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自己評価と相互評価を取り入れた理科授業における資質・能力の育成に関する実践的研究

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自己評価と相互評価を取り入れた理科授業における

資質・能力の育成に関する実践的研究

2020 兵庫教育大学大学院 連合学校教育学研究科 飯 田 寛 志

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i 目次 序章 問題の所在と本研究の目的・方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 0.1 問題の所在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 0.1.1 評価観転換の必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 0.1.2 「参加型評価」「学習としての評価」に基づく評価を推進する必要性 ・ 4 0.1.3 自己評価と相互評価の教育的価値 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 0.1.4 観察・実験教材を開発・検討する意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 0.1.5 自己評価と相互評価を取り入れた授業を研究する意義 ・・・・・・・・・・・・・・ 9 0.2 本研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 0.3 「相互評価表」を用いる学習活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 0.4 本研究における相互評価活動の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 0.5 学習者の資質能力の育成に関する相互評価活動の効果の検討 ・・・・・・・・・・ 15 0.6 本研究の方法と本論文の章構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 引用・参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 第1章 高等学校理科における相互評価活動を取り入れた授業実践:学習への取 組意欲の高まり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 1.1 問題の所在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 1.2 本章の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 1.3 本章における「主体的」の意味と求める学習活動に係る先行研究 ・・・・・・ 21 1.3.1 「主体的」についての定義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 1.3.2 主体的な学びを引き出す学習活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 1.4 相互評価活動を取り入れた授業の実践 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 1.4.1 学習課題の設定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 1.4.2 評価規準と相互評価表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 1.4.3 授業の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27 1.4.4 質問紙調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 1.4.5 分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 1.5 結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 1.5.1 授業の実践と授業づくりの過程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 1.5.2 話し合いと評価に関する質問紙調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33

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ii 1.5.3 1回目の自己評価得点と他者評価得点の比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35 1.5.4 1回目の自己評価コメントと他者評価コメントの比較 ・・・・・・・・・・・・ 36 1.5.5 2回目の自己評価得点と他者評価得点の比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 1.5.6 評価に関する質問紙調査の自由記述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41 1.5.7 学習者の取組意欲を高める仕組 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42 1.6 本章のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43 引用・参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 第2章 中学校理科における相互評価活動を取り入れた授業実践:論理的表現の変容 47 2.1 問題の所在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47 2.1.1 考察記述に関する先行研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47 2.1.2 論理的表現 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49 2.2 本章の目的と方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50 2.3 学習内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50 2.4 実験教材の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51 2.4.1 実験教材の基本の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53 2.4.2 泳動距離の測定方法の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54 2.4.2.1 実験条件の設定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54 2.4.2.2 泳動境界の決定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55 2.4.2.3 画像撮影 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58 2.4.2.4 画像上の画素間距離の算出 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58 2.4.2.5 画像の数値化処理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58 2.4.2.6 泳動距離の測定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59 2.4.3 実験条件の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60 2.4.4 実験教材の開発と実践における試行 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64 2.5 授業計画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 2.5.1 学習課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 2.5.2 授業展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 2.5.3 自己評価と相互評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 2.5.4 質問紙調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73 2.6 授業実践の結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74 2.6.1 授業概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74

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iii 2.6.2 実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74 2.6.3 評価規準の話し合い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74 2.6.4 相互評価活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74 2.7 分析の結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77 2.7.1 相互評価活動に用いた評価規準の項目「論理的に表現している」の小 項目による考察記述の得点分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78 2.7.2 考察記述の得点分析の結果と自己評価得点との比較分析 ・・・・・・・・・・ 85 2.7.3 考察記述の得点分析の結果と質問紙調査結果との比較分析 ・・・・・・・・ 86 2.7.4 考察記述の分類による分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 87 2.8 本章のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90 註 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 92 引用・参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94 第3章 中学校理科における相互評価活動を取り入れた授業実践:知識と知識の関連 付けによる内容理解 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 97 3.1 問題の所在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 97 3.2 本章の目的と方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98 3.3 授業実践 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98 3.3.1 調査対象・時期と群の設定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98 3.3.2 各群の授業概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98 3.3.3 学習内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100 3.3.4 実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100 3.3.5 学習課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 101 3.3.6 相互評価活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 102 3.3.7 調査問題の実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 106 3.4 結果とその分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 107 3.4.1 調査問題の結果と学習内容の理解との関係についての分析 ・・・・・・・・ 109 3.4.2 学習課題についての分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 111 3.4.3 相互評価活動前後における考察記述の変容と学習内容の理解との関係 についての分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 116 3.4.3.1 実験結果と物質の変化を関連付けた考察記述 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 117 3.4.3.2 実験結果や実験操作を関連付けた考察記述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120

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iv 3.4.3.3 酸化銀の分解に関する記述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120 3.5 本章のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121 引用・参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121 終章 本研究の総括と今後の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 123 4.1 本研究の総括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 123 4.2 今後の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 125 引用・参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 126 附記 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 127 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 129

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1 序章 問題の所在と本研究の目的・方法 本研究の目的は,中学校及び高等学校理科において,学習者による自己評価と相互 評価を取り入れた理科授業が資質・能力の育成に及ぼす効果について検討することで ある。 序章では,本研究の方向性を示すために,先行研究を精査し,関連する教育評価の 研究動向を概観した上で問題の所在を整理し,課題とその解決に向けた本研究の目的 を示す。次に,学習者の資質・能力育成のために評価活動を活用するという「参加型 評価」「学習としての評価」の考え方を基に,学習者が自己評価と相互評価を行う学習 活動に関する先行研究を精査する。そして,自己評価と相互評価を取り入れた理科授 業を実践するための具体的な方法について整理する。最後に,本論文の各章の目的と 構造について述べる。 0.1 問題の所在 0.1.1 評価観転換の必要性 Scriven(1991)は,評価とは物事の「本質」「値打ち」「意義」を体系的に明らかに することであるとしている1)。米原・丸山・澤田(2016)は,「本質」とは評価対象と なる事象が内在的に備えている本質的な価値,「値打ち」とは投入費用に対する効率性 としての外的な価値,「意義」とは事象の社会的な価値であると述べている 2) 。米原 (2016)は,この3つの価値について,本質的な価値とはその対象そのものの善さに 関わる価値,外的な価値とは点数などにより外的な観点から「品定め」された値打ち, 社会的な価値とはその対象が社会に対して広く及ぼし得る影響や対象がもたらす社会 的な意義であるとし,日本社会で一般に用いられる評価とは外的な価値を判断するこ とを意味する場合が多いと指摘している。教育においては,教師が教えたことに対す る教育の効果が様々な方面から説明責任として求められることから,外的な価値の評 価の重要性が強調され,本質的な価値や社会的な価値の視点が看過されていると述べ ている。そして,近年の教育活動においては,外的な価値を相対評価することを目的 とした評価から,本質的な価値,社会的な価値を絶対的な視点から評価することを目 的としたものへの転換が見られるとしている 3)。教育評価においては,相対評価とし ての「集団に準拠した評価」に代わり,絶対評価を目指した「目標に準拠した評価」

