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鉄鋼業の環境負荷集約度と財務効果に関する研究 : 「新日鉄」のゼロエミッション取組みの分析を中心に

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鉄鋼業の環境負荷集約度と財務効果に関する研究 :

「新日鉄」のゼロエミッション取組みの分析を中心

著者

劉 博

雑誌名

埼玉学園大学紀要. 経営学部篇

12

ページ

127-136

発行年

2012-12-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1354/00000433/

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ことから、廃棄物問題への積極的な対応が求 められている。  さらに、日本鉄鋼業は、鉄鉱石と石炭など の主要な鉄鋼原料の海外依存度がほぼ100% になっており、資源価格の急高騰や国際競争 の激化を直面するなか、ゼロエミッションへ の取組みを通じて資源生産性3)を高め、コス ト競争力を向上させることが緊急な経営課題 となっている。  こうした背景のもとで、本稿では、日本の 鉄鋼業を代表する新日本製鐵株式会社(以下、 「新日鉄」と称す)を対象に、ゼロエミッショ ン取組みの効果としての副産物・産業廃棄物 の環境負荷集約度の経年変化を分析し、それ にかかわる産業廃棄物処分コストおよび副産 1.はじめに  近年、日本では産業廃棄物1)処理問題が顕 在化しつつある。2009年度における産業廃棄 物最終処分場の新規許可件数が14件で、1997 年の廃棄物処理法改正以後では最も少なく、 最終処分場の残余容量が逓減しているのが現 状である。  日本における2009年度の産業廃棄物排出量 を見ると、鉄鋼業からの排出量は24,898万ト ンで、日本全体の389,746万トンの約6.4%を 占めている2)  鉄鋼業は鉄鉱石、石炭などの天然資源を大 量に投入し生産活動を行い、大量かつ多種の 副産物を発生させるという特性を持っている

─ 「新日鉄」のゼロエミッション取組みの分析を中心に ─

Environmental Impact Intensity and Financial Effect in the Steel Industry

Mainly at the Zero-emission of Nippon Steel Corporation

劉     博

LIU, Bo  日本鉄鋼業は、廃棄物処理場の逼迫や鉄鉱石・石炭などの資源価格の急高騰を直面す るなか、ゼロエミッションへの取組みを通じて資源生産性を高め、コスト競争力を向上 させることが緊急な経営課題となっている。本稿は、「鉄鋼業企業のゼロエミッション取 組みは、副産物および産業廃棄物の環境負荷集約度を改善し、産業廃棄物最終処分にか かわるエンドオブパイプ型の環境対策コスト負担の軽減を通じて、会社財務へプラスの 効果をもたらす」という仮説を示し、新日本製鐵株式会社の2001年度から2010年度まで のゼロエミッション取組みについて考察し、副産物と産業廃棄物の環境負荷集約度の経 年変化および財務効果について実証分析したものである。 キーワード : 鉄鋼業、環境負荷集約度、財務効果、ゼロエミッション、ポーター仮説

Key words : the steel industry, environmental impact intensity, financial effect, zero-emission, the porter hypothesis

