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イラン -- イスラーム共和国体制における大統領選挙 (特集 中東地域の現実と将来展望 -- 「アラブの春」を越えて)

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Academic year: 2021

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全文

(1)

イラン -- イスラーム共和国体制における大統領選

挙 (特集 中東地域の現実と将来展望 -- 「アラブ

の春」を越えて)

著者

坂梨 祥

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

256

ページ

6-7

発行年

2017-01

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00048548

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.256(2017. 2)

6

  二 〇 一 七 年 は イ ラ ン に と っ て、 再び選挙の年である。現職のロウ ハーニー大統領は、再選をかけて 五月の選挙に臨むといわれ、その 行 方 が 注 目 さ れ て い る。 イ ラ ン・ イスラーム共和国で定期的に実施 されてきている選挙は、たしかに 完全に自由でも、また完全に包摂 的であるわけでもない。しかし今 日イラン国民の間では、選挙制度 の公正性というよりも、ロウハー ニー大統領の国際協調路線のほう が、大きな注目を集めている。イ ランの選挙制度は容易には改革し 得ないが、イランの有権者には投 票を通じ、時の政権の方針への立 場表明を行う機会が、与えられて いるからである。   イランの選挙に関しては、現体 制の枠組みを支持しない者は立候 補が認められないという規定から、 民意を反映したものとはとても呼 べないとしてこれを却下するよう な議論も、依然として数多く見受 けられる。しかし、今日のイラン における選挙は、それなりの意味 も 有 し て お り、 単 純 に「 飾 り 物 」 と片づけてしまうこともできない。   たとえばイラン・イスラーム共 和国体制にとって、選挙は正統性 の重要な源であり、体制側の人々 は投票率を、体制への支持の度合 い を 示 す 指 標 と 位 置 付 け て い る。 他方、体制の変革を望む人々にと って、投票行為は体制への支持表 明とイコールではない。また、イ スラーム共和国における選挙に参 加することの意味は、時とともに 変化してきているようにも見える。 本稿においてはイランの選挙制度 をふまえつつ、イランにおける過 去 二 回 の 大 統 領 選 挙 を 振 り 返 り、 今日のイランにおいて選挙が持つ 意味を探りたい。

 イ

  今日のイランは、イスラーム共 和国体制を採用している。その統 治原理となっているのは、一九七 九年の革命で指導的な役割を果た したホメイニーが唱えた、ヴェラ ーヤテ・ファギーフ(法学者の統 治)論である。この理論に基づき、 イスラーム共和国ではお隠れイマ ー ム の 代 理 で あ る 最 高 指 導 者 が、 イスラームの原理から逸脱しない よう共同体を教え導くとされ、国 民の直接投票で選ばれる大統領よ りも強大な権限を有している。そ し て こ の 体 制 を 守 る こ と こ そ が、 「 イ ス ラ ー ム 的 」 に 正 し い 行 い と されており、体制のあり方への挑 戦 は、 い か な る 形 の も の で あ れ、 これまで着実に摘み取られてきた。   立候補登録者が体制の枠組みを 無 条 件 に 受 け 入 れ て い る か 否 か ( す な わ ち 立 候 補 資 格 を 有 し て い

共和国体制

大統領選挙︱

るか否か)を判断する権限は、最 高指導者が直接・間接に任命する 監督者評議会という機関に与えら れている。イランでは体制のあり 方の変容を求める「改革派」勢力 が、かつて「言論の自由」や「法 の支配」を掲げて選挙に臨んだが、 今日の監督者評議会は改革派の有 力者に対しても、立候補資格を与 えることを拒んでいる。つまり今 日のイランでは、選挙を通じて体 制 の あ り 方 を 変 え て い く こ と は、 ほぼ不可能になっている。   と は い え、 イ ラ ン の 選 挙 で は、 選挙権は一八歳以上の男女全員に 与えられている。つまり現状維持 を望む者も、現状の変革を望む者 も、等しく一票を投じる権利を与 えられているのであり、自らの票 が正しくカウントされるという信 頼さえ存在するならば、選挙結果 は全ての者にとり、尊重されてし かるべきものとなる。

 二

  制度そのものへの信頼が、選挙 の安定的な実施に必須であるとい うことは、二〇〇九年にイランで 実施された大統領選挙後の混乱が、 如実に物語っていた。この選挙で

特 集

中東地域の現実と将来展望 ―「アラブの春」を越えて― 03_特集.indd 6 16/12/26 10:18

(3)

