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認知症高齢者の早期発見に資するスクリーニングチャートの開発

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認知症高齢者の早期発見に資する

スクリーニングチャートの開発

Development of Screening Chart to Discover Elder

with Dementia at Early Stage

鷹野和美

TAKANO Kazumi

要 旨      1.はじめに

認知症高齢者の早期発見・早期ケア体制の確立   わが国の認知症高齢者は、2005年に約189万 は、介護保険の保険者でもある市町村にとって最  人、2025年には292万人に増加すると予測され 重要課題である。しかし、これまでの認知症ス  る。認知症は「脳や身体の疾患を原因として、記 ケールでは中程度以上の認知症を発見することが  憶、判断力等の障害がおこり、通常の社会生活が できても、早期の状態で発見することは困難で  送れなくなった状態」あるいは「認知能力の低下 あった。これまでの自記式のスケールでは病識の  により、日常生活に必要な最低限の行動管理がで ない早期の認知症者の発見は不可能であることか  きなくなった状態」と定義されるD。したがっ ら、筆者は、全く新しい視点、「他者による兆候  て、日常生活の多くの部面において、周囲からの の観察」による超早期発見の可能性について検討  支持・支援を要する認知症高齢者の増加は、介護i した。       家族の心身の疲弊を誘発し、地域社会に少なから 認知症患者を対象とする、後ろ向きコホート調  ぬ混乱を招き、ひいては介護保険の財源に影響を 査の結果、注目すべき13項目のチェックポイント  与えるものと考えられている。 が発見された。そのチェックポイントを用いて、   認知症の発症は、加齢性の変化や性格上の特性 郵送法による1次スクリーニングを実施するため  等として捉えられることが多く、症状の進行が緩 に、沖電気コニ業㈱のVal−CodeR(セキュアプリン  やかであるため、初期には見逃されがちな疾患で ト技術)を援用し、スクリーニングチャートを作  ある。初期段階の症状の見逃しによって、重度化 成した。      して初めて医療機関を訪れるケースや、介護者が スクリーニングを実施した結果、当該スクリー  孤立疲弊して初めて行政機関等の相談窓口を訪問 ニングチャートは、感度、特異度、正確度とも申  するケースが少なくない2)。認知症の早期発見・ し分なく、妥当性が証明された。しかも、Val一 早期対応の利点として、症状の進行の遅延効果、 CodeRの採用により、個人情報を保護した状態で  介護者の介護負担の軽減、(進行性であるため) 大量の高齢者のスクリーニングを簡便に行い得る  将来に対する対応や体制の準備、類似の他疾患と ことを実証した。      の鑑別診断、そしてそれらによる経済効果が挙げ られる3)。前述したとおり、認知症高齢者の増加 が不可避である以上、早期発見・早期対応の必要 *社会福祉学部教授

(2)

144      長野大学紀要 第28巻第2号 2006 表1 調査対象者の要介護度       (人) 要介護度 自 立 要支援 要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5 人  数 1 14 50 24 8 8 5 表2 調査対象者の日常生活自立度       (人) 自立度 1 Ha Hb 皿a 皿b IV

