家庭科の教科書における防災に関する記載の変遷
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第69巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 69, No.2. 平 成 31 年 2 月 February, 2019. 家庭科の教科書における防災に関する記載の変遷 大橋 裕子・岡田みゆき* 北海道教育大学大学院教育学研究科 *. 北海道教育大学旭川校家庭科教育研究室. The Changes of Descriptive Contents about Disaster Risk Management in Prescribed Textbooks of Home Economics OHASHI Yuko and OKADA Miyuki* Graduate School, Hokkaido University of Education *. Department of Education, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 我が国は,その位置,地形,地質,気候等の自然的な条件から,暴風,竜巻,豪雨,豪雪, 洪水,崖崩れ,土石流,高潮,地震,津波,噴火,地滑り等による災害が発生しやすい国土で あり,特に地震が発生する回数は非常に多い。実際,ここ数十年の間に阪神・淡路大震災と東 日本大震災など地震による甚大な被害があった。このような大災害に備えるためには,防災教 育が重要な役割を担っている。そこで,本研究では,今後の家庭科防災教育における示唆を得 るため,阪神・淡路大震災前から東日本大震災後の現在に至るまでの教科書の通史的な研究を 通して,防災に関する記載の変化を明らかに示すことを目的とした。分析は,阪神・淡路大震 災の発生前から東日本大震災後に発行されている家庭科の教科書64冊を対象とし,防災に関す る記載がどのように変化してきたのかを整理した。結果は以下の通りであった。 ・震災後は教科書の防災や災害の記載は増えていた。阪神・淡路大震災後の記載の増加は一時 的であったが,東日本大震災後は著しく防災に関する記載が増えた。 ・震災前は日常的な備えの内容が最も多かったが,震災後は震災直後期や復興期の内容の記載 が多くなった。 ・住環境の備えから,全体的に災害時を想定した内容,実践的な防災への取組,家族や地域を 視点に入れた防災の記載に変化している。. 1.研究の目的 我が国は,その位置,地形,地質,気候等の自. 然的な条件から,暴風,竜巻,豪雨,豪雪,洪水, 崖崩れ,土石流,高潮,地震,津波,噴火,地滑 り等による災害が発生しやすい国土であり,特に. 207.
(3) 大橋 裕子・岡田みゆき. 地震が発生する回数は非常に多い。実際,ここ数. と言及している。また,末川ら5)は,学校教育に. 十年の間に阪神・淡路大震災と東日本大震災など. おける防災教育が重要視されている今,教科書の. 1,2). 地震による甚大な被害があった。. 通史的研究は家庭科防災学習の在り方や課題を整. このような大災害に備えるために,防災教育は. 理する上で有意義であると述べている。. 重要な役割を担っている。ショウらは,災害時に. 家庭科の教科書における防災の記述内容の主な. みられる現象とその対処方法を学んだ児童・生徒. 先行研究は,末川ら5)と遠藤ら7)で,非常に少な. は,学習を生かしてまわりの人に危険を知らせる. い。末川らは,現在までに発行された中学校技. とともに自分の身を守るなど,すばやく適切に対. 術・家庭(家庭分野)の教科書283冊を対象とし. 応できる3)と述べている。また,同書では,学校. て,2016年までに8回改訂された家庭科の学習指. での防災教育は①児童・生徒は災害時に社会的に. 導要領の全面実施期間ごとに9区分し,項目を設. 最も脆弱な存在である,②児童・生徒は地域社会. けて分析した。この研究により,1989度改訂及び. の将来を担う,③学校は会合やグループ活動を行. 1998年度改訂の学習指導要領には防災の学習内容. う際に地域の中心的存在として機能する,④教育. が記載されていないが,これらの学習指導要領等. の効果は保護者や地域の人々に伝達できる3)こと. の下で出版された1993~2001年及び2002年~2011. から,生徒,教師,保護者だけでなく,地域社会. 年の教科書では阪神・淡路大震災など直近で発生. の意識啓発に重要な役割を果たすと述べられてい. した大規模災害に関連する防災学習内容がみられ. る。. たことが分かった。また,2014年~現在の教科書. 他方,文部科学省は,①自然災害等の現状,原. は,それまでに見られた防災に関する内容がより. 因及び減災等について理解を深め,現在及び将来. 