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フィリピンの医師から学んだ診療の姿勢

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Academic year: 2021

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仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 フィリピンの医師から学んだ診療の姿勢

1 はじめに

2018 年 11 月 4 日から 11 月 17 日の約 2 週間、フィ リ ピ ン 国 立 熱 帯 医 学 研 究 所(Research Institute for Tropical Medicine:RITM)ならびに東北大学・ RITM 新 興・ 再 興 感 染 症 共 同 研 究 セ ン タ ー (Tohoku-RITM Collaborating Research Center on

Emerging and Reemerging Infectious Diseases) に研修に行く機会を頂いた。

RITM は、感染症と熱帯病の研究と治療を目的と して、1981 年に Japan International Cooperation Agency(JICA)によって設立された施設であり、 研究棟と約50 床の病棟に加え、動物研究施設、熱 帯感染症研究トレーニングセンター等の施設を有し ている。我々のほかに、フィリピン国内外から複数 の医療従事者(主にフェロー)や研究者が感染症診 療ならびに研究にRITM に来ており、研究ならび に医師育成施設とし ての役割の大きさを 実感した。 今回の研修を通し て、熱帯ならではの 疫学を学び、日本で は 珍 し い 感 染 症 の 数 々 を 経 験 し た の で、報告する。 2 病棟研修 毎朝レジデント室で入院患者のカンファレンスが あり、前日の当番医が新規入院患者のプレゼンテー ションと入院患者の状態変化についての報告を行っ ていた。1 日の流れとしては、朝カンファレンス後 に朝回診があり、その後各々外来が、そして夕回診 が行われており、それらに参加させていただいた。 病棟は約50 床あり、西病棟(主に成人)と北病 棟(主に小児)の2つに分かれていた。各部屋のド アには感染対策の表示があり、とても明確だと感じ た。結核を有している患者が多く、回診中は表示を 確認し、適宜N95 マスクを着用した。ICU は 2 床 あり、挿管管理がなされている破傷風の患者が入っ ていた。看護師が臨床症状をもとに患者の状態を定 期的にスコアリングしており、医師が回診時に確認 していた。西病棟の奥には、鉄格子を備えた隔離部 屋があり、暴れることの多い狂犬病患者専用の病室 となっていた。

フィリピンレポート

フィリピンの医師から学んだ診療の姿勢

河野冴香 国立病院機構仙台医療センター 初期研修医 RITM のエンブレム 病棟の様子

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仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 フィリピンの医師から学んだ診療の姿勢

