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メキシコの労働運動にみる民主主義の課題(フォーラム)

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メキシコの労働運動にみる民主主義の課題(フォー

ラム)

著者

畑 恵子

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

ラテンアメリカレポート

24

1

ページ

1-1

発行年

2007-05-20

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00006024

(2)

他のラテンアメリカ諸国と同様に,メキシコでも労働組合の政治力が1980年代の経済危機とその後の新自由 主義改革のもとで大きく低下した。組織率(対就業者)は2003年には9.1%まで下がり,労働者を代表する下院 議員数も1988年の67人から2003年には21人まで減少した。そもそもメキシコの労働運動は「官製」と呼ばれ るように従属的で,特段強かったわけではない。しかし,昨今のさらなる凋落はこの数値が示すとおりである。 労働運動の劣勢は民営化,自由化政策だけでなく,労働運動のあり方にも起因する。メキシコの場合,主要組 織は労働者の現実問題よりも既得権の防衛を優先した。また,80年代末からの民主化過程での労働運動の貢献 はごく限られたもので,むしろ,労組の非民主的な慣行が批判され,その民主化が求められてきた。 1980年代までの運動は主にメキシコ労働者総連合(CTM)が率いた。それは製造業,石油産業などの労組が 加盟する最大の頂上団体であり,同時に制度的革命党(PRI)労働部会に包摂された政治制度の一部でもあった。 政治的支持の見返りに,組織労働者は社会保険,住宅資金,安価な生活物資などを享受し,労組指導者には政 治ポストも用意された。だが80年代に政府との特権的な関係は終わり,政府はCTMに揺さぶりをかけて黙従 を強いた。こうしてCTMは90年代の政府の改革推進に与し,労組のCTM離れが進んだ。 他方,独立系労組が勢いを増し,2000年には加入者数でCTMを上回った。しかし,その政治力は,現在も主 要産業を抑え,最低賃金委員会,労働者住宅基金,議会に代表権をもつCTMには及ばない。独立系の中心は 1997年に発足した全国労働者連合(UNT)である。UNTは電話労組,社会保険公社労組,国立自治大学労組を 主要組織とし,創設者エルナンデス・フアレスは労組のトップでありながら,電話公社の民営化に協力し組合の 経営参加権を獲得した経歴をもつ。UNTはまさに新自由主義の申し子的団体であり,労働者の経営参加,経営 者との協力,組織内民主主義などを骨子とする「新しい組合主義」を主張している。それは経営者団体やPAN (国民行動党)政権が唱導するところの新たな労働文化であり,CTMも1996年にこの労働倫理に合意した。 その他,電力労組のように民営化に抗する組織や,反新自由主義を掲げ社会運動と連携するものもある。ま た,動員力をもつ教員組合や社会保険公社組合などは政府にとって厄介な存在だ。だが視点を変えると,国際 競争の波にさらされにくい部門では労働運動が健在で,自由化のしわ寄せを最も強く受けている輸出産業では 労組の形骸化が進み,運動はほぼ停止状態にあるという二極化がみえてくる。PRI体制下では厳しい統制によ り独立系労組の組織化さえ難しかったことを思いおこせば,多様な労働組織が併存する今日的状況は「民主化」 の賜物といえるかもしれない。だが,労働省が労働運動を制御する仕組みが残され,運動が新自由主義時代の 労働倫理へと収斂していることなどに照らすと,非正規雇用などを含めた多様な利益がそこに代表されている かは疑わしい。近年,労働運動は社会運動におされ気味で,関心や期待も後者に向けられがちだが,労組にし か代表できない利害もあるはずであり,その役割が終わったわけではない。 もう一つ,労働運動に必要なのは組織内の民主化である。とりわけCTM系労組では不正,ボス支配が続き, 秘密投票さえも保障されない組織があるようだ。2002年11月の労働法改正案には労組の民主主義が謳われて いた。さまざまな思惑からこの提案は流れたが,CTMの反対理由の一つはこの点にあったといわれる。独立 系組織は労組内民主主義の実現を目標に掲げ,CTMを非難している。だがUNTの権威主義的体質を指摘する 向きもある。また,PANや経営者団体が既存の労組構造や有力指導者との関係を秩序維持に利用しているとの 見方もある。組織内での民主主義の定着は,労組が利益団体として再生するためにも,メキシコの民主主義の 今後にとっても喫緊の課題であろう。

メキシコの労働運動にみる民主主義の課題

畑 惠子(早稲田大学社会科学部教授)

参照

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