彼ら自身「非常に. 味する.これは,意思決定会計の考え方に類似. 例外的な状況(atypical condition)」であると. している.彼らの考え方の中には,少なからず. している39).結局,未来原価回避能力の概念は. 意思決定の観点が入っているものと思われる.. 固定費にまで拡張することのできるいわば普遍. ③資産性の検討. 的なものであるが,実際の事象では,固定費に. (a)サービスポテンシャルのテスト. は未来原価回避能力はないということを示そう. このようなサービスポテンシャルの概念をも. としたのであろうと思われる.. とにして,彼らは原価の資産性を検討する.. この考え方を更に推し進めたのが関連原価計. 変動製造原価については,「当期間において. 算である.62年論文で次のように述べている.. この原価を発生させる意思決定は,未来原価の. 「関連原価計算においては,次の基本的仮定. 総額を減少させる」という性格を持つため,資. だけが必要とされる.. 産性を持つとしている36).. 原価が,期待される将来の原価ないしは将来. それに対して固定製造原価は,「当期におけ. の収益に対して好ましい経済的効果(favorable. る発生は,通常,次期における同じ種類の原価. economic effect)を持つ場合に限り,その原価. の再発生(reincurrence)に何の関係も持たな. は資産として繰り延べられる.. い」ので,未来原価回避能力を持たず,資産性. 関連原価計算においては,このルールが完全. が認められないという37).これが,変動費を製. に一般性を持つ.物的製品と経済的属性との区. 品原価とし,固定費を製品原価とせず,収益に. 別はない.なぜならば,経済的属性のみが重要. 対して期間的に対応させるという直接原価計算. かつ支配的であるからである.」40). の計算構造の論理1生を,原価回避の観点から説. 62年論文の中心は関連原価計算の主張である. 明したものである.. が,資産の測定に関する考え方は,直接原価計. HorngrenとSorterの支持論で注目すべきな のは,未来原価回避能力の問題を固定費にまで. 算:を擁護した61年論文における未来原価回避説. 拡張し,固定費でも条件を満たしていれば資産. このような資産に対する(そして会計に対する). 性を得るとしている点である.例としてあげて. 考え方を持っていたものと思われる.. いるのは,将来の生産が最大操業度で行われる. (b)経済的効果. ことになっていて,しかも将来の売上高がその. 彼らのいう「経済的効果」とはどのような意. 期の生産高を当期末の棚卸高分だけ超過する場. 味を持っているものなのか.62年論文で提示し. 合や,変動製造原価の騰貴が確実に予測されて. ていた数値例を検討してみよう.. いる場合である38).前者のケースでは,在庫を. 持つことによって,将来,キャパシティを越え. バッチA−1の棚卸資産は,貸借対照表上 100,000ドルである.その内訳は,変動費が. た販売をする際に,工場の増設を回避すること. 40,000ドル,固定費が60,000ドルである.次の. ができる.つまり,今在庫を持っていなければ,. ような前提条件がある.. 将来固定費がさらに必要となるか,もしくは販. (ア)もしA−1が手元になければ,同じバッチ. 売機会を逃してしまうか(つまり機会損失を被 ることによって,将来変動費の高騰分を節約す. A−2を,遊休能力を利用して次期に製造 できる.従って,追加的な固定費はいっ さい発生しない.予測されるA−2の増分. ることになる.つまり,節約されるのは固定費. 原価の総額は,40,000ドルの変動費だけ. ではなくて変動費ではあるが,現在の固定製造. である.. 要素の利用が将来の原価を節約することになる.. (イ)A−1とA−2は両方同時には販売できない.. るか)である.後者のケースでは,現在製造す. を発展・抽象化したものである.彼らは根底に.