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コストの一部あるいは全額以上を相殺するイ ノベーション・オフセット7)を引き起こす」8) と主張し、さらに「多くの場合、イノベーショ ン・オフセットによる環境汚染の改善は、必 ず資源生産性の向上に伴って生ずることが広 く認められるだろう」9)と指摘している。す なわち動学モデルにおいて環境投資が時間の 経過とともに資源利用の効率性を高める技術 革新を引き起こし、初期投資コストを相殺で きるコストダウン効果をもたらす、というこ とである。この考え方は、一般に、「ポーター 仮説」と呼ばれている。  しかし、この「ポーター仮説」をめぐって、 支持する研究と支持しない研究が存在し、ま だ一致した結論に収束していない。たとえば、 Brannlundらは、スウェーデン製造業の実証 分析を用いて「ポーター仮説」が成立しない10) ことを示した。  筆者は、業種間における環境制約とそれに かかわる環境対策に差異が存在することから、 分析対象の業種および環境対策の具体的な分 野を限定した事例研究が必要不可欠と考える。 したがって、本稿では、「鉄鋼業企業のゼロエ ミッション取組みは、副産物および産業廃棄 物の環境負荷集約度を改善し、産業廃棄物最 終処分にかかわるエンドオブパイプ11) 型の環 境対策コスト負担の軽減を通じて、会社財務 へプラスの効果をもたらす」という仮説を示 し、「新日鉄」を対象に実証分析を試みる。 3.分析の対象と手法 3.1 分析対象企業の基本特性  鉄鋼業は鉄鉱石、石炭などの天然資源を大 量に投入し生産活動を行い、大量かつ多種の 副産物を発生させるという特性を持っている。 「新日鉄」は、日本粗鋼生産量の約3割12) 物の資源化のための設備投資額の経年変化と 対比させ、ゼロエミッション取組みの財務効 果について試算・考察する。  本稿の構成は以下のとおりである。「2. 先行研究」では、「ゼロエミッション」の概念、 資源生産性と企業の競争力との関係に関する 先行研究について概観し、本稿の仮設を提示 する。「3.分析の対象と手法」では、分析 対象企業の特性、分析で使用する環境負荷集 約度指標の概念および分析データの対象範 囲・期間について整理する。「4.「新日鉄」 のゼロエミッション取組みの分析」では、「新 日鉄」の2001年度から2010年度までのゼロエ ミッション取組みについて考察し、副産物と 産業廃棄物の環境負荷集約度の経年変化およ び財務効果について実証分析する。「5.お わりに」では、本稿のまとめおよび今後の課 題について述べる。 2.先行研究 2.1 ゼロエミッション  ゼロエミッション(Zero Emission)とは、 国連大学4)が1994年に提唱した資源循環型の 社会システムの構想である。狭義には、企業 の生産活動から排出される廃棄物のうち最終 処分5)量をゼロにすることを指す。  日本では、廃棄物処理場の逼迫6)と資源制 約問題の顕在化を背景に、特に製造業企業が 製造過程で発生する副産物の資源化を通じて 資源生産性を高め、ゼロエミッションを積極 的に取り組んでいるのである。 2.2 ポーター仮説  資源生産性と企業の競争力との関係につい て、ポーター(マイケル・E・ポーター)は、 「適正に設計された環境規制は、そのための

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3.3 財務分析指標  本稿では、財務分析の指標として、主に廃 棄物1トンあたりの処理コストを使用する。 ゼロエミッション取組みの財務効果の試算に おいては、資源循環設備投資額と廃棄物処理 コストの両方を使用する。 3.4 分析データ  本稿で取り扱うデータは主に物量データと 財務データの2種類である。物量データは以 下のとおりである。  a.粗鋼生産量(単位:万トン)、b.廃 棄物最終処分量(単位:万トン)、c.副産 物発生量(単位:万トン)  財務データは以下のとおりである。  a.産業廃棄物処理コスト(単位:億円)、  b.資源循環設備投資額(単位:億円)  本稿では、ゼロエミッション取組みの成果 を分析する際、上記物量データと財務データ 以外に、「副産物社内利用率」「外部委託リサ イクル率」および「廃棄物最終処分率」の3 つの指標も合わせて使用する。  粗鋼生産量との対応関係を明確にするため に、本稿で取り扱うすべてのデータは「新日 鉄」単体のものである。分析データの集計対 象期間は2001 ~ 2010年度の10年間で、集計 範囲は、以下のとおりである。  a.「有価証券報告書」(2001 ~ 2010年度)、 b.「アニュアルレポート」(2001 ~ 2010年 度)、c.「環境社会報告書」(2001 ~ 2010年 度)、d.「新日鉄ガイドブック」(2001 ~ 2010年度) 占め、生産規模が最も大きい鉄鋼会社である。 2010年度において、「新日鉄」の粗鋼生産量が 3,299万 ト ン、 副 産 物 発 生 量 が1,992万 ト ン、 産業廃棄物最終処分量が29万トンとなってお り、環境負荷が非常に大きいことが分かる。 3.2 環境負荷集約度指標  環境負荷集約度とは、事業活動1単位あた りの環境負荷量のことで、環境への配慮と経 済の成長との両立を測る指標である13)。環境 負荷集約度の計算式は以下のように表される。 環境負荷集約度= 環境負荷/事業活動量  環境省『環境会計ガイドライン(2005年版)』 では、上記計算式の環境負荷量の具体例とし て、温室効果ガス排出量、廃棄物排出量、化 学物質排出量を挙げており、事業活動量の具 体例として、付加価値14)と販売額を挙げてい る15)  鉄鋼業のゼロエミッション取組みの分析に おいて、副産物の資源化量と産業廃棄物最終 処分量と緊密に関連していることから、本稿 では、分析に使用する環境負荷集約度の分子 ―環境負荷―の指標として、「副産物」と「産 業廃棄物最終処分」の2つに区別して使用す ることとする。  また、鉄鋼製品の価格変動幅が大きい16) とから、本稿では、環境負荷集約度の分母― 事業活動―の指標として、「付加価値」の代わ りに「粗鋼生産量」を使用することとする。  具体的には、「副産物」に関する環境負荷集 約度のことを「粗鋼1トンあたりの副産物発 生量」、「産業廃棄物最終処分量」に関する環 境負荷集約度のことを「粗鋼1トンあたりの 産業廃棄物最終処分量」と表す。