7

アジ研ワールド・トレンド No.256(2017. 2) 「 緑 運 動 」 を 名 乗 り 戦 っ た 改 革 の 支 持 者 た ち は、 「 ア フ マ デ ィ ー ネ ジャード圧勝」との結果発表を受 け、選挙に不正があったことを直 感し、大規模な抗議行動を開始し たのである。   不正が実際に行われたのか否か は、今日に至るまでわかっていな い。しかし人々が反射的に抗議行 動に繰り出した背景には、もとか ら存在した「選挙では体制側の意 向を打破できない」という不信感 に加え、強硬なアフマディーネジ ャード大統領の再選を阻止しよう とした緑運動とムーサヴィー候補 の切実な取り組みを、体制側があ まりにも軽んじた (ように見えた) ことがあったものと思われる。   緑運動の奮闘もむなしく、政府 内務省は選挙終了後、直ちに(と 呼べるほど迅速に)アフマディー ネジャードの勝利を宣言し、ハー メネイー最高指導者もこれを祝福 した。体制側はまた、抗議行動を 徹底的に鎮圧し、治安部隊との衝 突で、数十名の死者も出た。   緑 運 動 の 支 持 者 た ち に と っ て、 投票は自らの声をせめて「届かせ る」ための手段であった。しかし 体制側は、緑運動の声などまるで 存在しないかのように振る舞った。 広範な抗議行動は、そのような体 制に対する深い失望と怒りに突き 動かされたものでもあった。   体制側はこの時の一連の出来事 を、許されざる「反乱」と呼んで 断罪し、これを機に改革派の指導 者たちを一斉に逮捕した。そして この時の混乱は、イラン・イスラ ーム共和国体制の将来に、大きな 禍根を残すことになった。

 ロ

  続く二〇一三年の大統領選挙は、 第二期アフマディーネジャード政 権のもとで対イラン制裁が強化さ れ、イランの孤立が深まるなかで 実施された。この時点で二〇〇九 年の苦い経験はいまだ記憶に新し く、イスラーム共和国体制のもと の選挙にどう向き合えばよいのか を、多くの人々がいまだ決めかね ているようにみえた。   しかし、イラン国内では選挙の 直前になって、突如として「選挙 に参加しようキャンペーン」が盛 り上がりをみせ始める。国営テレ ビで放映された立候補者たちの公 開 討 論 会 も き っ か け と な り、 「 皆 が自らの一票を投じるべき」であ るとする呼びかけが、SNSなど を 通 じ イ ラ ン 国 内 を 駆 け 巡 っ た。 そして結果的には(公式発表によ ると)有権者の七割以上が、投票 所に足を運んだのである。   この選挙に際し、監督者評議会 が承認した八名の候補による討論 会は、体制が多少なりとも意味の ある選択肢を国民に与えているこ とを、明らかにするものであった。 アフマディーネジャードの強硬路 線を単に引き継いでしまいそうな 候補から、 「(孤立により深まった) 窮状の打開」を約束するロウハー ニー候補まで、様々な傾向を持つ 立候補者全員が、討論会では一堂 に会した。そして改革の支持者た ちは、自らが投票に行かなければ 強 硬 派 候 補 に と っ て 有 利 と な り、 アフマディーネジャード路線が継 承されてしまいかねないことを念 頭 に、 「 希 望 と 中 庸 」 を 掲 げ る ロ ウハーニー候補に対し、一票を投 じたのである。

 お

  人々の広範な政治参加を受けて、 体制側はいつものごとく、高投票 率は体制への高い支持の表れであ ると発表した。しかし、改革を望 む人々がこの選挙に参加した理由 は、体制が公認する候補者たちの 間にも、一定の選択肢が存在した からであろうと思われる。たとえ 選択の幅が非常に狭いものであっ たとしても、投票は今日のイラン 国民にとって、公式に意思表明を 行う限られた機会のひとつである。 体制のあり方がそう容易には変わ らないのなら、少なくとも強硬派 の台頭は防ぐべく不完全な選挙の なかでも「よりましな」候補に一 票を投じるという行為は、ほかで もない合理的選択の表れと呼ぶこ とができる。   近年のイランにおける選挙では、 立候補資格審査によって明らかに なる体制の思惑と、体制が許容し た候補をめぐる国民の選択とのい わば接点が、選挙結果という形で 表れており、この構図は二〇一七 年の大統領選挙でも、大きく変化 することはない見込みである。し たがって国民が経済状況の改善を 強く望み、現体制の統治エリート も「国際協調路線は経済復興と体 制の安定的存続に資する」と考え 続ける限りにおいて、ロウハーニ ー大統領が再選される可能性は高 いと言うことができるだろう。 ( さ か な し   さ ち / 日 本 エ ネ ル ギ ー経済研究所   中東研究センター 研究主幹) 03_特集.indd 7 16/12/26 10:18

参照

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