(9) 直接原価計算の外部報告支持論と原価配分の視点(高橋 賢). (85)51. 「伝統的アプローチにおいては,資産評価は. われることになる.. A−1の経済的属性や未来の収益よりも,その物. 彼は楽観的な予測を立てた.広告費を. 的な属性に依存している.. $3,500,000引き上げ,年間生産量を30,000,000単. 関連原価計算のアプローチでは,40,000ドル. 位にすることにした.. だけを経済的便益を表すものとして認識する.. 1962年の結果は,売上が増加するには増加し. 所与の条件では,この固定費の60,000ドルは,. たが,17,000,000単位から25,000,000単位への増加. 経済的財たり得ない原価発生である.もしバッ. にとどまった.損益計算書は次の通りである43>.. チA−1が通常の操業において変動費で交換でき. るのであれば,その存在ないしは物的数量が,. 売上高(25,000,000単位,@$2.00)$50,000,000. 未来に発生しないような変動費の総額という形. 製造原価. で,経済的便益を表すことになる.いいかえる. 変動費(30,000,000単位,@$1.00). と,バッチA−1が手許になければ,40,000ドル. $30,000,000. が,企業をそれが手許にある場合と同じ経済的. 固定費 8400000. 位置に戻すのに必要な未来の支出である.…. 合計 $38,400,000. もしA−1の存在が未来の収益の総額に本当に好. 棚卸資産 5,000,000単位($38400,000の1/6). ましい影響を与えるという可能性が強い場合に は,A−1に関連する固定費もまた資産として測. 6400000 売上原価 32000000. 定し次期に繰り延べるべきである.」41). 売上総利益 $18,000,000. さらに,もう一つの数値例を取り上げる.. 販管費. BE社の1961年の損益計算書は次の通りである42).. 変動費(25,000ρ00単位,@$0.50). $12,500,000. 固定費 4100000 16600000. 売上高(17,000,000単位,@$2no). 営業利益. $34,000,000. $1,400,000. 売上原価(期首・期末に在庫はない) 変動費(17,000,000単位,@$1.00). 結局,この管理者は他の会社へ移籍してしま. $17,000,000. う.. 固定費 8400000 25400000. このような問題状況で,次のような分析を試. 売上総利益 $8,600,000. みる.. 販管費. (i)取締役会のメンバーとしては,この損益. 変動費(17,000,000単位,@$0.50). 計算書に対してどのようなコメントを出. $8,500,000. すべきか.. 固定費 600000 9100000. (ii)次のような条件では,どのような意見を. 営業損失. 一500,000. 出すのか. a)向こう三年の販売見込みが,. (年間の正常操業度は30,000,000単位である.. 年間の最大製造能力は40,000,000単位である.). 年に20,000,000単位の場合.. b)向こう三年の販売見込みが, 年に30,000,000単位の場合.. この会社は,業績のテコ入れのために,経営. c)向こう三年の販売見込みが,. 管理者を外部から招聰することになった.彼に. 年に40,000,000単位の場合.. は期末に,税引前利益の10%のボーナスが支払. d)この会社が直ちに清算されることに.
(10) 52(86). 横浜経営研究 第25巻 第2・3号(2004). なり,1963年には在庫の5,000,000単. 済的便益はもたらされないからである.. 位しか販売しない場合. e)最大生産能力が年40,000,000単位. d)の場合,もし固定費が清算中にも発生し つづけ,販売価格が同じままであるならば,コ. であって,1963年の販売見込みが. メントは変わらない.もし固定費が発生せず,. 45,000,000単位である場合.. 正常な(regular)販売価格で販売できるのな. (ア)(i)に対する分析. らば,答えは変わる.. この損益計算書は受け入れられない.ここで. e)の場合,答えは変わる.もし5,000,000. 示されている$1,400,000の利益は,固定製造原. 単位の在庫がなければ,未来においては. 価の在庫への配賦額である.(5/30×$8,400,000). 40,000,000単位しか販売できない.したがって,. 「もしこれがなければ追加的な売上が失われ. この場合は$1,400,000の固定製造原価を資産と. るとか,未来の製造原価を減少させるとかいう. して認識する.上記(i)の条件(a)を満た. 形で,経済的便益を表している場合に限り,. しているからである.」45). この棚卸資産に入れられた$1,400,000は資産と. ④会計の諸概念の再解釈. なる.. 