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*教育実践高度化専攻学校経営コース(School Leadership and Management Course) 義務教育の教頭における職能開発に関する調査研究
-研修交流による資質・能力の習得状況に着目して-
Development Program of Vice Principal in elementary and junior high school: Focusing on the Effect of Outside the city Personnel Change
西山 高史* NISHIYAMA Takashi 1. 研究の背景と目的 グローバル化や情報通信技術が加速度的に進展し、変化が激しく先行きが不透明な 社会に移行していると言われている中、学校は新しい時代に求められる資質・能力を 育む教育課程の編成・実施とともに、子どもたちを取り巻く複雑化・多様化した諸課 題と向き合うための組織体制が求められている。さらに、近年では教員の厳しい勤務 実態が明らかとなり、校務の効率化、平準化、簡素化といった是正に向けた取組も重 点課題として位置付けられている。 こうした学校を取り巻く厳しい環境の中で、教育委員会による人的整備及び教育環 境整備と並行して、学校では「チームとしての学校」の校内体制づくりが求められ、 校長のリーダーシップのもと、教員と多様な専門性を持つ職員とがチームとなり課題 に正対した取組を行うことの必要性が指摘されている。校長のリーダーシップの在り 様が教員の手本となり実践的な指導・助言を行う「教授的リーダーシップ」から、学 校組織や学校の教育活動に影響を与える「変革型リーダーシップ」へ変容してきてい ることを意味し、より優位性が主張されるようになっている。(勝野 2016)学校におけ るリーダーシップ研究の第一人者である露口は変革型リーダーシップを「より高次の 目標達成の方向に教師集団を動機づけ、組織内外における価値と資源とを新たに結合 化し、各教員の学級・学年(教科)・学校レベルでの変革志向の教育活動を引き出そう とするリーダー行動」と定義している。(出典:学校組織のリーダーシップ)こうした 変化の背景には、校長のリーダーシップが学校の組織的対応に大きく影響を及ぼすこ とが数多くの研究で立証されていることにある。露口(2009)は、学校組織におけるチ ームリーダーシップと教員の効力感の影響関係について調査し、変革型チームリーダ ーシップは学校全体の集団的効力感を高める効果を有していることを明らかにした。 見方を換えると校長のリーダーシップの欠如により、教育資源が有効に活用されてい ない現状が散見されるとも言えるのではないだろうか。さらに、校長がリーダーシッ プを発揮できる組織体制を構築するためには、校長の補佐役で、校務の調整役でもあ る教頭の役割が必要不可欠であり、これまで以上にその役割が期待されている。そし て教頭もまた、校長に求められる資質・能力の変化に伴ってそれらの様態が変化して きていると考えられる。 このような時代の要請から、学校運営を担う管理職の養成や育成が喫緊の課題であ ることは言うまでもない。管理職において重要視される資質・能力が変化しつつある 現状がある一方で、管理職の学術研究の多くは、校長研究に集中しており、教頭に焦 点を置いた研究は極めて少ないのが現状である。これは校長と教頭に求められる資質・
192 能力が重複しているものも多く、それぞれに求められる資質・能力が明確化されてい なかったために、トップリーダーである校長の研究に限られてきたと推察される。 本研究は、教頭に焦点を置き、研修交流を通して育成される資質・能力の習得状況 を検証することで、教頭における職能開発の仕組みを明らかにすることを目的として いる。職能開発の仕組みを明らかにすることで、研修交流をキャリアパスに位置付け、 教頭の資質・能力を意図的・計画的に育成する道筋をつけることができると考えてい る。 2. 教頭の資質・能力育成における国の動向と先行研究の検討 (1) 国の動向 管理職の資質・能力の向上は、学校の裁量権限の拡大や自主的・自律的学校経営の 文脈から主に校長に焦点を置いたものとして扱われ、教育行政において長年にわたり 教育政策上の重要課題として位置付けられ議論がなされてきた。 