特別支援学校在籍者数の急増の要因を探る : 統計資料等の分析から 利用統計を見る
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(2) 山梨障害児教育学研究紀要 第6号(平成24年2月1日). Ⅱ.方法. 1.使用する情報や統計 文部科学省「特別支援教育資料 」「学校基本調査 」,厚生労働省「知的障害児(者)基 礎調査 」,内閣府「障害者に関する世論調査 」,民間の複数のインターネットサイトとす る。なお,民間のサイトについては,その調査を実施する団体を確認したり,複数のサイ トの情報を使用したりすることで,情報の偏りを減らすようにする。. 2.情報や統計結果の二次加工の方針 使用する情報や統計は,必要に応じて二次的な加工を行う。. Ⅲ.結果と考察. 1.特別支援学校での軽度障害の児童生徒の増加 特別支援学校に軽度障害の在籍者が増えているといわれている(井上,2010)。このこ とについて検討する。 (1) 単一障害の児童生徒の割合の年次推移 盲・聾・養護学校(特別支援学校)小・中学部の重複障害学級在籍者数と小・中学部全児 童生徒数に占める重複障害学級在籍者数の割合を図2に示す。. (人). (%). 30,000. 50 在籍者数. 在籍率. 45. 25,000. 40 35. 20,000. 30 15,000. 25 20. 10,000. 15 10. 5,000. 5 0. 0 1972. 76. 図2. 80. 84. 88. 92. 96. 00. 04. 08. (年). 重複障害学級在籍状況の推移(小・中学部) ※文部科学省「特別支援教育資料」より著者が作成. - 103 -.
(3) 在籍者数は1979年の養護学校の義務制の施行により大幅に増加しており,在籍率も同様 に高くなっている。その後,在籍者数は小学校(図1参照)と同様に1982年を境にして減 少傾向であるが,重複障害児の在籍率は上昇している。このことから,この期間に重複障 害の児童生徒の比率が,単一障害の児童生徒に比べて高くなったことがわかる。1990年代 になると重複障害学級在籍者数と在籍率がともに増えているが,2000年以降になると在籍 者数は増加しているものの在籍率は減少している。つまりこの現象は,単一障害学級在籍 者数の増加のペースが重複障害学級在籍者数よりも上回っていることを意味しており,相 対的に単一障害の児童生徒が増えているといえる。 (2) 知的障害者の障害の程度の年次推移 養護学校(特別支援学校)在籍者の中で増加が顕著である知的障害に焦点を絞り,その 在籍者が必ずしも一致しないが,制度的に認定されているその障害の程度の推移を図3と 図4に示す。比較をするために盲・聾・養護学校(特別支援学校)の対象年齢である18歳 未満(図3)と,18歳以上(図4)に分けて示す。. 0%. 10%. 1990年. 13600. 1995年. 11300. 20%. 30%. 40%. 50%. 31700. 60%. 70%. 80%. 26600. 90%. 100%. 24300. 最重度 26700. 22700. 22800. 重度 中度. 2000年. 17800. 2005年. 22000. 30700. 17800. 28100. 26200. 18300. 軽度. 33300 単位:人. 図3. 知的障害児(18歳未満)の障害の程度 ※厚生労働省. 0%. 10%. 20%. 30%. 1990年. 21200. 52900. 1995年. 24700. 60700. 2000年. 26700. 59700. 40%. 50%. 「知的障害児(者)基礎調査」より著者が作成. 60%. 70%. 80%. 90%. 46300. 39500. 60500. 45400. 100%. 最重度. 2005年. 39800. 73700. 57400. 52100. 78700. 重度 中度 軽度. 63000 単位:人. 図4. 知的障害者(18歳以上)の障害の程度 ※厚生労働省. - 104 -. 「知的障害児(者)基礎調査」より著者が作成.