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のは鉄鋼スラグ19)、ダスト20)とスラッジ21) あるため、製造プロセスの原料や原燃料の代 替材として利用することは、資源投入量の抑 制と廃棄物の削減につながる。このように副 産物の資源化を通じて産業廃棄物最終処分量 を抑制する取組みは、「新日鉄」の社内ゼロエ ミッションである。 4.2 「新日鉄」の産業廃棄物最終処分量の分析  図表4.2.1は、「新日鉄」における廃棄物最終 処分量、粗鋼1トンあたりの廃棄物最終処分 量および対2001年度比の経年変化を示したも のである。  図表4.2.1からは以下の特徴が見られる。  まず、「新日鉄」の廃棄物最終処分量は、 2001年度の51.1万トンから2010年度の29.4万 トンまで減少した。特に、2009年度の廃棄物 最終処分量が26.8万トンで、分析対象期間の 10年間において最も少なくなっており、2001 年度と比較して約4割超の改善を実現したこ とが分かる。  次に、粗鋼生産量の経年変化を考慮した環 4.「新日鉄」の社内ゼロエミッションの 分析 4.1 鉄鋼業における資源循環の取組みと「新 日鉄」の社内ゼロエミッションの概要  日本では、廃棄物処理場の逼迫や資源制約 問題の顕在化などを背景に、2000年に「循環 型社会形成推進基本法」と「資源有効利用促 進法」が成立した。さらに2010年に「改正廃 棄物処理法17)」が施行され、産業における資 源循環・廃棄物削減の取組みが一層求められ るようになったのである。  こうした背景のもとで、鉄鋼業は副産物の 社内利用率の向上や産業廃棄物最終処分ゼロ を目指し、いわゆるゼロエミッション取組み を強化している。  鉄鋼業は、鉄鉱石と石炭など大量の物質を 投入し生産を行い、大量かつ多種な副産物を 発生させるという特性を持っている。たとえ ば、「新日鉄」の場合は、粗鋼1トンの製造か ら600kg超の副産物が発生する18)。鉄鋼の生 産工程で発生する副産物のほとんどを占める 図表4.2.1 「新日鉄」における廃棄物最終処分量の経年変化 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 A:廃棄物最終処分量 (万トン) 51.1 43.2 42.6 30.4 35.1 38.2 35.1 28.9 26.8 29.4 B:粗鋼生産量(万トン) 2,614 2,990 3,014 3,043 3,167 3,167 3,363 2,900 2,803 3,299 C:粗鋼1トンあたりの 廃棄物最終処分量(kg)=A/B 19.55 14.45 14.13 9.99 11.08 12.06 10.44 9.97 9.56 8.91 D:対2001 年度比(%) 100% 74% 72% 51% 57% 62% 53% 51% 49% 46% 0.00 2.00 4.00 6.00 8.00 10.00 12.00 14.00 16.00 18.00 20.00 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 出所:「新日鉄」『環境社会報告書』2001∼2010年度版のデータに基づいて作成