詳しく扱われていたり,近年の大規模災害を反映. に直面する災害に対して,的確な思考・判断に基. した時事的な問題に注目したりして,防災に対す. づく適切な意志決定や行動選択ができるようにす. る関心が高くなっていることも考察した。. る,②地震,台風の発生等に伴う危険を理解・予. 一方,遠藤らは,東日本大震災から得た生活体. 測し,自らの安全を確保するための行動ができる. 験を教育的価値あるものとして今後の家庭科教育. ようにするとともに,日常的な備えができるよう. に活かすことを目的に,1999年文部科学省告示58. にする,③自他の生命を尊重し,安全で安心な社. 号に基づいて採択された高等学校家庭科教科書21. 会づくりの重要性を認識して,学校,家庭及び地. 冊を対象に震災に関する記述内容の傾向を調査し. 域社会の安全活動に進んで参加・協力し,貢献で. た。その結果,住生活の単元のみで取り上げられ. きるようにする4)ことを防災教育のねらいとして. ており,ほとんどの教科書が建物の耐震構造や補. いる。また災害に適切に対応する能力の基礎を培. 強,家具の固定などを中心に記述していることを. うということは,生きる力を育むことと密接に関. 明らかにした。. 連しており,児童・生徒等の発達の段階を考慮し. 以上のような先行研究はあるが,最新の家庭科. て,関連する教科,総合的な学習の時間,特別活. の教科書を含む通史的な研究は末川らのみであ. 動など学校の教育活動全体を通じた防災教育の展. り,対象も中学校の家庭科の教科書のみである。. 開が必要としている。つまり,学ぶ知識技能が生. そのため,小学校,中学校,高等学校の家庭科の. きる力に直結し,家庭や地域をつくっていく家庭. 最新の教科書までにおける通史的分析が必要であ. 科においても,防災教育を行う必要があると考え. る。そこで,本研究では,今後の家庭科防災教育. る。実際,末川ら5)や岡村ら6)は,家庭科におけ. における示唆を得るため,阪神・淡路大震災前か. る防災教育は,生徒が将来,家庭や地域の防災に. ら東日本大震災後の現在に至るまでの教科書の通. 貢献できるようになること,生徒自身と家族の現. 史的な研究を通して,防災に関する記載の変化を. 在の安全確保につながることの両面が期待できる. 明らかに示すことを目的とした。. 208.
(4) 家庭科の教科書における防災に関する記載の変遷. 2.研究の方法. 3.結果と考察. ⑴ 調査資料. ⑴ 校種別の記載数. 阪神・淡路大震災(1995年)の前から現在に至. 表1は,小学校家庭科教科書における防災に関. るまでのおよそ20年間で検定・発行された家庭科. する記載数を示したものである。開隆堂は1995年. の教科書64冊(小学校20冊:1991年から2014年ま. に初めて記載があり,1999年に5まで増えた。そ. で,中学校16冊1992年か2015年まで,高等学校28. の後,記載はなかったが,2014年に再び5つの記. 冊:1993年から2016年まで)を調査した。. 載があった。つまり,1995年の阪神・淡路大震災. ⑵ 調査内容. 後,2011年の東日本大震災発生後に記述が増えて. 防災に関する箇所を数量的に分析するために,. いた。東京書籍では,東日本大震災後に記述が始. 「セクション」という概念を設定し,各教科書か. まった。. ら抽出する。セクション数を記載数とみなした。. 表2は,中学校家庭科教科書における防災に関. 「セクション」は「防災」, 「災害」, 「自然災害」,. する記載数を示したものである。開隆堂は,1992. 「震災」 , 「地震」の語句,またはこれらの語句に. 年に4であった記載数が1996年には11に増えた。. 関連する内容を含む,最小の見出し及びその文章. その後減少するが,2011年に22と一気に増え,. を指す(文中に図表等の指示がある場合は,当該. 2015年には50まで増えた。東京書籍では,1996年. 図表を含む) 。ただし,本文で指示がない図表で. に2から7に増え,2011年にも9から16に増え. も項目内容が1つ以上記載されている場合も1つ. た。さらに,開隆堂と同様に2015年には54と大幅. のセクションとみなした。また,挿絵やイラス. に増加した。2社に共通して言えることは,記載. ト,写真は基本的に文章に含まれているとみなし. 数0の年がないことである。阪神・淡路大震災以. ている。ただし,文章に付属しているわけではな. 前から防災や災害に関する記載はあった。また,. い挿絵やイラスト,写真は1つのセクションとし. 阪神・淡路大震災後,東日本大震災後に記載数が. てみなしている。. 増えている。特に,最新の2015年の記載数が著し. 抽出したセクションを使い, 「一冊当たりの記. く多いということも共通している。. 載数」 (表1~3)を校種ごとにまとめた。. 