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小学校〈数学的活動〉の始点となる〈日常生活や社会の事象〉の数学化による問題づくりについての一考察 : 数学的モデリング過程を活用して

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(1)Title. 小学校〈数学的活動〉の始点となる〈日常生活や社会の事象〉の数学化 による問題づくりについての一考察 ― 数学的モデリング過程を活用し て―. Author(s). 髙谷, 智史; 橋本, 忠和; 小田, 将之. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 70(2): 341-355. Issue Date. 2020-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11271. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第70巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 70, No.2. 令 和 2 年 2 月 February, 2020. 小学校〈数学的活動〉の始点となる 〈日常生活や社会の事象〉の数学化による問題づくりについての一考察 ― 数学的モデリング過程を活用して ―. 髙谷 智史・橋本 忠和*・小田 将之** 北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻院生 *. 北海道教育大学函館校授業開発研究室. **. 北海道教育大学函館校生徒指導研究室. A Study of Exercise Subjects Related to Daily and Social Events for  “Mathematical Activity”Revitalization in Elementary Schools ―A Case Study of the Unit“Approximate Area”in Sixth-Grade Elementary School Children ―. TAKAYA Satoshi, HASHIMOTO Tadakazu* and ODA Masayuki** Hokkaido University of Education *Department of Art Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education **Hokkaido University of Education. 概 要 小学校における数学的活動では〈現実の世界〉と〈数学の世界〉の2つの世界において, 〈日 常生活や社会の事象〉と〈数学の事象〉を数学化することによる主体的な〈問い〉から学習を 展開することが重要視されている。一方,数学的活動導入に関して事前調査では導入の目的等 に関する理解度は低く,戸惑いが読み取れた。 そこで,本研究では数学的活動の現場導入に向け,児童の主体的な数学的活動の始点となる 〈日常生活や社会の事象〉の問題づくりの留意点について,先行研究や自らの実践事例を数学 的モデリングのプロセスにおける〈数学化〉の視点から分析することで明らかにすることを試 みた。すると,数学的活動の始点となる問題を身近な生活事象と関連付け,数学化ができるも のに価値づけるためには,松嵜昭雄が着目する〈解決者が自身の経験にもとづき想起する場面 =原場面〉の役割を意識し,それに関連付けた問題を教師が作成する必要性を見出すことがで きた。. . 341.

(3) 髙谷 智史・橋本 忠和・小田 将之. は,次の様に集約できると思われる。. 1 はじめに. ①〈主体的な学び〉の視点から. 2017年公示の新学習指導要領解説算数編では,. ・児童が目的意識をもって主体的に活動する. 算数科において資質・能力を育成するためには学. ②対話的な学びの視点から. 習過程の果たす役割が重要であるとしている。そ. ・協働的に解決する過程を遂行する. して, 〈児童が目的意識をもって主体的に取り組. ③深い学びの視点から. む算数に関わりのある様々な活動〉1)とする算数. ・取組を問題発見・解決の過程に位置付ける. 的活動を, 〈事象を数理的に捉え,算数の問題を. ・事象を数理的に捉える. 見いだし,問題を自立的,協働的に解決する過程. ・数学的な見方・考え方に焦点を当てる. 2). を遂行すること〉 とする〈数学的活動〉へと表. したがって, 〈数学的活動〉は〈目的意識をもっ. 記を改め,以下の図でその学習プロセスのイメー. た児童の主体的に取り組み〉を〈問題発見・解決. ジを示している。(図1). の活動〉に位置付け,児童が数学的な見方・考え 方を存分に発揮し高めることができる〈主体的・ 対話的で深い学び〉の学習活動をめざす算数的活 動の意味を,学習のプロセス(図1)からより明 確にしたものと捉えることができる。 ところが,筆者が実施した教員を対象としたア ンケート調査(2018年12月,北海道道南地区教員 1 によると,以下の図2と図3が示すよ 対象93名). うに数学的活動導入への戸惑いが見られた。 図1 数学的活動の学習過程3). この数学的活動について,山本良和は算数的活 動と対比させ,以下のように説明している。 「 『数学的活動』は, 『算数的活動』の意味を『問 題発見や問題解決の過程に位置付けてより明確 にしたもの』であり,『数学的な問題発見・解 決の過程における様々な局面とそこで働かせる 数学的な見方・考え方に焦点を当てて算数科に おける児童の活動を充実させるため』に,用語. 図2 小学校〈数学的活動〉導入の背景の理解度. 4) を改めた。 」. この文面から,小学校において〈数学的活動〉 を導入した視点は以下のように整理できる。 ・算数的活動の意味を問題発見や問題解決の過 程に位置付けてより明確にした。 ・数学的な見方・考え方に焦点を当てて算数科 における児童の活動を充実させる。. 当調査では〈小学校に『数学的活動』が導入さ れる背景〉について把握しているかどうか5点満 点2で設問し,尋ねたところ(図2),最低の1点 〈いいえ〉を選択した教員が50%を超え,2点の 〈あまり〉と合わせると否定的な回答が70%を超 えていた(平均数値1.85点)。一方,5点と4点. 以上,学習指導要領の記述や山本の指摘と〈主. を合わせた肯定的な教員も8%に過ぎなかったこ. 体的・対話的で深い学び〉の授業改善の視点とを. とから,道南地区においては,小学校に〈数学的. 関連付けると,小学校への数学的活動導入の背景. 活動〉が導入される背景については,十分に把握. 342.

