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語彙学習の通説は児童にも当てはまるか

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(1)Title. 語彙学習の通説は児童にも当てはまるか. Author(s). 金山, 幸平. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 71(1): 109-123. Issue Date. 2020-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11375. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第71巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Humanities and Social Sciences)Vol. 71, No.1. 令 和 2 年 8 月 August, 2020. 語彙学習の通説は児童にも当てはまるか 金 山 幸 平 北海道教育大学旭川校英語教育研究室. Can Myths from Vocabulary Learning be Applied to  Japanese Elementary School Students? KANAYAMA Kohei Department of English Education, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 従来の外国語語彙指導研究の主な目的は,どのように目標語彙を外国語学習者に提示すれば, 長期記憶に保持されやすくなるのかについてであった。そのため,語彙そのものが持つ側面の 研究よりはむしろ,認知心理学などの他分野での知見を利用して,語彙習得研究を記憶研究と 掛け合わせて数多くの実験が行われてきた。今日では,膨大な研究成果に基づいて,どのよう に目標語彙を提示すれば効果的かに関して,数多くの語彙学習方法が提案されている。しかし, 従来の語彙指導研究では大人の学習者を実験の対象としており,その学習方法や指導方法が児 童を対象にした場合でも同様に効果的かどうかは慎重に議論する必要がある。本稿では,語彙 習得研究分野,および認知心理学研究分野で定着しつつある語彙学習,語彙指導における通説 を紹介し,大人の学習者と子どもを対象にした研究を比較することで,日本の小学校英語教育 における語彙指導の示唆を与える。. 1.はじめに 1.1.語彙学習の通説について 本稿の目的は,従来の語彙習得研究や認知心理学研究分野で得られた知見が,日本の小学校で英語を学ぶ 児童にとってもまた効果的な学習方法かどうかを検討することである。語彙習得研究は,第2言語習得研究 においては,軽視されてきた分野であったが,ここ30年間で一気に盛んな分野となった(中田,2019)。語 彙学習の最終目標は,学習した語彙を長期記憶に保持し,実際の言語使用場面でその目標語彙を必要に応じ て適切に使用することである(Kanayama, 2020)。そのため,語彙実験では,どのような語彙をどのような 方法で導入し,どのような活動をどのくらい反復するべきかに関して関心を集めていた。従って,語彙学習 研究では,第2言語習得研究分野のみならず,「記憶」をテーマに認知心理学の観点から研究を進めること. 109.

(3) 金 山 幸 平. が非常に多い(Rogers, 2017)。その結果,従来の語彙習得研究のみの知見において,信じられてきた所謂, 語彙学習,語彙指導の通説であったものが,心理学研究によってその通説が覆えされることがあり,またそ の逆も起こってきた。そのようにして語彙習得研究と心理学研究の成果の甲斐あって,今日では確立しつつ ある語彙指導,語彙学習についての通説が数多く存在している。 キース・フォルス(2009)の『語彙の神話―英語語彙指導の俗信を正す―』(訳:土屋武久)では,単語 リストはコミュニケーションでは役に立たないので文脈の中で語彙を学習するべきだという従来の考え方か ら,単語カードや単語リストなどを用いた先行研究を通して,そのように主張する科学的根拠がないことを 挙げ,むしろ単語リストの活用が言語学習を促進する根拠を提示し,見事に通説をひっくり返した。また, 中田達也(2019)の『英単語学習の科学』では,英語教師や英語学習者にとって有効だと考えられてきた英 単語の学習方法を先行研究による科学的な根拠を調査し,その多くが誤りであったことを示した。例えば, フォルスが主張した,関連語をまとめて覚えることは,学習者の困難を招き,学習を阻害してしまうという 通説に関して,関連語学習の先行研究を概観することで,そのような阻害効果はないことを主張した。以上 の2冊はいずれも出版当時までの先行研究を詳細に分析しており,またこの2冊に共通していることは,語 彙を意図的に学習するような暗記型の学習を一切否定していない点である。 一方,2020年度より完全実施となる「外国語活動」および「外国語」では,英単語を直接教えるような指 導は推奨されていない。小学校英語科教育では,コミュニケーション能力の育成を目標としているため,言 語活動を通して,言語習得を促すことが求められているためである(文部科学省,2017)。むしろ,機械的 な反復は英語嫌いを生み出す原因と考えられているため,意図的な語彙学習には懐疑的な意見が多い。しか し,語彙学習にはある程度の暗記要素が伴うこともまた事実である。以上のことから,どのように児童が語 彙を効果的に学ぶことができるのかを模索しておくことは急務だと筆者は考えた。フォルスや中田は主に大 人を対象とした研究を紹介しているが,本稿では,子どもという視点から先行研究で得られた通説が児童に もそのまま当てはまるかどうかを探っていくことで,児童の適切な語彙指導の示唆を得ることが可能になる と考えた。これが本研究の着想に至った経緯である。 本稿の流れとして,まず従来の先行研究から得られた3つの通説を紹介し,それがどのような研究を経て 通説となったのかを説明する。その後,大人と子どもを研究対象にした先行研究を概観し,どのように結果 が異なるのかを説明し,なぜ異なる結果に至ったのかついて考察を行う。本稿では,子安(2016)を参考に, 「子ども」は3歳頃から12歳頃までの幼児期,児童期を指し,大人は18歳前後の青年期後期以降と定義する ことにする。本稿で扱う通説は以下のとおりである。 通説1:学習と学習の間のインターバルは短い方が良い。 通説2:学習機会が何度もあれば,学習インターバルは徐々に長くしていく方が良い。 通説3:テストは学習者の評価をするために行われる。. 2.先行研究 2.1.通説1の紹介 学習におけるインターバル研究は,エビングハウスの忘却曲線が登場した100年以上前まで遡る。 Ebbinghaus(1885)は,彼自身を被験者にして,WUX, CAZ, BIJなどの無意味な文字列を覚えて,21分後 から31日後のインターバルを置き,無意味語をどれだけ覚えているかのテストを行った。その過程の中で, 学習後の経過時間と忘却率には明確な関係があることを発見した。学習から21分後には,学習内容の42%を. 110.

