日本人大学生を対象とする英語による授業の可能性 : 日本語による授業との理解度の比較および授業評価
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(2) の30%を英語で行ケよう提言するなど、大学においても英語での授業、す なわちイマージョン教育が求められるようになってきている。 このような現状を反映して、研究面では小学校から高校までの「英語の教 育」についての文献は枚挙にいとまがないが(小野,2006;大場,2008等参. 照)、大学での「英語での教育」に関する研究は勅使河原(2008)も指摘 する通り、大変少ない。また、日本人学生に英語による授業を提供するこ との意義や問題点の指摘は散見される(野水, 2006;Tsuneyoshi, 2004)もの. の、大学生に対する英語による授業の可能性、効果等を実証的に検証した 研究は、筆者の専門外で勉強不足の故もあろうが、ほとんど皆無に等しい のが現状ではなかろうか。. そこで本研究では、日本人大学生を対象に、英語による授業の理解度を把. 握するために、テストの得点を指標として日本語による授業との比較を行 い、相関について検討した。また合わせて異なる学年・レベルの学生の英 語による授業についての授業評価についても比較検討した。. 2.実験授業 2−−1対象 横浜国立大学の学部に在籍する学生、330名(科目A:18名、科目B:312 名)。科目Aは教育人聞科学部の専門科目であるため、履修者は全て教育人. 闘科学部生で、3年生を主体として一部4年生も履修。科目Bは教養教育科 目で、教育人聞科学部を初めとして、経済学部、経営学部、工学部の学生 で、1年生を主体として、4年生まで履修。 2科目で実験授業を行ったのは、主たる対象学年による結果の違いがあ るかどうか確かめるためでもあるが、それ以上に科目Aでは、少人数クラス. のため学生一人一人の英語力等のきめ細かい観察が可能であることと、科 目Bでは、科葺Aで得られた結果を、多数の学生を対象とすることによって 裏付けることができると考えたからである。. 2−2手続き 科目Aは、1 999‘IFの秋学期に、科目Bは1999年の春学期に、以下に示す手. 一4一.
(3) 続きで、2科目とも同様に実験授業を実施した。両科目とも筆者の担当であ る注。. 尚、英語による授業では、学生からの質問、コメント等は日本語でも受 付け、専門用語等は前もって英日対照のグロッサリーを渡しておくととも に、授業中の初出時に日本語の訳もつけていく。また、テストの解答は日 本語でも可とする。考察の項でも述べるが、筆者はこのような方法による 科目を、日本語の「補助付き」という意味で、サポーテッド英語科目と呼 んでおり、質問、コメント等、全てを英語だけで行う科目(これを「トー タル英語科目」と呼んでおこう)とは区別されるべきであろう。 (a)2コマ分の授業を英語で行う’ iサポーテッド英語) (b)授業内容について英語で出題されるテストを行う (解答は日本語でも可). (c)2コマ分の授業を日本語で行う(英語による授業と同レベルである も.Oの、一連の科目の流れであるので、当然内容は異なる) (d)授業の内容について日本語で出題されるテストを行う 英語による授業に関するテストの得点(後出の図中ではEnglishと表記) と日本語による授業に関するテストの得点(図中ではJapanese)について、 対象学生に関する相関係数を算出する。. 2−3結果 Fig.1に科目Aの履修者の得点の散布図を掲げる。縦軸は英語による授業. の後のテストに対する得点、横軸は同一の履修者の日本語による授業の後 のテストに対する得点を表す。このグラフからは、一見して高い相関が予 想されるが、実際相関係数を算出したところ、r=e. 71で、0.1%水準で有意 であった(d. f. =16)。. Fig.2は科目Bの履修者の得点の散布図である。縦軸、横軸はFi g,1と同 様i。. 一一. T一.
(4) .100. ’自d. 60 工 .望. 瓦 山. 40. 20. 0 o. 40 ・60 Jepanese・. 20. 100. 田. ツ . Fig.1Scatter diagram ofeach stUdent’s undgrstanding by the scores of English. test ’ iY−axis)and Japariese test(X−axis)in Su句ect A(N=18, r=O.71).. 100. ● . ●●●● ● ●● ● ●’. ●.●.●,’・■●.’e. ●●●■●●●●●●・. 脚. ●.●『■●●..一.’・●●.. ●●● ●●●● .●●●・ 60. ●● ●●●●●●●●● ●●’●●●■●● ■. ’」巳’. .聾. ‘ ●●●● ●●●●. 岡 仁. ●. .●●●●●●●●.. .w.. @■ ●●●■●●●● ● . ● ●’ .● ●● ●●● ●■ t’. .如. ●●・● 20. ● ●.. ●. ●.. ●. 0. ’0. 20’. ’40 ’60・ Jepanese. 80「. @’100. Fig.2 Scatter diagram of each stUdent’s understanding by the scores of Engli・h・t・・t(Y−axi・)・nd J・P・nese t・・t(X−axis)i・Subject B(N=312・・FO・30)・、. 一6一.