主な国の動向として、1987 年 12 月の教育職員養成審議会答申『教員の資質・能力の 向上方策等について』において、現下の教育課題を解決するために教育の質的水準を 高める必要があると指摘し、教員の資質・能力の向上を問題提起した。1997 年 7 月に は教育職員養成審議会第 1 次答申において、教員に求められる資質・能力を「いつの 時代も教員に求められる資質・能力」、「今後特に教員に求められる具体的資質・能力」 及び「得意分野を持つ個性豊かな教員の必要性」と 3 つの視点に集約し、議論の方向 性が示された。1998 年 9 月の中央教育審議会答申『今後の地方教育行政の在り方につ いて』では、学校の管理運営組織の在り方等について、「学校において創意工夫を凝ら した教育活動を展開するためには、学校運営の責任者である校長及びそれを補佐する 教頭に優れた人材を得ることが必要である。」と示され、「教育に関する職に就いてい る経験や組織運営に関する経験、能力に着目して、幅広く人材を確保できるよう途を 開く観点から、校長及び教頭の任用資格の見直しについて検討する必要がある。」と管 理職の任用資格の見直しを提言している。1999 年 12 月の第三次答申では、教員の初 任者段階、中堅教員段階、管理職段階のライフステージに応じて求められる資質・能 力の方向性が示された。管理職段階として「地域や子どもの状況を踏まえた創意工夫 を凝らした教育活動を展開するため、教育に関する理念や識見を有し、地域や学校の 状況・課題を的確に把握しながら、学校の目標を提示し、その目標達成に向けて教職 員の意欲を引き出すなどのリーダーシップを発揮するとともに、関係機関等との連携・ 折衝を適切に行い、組織的、機動的な学校運営を行うことのできる資質を備え、また、 学校運営全体を視野に入れた総合的な事務処理を推進するマネジメント能力等の 資 質・能力が必要である」と示された。管理職の資質・能力が具体的に示されたのはこ の答申が初めてである。また、2015 年 12 月に中央教育審議会答申『チームとしての学 校の在り方と今後の改善方策』において、改善方策の 1 つとして「校長、副校長及び 教頭に求められる資質・能力を明確化し、教職員に周知するとともに、管理職の養成 等に活用する。」と指摘している。つまり、校長及び教頭に求められる資質・能力がこ れまで明確化されてこなかったために、教頭になってから己の力量不足を認識し降格 してしまったり、養成段階で管理職になるのをためらってしまったりする現状があっ
193 たと推察される。 (2) 先行研究の検討 教頭の資質・能力の育成に関連した学術研究では、主なものとして藤原(2005)が、 教頭の職務を職務実態・職務態度、力量・知識及び役割期待について自由記述式の質 問紙調査を県立高等学校の教頭を対象に調査したものや、大林・佐古・江川(2015)が 自由記述の質問紙調査から校長、教頭それぞれに求められる資質・能力の違いを分析 し、傾向を見出したものなどに限られていた。そのような状況の中で、2016 年 3 月に 国立教育政策研究所(以下、「国政研」とする。)が大杉を中心にまとめた『副校長・教 頭の職務状況に関する調査研究報告書』は、副校長・教頭を対象に職務状況や資質・ 能力等を網羅的に全国調査したもので大変貴重なものである。副校長・教頭の役割を 「校長補佐」、「教育者」、「教職員集団の長」、「実務遂行者」、「地域連携の窓口」及び 「豊かな人間性」に分類し 34 項目から成る質問紙調査を実施している。各項目に対し てどの程度習得しているかを「1:全く身に付いていない」、「2:身に付いていない」、 「3:どちらともいえない」、「4:ある程度身に付いている」、「5:とても身に付いてい る」の 5 件法で質問している。統計的検定の結果、校長を補佐する項目群の習得度が 最も高く、教職員を指導する項目群が最も低いことが明らかとなった。 