環境に配慮した地域の天然素材を利用した染色教材の開発 : 土顔料による綿布の染色
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(2) No.58. 環境に配慮した地域の天然素材を利用した染色教材の開発. 環境に配慮した地. 2003.12. 域の天然素材を利用した染色教材の開発 一土顔料による綿布の染色−. 小 松. 森 田 みゆき. 恵美子. (天使大学非常勤講師). (北海道教育大学札幌校). Developmentofenvironmentaleducationcolorationteachingmaterial uslnglocalsoil;Coloringtocottonfabricwithclaypigment EmikoKOMATSUandMiyukiMORITA. る事故が生じやすく,衣料品への用途には課題が多い。. 1 は じめに. 現代では顔料による布の染色は一割にも満たないが,. 日本の万葉集には黄土(はにふ)で布を染めていたこと. 水を溶媒とした染色法には,市販の合成染料を用いる. 方法の他に,すくもを使った藍染めや,植物の煮汁で染. が歌われている。近年,万葉集と同じ土を用いた土粒子. 色する植物染め等の方法があり,どれも学校等の教材や. の布への付着性についても報告がなされている4)。. 家庭での染色法として使われている1,2)。これらの方法. また,ヨーロッパにも古くから壁の塗料に使われてい. は染料水溶液に布を浸漬して行うため,染色終了後には. る土顔料がある。この土顔料は現在商品化されており,. 染色廃液が残る。1回染色に使用した後の染色液は,外. 日本にも輸入され手づくりクレパスや絵の具等の教材と. 観上まだ十分に染料の色が残っていることが多いが,溶. して使用されている。. 液の染料濃度は再び布を濃色に染色できるほど高くはな. 同じ染色液で新たな布を染めることもできるが,実際に. 現代の日常生活において,土と布が関わる事象に衣服 の「泥汚れ」がある。「泥汚れ」は,洗濯で「除去すべ きもの」と認識されており,また泥汚れは粒子が微細で. は1回染色後にそのまま染色廃液として廃棄される場合. あるため付着状態によっては「落ちにくく」「やっかい. も多い。また,染色には染料の他に助剤や媒染剤も使わ. な汚れ」でもある。だが視点を変えると,「泥(土)」は. い。薄い染料濃度でも淡色染色が可能な染料であれば,. れるため,染色廃液中にはそれらも残存している。媒染. 「落ちにくく」繊維に付着させることができる「色(顔. 剤には金属を含むものが多い。家庭や学校で染色を行い,. 料)」である,と考えることもできる。. 染色廃液をそのまま生活排水として廃棄するならば,環. ヨーロッパで使われている土顔料は色の種類も豊富. 物質(染料,助剤,媒染剤)を,何らかの方法で水と分. で,鮮やかで美しい物も多い。この土顔料で「泥」をつ くり,「泥汚れ」が布に付着してとれなくなるように,. 離・回収した後に廃棄するのが最良である。だが実際に. 土顔料を機械力で繊推に付着させて布を染めることも可. は,水に溶解しているこれらの水溶性物質を回収するこ. 能であると考えられる。染色溶液が土顔料と水だけから 成る「泥」ならば,染色廃液による環境負荷の心配もな い。また,染色廃液中に残存した顔料ほ,フィルター濾. 境に対する影響も考えなければならない。廃液中の残存. とは難しく,そのまま排水として放出されていると考え られる。. 水や溶剤に可溶の包材が染料として使われる一方で,. 過により回収して再利用することができる。. それらに不溶な包材は顔料として使われている。顔料の. 北海道各地でも地層が露頭している場所で様々な色を. 主な用途は塗料,印刷インク分野であるが,日光に対し. した土が見られる。事前に有害な物質が含まれていない. て堅牢という特徴があるため,布の捺染にも一部使用さ. か確認し安全性に問題が無ければ,地域の土を顔料とし. れているニヨ)。顔料は繊維への親和性が無いため,捺染は. て使って,染色化学・洗浄科学・環境科学に及ぶ地域の. バインダーによって顔料を繊維に固着させることによっ. 特性を生かした学校教材に発展させることが可能であ. て行われる。しかし,バインダーによって固着された顔. る。. 料は摩擦に弱く,またバインダーは耐溶剤性が乏しい。. 本研究では,土顔料による布の染色の基礎研究として,. このため,顔料捺染された布はドライクリーニングによ. バインダーを用いずに土顔料と水,機械力だけで,直接. − 43 −.
