アルペンスキー大会が開催地域に及ぼす経済効果について
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(2) 冬季スポーツ研究 第8巻1号 21-29, 2005 (北海道教育大学冬季スポーツ教育研究センター紀要). アルペンスキー大会が開催地域に及ぼす経済効果について 加藤 清孝1),小林 規2) 1)国際教養大学,北海道教育大学冬季スポーツ教育研究センター学外研究員、2)北海道教育大学冬 季スポーツ教育研究センター Estimating the economic impacts of a regional alpine ski event Kiyotaka KATO1) and Tadashi KOBAYASHI2) Akita International University, 193- 2 Aza Okutsubakidai, Tsubakigawa, Yuwa, Akita 010-1211, Japan.1), Research and Education Center for Winter Sports, Hokkaido University of Education, 5-3 Ainosato, Kita-ku, Sapporo, Hokkaido 002-8502, Japan2 Abstract Because of the severe Japanese economic recession, it is difficult for both public and private sectors to host and/or support sports events nowadays. As a results, some big companies abandoned sports teams they owned and several sports leagues had to reduce those scales. On the other hand, there were ninety-three alpine ski competitions which are approved by the ski governing bodies, the Ski Association of Japan (SAJ), in the 2004–2005 season in Japan, and that number doubled over last 10 years. This increase seems to be based on plans to step up athletes, and the hosts may not expect economic impacts derived from the events. At the same time, there are few studies that focus on economic aspects of alpine ski events. Therefore, the purpose of this study was to estimate economic impacts of an alpine ski event. The results showed that the two-day ski event produced over fifteen million yen as a direct economic impact in the host town. One feature of this event was that the direct economic impact was heavily based on the lodging cost participants paid in the town. Return on investment (ROI) for the municipality where the event took place was also estimated at over three hundred percent. Since the result, the event played a role as inducing consumption in the area and was economically effective for the municipality. [Keywords] alpine ski race, sport event, sport tourism, and economic impact. 緒言. 学生より参加制限のない地区連公認大会より参. アルペンスキー競技大会は,全日本スキー連. 加し,その上位に位置する大会の参加資格をク. 盟(SAJ)や各都道府県スキー連盟(地区連). リアしながら,地域レベル,都道府県レベル,. などの競技統括団体に公認された公認スキー大. 全日本レベル,世界レベルへと段階を進んでい. 会と,それ以外のいわゆる,草レースとに分類. く。各大会の参加資格は,一定の算出式に基づ. することができる。公認スキー大会は,ワール. いて,SAJや地区連によって計算され公表され. ドカップやオリンピックを頂点に階層的に構成. る公認ポイントによって設定される。公認ポイ. されており,アルペン競技を目指す選手は,中. ントは,大会の成績に大きく影響するスタート. 21.
