震災に投影された国際協力の将来 -- 水平協力の時
代へ (特集 東日本大震災と国際協力)
著者
山形 辰史
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
192
ページ
18-21
発行年
2011-09
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004154
東日本大震災は、日本を援助国 ナ ー) か ら 被 援 助 国 へ と 転 換 た。 一 時 的 に で あ れ 日 本 人 は、 り か 日 本 は、 ス ー ダ ン を 抜 き、 に な る 見 込 み で あ る。 こ れ は、 」 に 身 を 置 い て き た 日 本 人 に く 変 え る 可 能 性 を 孕 ん で い る。 日本人が、震災の前以上に深く国 際協力の意義を認め、国際社会の なかの一人のリーダーとしての自 覚 を 高 め る 可 能 性 を 感 じ て い る。 これからの日本の国際協力は、日 本人がしばしば大きな困難に直面 し、それに対処するために他国か ら支援を受ける可能性があるとい う こ と を 強 く 意 識 し、 「 困 っ た 時 はお互い様」という、健全な助け 合い精神に基づく水平的な協力に なるだろう。このことは、これま での援助が基本的に、先進国から 開発途上国に対する垂直的な協力 ( 南 北 協 力 ) で あ っ た こ と と 対 照 的である。さらに強く主張したい ことは、常に他国を助けるのでは なく、時には助けてもらうという ことが、他国との絆を強めるため に、大きな役割を果たすというこ とである。人口が増えず、移民も 受け入れず、急成長する周辺国に 比して経済の相対規模が縮小して いる日本が、今後もスマート・ド ナーとして、他国との結びつきを 深めていくためには、大国意識や 先進国意識を捨て、東北人が東日 本大震災で示した謙虚さを素直に 示すことがより重要になる。本稿 では、そう考えるに至った背景を 説明する。
●世界各国からの支援
東日本大震災と、その一六年前 に起こった阪神淡路大震災との間 には、震災対応に関して大きな違 いがあった。それは海外からの支 援が大規模かつ広範だったことで ある。支援を実施した、または申 し出ている国・地域は二〇一一年 七月現在で、一六一に及ぶ(外務 省 ホ ー ム ペ ー ジ に よ る )。 阪 神 淡 路大震災の際には、支援国数が七 五であったので、今回の支援国数 は前回の数の約二倍に当たる(阪 神 淡 路 大 震 災 の 際 の 支 援 国 数 は、 豊田利久・瀬川智子「緊急援助に おける国際協力」 『国際協力論集』 第 五 巻 第 三 号、 一 九 九 八 年 一 月、 第 二 図 を 参 照 し た )。 ま た、 阪 神 淡路大震災の際に受け入れた海外 からの救助チームはスイスやフラ ンス等に限定されたが、東日本大 震 災 の 際 に は 在 日 米 軍 を 筆 頭 に、 二三の国・地域が救助チーム等を 派遣した。なかにはインド、イン ドネシア、スリランカ、タイ、中 国、フィリピン、モンゴル、ヨル ダンといった開発途上国も含まれ ていたことが特筆される。活躍の 様子は、以下のサイトに詳しく記 さ れ て い る( http://www .mofa. go .jp /m of aj/ pr es s/ pr /w ak ar u/ topics/v ol73/index.html )。 さ ら に、 支 援 を 行 っ た 一 六 一 カ 国 の う ち 二 三 カ 国 は、 開 発 途 上 国 の な か で も 発 展 の 制 約 が 大 き い と さ れ て い る 後 発 開 発 途 上 国 で あ っ た( 表 1)。 阪 神 淡 路 大 震 災 の 際 に も 後 発 開 発 途 上 国 か ら の 支 援 が あ っ た の で あ る が、 そ の 国 数 は 一 表1 日本の震災に対して支援を行った後発開発途上国数 アフリカ アジア ラテンアメリカ・カリブ海 計 後発開発途上国総数 33 14 1 48 東日本大震災支援国 13 10 0 23 阪神淡路大震災支援国 5 6 0 11注: 国連の後発開発途上国(Least Developed Countries)の定義はしばしば変更されている。上記の定義は 2011年7月時点のものを用いている。詳しくは、以下のサイトを参照のこと:http://www.unohrlls.org/ en/ldc/related/62/。
震災
に
投影され
た国際協力
の
将来
︱水平協力
の
時代
へ
山
形
辰
史
一であり、 この数も倍増している。 また、全後発開発途上国四八カ国 のうち、約半数の二三カ国が何ら かの支援を行ったことにも注目し たい。阪神淡路大震災の際にも世 界の多くの国々が日本に支援を寄 せたのであるが、東日本大震災に 対しては、さらに多くの国々が物 心両面で支援してくれたことが分 かる。 外務省関係者に拠れば、通常は 他国への緊急支援の窓口になって いる外務省国際協力局緊急・人道 支援課に対して、各国から緊急支 援 の 問 い 合 わ せ が 相 次 い だ と い う。
●日本の援助吸収能力