(4) 数学的活動の始点となる数学化による問題づくり. =理解されていないことが読み取れた。. かった。これは大坂睦が算数的活動を方法型と目. この要因は,2018年度の函館市の小学校研究主. 的型に整理し「これまでの学習指導は内容の理解. 題の状況から読み取れる。すなわち全市小学校46. に焦点があり,方法型が中心になされている。こ. 校の研究主題を整理してみると下記の様になる。. の点に課題があり,目的型の算数的活動のあり方. ・道徳に関する主題����������19校. 6) と指摘していること を明確にする必要がある」. ・主体的・対話的学びに関する主題���16校. に一致する。すなわち,大坂が指摘する視点でア. ・算数に関する主題����������7校. ンケート結果をみると,北海道道南地区において. ・その他(国語,外国語活動等)  ����4校. は内容理解を中心とした方法型の学習指導が多く. したがって,算数に関する主題は全体の15%に. 行われており,学習者自身が問題を発見し,その. 過ぎず,その主題も算数における言語活動や基礎. 問題を解決するという目的型の学習指導が十分に. 5). 基本(計算力等)の定着等に関するものであり ,. 行われていない状況が読み取れる。. 本研究の研究対象としている算数科の〈数学的活. したがって,本アンケートや全市小学校の研究. 動〉については,数学的な〈見方・考え方〉を培. 主題からは,指導者による数学的活動に関する指. う重要なファクターにも関わらず,先の教員アン. 導法の研究の重要度の低さを見出すことができる。. ケートが示す〈数学的活動〉への関心の低さと理. そして,そのような学習指導では,知識の理解や. 解不足を裏付けるように校内の授業改善研修の. 技能の習得はできても,問題分析力や課題設定力. テーマとして認識されていないことが分かった。. を高めることは困難であり,数学的活動を導入す る上で現場に戸惑いが生じることが推察される。. 図3 実践できている課題解決プロセス(複数回答). 続いて,北海道道南地区教員50名に,従来の算 数的活動等において実践されている〈課題解決プ ロセス〉について,数学的活動に関連する〈問題. 図4 子供が主体的に課題解決に取り組むために指 導上工夫している点. を見出す〉 〈問題を解決する〉〈プロセスを振り返. さらに,数学的活動における〈日常生活や社会. る〉の3つの視点から, 〈どの課題解決プロセス. の事象〉からの数学化のプロセスに通じる課題設. が実践できていますか〉という質問をした(図3)。. 定等への指導者の意識を見るために〈子供が主体. すると,以下のような結果が得られた。. 的に課題解決に取り組むために指導上工夫してい. ・ 〈問題を見出す〉を実践 ���42%(21人). る点〉を問うアンケート3を実施した(図4)。そ. ・ 〈問題を解決する〉を実践 ��72%(36人). して数学化に関する〈教材〉〈授業展開〉〈発問〉. ・ 〈プロセスを振り返る〉を実践 52%(26人). 〈グループ学習〉〈課題設定〉を抽出すると以下. すなわち, 〈問題を見出す〉を実践できている. のような結果が得られた。. 教員は42%に過ぎず,半数以上の教員が学習活動. ・〈教材〉�����������83%(59人). の中で問題を見出すプロセスを実施できていな. ・〈授業展開〉���������58%(37人). . 343.

(5) 髙谷 智史・橋本 忠和・小田 将之. ・ 〈発問〉 �����������39%(25人). そのための研究の進め方として〈日常生活や社. ・ 〈グループ学習〉 ������36%(23人). 会の事象〉に関連した問題を扱った筆者の算数的. ・ 〈課題設定〉 ���������30%(19人). 活動の検証実践例について,児童が事象を〈数学. これらの結果からは,教師は教材や授業展開,. 化〉するプロセスの様相から問題の価値について. 発問等については留意しているが,教師の課題設. 分析する。そのことによって,児童が事象を数理. 定への意識は高くないことが読み取れる。. 的に捉え,問題を主体的に見いだすことのできる,. ただ,アンケートでは教師があまり意識してい ない課題設定の重要性について,長尾尚らは学習. 数学的活動の始点としての〈日常生活や社会の事 象〉に基づく問題づくりの留意点を抽出する。. 意欲を引出すチーム学習の成立要因として,学習 コンテンツの設定を挙げ,学習者にとって魅力的 で全ての児童が関わることのできるテーマ=課題 設定が必要であることを指摘している7)。 したがって,長尾らがいう授業づくりにおいて. 2 算数科における数学的活動と数学的モデ リングとの関係とは ここでは,なぜ数学的活動が導入されたのか,. は, 教材や授業展開の工夫と同程度かそれ以上に,. すなわちその意図するものを〈生活の数学化=数. 課題設定を工夫することが重要とされているが,. 学的モデリング〉の重要度とその関連を整理する. アンケートの結果からはそのような教師の意識は. ことで明らかにする。. 見られなかった。 以上により本アンケートから,北海道道南地区 における数学的活動に関する授業づくりにおける 課題を以下のように抽出した。. 2-1 算数科における数学的活動導入の背景 数学的活動は2017年告示の小学校学習指導要領 解説算数編において,「事象を数理的に捉えて,. ・小学校での数学的活動の理解が十分でない. 算数の問題を見いだし,問題を自立的,協働的に. ・教師の課題設定への意識が低い. 解決する過程を遂行すること」8)としている。こ. ・教師が数学化された問題を提示することが多. れは算数的活動がもつ従来の意味を問題発見や問. く児童生徒が問題を見出すことは少ない. 題解決の過程に位置付けてより明確にしたもので. 以上の抽出課題から,道南地区における算数科. ある。そのことは小学校学習指導要領解説算数編. の授業は, 問題解決学習は定着してはいるものの,. の目標及び内容の第1節算数科の目標の中で述べ. それらは教科書等にある問題に対する解決を得る. られ,以下のように整理できる9)。. ための学習であることが多く,課題設定のための 日常生活や社会の事象からの数学化のプロセスが 十分に行われていない現状があると考えられる。 したがって,長尾らが課題設定の重要性を指摘 しているように,数学的活動に関しても数学化の プロセスを経た課題設定が重要であると思われる。 そこで,本研究では,数学的活動のスムーズな. ・ 〈数学的な見方・考え方〉を働かせた学習を 展開するよう内容を整理した。 ・学習指導の過程においては,数学的に問題発 見・解決する過程を重視した。 ・算数科は〈日常生活・社会の事象〉と〈数学 の事象〉の2つの問題発見・解決の過程が相 互に関わり合っている。. 現場導入に向け,数学的活動の始点となる〈日常. ・問題解決の過程や結果を振り返って,得られ. 生活や社会の事象〉に関する問題に焦点をあて,. た結果を捉え直したり,新たな問題を見いだ. 〈日常生活や社会の事象〉を児童が数理的に捉え,. したりして,統合的・発展的に考察を進めて. 〈数学的に表現された問題〉を導き出す問題発見. いくことが大切である。. の活動が展開されるためには,どのような問題を 設定すればよいのかについて考察することとした。. 344. ・各場面で言語活動を充実させ,それぞれの過 程や結果を振り返り,評価・改善することが.