M

36 23 30 13 3 3 2 人  数 59 43 8 表3 家族構成 独  居 高齢世帯 子ども等と同居 計 (人) (人) (人) (%) 軽度 14 13 32 59 中度 6 9 28 43 重度 0 1 7 8 計 20 23 67 110 *認知症高齢者の日常生活自立度1、Haを軽度、 Hb、皿aを中 度、皿b、IV、 Mを重度とする 性については論を待たない。       いた対面調査を実施し、複数の症例に共通する重 ただし、現行の認知症テストとして一般的に用  要項目を抽出した。当該コホート調査の結果は、 いられる、改訂版長谷川式簡易認知症スケール  既刊の「地域医療福祉システムの構築」において (HDS−R)、かな拾いテスト等は、進行した中程  公表した6}。 度以上の認知症の確定診断には効果的であるが、   一時に多数の対象者に対してスクリーニングを 初期の認知症をスクリーニングするには不向きで  実施するためには、郵送法によるスクリーニング ある4〕。そこで、筆者は初期認知症をスクリーニ  チャートへの記入・回収が現実的である。前述の ングするための「認知症スクリーニングチャー  調査結果に基づいて作成したスクリーニングチ ト」の開発を実施した。      ヤートを用いて、個人情報の取り扱いに留意しつ        つ、低コストで、効果的にスクリーニングを実施2.対象と方法       するための方法の開発を行った。郵送式スクリー 対象として選定した地域は、人口約9000人、高  ニングチャートでは、郵送途中の紛失、予期せぬ 齢化率24.3%の農林業が主要産業の自治体であ  開封等により、認知症に関する情報が外部に漏れ る。当町において認知症の診断を受けて治療中の  る可能性を否定することができない。安全性と簡 高齢者110人(m33名、 f 77名)を対象として、  便性を確保しつつ、実施者が項目を自由に加除す 後ろ向きコホート調査(retrospective cohort study) ることが可能で、改ざんを検出する能力を有す を実施した(表1.2.3)。後ろ向きコホート研  る、沖電気工業㈱のVal−CodeR(セキュアプリン 究は、現疾患について、過去の記録、インタビ  ト技術)を使用した。 ユー凾ノより危険因子を決定する疫学調査方法で      3.結果ある‘)。認知症高齢者の家族・親族、近隣の住民 等に対して、認知症高齢者の「最初の変化」に気   110人の認知症高齢者の後ろ向きコホート調査 ついたきっかけとその時期について、質問紙を用  によって、初期症状として共通する重要な13点が

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表4 初期症状に共通する13項目 1.記憶があやふやである (1)何度も同じことを聞いてくるようになった (日付、曜日、物をしまった場所など) (2)客からのことづけを忘れることがある。 (3)人や物の名前が思い出せず、「あれ」「これ」ということが目立つ (4)思い出すのに時間がかかるようになった (5)置き忘れやしまい忘れが目立つ (6)約束したことや頼んでおいたことをすぐ忘れる (7)薬の飲み忘れ、余計に飲む、間違って飲むことが目立つ (8)ガスの消し忘れ、水道の蛇口の閉め忘れなどが目立つ 2.今までできていたことが思うようにできなくなっている (1)今までできていた食事が段取りよくできなくなってきた ・食事のメニューが同じものばかりになってきた ・いつも作っていたものがうまく作れなくなった、など (2)今まで使っていたものがうまく使えなくなった (ストーブやテレビなどの電化製品など) (3)お金などの計算が思うようにできなくなった (4)テレビドラマの筋が理解できなくなった (5)計画を立てて行動ができなくなった 挙がった(表4)6)。本調査で回答者を家族と周囲   両自治体において実施したプレテストにおい の人、特に幼馴染としたのは、従来の生活ぶりを  て、対象者の25.5%と25.2%の超早期認知症を疑 よく知る人・々でなければ、超早期の微細な変化の  われる人々をスクリーニングした。この結果は、 兆しを捕らえることは不可能であると考えた故で  一般的に知られている認知症の罹患率12%程度を ある。病識の全くない超早期の認知症高齢を対象  大きく上回る数字である。つまり、罹患者の半数 に、自記式チャートを用いてスクリーニングを実  近くは、周囲にそれと知られずに、いわゆる暗数 施するのでは、全員が正常という結果が出るだけ  と化しているのである。しかし、要精査群のう で、スクリーニングとしての意味がない。した  ち、認知症は約70%程度であり、30%は甲状腺機 がって、本研究では観察型のスクリーニングチ  能低下症、老人性欝状態等の類似疾患であること ヤートの開発に拘ったのである。        が判明した。これも、非常に重要な知見であり、 観察型スクリーニングチャートの用紙には、沖  早期に鑑別診断をし、その診断結果に応じた治療 電気工業株式会社のVal−CodeRを用いた。 Val一 を実施することが可能となる。本別町におけるス CodeRを使用した、認知症早期発見スクリーニン  クリーニング結果を図2に示した。スクリーニン グチャートを図1に示した。Val−CodeRは用紙の  グでは、 TP(true positive)=17、 FN(false negative) 灰色の地紋に、対象者の住所、氏名等の基本属性  =1、FP(false positive)=8、TN(true negative)= に関する情報を埋め込むことができ、観察者の  74であり、妥当性を表す指標は、感度(sensitiv一 マーキングの位置を広範囲に指定し、読み取るこ  ity)=94.4、特異度(speci且city)=90.2、正確度 とができる。通常の紙ベースの記入用紙や、  (overall accuracy)=91.0であった。スクリーニン OCR方式等では、基本属性を紙上に書かなけれ  グは、安価に大量の対象者に実施でき、正確かつ ば集計できないため、第三者にとっても個人の特  簡便でなければならない。本方法によるスクリー 定が容易であるが、Val−CodeRでは、専用のスキ  ニングの妥当性、検出力は評価されるところであ ヤナーを通してPCで読み込まない限り、地紋に  る7)。 埋め込まれたデータを検出することはできない。