次に教員の人事異動の効果についての先行研究では、まず佐藤・伊藤・茅島・坂本・ 高橋・岩崎・高橋・若井(1991)が人事異動の効果と課題の究明を目的に、教員と都道 府県教育委員会を対象に調査を実施し、多くの教員が人事異動を職能成長の機会とし て前向きに捉えていることを明らかとした。さらに、人事異動によって向上する職能 分野は、異動時の年代が上がるにつれて教室内の教育活動に直接関わる分野から、学 年や学校全体に関わる経営・研修分野へ移行することも明らかとした。また川上・妹 尾(2011)は、教員の人事異動が職能開発に与える影響について調査し、異動校数が多 いほど能力観が高い傾向にあることを示し、異動経験が能力形成に直接的な影響を与 えていることを明らかにした。一方で、管理職においては勤務校数が増えるにつれて 能力観が低下することを示唆している。 以上の通り、管理職の資質・能力及び教員の人事異動の研究については、先行研究 が一定蓄積されている。教頭における資質・能力と研修交流を含めた人事異動の効果 については、検証されていないが、先行研究から教頭の認識として異動経験が成長機 会と捉えている割合が高いことから、研修交流についても一定効果が見られると推察 している。本研究は市内異動に比べ職場環境が大きく変化する研修交流が教頭の職能 開発にどのような影響を及ぼすのかを調査し検証することで新たな知見の提供をめざ すものである。 3. 研究の対象と方法 (1) 研究の対象 ①広域人事異動の捉え方 広域人事異動は、公立学校教職員の採用・人事・研修の権限を持つ都道府県教育委 員会が、市町村間の教育格差是正、教職員人事の硬直化等、教育の質的担保と均等保 障の観点で役割を担ってきた。また、教職員育成の観点では、異なる教育条件で経験
194 を重ねることで職能開発につなげることを目的としている。 「広域人事」が想定する異動範囲は全国一律ではなく、川上(2005a)によると、都道 府県教育委員会への調査から、「都道府県全域(41.7%)」が最も多く、次いで「単一の 教育事務所(32.6%)」、「数市町村(9.3%)」という状況であった。管理職と教員の人事傾 向には、大きな差異がないことも明らかとしている。教育事務所を廃止している都道 府県も複数あり、異動範囲は地域の実情に応じた方針や慣例で形づくられていると考 えることができる。したがって、本研究では調査対象地域である A 県の人事異動実態 に鑑み、広域人事異動を「ブロック内他市町村」と捉え、調査分析を行っている。A 県 は6ブロックから構成され、ブロック内には3から9の市町村が所属している。 ②A 県の広域人事異動の実態 文部省が 1973 年から 1997 年にかけて「教員人事異動調査」を実施し、各都道府県 の市町村間異動率が明らかとなっている。植竹(2019)は、国政研が取りまとめた『県 費負担教職員制度運用の多様性に関する調査研究』において、教員人事異動調査から 市町村間異動率の高い 3 県と低い 3 県について表にまとめている。A 県は全ての年度 で全国平均値を大きく下回り、全国的にも市町村間異動率が低い状況である。植竹は 市町村間異動率の低さを政令指定都市以外の市町村の規模が比較的大きいため、市内 で人事異動を完結させることが要因ではないかと分析している。 A 県の教頭人事で 2014 年度からの 6 年間において、政令指定都市等を除く市町村の 異動者数と、異動者のうち広域人事異動者数と割合をまとめたものが表 1 である。 表 1 教頭の広域人事異動者数と割合 出典:A 県公立学校管理職名簿より筆者作成。 全体の傾向として、中学校と比べて小学校の方が教頭の広域人事異動者数が多く、 割合も高い結果となっている。なお、掲載している人数は、所属市町村から異動先市 町村へ異動した人数と、その反対の人数とを単純に合わせたものである。 ③対象の詳細 2014 年度からの 6 年間に A 県(政令指定都市等を除く市町村)において広域人事異 動を経験した小・中学校の教頭 123 名(副校長 1 名を含む)を調査対象とした。しか し、2018・2019 年度に教諭から教頭または、教育委員会から教頭に昇任した方は、所 属市町村の教頭経験がないと判断し除外した。また、この期間に退職している 6 名、 降任等 5 名も除外した。調査対象の性別の内訳は、男性が 109 名(88.6%)、女性が 14 名(11.4%)である。 (2) 研究の方法 2014年度 2015年度 2016年度 2017年度 2018年度 2019年度 異動者数 228 230 231 220 214 229 うち、広域人事 29 35 20 22 23 30 割合 12.7% 15.2% 8.7% 10.0% 10.7% 13.1% 異動者数 92 128 109 109 97 87 うち、広域人事 13 9 8 2 6 7 割合 14.1% 7.0% 7.3% 1.8% 6.2% 8.0% 小 学 校 中 学 校