(3) 加藤 清孝,小林 規 順を決定し,統括団体の強化選手選考の基準と. 投資収益率についても,開催を援助する自治体. もなる。1990年には北海道,東北そして甲信. の視点から推定するものである[11,12]。. 越地方を中心に40大会が開催されていたSAJ公 認アルペンスキー大会は,今では東海北陸,そ. 経済効果の概念と先行研究の検討. して関西・中国地方でも開催されるようにな. スポーツイベントの経済効果は「スポーツイ. り,2004−2005年シーズンには93のSAJ公認. ベントに関わる消費によって,開催地経済にも. アルペンスキー大会が開催された。この大会数. たらされる最終的変化」と定義され,その変化. の増加の背景には,ポイントの向上を目指す選. は,開催地以外からの競技者や観衆などイベン. 手に,公認ポイント取得の場をより多く提供し. ト参加者によってなされる消費,開催地に在住. ようとする,選手強化上の理由が窺える。. するイベント参加者によってなされる消費,そ. 一方でスポーツ・ツーリズムの視点から見る. して開催に伴い地元で支払われる運営経費に. と,選手は大会参加のために旅行(移動)し,. よってもたらされる[11]。また,経済効果は直. 少なくとも24時間以上その目的地に滞在する. 接消費効果,間接消費効果,そして誘発効果の. ことになるので,スポーツ・ツーリストと見な. 三つに分類することができる[1]。直接消費効. すことができ,また公認アルペンスキー大会は. 果はイベント開催に関わる直接的経費,そして. 参加型のスポーツイベントといえよう[8]。近. 参加者に供されるサービスや参加者の消費行動. 年スポーツ・ツーリズムは,開催地域にもたら. (支出)によってもたらされる効果である。間. す経済的な効果が大きいことが注目されている. 接消費効果は直接消費効果が生み出す波及的な. [9]。原田[4]は,スポーツイベントが地域開発. 効果を表す。例えば,参加者がレストランを利. で果たす機能の一つとして,消費誘発の機能を. 用した場合,参加者によって支払われた代金を. 挙げている。またスポーツイベントを開催する. レストランは食材の購入等に当てる。この第2. 自治体や民間団体にとっても,イベント開催に. 次以降の金銭の流れである間接消費効果の推定. よる開催地への消費誘導の期待は大きい[11]。. には一般的に乗数係数(multiplier)が使われ. しかしながら,参加型のスポーツイベントの経. る。乗数係数は直接消費効果が生み出す波及的. 済効果に関する実証的研究はまだ少なく[9],. な経済効果の大きさを表す[2]。直接消費され. 特にアルペンスキー大会の開催地域にもたらす. たお金の2次的・3次的な流れが,乗数係数の概. 経済効果は,これまでに報告されていない。本. 念である。開催された地域の人口が大きい場. 研究の目的は,公認アルペンスキー競技大会が. 合,この流れは何次にもつながり,乗数係数が. 開催地域にもたらす消費誘発の機能に着目し,. 大きくなるのである。しかしNollと. スキー大会開催がその開催地域にもたらす経済. Zimbalist[10]は,特に小さな町での収入の増. 効果,特に直接消費効果を推定することにあ. 加は他の大きな町での消費活動につながる傾向. る。また,各大会の事務局やイベントマネ. があるとし,乗数係数の使用に否定的である。. ジャーが独自に主催大会の効果を試算できるよ. 誘発効果は,雇用レベルの変化,個人あるいは. う,経済効果の試算方法を示すとともに,イベ. 自治体収入の変化などの更なる間接的消費効果. ント開催を計画する際,重要なポイントとなる. を表す。TurcoとNavarro[11]は直接・間接消 費効果に加え,投資収益率の推定がスポーツイ. 22.
(4) アルペンスキー競技大会の経済効果. ベントの経済効果研究において重要視されるべ. 定し,その92%が参加者によるものだった述. きだと主張している。. べている。日本国内のイベントとしては,日本. 参加者の支出を測定する方法には,直接参加. スリーデーマーチがもたらす経済効果は14億7. 者からデータを得る方法と,開催地域内のレス. 千万円,また1500人の選手と5千人のボラン. トランやホテルなど,参加者が利用した施設か. ティアが参加する,佐渡国際トライアスロン大. らデータ得る方法とが考えられるが,オリン. 会の経済効果は7億6千万円に上ぼると推測さ. ピックなどの大きなイベントを除いて,前者の. れている[8]。スキー競技では,野川[9]が奥日. 方法がより効果的であるとされている[6]。. 