1 はじめに わが国憲法は,憲法裁判の二大潮流(大陸法 系,米国法系)をいずれも学び得た,世界的に も稀有な憲法であるともいえるが,「救済」問 題は,かかる二大潮流の折衷の間にあって取り 残された領域であるとの指摘がある1).すなわ ち,司法の法原理機関ないし非民主的機関性の みが強調される結果,司法の消極的な姿勢が顕 著な傾向にある.この点,司法の法原理機関な いし非民主的機関性のみが強調される結果,憲 法裁判に基づく「救済」問題は,かかる 2 つの 流れの折衷的理解の狭間にあって取り残された 領域であるのと指摘があった.そうしたなかで, 本論文で取り上げる国籍法判決及び非嫡出子相 続分判決は,司法権による救済の機能に関して, それが効果的に発揮される一つの場面が提示さ れたものと考える.すなわち筆者としては,前 者の判決では,救済に向けては立法権との関係 (いわば横の問題)が問題となるのに対して, 後者の判決では,救済に向けては判決の効力の 遡及効との関係(いわば時間軸の問題)が問題 となると考えるものである.そこで各々の判決 につき,裁判所が採った具体的な救済方法を比 較したうえで,司法権における救済機能につい て若干の言及を試みたい. 2 国籍法判決(最高裁平成 20 年 6 月 4 日判決2)) ⑴ 事案の概要 当時の国籍法 3 条 1 項は,婚姻関係にない日 本人の父と外国人の母との間に生まれた子が日 本国籍を得る要件として,父の認知に加えて, 父母の婚姻により嫡出子の身分を得ること(準 正)を必要としていた3). 日本人の父とフィリピン人の母との間に平 成 9 年に生まれた子である原告が,平成 15 年 に日本国籍取得を国に求めたが,国は国籍法の 同条項に掲げるうち 準正要件を満たしていな いとして,日本国籍を認めなかった.そこで, 原告は国を相手に,国籍法 3 条 1 項につき憲法 14 条 1 項違反を主張したうえで,日本国籍を 有することの確認訴訟を提起した.これに対し て第 1 審判決(東京地裁平成 17 年 4 月 13 日4)) は,国籍法 3 条 1 項が,準正子と父母が内縁関 係にある非嫡出子との間で国籍取得の可否につ いて合理的な理由のない区別を生じさせている 点で,憲法 14 条 1 項に違反するとした.そし て,国籍法 3 条 1 項の規定は,父母の婚姻(内 縁関係を含む.)及びその認知により嫡出子又 は非嫡出子たる身分を取得した子について一定 の要件の下に国籍取得を認めるものと理解すべ きことになるとし,原告の父母は内縁関係にあ るから原告には届出による日本国籍の取得が認 められるとしたとして原告の主張を認めた.し か し,控訴審判決(東京高裁平成 18 年 2 月 28 日5))は,原告(被控訴人)に 対 し て,国籍法 2 条 1 号に基づく日本国籍の取得を否定したう え,同法 3 条 1 項に関する上記主張につき,仮 に同項の規定が憲法 14 条 1 項に違反し,無効 であったとしても,そのことから,出生後に日
司法権における救済機能の意義
西 川 功
本国民である父から認知を受けたにとどまる子 が日本国籍を取得する制度が創設されるわけで はなく,被控訴人が当然に日本国籍を取得する ことにはならないし,また,国籍法については, 法律上の文言を厳密に解釈することが要請さ れ,立法者の意思に反するような類推解釈ない し拡張解釈は許されず,そのような解釈の名の 下に同法に定めのない国籍取得の要件を創設す ることは,裁判所が立法作用を行うものとして 許されないから,被控訴人が同法 3 条 1 項の類 推解釈ないし拡張解釈によって日本国籍を取得 したということもできないと判断して,原告(被 控訴人)の請求を棄却した.そこで,被控訴人 である原告から上告がなされた事案である. ⑵ 判決の概要 ア 判 旨 最高裁は,以下のように判示して,国籍法 3 条 1 項を違憲としつつ,原告に日本国籍を認め た. 「本件区別については,これを生じさせた立 法目的自体に合理的な根拠は認められるもの の,立法目的との間における合理的関連性は, 我が国の内外における社会的環境の変化等に よって失われており,今日において,国籍法 3 条 1 項の規定は,日本国籍の取得につき合理性 を欠いた過剰な要件を課するものとなっている というべきである.(中略)そうすると,本件 区別は合理的な理由のない差別となっていたと いわざるを得ず,国籍法 3 条 1 項の規定が本件 区別を生じさせていることは,憲法 14 条 1 項 に違反するものであったというべきである」, 「国籍法 3 条 1 項が日本国籍の取得について過 剰な要件を課したことにより本件区別が生じ たからといって,本件区別による違憲の状態を 解消するために同項の規定自体を全部無効とし て,準正のあった子の届出による日本国籍の取 得をもすべて否定することは,血統主義を補完 するために出生後の国籍取得の制度を設けた同 法の趣旨を没却するものであり,立法者の合理 的意思として想定し難いものであって,採り得 ない解釈であるといわざるを得ない」とし ,「憲 法 14 条 1 項に基づく平等取扱いの要請と国籍 法の採用した基本的な原則である父母両系血統 主義とを踏まえれば,日本国民である父と日本 国民でない母との間に出生し,父から出生後に 認知されたにとどまる子についても,血統主義 を基調として出生後における日本国籍の取得を 認めた同法 3 条 1 項の規定の趣旨・内容を等し く及ぼすほかはない.すなわち,このような子 についても,父母の婚姻により嫡出子たる身分 を取得したことという部分を除いた同項所定の 要件が満たされる場合に,届出により日本国籍 を取得することが認められるものとすることに よって,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈 が可能となるものということができ,この解釈 は,本件区別による不合理な差別的取扱いを受 けている者に対して直接的な救済のみちを開く という観点からも,相当性を有するものという べきである」,「日本国民である父と日本国民 でない母との間に出生し,父から出生後に認知 された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分 を取得したという部分を除いた国籍法 3 条 1 項 所定の要件が満たされるときは,同項に基づい て日本国籍を取得することが認められるという べきである.そして,上記の解釈は,本件区別 に係る違憲の瑕疵を是正するため,国籍法 3 条 1 項につき,同項を全体として無効とすること なく,過剰な要件を設けることにより本件区別 を生じさせている部分のみを除いて合理的に解 釈したものであって,その結果も,準正子と同 様の要件による日本国籍の取得を認めるにとど まるものである.この解釈は,日本国民との法 律上の親子関係の存在という血統主義の要請を 満たすとともに,父が現に日本国民であること など我が国との密接な結び付きの指標となる一 定の要件を満たす場合に出生後における日本国 籍の取得を認めるものとして,同項の規定の趣 旨及び目的に沿う」としたものである.