195 教頭における研修交流の効果に着目し、研修交流経験者の資質・能力の習得状況等 を検証することで、教頭の職能開発の仕組みを明らかにすることを目的に、下記の通 り調査を行った。 ・調査時期:2019 年 7 月末から 9 月上旬 ・調査方法:郵便による自記式質問紙調査 ・調査項目:教頭昇任後の勤務年数及び教頭における広域人事異動の状況等、フェイ スシートとして 8 項目をはじめ、辞令を受けた際の納得度(2 項目)、教 頭職における職能開発(3 項目)、メンタルヘルス(4 項目)及び知識、 資質・能力の習得状況(1 項目)の合計 18 項目の調査を設定した。なお、 「知識、資質・能力の習得状況(1 項目)」については、国政研『副校長・ 教頭の職務状況に関する調査研究報告書』の質問項目を活用した。 ・回収率 :調査対象者 123 名のうち、73 名(59.3%)から回答を得た。内訳は、男性が 68 名(93.2%)、女性が 5 名(6.8%)であった。2019 年度の役職は校長職が 23 名、教頭職が 49 名、不明 1 名であった。不明者 1 名はアンケートは 回答、個票データが未記入だった。また、73 名のうち、72 名が研修を目 的とした広域人事異動である研修交流であったと回答している。 4. 結果と考察 国政研の報告書を先行調査として扱い、質問項目やデータを活用して「成長機会と しての有益度」と「資質・能力の習得度」の観点で教頭の職能開発における研修交流 の有効性を論究していく。 (1) 成長機会としての有益度 「人事異動は最大の自己研修である」と言われるように、人事異動の目的の一つに 人材育成と捉える考え方は業種を問わず一般的な考え方である。そこで教頭としての 資質・能力を身に付ける上で、教頭における異動経験の中でも研修交流がどの程度有 益であったかについて、「1:全く有益でない」、「2:有益でない」、「3:どちらともいえ ない」、「4:有益である」、「5:とても有益である」の中から選択を求めた。「とても有 益である(45.1%)」と「有益である(40.9%)」を合わせた肯定的な回答が 86.0%と高い数 値であった。表 2 は回答状況をまとめたものである。なお、本項目について1名が未 回答だったため回答数は 71 名となっている。 表 2 成長機会としての有益度 次に、研修交流が他の成長機会と比べてどの程度有益であるかを検証するために、 国政研の研究成果に沿った分析を行った。国政研の報告書では、副校長・教頭として 選択肢 数(割合) 1:全く有益でない 0 ( 0.0%) 2:有益でない 2 ( 2.8%) 3:どちらともいえない 8 ( 11.2%) 4:有益である 29 ( 40.9%) 5:とても有益である 32 ( 45.1%) 全体 71 (100.0%)
196 必要な資質・能力を習得する上で想定される機会がどの程度有益であったかを把握す るために、31 の質問項目を設け、国政研の報告書において「とても有益である」と回 答した割合が高い上位 10 項目と本調査結果をまとめたものが表 3 である。なお、「と ても有益である」と回答した割合を比較対象として採用した理由は、漠然とした回答 を含む肯定的な回答(「とても有益である」と「有益である」を合わせたもの)よりも、 調査対象の本来の意思に近い結果を得やすいと考えたためである。 表 3 成長機会の有益度 国政研の報告書と比較して、A 県の研修交流経験者の回答状況は 45.1%と、上位 9 番 目の項目となり、有益度が高い項目であることがわかった。 