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高齢者の発話から認知症の危険度を察知する情報技術─誰でも気軽に使える認知症スクリーニングを目指して─

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1.は じ め に

認知症とはご存じのとおり認知機能の低下を患う症候 群である.“Human beings are mortal.”の言葉にあるよ うに加齢に伴う認知機能の低下はある程度は避けられな いものの健康な加齢のそれとは大きく異なる.世界の健 康長寿社会の発展に伴い,認知症を患う高齢者の急激な 増加とそれに伴う医療介護福祉の問題は世界が抱える喫 緊の課題の一つになってきている.近年の WHO の報告 によると,世界における認知症者の数は 4 750 万人とさ れ毎年 770 万人の増加があると推計される.このような 状況下,2013 年 12 月には,英国が G8 の議長国を務め る機会を活用し Global Action against Dementia を掲げ て世界で初めて G8 認知症サミットを開催し,日本国内 でも翌年 12 月に認知症サミット日本後継イベントが開 催された.この流れを受け 2015 年 3 月にはジュネーブ にて WHO 閣僚級会議が初会合されるに至り,認知症対 策は世界各国において重要な国家戦略と認識されている. 日本の人口統計は超々高齢化の一途をたどり,世界 で最も高齢化が進む国である.総務省統計局の最新統 計によると,現在 65 歳以上の高齢者は日本の総人口の 25.9%を占めており,2040 年には 36%まで上昇すると 推計される.厚生労働省老健局によると,2012 年の国 内認知症患者数は 460 万人(有病率は 15.0%)を超え たと報告されており,2040 年には患者数が 802 ∼ 953 万人まで増加すると見込まれる.こうしたなか,平成 27年 1 月,厚生労働省において,これまでの認知症施 策推進 5 か年計画に変わる認知症施策推進総合戦略「新 オレンジプラン」が公表された.新しく策定された七つ の柱には,認知症の予防法,診断法,治療法,リハビリテー ションモデル,介護モデルなどの研究開発や,早期診断・ 早期対応を実効あるものにするための認知症者やその家 族の視点を重視する重要性が掲げられている. ごく早期の認知症の発見・予防を目的とした認知機能 障害のスクリーニングは,ますます進む社会の長寿高齢 化において大いに期待される技術である [栗田 09].現 在,認知症のスクリーニングは,HDS-R(改訂長谷川 式簡易知能評価スケール)[Katoh 91],MMSE(Mini-Mental State Examination)[Folstein 75],MIS(Memory Impairment Screen)[伊集院 08],CDR(Clinical Dementia Rating)[Morris 93] などが広く用いられている.これ らは一定のトレーニングを受けた医師,あるいは臨床心 理士などにより,主として医療機関において実施されて いる.しかしながら,日常の外来診療場面では,HDS-R などの簡易検査であっても,5 ∼ 20 分程度の時間を要し, ほかの外来患者の診療に支障をきたすとの指摘もあり, 医師の負担の軽減が重要になると考えられる.さらに簡 便で使用しやすく,かつ,従来のツールと同等以上の性 能を有するツールが開発されれば,より広範にスクリー

高齢者の発話から認知症の危険度を

察知する情報技術

─誰でも気軽に使える認知症スクリーニングを目指して─

Information Technology to Detect Cognitive Impairment from Elderly’

s

Speech

 ─ Toward a Dementia Screening System Accessible to All Elderlies ─

加藤 昇平

名古屋工業大学大学院工学研究科情報工学専攻

Shohei Kato Dept. of Computer Science and Engineering, Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology.

[email protected], http://www.katolab.nitech.ac.jp

遠藤 英俊

国立長寿医療研究センター

Hidetoshi Endo National Center for Geriatrics and Gerontology.

[email protected]

本間  昭

認知症介護研究・研修東京センター

Akira Homma Tokyo Dementia Care Research and Training Center.