イ 救済という観点から見た本判決の意義 救済という観点から見た本判決の第 1 の意義 は,違憲判断の方法として,創設的権利・利益 付与規定について一部違憲の手法を用いたこと である.一部違憲とは,法令違憲判決の一種で あるところ法令の一部を違憲無効とする違憲判 断の方法をいう6).日本国籍の付与規定は,法 律上の根拠規定が存在して初めて国籍の付与が 可能であり,社会権規定と同様に,創設的・授 権的法律である.したがって,規定の書きぶり によっては,規定の一部に違憲部分があるとし て当該規定全体を違憲無効とすると,国籍付与 の根拠規定自体がなくなってしまうから,救済 の観点から全部違憲とはせず,一部違憲という 判断手法によったことである. 救済という観点から見た本判決における第 2 の意義は,原告の救済を図るために,いわゆる 合憲拡張解釈(合憲補充解釈)を認めたことで ある.合憲拡張解釈とは,裁判所が,法律が合 憲となるように,法律の条項に補充解釈をなし その適用範囲を拡張することをいう.本判決で は,「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得 したことという部分を除いた同項所定の要件 が満たされる場合に,届出により日本国籍を取 得することが認められるものとすることによっ て,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可 能となる」として,原告に対して日本国籍を付 与した7).これによって,原告は立法を待たず に日本国籍を取得することができたため,司法 による直接的な救済のみちを開いた判決といえ よう. ⑶ 検 討 ア 一部違憲の手法の許容性 (ア)問題の所在 わが国の最高裁判決において,本判決の以前 に一部違憲の手法が用いられたのは,郵便法判 決(最高裁平成 14 年 9 月 11 日判決8))及 び 在 外国民選挙権判決(最高裁平成 17 年 9 月 14 日 判決9))である.その理由は,それまでは,そ もそも法令違憲判決自体が同判決の前までは 5 件10)と極めて僅少であったということに加え て,当該法令違憲判決においては,違憲とされ た規定の全体を無効とすれば,紛争が一応解決 する事案であったため,一部違憲の手法を用い るまでもない事案ではなかった点に起因する. もっとも,国籍法判決以前の上記 2 つの判決 で違憲とされたのは,郵便法判決の事案におい ては,国の損害賠償を免除・制限する規定であ り,また,在外国民選挙権判決の事案において は,選挙権の行使を制限する部分であった.そ のため,前者では,賠償の制限・免除規定を限 定的に解釈して適用し,また,後者では,選挙 権行使を制限する部分を取り除いて適用すれ ば,原告の救済としては足りるものであった. これに対して,本判決の事案では,日本国籍の 付与は憲法 10 条によって広い立法裁量が国会 に認められているものであり,国籍取得は権利 として認められているものではなく,一定の要 件が具備された場合に日本国籍が認められると いう規定に過ぎない.したがって,日本国籍付 与に関する根拠規定の文言の一部が違憲とされた としても,そこからただちに国籍取得ということ にはならない点に,本判決の特殊性がある11).こ の点につき,日本国籍付与規定である国籍法 3 条 1 項の規定が違憲であるとした場合,同条項 の規定全体が無効となってしまうと,原告に日 本国籍を付与する根拠規定が不存在となってし まう. そこで本判決では,一部違憲によって当該部 分を無効としたうえで,残りの部分を適用して 原告に国籍付与を認める根拠条項とすることの 可否が問われた. (イ) 分 析 一部違憲の概念として,法令の可分な文言の 一部が違憲とされる量的一部無効(文言上の一 部違憲)と,法令の可分な一部の意味を違憲と する質的一部無効(意味上の一部違憲)とに分 類される12).わが国の判例において,質的一部 無効の手法として,前記郵便法判決及び在外国
民選挙権制限事件判決がこれにあたるとされる とともに,本件である国籍法判決は,量的一部 無効に当たるとされる13).一部違憲という手法 の可否について,「「議会は残りの部分(中略) では満足しなかっただろう,という蓋然性が明 白かどうか,つまり,それだけを有効な法とし て存立させようと意図しただろうかどうか」に よる」という,米国における憲法判例で注目さ れた可分性の法理に着目する説明がある14).こ れに対して本判決は,「本件区別による違憲の 状態を解消するために同項の規定自体を全部無 効として,準正のあった子の届出による日本国 籍の取得をもすべて否定することは,血統主義 を補完するために出生後の国籍取得の制度を設 けた同法の趣旨を没却するものであり,立法者 の合理的意思として想定し難い」とし,一部違 憲の手法を採るかどうかは,立法者の合理的意 思を裁判所が勘案して判断するとする. わが国において,仮に上記可分性の法理が妥 当するとしても,問題はその先にあり,可分・ 不可分の区別とは,形式的な文言によるのでは なく,いかなる場合に「有効な法として存立さ せようと意図したか」という具体的な判断基準 が問われることになろう.この問題に対して本 判決は,「本件区別による違憲の状態を解消す るために同項の規定自体を全部無効として,準 正のあった子の届出による日本国籍の取得をも すべて否定することは,血統主義を補完するた めに出生後の国籍取得の制度を設けた同法の趣 旨を没却するものであり,立法者の合理的意思 として想定し難い」とし,一部違憲の手法を採 るかどうかは,当該法律の趣旨という立法者意 思を裁判所が勘案して判断するとする.これは, 立法者の合理的意思という実質的な判断をもっ て一部違憲の手法の可否を判断すべきことを示 唆するものであって,前記可分性の法理を敷衍 したものと考えられる. しかし,通常,立法者は当該条項の文言の一 部が違憲となった場合を想定していないから, かかる場合における立法者の合理的意思を演繹 するのは困難である.ここで重要なのは,その 判断に当たっては,当該規定が授権的・権利創 設的規定であるかどうかなど規定自体の性質を はじめ,種々の要素を衡量したうえで判断すべ きものと考えることである.すなわち,立法者 の合理的意思の判断に当たっては,多くの考慮 要素から総合的に判断されるものであって,立 法趣旨のみをもって判断すべきものではなく, また,立法者意思の判断にあたって,特定の要 件を設定しそれを充たせば立法者の合理的意思 が存在すると考えるべきものでもないといえよ う15). 本判決では,国籍法の立法趣旨から立法者の 合理的意思を導いている.しかし,考慮される べき要素は,違憲と判断された法律の性質に よって柔軟に変動しうるのであり,立法趣旨と いう考慮要素について,それを要件と考えるべ きではない.立法者の合理的意思を推認するに あたって,まさに立法趣旨は,立法者の意思を 量るうえで重要な要素であるということに過ぎ ず,それが絶対のものではなく,場合によって は別の考慮要素として,憲法違反の程度や社会 的な影響なども考慮に入れて判断することも, 救済という観点から不可能ではない. 本判決の調査官解説においても,「当該法令 の立法理由ないし立法趣旨をはじめ,法令全体 の基本理念,他の規定等との関係その他法令全 体の体系的な整合性,残余の規定の持つ意味, 効果等を総合考慮したうえで,残部のみをもっ て有効な規定と解することの客観的合理性の有 無によってその可否を判断すべき」とする16). このことは,上記の趣旨を含意しているものと 考える.その背後にあるのは,救済の可否の観 点であり,当該違憲とされた部分が,当該規定 の中でどのような位置づけにあるのかというこ とを明らかにしつつ,救済にとっては,全部違 憲としたほうがいいのか,一部違憲とした方が いいのか,衡量を通じて明らかにしていく姿勢 といえる17),18).