以上が,Horngren and Sorterの未来原価回. 関連原価計算では,この利益がゼロになる.. 避説の骨子である.彼らは,この説を理論的に. 固定費が,資産として保留されずに,その期間. 強化するために,会計における諸概念の再検討. に償却されるからである.. を行っている.. … 固定製造聞接費は今期の製造において. (a)継続企業の概念. それら原価の利用が未来の原価の総額を減少さ. 彼らによると,サービスポテンシャル概念は,. せるかないしは未来の収益の総額を高める場合. 将来これを利用する主体の「予測(antici−. においてのみ繰り延べられる.後者のような状. pations)または期待(expectation)に依存し. 況はどのような場合に起こるのか.現在製造し. ている」という.つまりそれは,「ある原価を. 損なったために,未来に予期される営業活動を. 資産として保留するか,それともその他の資産. 行うために追加的な原価が必要になるかないし. に転換するか,あるいは費用または損失として. は販売を逃すような場合のみである.. 放出するのか,の意思決定の重要な部分である」. 固定製造間接費を生ける原価として扱うのに. という46).. 必要な仮定にはどのようなものがあるか.(a). 一方,このような抽象的な概念が測定可能で. 未来の製造活動が最大能力で行われるが,未来. 意味のあるものになるためには,未来に関して. の販売需要がそれを越えており,期末在庫を増. 若干の仮定が必要であるという.その仮定とは,. やさなければならない場合,(b)変動製造原. 継続企業(going concern)の概念である.つ. 価が増加すると予測される場合,(c)在庫が ないために未来の販売機会が永遠に失われてし. まり,保有するサービスポテンシャルが業務活 動に伴い様々な方向へ転換し消失していく論理. まう場合,である.」44). の合理性を支えうるのは,継続企業の仮定のほ. (イ)(ii)に対する分析. かにはない,というのである.そして,この仮. 「a)b)c)の状況になっても,コメント. 定だけが,「生ける原価(unexpired cost)が. は変わらない.売上見込みが40,000,000単位以. サービスポテンシャルであることを示すのに必. 内である場合,この会社は現在の生産能力でそ. 要な唯一の仮定」ということになるという47).. れを満たすことができるからである.固定製造. (b)原価凝着. 間接費は資産とならない.b)と。)の状況が,. 62年論文で再解釈が加えられているのは,原. 先に指摘した条件を満たさない限り,未来の経. 価凝着の概念である..
(11) 直接原価計算の外部報告支持論と原価配分の視点(高橋 賢). (87)53. 「原価凝着の概念は,相当誤解されてきた.. 2)コスト・ビヘイビアーの描写とキャッシュ・. 一般に,会計の文献では製造原価は販売される. フローの予測. 物的製品に対してなにかしら凝着する,という. 直接原価計算では,コスト・ビヘイビアーを. 概念に支配されている.これは,誤解されてい. 強調しているが,これは将来の計画とたてる上. たことの好例である.Paton and Littletonは次. で投資家にとっても有用であるという.売上高. のように指摘する.『広義においては,企業の. の趨勢から利益を予測できるためである.また,. 経済的構造を形成している諸物と諸条件の総体. 直接原価計算では,営業量に変化に対応して利. に貢献する諸要素の原価は,たとえこれらすべ. 益を予測するのに役立つのみならず,キャッシ. てのものを物的構造の中の特定の区分や要素に. ュフローの予測をたてるのに役立つとも指摘す. 割り当てるということが適切ではないにしろ,. る50).. 企業の物的構造の中に表示されている.会計関. キャッシュ・フローの予測という点では,棚. 係者が,資産は確定的な単位によってのみ適切. 卸資産評価との関係も指摘している.貸借対照. に表示されうる,という考え方に不当に支配さ. 表上に表示される棚卸資産について,必要分を. れすぎていたことは疑う余地がない.会計の関. 製造することよりもむしろ棚卸資産を削減する. 心は経済的特性と測定にあるのであって,物的. ことで将来企業が節約できる金額を表している. 事態にあるのではない.』」48). と指摘する.これは,見方を変えると,貸借対. ここで引用されているPaton and Littletonの. 照表上の棚卸資産は,追加的な棚卸資産を確保. 指摘は,物的形態をとらない原価が資産として. するために支出する増分の現金の等価物である. 認識されるのか,という問題に対する見解であ. という51).棚卸資産が,変動費のみでの評価で. る.原価が資産となるかどうかという問題の核. あるため,キャッシュの近似値になるという考. 心は,その形態にあるのではなくて,企業の経. え方である.. 