次に、国政研の報告書 31 項目のうち、教育委員会が意図的・計画的に実施できる項 目を選定すると「教育委員会・知事部局での勤務経験」や「行政研修」等 10 項目を挙 げることができ、それらを降順にまとめたものが表 4 である。 表 4 成長機会の有益度(教委差配可能項目) 教育委員会の差配で実施できる項目をまとめた理由は、本調査の目的が研修交流を 経験することで教頭の職能開発につながることを明らかにすることであり、教育委員 会が研修交流を効果的に活用することで、意図的・計画的に教頭の資質・能力の育成 を図ることができると考えているためである。上位項目である「副校長・教頭になっ てからの校長からの指導・支援」や「教員としての経験」等は主観的であり、個人差が 大きいことから人的資源管理の視点で施策を考えた場合、表 4 にまとめた項目を分析 することが有効であると考えた。 調査名 項目 回答数 本調査 教頭職における研修交流 32 ( 45.1% ) 71 教育委員会・知事部局での勤務経験 501 ( 66.3% ) 756 副校⻑・教頭になってからの校⻑からの指導・⽀援 1242 ( 61.9% ) 2007 教員としての経験 1233 ( 61.0% ) 2022 副校⻑・教頭としての⽇々の実践 1125 ( 55.8% ) 2017 副校⻑・教頭になる以前の校⻑・副校⻑・教頭の影響 970 ( 48.0% ) 2021 主任としての経験 882 ( 47.3% ) 1864 副校⻑・教頭になってからの校内の他の副校⻑・教頭との協働(複数配置の場合) 575 ( 46.1% ) 1246 他校の副校⻑・教頭との情報交換・アドバイス 908 ( 45.4% ) 2002 副校⻑・教頭としての仕事の振り返り 882 ( 44.0% ) 2005 主幹教諭・指導教諭・部主事としての経験 563 ( 41.8% ) 1347 国政研 調査 上位 10項目 とても 有益である 調査名 項目 回答数 経験度 本調査 研修交流 32 ( 45.1% ) 71 教育委員会・知事部局での勤務経験 501 ( 66.3% ) 756 0.37 副校⻑・教頭になってからの校内の他の副校⻑・教頭との協働(複数配置の場合) 575 ( 46.1% ) 1246 0.61 異動経験 724 ( 36.3% ) 1997 0.98 教育センター等での⻑期研修員としての経験 146 ( 36.0% ) 406 0.20 教員研修センターの学校組織マネジメント研修 268 ( 32.7% ) 819 0.40 大学院派遣研修 90 ( 29.4% ) 306 0.15 副校⻑・教頭になった後の⾏政研修 362 ( 26.6% ) 1359 0.67 副校⻑・教頭になる前の⾏政研修 292 ( 23.1% ) 1262 0.62 国立特別⽀援教育総合研究所の指導者研修 58 ( 22.5% ) 258 0.13 副校⻑・教頭になってからの教育委員会からの指導・⽀援 443 ( 22.0% ) 2011 0.99 国政研 調査 とても 有益である
197 国政研の報告書 10 項目の中から最も有益度の割合が高かった項目は「教育委員会・ 知事部局での勤務経験」、次いで「副校長・教頭になってからの校内の他の副校長・教 頭との協働(複数配置の場合)」という結果となった。一般的に人材育成の視点で実施 されている行政研修は教頭昇任前、後ともに 25%前後と有益度はかなり低い結果とな った。 A 県の研修交流経験者の回答状況は国政研の報告書と比較すると上位 3 番目の項目 となり、相対的にみても有益度が高い項目となることがわかった。国政研の報告書で は「異動経験」も上位項目となっているが、市内異動、広域人事異動や研修交流も含 めた数値となっているため、異動経験の中でも研修交流は有益度が高いことが明らか となった。 次に、各項目を経験度という視点で分析を行う。経験度とは、当該機会を経験した 人数を当該機会の全回答者(未回答を除く)で割って算出した数値であり、1 に近いほ ど多くの教頭が経験している項目となる。図 1 は、教育委員会が差配可能な 10 項目と 研修交流とを合わせた施策の有益度と経験度をまとめたものである。 