イ 合憲拡張解釈による国籍付与 (ア)問題の所在 司法権とは,具体的争訟事件につき法を適用 し宣言することによってこれを解決する国家作 用である19).本件で問題となっている国籍法 3 条 1 項については,当該要件に当てはまる者が 日本国籍付与という効果を享受するものである から,国家の不作為を定める自由権規定を違憲 無効とする場合とは異なり,法令を違憲無効と 宣言するだけでは,原告の権利利益につき何ら の変化もない.そこで,本判決では,同条項全 体が合憲となるように当該条項に補充解釈を施 すという手法をなしたうえで,原告に日本国籍 付与の効果を与えた.これは,法律が対象とし ていない者に対して広く権利利益を付与するこ とを意味するものであって,実質的な法律の書 き換えにあたるともいいうる.そこで,かかる 解釈は上記の司法権の範囲を超えるのではない か,これは,司法権と立法権の役割分担という, いわば横の問題として両者の関係が問われた事 案である. (イ)分 析 本判決に対する評価としては,(ⅰ)合憲拡 張判決の手法を用いたものであるとする見解20), (ⅱ)本判決の内容を「合憲的で合理的な解釈」 とする見解,(ⅲ)本来的・論理的に可分かと いう第 1 段階の判断と,諸事情の総合考慮によ る第 2 段階という,2 つの段階を経て立法者の 合理的意思が判定されていると分析したうえ で,一部違憲の法理はこれらの検討を通じて「書 き換え」を積極的に是とする法理であると述べ る見解21),さらには,(ⅳ)あるべき標準的な 制度である「ベースライン」に照らして,権利 付与がなされておらずそのことにつき合理性・ 必要性が欠ける場合には違憲判断が下され,権 利付与の範囲はあるべきベースラインまで拡張 したものであるとの見解22),などが見られる. なお,「本判決の手法と適用違憲──本件に適 用される限りでの法令違憲──との違いは必ず しも明らかでなく,この点は今後の検討課題」 との指摘がある23). 上記のうち,まず上記(ⅱ)の見解は,合憲 拡張解釈の語こそ用いていないが,合憲拡張解 釈の内容と実質的に同様とも考えられること, また上記(ⅲ)の見解は立法者の合理的意思に 重点を置いた場合は,一部違憲の内容に合憲拡 張解釈を包含して理解する見解とも言いうる. さらに上記(ⅳ)の見解については,救済にお けるベースラインに至るまでの,「あるべき合 理的な立法者意思」を考慮する旨を主眼とする ならば,結論として,合憲拡張解釈と同様の結 論を帰結し得るものと考えられよう. 合憲拡張解釈という手法が司法権の範囲内で あるかどうかは,いわゆる立法裁量論との関係 で問題となる.立法裁量論とは,「裁判所が法 律の合憲性の審査を求められたとき,立法府の 政策判断に敬意を払い,法律の目的や目的達成 のための手段に詮索を加えたり裁判所独自の判 断を下すことを控えること」をいう24).この理 論は,司法権自らが違憲審査権の行使を控える という問題であり,その根拠は主として,裁判 所が国民の意思から最も遠い位置にあるという 非民主的機関としての性質にある.しかしなが ら,一定の場合には,立法裁量を尊重する幅を 狭め,その幅から逸脱した立法については,裁 判所は自制をすることなく司法審査の対象とす ることが可能であるとの見方ができる. このような見方によれば合憲拡張解釈は,三 権分立の問題であり司法権と立法権との役割分 担の問題である.そうすると,司法による立法 行為と評価されないためには,元々は,国会が 行うべきである立法内容が,憲法それ自体から 明確であって,法の基本原則に従っており,か つ,それが相当性を有する場合は,裁判所が法 の文言を拡張して内容を定めても,立法権の領 域を侵害したことにはならないものといえよ う. そこで本判決においては,以下のとおり①憲 法上の要請及び②国籍法の基本原則並びに③結 論の相当性という,各要素を検討した結果,国
籍法 3 条 1 項及び国籍法につき合憲的で合理的 な解釈とした. 本判決において,まず,上記①の検討を通じ て,憲法 14 条 1 項が要請することは,他者と の比較において,合理的でない区別を否定する にとどまらず,当該不平等な地位におかれてい る原告を平等な水準にまで引き上げるという, いわば他者との比較における差異の是正までを 含めて要請していると言いうる.言い換えれ ば,憲法 14 条 1 項によって立法府の行うべき 立法内容が明確となるのであれば,立法裁量を 尊重する幅を限定するものといえる.これは, 憲法 14 条 1 項によって当該法律が違憲とされ た場合は,司法による救済の観点から合憲的補 充解釈の第一歩となるということを意味するよ うに,憲法 14 条 1 項の意義を改めて見直す契 機となる判決であったというべきであろう.次 に,本判決では上記②の検討を通じて,国籍法 の基本的な原則である血統主義の要請の充足を 認める.本判決が,法律(本件では国籍法)の 基本原則の充足の有無を検討したことは,立法 府が制定した法律の基本原則に対する合致とい う,まさに立法府の意思に沿った解釈を補充す るものであることを指摘したものといえよう. さらに,本判決で上記③を検討することで,補 充解釈による法的効果の付与は,すでに立法に おいて認められている場合と同程度の効果に過 ぎず,司法による新たな立法とは異なる点を確 認したものといえる. これに対して,非準正子に対して届出により 国籍を付与するという規定が存しないという立 法不作為の状態であると考えたうえで25),本判 決における多数意見のような,原告に対して国 籍を付与することは,準正子を出生後認知され た子と読み替えることとなると考えるゆえに, 法解釈としては限界を超え立法権侵害である旨 の甲斐中,堀籠両裁判官からの反対意見がある. しかし,上記の判断過程によって,立法府の制 定した法律の違憲判断による軌道修正と当該法 律の基本原則に沿った解釈であることを確認す ることで,立法裁量を限定するとともに,立法 選択肢が限られることを明らかにするもので あって26),本件補充解釈が,立法権を侵害する ものではなく司法権の枠内にあることの根拠を 明らかにしたものといえよう27). ⑷ 小 括 本判決は,一部違憲の手法を採ったうえで, 1 つの判決手続で日本国籍を原告に付与すると いう救済に向けては立法権との関係(いわば横 の問題)につき,憲法適合性及び国籍法の基本 原則を検討することで,立法選択肢が限られる ものと評価したうえで,さらに結論の相当性を 考慮したものである.すなわち,本判決は,立 法内容については立法府の広い裁量が認められ るところ上記の憲法上の要請により違憲無効と なったのちに,司法権が違憲無効となった部分 を補充することが,立法府が制定した法の元々 の基本原則を明らかにしたうえで,その基本原 則に反しないのかどうかという点が吟味される とともに,補充解釈した結果の相当性を検討し た点が重要である. 本判決の特色は,日本国籍の付与の有無につ いては国会の裁量によるところが大きいにもか かわらず,本判決では,裁判所があるべき多数 者意思としての立法者意思を探求したうえで, 現実の立法機関の多数者意思である立法内容と の齟齬を,合憲拡張解釈の手法を用いることに よって救済を与えたものである.このように合 憲拡張解釈は,裁判所が,少数者を救済するた めに政治的多数者の意思を探求したという点に 特色があり,司法権による法創造機能の本質が ここにあるといえる. 3 非嫡出子相続分判決(最高裁平成 25 年 9 月 4 日判決28)) ⑴ 事案の概要 本件は,平成 13 年 7 月に死亡したAの遺産 につき,Aの嫡出である子(その代襲相続人 を含む.)である相手方らが,Aの嫡出でない