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2 が,近年の学びの多様化に伴うルーブリックを用いたパフォーマンス評価やポートフ ォリオ評価などの学習評価の方法(西岡,2003;松下 2012;松下,2015)4) 5) 6)の多様 化を促している。さらに,学校評価においても,平成19 年の学校教育法改正による学 校の自己評価の義務化と学校関係者評価の努力義務化,評価結果の設置者への報告が 規定された。これらは,米原(2016)が指摘する「社会に開かれた教育課程」の実現 に向けて,学校における評価が外的な価値を相対評価することを目的としたものから, 本質的な価値,社会的な価値を絶対評価することを目的としたものへの転換である。 この転換は,教育評価,学校評価を含む,学校における評価の方向性が,変化する社 会の中に置かれた学校それぞれの内的価値の創造・改善・変革の追究に対応したもの であると言える。 学習者の資質・能力の育成に向けた評価については,学習指導要領改訂に関する答 申(文部科学省,2016)7)を受けた「児童生徒の学習評価の在り方について」(文部科 学省,2018a)8)で,「児童生徒一人一人の学習の成立を促すための評価という視点を一 層重視することによって,教師が自らの指導のねらいに応じて授業の中での児童生徒 の学びを振り返り学習や指導の改善に生かしていくというサイクル」を求め,その具 体的な改善を求めている。 田中・森脇・徳岡(2011)は,戦後に導入された教育評価の目的が,教師の指導と 子どもたちの学習活動の改善を目指す行為であるとし,教育目標として具体化したも のが子どもたちにどの程度実現しているのか判定し,判定結果に基づいて教育活動に 反省を加えて,授業と学習活動を改善していくことであったとしている 9)。戦前の教 育評価に関する研究が教育測定を主流とするものであり,Tyler(1978)によって紹介 された「エバリュエーション」概念10)が導入された際にも「測定」概念と「教育評価」 概念との区別を行うことが困難な状況であったことから,「相対評価」が教育評価観の 基調をなすこととなったとしている。それが平成 10 年の学習指導要領改訂に伴う平 成13 年の指導要録改訂により「集団に準拠した評価」から「目標に準拠した評価」が 全面的に採用され,さらに,指導と評価は別物ではなく,評価の結果によって後の指 導を改善し,さらに新しい指導の成果を再度評価する,指導に生かす評価を充実させ ることが重要であるとした「指導と評価の一体化」が提言された。そして,「目標に準 拠した評価」と「指導と評価の一体化」は,その後の学習指導要領における評価へと 引き継がれていく。さらに,文部科学省(2019)は,平成 29 年の学習指導要領改訂に

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3 伴い,「よりよい学校教育がよりよい社会をつくる」という理念を共有し,学校と社会 との連携・協働を求める「社会に開かれた教育課程」の実現に向けて,子どもたちに 必要な資質・能力を整理した上で,その育成に向けた教育内容,学習・指導の改善, 児童生徒の発達を踏まえた指導,学習評価の在り方などが示され,各学校における教 育課程編成,実施,評価,改善の一連の取組が組織的,計画的に展開されるよう,カ リキュラム・マネジメントの確立が求められてきた。そして,学習指導と学習評価を カリキュラム・マネジメントの中核として位置づけた11) 松尾(2014)は,教育評価の在り方の転換の必要性に触れ,「資質・能力を基礎にし た教育の在り方が重視される中で,評価のあり方もまた大きく変えていくことが期待 されている。」としている12)。目標に準拠した評価を効果的に進めていくためには,評 価観の転換が必要であり,「測定評価観」から「問題解決評価観」への転換が必要であ るとしている。松尾によれば,従来の「測定評価観」では,単元計画を作成して,そ の計画に沿って実践し,子どもの学習の結果として習得された知識の量の多少につい てテストを用いて測定する評価観であり,図 1 の評価観である。 これは,テストをして成績をつける測定である評価観であるとしている。こうした 評価観においては,学力の一側面しかとらえることができないこと,また,単元の終 了後に評価が実施されるため,子どもにとっても教師にとっても学びや指導がつまず いたのか,何に問題があったのか等,学習プロセスを捉える視点が欠けており,指導 の改善に生かすことができず,課題があると考えられる。このような評価観を改善す る上でも,カリキュラム・マネジメントを基盤とした学習評価を構想する必要がある。 松尾は,従来型の評価観に代わり,これからの評価観として,「問題解決評価観」を示 している。図 2 は,松尾が示した「問題解決評価観」に基づく評価のサイクルである が,これはカリキュラム・マネジメントを基盤にした評価観であり,子どもも教師も 振り返りを重視し,「学びながら(教えながら)自己が成長していることを自覚的に理 解すること」というものである。 単元計画 → 実施 → 評価(テスト) 図 1 従来の評価

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4 ところで,北尾(2006a)は,教育評価が「子ども(被教育者)の評価」と「処遇条 件の評価」に分けられるとし,学習評価は子ども(被教育者)の評価の一領域であり, 教育の処遇改善の評価はカリキュラム評価,授業評価,教師評価が含まれ,授業評価 は授業設計,授業展開,指導技術など処遇条件の中での重要な要件であるとしている 13)。松尾(2014)の示す,自己学習力の向上のための学習評価を含む「子ども(被教 育者)の評価」による学習者に対するフィードバックと,指導と評価の一体化のため の「処遇条件の評価」による教師に対するフィードバックが,学習者,教師,双方の 改善と変革を促すプロセスとして機能することが求められていると言える。 一方,堀(2017)は,これまで資質・能力を育てるための教育評価が行われてこな かったことを問題視し,教育において重要なことは,繰り返し問い,何がどうなって いるのか確認して,不適切な状態を改善するための働きかけを絶えず行う「資質・能 力を育てる評価」であり,「指導の機能を持つ評価観」が極めて重要となるとし,一方, このような視点から行われている評価は,ほとんどないと指摘している14)。したがっ て,資質・能力の育成のためには,「測定評価観」から「問題解決評価観」「指導の機 能を持つ評価観」への転換が必要であると考えられる。 0.1.2 「参加型評価」「学習としての評価」に基づく評価を推進する必要性 「指導の機能を持つ評価観」は,評価自体が学習者の評価に対する当事者意識を促 し,学習者の能力向上など改善・変革を促すという視点を持つものである。 評価に対する当事者意識と学習者の改善・変革を促す評価としては,評価学におけ る参加型評価の考え方がある。源(2008)は,参加型評価とは評価を専門とする者や <指導と評価の一体化> 教師 フィードバック(指導の改善)← 評価(多様な資料を活用して) ↓ ↑ 単元の計画 → 実施 (児童のパフォーマンス)→ → → → 達成目標 ↑ ↓ 児童 フィードバック(学習の改善)← 評価(多様な資料を活用して) <自己学習力の向上> 図 2 問題解決評価観に基づく評価のサイクル