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象期間の10年間においてその減少の傾向が鮮 明なものではなかったものの、粗鋼生産量の 経年変化を考慮した環境負荷集約度の指標で ある「粗鋼1トンあたりの副産物発生量」は、 2001年度の0.67トンから2010年度の0.60トン まで減少した。特に2009年度と2010年度は、 対2001年度比90%を達成し、副産物の環境負 荷集約度が10%以上の改善を実現したのであ る。  「新日鉄」における副産物の環境負荷集約 度の改善の背景として、高炉スラグ、ダスト およびスラッジの事業所内原料としての利用 率の上昇が主因であると考える。その証左は、 図表4.3.2で示されている。  図表4.3.2は、「新日鉄」の副産物社内利用 率、外部委託リサイクル率および廃棄物最終 処分率の経年変化を捉えたものである。  図表4.3.2からは以下の特徴が見られる。  まず、「新日鉄」の副産物社内利用率は、 2001年度の28%から2010年度の40%まで上昇 したのである。その背景に、スラッジの社内 境負荷集約度の指標である「粗鋼1トンあた り の 廃 棄 物 最 終 処 分 量 」 は、2001年 度 の 19.55kgから2010年度の8.91kgまで継続的に 減少した。特に2010年度は、対2001年度比 46%減を達成し、廃棄物の環境負荷集約度の 大幅な改善を実現したのである。  「新日鉄」における廃棄物の環境負荷集約 度の大幅な改善の背景として、生産過程で大 量に発生する副産物の資源化率の向上の貢献 が大きいと考えられる。したがって、「新日鉄」 の副産物発生量の経年変化について分析し、 その特徴について考察する必要があると考え る。 4.3 「新日鉄」の副産物発生量・副産物社内 利用率の分析  図表4.3.1は、「新日鉄」における副産物発生 量、粗鋼1トンあたりの副産物発生量および 対2001年度比の経年変化を示したものである。  図表4.3.1からは以下の特徴が見られる。  まず、「新日鉄」の副産物発生量は、分析対 図表4.3.1 「新日鉄」における副産物発生量の経年変化 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 A:副産物発生量(万トン) 1,760 1,855 1,885 1,954 2,053 2,058 2,075 1,758 1,674 1,992 B:粗鋼生産量(万トン) 2,614 2,990 3,014 3,043 3,167 3,167 3,363 2,900 2,803 3,299 C:粗鋼1トンあたりの 副産物発生量(トン)=A/B 0.67 0.62 0.63 0.64 0.65 0.65 0.62 0.61 0.60 0.60 D:対2001 年度比(%) 100% 92% 93% 95% 96% 97% 92% 90% 89% 90% 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 出所:図表4.2.1と同じ