図 1 施策における有益度と経験度の散布図 教育委員会が人的資源管理の視点で活用できる施策のうち、経験度が高い施策はそ れほど多くない。例えば、表 4 から最も有益度の高い「教育委員会・知事部局での勤 務経験」の経験度は「0.37」であり 10 名中 4 名弱しか経験できないことがわかる。研 修交流は運用の工夫で、経験度を意図的に高めることができると推察できるため、教 頭の資質・能力育成に向けた有効な施策となり得ると考える。その場合、一律に施策 として経験させるのではなく、各施策の有益度と経験度から、例えば教育委員会・知 事部局の勤務経験者は研修交流を免除できる等、教頭一人一人のキャリアに合わせて 他の施策と組み合わせることで、教頭の負担も少なく効率的な資質・能力の向上を図 ることができるのではないだろうか。 (2) 資質・能力の習得状況 国政研の報告書では、教頭の主な役割群を「校長補佐」、「教育者」、「教職員集団の 長」、「実務遂行者」、「地域連携の窓口」に分類し、これらの役割群に関連する教頭の 資質・能力と「豊かな人間性」に関する資質・能力について全 34 項目設定している。 そして各項目に対してどの程度習得しているかを「1:全く身に付いていない」、「2: 研修交流 ●
198 身に付いていない」、「3:どちらともいえない」、「4:ある程度身に付いている」、「5: とても身に付いている」の 5 件法で質問している。本調査でも同様の内容で調査し、 国政研の報告書と比較して研修交流がどの資質・能力の育成につながっているのかを 検証していく。 そこで、研修交流経験者全体の回答状況とともに、そのうち研修交流の有益度を肯 定的(「有益である」と「とても有益である」を合わせた数)にとらえた群 61 名と、 強い肯定(「とても有益である」と回答した数)にとらえた群 32 名の3パターンに分 けて資質・能力の習得状況の分析を行った。国政研の報告書全 34 項目の平均値と、上 記の3パターンの平均値を比較して、平均値が上回った項目数と下回った項目数とに まとめたものが表 5 である。 表 5 有益度別による資質・能力の習得状況 研修交流経験者全体では各項目とも報告書と比べて、大きく平均値が変わることが なかった。最も差が大きかった項目は「施設管理や会計管理に関する知識」で+0.26 ポイント、次いで「施設管理や会計管理に関する知識」が-0.23 ポイントであった。そ の他の項目は差が±0.20 ポイント未満であり、大きな差異は見られなかった。 次に、研修交流を肯定的にとらえた群(61 名)を対象に分析を行った結果、最も平 均値の差が大きかった項目は「施設管理や会計管理に関する知識」の+0.34 ポイント で、その他の項目は全て±0.20 ポイント未満であった。報告書と比べてプラスとなっ た項目が若干増加しているものの、研修交流経験者全体と比べて大きな差異は見られ なかった。 最後に、研修交流を強い肯定でとらえた群(32 名)を対象に分析し、差が±0.20 ポ イント以上ある項目を降順にまとめたものが表 6 である。 表 6 研修交流を「とても有益である」と回答した群の資質・能力の習得状況 対象は 7 項目あり、国政研の報告書と比較して強い肯定群はプラス項目が大幅に増 加し、平均値との差も大きくなっていることが明らかとなった。 差が最も大きかった項目は「施設管理や会計管理に関する知識」、次いで「経営ビジ ョンを構想する力」、「文書処理能力」という結果となった。「施設管理や会計管理に関 全体 肯定群 強い肯定群 回答数 72 61 32 上回った項目数 14 21 32 下回った項目数 20 13 2 差の絶対値 0.0734 0.0731 0.1600 国政研調査 回答数 平均値 平均値 施設管理や会計管理に関する知識 32 3.97 3.43 0.54 経営ビジョンを構想する力 32 4.03 3.64 0.39 文書処理能力 32 4.22 3.91 0.31 教育委員会と渉外・調整・連携する力 32 4.13 3.84 0.29 校内の協働的な雰囲気を作る力 32 4.16 3.89 0.26 校内外の情報を把握し整理する力 32 4.06 3.82 0.24 計画的な事務遂行能力 32 4.03 3.82 0.21 本調査 質問項目 差