[email protected]

Keywords:

early detection of dementia, functional near infrared spectroscopy: fNIRS, Bayesian classifier. 「超高齢化社会と AI ─社会生活支援編─」

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ニングを実施することが可能となり,認知症の早期診断 に資することが可能になる. そこで我々は,コンピュータによるデータマイニング 技術を応用した認知機能障害のスクリーニングを開発し てきた.専門医の診断・加療を必要とする高齢者をより 多く専門医療機関に誘導するために,高齢者の発話音韻 特徴を用いる手法 [加藤 11, Kato 15],および,脳血流 の賦活特徴を用いる手法 [加藤 12, Kato 14] をそれぞれ 考案した.これは,音声情報のみを用いるため誰でも在 宅・外出など場所を問わず手軽に低コストで実施できる (一次スクリーニング)長所をもちつつ,脳機能を直接 測定する(二次スクリーニング)ことで判別の信頼性を 確保するねらいがある.脳機能計測としては,特別な測 定環境を必要とせず,自然な体勢で課題実行中の脳機能 を測定できる,機能的近赤外分光法(functional near-infrared spectroscopy:fNIRS)を採用している. 本稿では,それらの成果を総括・統合し,音声・fNIRS 同時計測を実施した臨床データ(N=48)を用いて 2 段 階スクリーニングの効果を検証する [Kato 13].そして, 一次スクリーニングのコスト効果と 2 段階スクリーニン グを用いた健常者(CN),軽度認知機能障害(MCI), および,軽度アルツハイマー型認知症(AD)患者の弁 別における有効性について議論する. 1・1 実 験 参 加 者 実験には 48 名の高齢者(年齢 64∼92 歳,男性 18 名, 女性 30 名)が参加した.表 1 に被験者の臨床診断群と 年齢構成の内訳を示す.ここでは,MCI 群として CDR 0.5相当,AD 群として CDR 1 相当の患者を対象とした. 1・2 認 知 課 題 HDS-R テストを含めさまざまな認知課題を実行中の 高齢者の脳機能を計測するために図 1 に示すブロックデ ザインの課題を設計し,音声・fNIRS 同時計測を行った. 計測の様子を図 2 に示す.始めの 10 分間は被験者の出 身地や少年時代の会話と長谷川式テストを実施し,後半 の 12 分間で回想法(① 聴く,② 話す,③ 見る)なら びにワーキングメモリ課題(① カテゴリー想起,② リー ディングスパンテスト,③ 顔想起)の認知課題を実施す る.各認知課題の前後に 60 秒の 1 点注視休憩(レスト) 表 1  実験協力者の内訳(N=48) 年 齢 64∼ 70 71∼ 75 76∼ 80 81∼ 85 86∼ 92 合 計 男 性 3(2, 0, 1) 2(1, 1, 0) 4(3, 1, 0) 7(1, 4, 2) 2(0, 0, 2) 18(7, 6, 5) 女 性 7(4, 2, 1) 6(4, 2, 0) 8(2, 5, 1) 5(2, 1, 2) 4(1, 3, 0) 30(13, 13, 4) 小 計 10(6, 2, 2) 8(5, 3, 0) 12(5, 6, 1) 12(3, 5, 4) 6(1, 3, 2) 48(20, 19, 9) 括弧内の数は,それぞれ CN 群,MCI 群,AD 群の人数を示す. fNIRS 図 2 fNIRS データの測定風景 図 3 fNIRS 測定のチャネルレイアウト 図 1 認知課題のブロックデザイン

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を取らせた.認知課題実行中の高齢者の脳活動計測とし て,多チャネル近赤外光脳機能イメージング装置FOIRE-3000(島津製作所製)を用いた.測定部位は,図 3 に示すように,前頭前野に 22 チャネル,右側頭葉およ び頭頂葉に 10 チャネル,10 チャネル,合計 42 チャネ ルの部位において脳血流を計測した.fNIRS の測定環境 や測定方法についての詳細は [加藤 12] を参照されたい. 本稿では,高齢者が実施した認知課題のうち,ワーキ ングメモリ課題 1(カテゴリー想起)の終盤 20 秒で実 施された「果物の名前をできるだけ多く答える」課題回 答時の音声および fNIRS データを解析対象とする.