(5) このグラフは一見したところ、Fig.1程相関が高いようには見えないが、. 特に図の中心部分で多くの重なりがあることと、対象者の人数が多数であ ることもあり、相関係数を算出すると、FO.30で、0.1%水準で有意であった (d.£=・310) 。. 即ち、どちらの科目の履修者にあっても、同一人の英語の授業の理解度 と日本語の授業の理解度の間には、非常に高い相関があると.V>える結果で. あった。換言すれば、英語による授業でも日本語による授業でも、理解で きる学生は理解できるし、理解できない学生は理解できないという結果だ といえるであろう。. 3.学生の授業評価 3−−1対象 横浜国立大学の学部に在籍する学生42名(科目C:8名、・科目D : 34fll)。. 実験授業と同様に、科目Cは教育人間科学部専門科目であり、3年生が主体 となる。科目Aと異なる点は、科目Cが短期留学生が履修できる「国際交流. 科則ともなっており、日本人学生以外に数名の短期留学生(必ずしも英 語母語話者ではない)も一緒に履修していることである。科目Dは、教養教. 育科目であり、各学部の1年生が主体となる。但し、両者とも必修ではな く選択科目である。また、これらの科目は1学期間を通して英語で行われ た。. この2科目を対象としたのは、履修学生の学年や専門科目と教養教育科目 の違いが、授業評価にどのような影響があるか比較検討するためである。. 一一. V一.
(6) 一一 ft−一英語による授業 ・…. 浴ci全専門科目Φ平均. ・FigL・3,・R・・∪丘S・f輌dent…ΨaluatiO・二Th・i曲rr・丘・1・i・di・・鋤eav・ilg・・f・11 也・・p・ci・1卿c・s.・・Th・b竺t・・ci・c1・i・di・a七・・S・bj・・t C. qヨ授業時間卦の学借. α・一どΦe“tAl.}一ど. 1 藤イ. │蜜\\ +’ p語による授業’. 受講マナーへの注 ep学生の声を聞く概会 ’i蔭. ・…■×■…・全教蓋教育科目. Fig.4 ResultS ofthe students’evaluation. The inner circle indicates the average ofall the general subjects. The outer circle indicates Subject D.. 一8一.
(7) 3−2手続き 科目Cは、2005年秋学期の授業を15回全て英語(サポーテッド英語)で実 施し、最後の授業時間中に横浜国立大学の統一一ew式で学生に授業評価を行. ってもらった。授業評価は無記名で、担当教員の手を通さずに事務的に処 理される。科目Dは、2006年の春学期に同様の手続きで実施した。. 3−3結果 Fig.3には科目cの授業評価の結果を、またFig. 4には科目Dの授業評価の. 結果を掲げる。結果は、データの標準偏差が公表されていないなど、統計 的検討等にはなじまないので、視察のみによる結論になるが、科目Cでは教 授者全体の平均とほとんど差がないのに対して、科目Dでは全体として平均. よりかなり高い評価を示している。即ち、専門科目と教養教育科目での同 一の授業者の英語による授業を比較した場合、専門科目よりも教養教育科 目の方が学生の評価が高いことが明らかである。. 4.考察 4−1実験授業 実験授業については、2−3.結果の項で述べたように、テストの成績 を指標とする英語での授業の理解度と日本語での授業の理解度には極めて 高い相関がある。即ち、横浜国立大学の平均的な学生であれば、日本語の 授業が理解できるものは英語でも理解できると考えられる。 サポーテッド英語による授業の進め方について、再度まとめておこう。 1). 2). 講師の側の講義は全て英語で行う。. 学生の発言(質問・コメント等)は日本語でも英語でもよい (日本語で質問された場合は、日本語で答える)。. 3). テストの解答、レポート等は日本語でも英語でもよい。. 4). 専門用語については、英和対照のグロッサリーを渡し、授業中も 目本語訳を付ける。. 一9一.