済的構造に貢献しているか否かにある,と指摘. しているのである.HorngrenとSorterは,こ の指摘を,意思決定の観点から,評価の問題と. 4.4 GreenおよびHorngrenとSo霞erの支持論. とらえたのである.. GreenやHorngrenとSorterの直接原価計算. の特徴 支持論のよりどころは,未来原価の節約ないし. 4.3 外部報告への適用の有用性. は再発生の回避である.当期の意思決定が未来. GAAPとの整合性では用意周到に未来原価回 避説を唱えたが,直接原価計算によって外部報. の原価の発生に対してどのように影響するか,. 告することによる有用性に関しては,あまり説. 決定の考え方を,評価の問題に持ち込んでいる. 得力のある議論を展開していない.61年論文で. のである.これが妥当であるかどうかは,論理. かろうじてこの点を主張しているだけで,その. 的に説明されてはいない.. 後の議論ではGAAPや会計理論との整合性のみ. この意思決定も,内部の利害関係者の視点の. に論点が移っている.. 延長ともいうべきものである.有用性の観点か. 1)意思決定への役立ち. ら論を詰めるとすれば,彼らの主張には,外部. ということに焦点を当てている.いわば,意思. たとえば,61年論文では,「経営管理者と投. の利害関係者の意思決定にはどんなものがあり,. 資家共に意思決定という同じタスクを背負って. 直接原価計算がそれに対してどのような貢献を. いる」ため,意思決定に有用な情報を提供する. するのか,という点に関する合理的な説明が希. 直接原価計算は,外部報告にも有用であるとい. 薄であったといわざるを得ない.たとえば,直. うのである49).. 接原価計算が有用な情報を提供できる操業度の.
(12) 54(88). 横浜経営研究 第25巻 第2・3号(2004). 決定などにに関しては,外部の利害関係者は直 接関与することができない.. 5.外部報告支持論と原価配分の視点. 未来原価回避説は,固定費が棚卸資産原価と. 5.1 原価配分の視点. なりうる状況を規定してはいるものの,固定費. 筆者は,原価配分の視点として,固定製造間. のもつ性質が期間原価でなくなったという説明. 接費を何らかの目的のためにあえて配賦しない. とはなっていない.. という考え方を積極的視点,何らかの理由でや. 資産の本質をサービスポテンシャルの集合体. むを得ず配賦しないという考え方を消極的視点. であると規定し,サービスポテンシャルを未来. と呼んだ.たとえば,利益計画のために損益分. 原価回避能力に求めている.「資産=サービス. 岐分析を行う場合,CVPの関係を描写するため. ポテンシャル」という論理は,先でもふれたよ. に原価を配賦しないのは,積極的視点である.. うに,AAAの「1957年改訂」からの援用であ. 一方,固定費を配賦したいのだが,合理的な配. る.この「改訂」自体は,直接原価計算の外部. 賦基準が見つからないといった理由で配賦しな. 報告適用を認めているわけではないが,そこに. いというのは,消極的な視点である54).直接原. 付されている「異論」に,資産をサービスポテ. 価計算の歴史において,CVP分析だとか,セグ. ンシャルの集合体であるとするならば,直接原. メント別の貢献利益分析を目的とした発展は,. 価計算も受け入れられるべきである,というも. 積極的視点からのものである.一方,始祖の一. のがあるが52),それに意を強くし,同時に,. 人であるHarrisが直接原価計算を考案したのは,. Marpleの「未来原価節約説」やGreenの「原価. 消極的な視点からである.それまで固定費を合. 回避説」をそこに結びつけた結果が,彼らの 「未来原価回避説」であろう.果たしてそれが 棚卸資産以外の(貸借対照表上の)資産をすべ. 理的に配賦しようと試みたけれども,操業度の. て説明できるのかどうか,という問題に対する. いう方法にたどり着いた.これが結果として直. 記述はない.これはMarpleの「未来原価節約 説」にも共通している点である.製造原価が棚 卸資産原価になりうるかいなかの境界を示した. 接原価計算になったのである.. にすぎない.その境界を示さんがために,資産. 外部報告の支持論を原価配分の視点からみる. の一般概念やサービスポテンシャル概念を再解. と,原価を配賦しないことで外部報告目的に積. 釈した,と受け取られかねない.これも,Fess. 極的な意味を期待するのか,それとも何らかの. 変化に対して利益測定が歪まないような方法が 見つからなかったため,固定費を配賦しないと. 5.2 各支持論の主張と原価配分の視点. やFerraraのような批判がでてくる要因のひと. 理由でやむを得ず原価を配賦せずに直接原価計. つであったと考えられる53).. 算方式で外部報告を行うのか,の2つに整理す. HorngrenとSorterによって展開された議i論 は,最初の論文こそ外部の利害関係者への有用. ることができる.. 