2.音声韻率に基づく認知機能障害評定

本章では一次スクリーニングとして高齢者の発話音 韻特徴を用いた重回帰分析による認知機能障害危険度 SPCIR(Speech-Prosody Based Cognitive Impairment Rating)の算出手法を簡素に述べる. 2・1 音 声 韻 律 特 徴 音声は,三つの要素(韻律,音質,音韻)から成り 立つ.この中でも,韻律的特徴が人間の感情表現(例え ば,[Cowie 01, Scherer 03])や認知機能障害(例えば, [Taler 07, Taler 08])などを特定するために重要な非言 語情報となり得ることが明らかにされている.本研究で は,以下に記述する 128 種の音声韻律特徴を考慮する. スペクトルとピッチに関する特徴量(13) 音声の高 さに関係するピッチ構造を反映させるために,基本 周波数の変動や基本周波数と基本周波数の n 倍の周 波数をもつ n 次高調波成分から得られる統計特徴量 を抽出する. フォルマントに関する特徴量(33) 音声の特徴を表 すフォルマント構造を反映させるために,母音の識 別に関連する第 1,第 2 フォルマントに加えて,声 質の特徴を表す第 3,第 4 フォルマントを抽出しフォ ルマント周波数の統計特徴量を抽出する. エネルギーに関する特徴量(22) 音声の大きさに関 係する振幅構造を反映させるために,短時間パワー とその包絡線から得られる統計特徴量を抽出する. メルケプストラムに関する特徴量(60) 発話音声の 声道成分に由来した周波数特性として周波数スペク トル包絡に着目し,これを表現する対数ケプスト ラムの低次成分に対して人間の周波数知覚特性を 考慮し重み付けしたメル周波数ケプストラム係数 (MFCC)を算出する.同係数(次数 12)の統計特 徴量を抽出する. これらの特徴量および抽出計算の詳細については [加 藤 11] を参照されたい. 2・2 SPCIR: 音声韻律に基づく認知機能障害評定 前節で述べた 128 種の特徴量から主成分分析および 特徴選択手法により合成・選択された音声特徴を説明 変数とし,高齢者の HDS-R スコアを目標属性として重 回帰分析を行うことにより,音声韻律に基づく認知機 能障害評定(SPCIR: speech prosody-based cognitive impairment rating)を導出した.表 2 にこれらの評定 による相関性の結果を示す.図 4 に HDS-R スコアと SPCIRの散布図を示す.SPCIRPCA-FSW-AIC は,重 回帰分析の事前に 128 特徴を主成分分析で合成したうえ で赤池情報量規準(AIC)を用いたフォワードステップ ワイズ変数選択アルゴリズム(PCA-FSW-AIC)により 算出されたことを示す. 音声発話単独の最新研究では,実験協力者数 243 名 (年齢 65 ∼ 96 歳,男性 65 名,女性 178 名)の臨床デー タからなるより大規模な実験を実施している.そこで は,SPCIRPCA-FSW-AICによる補正済み決定係数 R¯2=0.62 の相関分析結果,ならびに健常群 / 軽度 AD 群の 2 群判 別において感度 90.1%,特異度 88.9%,正診率 89.5% の判別性能,健常群 /MCI 群の 2 群判別において感度 76.5%,特異度 75.3%,正診率 75.9%の判別性能がそ れぞれ確認されている.これらの研究報告については [Kato 15]を参照されたい. SPCIR _PCA-FSW-AIC HDS-R 10 15 20 25 30 10 15 20 25 30 Y=0.61X+10.38 図 4 HDS-R と SPCIRPCA-FSW-AICの散布図 表 2 SPCIR と HDS-R の相関性 SPCIRPCA-FSW-AIC 説明変数の数 42 重決定 R2 0.61 補正済み R¯2 0.54 標準誤差 2.40 P値 < 2.2 × 10− 16

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3.ワーキングメモリ課題実行時の

fNIRS データの評価

本研究の予備的調査として,ワーキングメモリ課題 1 「カテゴリー想起」の課題実行中の fNIRS データ(oxy-Hb)を用いて全チャネルごと(33CH,41CH を除く) の 3 群間の有意差検定を行った.検定方法は t 検定を用 いて両側検定,有意水準 P < 0.001,Bonferroni 補正 (1/40)のもとで実施した.図 5 は検定で有意差が確認 されたチャネルについて,t 値に基づき 16 色でマッピン グしたものである.同図の結果から,健常群・疾病群の 間で認知課題実行時の脳血流に有意な差が確認された. 認知症患者は認知機能の障害によりワーキングメモ リの機能が低下する.その結果,前頭前野の脳血流にお いて健常群は疾病群と比較して有意に賦活することが確 認できる(図 5(a),図 5(b)の左図における Fr およ び Fl 領域).また,左右側頭葉の脳血流においても健常 群は疾病群と比較して有意に賦活することが確認された (図 5(a),図 5(b)の中右図における Rr および Lf 領域). 加えて,図 5(c)の結果から,軽度な認知機能障害であ る MCI 群は AD 群に比べてこれらの脳血流がわずかな がら有意に賦活することが確認できた. このことから,認知課題実行中の fNIRS データを用 いた認知症スクリーニングの実現可能性が示唆される. なお,同課題実行直前のレスト区間の fNIRS データを 用いて同様の検定を行ったところ,すべてのチャネルに おいて有意差は確認されなかった.