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5 評価担当者が主体となって行う従来型の評価ではなく,評価活動に評価専門家以外の 者が参加し,評価のプロセスを共有することにより,付加価値を高める評価であると している。また,参加型評価の特徴として,「利害関係者が評価活動に関わる評価」で あり,「評価プロセスを活用して改善・変革を促す評価」としている。さらに,参加型 評価は評価の過程(評価プロセス)が利害関係者の学習過程として作用し,利害関係 者の意識,態度,行動変容につながるということ,具体的には,評価対象への理解が 深まること,当事者意識や責任感が醸成されること,利害関係者間の相互理解が進む こと,それらによって評価結果の活用度合いを高めることなどが特徴であるとしてい る15)。北川(2014)は,参加型評価の目的として,利害関係者に強い権限を与えるこ とで,利害関係者の評価に対する強い当事者意識を生み出し,結果として評価の活用 度を高めること,被評価者をはじめとする利害関係者の評価的態度や評価能力を育て ることの2 つを挙げている16)。これらは堀(2017)の指摘する「指導の機能を持つ評 価観」に基づく「資質・能力を育てる評価」に相当すると考えられる。つまり,教育 分野における参加型評価とは,指導者は評価者,学習者は被評価者という一方的な評 価を越えて,学習者も評価に参画する取組のことであり,学習者は学びの中で評価規 準を考えたり,学習者自らが評価活動を行うことで,学びの目的や価値を自覚したり, 自己や他者の良さに気付いたり,さらなる改善を求め続ける活動である。また,指導 者も学習者の学びの状況を把握するだけではなく,指導の改善に生かしていくことに もつながると考える。 学習評価はこれまで,Bloom らによって,授業過程で実施される評価の機能として, 「診断的評価,形成的評価,総括的評価」という三つに大別され(田中,2010)17),我 が国では,この考え方に影響を受け,学習評価の機能を捉えることが多い(文部科学 省,2016)。形成的評価と総括的評価の機能を問い直す議論が進行した 1990 年代頃か ら指導と評価の一体化による形成的評価の考え方を再考して,Bloom が示した形成的 評価,総括的評価の機能を捉え直す議論,新たな理論的な発展が見られた。そして, 欧米においても Bloom の定義に基づいた形成的評価と総括的評価の概念区分が明確 さに欠くとの議論もあり,教育評価の機能が評価の実施時期や評価対象といったこと ではなく,評価活動の目的によって区別されるべきと考えられるようになってきた(西 岡・石井・田中,2015)18)。教育における参加型評価は,学習者が評価活動に関わる ことによって評価に対する当事者意識を促し,それにより評価の活用度を高め,学習

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6 者の改善・変革を促すという目的を有するものである。 さらに,目的によって区別する視点としてEarl(2003)は,三つの評価「学習の評 価」,「学習のための評価」,「学習としての評価」という評価の考え方を示している(表 1)19) 「学習の評価」とは,一般的に学校における主とした評価を指し,教師が評価主体 となり総括的に学習の成果を示すためのものであり,学習者とその保護者に対して学 習の進捗を報告するためのものであるとしている。「学習のための評価」は,従来の学 校における評価に代わる視点として,評価の重点を総括的評価から形成的評価へ,学 習の成果の判断から次の学習に活用可能な情報を生み出す評価へ転換し,評価主体で ある教師の授業改善のために行うというものである。それに対して,「学習としての評 価」は,学習者が評価主体となり自己の学習をモニターすることにより,学習者の自 己調整能力や自己評価能力を育成するための評価であるとしている。特に「学習とし ての評価」は,被評価者である学習者が評価の主体であり,「学習者自身の学習の自己 調整」を目的としている点も参加型評価の評価観と同一であると考えられる。堀(2017) の指摘する「指導の機能を持つ評価観」の視点から行われる評価が少ない現状から, 参加型評価,学習としての評価の考え方による教育評価の研究を推進する必要がある と考える。 0.1.3 自己評価と相互評価の教育的価値 これまで自己評価と相互評価の活用については多くの教育的意義や価値が論じら れてきた。 表 1 三つの評価 三つの評価 概要 評価主体 学習の評価 成績の決定 教師が評価主体 学習のための評価 授業・学習改善 教師が評価主体 学習としての評価 学生自身の学習の自己調整 学習者が評価主体

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7 藤原(1988)は,相互評価によって,子どもの学習活動をお互いが多面的に見るよ うにさせて,柔軟に関わり合うように仕向けることによって,教師がこれまで予期で きなかったような新しい世界の存在を子どもたちに発見させたり,自分でこれまで気 づかなかったものを見つけさせたりたりなどして,学習の楽しさを体験させるように なるとしている20)。北尾(1988)は,自分だけでは知ることができないことを,級友 から教えてもらうことが相互評価の第一の役割であり,他人の目を通してみた自己を 確認することができ,「なるほど,自分にはそういう足りない点があったのか」と,自 己評価が改められることになれば,相互評価の機能は十分に発揮されたことになると している。また,相互評価では,自分も高まり,相手も高まるということを常に心が け,互いに励まし合いながら学び問うという考え方や態度が身についているならば, 自ら他者をも評価し,ともに高まり合うようになるはずであり,相互評価を行うこと 自体が教育的に意義のあることであるとしている21)。橋本・肥田(1977)は,生徒の 行動環境においては,友人から与えられる評価が極めて重要な意味を持っており,友 人からの評価の文脈の中において,生徒の行動が大きく規定されていることを考える と,相互評価は生徒の学習活動にとって極めて重要な意義を持っていると指摘してい る。また,生徒に他者評価と自己評価を行わせることは,彼らの自己理解を深める上 で極めて重要であり,他者から与えられた評価と自己評価を比較することにより,自 己中心的な見方を克服して多面的な見方を持つことが可能となってくることから,相 互評価を適切に取り入れることによって,生徒の自己自身を柔軟に見る力を養わせ, さらに他者との関連において自己を位置付け,適切な行動を展開する可能性を増大さ せることが期待されるとしている22)。寺西(2002)は,確かな自己評価活動を支えて いくには,その子の学びにかかわる他者(友達,教師,保護者,地域の人々など)の 存在と相互評価が大きな役割を果たし,自己評価活動に相互評価をうまく取り入れ, セットで捉えることにより,友達からの気付きや話し合いをつねに一体化してとらえ, ある子が自分の学びや作品について何人かの友達からアドバイスをもらったり,また, その子自身が何人かの友達へアドバイスをするという「双方向の評価」(学び合い)を 一体化して授業に位置づけ,双方向による自己評価・相互評価活動によって,学びの 共有化が図られていくと述べている23)。奥村(1997)は,相互評価とは自己評価と同 じように,絶えず自己を振り返り,学習の目標が達成できるよう,子どもたちが自分 自身のために行う評価のことであると述べている24)。これらの先行研究は,自己評価