(8) 5)授業の終わり10分程を、グループデ4スカッションにあて、その Hの授業内容を日本語でまとめさせる。. 2〕にある通り、講鄭も捕助的に日本語で話すわけであるが、2007 年度に行われた典型的なサポーテッド英語クラス(専門科目)において、. 講師がどのくらいR本語を話したか記録したところ、90分の授業中、約 3分開のみであった。. また、5)のグループディスカッションは、母語以外の言語で話を闘く と、その場では理解できるぶ記憶に残りにくいという短所を補うべく始め たものであるが、最近では、次の授業時輻に復習のための質疑応答(講師 が前回の内容について質問し、学生に答えさせる;回答は日本語でも構わ ない)を行うことにより、記憶の面でも日本語と変わらない成果をあげる. ことができると考え、グループディスカッションは課していない科Bもあ る。学生の授業に対する動機付けの面では、この方法の方が擾れていると も考えられるが、実験データとしてはいないので、今後の課題の一つとな るであろう。. この鑑留意しなければならないかもしれない事項に以下のことがあるe Fig.1を詳細に見ると、グラフの右端部分揖本語授業に対するテストでは. 100点であったもの)の下の方に、英語授業に対するテストで60点の ものと40点のものカSいたことがわかる。この2名は、普段の授業から大 変優秀な学生であることがわかっており、英語の理解力が不足したために、. このような点数になったという可能性がある。特に4口点をとった学生に ついては.おそらく英語のリスニングに鶉題があったのだと考えられる。. このことから、ほぼ10%程度の学生は、英語のリメディアル教育を受け る必要があるかもしれない。しかし、ljスニングは「慣れ」の要素が強く. 作用することは万人が認めるところであり、英語による授業を2回で終わ らせず、1学期問続ければ、解消する欝題であるのかもしれない』これも、 封メディアル教育の可能挫を含めて、今後の課題の一つとなろう。. 4−2i擾業言手価 擾業評癌については、専門科目よりも教養教育科目で高い評価となると. 一10一.
(9) いう大変興味深い結果が得られた。勿論、授業内容のレベルも違うし、受 講者の集団にも質的な違いがあるので、短兵急に結論を出すわけにはいか ないが、要因として考えられることはいくつかある。 一つは、履修学生の学年である。教養教育科目は1年生が主体であるが、. 専門科目は3・4年生が主体である。この差が、評価の差に影響をおよぼ している可能性がある。よく言われるように、受験を経験して間もない大 学1年生が一一ts英語の能力の高い時期で、それ以後英語の力は落ちていく. ということがあり、それ故専門科目は難しく感じ、評価も低くなったとい うことは考えられる。それでなくとも専門科目は教養教育科目より内容が. 高度で、難しく感じることはあり得るであろう。但し、3・4年生はそれ だけ背景となる知識も身につけており、そのような意味で理解しやすいと いうこともあるし、授業で使われる英語の表現等が高度になるわけではな いので、授業内容の難易度は大きな要因ではないのではないだろうか。. 今ひとつ評価に影響する可能性のある要因として、専門科目は履修者の 注意が内容自体の理解に向けられていることは想像に難くないが、教養教 育科目では必ずしもそうではないかもしれないということが挙げられるe つまり、教養教育科目の履修者は、 「外国語としての英語の授業」の延長. としてこの科目を履修していた可能性がある。そうだとすると授業評価に あたって、語学としての英語の授業が比較対象となり、 「英語の授業にし てはおもしろい」という評価をすることもあり得るであろう。. 上記のことは、ほとんど想像に過ぎないが、いずれにせよ評価の差はか なり大きく、仮に、英語による授業を導入するとして、教養教育科目と専 門科目のどちらが適しているかという議論をするなら、学生による評価に 関する限り、教養教育科目の方が適しているといわざるを得ないであろう。. 但し、同一の講師による、日本語による授業での教養教育科目と専F9科目 の比較があるわけではないので、これも結論を出すには至らない。. 5.結びと今後の課題 これまで見たように、横浜国立大学の学生に対してサポーテッド英語で 行われる限りという条件付きではあるが、日本人学生も英語による授業を. 一11一.