表3は,高等学校家庭科教科書における防災に. 次に, 「災害を想定する時間軸でみた記載数」. 関する記載数を示したものである。なお教育図. (表4~6)をまとめた。時間軸は「前期」(災. 書,実教出版については,1998年から2016年はそ. 害による被害が生じる前に防災に取り組む期間),. れぞれ2種の教科書があるため,①,②と記載し,. 「直後期」 (災害発生直後から始まる期間。応急. その教科書についても検討した。中学校同様,高. 的な対応によって被害の拡大を防ぐ期間),「復興. 等学校においても,阪神・淡路大震災以前から防. 期」 (災害による被害への応急的な対応が一段落. 災や災害に関する記載があった。そして,記載数. し,復旧・復興に取組を行う期間), 「その他」(上. の増減の傾向は概ね3社とも同じで,1993年より. 記の3つの期間に分けられなかった内容)の4つ. も,阪神・淡路大震災後の1997年には記載数が増. に分けた。最後に,「カテゴリー別防災に関する. えていた。そして,その後3社とも記載数が減少. 記載内容」 (表7~9)をまとめた。記載内容を. するが,2006年から再び3社とも記載数は増加す. カテゴリー別にまとめ,その内容がみられた年に. る。特に,最新の教科書の記載数は一番多くなっ. ○をつけた。. ていた。東京書籍は2012年と比べ2倍近く増加し た。以上から,中学校と高等学校の家庭科の教科 書には,震災前から防災に関する記載はあった。 ただし,どの校種においても,震災後に記載数が. 209.
(5) 大橋 裕子・岡田みゆき. 増える傾向が見られた。特に,東日本大震災後に. だ,どちらにしても前期の記載が多い。. 記載数が著しく増え,最新の教科書も記載数が最. 東京書籍は,2014年に前期の記載が5,直後. も多かった。震災が教科書の記載に影響している. 期,復興期が1つずつの3つの時間軸で記載が見. ことが分かった。. られた。前期の記載が最も多いことは2社に共通. ⑵ 災害を時間軸でみた記載の変化. している。また,最近の教科書のほうが災害直後. 表4は,小学校家庭科教科書における災害を時. や復興期の内容も掲載している。. 間軸でみた記載の変化を示したものである。開隆. 表5は,中学校家庭科教科書における災害を時. 堂は,1995年では災害前期のみの記載だったが,. 間軸でみた記載の変化を示したものである。開隆. 1999年,2014年には直後期の記載も見られた。た. 堂は,1992年から2001年まで前期と直後期の2つ の時間軸での記載があった。2005年直後期の記載. 表1 記載数(小学校). がなくなり,その他の記載が1みられた。1冊当. 検定年. 開隆堂. 東京書籍. たりの記載数も4に減少している。しかしなが. 1991年. 0. 0. ら,2011年になると記載数も大幅に増え,前期,. 1995年. 1. 0. 直後期,復興期の3つの時間軸で記載されていた。. 1999年. 5. 0. 2001年. 0. 0. 2004年. 0. 0. 検定年. 東京書籍. 教育図書. 実教出版. 2010年. 0. 0. 1993年. 2. 3. 9. 2014年. 5. 7. 1997年. 11. 8. 14. 1998年. ―. 14. 14. 2002年①. 9. 4. 4. 表3 記載数(高等学校). 表2 記載数(中学校) 検定年. 開隆堂. 東京書籍. 2002年②. ―. 4. 6. 1992年. 4. 2. 2006年①. 11. 13. 9. 1996年. 11. 7. 2006年②. ―. 8. 10. 2001年. 6. 7. 2012年①. 17. 19. 11. 2005年. 4. 9. 2012年②. ―. 16. 12. 2011年. 22. 16. 2016年①. 36. 28. 11. 2015年. 50. 54. 2016年②. ―. 26. 24. 表4 時間軸でみた記載数(小学校) 時間軸 検定年. 210. 前期. 直後期. 復興期. 開隆堂. 東京書籍. 開隆堂. 東京書籍. 開隆堂. 東京書籍. 1991年. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 1995年. 1. 0. 0. 0. 0. 0. 1999年. 4. 0. 1. 0. 0. 0. 2001年. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 2004年. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 2010年. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 2014年. 3. 5. 2. 1. 0. 1.