性が主張されていたが,続く論文では,その観. これは,Neilsenの主張に代表されるもので. 点が抜け落ち,いかに直接原価計算が会計の測. ある.内部報告に対して有用な直接原価計算を,. 定の論理に解ったものであるか,GAAPと矛盾. 外部報告にまで延長して適用しようというもの. しないものなのか,という点のみに焦点が当て. である.これは,情報のコストの面から見た考. られた.積極的な利点を示し得なかったために,. え方である.直接原価計算を採用しない理由と. 一般の実務家に対して直接原価計算の採用を魅. してあげられるものの一つに,外部報告への調. 力的に感じさせることが出来ず,その後の展開. 整コストというものがある.二つの異なる体系. に影響を与えたということができる.. の損益計算書を作成・維持していくのは非常に. 1)内部報告の延長としての外部報告への適用.
(13) 直接原価計算の外部報告支持論と原価配分の視点(高橋 賢). (89)55. コストがかかるという認識である.Neilsenの. している.. 主張は,二本立てで損益計算書を持つことにコ ストがかかるというならば,(こういつた採用. Greenは,全部原価計算では,長期的な対応 を前提とするが,外部の利害関係者にとってそ. しないという主張とは逆に)外部報告を内部報. のような長期的な対応の結果が有用であるのか. 告に合わせるという発想である.これは,直接. どうかは疑問であるとしている.むしろ,外部. 原価計算を外部報告に適用することに対して積. の利害関係者にとっては当該期間に関する対応. 極的な意味合いを持たせておらず,情報のコス. 関係の結果が有用ではないか,という論理を展. トの面からやむを得ず直接原価計算を外部報告. 開している.. に用いようという消極的な視点である.. HorngrenとSorterは,最初の論文で,営業. 2)利益測定の問題. 量と利益の関係を見積もることができるという. Marpleの支持論の背景には,彼の持つある. 点や,キャッシュ・フローの予測ができるとい. べき利益測定のあり方というものが影響してい. う点を利点としてあげている.. ると思われる.それは,「利益は販売によって. こういつた点は,積極的な原価配分の視点か. 実現される」という考え方である.固定費を製. らの主張であるといえる.このような目的のた. 品に配賦していたのでは,この考え方を実現で. めにあえて原価を配賦せずに外部報告用の財務. きない.正常配賦ないしは標準原価計算といっ. 諸表を作成することになるからである.. た予定配賦を行っているような状況では,売れ る見込みのない製品を大量に生産すると,販売. 5.3 外部報告支持論の説得力と2つの視点の. とは無関係に,(実際のキャッシュを伴わない). バランス. 利益が計算されてしまう55).. 一つのシステムが受容される場合,その理由. 何か特定の目的を直接原価計算方式の公開財. には積極的な面と消極的な面とがあり得る.内. 務諸表に持たせようというのではなく,あるべ. 部報告会計としての直接原価計算が1950年代以. き財務諸表の姿に近づけるためにはどうしたら. 降普及と発展を遂げたのは,消極的な視点をき. いいのかを考えている.これはある種消極的な. っかけとして,積極的な視点でそのメリットが. 視点からの原価配分であると考えられる.. 認識されるというプロセスを経たからであると. 3)外部の利害関係者への有用性. 考えられる.. ここで取り上げた支持論では,直接原価計算. 外部報告機能に関してはどうだろうか.バラ. を外部報告に用いることの固有の利点というも. ンスからいうと,消極的な視点の方はかなり重. のは,実は積極的に訴えられているわけではな. い.消極的な視点からの問いかけは,注目を集. い.Neilsenの支持論は前述のように「内部報. め,ひとつの契機とはなるだろう.しかしなが. 告に役立つ」直接原価計算を外部報告にも使お. ら,実際に適用しようという段階では,なにか. うというスタンスである.また,Marpleの支 持論でも,外部報告固有の利点については述べ られていない.Marpleは直接原価計算の普及. 積極的な視点がないと,なかなか適用にはむす. に努めた論者であり,直接原価計算に関する著. しようという機運にはつながらないであろうし,. 作も多数あるが,外部報告への適用について正. 実際につながらなかった.会計理論との整合性. 面から論じたのは,ここで取り上げた論文くら. を追いすぎた結果,積極的な利点の主張がおろ. いのものである56).. そかになり,支持論も大きな流れとはならなか. こういつたなか,Greenや, Horngrenと. ったと考えられる.. Sorterはかろうじて外部報告固有の利点を主張. びつかないであろう.これでは情報の利用者が 外部報告に対して直接原価計算を積極的に利用.