子である抗告人らに対し,遺産の分割の審判を 申し立てた事件である29).被相続人 A の死亡 により,妻 B,A と妻亡 B との間の子である 嫡出子 X1,X2,亡 C(平成 12 年死亡)の 代 襲相続人 X3 及 び X4 並 び に A と 申立外 D と の間の子である非嫡出子 Y1 及び Y2 であった ところ,妻 B が平成 16 年に死亡し,B の相続 分を X1,X2,亡 C の代襲相続人である X3,X4 が相続した.その結果法定相続分は,X1 及び X2 が 各 48 分 の 14,X3 及 び X4 が 各 48 分 の 7,Y1 及び Y2 が各 48 分の 3 となった.X1~ X3 は,Y1,Y2 に対して,遺産分割の審判を 申し立てたところ,Y1 及び Y2 は,非嫡出子 の相続分を嫡出子の 2 分の 1 と定めた民法 900 条 4 号ただし書き前段の規定につき憲法 14 条 1 項違反を主張した.第 1 審審決(東京家裁平 成 24 年 3 月 26 日審決30))は,民法 900 条 4 号 ただし書き前段の規定は憲法 14 条 1 項に反し ないと判断したうえで法定相続分を前提に遺産 分割の方法を定めた.これに対して,審判の相 手方である非嫡出子 Y1 及び Y2 は,即時抗告 の申立てをなしたところ,東京高裁決定(東京 高裁平成 24 年 6 月 22 日決定31))も第 1 審の判 断を是認した.そこで,Y1 及び Y2 は,最高 裁に特別抗告の申立てをなした事案である. ⑵ 決定の概要 ア 決定要旨 最高裁は,以下のように判示して,民法 900 条 4 号ただし書き前段の規定は,憲法 14 条 1 項に違反し無効であるとの判断を示した. 「遅くともAの相続が開始した平成 13 年 7 月 当時においては,立法府の裁量権を考慮して も,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別 する合理的な根拠は失われていたというべきで ある.したがって,本件規定は,遅くとも平成 13 年 7 月当時において,憲法 14 条 1 項に違反 していたものというべきである.」,「憲法に違 反する法律は原則として無効であり,その法律 に基づいてされた行為の効力も否定されるべき ものであることからすると,本件規定は,本決 定により遅くとも平成 13 年 7 月当時において 憲法 14 条 1 項に違反していたと判断される以 上,本決定の先例としての事実上の拘束性によ り,上記当時以降は無効であることとなり,ま た,本件規定に基づいてされた裁判や合意の効 力等も否定されることになろう.しかしながら, 本件規定は,国民生活や身分関係の基本法であ る民法の一部を構成し,相続という日常的な現 象を規律する規定であって,平成 13 年 7 月か ら既に約 12 年もの期間が経過していることか らすると,その間に,本件規定の合憲性を前提 として,多くの遺産の分割が行われ,更にそれ を基に新たな権利関係が形成される事態が広く 生じてきていることが容易に推察される.取り 分け,本決定の違憲判断は,長期にわたる社会 状況の変化に照らし,本件規定がその合理性を 失ったことを理由として,その違憲性を当裁判 所として初めて明らかにするものである.それ にもかかわらず,本決定の違憲判断が,先例と しての事実上の拘束性という形で既に行われた 遺産分割の効力にも影響し,いわば解決済みの 事案にも効果が及ぶとすることは,著しく法的 安定性を害することになる.(中略)したがっ て本決定の違憲判断は,Aの相続の開始時から 本決定までの間に開始された他の相続につき, 本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判 その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意 等により確定的なものとなった法律関係に影響 を及ぼすものではないと解するのが相当であ る.」としたのである. なお,本決定も一部違憲の手法によっている が,問題となった部分が非嫡出子の相続分を制 限する部分であるため,前記国籍法判決のよう な一部違憲の可否は大きく問題とならない. イ 救済という観点から見た本決定の意義 救済という観点から見た本決定の第 1 の意義 は,違憲判決の効果が当事者以外の第三者に及 ぶことを明らかにしたうえで,その根拠として 「先例としての事実上の拘束性」に基づくとい
う理解を示していることが重要である.このこ とは本決定の効力は当事者限りであって当事者 以外の第三者へ及ぼす効果は,判決それ自体の 効果ではないことを明らかにしていると考えら れる32).すなわち本決定は,一般的効力説や修 正された個別的効力説としてではなく,個別的 効力説(理念型)によって説明したうえで,上 記「判例(先例)の拘束力の問題」として捉え ていることを明らかにしたものである.なお, 「遅くとも平成 13 年の時点において本件規定は 違憲無効であった」としたのは,本件における 相続開始時点が平成 13 年であったことによる. 本決定の第 2 の意義は,本決定が第三者に与 える影響について,「先例としての事実上の拘 束性の制限」という形でその影響としての遡及 的効果(遡及効ではない)を最小限にするべき 旨を明らかにしていることである.これは,民 法 900 条 4 号ただし書きにおける非嫡出子の相 続分にかかる規定を違憲とした場合の影響の大 きさに鑑みて,それによってもたらされる法的 不安定さが指摘されており33),従来の権利関係 への影響を考慮すると,そのことが「違憲判断 と救済を妨げていると推測されている」との見 解もみられた34).本決定では,これらの指摘に 対して黙示的に応答する形で明らかにしたもの と考えられ,救済という観点から大きな意義が あるといえよう.また千葉補足意見では,本決 定の影響の制限につき「対象となる事件の処理 とは離れて,他の同種事件の今後の処理の在り 方に関わるものとしてあらかじめ示すことにな る点で異例ともいえる」としつつ,「法的安定 性を大きく阻害する事態を避けるための措置で あって,この点の配慮を要する事件において, 最高裁判所が法令を違憲無効と判断する際に は,基本的には常に必要不可欠な説示というべ きものである.その意味で,本判決における遡 及効の制限は,いわゆる傍論(obiter dictum) ではなく,判旨(ratio decidendi)として扱う べきものである.」と述べている点が注目され る. もっとも,法廷意見は,「遡及効」という表 現は使っていないことに加えて「先例として の事実上の拘束性を限定」とするところから, 本決定が第三者に与える影響に関して言えば, 「遡及効の制限」という表現は,本決定に対す る評価としては,正確でないことには留意され るべきである35). ⑶ 検 討 ア 問題の所在 本決定では,民法 900 条 4 号ただし書き前段 の規定が違憲であるとした場合,当該判決(決 定)の効力が第三者に及ぶのかという問題とは 別個に,判決の遡及効を認めて平成 13 年 7 月 時点から無効とすることの可否が問題となっ た.違憲の法令からの救済という観点から見た 場合,違憲判決(決定)の効力が当事者以外の 第三者に対して遡及効をもって及ぶとすること が違憲の法令からの救済に資するものといえ る. もっとも,本件の特殊性は,民法 900 条 4 号 ただし書き前段の規定をめぐっては,既に大法 廷判決を含む合憲判決が繰り返されていたと いう事実経緯が存在することである36).そのた め,従前における上記規定をめぐって争った合 憲判決の当事者や当該合憲判決に依拠してなし た遺産分割協議や調停に基づき形成された権利 義務関係への配慮の必要性がなされるべき事案 であった37). そこで,平成 13 年 7 月以降における違憲法 令からの救済と最高裁による蓄積された合憲判 決への信頼に対する保護との関係という,いわ ば時間軸の問題として両者の調整の按配が問わ れた事案である. イ 違憲判決の効力についての学説の状況 (ア)遡及効の有無と学説 まず一般論として,法令違憲判決について, 憲法訴訟の当事者以外の第三者に対する遡及効 の有無について,学説における議論の中心は, 法令違憲判決に特別の効力を認めることの是非