(6) 家庭科の教科書における防災に関する記載の変遷. 東京書籍は,1992年は前期の記載のみであった. 表6は,高等学校家庭科教科書における災害を. が,1996年以後,前期,直後期,復興期と時間軸. 時間軸でみた記載の変化を示したものである。東. が増えた。開隆堂は,復興期の内容が東日本大震. 京書籍は,前期の記載はどの年もみられ,一冊当. 災の後に検定された教科書でのみ見られたが,東. たりの記載数が減少しても前期の記載数が減少す. 京書籍は,阪神・淡路大震災後から見られた。た. ることはなく,概ね増加していることがわかっ. だし,1996年から2015年までの全てに復興期の内. た。直後期の内容は1997年に出てきたが,その後. 容があったわけではないことも表5からわかる。. 記載数は減少し,2006年ではみられなくなった。. 2社に共通して言えることとして,最新の2015. 東日本大震災後の2012年以降,再び記載がみられ. 年の教科書では,前期,直後期,復興期の全ての. るようになり,記載数は増加していた。復興期の. 時間軸の内容の記載があることが挙げられる。ま. 内容については,1997年以降出てきているが,. た,前期の内容の記載が多いことも共通してい. 2012年まで記載数の1から変化はなく,2016年で. る。1冊当たりの記載数の増加にともない各時間. 4に増加した。. 軸の記載数も増えている傾向にあった。. 教育図書は,2002年から2016年までそれぞれ2. 表5 時間軸でみた記載数(中学校) 時間軸 検定年. 前期. 直後期. 復興期. その他. 開隆堂. 東京書籍. 開隆堂. 東京書籍. 開隆堂. 東京書籍. 開隆堂. 東京書籍. 1992年. 3. 2. 1. 0. 0. 0. 0. 0. 1996年. 9. 5. 2. 1. 0. 1. 0. 0. 2001年. 5. 5. 1. 1. 0. 0. 0. 1. 2005年. 3. 7. 0. 1. 0. 1. 1. 0. 2011年. 13. 14. 6. 2. 3. 0. 0. 0. 2015年. 21. 38. 12. 7. 14. 2. 3. 7. 表6 時間軸でみた記載数(高等学校) 時間軸 検定年. 前期. 直後期. 復興期. その他. 東書. 教図. 実教. 東書. 教図. 実教. 東書. 教図. 実教. 東書. 教図. 実教. 1993年. 1. 3. 8. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 1. 0. 1. 1997年. 5. 5. 11. 3. 1. 0. 1. 0. 0. 2. 2. 3. 1998年. ―. 6. 9. ―. 6. 3. ―. 0. 1. ―. 2. 1. 2002年①. 5. 3. 3. 1. 1. 1. 1. 0. 0. 2. 0. 0. 2002年②. ―. 3. 5. ―. 1. 1. ―. 0. 0. ―. 0. 0. 2006年①. 8. 9. 8. 0. 2. 1. 1. 1. 0. 2. 1. 0. 2006年②. ―. 5. 7. ―. 2. 1. ―. 0. 0. ―. 1. 21. 2012年①. 12. 12. 9. 1. 2. 1. 1. 1. 0. 3. 4. 1. 2012年②. ―. 8. 11. ―. 2. 1. ―. 1. 0. ―. 5. 0. 2016年①. 22. 19. 8. 5. 3. 1. 4. 2. 0. 5. 4. 2. 2016年②. ―. 16. 10. ―. 1. 0. ―. 3. 14. ―. 4. 0. 211.