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よび対2001年度比の経年変化を示したもので ある。  図表4.4.1からは以下の特徴が見られる。  まず、「新日鉄」の産業廃棄物処理コストの 総額は2001年度の33億円から2010年度の58億 円へと増加傾向にあることが分かる。  次に、廃棄物最終処分量の経年変化を考慮 した「廃棄物1トンあたりの処理コスト」は、 2001年 度 の6.46千 円 か ら2010年 度 の19.73千 円に3倍以上の高騰を見せているのである。  これまでの分析を踏まえ、「新日鉄」におけ るゼロミッション取組みを通じた産業廃棄物 最終処分量の削減は、それにかかわる処分コ ストの削減にプラスの働きがあると考える。 本稿では、「新日鉄」における廃棄物の環境負 荷集約度が2001年レベル(粗鋼1トンあたり の産業廃棄物最終処分量が19.55kg)に停滞 したと仮定した場合、2002年度以後における 廃棄物処理コストの増加額は、2002年度約 10.6億 円23)、2003年 度 約10.4億 円、2004年 度 約27.8億円、2005年度約30.6億円、2006年度 約31億円、2007年度約48億円、2008年度約50 億円、2009年度約57億円、2010年度約69.2億円、 資源化率の大幅な上昇が緊密に関連している と考えられる。実際には、スラッジの2010年 度の資源化率は87%で、2001年度の67%と比 較して10%超の上昇となっているのである。  結果として、副産物の社内資源化率の上昇 に伴い、廃棄物最終処分率は2001年度の3% から2010年度の1%へと大幅に改善している ことが分かる。  次に、図表4.3.2から見られるもう一つの大 きな特徴は、外部委託リサイクル率の低下で ある。その背景には、廃棄物処理場の逼迫に よる処理コストの高騰や資源制約問題の顕在 化による副産物の社内資源化ニーズの高まり が考えられる。そのため「新日鉄」における ゼロエミッション取組みを通じた副産物・産 業廃棄物の環境負荷集約度の改善は、会社財 務へどのような影響を与えているかを考察す る必要があると考える。 4.4 「新日鉄」の産業廃棄物処理コスト・財 務効果の分析  図表4.4.1は、「新日鉄」の産業廃棄物処理コ スト22)、廃棄物1トンあたりの処理コストお 図表4.3.2 「新日鉄」の副産物社内利用率の経年変化 出所:図表4.2.1と同じ 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 副産物社内利用率 28% 28% 26% 26% 30% 30% 30% 30% 36% 40% 外部委託リサイクル率 69% 70% 72% 72% 68% 68% 68% 68% 62% 59% 廃棄物最終処分率 3% 2% 2% 2% 2% 2% 2% 2% 2% 1% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

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 334.6億円の廃棄物処理コスト削減を、図 表4.4.2で示されている2002年度から2010年 度までの9年間の資源循環設備投資合計額の 409億円と比較すると、約74億円の赤字とい う試算となるが、2001年までに未完了の減価 9年間合計して約334.6億円の試算となるの である。すなわち、2002 ~ 2010年度におけ る「新日鉄」のゼロエミッション取組みは、 会社財務に334.6億円のプラス効果をもたら したと考えることができる。 図表4.4.2 「新日鉄」の資源循環設備投資額の経年変化 図表4.4.1 「新日鉄」の産業廃棄物処理コストの経年変化 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 資源循環設備投資 (億円) 14 59 12 136 29 16 79 78 0 0 対2001 年度比(%) 100% 421% 86% 971% 207% 114% 564% 557% 0% 0% 0% 200% 400% 600% 800% 1000% 1200% 0 20 40 60 80 100 120 140 160 出所:図表4.2.1と同じ 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 A:産業廃棄物処理コスト (億円) 33 30 27 29 40 50 55 52 55 58 B:廃棄物最終処分量 (万トン) 51.1 43.2 42.6 30.4 35.1 38.2 35.1 28.9 26.8 29.4 C:廃棄物1トンあたりの 処理コスト(千円)=A/B 6.46 6.94 6.34 9.54 11.40 13.09 15.67 17.99 20.52 19.73 D:対2001 年度比(%) 100% 108% 98% 148% 176% 203% 243% 279% 318% 305% 0% 50% 100% 150% 200% 250% 300% 350% 0 10 20 30 40 50 60 70 出所:図表4.2.1と同じ