に関する議論に関係する.この点について,学 説は主として,(ⅰ)個別的効力説,(ⅱ)一般 的効力説及び(ⅲ) 立法委任説,に大別される. すなわち,法令違憲判決の効力について,当事 者限りで遡及効が認められるに過ぎず第三者に は判決効は及ばないと考えるならば,当該事件 に関する限りで無効とする個別的効力説によっ て説明できる38).他方で,その対世的効力を特 色とする法律の性質から,判決に遡及効を認め るべきと考えるならば,憲法訴訟の当事者に 限らず一般的に無効とする効果を有するとい う一般的効力説によって説明するのが自然で ある39).また,判決の効力は法律で定められ るべき事項であって,法令違憲の効力につい ても立法権の定めるところに任されていると する立法委任説も存する40). もっとも,上記の一般的効力説及び個別的効 力説の対立は理念型であって,両説の接近化の 傾向がみられると指摘されている41).すなわち, この指摘によれば,個別的効力説に立脚しつつ も,政治部門である立法権及び行政権は,判決 を尊重して当該法令に対する廃止に向けての措 置を講じ,行政機関も執行を自制するという礼 譲を期待するなどの説明により,実質的に一般 的効力説に近づけて理解する42).そのうえで, 上記個別的効力説も,違憲判決の効果は当事者 に限り遡及するにとどまることを原則とする見 解に立ったうえで,例外的に,国民の権利・自 由の保護にとって必要とされる場合は法令違憲 判決の効果は遡及すると考える.この立場から は,「民事法,行政法の領域では一般に遡及しな いのに対し,刑事法とりわけ刑事実体法の領域 では遡及することが原則と解される」とする43). 他方で,一般的効力説のうち修正説は,法的 安定性を考慮し当事者以外に対する遡及効は一 定の制限を受けるのが妥当とする見解などが存 する44). さらに,個別的効力説(理念型)を前提にし つつも,後の事件で法令違憲となった法律が適 用されないのは,当該法律が効力を失ったから ではなく,先例が踏襲されるという限りでの「判 例(先例)の拘束力の問題」という観点から説 く見解も存する45).同様の結論として,立法委任 説によれば,「現行法上,特例的効力を認める 特別の規定がなければ,一般の確定判決の効 力の問題として処理するほかはない」ことに なる46). 判例(先例)の拘束力とは,最高裁判所の憲 法判例が最高裁及び下級審に対して拘束力を与 えることをいう.これは,憲法の定める司法権 が米国流のものと解されるほかに,同種の事案 は同種に取り扱うべきとする公正の観念及び 憲法 14 条,32 条,31 条 の 各々の 趣旨 に 根拠 を有するものであるところ,制定法主義を採 るわが国においては,憲法判例に法源性は認 められず,また判決も事実上の拘束力にとど まるとされる47).この見解によれば,判決の「遡 及効」という概念は第三者に対しては存在せず, あくまでも判例の拘束力の効果として判決時点 以後からの影響を考慮することになる. (イ)分 析 本決定では,平成 13 年 7 月以降において民 法 900 条 4 号ただし書き前段の規定が無効とな るのは,「先例としての事実上の拘束性」に基 づくという理解を明示している.このことから 本決定では,判決の効力について個別的効力説 (理念型)によって説明することが可能である. 言い換えれば,本決定における違憲判決という 特別の効力として同条項ただし書き前段部分が 無効である旨を述べたものではないと考えられ る.本決定が,遡及的効果を認める根拠を違憲 判決の効力から説明するのではなく,先例とし ての事実上の拘束性から説明したのは,未だ確 定的ではない法律関係には,上記の事実上の拘 束性を与える一方で,確定的なものとなった法 律関係には,影響を与えないことを理論的な面 から説明するためであったと考える.なぜなら, 本決定時点でいまだ未確定な同種事案について は,裁判所等が本決定に拘束されるのは,まさ に上記先例としての事実上の拘束性の結果であ
る.他方で,本決定より前に確定的となった事 案が,本決定が先例として影響を受けるという ことは,ありえないからである.その意味で, 確定的事案については上記の遡及的効果が及ば ないとする根拠を,法的安定性という利益衡量 上の観点ないし「違憲審査に課せられた内在的 制約」という観点のほかに,より直截的には理 論的根拠として先例拘束性に求めたものと思わ れる. この点,学説の一部においても,違憲判決の 効力として遡及効を認めつつ,例外的に財産法 上の規律は無効の効力を遡及させないとする必 要も生ずるとする見解が存する48).結論の妥当 性からすればこの見解は十分に理解できるが, これだけでは理論上の根拠が弱いという批判は 免れないであろう. ウ 第三者に対する遡及的効果と法的安定性と の調整 判決の結果について遡及的効果が生じるとし た場合には,民事法関係では利得関係と損失関 係が生じている場合が多く,当該利害関係に変 動が生じうる.とくに相続は,一般的に相続人 だけで多数にのぼり,さらに債権者などの利害 関係人を含めると判決によって影響を受けるも のが極めて多数にわたるのであり,一旦確定し た内容を覆すことは社会的影響が大きい.加え て,相続当時と状況は変化しており当時の規定 に従って相続をなした者が現時点で死亡してお り,さらにそれを相続した場合などを考えると 大きな混乱が生じうることは容易に想定でき る.この点から,法的安定性の尊重も重要な視 点となる49). また,前記のように本件における特殊性とし て,民法 900 条 4 号ただし書き前段の規定をめ ぐっては,既に大法廷判決を含む合憲判決が繰 り返されていたという事実経緯が存在するので ある.そのため,従前における上記規定をめぐっ て争った合憲判決の当事者や,当該合憲判決に 依拠してなした遺産分割協議ないし調停に基づ き形成された権利義務関係への配慮の必要性が なされるべき事案であった.そこで,本決定は, 「確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼ すものではない」と述べ,一定の場合には,遡 及的効果を制限することを明らかにしたもので ある.これは,法廷意見において,「法的安定 性は法に内在する普遍的な要請」であるとする ことから,裁判所が違憲判断において法的安定 性を考慮することは,裁判所による違憲審査権 の行使の際における内在的な制約であることを 明らかにしたものといえよう.このことは,前 記千葉補足意見においても,法的安定性につい ての配慮を要する事件について,法令違憲を判 断する際には,「基本的には常に必要不可欠な 説示というべきものである」としたことからも 窺える. この点,最高裁調査官による解説では,「本 決定が遡及効を制限する旨の判断をした」と説 く50).しかし,上述のように,本決定は違憲判 決の効果として同条項ただし書き前段部分が遡 及して無効となると述べているものではないか ら,正確な叙述ではない51).調査官による上記 解説の意味は 2 点あると考えられる.1 点目は, 当事者以外の第三者のうちで「確定的なものと なった法律関係」に対しては,「遡及的」効果 を制限する旨の意味として「遡及効を制限する」 と述べていることである.2 点目は,立法府に 対しては,上記判例の事実上の拘束性に基づ く効果として,「遡及効を制限する」旨の法改 正をなすべきという方向性を示唆する意味とし て,各々理解すべきであろう.このように,本 決定は,救済という観点から,当事者以外の第 三者につき広く法令違憲判決の遡及的効果を認 めた判例として評価できる. なお,本決定が,遡及効ないし遡及的効果を 制限した理由は,多くの利害関係者に影響が及 ぶことによる権利関係の複雑化を回避するとい う点にあるから,権利関係の複雑化という事情 は存しない刑事事件においては本決定の射程は 及ばないものといえる.