(7) 大橋 裕子・岡田みゆき. 冊ずつ発行されている。前期の記載はどの年もみ. をカテゴリー別に分けたものである。記載の量に. られ,1冊当たりの記載数が増減の傾向と,前期. 関わらず,記載していれば〇を付けている。1995. の増減の傾向は同じであった。直後期は1997年以. 年,住まいの安全における家具の固定から,記述. 降に記載がみられるが,特に1998年検定の教科書. が始まった。阪神・淡路大震災以後の1999年の教. が最も多かった。2006年以降は記載数に変化がな. 科書には,物や家具の配置に気を付けること,避. かった。復興期は2006年以降からでてきて,年々. 難時に持ち出すものの例や家族と避難方法,阪. 少しではあるが増加していた。. 神・淡路大震災の被害状況などさまざまな視点か. 実教出版は,教育図書と同じく2002年から2016. ら記述され,特に避難時を想定した内容が出てき. 年までそれぞれ2冊ずつ発行されている。1993. ている。東日本大震災の後の2014年の教科書に. 年,1997年と時間軸の変化はなく,前期とその他. は,住まいの安全の項目では家具についての記載. の記載のみであった。1998年以降から直後期の記. はなくなり,日頃からの整理整頓が防災につなが. 載がみられるようになった。しかし,直後期は. ることが書かれていた。避難に関する項目では,. 1998年の記載数が最も多く,その後は減少傾向に. 家族と確認するだけでなく,話し合って安全マッ. あった。復興期は,1998年,2016年で記載がみら. プを作成することまで言及されていた。さらに,. れた。1998年は記載数が1であったが,2016年に. 衣類の防災,災害時の食,避難所の小学生が地域. は7に増加していた。. の人とともに活動する様子が書かれるなど地域の. 高等学校の3社ともどの年も前期の記載がみら. 人とのかかわりについての内容も加わった。つま. れ,総じて4つの時間軸の中で最も記載が多かっ. り,災害後は,実践的な防災の取組に関する記載. た。また,直後期,復興期の内容は阪神・淡路大. が多くなった。. 震災後に検定された教科書から登場している。そ. 表8は,中学校家庭科教科書における記載内容. して,2016年の教科書には3社ともすべての時間. をカテゴリー別に分けたものである。住まいの安. 軸で記載があることはわかった。また概ね1冊当. 全では,家具の固定と災害対策についてはどの年. たりの記載数が増えると前期の記載数が増える傾. 度も記載がみられ,2001年以降は家具の配置につ. 向にあることが分かった。特に2016年の教科書は. いても書かれるようになった。2011年以降は災害. どの災害軸の記載数もそれ以前と比べると最も増. から身を守るための住居の機能について触れられ. える傾向にあった。. ていた。つまり,住まいの点検や,日ごろの災害. ⑶ 記載内容の変化. への備えの重要性に言及する内容が多い。. 表7は,小学校家庭科教科書における記載内容. 災害時の内容は,災害時のために備えておくも. 表7 記載内容(小学校) カテゴリー 住まいの安全. 内容 家具の固定 家具や物の配置. 1991年. 1995年. 1999年. ○. ○. 2010年. 2014年. ○ ○. 日頃の整理整頓の重要性. ○. 震災の被害. 大震災の被害状況説明. ○. 避難時持ち出し品の例. ○. 家族との避難方法の確認. ○. 212. 2004年. 避難時に持ち出したい物の 整理整頓の工夫. 避難関係. 災害時の食. 2001年. ○. 家族と避難経路などの安全 マップを作成. ○. 災害時の食事の説明. ○.
(8) 家庭科の教科書における防災に関する記載の変遷. 表8 記載内容(中学校) カテゴリー 住まいの安全. 内容 家具の固定. 1992年. 1996年. ○. ○. 家具や物の配置. 2001年. 2005年. 災害時. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. 住まいの地震対策を点検. ○. ○. 日頃から災害対策の必要性. ○. ○. ○. ○. 災害時に備えておくものの例. ○. 非常用持ち出し品の例. ○ ○. 実習中に地震が起きたときの行動. ○ ○. ○. ○. ○. ○. ○. 避難場所や避難経路を家族と確認. ○. ○ ○. ○. 地域の防災対策を知る 地域の防災訓練への参加. ○. ○ ○ ○. ○. ○ ○. 地域の人と災害時の課題を話し合う. ○. ○. ○. ○. 地域に期待する役割としての防災. ○. ○. ボランティア. ○. ○. ○. 地域の人とのつながりの大切さ. ○. ○. ○. ○. ○. 地域の助け合いの重要性の説明 衣類の防災. 自分の住む地域で想定できる災害. ○. 防災ずきんの用意のすすめ. ○ ○. 食料の放射性物質汚染問題. ○. ○. 食の情報の判断. ○. 災害時使える食材の例. ○. 備蓄しやすい材料を使った料理. ○ ○. 家具の転倒・落下によるけが人 地震による室内の被害の様子. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. 津波について 大震災にあった中学生の話 防災の実践例. ○ ○. 防災グッズの製作の実践例. ○. ○. 家の安全対策チェックの実践例. ○. ○. 電気を使わない生活の実践例. ○. 防災マニュアルの作成の実践例 震災の体験から. 大震災の体験者からのアドバイス. ○. 大震災で家族を失った人の話. 災害と環境. ○. ○. 震災を体験した人の話 避難所生活. ○. 放射性物質の説明. 災害時の食事のポイント説明 震災の被害. ○ ○. 衣類の備え 災害と食. ○. ○. 避難時,幼児がいる家族の必需品 地域の防災. ○ ○. 災害時のライフライン. 幼児や高齢者などの避難を考える. ○. ○. 地震が発生した時の行動. 避難場所や避難経路を確認. ○ ○. 避難所としての学校. 避難関係. 2015年. ○. 住まいの機能 災害の対策. 2011年. ○ ○. 仮設住宅のコミュニティ. ○. 仮設住宅や避難所の課題. ○. 再生可能や省エネルギーの重要性. ○. 原発事故による放射性物質の影響. ○. 213.