(4) 山梨障害児教育学研究紀要 第6号(平成24年2月1日). 知的障害児(18歳未満)の障害の程度の推移では,2005年に軽度の割合が大幅に増加し ている。知的障害者(18歳以上)の障害の程度の年次推移にそのような傾向は認められな い。つまり,養護学校(特別支援学校)就学対象となる18歳未満で,制度的に認定されて いる軽度の知的障害の割合が近年高くなっている。この傾向が,養護学校(特別支援学校) の在籍者の変化に少なからず一致していると考えられる。. 2.障害に対する意識の変化 障害への知識や理解を深めるために国や地方自治体の啓発活動が活発に行われており, 障害に対する意識の変化がおきているといわれている(古屋,岡,広瀬,2009)。ここで は,社会一般の人の意識の変化やそれに影響を与えているであろう事項について検討する。 (1) 社会での障害者に対する関心の高さ 広く一般の人々の障害者に対する関わりの変化を図5に示す。この図は,内閣府が過去5 回,不定期で実施している「障害者に関する世論調査」の共通する質問項目をもとに作成 した。図5の質問項目によると,障害者との関わる機会が1987年では全体の5割に満たなかっ たが,2007年では7割近くの人が何らかの形で障害者と関わっていることがわかる。. 質問項目:あなたは障害者やその家族に対して,話しかけたり手を貸したりしたことが ありましたか。 0% 1987年. 1992年. 10%. 20%. 30%. 40%. 50%. 60%. 46.6. 70%. 80%. 90%. 100%. 53.4. 51.5. 48.5. ある 1997年. 55.5. 44.5. ない 2001年. 2007年. 58.8. 41.2. 68.4. 図5. 31.6. 障害者と関わる機会 ※内閣府「障害者に関する世論調査」より著者が作成. 障害者に関する家庭での話題の頻度を尋ねた質問項目の結果を図6に示す。2007年の調 査ではこの質問項目に類似する項目が無かったため2001年までとしている。これによると, 家庭で障害者について話題にあがることが「よくある」または「時々ある」の回答が,1987年 から1997年にかけては50%程度で推移していたが,2001年になると56.5%まで上昇してい る。社会の障害者に対する関心の高まりがわかる。. - 105 -.
(5) 質問項目:新聞やテレビで障害者が職場やスポーツで活躍している様子が多く報道され ていますが,あなたのお宅でこのようなことについて話すことがありますか。 0%. 10%. 20%. 30%. 1987年. 10.4. 40.1. 1992年. 9.9. 40.3. 1997年. 9.5. 40%. 50%. 60%. 70%. 80%. 31.7. 90%. 100%. 16.7. 1.2. 18.5. 1.0. 19.5. 0.4. よくある 時々ある. 30.3. 39.3. 31.3. あまりない ほとんどない わからない. 2001年. 13.5. 43.0. 図6. 26.2. 16.5. 0.9. 家庭での障害者に関する話題の頻度 ※内閣府「障害者に関する世論調査」より著者が作成. (2) テレビドラマや映画での障害を扱った作品の増加 広く一般の人々への影響力が強いテレビや映画などで,障害を扱ったテレビドラマを図 7に,映画を図8に示す。図7と図8の作成に関しては,複数の私的・民間のインターネット サイト(用語検索サイトやテレビ局のホームページ)を集計することで偏りを減ずる努力 を行った。 (番組数) 9 8. 知的障害. 重複障害. 病弱. 肢体不自由. 聾. 盲. 7 6 5 4 3 2 1 0 1975. 80. 85. 図7. 90. 95. 00. 05. 10 (年). 障害を扱ったテレビドラマの放映時期 ※民間の複数のインターネットサイトを基に著者が作成. - 106 -.
(6) 山梨障害児教育学研究紀要 第6号(平成24年2月1日). (番組数) 9 8 7 6. 知的障害. 重複障害. 病弱. 肢体不自由. 聾. 盲. 5 4 3 2 1 0 1946. 51. 56. 61. 図8. 66. 71. 76. 81. 86. 91. 96. 01. 06 (年). 障害に関する内容を扱った映画の上映本数 ※民間の複数のインターネットサイトを基に著者が作成. 1990年代以降ほぼ毎年,障害に関する内容を扱ったテレビドラマが放映されている。特 に2003~2004年の作品が多い。知的障害を扱った作品は1995年以降に多くなっている。映 画に関しても,テレビドラマと同じように1990年以降は毎年作品があり,2003年以降は多 くの作品が上映されている。また知的障害を扱った作品も,テレビドラマと同様に1990年 以降に多く上映されている。 このことから,近年ではテレビドラマや映画で障害に関する内容を取り扱った作品が増 加しており,広く一般の人々の関心を高めていると考えられる。このことが,盲・聾・養 護学校(特別支援学校)に対する社会的な意識の変化を促し,その結果として盲・聾・養 護学校(特別支援学校)への就学の抵抗感を減じていると考えられる。. 3.特別支援学校高等部在籍者数の増加 盲・聾・養護学校(特別支援学校)小学部・中学部・高等部に転入した児童生徒数の推 移を図9に示す。全体の転入者数の増加と高等部への転入者の増加が一致しており,盲・ 聾・養護学校(特別支援学校)在籍者数の増加は,高等部在籍者数の増加と関係が強いと いえる。 ここでは,特別支援学校高等部在籍者の増加に影響を与えていると考えられる,中学校 卒業生の進路先の変化,高等学校の減少による影響について検討を行う。. - 107 -.