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コスト負担の軽減を通じて、会社財務へプラ スの効果をもたらす」という仮説は、「新日鉄」 を対象とした事例分析で実証できたのである。  しかし、ゼロエミッション取組みのための 資源循環対策の設備投資は、特に初期投資段 階においてコスト増の要因となる。中国・イ ンドなどの新興国との国際競争が激化するな か、日本鉄鋼業のコスト競争力の低下に追い 打ちをかける可能性が潜んでいる。資源価格 の急高騰を直面している日本鉄鋼業は、副産 物資源化の段階からさらに遡って鉄鉱石と石 炭の投入段階における資源生産性の向上のた めの施策が求められる。鉄鋼業における主要 な原料の資源生産性の改善と財務効果に関す る分析と検証を今後の研究課題にしたい。  中国など新興国において鉄鋼生産力の集積 が進み、産業廃棄物問題をはじめとする環境 問題が深刻化している。本稿が、日本鉄鋼業 の環境対策と財務効果の実証研究として、新 興国における鉄鋼業の環境負荷集約度の改善 必要性の認識を高める契機となれば幸いであ る。 注) 1)産業廃棄物とは、事業活動に伴って生じた廃棄 物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカ リ、廃プラスチック類その他政令(廃棄物処理法 施行令第2条)で定める廃棄物をいう(廃棄物処 理法第2条第4項)。 2)環境省『環境白書』平成24年版 第2部 第3 章 第1節 廃棄物等の発生、循環的利用及び処 分の現状 3)資源生産性とは、生産量や売上高などの財務指 標を、生産過程に投入した資源の量で割って求め る指標で、資源利用の効率性を測るものである。 4)国連大学とは国際連合大学(United Nations 償却および副産物資源化による鉄鋼原料投入 量の削減の効果を考慮に入れた場合は、資源 循環設備投資額との差額がより小さくなると 考えることができる。  さらに、2002年度以降のゼロエミッション 取組みの財務効果の試算では、廃棄物処理コ ストの削減額が2002年度の約10.6億円から 2010年度の約69.2億円へ加速度的に逓増して いることが確認できるため、中長期における 資源循環設備投資との相殺が十分可能である と考える。したがって、本稿で示した「鉄鋼 業企業のゼロエミッション取組みは、副産物 および産業廃棄物の環境負荷集約度を改善し、 産業廃棄物最終処分にかかわるエンドオブパ イプ型の環境対策コスト負担の軽減を通じて、 会社財務へプラスの効果をもたらす」という 仮説は、「新日鉄」を対象とした事例分析を通 じて実証できたのである。 5.おわりに  日本鉄鋼業は、廃棄物処理場の逼迫や鉄鉱 石・石炭などの資源価格の急高騰を直面する なか、ゼロエミッションへの取組みを通じて 資源生産性を高め、コスト競争力を向上させ ることが緊急な経営課題となっている。  本稿では、「新日鉄」の2001年度から2010年 度までのゼロエミッション取組みについて考 察し、副産物と産業廃棄物の環境負荷集約度 の経年変化および財務効果について分析した。 その結果、同期間における環境負荷集約度の 改善による廃棄物処理コストの節約額が 334.6億円にのぼると試算できたのである。  本稿で示した「鉄鋼業企業のゼロエミッ ション取組みは、副産物および産業廃棄物の 環境負荷集約度を改善し、産業廃棄物最終処 分にかかわるエンドオブパイプ型の環境対策