⑷ 小 括 以上に見たように,本決定は,平成 7 年大法 廷判決ののちに違憲判決が下されるとした場合 の社会的混乱についての問題提起があったとこ ろ,本決定ではその解決方法を明らかにしたこ とに大きな意義がある. すなわち,救済という観点からは,対時間軸 の問題は 2 つに分かれる.まず第 1 に,当事者 以外であって現在協議中ないし争訟中の第三者 に対する影響についての問題である.これにつ いては,本決定が判決の事実上の拘束力として 影響を及ばすことを明らかにした.第 2 に,「確 定的なものとなった法律関係」に対する影響に ついての問題である.これについては,違憲判 決(決定)は事実上の拘束力しか有しないとす ることで,すでに確定した事案については影響 を及ぼさないことを理論的に明らかにした.さ らに,裁判所が違憲判断において法的安定性を 考慮することは,違憲審査権の行使の際におけ る内在的な制約であるとともに,そのために遡 及的効力を否定することをレイシオ・デシデン ダイであると位置づけることによって,立法権 との関係で, 改正立法の方向性に対して事実上 の拘束力を及ぼすという意味では,立法府の裁 量を拘束しているといえる. 以上のことから,本決定は,第 1 の救済対象 として当事者及び本決定時点で未解決段階にあ るに対する救済であることに加えて,第 2 の救 済対象として遡及的効果を制限することによっ て最高裁の判決に依拠して解決済みとなった当 事者に対する救済であるほかに,第 3 の救済対 象として,改正立法の方向性に対して事実上の 拘束力を及ぼすことによる今後の同種事案に対 する救済を,各々意味するものといえよう. 4 まとめ 以上の 2 つの判決から,司法権による救済機 能について救済の意義を説くに当たっては,つ ぎの 2 つの問題が生じることは本論文で述べて きた.すなわち,第 1 の問題として,三権分立 におけるいわゆる横の問題として立法権との関 係を説明することが不可欠である.また第 2 の 問題として,当事者以外の第三者に対する救済 も公平の見地から容認する必要があるところ, 時間軸の問題として,現在及び将来の事案に対 する救済可能性としては違憲判決の効力の問題 があり,また解決済みとなった過去の事案に対 しての遡及の可否は,法的安定性の要請との調 整が問題となっていた. まず,第 1 の問題の解決として,国籍法判決 において,立法権との関係を合憲拡張解釈の手 法を用いて調整したことである.このことは, 最高裁が国籍法判決を通じて司法権による法創 造機能の本質を提示したことを意味するもので あり,裁判所が,少数者を救済するために多数 者の意思を探求したという点に司法権による法 創造機能の本質があるといえる.その意味では, 司法権は法原理機関というよりは,寧ろ政治的 な存在である. この点,合憲拡張解釈の手法を用いたことに つき,国籍法判決は郵便法判決において提示し た手法の延長線上に位置づけられるものであり 従来と異なるほど積極的な姿勢を見せたもので はないとする見解も存するが52),人権救済の見 地に加えて憲法保障の見地から高く評価する見 解がある53).また,私権の保護を実体・救済の 両面で顕在化させたものとして,ドイツと米国 との狭間にあったわが国の司法審査制に自らの 途を切り開きつつあるかのようであるとして高 く評価する見解もある54).確かに,本判決がか かる手法を用いたことは,法創造機能を提示し た判決として救済に資する判決であることは十 分に評価できる. もっとも,合憲拡張解釈による救済のために は,前述(2.⑶.イ.(イ))の よ う に,①憲 法上の要請及び②当該立法の基本原則並びに③ 結論の相当性を検討すべきところ,このことは, 合憲拡張解釈による救済を原告が受けるために は,裁判所によってとくに上記①及び③が明白 でなければならないことを意味する.したがっ
て,現実的には,合憲拡張解釈の手法は,政治 的ないし政策的にみて比較的中立な事案に限定 して活用される可能性が高く,とりわけ多種多 様な利益団体や各種政策との調整の結果として の立法内容である請求権的性格を有する立法に ついては,合憲拡張解釈の手法を用いることは 一般に困難であるといえよう.なお,日本国籍 付与の有無に関しては,それによって,入国の 自由,参政権及び公務就任権などの憲法上の権 利につき享有主体となることの可否に関連する とともに,事案によっては政治問題を含みうる. しかし,本件においては,実体面では憲法 14 条 1 項の問題として合理的な区別の有無という 争点をクリアするという問題はあったものの, 救済面では,認知に基づいた日本国籍の付与の 可否という,政治的な位置付けが比較的希薄な 事案であったことは,裁判所にとって合憲拡張 解釈を採りやすい事情であったといえる. つぎに,第 2 の問題の解決として,非嫡出子 相続分判決において,前述のように(3. ⑷), 第 1 の救済対象として当事者及び本決定時点で 未解決段階にある第三者に対する救済であるこ とに加えて,第 2 の救済対象として遡及的効 果を制限することによって最高裁の判決に依拠 して解決済みとなった当事者に対する救済であ るほかに,第 3 の救済対象として,改正立法の 方向性に対して事実上の拘束力を及ぼすことに よる今後の同種事案に対する救済をなしたこと を,各々意味する. ここで非嫡出子相続分判決と立法権との関 係(横の関係)を検討する.判決結果が各種の 利害関係人へ与える影響は,時間軸の関係を考 慮するにあたって当然に考慮されるべき内容で ある.同決定のように,裁判所が違憲判断にお いて法的安定性を考慮することは,違憲審査権 の行使の際における内在的な制約であるととも に,立法権との関係において,改正立法の方向 性に対して事実上の拘束力を及ぼすという意味 では,法創造機能を果たしているとも言いうる. その場合であっても,たとえば国籍法判決のよ うに,司法権により法創造機能として原告に対 して新たな権利や地位を付与するという役目を 果たすのではなく,社会的混乱を避けるための 政策的な見地からの法創造機能である点で,両 判決には違いがある.ひとたび相続分を嫡出子 と非嫡出子とで区別することの是非という実体 面の問題を乗り越えたのちに,救済面における 相続人及び利害関係者の法律関係としては,財 産関係の清算に関する場面へと移行したものと いいうる.このような考えに立てば,当該場面 に対する不当利得関係の有無及びその調整の問 題は,政治的には中立な問題である.そのた め,立法者意思との相違は大きく問題とはなら なかったものと考えられる. 最後に,本論文で検討した 2 つの判決は,そ の救済機能としては,政治的ないし政策的な意 味合いが薄められた限りでの救済という考え方 を基礎としており,司法権は従来からの姿勢を 継承しているに過ぎないともいいうる.このこ とを加味したうえで,合憲拡張解釈をはじめと する司法権による救済として相応しい範囲は, 筆者にとっての今後の検討課題といえる.しか しながら,これら 2 つの判決は,いずれも司法 権による救済機能が効果的に発揮できる一つの 範囲を打ち出したものであり,当該救済機能の 拡充や議論の進展に向けての契機となる判決と して十分意義あるものと考える次第である. 注 1)佐藤幸治『現代国家と司法権』(有斐閣・1988) 118~129 頁参照.芦部信喜『人権と憲法訴訟』 (有斐閣・1994)はしがきⅱ頁も同旨と思われる. 2)最大判平成 20 年 6 月 4 日民集 62 巻 6 号 1367 頁. 3)国籍法 3 条 1 項(改正前) 「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身 分を取得した子で 20 歳未満のもの(日本国民 であつた者を除く.)は,認知をした父又は母 が子の出生の時に日本国民であつた場合におい て,その父又は母が現に日本国民であるとき, 又はその死亡の時に日本国民であつたときは, 法務大臣に届け出ることによって,日本の国籍