4.脳血流賦活に基づく CN/MCI/AD の 3 群判定

機能的近赤外分光法(fNIRS)とは,近赤外光を用い て脳内のヘモグロビン流量を計測する技術であり,非侵 襲かつ被験者への拘束が少なく,測定環境を選ばない比 較的簡便な計測が可能である [Villringer 97].脳血流の 増加はその脳部位の神経活動の活発化を反映しており [Villringer 95],脳血流の変化は血液中のヘモグロビン (Hb)量の変化を測定することで捉えることが可能であ る.そのため,fNIRS で酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb) 量,脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb)量,および, その総(total-Hb)量を計測し,計測されたこれらの変 化を脳活動の指標と捉えることができる.本研究では, oxy-Hbの変化に注目した. 認知症のスクリーニングでは,まず,認知機能の健常 性を判断し,疑義がある場合にはその程度に応じて軽度 認知機能障害あるいは認知症であるかを判定するプロセ スが考えられる.そこで本稿では,図 6 に示す 2 段階の Naive-Bayes Classifierを用いた fNIRS データからの

CN/MCI/AD 3群判別システムを提案する.以下に同シ ステムにおける計算手順を簡素に示す. 4・1 fNIRS 初期解析 fNIRS 測定信号の原波形に対して各チャネルごとに低 域通過フィルタおよび差分フィルタをかけてノイズを除 去し,注目する 7 領域内のチャネルの加算平均を行う. 4・2 fNIRS 特徴抽出 脳血流変動の特徴を表す特徴量として,初期解析後の fNIRS データから,最大・最小・平均・分散・回帰直線 の傾き・基本周波数・周波数重心などの特徴量を計算し, 被験者について各領域当たり 11 個の fNIRS 特徴量を算 出する. 図 5 検定結果の t 値マッピング -24 -12 t-value0 12 24 Fr Fl Rr Lf (c) MCI 群─AD 群 -24 -12 t-value0 12 24 Fr Fl Rr Lf (a) CN 群─MCI 群 -24 -12 t-value0 12 24 Fr Fl Rr Lf (b) CN 群─AD 群 図 6 2 段階─単純ベイズ分類器を用いた CN/MCI/AD の 3 群判別

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4・3 ベイジアンクラシファイア 上記の特徴量と臨床診断結果の因果関係を示す 2 段 階の Naive-Bayes Classifier を学習する.第 1 段階とし て,認知機能に障害があるかどうかを推定する判別器 NBCN/CI,障害が推定された場合にその程度を推定する 第 2 段階の判別器 NBMCI/ADの 2 判別器を構築する. これらの手続きの詳細については [加藤 12] を参照さ れたい.