(4)

146      長野大学紀要 第28巻第2号 2006 .。@㈱妃万p阿。難器蹴        雛。部.。口1灘,繋羅欝叢凄繋 c…講1嬰霜li灘   ‘lll競1諜黙

難職撚墜状、懸隣当凝鋸藩馨潟が謄

@   謬家族がお獄けくだ警騨 ’“‘F賦゜?ォ、ト圧 …諜鐸…   。.庫  百        卍 汚m薫鞭よ驚藩嘘状ぼ、痴呆の始まりのころに比較麟よく見ら麓ています。 勲辮磐琳鰯劉織るものや特に目灘麟鰍醐灘場森感、省の欄にレ点をつけてください。調査の参考に暴 斡蒙す¢耀、ご協力お願いします。    講il. P 卯     、  祝 P 口 尻、1阿    1欝 p…一

臨   韓熱羅・謙

石       需 鋸「諜1. 1,難懸瀞あやふや糠ある。      ・ ωi鱒度も同じ盈葱奮聞いてくるようになった       口当てぽま惹  隣特に圏立つ 諜羅穎付、曜個、物をしまった場所など) ㈱難菰や物の名前力偲い出せず、「あれ」「これ」と書うことが冒立つ  園錨饗はまる  臼特に冒立つ 2   9 島 犠雛愚い出すのに時間がかかるようになった      [ヨ墨てはまる  口特に臣立つ 〈嚇繕置き忘れやじまい忘蒙しが掻立つ       羅】i肇癒はまる   [コ特に醤立つ ㈲ 約束したことや頼ん懸おいたことをすぐ忘れる         薗当ではまる  口特に昌立つ (7)薬の飲み忘れ、禁書鷺こ飲む、間違って飲むことが田立つ      口当てはまる  口特に蔚立つ 18)ガ蒸の溝し忘総、幾遊の蛇露の閉め忘れなどが園立つ      口当てはまる  図特に目立つ 2.今ま懸饗き鷲鱒だ義毒が思うようにできなくなっている. (1>今ま懸饗き《騰捲食箏が段取穀よくできなくなっ.てきた      目蓋てはまる  □特に目立つ ・食事のメ轟灘一が岡じものばかりになってきた ・いつも作っ悪い海ものがうまく作れなくなった、など (2)今ま饗使っでいだ庵のがうまく使えなくなった         [コ当てはまる  [コ特に目立つ (ストーブや努鎗毬などの電琵機器など) ㈲ お金などの誹算熱愚うようにできなくなった       口当てはまる  口特に冒立つ (4)テレどドラマの筋が理解できなくなった      [コ当てはまる  口特に自立つ ㈱一欝画蓬立で羅行動ができなくなった      {コ豊てはまる  [コ特に題立つ 図1 Val−CodeRを使用した、認知症早期発見スクリーニングチャート 用い、2次スクリーニング、もの忘れ外来受診、