(14) 56(90). 横浜経営研究 第25巻 第2・3号(2004). 6.むすび. 9) 1わノd,P。91. 10) IZ)fd, p.93.. 本稿では1950年代から60年代にかけて行われ た直接原価計算の外部報告への適用論のうち代 表的なものを取り上げて検討した.もっとも激. しい論争を呼んだ60年代のHorngrenとSorter の支持論は,会計理論との整合性を重視しすぎ るあまり,外部報告に直接原価計算を用いるこ. との積極的な意義を打ち出せなかったことが,. 11)乃ゴd 12)Ibゴd 13)Marple, R.,”Try This on Your Class, Professor,” The/1ccoロη亡fηg 1∼evゴev町July,1956, pp.492−7. 14) .τbfd, p.493.. 15) 1わfd, pp.493−4.. 16) Ibfd, p.494. 17) IZ)fd, p.495.. 18) Ibfd, p.495. 19) Zbfd, p.495.. その後の支持を得られなかった大きな原因の一. 20) 丑)ノd.,p.497.. つであると考えられる.. 21) 1Z)1d, p.497.. また,これは各論者に共通する点であるが, 直接原価計算によって外部報告を行った場合の デメリットに対する認識が欠けており,そのデ メリットを精査した痕跡がない.たとえば,直 接原価計算:方式の損益計算:書を外部に公開する. と,原価の構成比や変動費率などが世間に明ら. かになってしまう.ここまで公開すべきか否か. 22)Marple, R., llThere Is a Fundamental Error in Absorption Costing,「l The Coη亡rolle若July,1961, p,318. 23)Green, Jr。, D.,”A Moral to the Direct−Costing Controversy?,「l Tlle/10αrηal of Bαsf12ess, July,. 1960,pp.218−26. 24) 刀)1d, pp.222−3. 25) IZ)fd, p.220. 26) Ibfd., p.221.. 27) Ibfd, p.221.. の議論が必要であろう.なにより,実務家の抵. 28) Ibfd, p.222.. 抗が考えられる.これを補って余りあるほどの. 29)Horngren, C. T., and G. H. Sorter,”Direct. 積極的な利点が主張されれば,外部報告論争の 歴史も違ったものになったかもしれない. (本稿は科学研究費若手研究(B)(1673023200) の研究成果の一部である.) 注. Costing for External Reporting,II The Accoロη亡fη8’Revfev晒Jan.,1961, pp.84−93.. ちなみにHorngrenとSorterは, direct costing というのは誤った名称であり,variable costing. という言葉を使っている.本稿では,他の議論 との整合性を保つために,HorngrenとSorter の論文の紹介部分でも,「直接原価計算」という 用語で統一する. 30)Sorter, G. H. and C. T. Horngren, llAsset. 1)高橋賢「原価配分における消極的視点と積極的 視点∼直接原価計算とABCの生成・発展に関す る一考察」『千葉大学経済研究』1999年9月,. Recognition and Economic Attributes−Relevant Costing ApProach,”The/1ccoαη亡加g Revfev巴. 327−74ページ.. Horngren, C. T. and G. H. Sorter,脚An. 2)それぞれの支持論に対する反論については,論 争自体を扱った次の論文を参照されたい. Evaluation of Some Criticisms of Relevant. NeilsenとHeprworthの論争およびMarpleと. pp.417−20.. Brummetの論争. 31)Committee on Concepts and Standards. 高橋賢「1950年代における直接原価計算論争」 『千葉大学経済研究』1998年3月,491−510ページ. Horngren and SorterとFess and Ferraraの論争. 