(4) 語彙学習の通説は児童にも当てはまるか. 忘れ,1時間後は56%を忘れていた。そして1日後,1週間後,1ヶ月後にはそれぞれ,74%,77%,79% を忘却した。この結果を図で示したのが,今日でもよく知られている「エビングハウスの忘却曲線」である。 これは,忘却は最初の短期間に急激に起こるが,その後は,時間と共に忘却率が徐々にゆるやかになってい くことを示している。この結果から,記憶が研究の対象となることが証明されただけではなく,学習内容は 短時間で急激に忘却してしまうため,学習後すぐの復習が重要であると支持されるようになった。 しかし,彼の実験結果だけでは,学習全般に応用する根拠としては不十分であると思われる。それは,被 験者が彼自身だけであったこと,そして無意味語の学習をしていたことなどが問題点として挙げられる。そ れ以降,多くの心理学研究では「復習機会があった場合はどのようなインターバルが最適なのか」が検証さ れてきた。 2.1.1.大人を対象とした先行研究から ここでは,大人を対象とした先行研究を紹介する。前述したように,大人とは,青年期後期以降の年代を 指す。インターバルに関する初期の研究では,復習の機会があった場合は,学習と復習の間隔を空けるべき なのか,それとも連続して学習を行うべきなのかという2つの学習方法の比較が主流であった。前者は分散 学習,後者は詰め込み学習と呼ばれている。詰め込み学習は学習者にとって短期間で効果が出るという理由 から, 一定の支持を受けていた学習スタイルであった(Kornell, 2009)。しかし,心理学研究の功績によって, 長期記憶に貢献するのは詰め込み学習ではなく,分散学習であることは現在では周知の事実である(中田, 2019) 。そこで,間隔を空けることがより長期的に効果的であるという大前提の下,どのくらいの間隔を空 けることが効果的なのかに関して検証されるようになった。この研究課題の検証において,短いインターバ ルと,それよりも長いインターバルを比較することが多い。例えば,Bahrick(1979)では,アメリカの大 学生を対象に,英語とスペイン語のペア学習を行わせた。その後,1日のインターバルを設けて復習したグ ループと30日間のインターバルを設けたグループの参加者がそれぞれ1ヵ月後に遅延テストを受けた。以下, 学習と学習のインターバルをISI(Inter-Session Interval),最後の学習セッションから遅延テストまでの保 持期間をRI(Retention Interval)と呼ぶ。その結果,より長いISIを設けたグループの方がより単語を保持 していたことが証明された。また,Rohrer and Pashler(2007)の論文の中で,Cepeda, Mozer, Coburn, Rohrer, Wixted, and Pashler(2007)の研究が紹介されている。彼らの実験では,スワヒリ語と英語のペア 学習において,ISIを5分,1日,2日,4日,7日,14日間のいずれかに調整して,RIが10日間の遅延テ ストを行った。その結果,最も高い点数を取ったのはISIが1日の時であった。また実験2では,RIを約6ヶ 月に設定し,ISIを5分,1日,7日,28日,84日,168日に調整した場合の適切なISIは28日間の時であった。 語 彙 習 得 研 究 で は な い も の の, よ り 長 期 的 なRIとISIの 関 係 を 調 査 し た の が,Cepeda, Vul, Rohrer, Wixted, and Pashler(2008)の研究である。大人の学習者を対象に,ウェブサイト上で「リビアの国旗は 一色の無地の色で構成されている」のような32の事実学習を行ってもらった。ISIを5分~105日間(5分, 1日,2日,4日,7日,11日,14日,21日,35日,70日,105日)と広い範囲に設定し,RIを7~350日 間(7日,35日,70日,350日)で調整した。RIが7日間の時の最適なISIは1日,RIが70日の時の最適な ISIは21日であった。これらの先行研究から導き出される最もシンプルな結論は,短いRIの場合は短いISIが, 長いRIの時は長いISIが効果的というものである。つまり,効果的なISIはRIによって決まると言える。 一連の研究から,Carpenter, Cepeda, Rohrer, Kang, and Pashler(2012)では,最適なISIは,RIの約10 ~20%であると主張している。また中田(2017,2019)やRohrer and Pashler(2007)では,10~30%が最 適だと指摘している。これは,RIが30日間だと仮定したとき,RIの10%である3日間(30×0.1)から30% である9日間(30×0.3)が望ましいISIという意味である。. 111.

(5) 金 山 幸 平. 以上のように,過去の先行研究を概観していくと,以下の流れあったことが考えられる。研究初期は,学 習後にすぐ復習を行うことが効果的であるという考え方から始まり,連続して学習を詰め込むよりも分散学 習の方が長期記憶に効果的であることが証明されるようになってからは,インターバル学習が支持を受ける ようになった。しかし,どのようなISIにするべきかについて深く掘り下げていくと,効果的なISIはRIの長 さによって決まることがわかった。語彙学習の目的は,言語使用場面でその目標語彙を活用するためなので, 保持したい期間は長いほど良い。従って, 「長期的に語彙を保持したい場合は,ISIを長くするべきである」 という研究結果は,今日の語彙習得研究や認知心理学分野でも受け入れられている通説となっている。 2.1.2.子どもを対象とした先行研究から それでは,子どもを対象とした場合でも,長いISIは短いISIよりも長期記憶に貢献すると言えるだろうか。 子どもを対象とした研究においても,分散学習が詰め込み学習よりも効果的であることは既に多くの研究で 証明されてきている(Sobel, Cepeda, & Kapler, 2011)。そのため,分散学習が効果的であるという前提の下, どのような長さのISIがより効果的かという点が重要である。驚くことに,子どもを対象とした場合は大人 を対象とした場合と全く異なる結果を示している。Küpper-Tetzel, Edrfelder, and Dickhaeuser(2014)で は,ドイツの6年生(11~13歳)の子どもに26のドイツ語と英語のペア学習を行ってもらい,1日と10日間 のISIと7日間と35日間のRIを設定した。その結果,RIが7日間の時は1日のISIが,35日間の時はISIが1 日間と10日間は同程度の効果があった。 長いISIが必ずしも長いRIの成績に貢献しない可能性があると言える。 次に紹介する研究では,短いISIの方が効果的だと主張している。Rogers and Cheung(2018)では,52 名の広東語を母語とする香港の小学生に20語の英単語を1日のISIと7日のISIでそれぞれ学び,4週間後に 遅延テストを行った。その結果,より短いISIの方が遅延テストでよい成績を収めた。また,Goossens et al.(2016)でも同様に,オランダの小学校2,3,4,6年生を対象にした研究でも,2年生と4年生では, 短いISIの方が効果的という結果になり,3年生と6年生では短いISIと長いISIは同程度の効果であることが わかった。以上,これらの先行研究から,異なる長さのISIを比較した結果,短いISIは長いISIと同等か,ま たは短いISIの方がより効果的だという結果になり,これは大人を対象とした結果とは大きく異なることを 意味している。 2.2.通説2の紹介 通説1では,主に学習機会が2度あった場合の分散方法を検討してきたが,実際の学習では2度以上繰り 返すことがよくある(笠原・金山,2019) 。その場合,それぞれのISIをどのように設定するべきかについて の研究は,最近になって注目されつつあるテーマである。学習機会が2回以上あった場合(実際の研究では 4回繰り返す事が多い),数多くの先行研究では拡張分散学習(expanding spacing)と均等分散学習(equal spacing)の効果を比較して,前者が最も効果的であると信じられてきた。これは1回目のISIを短く設定し, その後のISIを徐々に長くしていく方法である。一方で均等分散学習とはその名の通り,ISIの置き方を一定 に保つ方法である。 拡張分散学習の優位性は,望ましい困難(desirable difficulty)と呼ばれる考え方が基盤となっている (Karpicke & Roediger, 2007)。ISIは短すぎると,学習負荷が少ないため長期記憶に貢献しにくいが,長す ぎても既に学習内容を忘却している可能性が高いため,復習の効果が期待できない,つまり学習は努力を要 するが,失敗するほど難しくてはいけないという理論的根拠が背景としてある(Fritz, Morris, Nolan, & Singleton, 2007;Kanayama, 2020)。ISIを徐々に長くすることは,常に望ましい困難(すなわち忘却が起こ る前に復習することにより,常に学習負荷が最適になる)を与え続けることが可能な,正に理想的な分散学. 112.