TP

FP

専門医コンサルテーション、治療開始、という段

17

8

階的システムを採用している(図3)。そのう ち、本別町と三原市では、筆者が政策アドバイ

FN

TN

ザーとして早期発見システムの開発に関ってい 1

74

る。 これまでにも、早期発見の重要性は認識され、 図2 本別町におけるスクリーニング結果 (人)   必要性が叫ばれてきたが、妥当性のあるスクリー ニング方法は確立されてこなかった。多くの場       合、プライバシーに配慮するあまり、自記式を採4.考察      用しようとし、ごく初期段階の高齢者はそのスク 現在の認知症高齢者の早期発見事業は、実験的  リーニングをすり抜けてしまっている。本研究で に、北海道本別町、広島県三原市、尾道市等で取  採用した観察式は、後ろ向きコホート調査に基づ り組まれている3)。それらの自治体では、1次ス  いて検出したチェック項目を、他者の観察によっ クリーニングに同様のスクリーニングチャートを  て採点するものであって、その点で早期の発見を

(5)

1次スクリーニング 郵送法 ↓異常なし ↓要精査 毎年郵送 2次スクリーニング 改定長谷川式認知症スケール等 ↓異常なし ↓軽度 ↓ 要診断 毎年郵送 生き甲斐デイ もの忘れ外来 サービス等 CT、 MRI等 ↓軽度 ↓ 要専門科受診 認知症専門デイ 精神科、神経科等 サービス等 ↓要治療 1精神科にて加療 2かかりつけ医が加療 3 グループホーム 図3 認知症早期発見・早期ケア体制 (モデル) 可能にした。また、スクリーニングとして、感       5.謝辞度、特異度、正確性ともに高水準のものであっ た。      本研究にご協力いただいた、北海道本別町、広 そうして決定した調査項目を、特殊加工を施し  島県三原市、ならびにご協力いただいた両自治体 た用紙(Val−CodeR)に印刷し、配布・回収する  の住民の方々に感謝します。特許商品を快くご提 ことによって、調査途上やその後の個人情報の漏  供いただいた沖電気工業㈱にも深謝いたします。 洩に抑止効果が期待される。本別町では60才の誕 生日から毎年、当該スクリーニングチャートが郵  参考文献        1)八森淳「痴呆症の診断・治療・ケアのための地域送されるシステムを採用している。少しでも早期      ネットワークづくり一プライマリケア・家庭医療・ に発見し・治療ルートに乗せることで・認知症の   地域医療の専門的アプローチ_」治療,V。1.86 症状の悪化を防止し、介護問題を軽減し、介護保   N。.5:167.173,2004. 険の予算をセーブすることが可能となる。     2)北海道本別町「在宅の痴呆性高齢者に対するやす 認知症の早期発見、早期ケアは、全ての自治体   らぎ支援事業のあり方に関する調査研究事業報告 の重要課題であるが、スクリーニングを実施する   書』平成16年度老人保健健康増進等事業・2005・        3)中島民恵子、鷹野和美.「自治体における認知症支ためには、その後の2次スクリーニング、外来受      援施策のあり方に関する研究一早期発見・対応を焦 診・専門医受診・認知症専門デイサービス等のシ   点に」介護福祉学(投稿中)、日本介護福祉学会. ステマチックな展開が不可欠である。スクリー二   2006. ングのみを実施しようと計画している自治体もあ  4)鷹野和美.「効果的な介護予防の方法に関する研究 るが、その後の支持体制が整備されないままに実   報告書』.JA広島中央会受託研究2006. 施することは、いたずらに高齢者と介護i者の不安  5)」ane L・Garb・Understanding Medical Research−A prac一       titioner’sGuide−. Little, Brown and Company,1996.をかきたてるだけで、効果は認められないばかり       6)鷹野和美『地域医療福祉システムの構築』中央法か危険でさえある。行政担当者には、正確なスク      規出版、東京、2005. リーニングの実施と支援体制の構築を同時に整備  7)津崎晃一『メディカル・リサーチの真髄』メディ していっていただきたい。       カル・サイエンス・インターナショナル、東京、 1998.

参照

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