(6) 数学的活動の始点となる数学化による問題づくり. できるようにする。 このような数学的活動の位置づけは小学校学習 指導要領の〈主体的・対話的で深い学び〉の実現 に向けた授業改善に通じている。したがって,そ の授業改善の視点が数学的活動の導入の意図の1 つとして捉えることができる。 また,中央教育審議会の答申によると, 〈主体 的・対話的で深い学び〉の実現に向けた授業改善. 12) 図5 算数的活動が陥りがちの学習過程(点線部). の視点は,以下の視点もあるとされる10)。 ・子供たちそれぞれの興味や関心を基にする。 ・一人一人の個性に応じた多様で質の高い学び を引き出す。. りが重要されていると考えられる。 したがって, 算数的活動を〈問題を見いだす〉 〈協 働的に学ぶ〉 〈振り返りを重視する〉等,学習過. 加えて小学校学習指導要領解説算数編におい. 程と学習方法に関する視点を明確に示した数学的. て,数学的活動の学習過程とされる問題発見・解. 活動に改めることによって質の高い問題解決学習. 決の過程として,以下のような学習過程が具体的. を展開し,主体的・対話的で深い学びの実現を図. に示されている11)。. ろうとするねらいがあると読み取ることができる。. ・あらかじめ自己の考えをもつ。 ・よりよい解放に洗練させていくための意見交 流や議論などを適宜取り入れる。 ・解決過程を振り返って概念を形成したり体系 化したりする。 以上のことから授業改善と数学的活動との関係 性は以下のように整理できる。 ・自己の考えの形成には興味関心が基になる。 ・自立的,協働的な問題解決には,個性に応じ た多様な学びが求められる。. 2-2 数学的活動と数学的モデリングとの関連 性 ここでは数学的活動のプロセスを視覚的に把握 しやすくするため,佐伯昭彦らの数学的モデリン グの理論13)を用いて,数学的活動と数学的モデ リングの関連性を整理する。 2-2-1 数学的モデリング 佐伯らは数学的モデリングを「現実の世界にお ける問題の解決を目的として,問題を数学の世界. ・解決過程を振り返って概念を形成したり体系. へと翻訳(数学化)し,数学的なモデルをつくり. 化したりすることが質の高い学びに繋がる。. (モデル化),数学的な手法による解決(数学的. すなわち,数学的活動は算数科における主体. 作業),さらに得られた結果を現実の世界の場面. 的・対話的で深い学びを具現化する核になる学習 活動であると考えられる。 さらに,前述したアンケート結果を算数科の授 業で捉え,算数的活動を数学的活動の学習過程に 位置づけると,問題を見出すプロセスを子どもが 行っていない学習は〈数学的に表現された問題〉 から 〈結果〉 のプロセスの中での学習と考えられ,. で解釈・検討を行う一連の活動」14)としている。 また,松嵜昭雄は,数学的モデリングの学習過 15) 。 程を以下の図で示している(図6). さらに,松嵜は数学的モデリングの各過程とし て以下の4つのプロセスを示している17)。 ・「α単純化,構造化,明確化」 現実的場面から現実的モデルへ問題の定式化. 数学的活動の学習過程の視点では狭義の問題解決. が行われる。. 学習であると捉えることができる (図5の点線部) 。. ・「β数学化」. このことから,数学的活動では,問題発見・解. 現実的モデルを数学への翻訳をおこなう。. 決と共に,その結果の活用や意味づけ等の振り返. . 345.

(7) 髙谷 智史・橋本 忠和・小田 将之. モデリングが行われ,モデルの解釈や見直しが行 われていくと捉えることができる。返せば〈原場 面〉の重要性が浮かび上がってくる。 2-2-2 数学的活動と数学的モデリングとの 関係 表1 数学的活動と数学的モデリングの対比. 図6 数学的モデリングの過程16). ・ 「γ数学的作業」 数学的モデル内で作用する数学的考察。 ・ 「δ元に立ち戻って解釈する,もしくは応用 する」 得られた結論の現実(世界)に対する解釈に 留まらず,現実(世界)へ翻訳する。 加えて,松嵜は,数学的モデリングは現実世界 と数学の間の取り組みであることから,〈β:数 学化〉の過程と〈δ:元に立ち戻って解釈する, もしくは応用する〉という過程が重要であるとし ている18)。. 数学的活動における〈現実の世界〉の学習過程. この考え方を参考にすると数学的モデリングの 学習過程は,以下のように整理できる。 ①現実場面から現実モデル,数学的モデルへと, 段階的に事象を数学的な問題へと変化させる。 ②数学的モデルから結論を得て,それを現実場 面や現実モデルで解釈する。. (図5)と,数学的モデリングの過程(図6)の 内容を整理して対比すると,数学的活動には数学 的モデリングの過程が活用されていることが分か る(表1)。 なお,松嵜は数学的モデリングについて,図に 示された過程に沿って進行するだけでなく,逆向. ③解釈が現実場面や現実モデルにそぐわない場. きの進行もあり得るとしている20)。すなわち,. 合は,モデル化や数学化の過程を見直し,改. 逆向きの進行とは学習の過程でモデルを見直した. 善する。 (再び①→②が行われる). り,用いる変数を変えたりすることであるが,こ. このような学習過程を辿る上で松嵜は解決者が. れは算数科の学習過程における「それぞれの過程. 自身の経験にもとづき想起する場面である原場面. を振り返り,評価・改善すること」21)であるとい. に注目し,特に現実世界に関係する原場面の役割. える。. 19). を以下のように示している. 。. ・現実モデルもしくは数学的モデルを保障する 役割 ・解釈の拠り所としての役割. したがって,〈現実の世界〉における数学的活 動は数学的モデリングの過程を経ることによって 実現が図られることが分かる。 しかし,1章で述べたように道南地区の算数科. ・ 〈αモデル化〉の妥当性を検証する役割. の授業づくりにおいては教科書等の数学的に表現. ・問題の適用可能性を探る役割. した問題を教材とした問題解決学習が展開される. すなわち,原場面の役割に対応する形で数学的. ことが多く,日常・社会の事象を数学化する学習. 346.