(6) 語彙学習の通説は児童にも当てはまるか. 習方法であると言える(Vlach, Sandhofer, & Bjork, 2014)。 一方,中田(2018)では,拡張分散学習の優位性を「検索練習効果」と「検索努力仮説」という用語を用 いて説明している。前者は,学習内容を思い出そうと想起した結果,正しく思い出す(成功経験を得る)こ とで記憶が強化されるという考え方である。後者は想起する際に,より学習負荷をかけることで記憶が強化 されるという考え方である。つまり,ISIを短くし,ある程度の忘却が起きていない状態で,簡単に思い出 すことができても,想起努力が起こらないため,記憶保持が促進されないのである。この2つの学習理論を 組み合わせると,最適な学習は心的努力をかけて学習内容を想起した結果,思い出すことに成功した場合で あり,これは前述した望ましい困難と同じ考え方であると言える。 拡張分散学習の優位性は,研究者だけではなく,多くの学習者にとっても広く知れ渡っていると思われる (中田,2018) 。Callender(2010)は,多くの学習者は拡張分散学習の優位性を直感的に信じていると指摘 している。所謂, 「理由はわからないけれど,なんとなくインターバルは徐々に伸ばしたほうが良いだろう」 という感覚である。以上のことから,拡張分散学習は非常に優れた学習方法であるという考え方が通説となっ ていると言える。 2.2.1.大人を対象とした先行研究から 前述した理論的根拠によって,2000年代前半までは,圧倒的に拡張分散学習の優位性が主張されてきたが (Hulstijn, 2001;Nation, 2001),2000年代後半からは,実際に,2つの分散学習の効果を比較した研究が 増えた。その結果,拡張分散学習が均等分散学習よりも優れているという結果がほとんどなかったことで, この通説が一気に覆ることになる。Kang et al.(2014)では,37名の参加者(平均年齢36.4歳)が日本語と 英語のペアを拡張分散スケジュール(1日目,3日目,9日目,28日目)と均等分散スケジュール(1日目, 10日目,19日目,28日目)で学習を行い,56日後の84日目に遅延テストを行った結果,両者に優位な差は見 られなかった。 Kanayama and Kasahara(2016b)では,大学1年生を対象に日本語と英語のペア学習を拡張分散グルー プ(1日目,1日目,8日目,22日目)と均等分散グループ(1日目,8日目,15日目,22日目)に分けて, それぞれのスケジュールで学習を行い,3週間後の43日目に遅延テストを行った。その結果,両グループ間 に有意差は見られなかった。以上の2つの実験は,拡張分散学習の優位性がないことを示している。中田 (2018)は,外国語学習においては,復習の間隔を少しずつ長くしていくことが効果的であるという主張を 支持する根拠が存在するとは言い難いと指摘している。 2.2.2.子どもを対象にした先行研究から 児童を対象とした場合は結果が変わるだろうか。しかし,子どもを対象とし,拡張分散学習の効果を検証 した語彙習得研究は驚くほど少ない。たとえあったとしても,外国語学習ではなく,子どもの実態に合わせ て,おもちゃとその名前をペアで覚えるという実験を行っている場合がほとんどである。例えば,Fritz et al.(2007)では,幼稚園に通う28名の子ども(平均年齢4歳4ヶ月)を対象に,拡張分散学習の効果を検証 した。7つのおもちゃとその名前のペアを覚える作業を,拡張分散スケジュールで学習するグループと,一 度に学習するグループ(詰め込み学習)との比較で検証を行った。拡張分散学習グループは,最初におもちゃ が提示され,実験者の後に続いて,子どもたちはその名前をリピートした。その後,最初と同じように実験 者がおもちゃの名前を教えて,子どもが復唱するという繰り返しを全部で4回行った。一方で,詰め込み学 習グループでは,学習セッションを連続して行った。24時間後に遅延テストとして,子どもにおもちゃを見 せて,その名前を再生させた結果,拡張分散学習の優位性が確認された。ただし,この実験では,拡張分散. 113.