(3) 小 松 恵美子・森 田 みゆき. 繊推に土顔料を付着させ,布を染色することが可能であ. 水処理白布,土顔料染色布それぞれの繊維表面を電子顕. るか,電子顕微鏡を用いて土顔料の粒子および付着状態. 微鏡で観察した。また,染色後,たらいに残った泥は,. を調べ,検討を行った。. コーヒーフィルターで濾過して土顔料を回収した。すう1 ぎ水からも同様にして,土顔料の回収を行った。. 2 実験方法 3 結果と考察. 2−1 試料と装置. 土顔料は,イタリアのオークル事業団のNo.5Vert. 3−1 土顔料染色布の電子顕微鏡観察. brentonico(緑系),No.12TerreombrechyprebruleeC. 染色・乾燥・すすぎ後に完成した土顔料染色布は,4. (茶系),No.18Rougeercolano(赤系),No.210cre 種とも各土顔料の色に着色されていたが,色の潰さに差 citronIcles(黄系)の4種を使用した。水は水道水を. が出た。目視による着色の度合いは,No.18とNo.21が. そのまま使用した。試験布は綿布とし,日本油化学会の. 土顔料の色の渡さと同程度であり,No.12は土顔料に比. 人工汚染布用さらし金巾を用いた。資料の電子顕微鏡観. べてやや淡色,No.5は最も淡色であった。着色度合の. 察のための試験布への金の蒸着には,EikoIB−3ION−. 違いと,繊維表面への土顔料粒子の付着状態との関連を. COATERを,また電子顕微鏡は日立ST2460NScanning. 明らかにするために,電子顕微鏡で土顔料染色布の繊維. ElectronMicroscopeを使用した。. 表面の観察を行った。 はじめに,繊維全体にどれくらい土顔料が付着してい. 2−2 実験操作. るか,倍率1000倍で比較した(図2)。未染色白布と水. 土顔料染めの操作手順を図1に示す。直径約15cm,. 処理白布を比較すると,どちらも繊推上は滑らかで付着. 深さ約8cmのプラスチック製のたらいに,土顔料約. 物は見られなかったが,水処理白布は繊維表面に傷のよ. 20cm3と,同じ体積の水を入れて混ぜ,泥状にした。そ. うな線が多数見られた。これは染色およびすすぎ時に加. こに縦22cm,横20cmの試験布を入れ,ゴム手袋をして,. えられた機械力によるものだと推測された。一方,土顔. 試験布に泥をもみ込むようにしながら15分間染色を行っ. 料染色布はどれも繊椎表面上に土顔料粒子が付着してい. た。染色後,試験布は泥から取り出して風乾した後,. ることが確認された。No.18とNo.21は土顔料粒子が繊. 600mlの水で5回すすぎ,再び風乾して土顔料染色布と. 推表面をびっしり覆っていたが,No.5とNo.16はまばら. した。比較のために,土顔料の代わりに同量の水を入れ. に付着している様子が観察された。土顔料粒子の繊維表. た他は全く同じ操作をした試験布も作成し,水処理白布. 面への付着量は,土顔料の種類によって異っていること. とした。未使用の試験布を未染色白布とし,未染色白布,. がわかった。. 実験操作. ボウル. 土顔料 20cm3 水. 20cm3. 1 1 L■. 泥状になるまで手で撹拝. 綿布 縦22cmX横20cm 泥を布にもみ込むようにして染色(15分間) 染色残浴. すすぎ残浴. 仁こ蔓取り. 出し風乾. 」. コーヒーフィルターで濾過. すすぎ(600mlの水で5回). + ↓. 土顔料を回収. 風 乾. + 染色布. + 電子顕微鏡観察. 図1 土顔料染めの実験操作. ー 44 一.
(4) No.58. 2003.12. 環境に配慮した地域の天然素材を利用した染色教材の開発. 未処理白布. 水処理白布. No.5染色布. No.12染色布. No.18染色布. No.21染色布. 図2 綿繊維表面上の土顔料粒子の電子顕微鏡写真(1000倍). − 45 −.