(8) 数学的活動の始点となる数学化による問題づくり. 過程=数学的モデリングの学習過程を辿っている. 事象に対して妥当であるかどうかの確認が行われ. 授業は十分に行われていないのが現状である。. るが,教科書の問題は清野が指摘するように日常 生活や社会の条件を単純化し,変数を明らかにし ているものが多いため数学化を必要としないもの. 3 数学的活動の視点となる問題づくり. が多いと思われる。そのため解決のプロセスを振. ここでは前章の教育現場の現状を改善するため に数学的活動を数学的モデリングの学習過程から. り返る必要性は生まれにくいと考えられる。 これでは数学的な見方・考え方を育むには不十. 捉え, 日常生活・社会の事象による問題について,. 分であると思われる。したがって数学的活動にお. 数学的活動の始点となる問題づくりを試みた。. ける問題とは,以下のような性質をもつことが望 ましいと考えられる。. 3-1 数学的活動における問題づくりの価値づ け. ・ 〈日常生活や社会の事象〉または〈数学の事象〉 を始点としていること. 数学的活動の学習過程は〈日常生活や社会の事 象〉と〈数学の事象〉を対象とした2つの過程が. ・子どもが事象から問題場面を見いだすことが できること. 相互に関わり合って展開する問題発見・解決の過. ・子どもが問題の場面や条件を検討できること. 程であるとしている22)。そして,それは単に問. ・子どもが解決のための変数の抽出や選択を行. 題を解決することではなく,問題解決の過程や結. えること. 果を振り返って得られた結果を捉え直したり,新. これらのことに留意した事象(生活場面)を教. たな問題を見いだしたりして統合的・発展的に考. 師が提示することによって,子どもが問題を発見. 23). 察を進めていくことが大切であるとされている. 。. ところが,子どもたちが使用している教科書に 掲載されている問題が抱える課題点について,清 野辰彦は以下のように指摘している。. することが可能となり,また,問題解決後に事象 に沿って結果を解釈したり,プロセスを振り返っ たりする必要感が生まれると思われる。 ゆえに学んだことを活用したり,現実の世界へ. 「教科書の問題には定式化の過程を辿る問題が. の意味付けが行われたりすることによって,次時. 少ないため直接的に『仮定をおいて考える』と. の学習へ繋がっていくと考えられる。. 24). いった考え方を育成することは難しい」. そして,そのような問題発見・解決の過程を辿. すなわち,教科書の問題は既に〈数学的に表現. る際には数学的な見方・考え方が必要不可欠であ. した問題〉であることが多く,そのため単純に教. り,さらには問題発見・解決の過程を辿ることで. 科書等の問題を提示して学習を進める学習過程. 数学的な見方・考え方が育まれると考えられる。. は, 数学的活動の一部分(〈数学的に表現した問題〉. したがって,数学的活動と数学的な見方・考え. から〈結果〉まで)を辿っているに留まっており,. 方は相互の関係として捉えることができると思わ. このような学習は習得を優先とした狭義の問題解. れる。すなわち,数学的活動においては数学的な. 決学習と捉えられる。. 見方・考え方を育むため〈日常生活や社会の事象〉. 一方で,数学的活動は前述した2つの事象から. を数学化することによって〈数学的に表現した問. 子ども自身が問題を発見し,解決する過程を通し. 題〉がつくられるような問題づくりが求められる. て数学的な見方・考え方を育むことをねらいとし. といえると考えられる。. ており,広義の問題解決学習であるといえる。 特に〈現実の世界〉での〈日常生活や社会の事. 3-2 数学的モデリングと問題作り. 象〉からの学習の過程においては,数学的に表現. 数学的モデリングの視点から教科書の問題を捉. された問題の結果を得て終わりではなく,それが. えた清野は,教科書の問題が定式化された算数の. . 347.