(7) 金 山 幸 平. 学習と均等分散学習を比較していないので,拡張分散学習の優位性はISIを徐々に長くしたことが要因なの か,それとも分散学習そのものによる効果かどうかは議論できない。 Vlach et al.(2014)では,拡張分散学習と均等分散学習の効果を比較している。英語母語話者の幼児(平 均41ヶ月歳)を対象に,おもちゃ(恐竜のおもちゃなど)と実験のために名付けたおもちゃの名前(blicket など)を提示し,その後,グループ毎にISIを変えて再提示した。再提示では,同じカテゴリーのおもちゃ は色や感触を変えて提示された。例として,柔らかくて赤い恐竜や,硬くて青い恐竜のおもちゃなどが挙げ られる。拡張分散学習では,最初に10秒間おもちゃを提示し,10秒のインターバルの後,再度10秒間提示し た。次は,30秒間のインターバルの後,10秒間の再提示を行った。さらに50秒のインターバルの後,10秒間 の再提示があった。従って,インターバルは10,30,50秒と徐々に長くなっていることがわかる。一方で均 等分散学習では,常に30秒のインターバルで同じ回数提示された。学習から24時間後に遅延テストを行った。 テストでは,複数のおもちゃをランダムに配列し,実験者が子どもに,おもちゃの名前を言って(blicketな ど) ,それを取ってくるように指示し,子どもが正しいおもちゃを選ぶことができるかどうかで判断した。 結果,拡張分散による学習が均等分散による学習よりも成績が上回っていた。実験の特徴から子どもを対象 にした先行研究は数少ないが,拡張分散学習は均等分散学習よりも効果的であることが示唆されている。 2.3.通説3の紹介 もしも10分間で単語を覚えるように指示された場合,次のうちのどちらの方法を使用するか。1つが10分 間ずっと単語帳を開いて覚える,もう1つが,最初の7分間で単語帳を開いて覚えて,残りの3分間でどの くらい覚えたかをテストする。多くの学習者は前者の方法が効果的であると考える傾向にある(笠原・金山, 2019) 。限られた時間の中でより多くの時間を頭の中に語彙を詰める方が良いと考えられているが,実際は 後者の方が圧倒的に効果的な学習方法であることが多くの研究で証明済みである(Roediger & Karpicke, 2006) 。このように,学習にテスト要素を取り入れることで,成績が向上する現象をテスト効果と呼んでい る(Kanayama & Kasahara, 2018)。 初期の研究では,学習のみのグループと,学習とテストを行ったグループの成績の比較であった。しかし, 後者のグループは前者と同じ時間学習した後で,テストを受けている。そのため,後者のグループの成績の 良さは, テスト効果によるものなのか,または単に学習時間が多かったからなのかは曖昧であった。しかし, 後の研究では,テスト時間を含め,全体の学習時間を統一した上で検証してもテスト効果が観察された。こ のことから,テストを行うこと自体には学習効果があると結論付けられている。 テスト効果の理論的根拠として挙げられるのが,想起練習効果であり,これは学習内容を頭の中で呼び起 こす時に生まれる効果である(笠原・金山,2019)。例えば, 「cat:ねこ」とペア学習を行い,その後に, 「cat はどういう意味ですか」と質問されたとする。その時,学習者は以前に覚えた情報の中から,学習負荷をか けながら,正しい記憶を呼び起こそうと努力する。このような心的努力をすることで,単語の意味と形式の つながりを強化することが可能となる(Kanayama & Kasahara, 2016a)。テストを行うこと,またはテスト 要素を取り入れることで,自然と想起練習が伴うので,結果としてより効果的な学習が期待される。 Kanayama and Kasahara(2018)やRoediger, Putnam, and Smith(2011)は,テスト効果を直接効果 (direct effects of testing)と間接効果(indirect effects of testing)に分類している。直接効果とは,テス トを受けるだけで得られる利益であり,これは想起練習効果を指している。一方で,間接効果とは,テスト がもたらす間接的な効果を意味し,特にテスト後の復習時に効力を発揮する。テスト後は,学習者は何がわ かって,なにがわからなかったのかを区別し,復習時には,まだ学習が足りないと感じた箇所に焦点を当て ようとする(中田,2019) 。また,テストを受けない学習者は,学習のみを重ねるうちに既に目標を達成し. 114.

(8) 語彙学習の通説は児童にも当てはまるか. たと錯覚するため,徐々に学習努力を継続しなくなる傾向にある。しかし,テストを受け,実際の進捗状況 を知ることで,学習者は現在の学習状況を確認し,まだまだ学習が必要であると判断できるため,学習努力 は継続させやすい(Kanayama & Kasahara, 2018)。さらに,テスト後の復習では,テストした内容とは異 なる内容の学習をしても,その長期保持が促進されることがわかっている(Wissman, Rawson, & Pyc, 2011) 。これはテストを受けることで,どのような形式で問題が出題され,どのような学習を行えばより高 得点を取ることができるのかを学習者自らが考えるようになるためである。 以上の説明の通り,テスト自体には,想起練習が伴い,学習者の心的努力によって学習内容はより活性化 され,記憶が強化される。これが直接効果である。テスト後には,テストで出題された問題形式,問題傾向, そしてどの問題に正解できなかったのか,何を覚えるべきなのかなどを的確に把握し,復習時に,より明確 な目標を持って学習に臨むことができるため,学習がより効果的になる。これが間接効果である。 しかし,つい最近になってテストの直接効果に関する研究が盛んになるまでは,この心的努力がもたらす 学習効果は特に意識されていなかった(Kanayama & Kasahara, 2018)。授業で小テストや定期考査を実施 する最大の目的は,生徒の成績評価を付けるためであり,学習効果を促進させることは目的ではなかった (Roediger et al., 2011)。従来では,テストを行う時間があるのなら,その分知識を吸収する時間に充てる べきであるという考え方が主流であったことも原因の一つである(中田,2019)。 2.3.1.大人を対象としたテスト効果の検証 2000年代に入り,Roediger and Karpicke(2006)の研究から飛躍的にテストの直接効果の存在が知れ渡 るようになる。彼らの実験1では,アメリカの大学生を対象に,テストの直接効果を検証した。まず参加者 は,260語程度の短い英語で書かれた2つのパッセージをそれぞれ7分間で読むように指示され,その後, 1つ目のパッセージはもう一度読み,もう1つのパッセージは再度読まずにテストを受けた。テストでは, 白紙が渡され,2つ目のパッセージの内容を思い出し,覚えている限り多くの情報を書くように指示を受け た。従って,1つ目のパッセージはSS学習条件(S=Study)で,2つ目のパッセージはST学習条件(S =Study, T=Test)で学習を受けたことになる。1週間後に遅延テストを受けた結果,ST条件で学習した パッセージの内容をより保持していたことがわかった(42% vs. 56%)。さらに実験2では,実験1から学 習条件を変え,3つの学習条件(SSSS, SSST, STTT)の効果を検証した。1週間後の遅延テストでは, STTT, SSST, SSSSの順番で成績が良かった(61% vs. 56% vs. 40%)。 この研究で重要なのは,参加者はテストを受けた後には一切のフィードバックが得られなかったことであ る。例えば,STTT学習条件では,1回目のテストが終わったときに,解答用紙が回収され,参加者が書い た解答が正解かどうかを知らされないまま,もう1度白紙を渡されテストを行った。このような学習条件だ と,一見すると,SSSS条件が最も効果的なように思われる。実際に,彼らの研究では,学習セッションが 終わった後に,参加者に「1週間後にテストがあるとしたらどのくらい覚えていると思いますか」と7段階 (1=全く覚えていない,7=よく覚えている)で自己評価させたところ,SSSS, SSST, STTTの順番で自 己評価が高かった(4.8 vs. 4.2 vs. 4.0)。つまり,学習者の自信と実際の点数には大きな差があることがわか る。フィードバックを受けていないということは,参加者はテストの間接効果による学習利益は受けられな かったことを意味する。前述したように間接効果とはテスト後の復習時に得られる利益を指す。テストの間 接効果の恩恵を受けることができなかった,STTT学習条件が最も高い保持率であったことから,テストを 受けること自体で想起練習効果が生まれ,さらにテストの回数が多いほど長期保持を促進することが明らか にされた。学習とは,知識を吸収するプロセスだと思われていたが(Roediger & Karpicke, 2006),吸収し た知識を取り出す作業もまた学習であると言える。. 115.