を取得することができる.」 4)東京地判平成 17 年 4 月 13 日判時 1890 号 27 頁. 5)東京高判平成 18 年 2 月 28 日家月 58 巻 6 号 47 頁. 6)一部違憲を意味する用語の用い方は,論者に よって微妙に異なるが,本論文では,法令違憲 の分類において先導的論文である青柳幸一「法 令違憲・適用違憲」芦部信喜編『講座憲法訴訟 第 3 巻』(有斐閣・1987)3 頁以下 の 用法 で あ る「一部違憲」によった. 7)森英明「判解」『民事篇平成 20 年度』307 頁, 302 頁も本判決が合憲拡張解釈の手法を用いた ことを前提としている. 8)最大判平成 14 年 9 月 11 日民集 56 巻 7 号 1439 頁. 9)最大判平成 17 年 9 月 14 日民集 59 巻 7 号 2087 頁. 10)尊属殺重罰規定判決(最大判昭和 48 年 4 月 4 日刑集 27 巻 3 号 265 頁), 薬事法距離制限 規定判決(最大判昭和 50 年 4 月 30 日民集 29 巻 4 号 572 頁),衆議院議員定数配分規定判決 (最大判昭和 51 年 4 月 14 日民集 30 巻 3 号 223 頁),衆議院議員定数配分規定判決(最大判昭 和 60 年 7 月 17 日民集 39 巻 5 号 1100 頁)及び 森林法共有林分割制限規定判決(最大判昭和 62 年 4 月 22 日民集 41 巻 3 号 490 頁).なお第 三者所有物没収事件判決(最大判昭和 37 年 11 月 28 日・刑集 16 巻 11 号 1593 頁)を法令違憲 判決と理解することの可否については学説上争 いがある. 11)木村草太『平等 な き 平等条項論』(東大出版 会・2008)209 頁,265 頁は,憲法 14 条 1 項前 段は,立法目的への適合性要請を規定している と解すべきであるとしたうえで,本判決の結論 は憲法 10 条が血統主義を要請していることを 暗黙の前提とすることから導かれるとする. この見解は,日本国籍の付与は憲法 10 条に よって広い立法裁量が国会に認められていると しても,憲法 14 条 1 項によってそれが一定の 制限を受けるものであり,国籍付与の憲法上の 根拠はあくまでも憲法 10 条であることを説明 する. 12)青柳・前掲論文〔注 6〕8 頁. 13)佐藤幸治『日本国憲法論』(成文堂・2011) 657 頁. 14)芦部信喜『憲法訴訟の理論』(有斐閣・1973) 172 頁. 15)宍戸常寿「司法審査─「部分無効の法理」を めぐって」辻村みよ子=長谷部恭男編『憲法理 論 の 再創造』(日本評論社・2011)474 頁注 50 につき,いずれも結論は同旨. 16)森英明・前掲解説〔注 7〕301 頁. 17)青井未帆 = 安西文雄 = 淺野博宣 = 岩切紀史 =木村草太 = 小島慎司 = 齊藤愛=佐々木弘通 = 宍戸常寿 = 林知更 = 巻美矢紀 = 南野森『憲 法学 の 現代的論点〔第 2 版〕』(有斐閣・2009) 205 頁〔青井未帆〕も,「法令違憲 は 違憲判断 への敷居を高くし,それがゆえにわが国の憲法 訴訟の不活性状態を生じさせている側面はある (中略)しかし違憲という判断の結果は,必ず しも当該規定の全体的な無効と結びつかねばな らないわけではない」と述べる. この見解は,一部違憲の議論が黎明期の時期 の説明であるため,当該手法には言及していな いものの,全面的な法令違憲は裁判所の心理的 な壁となる旨を指摘する点は共感し得るもので ある. 18)この点につき,裁判所はなるべく法令違憲を 避けるという見地から,適用違憲の手法による 救済が考えられる.しかし適用違憲の手法は, 法令自体は合憲であることを前提とするもので あるため,当該事案の適用に限り違憲無効とす ることに尽きており,普遍的な救済には必ずし もつながらないことは明らかである.また適用 違憲の手法は,猿払事件最高裁判決(最大判昭 和 49 年 11 月 6 日刑集 28 巻 9 号 393 頁)に お いて,「被告人の本件行為につき罰則を適用す る限度においてという限定を付して右罰則を違 憲と判断するのであるが,これは,法令が当然 に適用を予定している場合の一部につきその適 用を違憲と判断するものであって,ひっきょう 法令の一部を違憲とするにひとしく」と述べ, 同事件第 1 審判決及び原判決で用いられた適用 違憲の手法を批判している.そのためか,その 後の最高裁判決において,適用違憲が用いられ た実例はない(第三者所有物没収事件判決を適 用違憲に数えるとしても,同事件判決は昭和 37 年である). もちろん,適用違憲の手法が存しないのは, 当該手法が用いられる以前に,法令解釈の段階 で,例えば法令の解釈を誤った点で違法がある として当該事案が解決してしまうことが理由の 場合もある.近時の堀越事件最高裁判決(最判 平成 24 年 12 月 7 日刑集 66 巻 12 号 1337 頁) も,「原判決は,本件罰則規定を被告人に適用 することが憲法 21 条 1 項,31 条に違反すると しているが,そもそも本件配布行為は本件罰則 規定の解釈上その構成要件に該当しないためそ の適用がないと解すべきであって,上記憲法の 各規定によってその適用が制限されるものでは ないと解される」と述べる.これは適用違憲を 用いる以前の段階で事案が解決したものとみる ことができる. 19)清宮四郎『憲法Ⅰ〔第 3 版〕』(有斐閣・1979) 335 頁.
20)市川正人「判批」判評 599 号(2009)2 頁, 野坂泰司『憲法基本判例を読み直す』(有斐閣・ 2011)469 頁,常本照樹「平等判例における違 憲判断 と 救済方法 の 到達点」論究 ジュリ 1 号 (2012)100 頁. 21)宍戸・前掲論文〔注 15 〕205 頁以下. 22)長谷部恭男「国籍法違憲判決の思考様式」ジュ リ 1366 号(2008)83 頁注 27 は,「合憲的に適 用されるために意味内容の拡張が必要であると いうことは,言い換えれば,拡張される部分が 欠如している限りにおいて,意味内容の一部が 違憲ということである」とする. これは,最終的に合憲拡張解釈が必要である ということは,ベースラインといういわば到達 目標からみた場合に,改正前国籍法 3 条 1 項の 意味内容の一部が違憲である(質的一部無効な いし意味上の一部違憲)ことを意味する旨を説 くものといえる. 23)石川健治「国籍法違憲大法廷判決をめぐって ─憲法 の 観点 か ら ⑶」法教 346 号(2009)15 頁. 24)戸松秀典『立法裁量論』(有斐閣・1993)3 頁. 25)佐藤・前掲書〔注 13 〕638 頁は,「立法不作為」 は多義的であり,①法律が制定されていないよ うな法律の不存在のほかに,②違憲とされる法 律が改廃されない場合,③法律が改廃された結 果,違憲となる法律が現出した場合及び④法律 の規定の仕方に憲法上の要請に悖るものがある 場合(立法の不備)に区分されるとする. 本判決の甲斐中,堀籠反対意見がいうところ の「立法不作為」とは,上記②の意味と捉えら れよう.この場合,一部違憲との区別は微妙で あり,裁判所による補充解釈の可否は,結局は, 当該解釈をなすことが,立法裁量に反するのか 否かが核心となるものと理解できる. 26)常本・前掲論文〔注 20〕106 頁 は,「立法府 がある特定の内容の規定を選択する高度の蓋然 性が認められるなど,立法的選択肢が事実上 1 つに絞られているような場合」とするのは,ま さに合憲拡張解釈が三権分立の問題であること を端的に表すものである. 27)藤田裁判官意見「立法府が既に示している基 本的判断に抵触しない範囲で,司法権が現行法 の合理的拡張解釈により違憲状態の解消を目指 すことは,まったく許されないことではないと 考える」と述べる内容も同旨といえる. 