(9) 髙谷 智史・橋本 忠和・小田 将之. 問題に示されたモデルの式を使って結論を導くも. ⑤単元計画(表2). のばかりであり〈現実の世界〉からの数学化を必 表2 単元計画一覧. 要としない問題が多いことを指摘している25)。 このことから数学的モデリングの過程を活用し ている〈現実の世界〉における数学的活動を実現. 時 第1次. 東京ドームの形を基本図形の概形ととら え,およその面積の求め方を考える。. 第2次. 身の回りにあるいろいろなもののおよそ の面積を求める。. 第3次. ランドセルの形を基本図形の概形ととら え,およその容積の求め方を考える。身 の回りにあるいろいろなもののおよその 容積や体積を求める。. 第4次. 住んでいる地域の地形を基本図形の概形 ととらえ,およその面積を求める。 (検 証実践と関連した問題). するには教科書の問題をそのまま用いず,場面や 数値を変えたり,新たな問題を作ったりすること が必要となる。その際は日常生活や社会の事象を 数理的に捉えられるような問題にすることが求め られる。そして,そのことによって子どもによる 事象の数学化が行われ,数学的に表現した問題が 作られると思われる。. 学習活動. 単元目標の具現化のため教科書の問題をそのま ま提示すれば,単元の目標にある〈およその面積 や体積を求める〉は達成できると思われる。 しかし,〈概形をとらえる〉〈目的に応じて能率 よく測定する能力を伸ばす〉ためには教科書の問 26) 図7 数学的モデリングによる問題づくり (波線部). 題をそのまま提示して計算をするだけの学習では なく,児童が明確な目的をもち,追究するための. 4 実践事例の数学化による問題づくりに関 する分析と考察. 工夫が必要である。 そこで,第4次に単元末の算数的活動として北 海道の大きさに実感をもたせ,児童が住んでいる. ここでは筆者の2016年度に行った本研究にぁか. 地域の面積を求める授業を構想した。そして,こ. わる授業実践における問題を数学的活動の視点か. の単元構想を数学的活動の学習過程から価値づけ. ら再度,検証実践を行い,その成果を分析する。. ると以下のようになると思われる。 ・ 〈住んでいる地域の面積を調べる〉ことで,. 4-1 過去の授業実践の概要 なお,検証実践に関する単元の概要は以下の通 りである。 ①単元名 およその面積や体積を求めよう ②対象児童 函館市立Y小学校第6学年 ③実施日時 2016年8月下旬 ④単元のねらい. 児童にとっての〈日常生活や社会の事象〉を 始点とした学習が展開される。 ・児童が自ら概形をとらえることで,児童自ら による数学化が実現される。 ・児童が自ら概形を捉えることで,問題解決の 結果から検証・改善を図る過程が実現される。 この実践のねらいは,北海道の14の振興局のう. 身の回りにあるものの形について,その概形を. ち,抽出した4つの振興局のおよその面積を求め. とらえ,およその面積や体積を求めることができ. る活動を主体的に行うことを通して,概形のとら. るようにするとともに,目的に応じて能率よく測. え方について試行錯誤を繰り返しながら目的に応. 定する能力を伸ばす。. じて能率よく測定する能力を伸ばすことである。. 348.

(10) 数学的活動の始点となる数学化による問題づくり. 次に過去の授業実践で行った第4次の概要を示. に判別しにくい5位から8位までを求めることと. す。導入場面では以下のような北海道広告業協会. し,それ以外の順位については児童の予想を聞き. による新聞広告を提示した(図8)。. ながら紹介した。. この広告には北海道の中に15の都府県が収めら. その後,5位から8位の候補となる4つの振興. れている。東京都や大阪府を含め15の都府県が北. 局(渡島および檜山,釧路,空知,日高)につい. 海道内に収められた広告を見て,多くの子どもは. て,概形を捉えて面積を求める活動を行った。活. 北海道の大きさに驚いていた。続いて北海道を振. 動は個人思考,グループ交流,全体交流と展開さ. 興局ごとに示した地図を提示した。(図9). せた。なお,渡島と檜山を統合して考えた意図は,. すると,児童は振興局の大きさを直観的に比べ. 檜山が奥尻島を含め3か所に点在しており概形を. たり,函館を含む渡島地方の大きさが東京都より. 捉えることが難しいこと,渡島の地形上,単独で. も大きそうであることに注目したりと,多くの気. は概形に海を含み過ぎるため誤差が生じやすいこ. 付きが表出した。. とは考慮したことによる。ただ,奥尻島は渡島・ 檜山から離れているため,本時では面積に含まな いことにした。 4-2 検証実践における児童の様相と再検証の 必要性 Y小学校6年生を対象にした実践では,教師発 言に対する児童の発言等から,その児童の原場面 に関連する問題の反応を表3から読み取ろうとし た。すると,問題把握の場面では,生徒の現実世 界に関連する原場面である渡島・檜山地域への関 心が高く,その形を台形に見立てて,その概算を 取り組んでいた。ただ,その問題解決の過程にお. 図8 導入場面に提示した広告27). ける様相と原場面に関連する問題との関係性を分 析するには,児童のノート等の記述や問題解決に 関する振り返りのデータが必要であると考えた。 そこで次項に示す再検証実践を行うこととした。 表3 実践事例での教師の発問と反応 渡島・檜山振興局の広さを考えるグループ 教師の発問. 図9 振興局別の北海道地図28). そこで本時の問題を〈北海道の振興局の面積ラ ンキングを完成させよう〉とした。 さらに,問題を焦点化するため本時では直観的. ○問題把握場面 ・広告を見て気 づくことは何か な ・北海道の地図 を見て気づいた ことを発表しよ う. 児童の反応(発言) ・他の県がたくさん入っている ・北海道って大きいんだね ・天気予報で見る名前だ ・渡島は小さく見える ・檜山は2つに分かれている ・一番大きいのはどこかな ・オホーツク,上川,十勝が大き そうだけど,どのくらいなのか な. . 349.