5.音声・脳血流スクリーニングを用いた

CN/MCI/AD 判別実験

本稿では,これまでに我々が開発してきた音声および 脳血流を用いた認知症スクリーニングシステムの効果を 検証する.それぞれの研究にて音声 / 脳血流単独での認 知機能障害のスクリーニングツールとしての応用可能性 を検証済みだが,これらを組み合わせた総合システムの 効果は検証していなかった.本章では,これらを 2 段階 に結合したスクリーニングのプロトコルを提案し,臨床 データを用いて判別のコストと性能を検証する. 5・1 一次スクリーニング まず,一次スクリーニングとして 2 章で述べた発話音 韻による認知機能障害評定 SPCIR を採用する.このシ ステムでは,高齢者の発話した音声データのみを用いて 評定値を計算するため,コストが非常に安く在宅あるい は診療所や福祉施設などの出先にかかわらず,一人でも 気軽に測定・チェックが行える利点をもつ.そこで,こ れを一次のスクリーニングシステムとして用い,発話音 声から計算した SPCIR のスコアを用いて健常・疑いの 判定を行う.通常は,1 名の被験者から複数の音声デー タが入力されるため,これらの SPCIR スコアの最低点 を判別に利用する.被験者の SPCIR があらかじめ設定 したカットオフ値に満たない場合には,脳機能を直接測 定する二次スクリーニングに移行する.カットオフ値以 上の場合は健常(CN)とみなして判定は終了する.カッ トオフ値が小さいほど一次スクリーニングの判定は緩く なる. 5・2 二次スクリーニング 二次スクリーニングとしては,4 章で述べた fNIRS 測 定器を用いた脳血流賦活による 2 段階の 3 群(CN/MCI/ AD)判別器を採用する.ここでは,音声によるチェッ クで認知機能障害の疑いをもたれた高齢者の脳機能を直 接測定することで,コンピュータによる最終的な判別結 果(CN/MCI/AD)を確定する.ここで,MCI あるいは ADと判別された高齢者を(AD から優先して)専門医 療機関での受診を誘導する仕組みを考えている.fNIRS による脳機能測定を必要とするため音声と比較してコス トは大幅に増加するものの,fMRI などの測定と比べれ ばコストは低く被験者への身体拘束もない. 5・3 判 別 結 果 被験者 48 名に対するスクリーニングテストの結果を 表 3 ∼表 5 に示す.ここでは,SPCIR による一次スクリー ニングのカットオフ値を 26 ∼ 28 の 3 値で設定した場 合の結果を考察する. 同表において,CN の判定において,一次スクリーニ ングで健常と判別された人数を括弧に内数で示す.二次 スクリーニングの検証方法には Leave-one-out 交差検定 を用いた. 表 3 の結果から,カットオフ値を 26 点に設定するこ とで 24 名(50%)の被験者が一次スクリーニングのみ で判別を終了するため fNIRS 測定のコストが半分に軽 減されることがわかる.CN や AD の正答率はそれぞれ 95%,100%と高く,一見して全体正答率も 85.4%と比 較的良い性能に見える.しかしながら,6 名(約 32%) の MCI 患者が一次スクリーニングにて「健常」と誤判 定された.本スクリーニングの役割が専門医療機関への 受診誘導であることを考えると,この判定は看過できな い.今回の臨床データに関しては,カットオフ値は小さ すぎることがわかる.一方で,表 5 の結果から,カット オフ値を 28 点に設定した場合には被験者全員が二次ス クリーニングへ移行していることがわかり,スクリーニ 表 3 判別実験結果(SPCIR カットオフ値:26) 診断結果 判別出力 CN* MCI AD 正答率 CN 19(18) 1 0 95.0% MCI 6(6) 13 0 68.4% AD 0(0) 0 9 100% 的中率 76.0% 92.9% 100% 85.4% 括弧内の数は一次スクリーニングで CN 群に判別された内数を示す. 表 4 判別実験結果(SPCIR カットオフ値:27) 診断結果 判別出力 CN* MCI AD 正答率 CN 15(5) 2 3 75.0% MCI 3(3) 16 0 84.2% AD 0(0) 1 8 88.9% 的中率 83.3% 84.2% 72.7% 81.3% 括弧内の数は一次スクリーニングで CN 群に判別された内数を示す. 表 5 判別実験結果(SPCIR カットオフ値: 28) 診断結果 判別出力 CN* MCI AD 正答率 CN 14(0) 4 2 70.0% MCI 0(0) 18 1 94.7% AD 0(0) 1 8 88.9% 的中率 100% 78.3% 72.7% 83.3% 括弧内の数は一次スクリーニングで CN 群に判別された内数を示す.

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ングのコストは全く軽減できない.しかし,判別性能に ついては MCI および AD の正答率も概ね 90%超と良い 結果であり,CN の判定的中率が 100%である点も非常 に良い.カットオフ値が 27 の場合は,上記結果の中庸 の性能を示した.これらの結果から,本システムの一次 スクリーニングの CN 判定によるコストリダクション効 果と MCI を見過ごすリスクとのトレードオフの関係が 改めて確認された. 今後は,上記の性質を保持しつつ全体の正答率を向上 させる改良を進めたい.特に,音韻特徴の精査と特徴選 択手法の高度化,ならびに,CN/MCI の弁別を重視した SPCIRを改良するとともに,表 3 や表 4 で誤判別され た MCI 患者がその後 AD へ進行する(converter)患者 であるか否かを追跡調査したい.