光クロスカントリースキー大会における参加者. GrattonとTaylor[3]は主要なスポーツイベン. の消費動向と経済効果を分析している。それに. トを経済効果の規模から,次の4つのグループ. よると,宿泊を伴った約600人の参加者の支出. に分類している。すなわち,1)世界中から観. 総額の平均は27,758円で,そのうち14,134円. 衆が集まり経済活動とメディアの関心が高ま. が開催地域で消費され,直接消費効果を850万. る,毎年は開催されないイベント,2)世界中. と推定している。しかしながら,アルペンス. から観衆が集まり経済活動とメディアの関心が. キー大会の経済効果に関する研究はこれまでに. 高まる,毎年開催されるイベント,3)世界中. なされていないのが現状である。. から選手と観衆は集まるが,経済効果があまり 期待できない,毎年は開催されないイベント,. 研究方法. そして4)国内選手権のように,経済効果の期 待できない毎年開催されるイベント,である。. イベント概要. また野川[8]は,スポーツ・ツーリズムの観点. 国設阿寒湖畔スキー場にて行われた,第14回. から,スポーツイベントを1)参加型,2)観戦. 日本エアシステムカップ・阿寒スラローム選手. 型,そして3)レジャー型に分類している。ワー. 権大会(以下,阿寒SL大会とする)をとりあ. ルドカップやオリンピックの経済効果が開催の. げ,大会が阿寒町内にもたらす直接消費効果を. たびに報告されるように,世界中から観衆が集. 推定した。この大会は全日本スキー連盟・北海. まりメディアの関心が高まる,観戦型スポーツ. 道スキー連盟・阿寒スキー連盟が主催し,北海. イベントの経済効果研究は多くなされている. 道スキー連盟と阿寒スキー連盟が主管した。全. が,国内選手権や参加型スポーツイベントの実. 日本スキー連盟公認大会であると同時に,日本. 証的な経済効果研究はいまだにそれほど多くな. 国内で開催される国際スキー連盟(FIS)公認. い[9]。TurcoとNavarro11)は全米ソフトボー. 大会のひとつで,これまで14年にわたり同じ. ル選手権を分析し,40チームが参加し9日間に. 時期に同スキー場で開催されてきた。第14回. わたって開催された大会が1,623,186ドルの直. 大会は2001年12月20(木)・21(金)日の両日,ス. 接消費効果を開催地域もたらし,主催者の投資. ラローム男女各2レースが行われた。. 収益率は121%だったと報告をしている。また. 阿寒町は北海道の東に位置し,人口は約. GrattonとTaylor[3]はヨーロッパジュニア水泳. 6,800人(平成11年)。阿寒湖畔にある阿寒湖温. 選手権における参加者,役員,メディアによる. 泉には約25件のホテル・旅館があり,平成12年. 大会期間中の支出総額を,257,802ポンドと推. 度には年間約150万人の観光客が訪れた。全就. 本研究では,北海道阿寒町・. 23.
(5) 加藤 清孝,小林 規 業人口の約60パーセントがサービス,小売. 方のルールによって開催が義務付けられてお. 業,飲食業に従事する町である[6]。. り,必ず各チーム一名以上の代表者がこれに参. 国設阿寒湖畔スキー場は阿寒湖温泉街から車. 加しなければならない。また代表者がこのミー. で約5分のところにあり,ペアリフト1基・. ティングに参加していないチームの選手は,翌. ロープトー1基の小さなスキー場であるが,人. 日のレースに参加することができない。した. 工降雪設備を完備し,日本で最も早く滑走が可. がって理論上は,TCミーティングを利用する. 能となるスキー場の一つである。. ことにより,全選手に質問紙を配布することが 可能となる。. 研究範囲と対象. 本研究では阿寒SL大会に参. 大会が終了し参加者が阿寒町を離れる前に質. 加した選手,コーチ,スキー関連メーカー派遣. 問紙を配布し回収することは,参加者が阿寒町. スタッフを調査対象とし,これら参加者の阿寒. 内での消費行動を終える前に調査を行うことを. 町内での消費行動と,大会開催に関する事務局. 意味し,データの精度が問題とされるかもしれ. 支出をもとに,その直接消費効果を推定した。. ない。しかし,多くの参加者が同じ道東の上士. また,これら消費行動が経済的影響を及ぼす地. 幌町で12月15日に行われたレース後引き続き. 域を阿寒町内と限定した。. 阿寒町に入り,そして大会前にすでにスキー場 を利用していることが予想された。したがって. 質問紙. 質問紙には,阿寒SL大会参加者によ. 回答者には,質問に答えうる阿寒町での消費行. る阿寒町内での直接消費効果を推定するため. 