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8 と相互評価が評価能力の育成や評価による価値判断だけでなく,学習場面における自 己の振り返りを通した自己理解を促し,自己理解を通した資質・能力の育成について 寄与することを示している。さらに,理科教育においては,平成28 年の中央教育審議 会答申が,資質・能力を育むために重視すべき学習過程のイメージとして,課題の把 握(発見),課題の探究(追究),課題の解決という学習過程例を示し(文部科学省, 2016),その中で課題の解決における探究の過程の「表現・伝達」の場面では,観察, 実験の結果から,考察・推論したことや結論を発表したり,レポートにまとめたりす る力を育成することや,そのための対話的な学びの例として「相互評価」を示してい る(文部科学省,2017a;文部科学省,2018b)25) 26)。理科教育において学習者の資質・ 能力を育成するためには,考察したことを表現する場面で「相互評価」を活用するこ とが効果的であると言える。 したがって,自己評価と相互評価は学習者の資質・能力の育成に資するという点で, それ自体に教育的価値があると考える。 0.1.4 観察・実験教材を開発・検討する意義 ところで,平成29 年改訂中学校学習指導要領では,思考力,判断力,表現力等の育 成を図る観点から,科学的な概念を使用して考えたり説明したりする学習活動を充実 することが示された(文部科学省,2017b)27)。科学は,実証性,再現性,客観性が保 証されて成立するものであり(文部科学省,2017c)28),科学的な概念を使用して説明 する際には,科学的事象における実証性,再現性,客観性について適切に表現するこ とが求められる。理科授業においては,既知の観察・実験の結果や,実際に学習者が 行った観察・実験の結果から,科学的な知識とともに現象を科学的に説明する考察記 述が自己評価や相互評価の主な対象になると考えられる。その際,学習者による観察・ 実験の結果を基に考察を記述する場合,観察・実験に適した教材が必要となる。山下 (1992)は,理科実験教材の条件を挙げている29)。それは,①科学的概念相互の関連 付けができること②日常生活への応用が期待できること③児童・生徒の発達段階に応 じた使用が可能なこと④理科教科内の他の分野にも応用が可能なこと⑤自然科学を基 礎とする他教科との関連が可能であること⑥原理が簡単であること⑦身近で安価な素 材の利用が可能なこと⑧測定精度を高めることが可能なこと,の8 項目である。これ らは観察・実験の結果を基に考察を記述する際に望まれることであるとも言える。そ

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9 れは,科学的概念を相互に関連付け,日常生活における知識や他分野,他教科の知識 との関連付けによる考察が可能な教材であること,実験結果における測定精度と再現 性が保証され,実験結果の明瞭性を有する教材であること,学習者の発達段階に応じ て,実験時間の適切性,実験の安全性,実験操作の簡便性などを有し,考察の記述に 十分な時間をかけられる教材であること,原理が簡単で身近な素材を利用した親しみ やすく,興味・関心をもって考察記述に取り組むことができる教材であることなどで ある。自己評価や相互評価の対象となる考察は,観察・実験の結果を基に記述するこ とから,理科の授業実践に適した観察・実験教材の開発や検討をすることは,本研究 を進める上で意義があると考える。 0.1.5 自己評価と相互評価を取り入れた授業を研究する意義 0.1.1~0.1.4 を踏まえ,本研究では,教育評価における参加型評価,学習としての評 価と同様な評価観をもつ,後藤(2010)による「相互評価表」を用いる学習活動30)(以 下「相互評価活動」と記す)に注目して研究を推進することとした。また,相互評価 活動の評価対象である考察を記述する際に適した観察・実験教材の開発・検討にも取 り組むこととした。相互評価活動とは,自己評価と相互評価を主なプロセスとする学 習活動であり,授業における学習課題(内容)に対する記述について,目標に準拠し た評価規準を用いて学習者それぞれが自己評価と相互評価を行い,これらの評価結果 を学習者にフィードバックするとともに,学習課題に対する記述を振り返る中で,主 体的に学習に取り組みながら表現力等の育成を目指すものである。相互評価活動は, 学習者が自己評価と相互評価を行い,評価対象である学習課題に対する記述とその評 価結果を振り返りながら記述の改善に取り組むことから,参加型評価における「利害 関係者が評価活動に関わる評価」「評価プロセスを活用して改善・変革を促す評価」, 学習としての評価における「学習者自身の学習の自己調整」の点で目的を共有するも のである。「指導の機能を持つ評価観」による評価を推進するためには,相互評価活動 に注目し,参加型評価,学習としての評価の評価観に基づく評価を推進する必要があ ると考える。相互評価活動は,評価自体を学習の機会として学習活動に埋め込み,自 己評価と他者に対する評価を繰り返し行うことによって,多様な考えを交換したり, それらを振り返りならが自己に問かけたりすることによって,新たな考えに気付き, 自分の考えをより妥当なものにし,学びの実感を得ながら意欲的に取り組む,主体的・