高橋賢「直接原価計算論争に関する一考察」『會 計』1998年8月,226−36ページ.. July,1962, pp.391−9.. Costing,”The、4ccoロη亡fηg Rev/ew;April,1964,. Underlying Corporate Financial Statements, llAccounting and Reporting Standards for Corporate Financial Statements,1957 Revision,” Th e/4 ccoαη亡fηg’1∼evfevlろOct.,1957.. 32) Sorter and Horngren,1962,0PL cゴ乙, P.391.. 3)Neilsen,0.,”Direct Costing−The Case’ForHl,. 33) Horngren and Sorter,1961,0P, cゴ左, P.86.. The〆lccoロη亡ゴη8’Revfew;Jan.,1954, pp,89−93.. 34) 丑)fd., p.86.. 4) 丑)fdりP.89. 5) Ib/d, P.90.. 6) Ibfdりpp.90−1. 7) 丑)∫d,P.92. 8) 1bゴd, P.92.. 35)このような原価回避説や原価節約説と同じよう な考え方は,1913年のSpragueの著書に見受け られる.. Spragueは,「第6章資産の側面」で,資産を 次のように分類している.物(Things)と権利,.
(15) 直接原価計算の外部報告支持論と原価配分の視点(高橋 賢). (91)57. または我々に所有する物(Things belonging to us)と我々が持っている債権(Debts owing to us),または所有物(Possessions)と期待されて いるもの(Expectations),に分類される.(p.. 42) 丑)ゴdみp.397.. 39). 46) Horngren and Sorter,1961,1)P. cf乱P.85.. そして,資産の性格について,次のように述. 47) 1疋)1dりpp.85−7. べている.. 48) Sorter and]日[orngren,1962,0P, cfちP.392。. 「… すべての資産は,前もって与えられ たサービスの具現(embodiment)である.他の 見方をすれば,享受するであろうサー.ビスの貯 蔵(storage)である.あるものは,財産を生産 するために労働力を与えてきたはずである.し かしもしそれが将来において労働サービスを要 求しないかまたは労働ないし具現化した結果. なお,引用文中で引用されているPaton and. (embodied results)の支出を節約しない場合は, 価値はなく,全く財産とならない.」(p.41). 50)乃fd. 1950年代から60年代の論者がSpragueの影響 を直接受けたかどうかはわからないが,原価回 避という考え方がまったく新しいものであると. 52)AAA, op c鵡p.545.. いうわけではないことはわかる. Sprague, A. M, The.Phllosop加of.4ccoαη亡s,. 43) Ibf(L p.398.. 44) 1bf(焉pp.398−399.. 45) Ibfdりp.399,. Littletonは次の文献である. Paton,W. A. and A. C. Littleton,.Aη 1η亡rOdαc亡fOη亡000rpora亡e.Accoロη亡fη9 5亡andards(American Accounting Association, 1940).. 49) Horngren and Sorter,1961,0p cfちP.91.. 51)砺d 53)FessおよびFerraraからの反論については,高 橋賢「直接原価計算論争に関する一考察」を参 照されたい. 54)高橋,1999年を参照されたい.. 36) Horngren and Sorter,1961,0PL cf㍍P.87.. 55)実際生産量が計画生産量を上回る場合,有利な 操業度差異が発生する.これを売上原価に調整. 37) Ibf(ゐp.88.. すると,利益が過大に計算される.. 38) 丑)∫d,p.88.. 56)Marpleの直接原価計算の普及に対する貢献につ いては,次の論文を参照されたい. 高橋賢「直接原価計算論の再検討∼マーブルの 貢献と限界」『會計』1997年6月,87−99ページ.. (N.Y.:The Ronald Press Co., fourth ed.,1913).. 39) Ibfdりpp.88−9.. 40)Sorter and Horngre職1962,0p cゴちp.393. 41) 丑)fd, p.395.. 〔たかはし まさる. 横浜国立大学経営学部助教授〕. (2004年9月30日受理).
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