(11) 髙谷 智史・橋本 忠和・小田 将之. ○問題解決 ・渡島・檜山振 ・渡島・檜山を合わせると台形の 興局の面積を求 形に見える める方法を考え ・2つの三角形ととらえればいい よう んじゃないかな ・全体を入れようとすると海がた くさん入ってしまう ・三角形より台形に見立てた方が 現実に近い広さが概算できそう だ(計算する) ○振り返り ・学習を通して ・同じ地形でもどのような形に見 気づいたことを るかでずいぶん面積が変わるこ 発表しよう とが分かった ・図形の中の海と外の陸のバラン スを考えることが大切だと分 かった ・広告にある県の合計は北海道よ り小さいので,さらに何県を足 せば同じくらいになるのか調べ てみたい. ・児童A 計算・文章題・概数:得意 ・児童B 計算・概数:得意・文章題:不得意 ・児童C 計算・概数:得意・文章題:不得意 ・児童D 概数:得意・計算・文章題:不得意 ・児童E 計算・文章題・概数:得意 ⑥作成問題の特徴 検証実践は筆者が担任する学級ではない学級の 児童(第6学年男子2名,女子3名,計5名)を 対象に行った。その児童は既に教科書会社の単元 計画に沿って3時間で学習を終えていたため,筆 者の授業実践の第4次と同様の問題に取り組ませ るべく,以下のような渡島・檜山地方のおよその 面積を求める問題を作成した。. 4-3 再検証授業の問題設定内容と結果 問題作成と活用の様相 4-3-1 再検証事例の概要 ①検証事例のねらい 表4のように示す計算問題や文章問題・概数問 題への得意・不得意の特徴を持つ5名の児童の現 実世界と深く関連する問題(図10:実践事例と同 じ渡島・檜山地域)と教科書にある児童とは関連 が薄い問題(琵琶湖の広さ)を提示し,問題解決 のプロセスを質的に分析することとした。 なお,このような質的分析の価値について,秋. 図10 検証実践用の問題(渡島・檜山地方). また,児童の問題発見・解決の意欲を比較するた め,もう1つの問題として琵琶湖の面積を求める問 題も用意し,2種類の問題に取り組ませた(図11) 。. 田喜代美が「質的研究は,その場に生きる人々に とっての事象や行為の意味を解釈し,その場その 場のローカルな状況の意味を具体的に解釈し構成 していくことをめざす」29)としているように,5 人の生徒の問題解決の状況に注視することで,原 場面に関連する問題が,その解決する行為のもつ 意味を具体的に解釈する手立てになると考え取り 組んだ。 ②単元名 およその面積や体積を求めよう ③対象児童 函館市N小学校第6学年 ④実施日時 2019年9月下旬 ⑤抽出児童の特徴. 350. 図11 検証実践用の問題(琵琶湖).

(12) 数学的活動の始点となる数学化による問題づくり. 表4 5人の児童の回答とその特徴. . 351.

(13) 髙谷 智史・橋本 忠和・小田 将之. 4-3-2 検証実践の結果 検証実践は, 朝学習の時間に20分程度で行った。. と何度も線を引き直したり,微調整をしたりする 姿が見られた。また,面積を求めた際にも,児童. まず授業実践と同様に北海道広告業協会による新. は,量的感覚から疑問を感じると〈こんなに大き. 聞広告を提示し,その後は上記の2つの問題に取. いかな〉と自ら改善を図ろうとする姿も見られた. り組ませた。なお,どちらの問題も以下のような. (児童A・C・E)。. 解決過程を経るようにした。. その中で文章題が不得意な児童Cはアンケート. ①地形を既習の図形ととらえる。. でB(渡島・檜山地方)の問題を解いてみたい問. ②既習の図形を地形上にかき入れる。. 題であると選択し,その理由として〈台形をつく. ②面積を求める際に必要な辺の長さを測る。. る時,海の入れ方によってそれぞれのちがいがわ. ④辺の長さを縮尺に応じて実際の距離に変換. かりやすくおもしろかった。〉と答えている。. ⑤実際の距離の値で面積を求める。. これは,彼の日々の生活の場となっている渡. また,④⑤については電卓の使用を認めた。そ. 島・檜山の地図の問題の方が,柳本哲が数学的モ. して,事前に以下のようなアンケートを行った。. デリングを行う際に「数学の授業時間の中で現実. ・計算問題は得意ですか。. 世界の問題解決の教材内容をもっと豊かにする」. ・文章問題は得意ですか。. 必要性を指摘しているように30),児童の学習意. ・ 〈およその面積〉は得意でしたか。. 欲と解決を工夫する楽しさを味わわせることに通. ・AとBの問題はどちらが問題を解いてみたい. じていると思われる。. という気持ちになりましたか。また,その理 由を教えてください。. また,児童Dも同様だが,自分たちの住んでい る地域を問題にすることは,学習意欲を高めると. これらのアンケート結果と児童の解答の様子を. 共に,計算や文章が苦手な子にも,本単元のねら. 対比することで児童の算数への学習意欲と問題づ. いである〈概形をとらえる〉〈目的に応じて能率. くりとの関係性を明らかにしようと試みた。. よく測定する能力〉を発揮して,正解の6566に近. 4-3-3 児童の反応. い8748の概数を導き出すことに有効に働いていた. ここでは検証実践における児童の反応について. と思われる。これは,原場面の問題が,児童が問. 児童の回答(ノートの記述)と回答児童の特徴(事. 題解決の過程で,主体的に数学的な見方・考え方. 後アンケートの内容)を整理した表4を資料に,. を働かせるときっかけになっていたと捉えること. 児童の現実世界に関連する原場面の問題がその問. ができると考えられる。. 題解決にどのような影響を及ぼすか,その反応の 概要を示す。 まず,北海道広告業協会の新聞広告を見た児童 は,やはり自分たちが住んでいる函館を含む道南. 4-4 数学的モデリングの視点で見た実践の分析 本実践を松嵜の数学的モデリングの学習過程に あてはめると,以下のようになる。. 地方に児童の視線が集中していた。 すると,児童達は,道南地方にある都府県(東 京都,大阪府,神奈川県)を見つけると北海道の 大きさに驚きの声をあげていた。 なお,琵琶湖の面積はおよそ669km2,奥尻島を 除く渡島・檜山地方の面積はおよそ6566km2であ り,5人の児童の解答は誤差の範囲内(+-10% 程度)から見ても実際の面積とは異なっていた。 しかし,解決過程では地形の概形をとらえよう. 352. 表5 数学的モデリングと実践の学習過程の対比.