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10 対話的で深い学びの実現に資する学習活動であるといえる(飯田,2017)31)鹿毛1989) は,順位や点数のみのフィードバックは理解や技能を促進するために役立たないばか りか,競争的目標構造においてこれらが提供された場合,制御的に機能し,内発的動 機付けに悪影響を及ぼすことが考えられ,理解や技能を促進するために有効な,より 具体的で学習内容に即したフィードバックをすることが有能感を高める上で重要であ るとして,他者評価コメントの効果を述べている32)。相互評価活動においては自己評 価と相互評価を得点評価だけでなくコメント評価を行うことで,学習内容に即した具 体的なフィードバックを提供する。後藤(2013)は「学習としての評価」を具体化し ていくために,自己評価,相互評価を行い検証している33)。そこでは,得点評価やコ メント評価を活用することで資質・能力の評価が可能であることを実証的に示してい る。東(2001)は,評価は子どもの自己形成を手助けする人と人との関わり合いであ る34)とし,北尾(2006b)は,優れた他者評価を介すことによって自己評価の信頼性が 保証されることから,まず自己評価させ,その結果と他者評価の結果とを比較した後 に,再度自己評価させるようなサイクルが望ましいとしている 35)。後藤(2017)は, これらの考え方が相互評価活動と整合することを示している36) 以上により,相互評価活動に注目し,資質・能力の育成のために,教育評価におけ る参加型評価,学習としての評価の考え方を基に,自己評価と相互評価の対象となる 考察の記述に適した観察・実験教材の開発・検討にも取り組み,相互評価活動を取り 入れた授業を構想,実践,検証することには意義があると考える。 0.2 本研究の目的 そこで,本研究は,自己評価と相互評価を取り入れた理科授業が学習者の資質・能 力の育成に及ぼす効果について検討することを目的とした。 0.3 「相互評価表」を用いる学習活動 相互評価活動は,「相互評価表」を用いて学習者どうしで互いに評価を行い,自己評 価と他者に対する評価を行う際に,得点評価だけでなくコメント評価することを含む 学習活動である。特に,後藤(2010)は,コメント評価を行う際に,評価対象となる 学習課題に対する記述の内容について理解しなければ評価コメントを行うことができ ないとしている。また,学習者は評価の際に用いる評価規準の要素を確認しながら評

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11 価を行うため,学習内容に入り込まざるを得ないこととなり,相互評価活動の過程で 学習の流れや詳細について深く学ぶこととなる。自己評価や他者から受けた評価を参 照しながら,自己の学習課題に対する記述を再検討することによって,無理なく学習 の振り返りを行うことができ,学習者が主体的に学習に入り込む仕掛けであるとして いる。さらに,後藤(2013)は,学習者が観察・実験の結果を基にした考察等の記述 に対して,設定した評価規準を用いて自己評価や相互評価を行い,評価結果を基に考 察等の記述を修正,改善することにより,科学的表現力の育成をねらいとした学習活 動であると述べている。 後藤(2010)は,相互評価活動の学習過程(表2),相互評価活動に用いる「相互評 価表」の例(表3),松原(2001)の整理37)に基づく評価規準の例(表4)について示 し,相互評価活動の特徴として,主に次の3 つを挙げている。 表2 「相互評価表」を用いる学習活動 学習過程 内容 ①学習内容 観察・実験を設定する。 ②「考察」などの学習課題 観察・実験の結果を基に考察を記述するため の学習課題を設定する。 「 相 互 評 価 表 」 を 用 い る 学 習 活 動 ③生徒どうしによる学習 課題の評価規準の検討 4人一組程度の生徒どうしで話し合い,評価 規準を重要度の高い順に4つ程度挙げる。 ④相互評価表に基づく自 己評価 評価項目により自己評価とコメントを記述 する。 ⑤相互評価表に基づく他 者評価 評価項目により他者評価とコメントを記述 する。 ⑥学習の振り返り 相互評価後,評価ポイントやコメントを見な がら自分の記述を振り返る。 ⑦学習課題のやり直し 学習の振り返りを踏まえて,学習課題をやり 直す。 ⑧相互評価表による自己 再評価 やり直した記述に対して再度自己評価する。 ⑨相互評価表による他者 再評価 やり直した記述に対して再度他者評価する。 ⑩次回の学習へ 次回の学習で「相互評価表」を用いる学習活 動の成果を生かす。

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12 表3 「相互評価表」例 項 目 設問に対応している 必要な根拠があがっている 内容が正しい 文章的に正しく書かれている 合計 小項目 ① ② ③ ① ② ③ ① ② ③ ① ② ③ 得 点 /12点 コメント 表4 評価規準例 項目 小項目 設 問 に 対 応 し て い る ①目的に対応した内容を記述しているか。 ②必要なキーワード(タイトルや強調箇所など)が含まれているか。関連 のないことが含まれていないか。 ③自分の意見(感想・気持ち)が混ざっていることはないか。 必 要 な 根 拠 が あ が っ て い る ①考察する文に必要な根拠があがっているか。 ②文章の途中で論理がふらついていないか。 ③具体的な事実や根拠を基にしているか。 内 容 が 正 し い ①考察するときに実験結果の原因として書いていないか。 ②用語の誤用はないか。 ③主張の内容が正しいか。 文 章 的 に 正 し く 書 か れ て い る ①主語と述語の対応・誤字・脱字・助詞,接続語(接続詞や指示代名詞) 等の誤りはないか。 ②一つの文が,長すぎたり,多くの情報を詰め込み過ぎたり,文章量が与 えられた枠を超えたりしていることはないか。 ③読みにくくはないか。

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13 ・学習者どうしが相互に評価し合う点 相互評価をすることにより,自然に主体的・能動的な学習を促し,内容をつかむ ことができるようになる。また,他者の視点で自分の記述を自己評価するため,メ タ認知能力の向上が促される。さらに,他者に対する評価を行うことにより,自己 の記述との違いに対する気付き,他者の記述の優れたところを見いだして認める経 験を得ることができる。 ・学習を自然な形で振り返ることができる点 自己評価結果,他者から受けた評価結果とともに自己の考察記述を見直すことに よって,学習した内容を無理なく振り返ることができ,どのように学習に取り組め ばよいのか学習の方法を身に付けることができる。また,自己の考察記述を修正す ることによって,より質の高い表現を求めるとともに,考察の再記述に対して2 回 目の自己評価結果と他者から受けた評価結果とともに自己の考察記述を再度見直 し,記述がどのように変わったのか,表現が上達したのかを意識させることにより, 次の学習機会にさらに質の高い記述に取り組む活用力が身に付く。 ・学習者どうしで評価規準を考え合う点 学習者どうしで学習課題に対する考察記述を評価するための評価規準について 話し合い,学習者自身が評価規準を発案する活動を通して対話的な学びを生む。ま た,評価規準の発案のためには学習内容に対して深い理解が必要となることから, 学習への主体的な取組が促され,学ぶ姿勢が自然に身に付く。 0.4 本研究における相互評価活動の展開 本研究では表2,表3,表4を基に,学習者の実態,学習内容,学習課題,授業構 成に応じて,授業者が設定する評価規準を検討し,表5の授業展開により相互評価活 動を取り入れた授業に取り組む。なお,後藤(2014),飯田・後藤(2015),飯田・後 藤(2019)及び飯田・山内・後藤(2020)は,相互評価活動における評価規準の話し 合い活動により,授業者が設定した評価規準の具体が学習者から発案されることを示 している38) 39) 40) 41)。これが相互評価活動の特徴の一つであり,2 時間目の評価規準の 話し合い活動の後にこのことを価値づけた上で,相互評価活動に用いる評価規準は授 業者が設定したものを用いることとする。その際,評価規準の小項目には具体的な減 点例を示し,学習者が評価しやすいように配慮する。なお,評価規準には減点例を加