28)最大判平成 25 年 9 月 4 日裁時 1587 号 267 頁. 29)民法 900 条(改正前) 「同順位の相続人が数人あるときは,その相続 分は,次の各号の定めるところによる. (1~3 号略) 4 号 子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あると きは,各自の相続分は,相等しいものとする. ただし,嫡出でない子の相続分は,嫡出である 子の相続分の二分の一とし,父母の一方のみを 同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を 同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とす る」 30)東京家審平成 24 年 3 月 26 日金商 1425 号 30 頁. 31)東京高決平成 24 年 6 月 22 日金商 1425 号 29 頁. 32)山崎友也〔判批〕金沢 56 巻 2 号(2014)188 頁は,金築,千葉両裁判官補足意見に引きずら れ,「本決定が個別的効力説を採っているのか, 依然として若干の疑義を残すものになっている かもしれない」と疑問を呈する.確かに,上記 補足意見等には,遡及効と先例としての先例拘 束性の効果との間に概念的混乱が見受けられ る.当初の山崎准教授の見解どおり,本決定が 個別的効力説(理念型)によって説明できると 考えてよいのではないか. 33)民法 900 条 4 号ただし書き前段の規定を合憲 と判断した最大決平成 7 年 7 月 5 日民集 49 巻 7 号 1789 頁では,尾崎行信裁判官によるつぎ の追加反対意見がある.同追加反対意見では, 「最高裁判所は,法令が憲法に違反すると判断 する場合であっても,従来その法令を合憲有効 なものとして裁判が行われ,国民の多くもこれ に依拠して法律行為を行って,権利義務関係が 確立している実態があり,これを覆滅すること が著しく法的安定性を害すると認められるとき は,違憲判断に遡及効を与えない旨理由中に明 示する等の方法により,その効力を当該裁判の された時以後に限定することも可能である」と していた. なお,菱沼誠一「非嫡出子相続分の規定(民 法第 900 条第 4 号ただし書き前段)の合憲性に ついて~注目される最高裁大法廷判断」『立法 と調査』(参議院事務局編・2011)24 頁及び中 村心「もしも最高裁が民法 900 条 4 号ただし書 きの違憲判決を出したら」東京大学法科大学院 ローレビュー Vol. 7(2012)198 頁も同旨. 34)宍戸常寿「違憲審査制」小山剛=駒村圭吾 編『論点探究 憲法〔第 2 版〕』(弘文堂・2013) 357 頁. 35)本決定に関する他の主な評釈としては,蟻川 恒正「婚外子法定相続分最高裁意見決定を書く ⑴ ⑵」 法教 399 号 132 頁以下・ 同 400 号 132 頁以下,高井裕之「判批」『憲法判例百選Ⅰ〔第 6 版〕』(有斐閣・2013)などが存するが,いず れも憲法 14 条 1 項に関する議論を中心に論じ ている. なお,民法 900 条 4 号ただし書き前段の違憲 性及び非嫡出子差別事例全般につき論じたもの として,君塚正臣「非嫡出子の憲法学」阪大法
学 172・173 号(上)(1994)607 頁以下. 36)前記平成 7 年大法廷判決ののちも,最判平成 12 年 1 月 27 日集民 196 号 251 頁,最判平成 15 年 3 月 28 日集民 209 号 347 頁,平成 15 年 3 月 31 日集民 209 号 397 頁,最判平成 16 年 10 月 14 日集民 215 号 253 頁,最判平成 21 年 9 月 30 日集民 231 号 753 頁等. 37)佐藤・前掲書〔注 13〕670 頁は,民法 900 条 4 号ただし書きの問題に限定して論じているも のではないが,判例変更は,判例の持続性の固 有の価値(法の予見可能性や法的安定性の原理) と政治社会的実体の変化を承認することから流 出する価値(変化の原理)との衡量という基本 的枠組みの中で決まるとしつつ,たとえば,先 例がその後の時代環境に対応しきれなくなった と考えられるときなどに先例の変更が正当化さ れると述べる.そのうえで,同教授は,判例の 不遡及的変更ないし将来効判決の手法によっ て,法的安定性との調整の必要性を説く. 38)清宮・前掲書〔注 19〕376 頁,樋口陽一『憲 法〔第 3 版〕』(創文社・2007)454 頁,高橋和 之『憲法判断の方法』(有斐閣・1995)183 頁, 松井茂記『日本国憲法〔第 3 版〕』(有斐閣・ 2007)123 頁. 39)兼子一=竹下守夫『裁判法〔新版〕』(有斐閣・ 1978)92 頁〔兼子一〕. 40)宮沢俊義『憲法〔改訂 5 版〕』(有斐閣・1973) 338 頁,小嶋和司『憲法概説』(良書普及会・ 1987)498 頁,大石眞『憲法講義Ⅰ〔第 2 版〕』(有 斐閣・2009)238 頁. 41)野中俊彦「判例の拘束力」芦部信喜編『講座 憲法訴訟第 3 巻」(有斐閣・1987)109 頁,115 頁以下の説明に拠った. 個別的効力説を基本としつつ修正する見解と しては,法学協会編『註解日本国憲法下巻』(有 斐閣・1954)1221 頁,佐藤功『日本国憲法概 説〔全訂第 3 版〕』(学陽書房・1985)418 頁, 芦部信喜(高橋補訂)『憲法〔第 5 版〕』(岩波 書店・2011)379 頁, 佐藤幸治・ 前掲書〔注 13 〕667 頁,伊藤正己『憲法〔第 3 版〕』(弘文 堂・1995)647 頁,長谷部恭男『憲法〔第 5 版〕』 (新世社・2011)420 頁など.なお,橋本公亘『日 本国憲法〔改訂版〕』(有斐閣・1988)646 頁は, 国会は法律廃止,内閣は執行の自制などの法的 義務が生ずるとする. また,竹下守夫「違憲判断の多様化・弾力化 と 違憲判決 の 効力─民事訴訟法学 か ら の 一試 論」『民事手続法学の革新─三ケ月章先生古稀 祝賀(中)』(有斐閣・1991)707 頁 の よ う に, 個別的拘束力に立脚しつつも,公務員の憲法尊 重義務(憲 99 条)を根拠に,第三者には特別 の拘束力を認めるとする見解がある. 他方,覚道豊治「違憲判決の効力」阪大法学 72・73 号(1970)16 頁 は,一般的効力説 を 基 本としつつ,民事法の分野については,法の合 憲的推定原則との調整の観点から遡及効を否定 する旨の修正を施す. 42)樋口・前掲書〔注 38〕454 頁では,判例の拘 束力という事実上の効果があるとしても,「実 質的には一般的効力」という説明をなすことは 適切でないとする.すなわち,法令違憲とされ たときに政治部門は,当該法の改廃をなすか, 憲法改正の手続を改正するかという選択肢を残 すものであり,非民主的な機関である裁判所が 違憲判断をなすことができる一つの説明になる ものと述べる.これは,非民主的な機関である 裁判所によって違憲とされた法律の処遇を,民 主的な機関である国会及び内閣の手に委ねると いう意味では,民主的なプロセスを残している ことを違憲審査権の根拠と考えるものといえよ う. 43)佐藤幸治・前掲書〔注 13〕668 頁,同『現代 国家と司法権』(有斐閣・1988)307 頁以下も, 遡及効の問題に関してはもっぱら刑事実体法の 領域に関して論じている. 44)覚道・前掲論文〔注 41〕16 頁. 45)高橋・前掲書〔注 38〕183 頁,松井・前掲書 〔注 38〕123 頁. 46)大石・前掲書〔注 41〕238 頁. 47)小林直樹『憲法学 の 基本問題』(有斐閣・ 2002)125 頁,樋口陽一=栗城壽夫『憲法と裁 判』(法律文化社・1988)352 頁以下〔樋口陽一〕. 48)長谷部・前掲書〔注 41〕420 頁. 49)伊藤正晴「判解」ジュリ 1460 号(2013)95 頁も同旨.同解説では,遡及効の制限は,法的 安定性の確保は法に内在する一般的な要請とし て内在的制約であり,また,法的安定性の確保 に配慮することは,違憲審査権に付随する権限 として,憲法上,最高裁に判断が委ねられてい るとする. 50)伊藤・前掲解説〔注 49〕94 頁. 51)野坂泰司「判批」『平成 25 年重要判例解説』 (2014)15 頁憲法 4 事件も同旨. 52)長谷部・前掲論文〔注 22〕84 頁は,「ベース ライン」という観点から着目した場合には,国 籍法判決は,最高裁が従来とは異なる積極的な 姿勢を示したというものではなく,従来の判例 の傾向を継承するものにすぎないと位置づけ る. 53)市川・前掲論文〔注 20〕168 頁. 54)宍戸・前掲論文〔注 15〕207 頁. [にしかわ いさお 横浜国立大学大学院国際社 会科学研究科博士課程後期]