(7) (人). (人). 7,000. 12,000. 合計(右目盛) 小学部 中学部 6,000. 高等部. 10,000. 5,000 8,000. 4,000 6,000 3,000. 4,000 2,000. 2,000. 1,000. 0. 0 1975. 79. 83. 図9. 87. 91. 95. 99. 03. 07. (年). 盲・聾・養護学校(特別支援学校)への転入者 ※文部科学省「特別支援教育資料」より著者が作成. (1)中学校卒業生の就職率の低下による特別支援学校高等部進学者の増加 校種別就職率の推移を図10に示す。大学や短大卒業者の就職率は景気動向により変化が あるものの,1950年と2010年を比較しても大きな差は見られない。それに比べて中学校や 高等学校卒業者の就職率は,1950年の45%から大幅に低下している。特に中学校卒業者は, 2010年では0.4%まで低下している。1965年以降,高等教育機関ほど就職率が高くなって いる状況になっており,中学校と比べるとその差は大きくなっている。就職率のこのよう な低下は,進学傾向の強まりを意味している。 この現象は中学校の特別支援学級卒業者も例外ではない。次に中学校特別支援学級卒業 者の進路状況の推移を図11に示す。 1980年では就職をする生徒が最も多く全体の40%を占めていたが,その後,就職率(図 10参照)と同様に大幅に低下している。これに比べて特別支援学校高等部に進学する生徒 の割合は急増している。1980年と2008年の値を比較すると60ポイント近く上昇しており, 全体の70%を占めるまでになっている。高校進学の割合は大きな変化はない。 このことから,就職率の低下により中学校の特別支援学級卒業者も就職より進学をする. - 108 -.
(8) 山梨障害児教育学研究紀要 第6号(平成24年2月1日). 生徒が増えており,進学先として高等学校よりも特別支援学校高等部を選択する生徒が増 えているといえる。また2000年以降の顕著な現象として,特別支援学校高等部の割合が減 少すると高校進学者の割合が増加するという負の相関関係にあるといえる。. (%). 中学校. 100. 高等学校 高等専門学校 短大. 80. 大学. 60. 40. 20. 0 1950. 54. 58. 62. 66. 70. 図10. 74. 78. 82. 86. 90. 94. 98. 02. 06. 10 (年). 校種別就職率の推移 ※文部科学省. 「学校基本調査」より著者が作成. (%) 80 高等学校 70. 特別支援学校高等部 就職. 60. その他 50 40 30 20 10 0 1980. 82. 84. 86. 図11. 88. 90. 92. 94. 96. 98. 00. 02. 04. 06. 08. (年). 中学校特別支援学級卒業生進路状況の推移 ※文部科学省. - 109 -. 「特別支援教育資料」より著者が作成.
(9) (2) 高等学校の減少による特別支援学校高等部進学者の増加 全国の公立高校の総数,全生徒数,公立高校の規模(1校あたりの生徒数)を,特別支 援学校在籍者数が増加に転じた1996年を100とした指数にして図12に示す。これによると, 公立高校の全生徒数は1989年を境に減少傾向にあり,それに伴って1校あたりの生徒数も 減少している。公立高校の総数も生徒数の減少の影響で2000年から減少しており,2005年 以降はその傾向が強まっている。しかし,公立学校の総数の減少の速さが生徒数の減少の 速さよりも上回っているために,2007年以降全生徒数が減少していても1校あたりの生徒 数は増加している。このように,学校数の減少により1校あたりの入学希望者が増えるこ とで間口が狭められてしまう。その結果として,特別支援学校高等部が受け皿となってい る可能性が考えられる。. (指数) 130 公立高校の総数 120. 公立高校の全生徒数 公立高校の規模. 110. 100. 90. 80. 70 1978 80. 82. 84. 図12. 86. 88. 90. 92. 94. 96. 98. 00. 02. 04. 06. 08. 10 (年). 公立高校の総数,全生徒数,学校規模の推移 ※文部科学省「学校基本調査」より著者が作成. Ⅳ.おわりに. 本稿では,3つの検討を行ったが,特別支援学校在籍者急増を直接的あるいはより明確 に説明し得る単一の要因を判定するのは難しい。また,特別支援学校の在籍者の増加の要 因は,これ以外にも様々な要因があると考えられる。今後もさらに多角的な視点で特別支 援学校在籍者数の急増の要因を検討していく必要がある。. - 110 -.
(10) 山梨障害児教育学研究紀要 第6号(平成24年2月1日). 付記 本論文は,平成22年度山梨大学特別支援教育特別専攻科「研究論文」を一部修正,加筆 したものである。. 文献 1)井上昌士(2010)知的障害者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校に在籍 する児童生徒の増加の実態と教育的対応に関する研究.国立特別支援教育総合研究所 平成21年度研究成果報告書,96-101. 2)古屋義博・岡輝彦・広瀬信雄(2009)政策としての特別支援教育は何を生み出してい るのか?.教育実践学研究(山梨大学教育人間科学部附属教育実践センター研究紀要), 14,128-138.. - 111 -.
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