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14 表5 本研究における相互評価活動を取り入れた授業の展開と活動内容 授業展開 活動内容 1 時 間 目 ①学習内容,観察・実験などによる 学習課題を設定 学習内容に関連する学習課題や,観 察・実験の結果を基に考察を記述す るための学習課題を設定する。 ②学習課題に対する考察記述活動 学習課題に対して考察をワークシー トに記述する活動を行う。 2 時 間 目 ③評価規準の話し合い活動 3~4人グループで考察記述を評価す るための評価規準を話し合わせ,発 案した評価規準をグループごとに発 表させる。学習者が発案した評価規 準が授業者の設定した評価規準の具 体例となっていることを示して価値 付ける。 ④自己評価活動・他者に対する評 価活動(1回目) 授業者が設定した評価規準により, 考察記述に対して1回目の自己評価 とグループ内の学習者どうしによる 相互評価を行い,得点評価とコメン ト評価をさせる。 ⑤学習課題に対する考察記述の書 き直し活動 自己評価と他者からの評価の結果を 参照させながら,考察記述を振り返 らせ,ワークシートに考察記述を書 き直す活動に取り組ませる。 3 時 間 目 ⑥自己評価活動・他者に対する評 価活動(2回目) 前時に書き直させた考察記述に対す る2回目の自己評価,相互評価を行い 得点評価とコメント評価をさせる。 ⑦学習課題に対する考察記述を振 り返る活動 2回目の自己評価と他者からの評価 の結果を参照させながら,書き直し た考察記述を振り返らせ,グループ 内で考察記述と評価結果を相互に共 有させる。 ⑧通常の学習 次の学習内容に関する通常の授業に 引き続き取り組ませる。

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15 えて示していることから評価基準の要素を含むものであるが,主として評価の項目を 示しているものとして,本研究においては評価規準と呼ぶこととする。 2 時間目,3 時間目の自己評価と相互評価は,まず学習者それぞれが相互評価表を用 いて自己評価を行い,続いて3~4 人で構成するグループ内の他の学習者 2~3 人から 相互評価表を用いて評価を受ける展開とする。学習者は,自己評価と相互評価の後, 自己評価1 枚,他者からの評価 2~3 枚,合計 3~4 枚の相互評価表を比較し,得点評 価とコメント評価の結果とともに考察記述を振り返る。2 時間目の 1 回目の自己評価 と相互評価の後,授業者が評価規準の各小項目と減点例により考察記述の書き直しを 促し,学習者は考察記述の改善に取り組む。そして,3 時間目に 2 回目の自己評価と 相互評価を行い,評価結果と考察記述を振り返る展開とする。 なお,相互評価活動後,通常の学習に戻る前に,必要に応じて相互評価活動に関す る質問紙調査を実施する。質問紙調査は,学習者の相互評価活動に対する感想だけで なく,学習内容,学習意欲に関する事項も調査し,学習者の資質・能力の育成や授業 者のその後の授業実践に役立てるために実施する。 0.5 学習者の資質能力の育成に関する相互評価活動の効果の検討 文部科学省(2017a)及び文部科学省(2018a)は,学習者の資質・能力の育成のた めに相互評価を活用することが効果的であると示している。また,先行研究は相互評 価活動における自己評価と資質・能力育成との関係,相互評価活動が主体的な学びを 引き出していること,科学的表現力育成に向けた相互評価活動を取り入れた授業方略 を示している(後藤,2017)。これらを踏まえ,本研究により,相互評価活動を取り入 れた一連の授業を定型化して実践し,自己評価だけでなく相互評価の結果や学習者の 記述を精緻に分析して,相互評価活動が持つ,学習者の主体的な学習への取組を促す 仕組みを明らかにするとともに,表現力だけでなく学習指導要領が示すその他の資質・ 能力の育成に対する効果について検討することには意義があると考える。 0.6 本研究の方法と本論文の章構成 本研究は,自己評価と相互評価を取り入れた理科授業が学習者の資質・能力の育成 に及ぼす効果について検討することを目的としている。この目的を達成するために, 次の方法により研究を進めた。

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16 ・通常の授業で扱われている学習課題について,記述した考察に対して相互評価活動を取 り入れた授業を実践し,相互評価活動と資質・能力の育成との関係について分析する。 ・理科実験に適した実験教材を開発し,その教材を用いて観察・実験を行い,観察・ 実験の結果を基に,記述した考察に対して相互評価活動を取り入れた授業を実践し, 相互評価活動と資質・能力の育成との関係について分析する。 ・理科実験教材として一般向けに開発された教材を用いて観察・実験を行い,観察・ 実験の結果を基に,記述した考察に対して相互評価活動を取り入れた授業を実践し, 相互評価活動と資質・能力の育成との関係について分析する。 本論文は,序章及び終章を含め,5つの章による構成とした。 序章は,本研究における問題の所在と目的,方法について示した。 第1章は,高等学校において,通常の授業で扱われている学習課題の記述に対して, 相互評価活動を取り入れた授業を実践し,相互評価活動と資質・能力の育成との関係 について分析を行い,「学びに向かう力,人間性等」の「主体的に学習に取り組む態度」 に関連する資質・能力の育成に関する相互評価活動の効果を明らかにした。 第2章は,相互評価活動の対象となる考察を記述するために用いる観察・実験につ いて,中学校理科におけるイオンの電気泳動実験に注目し,授業実践に適した実験条 件について検討し,開発したイオンの電気泳動実験教材が実験結果の明瞭性,実験時 間の短縮,実験の安全性,実験操作の簡便性などの点で授業実践に適した実験教材で あることを示した。その上で,開発したイオンの電気泳動実験教材を用いて観察・実験 を行い,実験結果を基に記述した考察に対して相互評価活動を取り入れた授業を実践 し,相互評価活動と資質・能力の育成との関係について分析を行い,「思考力,判断力, 表現力等」に関連する資質・能力の育成に関する相互評価活動の効果を明らかにした。 第3章では,中学校理科において,理科実験教材として一般向けに開発された酸素 センサに注目し,酸素センサを用いて観察・実験を行い,実験結果を基に記述した考 察に対して相互評価活動を取り入れた授業を実践し,相互評価活動と資質・能力の育 成との関係について分析を行い,「知識及び技能」に関連する資質・能力の育成に関す る相互評価活動の効果を明らかにした。 終章では,以上の研究成果を総括した上で,研究の限界や今後の課題をまとめると ともに,理科教育実践への示唆について示した。 本論文の章構成について,図3に示した。