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いて試算した結果である。 19)高炉や鋼製造工程で発生する副産物のことで、 「高炉スラグ」と「製鋼スラグ」の2種類に分かれ る。高炉スラグとは、高炉で溶融した鉄以外の成 分である。製鋼スラグとは、鋼製造工程で鋼以外 の成分である。 20)製造工程で集塵機に捕集される微粉類のことで ある。 21)水処理時発生する汚泥やメッキ液処理の残さの ことである。 22)産業廃棄物の埋立、焼却、外部委託処理に要す る費用のことである。環境省『環境会計ガイドラ イン(2005年版)』では、「すでに発生した環境負 荷に事後的に対応するためのコスト」の性格をも つとされている。 23)廃棄物処理コスト増加額の試算方法は以下のと おりである。  粗鋼1トンあたりの産業廃棄物最終処分量 (2001 年度値) ×粗鋼生産量 (2002年度値) ×産業廃棄 物1トンあたりの処理コスト (2002年度値) -産 業廃棄物処理コスト総額(2002年度値)  2002年度の廃棄物処理コスト増加額の試算例: 19.55kg×2,990万 ト ン ×6.94千 円 -30億 円 ≒10.6 億円 参考文献 (1)勝山進 著『環境会計の理論と実態』中央経 済社 2004年 (2)カナダ勅許会計士協会著、グリーンリポーティ ング・フォーラム訳著『環境パフォーマンス報 告』中央経済社 1997年 (3)環境省「事業者の環境パフォーマンス指標ガ イドライン-2002年度版-」 (4)環境省「環境会計ガイドライン2005年版」 (5)環境省「環境報告ガイドライン2012年版」 (6)金原達夫・金子慎治 著『環境経営の分析』 白桃書房 2005年 (7)国部克彦 著『環境会計―補訂版』新世社  2000年 University)の略称である。国連大学は国連の学 術機関として、特に開発途上国支援を目的とした 持続可能な開発の分野で、研究や人材育成を行っ ている。 5)最終処分とは、埋立処分、海洋投棄処分のこと を指す。 6)平成21年度の産業廃棄物最終処分場の新規許可 件数は14件で、平成9年の廃棄物処理法の改正以 後において最も少ないのである。 7)イノベーション・オフセットとは、技術革新に よるコストの相殺のことである。

8)Michale E.Porter; Claas van der Linder(1995) “Toward a New Conception of the Environment-Competitiveness Relationship” The Journal of

Economic Perspectives, Vol.9, No.4. p.98., American Economic Association.

9)前掲稿 p.98

10)Runar Brannlund and Tommy Lundgren (2009) “Environmental Policy Without Costs? A Review of the Porter Hypothesis”, International Review of

Environmental and Resource Economics, Vol.3, No 2, pp..75-117. 11)工場内または事業場内で発生した有害物質を最 終的に外部に排出しない方法を指す。 12)「新日鉄」『新日鉄ガイド』2011年度版 p.53 13)環境省 『環境会計ガイドライン』2005年版  p.41 14)付加価値の値としては、環境省『環境報告ガイ ドライン(2012年版)』では、「売上高-原材料費 等(外部からの購入費用)」もしくは「営業利益 +人件費+減価償却費」で計算される。 15)前掲ガイドライン p.41 16)例として、「新日鉄」の鋼材販売価格は、2004年 度61.6千 円 / ト ン、2008年 度104.7千 円 / ト ン、 2010年度81.7千円/トンと変動幅が非常に大きい のである。(出所:「新日鉄」アニュアルレポート 2004 ~ 2011年版) 17)昭和45年に制定された「廃棄物の処理及び清掃 に関する法律」の一部を改正する法律(平成22年 法律第34号) 18)「新日鉄」の粗鋼生産量と副産物発生量を基づ

(11)

(8)国部克彦・伊坪徳宏・水口剛 著『環境経営・ 会計』有斐閣 2007年 (9)坂智香 著『環境会計論』東京経済出版社  2001年 (10)新日本製鐵株式会社『有価証券報告書』2001 ~ 2010年度版 (11)新日本製鐵株式会社『アニュアルレポート』 2001 ~ 2010年度版 (12)新日本製鐵株式会社『環境社会報告書』2001 ~ 2010年度版 (13)新日本製鐵株式会社『新日鉄ガイド』2001 ~ 2010年度版 (14)三橋規宏 監修『よい環境規制は企業を強く する―ポーター教授の仮設を検証する―』海象 社 2008年 (15)箕輪徳二 著『戦後日本の株式会社財務論』 泉文堂 1997年

(16)Michale E.Porter; Claas van der Linder(1995) “Toward a New Conception of the Environment-Competitiveness Relationship” The Journal of

Economic Perspectives, Vol.9, No.4. American Economic Association.

(17)Runar Brannlund and Tommy Lundgren (2009) “Environmental Policy Without Costs? A Review of the Porter Hypothesis”, International Review

of Environmental and Resource Economics,

参照

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