(14) 数学的活動の始点となる数学化による問題づくり. 表5の特に数学的モデルが作られるまでの学習. き想起する場面)との関係性について整理する。. 過程に注目すると,まず北海道広告業協会の広告. まず,今回の実践において児童の抱く原風景に. を提示することで北海道の中に15もの都府県が収. ついては,表5のAとDが自己アンケートで自分. まるという地形と面積に焦点化したインパクトを. たちの住んでいる地域」と答えていたり,CとE. 児童に与えることができたと考える。. が,普段から見慣れている渡島地区の地図の特徴. さらに,都府県との面積比較について自由な気 付きを児童に表出させることで児童が住んでいる. を「台形」と捉えていたりしているように,次の 様に捉えられる。. 道南地方への大きさに関心をもたせていくことが. 「子ども達が,日常生活で移動したりして,訪. できた。 したがって,教師による広告の提示によっ. れたことがあったり,社会等の地図や産業等の学. て児童が住んでいる地域の大きさが実感され〈ど. 習で学んだりすることで,他地域よりも愛着と詳. のくらいの面積か,概形でとらえて調べよう〉と. しい知識を有している場所」. いう問題発見・解決の意欲を児童にもたせること ができたと思われる。 加えて〈数学化〉に関しては,本問題は児童そ れぞれの見方が尊重され,どのような概形ととら. そして,松嵜が指摘する原場面の役割を改めて 以下に示す31)。 ・現実モデルもしくは数学的モデルを保障する役 割. えるかが児童に任せられていた。そのことが追及. ・解釈の拠り所としての役割. 意欲を高めただけでなく, 〈数学的結論〉を得た. ・〈α:モデル化〉の妥当性を検証する役割. 後にも図形を見直す〈解釈〉や,再計算する姿が. ・問題の適用可能性を探る役割. 見られた。すなわち,〈解釈〉による図形の見直. これらの役割のうち,表4等の示す検証実践の. しが〈数学化〉の改善を促し,より精緻化した概. 結果から以下のような原場面の2点の役割が抽出. 形の捉えへと繋がっていったと考えられる。した. できたと考えられる。. がって,前述した児童Cのアンケート結果のよう. ①〈現実・数学的モデルを保障する役割〉. に正答と言える値ではないものの,概形に陸と海. 教師が提示した北海道広告業協会の広告によ. をどの程度含めるかという視点は数学的モデリン. り,児童が東京や大阪という都市へのイメージ. グによる〈数学化〉および〈解釈〉を往還する活. と自分たちがすんでいる道南地方との大きさを. 動であると捉えることができると思われる。. 比べながらA児が「渡島・檜山地方の大きさは. また,児童Eによるアンケート結果である〈台. どのくらいだろう」と自分たちの住む場所の広. 形の中にすっぽり入ったから〉という理由につい. さを求めるという問題を発見と解決への意欲を. ては,数学的な見方や〈解釈〉の視点では改善が. 示した。さらには,CとE児は,複雑な地形で. 必要である。なぜなら,琵琶湖を概形にすっぽり. ある道南地方においても,「台形の形にすっぽ. と収めるには概形内に陸の部分を多く含んでしま. り入る」と概形=台形ととらえることでおよそ. うからである。このような概形のとらえ方の誤解. の面積を求められるという見通しが得られてい. については考え方を他者と交流させることによっ. た。. て解決できると思われる。なお,過去の授業実践 では実際に他者と交流させることによって改善す ることができた。. ②〈解釈の拠り所としての役割〉 C児等は計算で面積を得て問題解決を終える のではなく「海の入れ方によって・・」と地図 を見直して概形に含まれる海の多さに気付いた. 4-5 問題づくりと原場面との関係性. り,値の大きさから概形を修正したりしていた。. 以上の実践事例と検証実践の分析から問題づく. これは問題が単なる計算問題ではなく地形と概. りにおける原場面(解決者が自身の経験にもとづ. 形(面積を求められる既習の図形)の台形と見. . 353.

(15) 髙谷 智史・橋本 忠和・小田 将之. 立てながら,海と陸の地形を組み替えたりしな. その原場面に関連付けた問題を教師が作成する必. がら,実際の面積に近づけていくという問題解. 要性を見出すことができたと考える。. 決裏付け=解釈の拠り所としての役割が機能し. 一方,検証実践の課題点としては,調査対象が. ていた。. 5人に留まったことである。そこで今後は単元計. 以上の抽出できた様相より問題づくりと原場面. 画の段階から本実践に取り組み,学級・学年規模. との関係性を整理すると,まず,算数科における. での調査を行うことで,より問題づくりと原場面. 問題づくりにおいては児童の興味・関心や生活経. の関係性を明確に示したい。. 験,既習の知識・技能について把握しておくこと. 加えて,20分間の検証実践では5人の児童が正. が重要である。したがって,それらをできるだけ. 答の値を得ることができなかったことも課題とし. 刺激するような事象を提示することで,児童の気. て残る。その原因として児童Cのアンケートにあ. 付きが表出され,問題発見に繋げられる。. るように概形に含む陸と海のバランスを調整する. また, 検証実践では,琵琶湖の問題よりも渡島・. ことに児童が慣れていなかったことがあった。. 檜山地方の問題の方が地形としては複雑だったに. これは,教科書に掲載されている問題は概形を. も関わらず,解いてみたいと考えた児童が多かっ. とらえやすい問題が示されており,本問題のよう. た(5名中4名が渡島・檜山地方の問題を選択). な複雑な地形を扱うものはなかったからと考えら. このことから,渡島・檜山地方の面積を求める問. れる。ただ,事例で短時間の中で概形の見直しや. 題は児童の原場面に働きかけ学習意欲を促した問. 再計算が行われていたことを考えると,単元指導. 題であったと捉えることができると想定される。. 計画の中に明確に位置付け,対話的・協働的に解. さらに,問題解決の過程においても主体的に概. 決を図ることによって,より精緻化された概形へ. 形をとらえたり,結果から概形の見直しを図った. と改善を図り,正答を導くことができるのではな. りしていたことから,提示した渡島・檜山地域の. いかという手立てが見いだせる。. 問題,即ち原場面と関連づけた問題が。児童の現 実世界とリンクし,その学習意欲に働きかけ,地. 5-2 本研究の課題. 形を概形ととらえる数学化を促したと思われる。. 本研究では,児童の原場面の役割を意識し,そ. したがって,児童の生活と関連を大切にした原場. の原場面に関連付けた問題を教師が作成する必要. 面の問題提が,児童の数学的モデリングのプロセ. 性を見出すことができた。. スにおける問題把握や問題解決・振り返りの過程 に有効的に機能していたと考えられる。. しかしながら,このような問題づくりを教師一 人が行うには極めて困難であると思われる。そこ で学年団や低中高学年のブロック,さらには学校. 5 今後の取り組みに向けて 5-1 本研究の成果. 全体で数学的活動への理解を深め,児童が事象を 数学化し,問題を発見することの重要性を意識し た問題づくりを継続的に行う必要性があると考え. 本研究においては,松嵜が指摘する原場面の役. る。したがって,ミドルリーダーを中心に算数科. 割を意識した問題づくりを行ったことにより,問. の問題づくりについて過去の実践やアイディアを. 題発見・解決の過程である数学的活動は実現し,. 交流する機会を設けたり,それらを共有する仕組. 単元のねらいでもある〈概形をとらえる〉 〈目的. みを構築したりするなどの工夫が求められる。. に応じて能率よく測定する能力を伸ばす〉に正対 した学習活動となっていた。. また,教科研究会(函館市においては筆者が所 属する『小学校算数教育研究会』)と連携を図る. したがって,検証実践の分析から算数科の問題. ことで研究内容や授業実践を学ぶ機会を得ること. づくりにおいては,児童の原場面の役割を意識し,. もできる。このように教師による算数科の問題づ. 354.