(5) 小 松 恵美子・森 田 みゆき. 未処理白布. 水処理白布. No.5染色布. No.12染色布. No.柑染色布. No.21染色布. 図3 綿繊維表面上の土顔料粒子の電子顕微鏡写真(8000倍). − 46 −.
(6) No.58. 環境に配慮した地域の天然素材を利用した染色教材の開発. 次に土顔料粒子の形状を8000倍で観察した(囲3)。. 2003.12. 過器にコーヒーフィルターをセットして濾過を行った。. No.21は厚さの薄い針状や扁平状の粒子が混在していた。. 土顔料染色布の乾燥後に5回すすぎを行うときにも,す. No.18は球状の粒子がほとんどであり,微小なものが多. すいだ残浴は捨てずに静置して土顔料を沈殿させ,上澄. いが,それらが凝集したような大きなものも見られた。. みを捨てた後に同様にフィルター濾過して土顔料を回収. No.12は小さな粒子もあるが大きな塊状のものが多く,. した。No.5の濾過液はほぼ無色透明となり,土顔料粒. 粒子の形状は不定形であった。No.5は表面がごつごつ. 子はコーヒーフィルターを通過できない大きさであるこ. とした岩のような粒子が目立ち,使用した土顔料の中で. とがわかった。また,No.12とNo.18の濾過液は各土顔. は粒子の形状が最も粗いことがわかった。. 料の色に着色し,かなり微細な1次粒子が濾過液に存在. 倍率を15000倍に上げ,繊維表面への付着状態につい. したが,フィルターにも多量の土顔料が残った。このこ. ても詳しく観察を行った。どの土顔料染色布でも,土顔. とから,No.12とNo.18は粒子径の大きいものと小さい. 料粒子が繊維表面の溝に入り込んだり,凹凸や穴には. ものが混在していることが改めて確認された。また,. まったりしている様子が観察された。また粒子径が大き. No.21は濾過液が薄黄色に着色したがほぼ透明であった。. いNo.5とNo.12は,特に繊推の曲面部分では大きい粒子. No.21は粒子形状が球状ではないため,フィルターを通. と繊推表面の接点が少なく,不安定に付着している様子. 過できる土顔料粒子が少なかったのではないかと推測さ. が観察された。一方,粒子径が小さいNo.18と,結晶状. れた。濾過された土顔料は,濾紙に付着させたまま乾か. の薄い粒子が多いNo.21は,曲面部分であっても,滑ら. し,完全に乾燥後,濾紙を軽く操んで濾紙から脱落させ. かな繊維表面の上に張り付くように付着している粒子が. 回収した。. 数多く観察された。 以上の電子顕微鏡による観察結果から,各土顔料は粒. 3−3 教材への利用と発展. 子の形状も大きさも異なったものやそれらの混合物であ. 本実験で染色した土顔料染色布は,水と機械力だけで. り,また各土顔料によって繊椎表面への付着量や付着状. 繊維表面に土顔料粒子を付着させたため,水に対する染. 態も違っていることが明らかとなった。. 色堅牢度が低いことが予想される。染色布は洗濯の必要. 金子5)は黄土の木綿繊維への付着が3〃m以下とし,. がある衣類等には適さないが,水に濡れにくい用途に使. また渡辺4)は,木綿,ポリエステル布共に2叩前後の. 用するのであれば問題はない。今回用いた4色は明るく. 2次粒子として付着し,フロインドリソヒ型の単分子付. やわらかい色調のため,カーテン,ランプシェード,の. 着を呈すると述べている。これらの粒子の付着に関わる. れん,タペストリー等のインテリアに通していると考え. 結合力は主にvanderWaals引力であり,綿繊維と土顔. られる。また,染色残浴とすすぎ残浴からの土顔料の回. 料粒子の接触部分での分子間引力と理解できる。した. 収も容易であり,回収された土顔料は,外観上は未使用. がって,租大粒子であればこの引力は無視されるため,. の状態とほとんど変わらなかった。土顔料染めの他,ク. 付着は著しく困難になると考えられる。また,この付着. レパスや絵の具の材料としても再利用が可能であると考. 力はコロイド化学的には,繊推表面に付着するためより. えられる。. 