(9) 大橋 裕子・岡田みゆき. のの例が多くの年度でみられた。非常用持ち出し. 安全に関わる内容が最も多かった。災害の説明,. 品の例は1996年と2015年の震災後にみられた。地. 公共的な防災対策の必要性,耐震構造の対策,自. 震が発生したときの行動については,2011年東日. 然災害からの住居維持管理,安全な住環境,災害. 本大震災以降に記載があった。2015年には,実習. の対策例,地震対策の点検などの内容は1993年か. 中に地震が来たときの行動や対応,災害時のライ. ら概ねどの年度でも記載されていた。自然災害か. フラインについての記載が初めてみられた。. ら身を守る住居の機能は1997年以降,家具の固定. 避難に関する内容は,どの年も幼児や高齢者な. が詳しく書かれ始めたのは2002年以降であった。. どの避難を考える内容がみられた。また2011年以. 耐震構造のついては,2012年以降詳しい仕組みの. 降は,避難場所や経路の確認と,そのことを家族. 説明があったり,耐震構造を理解するための実験. と話し合うという内容が記載されていて,家族で. などが載っていたりした。また,2012年以降はハ. 防災に取り組む必要性が指摘されている。. ザードマップを確認する内容,災害に強い住まい. 地域の防災では,地域の防災対策を知るという. を選ぶポイントが書かれていた。住まいの安全は. 内容は1992年から,1996年以降は地域の防災訓練. 1993年から詳しく書かれていたが,震災を受け. に関する内容もみられた。また,2005年からは災. て,具体的な防災対策について書かれ始めた。ま. 害時のボランティアについて,地域の人とのつな. た,住まいの安全対策だけでなく,住居全体に関. がりや助け合いの大切さを伝える内容が出てき. わる記載が震災後書かれていた。. た。震災を経ることで地域を視点にした防災の内. 避難関係の内容は,2006年と2014年に避難場所. 容が増えてきている。. や経路の確認や非常持ち出し品の例が具体的に. 食に関する内容は2011年以降に見られ,放射性. 載っていた。しかし,中学校の教科書よりも内容. 物質による汚染の問題が記載されていた。災害に. が少なく,記載年度も少なかった。. 備えておく食料や災害時の料理のつくり方など,. 地域の防災の内容は,1997年から地域の人との. 実際に災害時を想定した内容は2015年に出てきて. つながりの大切さについて触れる記載がみられ. いる。. た。ボランティアについての記載も阪神・淡路大. 震災の被害を伝える内容は震災後にみられ,被. 震災後の1997年以降にみられた。また,地域の防. 害にあった室内の様子の写真が載るようになっ. 災力を高めるためにできることを考える内容や地. た。2011年以降になると,防災グッズの製作や家. 域のまちづくりに参加する内容も出てきていた。. の安全対策チェックなどの実践例,震災の体験者. 阪神・淡路大震災後から地域の人との関わりの大. の話が掲載されていた。また,避難所や仮設住宅. 切さの記載はあったが,東日本大震災後からは避. については2015年以降に取り上げられていた。. 難所での地域の人の助け合い,災害に強いまちづ. 以上から,家具の固定など住まいの中の安全を. くりや自助・共助・公助など災害時や地域の防災. 中心に記載されてきた内容が,震災を経ることで. のために自分たちにできることを考える内容が増. 地域を視点にした防災の内容や災害時を想定した. えていた。. 内容がみられるようになったことがわかる。ま. 高齢者に関わる内容は,2002年から高齢者によ. た,幼児や高齢者を踏まえた記載があることから. る災害の体験の伝承について,2016年には高齢者. 他者のことを視野に入れて防災を取り組むことが. の災害時の孤立について書かれるようになった。. 中学生に求められていると考えられる。さらに,. 災害と食の内容は,2016年から災害時の調理や. 東日本大震災以降は震災後の生活を考える必要性. 放射性物質による食品汚染について記載された。. も指摘されている。. 地震被害の様子の写真は,1997年以降みられ. 表9は,高等学校家庭科教科書における記載内. た。2002年以降は近年発生した災害の例が載るよ. 容をカテゴリー別に分けたものである。住まいの. うになった。東日本大震災後の教科書には津波や. 214.