(9) 金 山 幸 平. も ち ろ ん, テ ス ト の 間 接 効 果 を 証 明 す る 先 行 研 究 も 多 数 あ る(Arnold & McDermott, 2013な ど )。 Karpicke and Roediger(2007)では,アメリカの大学生が,SSST, STTT, STST条件で語彙学習を行った。 テストの回数が多いほど学習効果があるという前述の主張を当てはめると,STTT, STST, SSSTの順番で好 成績を収めるだろうと予想できる。しかし,1週間後の遅延テストでは,STST, STTT, SSSTの順番で成績 が良かった (68% vs. 64% vs. 57%)。また,Kanayama and Kasahara(2018)では,日本人大学生を対象に, S-STとS-TS条件に分けて,それぞれの学習条件で語彙学習を行わせた。ハイフンは1週間のインターバル を表している。つまり,S-TS条件は,最初の学習セッションから1週間後にテストを行い,その後復習を行っ たことを意味している。一方で,S-ST条件ではテスト後には復習セッションがなかったので,間接効果か らは利益を得ていないことがわかる。すべてのセッションが終わってから1週後に遅延テストを行った結 果,S-TSグループがS-STグループよりも好成績であった(55.0% vs. 43.5%)。このようにテストを受ける だけでも学習効果は生まれるが,テスト後の学習もまた長期保持を促進するのである。 以上のように,大人を対象とした研究では,テストは学習ツールとして非常に効果的であることがわかっ た。テストは成績評価を付けるために存在しているという考えや学習は知識を吸収することであるという考 え方から,現在では,テストは成績評価のためだけではなく,テストには直接効果と間接効果があるという 考え方に移行しており,これは認知心理学の分野では周知の事実である。 2.3.2.子どもを対象にした先行研究から 前節では,大人を対象にした場合,テストは受けるだけで直接利益をもたらし,さらにテストを受けるこ とで,自身の学習状況を理解し,何ができなかったのかを明確にするなどのメタ認知が働き,結果として, 復習がより効果的になることがわかった。それでは,子どもを対象とした場合は,同じ結果になるだろうか。 まずは,テストの直接効果,想起練習効果から概観していく。Karpicke, Blunt, and Smith(2016)では, アメリカの小学校4年生(平均年齢10歳)を想起練習を行うグループと想起練習を行わないグループ(統制 グループ)に分けて,それぞれに刺激語と目標語のペア学習をさせた(fruit:banana, sports:footballなど)。 最初は両グループとも教室のプロジェクターで投影されたスクリーン上のペアを1語に付き2秒ずつ提示さ れた。その後は各学習条件に従って4分間でペアを覚えてもらった。想起練習グループでは,目標語の一部 とそのヒントとなる刺激語を提示し,目標語を思い出すように指示を受けた(fruit:ba ;sport: fo など) 。一方で,統制グループは同時提示された目標語と刺激語を覚えるように指示を受けた(fruit: banana;sport:footballなど)。学習後すぐに自由再生テストを行った結果,想起練習グループが統制グルー プよりも好成績を収めた。また,Karpicke, Blunt, Smith, and Karpicke(2014)では,語彙以外での学習で も想起練習効果が発揮されることを検証した。実験では,85名のアメリカの小学生(平均年齢9-11歳)に英 語で書かれた2つの短いテキストを読んでもらい,その後,1つ目のテキストでは想起練習で学習を深め, もう1つのテキストでは再度読んでもらい学習を行わせた。想起練習条件では,question mapと呼ばれる 用紙(テキストに関する質問が書かれていて,その質問に答えを記入するスペースを設けた用紙)が渡され, 5分間でそこにある質問に答えるように促した。この時テキストを見ながら解答することが許された。その 後,同じタスクを今度はテキストを見ないで,question mapの質問に3分間で答えるように(想起するよ うに)指示を受けた。その後,テキストの自由再生テストを受けた。学習時間を統一するために,2つ目の テキストに関しては,再度8分間読んでもらった。2つ目のテキストをもう一度読んだあと,同様に自由再 生テストを受けた。各テストでは,白紙が渡されて,テキストの内容で覚えている情報を書き出すように指 示を受けた。その結果,参加者は,想起練習で学習したテキストの方が,想起練習をしないで学習したテキ ストよりも内容を覚えていることが検証された(40% vs. 28%)。. 116.