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17 図3 本論文の構成 問題の所在と本研究の目的,方法 序 章 中学校理科における相互評価活動を取り入れた授業実践 知識と知識の関連付けによる内容理解 第3章 中学校理科における相互評価活動を取り入れた授業実践 論理的表現の変容 第2章 高等学校理科における相互評価活動を取り入れた授業実践 学習への取組意欲の高まり 第1章 本研究の総括,今後の課題 終 章

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18 引用・参考文献

1) Scriven,M.(1991)Evaluation thesaurus (4th ed.).CA: Sage publications.

2) 米原あき・丸山緑・澤田秀貴(2016)「ODA 技術協力プロジェクトにおけるプロ グラム評価の試み:トルコ国防災教育プロジェクトを事例に」国際開発研究,第 25 巻,第 1・2 号,149-163. 3) 米原あき(2016)「「学び」の一環としての「評価」 協働型で行うプログラム評価 の可能性」『ESD の教育効果(評価)に関する調査研究報告書』岡山大学,52-61. 4) 西岡加名恵(2003)『教科と総合に活かすポートフォリオ評価法 新たな評価基準 の創出に向けて』図書文化社. 5) 松下佳代(2012)『パフォーマンス評価 子どもの思考と表現を評価する』日本標準. 6) 松下佳代(2015)『ディープアクティブ・ラーニング 大学授業を深化させるため に』勁草書房. 7) 文部科学省(2016)「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習 指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」中央教育審議会. 8) 文部科学省(2018a)「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」中央教育審 議会. 9) 田中耕治・森脇健夫・徳岡慶一(2011)『授業づくりと学びの創造』学文社,136-161. 10) Tyler, R. W. 著,金子孫市監訳(1978)『現代カリキュラム研究の基礎-教育課程編成 のために』日本教育経営協会. 11) 文部科学省(2019)「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」中央教育審議 会初等中等教育分科会教育課程部会. 12) 松尾知明(2014)『教育課程・方法論 コンピテンシーを育てる授業デザイン』学 文社,167-178. 13) 北尾倫彦(2006a)『図でわかる教職スキルアップシリーズ3 学びを引き出す学 習評価』図書文化社,10-11. 14) 堀哲夫(2017)「教育評価のこれまでとこれから」『理科の教育』2017 年 8 月号, 9-13. 15) 源由里子(2008)「参加型評価の理論と実践」『評価論を学ぶ人のために』世界思 想社,95-112.

(25)

19 16) 北川剛司(2014)「教育評価における二つのパラダイム転換と参加型評価の概要」 『奈良教育大学教職大学院研究紀要「学校教育実践研究」』第6 巻,67-70. 17) 田中耕治(2010)『よくわかる教育評価 第2版』ミネルヴァ書房,8-9. 18) 西岡加名恵・石井英真・田中耕治(2015)『新しい教育評価入門 -人を育てる評 価のために-』有斐閣,66.

19) Earl, L. M.(2003).Assessment as Learning: Using classroom assessment to maximize student learning. Thousand Oaks, CA: Corwin, 21-28.

20) 藤原喜悦(1988)「今後の教育における自己評価と相互評価の意義」『指導と評価』 1988 年 9 月号,4-8. 21) 北尾倫彦(1988)「「自己評価」と「相互評価」」-両者の関係・共通点・相違点-」 『指導と評価』1988 年 9 月号,9-12. 22) 橋本重治・肥田野直(1977)「最新教育評価法全書第1巻 教育評価の考え方」図 書文化社, 23) 寺西和子(2002)「自己評価能力をどのように育てるか」『指導と評価』2002 年 3 月号,13-16. 24) 奥村清(1997)「授業における自己評価と相互評価」『理科の教育』1997 年 10 月 号,12-15. 25) 文部科学省(2017a)『中学校学習指導要領解説理科編』学校図書,9. 26) 文部科学省(2018b)『高等学校学習指導要領解説理科編理数編』実教出版,10. 27) 文部科学省(2017b)『中学校学習指導要領解説理科編』学校図書,111. 28) 文部科学省(2017c)『小学校学習指導要領解説理科編』東洋館出版社,16. 29) 山下伸典(1992)「観察・実験の充実を目指した教材開発」『理科の教育』1992 年 5 月号,16-19. 30) 後藤顕一(2010)『化学実験レポートを利用した言語活動の充実に資する表現力 育成のための実証的研究 研究成果報告書』日本学術振興会科学研究費補助金(研 究活動スタート支援)(課題研究番号21830173)13-15. 31) 飯田寛志(2017)「「相互評価表」を用いた学習活動の実践」『理科の教育』2017 年 8 月号,39-41. 32) 鹿毛雅治(1989)「教育評価と学習意欲の関連についての考察」『慶応義塾大学大 学院社会学研究科紀要』73-80.