(10) 家庭科の教科書における防災に関する記載の変遷. 表9 記載内容(高等学校) カテゴリー 住まいの安全. 内容. 1993年. 1997年. 1998年 ○. 災害の説明. ○. ○. 地盤の強化等の公共対策. ○. ○. 2002年. 2006年. 2012年 ○. ○. ○. ○. ○. ○ ○. 耐震構造などの対策. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. 地震による住居の損傷. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. 安全な住環境. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. 住まいの機能. ○. ○. ○. ○. ○. 家具の固定の説明. ○. ○. ○. ○. 災害の対策の例. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. 地震対策を点検する. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ハザードマップの確認. ○. ○. 耐震構造などの説明. ○. ○. 耐震構造の実験. ○. 災害の事故例と対策. ○. 災害時のライフライン ライフライン切断例. ○ ○. ○. 安全な住まい選択の視点 災害時. ○. 災害時の行動の例. ○. 災害時への備えを考える. ○. ○ ○. 避難場所や経路の確認. ○. 非常持ち出し品の例 地域の防災. ○. ○. 地域の人とのつながり. ○. ○. ボランティア. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. 災害時の救出主体. ○. 災害時の要援護者の対応 地域の防災力向上のため. ○ ○. ○. 避難所での助け合い. ○. 地域のまちづくりに参加. 高齢者の生活. ○. ○. 災害時にできることの例 避難関係. 2016年. ○. ○. 災害に強いまちづくり. ○. 自助・共助・公助の例. ○. 災害の体験の伝承. ○. ○. ○. 災害時の高齢者の孤立. ○ ○. 衣類の防災. 備えておくべき衣類. ○. ○. 子ども. 災害と子育て支援の例. ○. 災害と食. 災害時の調理. ○. 食品の放射能汚染 震災の被害. ○. 大震災の被害状況説明 地震による被害の様子. ○ ○. 近年の災害の被害. ○. ○. ○. 震災による死亡者の割合. ○. 住宅種類別の全・半壊率. ○. ○. 津波の被害例. ○. 原子力発電所事故の問題 防災の実践例 (ホ ー ム プ ロ ジェクト). 震災の対策チェック 高齢者を守るための対策 家の防災対策. ○. ○. ○ ○. ○ ○. ○ ○. 215.