(10) 語彙学習の通説は児童にも当てはまるか. しかし,上記の先行研究2つは,子どもの想起練習効果を検証することに成功したものの,学習後すぐに テストを行っており,長期保持における効果までは検証していない。そこで,Goossens, Camp, Verkoeijen, and Tabbers(2014)では,8~11歳のオランダ語を母語とする英語学習者の語彙学習における想起練習効 果を検証した。実験者が子どもに20語の目標語彙とその同義語のペアを1語ずつ読み上げ,10語は想起練習 を促す方法で学習を行い(weep: など),残りの10語は想起練習を伴わない方法でペア語が同時に提 示された(weep:cryなど)。1週間後の遅延テストを行った結果,想起練習条件で学習した語彙の方をよ り保持されていた(53% vs. 41%)。 以上のことから,子どもも大人と同様に,テスト要素が伴った,想起練習を行うことで長期保持が促進さ れることを確認できた。子どもに対してもテストの直接効果は期待できると言える。しかし,テストの間接 効果に関しては,次のAslan and Bäuml(2015)を見ていただきたい。彼らの研究では,ドイツの小学生低 学年(平均年齢6.7歳),小学校中学年(平均年齢8.8歳),大学生(平均年齢23.3歳)を対象に,テスト後の 学習が促進されるかどうかを検証した。実験では,学習者は6つから成るドイツ語の目標語彙のリストを4 つ(リスト1,リスト2,リスト3,リスト4)覚えるように指示を受けた。最初に実験者によって1語に 付き約5秒程度の速さで目標語彙が発音された。リスト1提示後にリスト1のテストを行い,次にリスト2 の学習後,リスト2のテストが行われ,リスト3と4も同様の順番で学習とテストを行った。リスト3のテ スト後すぐにリスト4が口頭で提示された。リスト1~3のテストを受けたことによって,リスト4の学習 がどのように促進されるかを年齢ごとに調査したわけである。その後すぐに自由再生テストが行われ,30秒 の制限時間の中で,リスト4で覚えている限りの単語を口頭で伝えるように求められた。その結果,大学生 は約76%,小学校中学年は約37%,小学校低学年は約25%の語彙を再生できることがわかった。学習者集団 の学習能力の差が初めからあったと思われるが,リスト1~3に関するテスト(解答に制限時間はない場合) では,どの年齢のグループでも80%以上の得点率であったにも関わらず,リスト4のテスト(解答に制限時 間がある場合)に大きな差が出たことから,AslanとBäumlは,年齢が上がるにつれて,テスト後の学習が 促進されるようになるが,小学校段階では,テスト後の学習は大人と比べて非効率的であると主張している。 従って,間接効果は大人には有効なものの,児童には特に低学年には効果的ではないことが示唆された。. 3.考 察 3.1.通説1の考察 エビングハウスの実験から,学習後はすぐに復習した方がよいという通説が生まれたが,大人を対象とし た研究により, 復習のタイミングは保持したい期間の長さによって決まり,長期に渡って保持したい場合は, より長いISIが効果的であることがわかった。しかし,子どもを対象にした場合は,Küpper-Tetzel et al.(2014)やRoger and Cheung(2018)やGoossens et al.(2016)などの研究により,必ずしもそうとも言 い切れないことが証明されてきた。これは,大人と子どもがそれぞれ持つ,認知能力の差異から説明可能で ある。以下では,認知発達に関わる「学習方略」と「記憶」2つの観点から,大人と子どもの違いを説明し ながら考察を行う。 1点目は「学習方略」の違いである。言うまでもないが,大人の方が子どもよりも,認知能力が発達して いるため,様々な学習方略を備えている。特にメタ認知に関しては,9~10歳頃から飛躍的に成長するため (大須賀,2016) ,この頃より様々な認知的な学習方法が身についてくる。例えば,丸暗記や単純な反復だ けではなく,既存の知識と新情報を関連付けるなどの適切な学習方略などが挙げられる。そのため,ISIを 長く設定し,学習内容をある程度忘却したとしても,その忘却経験によって,どのように復習をするかを考. 117.

(11) 金 山 幸 平. えながら反省を生かす学習が可能になり,また必要な情報とそうではない情報を区別して効率的に学習する ことが可能になるのも小学校高学年から中学生にかけてと言われている(藤村,2016)。しかし一方で,子 どもの場合は忘却した場合の対処方法を獲得していないことの方が多い。この場合,子どもは一度学習項目 を忘却してしまうと,その経験を活かすことが難しく,ほとんど0からの再学習が必要となる。 Carpenter et al.(2012)では,ISIを長くしすぎることの危険性を説明している。長いISI後の復習時に学 習内容をすべて忘れてしまったら,分散学習の利点を生かすことができないと指摘している。長いISIの後 は年齢に関係なく,ある程度学習内容を忘れてしまっているが,大人の方が学習方略が豊富であるため,そ の忘却体験を復習時に生かすことができる。むしろ,大人の学習者の場合は忘却体験を促すことで,自身の 学習状況を的確に判断し,復習時により効率的に学習できるようになる(Kanayama & Kasahara, 2018)と いう研究結果も報告されているため,ISIは長いほうが長期記憶に貢献すると主張している先行研究の結果 と一致することになる。 2点目は「記憶力」の違いである。ここでの記憶力とは,「ある特定の時間内で覚えていられる情報量」 のことを指し,主に「短期記憶」と「ワーキングメモリ」という用語を用いて説明する。藤村(2016)によ れば,読み上げられた数字をそのままの順序で暗唱する記憶スパンテストにおいて,大人は平均して7桁前 後の記憶スパンを所有しているのに対して,児童は5桁前後であったことから,年齢による情報処理量の違 いを説明している。また,苧阪(2002)は,ワーキングメモリの保持機能は年齢と共に20歳前後まで上昇す ると主張している。6~7歳の段階で既にワーキングメモリの基礎が形成されてはいるが,保持容量は限り なく少ない(大須賀,2016) 。ワーキングメモリとは,短期的に情報の保持と処理を同時に行うシステムを 指している(Baddeley, 2013) 。例えば,友人との会話を円滑に進めるために,相手の話を聞き,その会話 内容を記憶に留めつつ(保持) ,そして次に話すことを同時に考える(処理)など,日常から無意識の内に 活性化されていることが多い。この短期的な記憶容量と第2言語学習との間には正の相関があり,成人に近 づくほどある情報を記憶する能力は年齢と共に高くなっていき(苧阪,2002),忘却のスピードは子どもの それと比較して緩やかになる(Vlach et al., 2014)。従って,記憶の観点からも復習のタイミングは年齢ご とに異なると言える。特定の時間内で,ある情報を学習しきれない子どもにとっては,出来る限り早いタイ ミングでの復習を設定した方が良い。反対に,大人の場合も時間が経つにつれて学んだ内容を忘却していく という事実は子どもと同じではあるが,幼い子どもよりはISIを長くし,忘却経験をさせることで生まれる 利益の方が多いのである。 3.2.通説2の考察 前節で説明した通り,年齢による記憶力,学習方略などの認知的差異の観点から,児童への復習タイミン グは早いほうが良いことが説明できる。この事実が,通説2にも関わってくるが,拡張分散学習の優位性を 示す根拠ともなる。拡張分散学習が均等分散学習より効果的になる学習要因が存在することが主張されてお り(Kanayama, 2020;Karpicke & Roediger, 2010),これを考慮すると子どもにはやはり拡張分散学習の方 が効果的であることがわかる。それは学習内容が難しければ,すぐに復習し,そのインターバルを徐々に長 くするべきだという主張である(Kanayama, 2020)。これは,学習者にとって,学習内容を思い出すことが 難しい場合は,早めに復習しないと記憶に定着しにくいという考え方である。この観点から見れば,大人に とっては,困難な作業ではないことでも,少ない経験や記憶量から,新しい記憶と関連付ける必要がある子 供にとっては,たとえ単純な暗記だったとしても,非常に困難な作業になるのである(Frits et al., 2007)。 学習方略の観点からも説明できる。大人を対象とした場合は,拡張分散学習や均等分散学習に関わらず, 大人の学習者は豊富な学習方略を備えているため,どちらのインターバル方法でも自立的に学習が可能であ. 118.