動の経験があると考えられた。また,もし大会. に,次の項目が含まれた:1)阿寒町内での宿泊. 終了後郵便等により調査を行った場合,スキー. 数,2)一泊あたりの宿泊費,3)一日あたりのリ. シーズンが本番を迎え,回答率が大きく下がる. フト代金,4)リフト代金を除いた阿寒湖畔ス. ことが予想された。したがって,TCミーティ. キー場内での支出,5)スキー場内を除く阿寒町. ングを利用することは,データ収集に有効であ. 内での支出,6)大会参加のため阿寒町内で支払. ると考えられた。. われた交通費,7) 応援者の有無と宿泊日数(選 手に対し),8)派遣人数(コーチ・メーカースタッ. データの分類. FISの規定により,15歳以下. フに対し)。さらに,回答者の年齢と所属,阿. の選手はFIS公認大会への参加は認められな. 寒町在住者か否か,そして阿寒町内での宿泊の. い。したがって阿寒SL大会の参加者は全て15. 有無を問う項目が加えられ,質問用紙は構成さ. 歳以上であるが,28歳の社会人選手まで,年. れた。. 齢にばらつきがみられ,年齢に応じて自由裁量 で使うことができる金額に差が出ることが予想. データ収集. 質問用紙は第一レース前日(12. された。したがって,収集されたデータは,グ. 月19日)の夕方に行われたチーム・キャプテン. ループ内での等分散性を高めるため,年齢によ. (TC)ミーティングにおいて,引率された選. るグループに分類された後分析されるべきであ. 手分を含めて,参加コーチ・メーカースタッフ. る。そこで本研究では,1)中学生,2)高校. に配布され,翌日のTCミーティングでの回収. 生,3)大学生,4)社会人チーム,5)コーチ・. が依頼された。TCミーティングはFIS,SAJ双. 24.
(6) アルペンスキー競技大会の経済効果. メーカースタッフ,の5グループに参加者を分. コーチ・メーカースタッフは,選手とは分け. 類した後,データが分析された。. て一つのグループとした。. データの等分散性と結果の一般化を高めるた めには,比例的層化抽出法がサンプリング方法. 参加者の直接消費効果の算出. として最も適していると考えられる。もし,公. 調査によって,各グループの平均の宿泊日数,. 式成績表をサンプリングリストとして,本研究. 宿泊費,リフト代金,スキー場内での支出,阿. で 比 例 的 層 化 抽 出 法 を 実 施 す る 場. 寒町内での支出,そして阿寒町内で支払われた. 合,Henry[5]の式のよって求められる有効サ. 交通費に関するデータが得られたので,次の計. ンプル数は次のようになる。. 算式によって各グループの直接消費効果が算出. n = p q / (te / t)2 n = (0.5). 質問紙による. された。. (0.5) / (0.045 / 1.96)2. n = 474.27 n = n / 1 + (n / N). 直接消費効果(各グループ) =[{(宿泊費+リフト代金+スキー場内. n = 474.27 / 1 + (474.27 / 244). での支出+スキー場外での支出) 平均. n = 161. の宿泊数}+交通費] 実際の参加人数. ここで n = 母集団が決定される前のサンプル数. 各グループの結果を合計することにより,参加. p = 予想される分散(ここでは最大値を採. 者の消費活動による直接消費効果が推定され. 用). た。. q = (1 ‒ p) te = 許容誤差 (TurcoとNavarro1)より 4.5%) t = 信頼水準. 投資収益率の算出. 本研究ではTurcoと. Navarro11)の計算式をもとに,次のとおりに 投資収益率を算出した。. n = 母集団が決定された後のサンプル 投資収益率=(イベントによる歳入+イベン 母集団が244に対し有効サンプル数は161なの. トにより派生した税収入) イベントへの支. で,サンプリング比は66パーセントになる。. 出. 大会終了後,それぞれのグループから郵便調査 により66パーセント以上の回答を得ること は,前述したとおりの理由から難しいと考えら. 結果. れる。本研究では,表1に示すとおり,全ての グループからHenryの式によって求められた有. 直接消費効果. 効サンプル数を上回る回答を得ることができ. 1. 選手,コーチ・メーカースタッフ. た。よって,グループ内のデータの等分散性と. 男女合わせて244名の参加選手のうち197名. 結果の一般化の点において,十分な回答数が得. から回答があり,質問紙の回答率は80.7パー. られたと考えられる。. セントであった。コーチ・メーカースタッフか. 25.