(16) 数学的活動の始点となる数学化による問題づくり. くりのための校内外のチーム化を図ることが,小. 9)同上. 学校の数学的活動を充実させる手立てとなると考. 10)大杉昭英,2016, 『中央教育審議会答申全文と読み解. える。さらに,本研究では〈日常生活や社会の事 象〉の数学化による問題づくりを取り上げたが数 32). 学的活動は〈数学の事象〉もあるとされる. 。. しかし, 〈日常生活や社会の事象〉に比べて抽 象的である〈数学の事象〉について児童の原場面 をいかに意識させ,数学化による問題発見へ繋げ. き解説』 ,明治図書,p.33 11)前掲書,文部科学省,2017,p.8 12)前掲書,文部科学省,p.8の図に筆者加筆 13)佐伯昭彦・川上貴・金児正史,2017, 「数学的モデリ ングの指導に関わる教師教育のための教材開発 ―数 学的モデリング指導の初心者を対象に―:日本科学教 育学会年会論文集41巻(2017) 」 ,日本科学教育学会, p.81. るかについては,研究の余地があると思われる。. 14)同上. この点についても,今後,継続的に研究していき. 15)松嵜昭雄,2018, 『原場面に着目した数学的モデリン. たい。. グ能力に関する研究 フッサール現象学の方法と応用 反応分析マップを援用して』 ,共立出版,p.19 16)同上. 註 1 本調査は,2018年12月,北海道道南地区教員対象93 名, (幼稚園・保育園65名,小学校17名,中学校3名, 高等学校7名,子育てサロン1名)を対象に実施した。 2 図2のアンケートの数値は〈5点=はい 4点=ど ちらかといえばはい 3=どちらともいえない 2点 =どちらかといえばいいえ 1点=いいえ〉と割り振っ てある。 3 本調査は,2018年12月,北海道道南地区教員対象95 名のうち, 〈子供が主体的に課題解決に取り組むために 指導上工夫している点〉の設問回答者68名分を集計し たもので複数回答可として実施している。. 17)前掲書,松嵜昭雄,pp.16-17 18)上書,p.17 19)上書,P.20 20)上書,p.19 21)前掲書,文部科学省,2017,p.8 22)同上 23)同上 24)清野辰彦,2002, 「学校数学における数学的モデル化 の学習指導に関する研究 ―教科書の問題の分析と評 価を中心に―:学芸大数学教育研究 no.14」,東京学芸 大学,p.119 25)前掲書,佐伯昭彦,p.83 26)前掲書,文部科学省,p.8の図に筆者加筆 27)北海道広告業協会,http://haaa.or.jp/pdf/hokko178. pdf#search=%27%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%BA%83%E5%91%. 引用文献 1)文部科学省,2018,『小学校学習指導要領解説 算数 編』,日本文教出版,p.23 2)同上 3)前掲書,文部科学省,p.8 4)山本良和,2019,「算数と『活動』」,『算数授業研究 論究XⅣ』,東洋館出版社,p.2 5)函館市小学校長会,2018,〈平成30年度 学校教育の 創出〉,pp.5-6 6)大坂睦,2013,「目的型の算数的活動のあり方に関す る研究―関数の考えに焦点をあてて―」,『全国数学教. 8A%E5%8D%94%E4%BC%9A+%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AF% E5%B0%8F%E3%81%95%E3%81%84%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9% 81%93%E3%81%AF%E5%A4%A7%E3%81%8D%E3%81%84%27 (2016年8月18日取得) 28)北海道産業人材育成ネットワーク,http://www.hrd. pref.hokkaido.jp/sjnp/portal-guide.html(2016年 8 月 18日取得) 29)秋田喜代美,2007年, 「教育・学習研究における質的 研究」,『事例から学ぶ はじめての質的研究』,東京図 書,p.9 30)柳本哲,2011年, 『数学的モデリング 本当に役立つ 数学の力』 ,明治図書,pp.10-11. 育学会誌 数学教育学研究第19巻第2号』,全国数学教. 31)前掲書,松嵜,p.24. 育学会,p.152. 32)前掲書,文部科学省,p.8. 7)長尾尚,市川隆司,奥田三郎,2011,「学習意欲を引 出すチーム学習の枠組み―知識時代の学習者参加型授 業をめざして―:大阪信愛女学院短期大学紀要45号」, 大阪信愛女学院短期大学,p.3 8)前掲書,文部科学省,p.23. . (髙谷 智史 教職大学院函館校院生). . (橋本 忠和 函館校教授) . . (小田 将之 学校臨床教授) . . 355.

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