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20 33) 後藤顕一(2013)「高等学校化学実験における自己評価の効果に関する研究-相互 評価表を活用して-」『理科教育学研究』第54 巻,第1号,13-26. 34) 東洋(2001)『子どもの能力と教育評価(第 2 版)』東京大学出版会,ⅱ. 35) 北尾倫彦(2006b)『図でわかる教職スキルアップシリーズ3 学びを引き出す学習 評価』図書文化,74-79. 36) 後藤顕一(2017)『「学習としての評価」である相互評価表を活用した取組に関す る実践的研究』兵庫教育大学博士論文,48-96. 37) 松原静郎(2001)「「実験・観察の技能・表現」の評価」『理科の教育』2001 年 8 月 号,20-23. 38) 後藤顕一(2014)「高等学校理科課題研究における協働的な学習活動を取り入れた 学習プログラムの考察と評価-汎用的能力の育成に向けて-」『日本教科教育学会 誌』第37 巻,第 3 号,71-83. 39) 飯田寛志・後藤顕一(2015)「高等学校における相互評価表を用いた理科授業の実 践とその検討-学習への取組意欲の高まりに着目して-」『理科教育学研究』第56 巻,第3 号,285-297. 40) 飯田寛志・後藤顕一(2019)「中学校理科実験における考察記述の論理的表現に関 する一考察-相互評価表を用いた授業実践を通して-」『理科教育学研究』第 60 巻,第2 号,251-266. 41) 飯田寛志・山内慎也・後藤顕一(2020)「理科実験における相互評価表を用いる授 業実践に関する一考察-中学校第2学年「酸化銀の分解」の学習を事例として-」 『理科教育学研究』第60 巻,第 3 号,525-537.

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21 第1章 高等学校理科における相互評価活動を取り入れた授業実践:学習への取組意 欲の高まり 本章では,高等学校理科において,通常の授業で扱われている学習課題の記述に対 して,相互評価活動を取り入れた授業を実践し,学習者の「学びに向かう力,人間性 等」の「主体的に学習に取り組む態度」に関連する資質・能力の育成に関する相互評 価活動の効果について明らかにする。 1.1 問題の所在 学習指導要領改訂に向けて,文部科学大臣から中央教育審議会に諮問され(文部科 学省,2014)1),それを受けて平成28 年の中央教育審議会答申では,資質・能力の育 成を目指す教育改革が進められていくことが明らかになった 2)。国内外の調査では資 質・能力の育成の柱の一つである「子どもの主体的な学びを引き出す学習を促進させ ていく」ことに課題があることがわかっている3)。その改善のためには,後藤(2014a) が示しているように「内容と学習活動と学習評価」を一体としてつなぎ,資質・能力 の育成に結び付けていくことが求められる4) 後藤(2013)は,相互評価活動の自己評価が,学習への主体的な取組を促す効果が あるとしている 5)。したがって,主体的な学びを引き出すために,相互評価活動を取 り入れた授業の実践を試行し,資質・能力を育成する観点から相互評価活動の効果に ついて検討することには意義があると考える。 1.2 本章の目的 そこで,本章では,主体的な学びを引き出すために,相互評価活動を取り入れた授 業の実践を試行し,授業実践を検討する過程で,相互評価活動の持つ主体的な学びを 引き出す仕組みを明らかにすることを目的とした。 1.3 本章における「主体的」の意味と求める学習活動に係る先行研究 1.3.1 「主体的」についての定義 目指す教育改革である「資質・能力」の育成は,文部科学省で多く用いられている 主体的という語を基盤にしたものである。文部科学省は,主体的という言葉を学校教

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22 育法第21 条 1 項の「学校内外における社会的活動を促進し,自主,自律及協同の精 神,規範意識,公正な判断力並びに公共の精神基づき主体的に社会の形成に参画し, その発展に寄与する態度を養うこと。」や,平成20 年中央教育審議会答申の「生きる 力」の定義の中の「自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動 し」「主体的に学習に取り組む態度を養い」(文部科学省,2008)6)において,多く用い ている。浅海・野島(2001)は,主体性について定義付けしているが,それによると 「積極的な自発的行動」,「自己決定力」,「自己表現」をその因子としている 7)。本研 究においては,これら文部科学省文書及び先行研究,国内外の調査で用いられている 言葉の意図をまとめて「あることがらについて,するかしないかの判断も含めて,自 らの意志で決定して動くこと」と定義することとした。 1.3.2 主体的な学びを引き出す学習活動 主体的な学びを引き出す学習活動は,古くから心理学で「動機づけ」として研究さ れてきた。辰野(2006)は,「「動機づけ」についてはいろいろの考え方がありますが, それらに共通して重要なのは,「期待-価値モデル」だ」としている 8)。奈須(2014) によると,学習意欲を高めるためには期待-価値モデルにおける三つの期待(図 1-1) を維持し,高める配慮が望まれ,さらに,なぜその学習活動に取り組むのか,その価 値を学習者自身が内的に実感できるような配慮が望まれるという9) 手段保有感 効力期待 結果期待 行 為 主 体 手 段 的 活 動 十 分 な 努 力 望 む 結 果 図 1-1 三つの期待の関係

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23 諮問文(文部科学省,2014)では主体的な学びを引き出す「アクティブ・ラーニン グ」という言葉が取り上げられたが,さらに「ディープ・ラーニング」に向かってい くことについて溝上(2014)は触れている10)。そもそも「アクティブ・ラーニング」と は,平成24 年中央教育審議会答申の用語集により「教員による一方向的な講義形式の 教育とは異なり,学習者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習法の総称。 学習者が能動的に学習することによって,認知的,倫理的,社会的能力,教養,知識, 経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習,問題解決学習,体験学習,調査学 習等が含まれるが,教室内でのグループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ ワーク等によっても取り入れられる。」とされている(文部科学省,2012)11)。さらに, 溝上(2014)は,「ディープ・ラーニング」とは個別の用語や事実だけに着目し,課題 を仕上げようとする学習に対して,意味や納得を求めて高次の認知機能を用いようと する学習であるとしている。本実践で求めるのは,「アクティブ・ラーニング」及び「デ ィープ・ラーニング」であり,これを評価するためには,学習プロセスを看取る学習 評価の在り方についての検討が必要であると考える。 1.4 相互評価活動を取り入れた授業の実践 これらの先行研究を踏まえ,学習者の主体的な学びを引き出すために,相互評価活 動を取り入れた高等学校理科の授業実践を試行し,内容・学習活動・学習評価のつな がりを意識しながら実践を評価し,次の活動を再構成する中で,この学習活動の持つ 主体的な学習を引き出す仕組みについて検討を行った。 この学習プログラムを学習活動の中に組み込んだ授業実践について,教育研究者, 指導主事,本研究に対して協力を得た静岡県内の高等学校の教諭からなる組織(以下, 本章において「授業検討会」と記す。)で検討を行った。授業実践の詳細を以下に示し た。 1.4.1 学習課題の設定 一連の授業実践の中で,相互評価活動を取り入れた授業を実践した学校,課程,学 年,評価対象の学習課題の科目名,概要及び具体的な課題文を,授業実践とその検討 を行った順に,次に示した。

表 3-11  統制群の考察記述における語の共起関係
表 3-13  実験群の相互評価活動後の考察記述における語の共起関係

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