(12) 語彙学習の通説は児童にも当てはまるか. る。つまり最初の復習が早くても,遅くても,何度も学習機会が保障されれば,最終的な達成度は同程度に なるのである(Kanayama & Kasahara, 2016b)。しかし,一方で子どもを対象とした場合は,忘却のスピー ドが大人より速いことから,常に最適な学習負荷(=望ましい困難)が必要であるため,インターバルを調 整する必要がある。最初の復習を早め記憶を強化させ,記憶の忘却速度を緩やかにする。次の復習間隔は, 1回目よりも長く設定することで,絶えず望ましい困難を提供し続ける。1回目の成功経験から,インター バルを徐々に長くしても正しく思い出すことができると考えられているためである(中田,2018)。 以上のように,記憶容量,忘却する速さ,学習方略の豊富さなどの差異を考慮すると,最初の復習は短く し, 徐々に間隔を広げることで常に最適な学習負荷を与えるほうが良いといえる。従って,通説2に関して, 従来では,拡張分散学習は直感的に最も効果的なインターバルの置き方であると信じられてきたが,数多く の先行研究から,拡張分散学習と均等分散学習は同程度の効果であると主張されるようになった。認知心理 学,および語彙習得研究分野ではこの事実が知れ渡るようになったが,子どもを対象にした場合には,拡張 分散学習の方がより効果的な学習に貢献できることが示唆されたため,従来の通説通り,学習機会が2回以 上あれば,拡張分散学習がより効果的である。 ただし,子どもを対象にした先行研究にも言及するべき問題点がある。1点目は,RIが比較的短いこと である。Fritz et al.(2007)とVlach et al.(2014)でのRIは共に24時間である。2点目は,対象とした子ど もは平均3歳前後である点である。小学生児童とは発達段階も大きく異なり,使える知識も大幅に異なるの で,小学校英語教育に当てはまるかどうかは慎重に議論するべきである。 3点目は,いずれの先行研究においても語彙学習を目的にしていないという点である。大人を対象とした 場合は,母語と外国語のペア学習における記憶の定着に焦点が当てられていたが,子どもに関しては,おも ちゃとその名前をペアで覚える実験デザインが組まれていた。外国語による語彙学習と,おもちゃと母国語 による名前学習は,共にペアで記憶する方法と言う点では,おおよその共通点はある。日本人の児童が‘cat’ という英単語を記憶する際には,小学校中学年では英語の音声と「ねこ」という概念を結び付け,高学年で は,そのつながりに文字情報(綴り)も加わる。一方,母語でおもちゃの名前を覚える際にも,その名前の 綴りと発音と概念(おもちゃの形や特徴)のつながりを形成する。従って,Fritz et al.(2007)とVlach et al.(2014)での研究結果は,日本の英語教育の語彙学習に関して非常に示唆に富むものであると判断した。 4点目は,大人を対象とした分散学習に関する先行研究はbetween-session spacingを呼ばれる方法で実 験を行っていたことである。これはインターバルを日単位で空ける実験デザインを指す。一方で,子どもを 対象とし拡張分散学習の方が均等分散学習よりも効果的であると主張した論文(Fritz et al., 2007;Vlach et al., 2014)の実験デザインはwithin-session spacingである。これは1日の中でインターバルを調節する方法 である。つまり,Fritz et al.(2007)とVlach et al.(2014)から得られた結果がそのまま実際の教育現場に 応用できないように思われるが,小学校英語教育の状況を考慮すると,応用可能だと筆者は考えている。学 習指導要領によると,小学校中学年では週1回,小学校高学年で週2回の外国語活動,および外国語科が実 施されることになるが,授業時数が非常に限られている。特に中学年では週に1回のみである。つまり,1 回の学習での定着が求められることを意味している。within-session spacingは1日の中でのインターバル を想定して実験が行われているため,1度の学習におけるインターバルの置き方を検証した先行研究は,日 本の小学校英語教育の現状と合致しているため応用可能であると判断した。 以上のように,筆者は児童には拡張分散学習のほうが均等分散学習よりも効果的だと考えており,是非教 育現場に取り入れて欲しい。しかし,それ以前に,実際の教科書では,詰め込み学習を暗に提案しているこ とが多々見受けられる(Carpenter et al., 2012)。教科書のある章の新出語彙は次以降の章では一切登場し なくなることが例として挙げられる。中田(2019)は,小学校英語に関する教材として,ペンマンシップの. 119.