6.お わ り に

本研究では,認知症の早期発見・診断の支援を実現す るために,高齢者に対して極めて簡便で非侵襲な認知機 能障害のスクリーニングシステムを目指して研究開発を 行ってきた.本稿では,高齢者の発話音韻,ならびに, 機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いた認知課題実行中 の脳血流賦活特徴に着目したこれまでの研究を統合し, データマイニングアプローチに基づく音声と脳血流を用 いた認知機能障害のスクリーニングシステムを開発し, 健常(CN),軽度認知機能障害(MCI),アルツハイマー 型認知症(AD)の臨床診断群を 2 段階のスクリーニン グで自動判別する手法を提案した. 48名の高齢者から採取した音声・fNIRS 同時計測デー タと臨床診断群に関して,カテゴリー想起の課題実行時 の発話音韻特徴ならびに脳血流賦活特徴を用いて専門医 療機関への受診誘導を想定した 2 段階スクリーニングの 評価実験を行った.今後の課題としては,そのほかの課 題実行時のデータを用いた検証実験,高齢者データを増 加することによる分析・推定性能の向上,ならびに音声 韻律情報による一次スクリーニング性能改善によるコス ト効果の向上,ならびに,fNIRS 判別器の二次スクリー ニングとしての要求仕様を考慮した判別アルゴリズムの 考案などがあげられる. これらの課題を解決し,次世代の認知症のスクリーニ ングツールを開発することで,地域社会に生活する高齢 者全般に認知機能チェックの機会を与えられるような仕 組みを提供したいと考えている. 謝 辞 本研究は,一部,日本医療研究開発機構(AMED) A-STEPハイリスク挑戦プログラム,医科学応用研究 財団,および科学技術振興機構(JST)先端計測分析技 術・機器開発プロジェクト,A-STEP シーズ顕在化プロ グラム,知財活用促進ハイウェイ・大学特許価値向上支 援,ならびに文部科学省科学研究費補助金(課題番号 25280100,および 25540146)の助成により行われてい る.fNIRS 測定機器を株式会社島津製作所,被検者測定 環境を浴風会病院ならびに国立長寿医療研究センター, データ測定・編集を株式会社イフコムの協力のもとで実 施している.関係各位に感謝する.

◇ 参 考 文 献 ◇

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[Villringer 97] Villringer, A. and Chance, B.: Non-invasive opticalspectroscopy and imaging of human brain function,

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2016年 3 月 17 日 受理 加藤 昇平(正会員) 1993年名古屋工業大学電気情報工学科卒業.1998 年同大学院工学研究科博士後期課程電気情報工学専 攻修了.同年,豊田工業高等専門学校助手,1999 年 同講師,2002 年名古屋工業大学講師,2003 年同助 教授.現在同大学院情報工学専攻所属,教授.博士(工 学).知能・感性ロボティクス,知識推論・計算知能, ヒューマンインタラクション,医工連携情報処理な どに興味をもつ.2006 年日本感性工学会技術賞,2010 年日本知能情報 ファジィ学会論文賞,2012 年日本感性工学会論文賞,2015 年文部科学 大臣表彰科学技術賞(研究部門)などを受賞.情報処理学会,電子情報 通信学会,日本ロボット学会,日本感性工学会,電気学会,日本認知症 学会,IEEE 各会員. 遠藤 英俊 1982年滋賀医科大学卒業.1987 年名古屋大学大学 院医学研究科修了.その後,市立中津川総合病院内 科部長.国立療養所中部病院内科医長などを経て, 現在,国立長寿医療研究センター内科総合診療部長. 医学博士.老年病専門医.著書に「認知症・アルツ ハイマー病が良くわかる本」(主婦の友社,2007)「地 域回想法ハンドブック」(河出書房新社,2007)「か かりつけ医のための認知症診療ガイド」(医薬ジャーナル社,2011)など 多数.日本老年精神医学会,日本認知症学会などの理事を務める. 本間  昭 1973年東京慈恵会医科大学卒業.聖マリアンナ医科 大学神経精神科,デンマークオーフス州立細胞遺伝 疫学研究所研究員,東京都老人総合研究所精神医学 研究部長などを経て,2009 年 6 月より認知症介護 研究・研修東京センター長.学会活動では,日本老 年精神医学会理事,日本認知症ケア学会理事長など を歴任.

著 者 紹 介

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