3 外来での研修

外来は主に、一般内科外来(General out-patient department)、 動 物 咬 傷(Animal Bite)、HIV 外 来(ARG)、皮膚科(Dermatology)に分かれており、 1 日 300 人程度の外来患者が訪れていた。そのうち 動物咬傷が1 日 140 人程度と多くを占めていた。 動物咬傷の外来では、主に看護師がWHO のカ テゴリー分類に準じて、曝露の度合いを判定し、ワ クチンならびに免疫グロブリンの投与を行ってい た。カテゴリーは1 ~ 3 に分けられ、カテゴリー 1は、動物に触れる・餌をやる・傷の無い皮膚をな められる程度の接触で、これらは暴露とはみなされ ず、ワクチンは不要とされる。カテゴリー2は、出 血を伴わないひっかき傷程度で、軽度の暴露とされ、 ただちにワクチン接種が必要とされる。カテゴリー 3は、皮膚を貫通する咬み傷やひっかき傷や傷のあ る皮膚や粘膜をなめられる程度で、重度の暴露とさ れ、ただちにワクチン接種が必要であり、暴露前ワ クチンが未接種の場合、免疫グロブリンも必要とさ れる。 一般内科外来/HIV 外来は、小部屋にテーブルと イスのセットが3 つ並べられているだけのとても 簡素な空間で、仕切りなどは一切なく、隣の診察内 容は丸聞こえで、プライバシーのなさに驚いた。し かし、それを不満としている患者は1 人もおらず、 日本ではとても考えられない状況であった。診察 は、問診と簡単な身体診察のみであったが、RITM で行える検査が限られている(血液検査項目に限り があり、CT や MRI については他院に依頼する必 要がある)点や治療費を可能な限り抑える必要があ る点から、医師は限られた診察内容から可能な限り 多くの情報を得て鑑別を行い、必要最低限の検査で 診断や治療方針を立てており、その姿にとても感銘 をうけた。私は普段、大抵の血液検査は1 時間以 内に結果を見ることができ、CT や MRI などの画 像検査も不自由なく行える恵まれた環境で診療を 行っているためか、どこか検査頼りになり、身体診 察がないがしろになっているときがあるように思 え、フィリピンの医師の診察をみて、改めようと思っ た。 皮膚科外来では、一般的な皮膚疾患に加え、ハン セン病の患者を診察することができた。日本の新規 ハンセン病患者は0~数人/ 年(そのうちほとんど は在日外国人)であり、日本で診療をみることはほ とんどできないため、とても貴重な機会であった。 RITM では 1 日に 3 ~ 4 人のハンセン病患者が診 察にきており、顔面や体幹などに多彩な皮膚症状を 認めた。 4 印象に残った症例 研修初日の当直帯で入院した狂犬病の1 例がと ても印象に残っているので紹介する。症例は36 歳 の男性で、喉の痛みを主訴に来院した。2 週間前に 子犬に噛まれているが、出血などはしていなかった ため医療機関を受診せずに様子をみていたらしく、 もちろんワクチン接種も受けていなかった。病歴か ら狂犬病が疑われ、隔離室に入院となった。翌日の 朝回診で我々ははじめて狂犬病患者をみることに 動物咬傷外来の様子 皮膚科外来の診察室

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81 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 フィリピンの医師から学んだ診療の姿勢 なったが、病棟に行くとすでに苦しそうな叫び声が 廊 下 に 響 い て お り、 と て も 衝 撃 的 で あ っ た。 Dr.Omolon が病室内に入り、ペットボトルの水を 近 づ け た と こ ろ、 患 者 は 激 し く 嫌 が り (hydrophobia)、仰いで風を送ったところ、さらに 嫌がる様子をみせた(aerophobia)。このような所 見は教科書上で知ってはいたが、実際にみることが できるのはとても貴重な経験であった。瞬く間に症 状が悪化していく患者を、家族や友人が鉄格子越し に悲しく見つめていた。患者は入院翌日に死亡し た。 RITM 周辺や休日に訪れたセブ島で、とても多く の野良犬を目にした。狂犬病は日本、英国、オース トラリア、ニュージーランド等一部の国を除いて、 全世界に分布しており、発症すれば致命率は100% である。今回、狂犬病の恐ろしさを目の当たりに し、海外に行く際は不用意に動物に近づくべきで はなく、万が一接触した場合は、ただちに医療機関 を受診してワクチンを接種する必要性を強く感じ た。たとえ可愛くみえる子犬であっても油断しては いけないと思った。 5 最後に 今回の研修では、HIV/AIDS 関連疾患(クリプトッ コッカス髄膜炎、ニューモシスチス肺炎、カポジ肉 腫等)、結核、破傷風、デング熱、狂犬病、ハンセ ン病等、日本では経験する機会の少ない様々な感染 症診療を目の当たりにし、とても実りある2 週間 となった。また、少ない情報や限られた検査の中で 診療を行っているフィリピンの医師の姿から学ぶべ きことは多く、普段の診療を見直す良いきっかけと なった。 このような貴重な経験をする機会を下さった当院 関係者の方々や、現地で2 週間指導してくださっ たDr.Omolon をはじめとする RITM の医師の方々、 また滞在のために尽力してくださったRITM の事 務職員の方々ならびに東北大学の研究拠点の方々す べてに心から感謝を申し上げ、末尾の言葉とさせて 頂く。

参照

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