199 する知識」の項目は、3 パターンの分析とも差が最も大きい項目であった。次に差が大 きかった「経営ビジョンを構想する力」は校長を補佐するために必要な資質・能力で あり、校長に必要とされる資質・能力でもある。また、「文書処理能力」は事務遂行能 力に位置付き、学校の調整役である教頭には特に求められる重要な資質・能力の 1 つ である。研修交流を経験することでこれらの資質・能力の育成につながっていること はとても興味深い。 次に、資質・能力を習得した要因について探っていく。研修交流を「有益」及び「と ても有益」と回答した 62 名にその理由を調査した。各項目に対して「1:全く思わな い」、「2:思わない」、「3:どちらともいえない」、「4:思う」、「5:とてもそう思う」の 中から選択を求め、平均値を降順にまとめたものが表 7 である。 表 7 資質・能力の習得に対する要因 表 7 から「校長や教頭等、管理職のネットワークが広がるから」が最も平均値が高 く、次いで「異動元の学校教育の良さや、改善点に気づくなど、視野が広がるから」、 「学校経営や学校組織の在り方について新たな視点を学ぶことができるから」と続く 結果となった。この 3 項目には、それほど大きな平均値の差異は確認できなかった。 管理職による学校間の情報収集が学校経営において大変重要なツールとなっている ことはすでに明らかとなっている。川上(2005b)は校長・教頭の人的ネットワークに着 目し、ネットワークが管理職にとってのソーシャル・キャピタルとして位置づいてい ることや、管理職が持つネットワークは、それぞれのキャリアパスに反映しているこ とを明らかにしている。本調査の結果からも研修交流が管理職のネットワークの構築 に貢献していることが示され、そのことが資質・能力の習得に何らかの影響を与えて いると推察される。 5. 結論 教頭における研修交流に着目し、「成長機会としての有益度」と「資質・能力の習得 状況」の観点で分析を行い、以下に示す知見が得られた。 第 1 に、研修交流を経験した教頭は、研修交流を成長機会として有益であると認識 している割合が高いことが明らかとなった。また、教育委員会の差配で実施できる施 策としては他の施策と比べても有益度が高く、かつ経験度も調整が可能なため、教頭 の研修として大変有効な施策となり得るものである。 第 2 に、研修交流を経験した教頭で有益度について強い肯定群は、教頭の資質・能 項目 回答数 平均値 校長や教頭等、管理職のネットワークが広がるから 62 4.66 異動元の学校教育の良さや、改善点に気づくなど、視野が広がるから 62 4.65 学校経営や学校組織の在り方について新たな視点を学ぶことができるから 62 4.60 地域と学校との関係について、新たな視点を学ぶことができるから 62 4.47 教委・外部機関と学校との関係について、新たな視点を学ぶことができるから 62 4.42 教員や事務職員等、人材のネットワークが広がるから 62 4.35 保護者・PTAと学校との関係について、新たな視点を学ぶことができるから 62 4.35 教育課程、学習指導、生徒指導、支援教育について新たな視点を学ぶことができるから 62 4.27
200 力の習得状況が国政研の報告書と比較してプラス方向に差が大きくなっていることか ら、研修交流経験者の認識として資質・能力の習得につながっていることが明らかと なった。 第 3 に、資質・能力の習得に影響を与えるものとして管理職の人的ネットワークの 構築にあることが明らかとなった。研修交流を経験することにより、ネットワークが 広がり、得る情報の量や質に変化があると推察される。管理職は学校経営上、必要な 情報を収集ことは大変重要な経営能力の 1 つであり、得た情報の取捨選択の判断によ り様々な資質・能力の習得につながっていると思われる。 以上のような知見から、教頭における研修交流を意図的・計画的に実施することで、 職能開発を促進するための手がかりとして、次の 2 つの示唆を提供する。 第 1 に、研修交流を教頭のキャリアパスに位置付け、研修交流を意図的・計画的に 促すことである。