このように阪神淡路大震災と比 べて東日本大震災の際に国際的な 支援の輪が広がった背景は二つあ ると考えられる。ひとつには支援 する側の先進国・開発途上国共に 緊急支援対応能力を拡充していた り、経済力が上がって支援の余裕 が生まれていたことである。 いまひとつ阪神淡路大震災の時 から大きく変化したのは、日本の 側の支援受入準備である。前述の 豊田 ・ 瀬川論文のまとめに拠れば、 阪 神 淡 路 大 震 災 直 後 に、 ス イ ス、 フランス、ロシア、ドイツ、イス ラエル、シンガポール、アルジェ リア、ハンガリーから緊急援助隊 の 派 遣 の 申 し 入 れ が あ っ た の だ が、日本政府はスイス、フランス の緊急援助隊のみを受け入れるこ ととした。 後にイギリス、 スウェー デンからの救援チームも受け入れ たが、 関連省庁の許可の関係から、 これら二チームは本来の役割を果 たせなかったという。救助犬につ いても、ほとんどの申し入れに対 して農林水産省が、検疫を理由に 受入を認めず、スイスの救助犬の みが入国を認められた。 これに対して今回の東日本大震 災では、緊急援助従事者の入国管 理( 法 務 省 )、 救 助 犬 の 検 疫( 農 林水産省)に代表される救助チー ム受け入れ全般に関して、阪神淡 路大震災の場合より、条件整備が 進んだ。その結果として災害救助 犬は、韓国、シンガポール、ドイ ツ、スイス、メキシコ、オースト ラリア、アメリカ、英国、オラン ダの九カ国から、計四六頭が受け 入 れ ら れ た( http://www .maff. go .jp /j/ sy ou an /s ou m u/ sa ig ai/ kyuujyo_ken.html )。二三もの国 ・ 地域の海外救助チームが活躍した ことは前述のとおりである。 このように東日本大震災に際し ては、 阪神淡路大震災と比較して、 日本政府の「援助吸収能力」が増 加したと言える。援助吸収能力と は、被援助国が、申し出のあった 援助を受け入れて、その趣旨にし たがって活用する能力を指す。一 般に低所得国では、人材不足や制 度の未整備等のため、援助を受け 入 れ る こ と が で き な い こ と が あ る。阪神大震災の際の日本は、ま さ に 援 助 吸 収 能 力 が 低 い 状 態 に あった。●水平協力の萌芽①
―先進国同士の緊急支援
このように援助国日本は、東日 本大震災という災害に直面し、一 時 的 に で あ れ 被 援 助 国 に な っ た。 同 様 に、 先 進 国 が 大 災 害 を 被 り、 他の先進国から援助を受けるとい う現象は、東日本大震災が初めて ではない。 例えば二〇一一年二月、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド の ク ラ イ ス ト チャーチでの地震に際しては、国 際協力機構(JICA)も国際緊 急 援 助 隊 救 助 チ ー ム を 派 遣 し た。 東日本大震災でも、アメリカの国 際開発庁(USAID)が緊急物 資を日本に提供した。 JICAやUSAIDは基本的 に、開発途上国への支援を行う機 関である。JICAの場合は、一 九八二年に日本政府が国際緊急医 療チームを発足させた際に、担当 室 を 立 ち 上 げ て チ ー ム に 加 わ り、 それ以来、主に開発途上国での災 害に対して緊急支援活動を行って きた。一九八七年には、国際緊急 援助隊の派遣が法制化され、一九 九二年には、自衛隊の参加が認め られた。これにより現在国際緊急 援助隊は、救助チーム、医療チー ム、専門家チーム、自衛隊部隊に よって構成されている。国際緊急 援助隊は先進国・地域への緊急支 援 も 行 っ て お り、 ク ラ イ ス ト チャーチ地震に対する支援に先立 ち、二〇〇七年には、韓国西岸で のタンカー衝突事故による油流出 事故に対して、二〇〇九年には台 湾での台風に対して、それぞれ国 際緊急援助隊専門家チームを派遣 した。これらの実績から明らかな ように、 国際緊急支援については、 開発援助という枠を超えて、先進 国・地域間の水平協力が既に実施 されている。●水平協力の萌芽②
―中進国、中国、インド、
産油国の援助国化
国際協力の水平化は、開発途上 国の大国や、産油国、中進国が援 助を始めることによっても、より 一層顕著になっている。 韓国は一九九六年に経済協力開 発機構(OECD)に加盟し、先 進国の仲間入りをした。今年はO ECDで四回目となる援助効果向 上ハイレベル・フォーラム(一一 月二九日〜一二月一日)の開催国 として、国際協力への気運が盛り 上がっている。韓国にとって、先 進国の一員として世界に認められ るためにも、国際協力の推進が必 須である。また台湾も、急拡大す る中国の政治・経済的影響力に対震災に投影された国際協力の将来―水平協力の時代へ
(小林誉明 「中 策 」『 開 発 金 融 研 究 所 二〇〇七年一〇月、 れ に よ っ て 一 九 七 一 その後、 ナ ー と 見 な さ れ る に 訪 問 し、 ア フ リ カ・ 低 利 融 資 を 行 う こ と、 う援助も重要性を高めている。こ のように、非OECD援助国が増 えたことは、OECD諸国が自己 規制的に設定した国際協力の効率 化と透明化のルールを適用されな いケースが増えるという副作用を 生んでいる。