(7) 加藤 清孝,小林 規. 表1 比例的層化抽出法における効果的サンプル数と実際のサンプル数. らは23名の回答があり,選手と合わせ220名か. の宿泊者がいた。質問紙の回収率からそれら実. ら回答が得られた。またコーチ・メーカース. 人数を4名と推定し,宿泊費の推定から除外し. タッフに関しては3名のTCミーティング不参加. た。. 者が質問紙によって確認されたので,26名を. よって,得られた各グループの直接消費効果. 実際の参加人数と推定した。. は,次のとおりであった。なお,以下,推定さ. 回答された質問紙に,6名の阿寒町内在者が. れた金額は百の位で四捨五入されたものであ. 見られたが,対象地域在住者の消費行動が試算. る。1)中学生:971,000円,2)高校. から除外されるのは,それら住人がそのイベン. 生:5,951,000円,3)大学生:3,939,000. トで使ったお金が,同じ地域内の他のイベント. 円,4)社会人:363,000円,5)コーチ・メー. や施設,或いは小売店で使われる可能性がある. カースタッフ:1,163,000円。したがって,阿. からである1) 11)。しかしながら,同時期に同. 寒SL大会参加者が(観衆を除く),大会期間. 地域内で同様な大会が行われていないので,本. 中に阿寒町にもたらした直接消費効果は. 研究ではこれら6名についても試算に加えた。. 12,387,000円と推定された(表2)。. 参加選手の中に,3名(高校生)の阿寒町外で 表2 各グループの参加者支出とその合計. 26.
(8) アルペンスキー競技大会の経済効果. 表3 阿寒SL大会の経済効果. 2. 観衆. が,残りの1パーセントは地方消費税として地. 選手に対し応援者(観戦者)の有無を質問紙. 方交付金という形で,地元に還流される。した. によって調査し,244名の参加者に対し15名の. がって直接消費効果から入湯税が引かれた金額. 応援者の来場とその平均の宿泊日数を1.17泊. に対する1パーセント,148,000円が地方交付. と予想した。これら予想観衆の試算には全参加. 金として阿寒町へ返ってくると考えられる。. 者の平均支出を採用し,直接消費効果. よって,阿寒SL大会開催により阿寒町に入る. を,202,000円と推定した。. 税収入は,入湯税と合わせて,326,000円と推 察された。. 3. 会運営費 阿寒SL大会事務局報告書から,4,055,634円. 5. 経済効果(総直接消費効果). が大会運営費として支出されたことがわかっ. 以上,参加者・観戦者総支出,大会運営費,. た。そのうち,2,410,765円が阿寒町内で支払. そして阿寒町への税収入を合計することによ. われた(2,411,000円として以後使用する)。. り,阿寒SL大会開催が阿寒町に及ぼす直接消 費効果は,15,326,000円と推定された(表. 4. 税収入. 3)。. 参加者のほとんどは,スキー場への利便性を 考えて,阿寒湖畔の温泉街で宿泊したものと考. 投資収益率. えられた。温泉施設宿泊者には,一人あたり一. 大会が行われた国設阿寒湖畔スキー場は実質. 日150円の入湯税が課税され,地方税として施. 的に阿寒町が所有するスキー場である,した. 設が所在する市町村に納められる。したがっ. がってスキー場内での収益は特別会計を通し. て,もし阿寒町内で宿泊した参加者全員が温泉. て,最終的に阿寒町の歳入となる。阿寒SL大. 宿泊施設を利用したとしたら,阿寒町に入る入. 会参加者からのリフト券収入は2,045,000円と. 湯税は全宿泊数(1185泊)から,178,000円. 推 定 さ れ , 消 費 税 が 差 し 引 か れ た. と推定された。. 後,1,942,000円が阿寒町の収入になると予想. また,宿泊代金から入湯税が差し引かれた金. された。. 額に,5パーセントの消費税がかけられる。こ のうち4パーセントは国税として国が徴収する. 27.