(13) 金 山 幸 平. 例を挙げている。アルファべットを書く練習をする際には,ある特定の文字を(AAAなど)何度も書くよ うに促され, その後次の文字に移る(BBBなど)ことがよく見られる。しかし,このような方法だとアルファ ベットの終盤に差し掛かるにつれて(ZZZなど),最初に練習した文字は記憶から消えている可能性が非常 に高い。分散学習を意識するなら,1つの文字に費やす練習回数を少なくし,時間を空けて何度も練習する ほうがずっと効率的である(ABC…XYZ, ABC…XYZ, ABC…XYZなど)。従って,まずは詰め込み学習より も分散学習が長期記憶に効果的であることを広めることが先決である 3.3.通説3の考察 テストは成績評価のためのもの,生徒の自宅学習などの自主学習を促すものとして捉えられていたが, Roediger and Karpicke(2006)やKarpicke and Roediger(2007)の研究を中心に,テストには直接効果と 間接効果があることが立証され始めて,今日の認知心理学では当たり前の現象として扱われてきた。しかし, 児童を対象とした場合は,テストによる直接効果としての想起練習効果は期待できるものの,間接効果は期 待できないことが先行研究を通して発見された。通説1や2と同様に,大人と児童の認知的差異や内省能力 と関係していると考えられる。内省とは自身の心的過程を振り返ることである(西垣,1999)。これは,自 身がどのような行動を取ったのかについて後に振り返ることができるかどうかを指している。この内省も認 知発達に関わっており,年齢と共に発達し,7~8歳頃から徐々に過去の自身の行動の振り返りが可能にな る(西垣,1999) 。そのため,テスト後にどのように復習をすれば良いのかを考える力は小学校段階では大 人に比べて弱いと言える。実際,Aslan and Bäuml(2015)はテスト後の学習について,小学校段階では十 分に発達していない,‘late-maturing phenomenon’(p.5)であると主張している。 一方で,テストの直接効果は児童においても関係なく効果的であることが明らかになった。よって,学習 中に学習負荷をかけて,学習内容を思い出す心的努力やテスト要素を取り入れること自体が学習ツールとし て非常に効果的であると言える。外国語活動で活用するための身近な例として,教師がピクチャーカードを 提示しながら, 児童に英語表現を想起させるという方法がある。児童が, “I like dogs.”と表現したい場合, 教師はそれぞれの文字に対応するピクチャーカード(例えば,‘I’なら「人の顔の絵」,‘like’は「ハー トマークの絵」,‘dogs’は「犬の絵」 )を左から順番に黒板に張りながら,その絵をもとに児童に,/ai laik dɔːgz/と想起するように促す。このように,テストという言葉のイメージから連想されがちな,従来のペー パーテストではなくても,想起して口頭で学習内容を伝えることも,テスト要素が伴うので非常に有意義な 学習であると言える。 3.4.本研究の限界点と追研究に向けて 表1は本研究の内容を簡潔にまとめたものである。 表1 本研究で紹介した通説のまとめ 通説. 大人を対象にした先行研究から. 子どもを対象にした先行研究から.  1. 長いISIは長期保持を促進する. 短いISIは長期保持を促進する.  2. 拡張分散学習は均等分散学習と同じくらい効果 的である. 拡張分散学習は均等分散学習よりも長期保持に効 果的である.  3. テスト自体,およびテスト後の復習の両方に学 習効果がある. テスト自体に学習効果はあるが,テスト後の復習 には学習効果は期待しにくい. 120.

(14) 語彙学習の通説は児童にも当てはまるか. 本研究では,子どもを対象とした語彙習得研究,および認知心理学研究から,学習における通説について 考察してきた。先行研究を概観した結果,今日まで当たり前の現象だと思われてきた通説のほとんどは大人 を対象とした実験からの結果であり,子どもに視点を向けると結果が大きく異なることが明らかにされた。 しかし,本研究にも問題点はある。1つ目は,子どもを対象にした先行研究が非常に限られているという点 である。例えば,子どもを対象にISIの長さの効果を比較した研究,拡張分散学習と均等分散学習を比較し た研究,テスト後の復習効果について検証した研究があまり多くはない。従って,本研究で得られた結果を 支持する先行研究をより多く集める必要がある。2点目は,本研究では主に認知心理学の観点から,認知発 達的に見た時,子どもにある特定の学習方法が使用できるかどうかを検証したため,日本の小学校英語教育 の目標とは必ずしも一致しないという点である。現段階では小学校英語で直接的な語彙学習は目的としてい ない。あくまで語彙を導入し,コミュニケーション活動の中で実際に使ってみることで語彙知識を徐々に高 めていくことを狙いとしている。従って小学校英語科教育の目標を考慮して,本研究で得られた示唆がどの ように実際の教育現場で応用できるかは今後の課題となる。. 4.結 論 本研究では,語彙習得研究,および認知心理学研究から得られた最新の知見が,児童にとっても最適な学 習方法なのかどうかという疑問を先行研究を概観しながら考察してきた。大きな発見としては,大人を対象 とした研究の最新の知見は,子どもに当てはまるとは限らないという点である。その理由のほとんどは,児 童の記憶力,効果的な学習を行うための方略,自らの学習を振り返る能力などの認知発達が大人のそれらと は大きく異なることが原因である。特に通説1と2に関しては,記憶と学習方略の発達の側面から,学習負 荷を最適にするために,すぐの復習の方が良いこと(通説1) ,その後のISIを徐々に長くし望ましい困難を 与え続けること(通説2)が示唆された。反対に,大人を対象とした場合は,どのようなISIでも効果的に 学習する能力を持ち合わせていることがわかった。通説3では,主に学習方略や内省能力の違いから,テス ト後の復習に期待するよりは,テストを受けることによる想起練習効果を期待するべきであると考えられる。. 引用文献 苧阪満里子(2002).『脳のメモ帳 ワーキングメモリ』東京:新曜社. 大須賀隆子(2016) .「児童期の認知発達と心理発達の特徴と支援について」 『帝京科学大学教職指導研究』第1巻 第1号, 161-167. 笠原究・金山幸平(2019).「想起練習と分散学習を取り入れた語彙学習 ―小学校における英語教育への示唆―」 『北海道教 育大学紀要 人文科学・社会科学編』第69巻 第2号,29-41. 子安増生(編).(2016).『よくわかる認知発達とその支援 第2版』京都:ミネルヴァ書房. 中田達也(2017).「第9章 語彙指導」鈴木渉(編). 『第二言語習得研究に基づく英語指導』東京:大修館書店(pp.124-140). 中田達也(2018) . 「復習間隔を少しずつ広げていくことは長期的な記憶保持を促進するか?先行研究の批判的検証」 『関西大 学外国語学部紀要』第19号,35-54. 中田達也(2019).『英単語学習の科学』東京:研究社. 西垣順子(1999).「幼児期と児童期における心的活動についての知識の発達」 『京都大学大学院教育学研究科紀要』第45巻, 198-210. フォルス,キース(2009).『語彙の神話―英語語彙指導の俗信を正す』 (訳・土屋武久) .東京:学文社. 藤村宣之(2016).「第1章22節 記憶の発達:一度にどれだけ覚えられるか」子安増生(編) . 『よくわかる認知発達とその支 援 第2版』(pp.44-45).京都:ミネルヴァ書房. 文部科学省(2017).『小学校学習指導要領解説 外国語編』. 121.

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