ただし、有益度と経験度の観点から、経験度は低いが有益度の高い 研修、例えば教育委員会や複数配置校の勤務や大学院派遣研修を経験している場合に は免除する等、複数の施策を組み合わせ、教頭のキャリアに合わせた施策を適応でき るような仕組みづくりが必要である。 第 2 に、研修交流がしやすい環境を都道府県と市町村の教育委員会が連携し整備す ることである。研修交流が有益度の高い研修であることが明らかとなったが、研修交 流が通常の人事異動の一環に位置づいていない都道府県も少なからずある。都道府県 によって若干時期は変わるが、今後世代交代が進み、若い人材が管理職に登用されて いく。現に、都市圏は世代交代が進行し、30 歳代で教頭になっている方も少なくない。 そういった場合、教頭として研修を受けられる期間が保障されるため、研修交流のよ うな期間は長いが資質・能力の育成に効果的が見込める研修は意図的・計画的に設定 しやすくなると考える。 今後の研究課題として、本調査では広域人事異動が限りなく少ない A 県を調査地域 とし、研修交流を経験した教頭に質問紙調査を行うことで国政研報告書の回答状況と 比較し検証を行ったが、今後は比較対象を A 県の研修交流を経験していない教頭に絞 って行うことでより正確な分析が可能になると考えている。さらに、統計的検定や多 変量解析を利用した分析を行うことで統計的考察を図り、研修交流が教頭の職能開発 に有効な手段となり得ることを詳細に究明していく必要があると認識している。 これまでの学術研究の状況から、教頭における職能開発は途上と言わざるを得ない。 しかし、教頭は紛れもなく学校において枢要な役職であることは言うまでもない。今 後、教頭に焦点を置いた学術研究がさらに深められることを祈念する。 6. 引用及び参考文献 1 A 県公立学校管理職員協議会「A 県公立学校管理職員名簿」2013-2019 2 植竹丘・国立教育政策研究所「県費負担教職員制度運用の多様性に関する調査研究」 『県費負担教職員制度運用の多様性に関する調査研究(研究代表者:渡邊恵子)』 P5-19、2019 年 3 大林正史・佐古秀一・江川克弘「将来の学校経営に必要とされる校長・教頭職の知 識・スキルに関する研究」、『鳴門教育大学学校教育研究紀要』第 29 号、P21-29、
201 2015 年 4 勝野正章「学校におけるリーダーシップ」小川正人・勝野正章『教育行政と学校経 営』NHK 出版、P205-219、2016 年 5 川上泰彦「公立学校教員の人事における事務と情報」『東京大学大学院教育学研究科 教育行政学研究室紀要』第 24 号、P1-19、2005 年 a 6 川上泰彦・妹尾渉「教員の異動・研修が能力開発に及ぼす直接的・間接的経路につ いての考察-Off-JT・OJT と教員ネットワーク形成の視点から」『佐賀大学文化教育 学部研究論文集』第 16 号、P1-20、2011 年 a 7 川上泰彦「学校管理職による情報交換と相談」『日本教育経営学会紀要』第 47 号、 P80-95、2005 年 b 8 国立教育政策研究所『副校長・教頭の職務状況に関する調査研究報告書(研究代表 者:大杉昭英)』2016 年 9 佐藤全・伊藤稔・茅島篤・坂本孝徳・高橋まゆみ・岩崎孝昭・高橋寛人・若井彌一 「教員の人事行政に関する研究」『日本教育行政学会年報』第 17 号、P149-162、1991 年 10 露口健司『学校組織のリーダーシップ』大学教育出版、P18-85、2008 年 11 露口健司「学校組織におけるチームリーダーシップと教師効力感の影響」『日本教 育経営学会紀要第 51 号』2009 年 12 藤原文雄「教頭職の職務と力量形成に関する研究」『静岡大学教育学部附属教育実 践総合センター紀要』、P121-135、2005 年 13 文部科学省「教育職員養成審議会答申」『教員の資質・能力の向上方策等について』 1987 年 14 文部科学省「教育職員養成審議会第 1 次答申」1997 年 15 文部科学省「中央教育審議会答申」『今後の地方教育行政の在り方について』1998 年 16 文部科学省「教育職員養成審議会第 3 次答申」1999 年 17 文部科学省「中央教育審議会答申」『チームとしての学校の在り方と今後の改善方 策』2015 年