(9) 加藤 清孝,小林 規 阿寒SL大会では,70万円が阿寒町より大会. 町での大会に引き続き阿寒町に移動し,トレー. 補助金として拠出された。したがって阿寒町の. ニングを行い大会に備えたと思われる。よっ. 拠出金に対する投資収益率は,. て,2日間のイベントでありながら,参加者の. 投資収益率=(リフト券収入+税収入)/交付金 = ( 1 , 9 4 2 , 0 0 0 円 + 3 2 6 , 0 0 0 円 ) / 700,000円 となり,324パーセントとなった。. 平均宿泊日数は4泊を超え,阿寒町での消費が 増えたことが考えられる。したがって,アルペ ンスキー大会の経済効果を高めるためは,他の 大会とシリーズを組んだり,また1大会での レース数を増やしたりして,大会を複数日にす. 考察. ることが重要である。また大会前や終了後に, 良いトレーニング環境を選手に提供すること. 阿寒SL大会が阿寒町にもたらす直接消費効. で,滞在に大会参加以上の付加価値を与えるこ. 果15,326,000円のうち,参加選手244名によ. とも,選手の滞在日数を増やす上で重要と考え. る支出総額は11,224,000円と推定された(表. られる。. 2)。これは奥日光クロスカントリースキー大. また,参加型イベントでは参加者の滞在日数. 会(1日のイベント)の1500名の参加者のう. に加え,参加者の数が経済効果の規模に大きく. ち,約600名の宿泊を伴う参加者の総支出額約. 影響すると考えられる。アルペンスキー大会で. 850万円を約25%上回るものとなった[9]。ま. も,いわゆる草レースの中には,参加者が400. た参加選手の開催地での平均支出額において. 人を超えるレースも存在する。しかし阿寒SL. も,奥日光クロスカントリースキー大会では約. 大会のような公認スキー大会では,参加者の上. 1万4千円であったのに対し,阿寒SL大会では4. 限が,SAJ公認では男女各180名,FIS公認では. 万5千円を超えた。これらの違いは,大会期間. 男女各140名とルールによって決められてい. に伴う宿泊日数の違いと,スキー場でのリフト. る。したがって,この上限ぎりぎりの参加選手. 使用の有無から生じたものと考えられるが,特. を集められるよう,大会参加資格を定めること. に阿寒SL大会の特徴として考えられるのは,. も重要と考えられる。. 宿泊日数の長さである。参加者の平均の宿泊日. 阿寒町が阿寒SL大会へ拠出した補助金に対. 数は4.37泊と,イベント日数を上回る長いも. する投資収益率は,300パーセントを超えた。. のであった。参加者主体のイベントでは,直接. これはTurcoとNavarro[11]が報告する1992年. 的消費効果の大部分が宿泊費によって占めら. 全米ソフトボール選手権での投資収益率121%. れ,その効果は滞在日数に大きく影響される. をはるかに上回るものであった。投資収益率は. [11]。2日間のイベントでこのような結果が出. 投資を評価する指標であり,イベント開催を計. たのは,まず阿寒SL大会がFIS道東シリーズ3. 画する上で考慮されるべき重要なポイントであ. 大会6レースの一環として行われたことにある. るが[7],これは大会を補助する阿寒町にとっ. と考えられる。阿寒SL大会はシリーズ最終の2. て,この大会が投資額に対し3倍を超える利益. レースで,上士幌町での大会終了後,大会まで. を生み出すイベントであったことを意味する。. 4日間日程が空いたが,阿寒湖畔スキー場のト. 阿寒町の大会補助金に対する投資収益率が非常. レーニング環境には定評があり,選手は上士幌. に高い割合になったのは,阿寒SL大会が開催. 28.