土顔料染めは,地域での土さがし(地理,歴史,地学,. は,むしろ,なんらかの外的エネルギーにより付着した. 古典文学)!土顔料染め(環境),土顔料染色布と回収土. 微少粒子の繊椎表面での安定な付着に関わる力である。. 顔料の利用(創作活動(裁縫,工芸など)),着色現象と しての土顔料染めと泥汚れ(洗濯,染色)等,大きく広. したがって,No.18とNo.21は粒子が薄いか小さく,. かつ綿繊維への親和性が高いために良く染まり,No.5 は粒子が大きくかつ綿への親和性が低いために染まりが. がりを持った教材への展開が可能である。僻地の小規模. 悪く,No.12はその中間ではないかと予想される。今後. 校では,地域に根差した総合学習教材として考えること. は各土顔料の成分分析を行って,繊維との親和性を明ら. もできる。また,小中併設校や複式学級での授業では,. かにする必要がある。. 例えば小学校低学年では「土顔料染め」を染色工芸の学. 習として行い,一方小学校高学年や中学生では「着色現. 3−2 染色残浴からの土顔料の回収. 象としての土顔料染めと泥汚れ」というテーマで洗濯と 染色について物理化学的な学習を行う,という授業展開. 本実験は泥で染めるため,染める布の大きさに対して. 浴比が小さい実験条件で染色を行った。15分間の染色が. も可能である。このように,一つの教材であっても,学. 終了するころには,染色残浴の泥は,たらいやゴム手袋. 年によって学習課題を変えることもできるため,小中併. に付着して乾燥が始まっていた。土顔料を回収するため. 設校や複式学級での授業でもとりいれやすいと考えられ. に,たらいに水を少量加えて懸濁液とし,その中でゴム. る。. 手袋の泥も洗い落とした後,ペットボトルで作成した濾. − 47 −.
(7) 小 松 恵美子・森 田 みゆき. 土顔料染めの教材展開案. 3.日本衣料管理協会,繊維製品の苦情処理ガイド 色. に関する苦情,pp.2−3(1999). ○土の色と地層:地理,歴史,地学,古典文学. 4.渡辺紀子,短大論叢,第100集,pp.19−28(1998). 5.金子晋,「よみがえった古代の色」,学生社(1990). ○包材をすべて回収する土顔料染め:環境 ○土顔料染色布と. 回収土顔料の利用:創作活動(裁縫,工芸など) ○着色現象としての. 土顔料染めと泥汚れ:洗濯,染色. ◎地域に根差した総合的な教材に拡大可能 ◎同一教材で学年によって違う学習課題の設定が可能. 小規模校や複式学級,小中合併校でとりいれやすい. 図4 土顔料染めの教材展開案. 4 おわ り に 直接綿布に土顔料を付着させて布を染色し,電子顕微 鏡を用いて繊維表面上の土顔料粒子の観察を行った。そ の結果,どの土顔料染色布も繊維表面上に土顔料粒子が 付着していることが確認された。土顔料はそれぞれの種 類によって粒子の大きさや形状に違いがあり,粒子の付 着量や付着状態も異っていることがわかった。染色布は, 水で5回すすいでも十分に土顔料の色合いが残るため, インテリア等の用途ならば使用できることが明らかに なった。さらに,染色残浴とすすぎ残浴からの土顔料の 回収は容易であり,再利用が可能であることもわかった。 土顔料染めは,大きく広がりを持った教材への展開が 可能であり,僻地の小規模校での地域に根差した総合学 習教材として活用できる。また,一つの教材で学年によっ て学習課題を変えることもできるため,小中併設校や複 式学級での授業でもとりいれやすいと考えられる。 本研究を行うに当たり,ご協力いただいた北海道消費. 者協会テスト室の皆様にお礼申し上げます。. 引用文献 1.浦野栄子,荻原應至,信州大学教育学部付属教育実 践研究指導センター紀要,No.7,pp.18ト188(1999) 2.松田あずさ,福井大学教育実践研究,第24号, pp.31ト326(1999). − 48 −.
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