(10) 理解する力があり、その理解度は日本語による授業と大きく異なることは ない。. しかし、授業の理解度に関わる要因は、学生の基礎的能力は措くとして も、非常に多く、それらにっいては今後実証的に確認していかなければな らない。. 例えば、日本語による補助付きではなく、授業中の発言、テストの解答 等全てを英語で行った時(トータル英語)の理解度はどうなるかというこ とがある。実際、留学生が主体で少数のH本人学生を含む授業は、筆者も トータル英語で行っているが、それは演習形式のもので、講義形式ではな いこともあり、比較は難しい。さらに、学年や分野等によってサポーテッ ド英語に適した授業と、トータル英語に適した授業がある可能性があるが、 これも今後検証していかなければならないであろう。. また、後に注でも筆者の英語力について述べるが、講師の英語の質の問 題もある。日本人が日本語訓りの英語でおこなう授業と、英語のネイティ ブスピーカーが行う授業とでは、・一般的な日本人学生にはどちらがわかり. やすいかということについても確認すべきであろう。授業評価の自由記述 を見る限り、通常のレベルの(帰国生徒等ではない)日本人学生にとって は、日本語託りの英語の方がわかりやすいと感じるものが多いようである が、これも「わからなければ日本語で説明してもらえる」という安心感か らくるものかもしれず、また単純に「慣れ」の問題である可能性も大きい ので、やはり実証的に確認する必要があろう。. さらに、上にも述べたが、英語での授業に適した分野とそうでない分野 があることは想像に難くない。例えば日本語に直接関わる授業(国語・日 本語等)を英語で行うのは難しいというだけでなく、場合によっては意味 をなさないであろう。筆者の授業はどちらかといえば理系の授業であり、. グラフや表を多用し、また用語の定義もその都度明らかにするなど、母語 以外でも理解しやすい授業だと考えられるが、いわゆる文系の授業で、特 に日本歴史・文化の理解を前提としているものなどは、英語で行うのが可 能であるとしても、日本人学生を対象として考えると適切とはいえないで あろう。. その他にも、まだまだ多くの確認すべき点があると考えられるが、一つ いえることは、この分野での研究は決して多くなく、しかも実証的研究と. 一12一.
(11) なるとほとんど存在しないと言っても過言ではないということである。実 践的教育に携わる教員が、自分の経験を基に意見を述べているのはlilにす. るが、それらの意見の集約という意味での実証的研究すらないというのが 現状ではなかろうか。. 筆者としても、本研究がわずかではあっても、この分野での実証的研究 の手がかりとして用いられるならこれに勝る喜びはない。. 参考文献 野水勉 2006英語による「短期留学プログラム」がもたらした国立大 学の国際化 一短期留学推進制度の10dip−一. 恒吉僚子(編)国際戦. 略としての教授用語の英語化一短期留学プログラムの多国間比較 研究一.科学研究費補助金報告書. 小野 博 2006小学校英語大論争のゆくえ.The Liberty,7,8−19. 大場昌也 2008英語学習のDo’s, D。n’t’s,&Maybe’s.時鐘舎. 勅使河原三保子 2008英語による専門授業の質向上を目指して 一専 門授業担当教員を対象とした英語授業の実施状況一 大学教育研 究ジャーナル(徳島大学),5,68−82. Tsuneyoshi, R. 2004 1nternatienalization strategies in Japan: Study abroad programs using English and the dilemmas of an Asian. nation. 近藤安月子(編) 短期留学制度の多国間比較研究 一日. 本語教育のグローバル・スタンダードの模索一 科学研究費補助金 報告書.. 注 筆者は日本生まれ日本育ちで、小学校から大学院まで通常の日本の学校 で教育を受けてきた。留学経験もなく、英語については通常の学校教育以. 外は独学といえるであろう。英語力に関するテスト(英検・TOEFL等). を受けたこともないが、1997年にカナダの大学で、独自に開発した項 目反応理論(IRT)による簡易的な英語能力試験を、試みに受けたことが. 一13・一一.
(12) あり、その結果はTOEFL PBT換算で610点±5点ということであった。 これはそれほど低い点ではないが、英語が専門の方等から見れば、全く不 充分なものであろう。. しかし、英語ネイティブの留学生の評価(無記名)によると、 「ところ. どころ細かい文法的誤りや語彙の使い方の間違いなどはあるものの、気に なるほどのことはなく、内容は十分に理解できる」というのが一般的な回 答であることからみても、対象が英語ネイティブであれば英語で授業を行 うのに問題はないレベルだと考えられるe. 一14 一一.
(13) Is GiVing Lectures in English to Japanese University Students Realistic?. Comparison With Lectures Given in Japanese and Students,]Evaluation.. HAYASHIBE Hideo Key words:. Japanese university stUdents, English educa廿on,. 1㎜ersion educati。n, Understanding classes,. Supported English. Recently irnmersion education has come to be seen as ene of the best methods fbr stUdents to lear且English. There is quite a lot literature on immersion educa目on in elemen嘩。 high scho。l levels, however, there is。nly a little on the immersio’n educatlon in unlvers三ties. Above all, there are very few’experiinental・studies on it.. The author carried out experimental Iectures in English alld compared the understanding of these lectures by ordinaエy Japanese university students with their understandiロg of lectures in their first language(Japanese).. The results showed the correlation was very high between the understanding in English lectures and Japallese Iectu爬s、 In other words, the stUdents who can understand the content of a lecture in Japanese can und巳rstand a lec加re in English. a5 well, and the stUdents who Cannot understand in English cannot u皿derstand even in Japanese,. The results of students’evaluation, which was carried out at the same time,. indicated that giving lectures in English is more approp㎡ate fbr general courses than special courses,. 一135一.
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