(10) アルペンスキー競技大会の経済効果. された国設阿寒湖畔スキー場が実質的に阿寒町. 3. Gratton, C. and Taylor, P. (2000) Major. によって所有されているため,リフト券収入が. sports event. Economics of Sport and. 阿寒町の収益になったことにある。したがっ. Recreation (2nd ed.), 179-192. London:. て,民間企業所有のスキー場でイベントが開催. E & P Spon.. され,自治体が補助金を出した場合には,この. 4. 原田宗彦 (1999) スポーツと地域開発.ス. ように大きな投資収益率を上げることは難しい. ポーツ産業論2版,杏林書院,304-314.. と考えられる。長引く不況により,税収確保に. 5. Henry, G. T. (1990) Practical Sampling.. 各自治体が苦しむ中,もし自治体が公的資金を. Newbury Park, CA: Sage Publications.. イベント開催のために使用するなら,投資収益. 6. 北 海 道 阿 寒 町 の ホ ー ム ペ ー ジ. 率を含め,どのような有形・無形の利益がその 投資からえられるのか,十分に検討する必要が あると思われる。. www.town.akan.hokkaido.jp 7. Howard, D. H. and Crompton, J. L. (1995) Economic impact analysis. Financing Sport, 53-90. Morgantown,. まとめ. WV: Fitness Information Technology. 8. 野川春夫 (1999) スポーツ・ツーリズム,ス. 本研究では公認アルペンスキー大会を,消費. ポーツ産業論2版,杏林書院,348-365.. 誘発の機能を持つスポーツイベントとしてとら. 9. 野川春夫,山口泰雄(1994) 国内スポーツ・. え,阿寒SL大会が開催地域にもたらす直接消. ツーリズムに関する研究−冬季スポーツイ. 費効果を推定するとともに,その算出方法を示. ベントを事例として−. 鹿屋体育大学研究. した。阿寒SL大会の参加者の平均宿泊数は約. 紀要第11号,pp.103-113.. 4.4泊で,15,326,000円の直接消費効果を阿寒. 10.Noll, R. G. and Zimbalist, A. (1997). The. 町にもたらした。また,開催に補助金を拠出し. economic impact of sports teams and. た阿寒町の大会に対する投資収益率は324パー. facilities. Sports, Jobs, and Taxes,. セントで,阿寒SL大会が阿寒町にとって経済. 55-91. District of Columbia, DC:. 的に有益なものであったことが示された。. Brooking Institute. 11.Turco, D. M. and Navarro, R. (1993). 参考文献. Assessing the economic impact and financial return on investment of a. 1. Crompton, J. L (1995) Economic impact analysis of sports facilities and event: Eleven source of misapplication. Journal of sport Management, 9, 14-35.. national sporting event. Sport Marketing Quarterly, 3 (2), 17-23. 12.W e s t o n , F . J . ( 1 9 8 6 ) R e t u r n o n investment as a dynamic management. 2. Gratton, C. and Taylor, P. (2000) The. process. Handbook of Corporate. economic importance of sport.. Finance (E. I. Altman ed.), John Wiley. Economics of Sport and Recreation (2nd. and Sons, Inc.. ed.), 14-29. London: E & P Spon.. 29.
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