(11) 大橋 裕子・岡田みゆき. 避難所生活 生活設計. 町内弱者マップ. ○. 地震を想定した1日生活. ○. 防災マップの作成. ○. 避難所生活の課題. ○. ライフイベントと災害. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. 公助・共助の重要性 経済. 災害に備えた貯蓄. ○. ○. ○. 災害保険 消費生活. 震災時のネットワーク. ○. ○. エシカルコンシューマー. 原発事故について書かれていた。. ○. ていた。. 防災の実践例として,2006年からホームプロ. ②どの校種でも災害を想定する時間軸の中では前. ジェクトで防災に取り組む内容がみられた。年々. 期の記載数が最も多い傾向にあった。直後期,. 数も増加し,内容も家の地震対策チェックから防. 復興期の記載は大震災の後に出てくる傾向もみ. 災マップ作成や地域の防災など内容に広がりが見. られた。中学校,高等学校では,最新の教科書. られた。また,1993年の教科書から,生活設計の. において前期,直後期,復興期の全ての時間軸. 内容として災害が挙げられていたり,貯蓄の理由. の内容の記載があった。阪神・淡路大震災後よ. として災害への備えが書かれていた。. りも東日本大震災後に時間軸が増えている傾向. 以上から,震災を経ることで具体的な対策や,. があった。. 他者を視点に入れて災害時や地域の防災のために. ③最初は,家具の固定など住まいの中の安全を中. 自分たちにできることを考える内容が増えたこと. 心とした内容であった。震災後は,災害時のラ. がわかる。また,最新の教科書では防災を題材に. イフラインなど災害時を想定した内容,避難経. したホームプジェクトの数が増えているため,よ. 路やハザードマップなど実践的な防災への取. り実践的に防災に取り組むことが求められている. 組,地域や他者を視点に入れた防災の記載が増. と感じる。また,高等学校では,防災を考える範. えていた。. 囲が自分の周辺の地域だけでなく社会であった. 以上のことから,家庭科の防災教育において. り,災害への備えを考える視点が一生であった. は,災害時に役立つ実践的な活動内容を取り入れ. り,広い視野で防災に取り組むことが求められて. ること,地域の人々と協力することの必要性,幼. いると考える。. 児や高齢者などを含む他者への配慮,災害時や復 興における課題などを学習することが求められて. 4.まとめ. いると考察できる。また,記載数や内容の変化か ら,防災意識の高まりや,防災教育の必要性や重. 本研究は,今後の家庭科防災教育における示唆. 要性が感じられた。しかしながら,学習指導要領. を得るため,阪神・淡路大震災前から東日本大震. 解説には住生活の領域にしか防災に関わる内容が. 災後の現在に至るまでの教科書の通史的な研究を. 明記されておらず,もともと授業数も多くない。. 通して,防災に関する記載の変化を明らかに示す. こうした状況下で,防災教育を授業に取り入れて. ことを目的とした。結果は以下の通りである。. いくことは難しいかもしれない。しかしながら,. ①大災害の影響を受け,震災後は教科書の防災や. 災害が多い我が国においては,防災教育が必要と. 災害の記載は増える傾向にあった。阪神・淡路. されており,家庭科でも効率的に,実践的な防災. 大震災後の記載の増加は一時的であったが,東. 教育を取り入れていかなければならない。. 日本大震災後は著しく防災に関する記載が増え. 216.
(12) 家庭科の教科書における防災に関する記載の変遷. 最後に,本稿執筆にあたりまして,研究の資料 収集に協力いただいた北海道教育大学教育学部旭 川校生活技術教育専攻卒業生稲葉智佳さんに心か ら感謝いたします。. 引用・参考文献 1)内閣府.2013年版防災白書 特集 指標等からみる 我が国の防災対策. . http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h25/ honbun/1b_0s_01_00.htm(入手日:2017.12.26) 2)気象庁.2016年12月 地震・火山月報(防災編). . http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/gaikyo/ m o n t h l y / 2 0 1 6 1 2 / 2 0 1 6 1 2 m o n t h l y . p d f ( 入手日: 2017.12.26) 3)ショウラジブ,塩飽孝一,竹内裕希子.防災教育― 学校・家庭・地域をつなぐ世界の事例 第1章 防災 教育.明石書店.2013,13-21. 4)文部科学省.『学校防災のための参考資料「生きる力」 を育む防災教育の展開』,第2章 学校における防災教 育1安全教育と防災教育 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/ detail/__icsFiles/afieldfile/2013/05/15/1334780_04.pdf (入手日:2017.12.26) 5)末川和代,天野晴子.中学校家庭科の教科書記述内 容の変遷からみる 家庭科防災教育に関する分析的一研 究.日本家庭科教育学会誌,2018,60⑴,3-12. 6)岡村大地,鈴木佐代,赤木遥香,古賀明日香,守裕代. 家庭科における地震防災教育に関する研究 中学校保護 者の家庭での防災の取り組み.福岡教育大学紀要.第 5分冊,芸術・保健体育・家政科編,2015,,207212. 7)遠藤恵,武井玲子,深谷笑子,難波めぐみ,佐藤典子. 東日本大震災前後の家庭科教育の現状.日本家庭科教 育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集,2013, 560,38.. . (大橋 裕子 旭川校大学院生). . (岡田みゆき 旭川校教授) . 217.
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