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聴力推移を観察できたムンプス難聴の2症例

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仙台市立病院医誌 18,85−88,1998  索引用語 ムンプス難聴     聾

聴力推移を観察できたムンプス難聴の2症例

狩 野 茂 之,沖 津 卓 二,高 橋 由紀子

    角安雄*,中川惇**

はじめに

 ムンプス難聴は,発症時から聴力低下の進行が 急激であり,その経過を観察できることは稀であ る。今回我々は,受診時に聴力の残存があり,聾 に至るまでの経過を観察することができたムンプ ス難聴の2症例を経験したので,若干の文献的考 察を加えて報告する。 症 例  症例1  患者:36歳,女性。  主訴:両側耳下腺腫脹,左難聴  既往歴:特記事項なし。  現病歴:平成9年8月10日両側耳下腺腫脹,発 熱,左聴力低下に気付いた。同8月11日近医耳鼻 科受診,聴力検査上左耳で全周波数において50  ∋   恨 ﹀⋮ 力魂 聴、⋮ の ゜。 , で,。 医,。 前 例鵬 症 く 四 口 。佃加3。舶日6。甜8。

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晶図

1 1 1d ∼65dBの感音性難聴を認めた(図1)。同8月12 日当科外来紹介受診,聴力検査にて左感音性難聴 を指摘された。耳鏡所見,鼻鏡所見及び咽喉頭所 見において異常所見は認めなかった。同8月13日 聴力検査にて左聴力の増悪あり,以後も左聴力低 下の進行あり。眩量出現あり,同8月17日入院。 <症例1・初診時>         soe     1soe    3aoo   seee GDoe  DODO   125  25。  500  1。。0  2。。0  4。。0  8。oo  (Hz) ・20 ・10  0  10  20  30  40  50  60  70  80  90 100 110 I2o (dBHL)  図2.症例1の初診時聴力(難聴発症2日後)。 [[

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800     1500    300e   500e 6000 10000       (Hz) 図3.症例1の左聴力の日時経過。 Presented by Medical*Online

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86  <症例1>   dB

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x 4 1  2  3  4  5  6  7  8  9 病日 図4.症例1の左聴力の音域別日時経過。 <症例2・初診時>         800     1500    3000   5000 6000 10000       (Hz) ・20 −10  0  10  20  30  40  50  60  70  ee  go tOO lio 12o (dBHL)  図5.症例2の初診時聴力(難聴発症前日)。 ﹀ 旧 伊 症 く ∋ 田 …。 … … …。 ,⑩ … ㎜ … … ㊥ … … 漂 舶 発 酷 2 発 離 9

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1 酷2 醒9 競’ 醗、 ψ 醗 <症例2>   dB O 冊 40 50 ㎝ 70 聴カレペル 平均聴力の推移 低音域(125,250Hz) 中音域(500,1000,2000Hz) 高音域(4000,8000Hz) 前日 1 2  3 4  5  6 7 8 9  病日 図7.症例2の左聴力の音域別日時経過。 同8月18日聴力検査上左聾となった。  検査結果:初診時聴力(発症2日後)では,右 聴力は正常であった。左聴力は高音域,低音域い ずれも著明に低下しているが,低音域においてや や強い障害を認めた(図2)。左聴力の経過を観察 すると,発症後日時の経過とともに急激な聴力低 下を示した(図3)。左聴力を音域別に経過観察す ると,発症直後は高音域が最も残存していたが,急 激な聴力低下を示し比較的早期に聾に至った。そ れに比べ低音域はより緩やかに聴力が低下し,高 音域より遅れて聾に至った(図4)。

 治療経過:8月12日より8月24日までATP

40mg/day,ネオラミン3BIA/dayによる点滴療 法を施行した。炎症の増悪を考慮し,当初からの ステロイド投与は行わなかった。8月21日(難聴 発症10日目)よりソルコーテフ200mg/dayによ る点滴療法を5日間行った。これらの治療経過に おいて聴力の改善傾向は全く認めなかった。  症例2  患者:37歳,女性。  主訴:両側耳下腺腫脹,右難聴  既往歴:特記事項なし。  現病歴:平成6年8月20日両側耳下腺腫脹,発 熱出現。同8月22日右聴力低下,眩量出現。同8 月25日近医耳鼻科受診,聴力検査にて右聾と言わ れた。同8月26日当科外科紹介受診,聴力検査に て右聴力は聾であった。耳鏡所見,鼻鏡所見及び 咽喉頭所見において異常所見は認めなかった。同 8月27日左聴力低下出現。眩量増悪にて入院。以 Presented by Medical*Online

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後も左聴力低下の進行あり。同9月5日聴力検査 上左聾となった。  検査結果:初診時聴力では,右聴力は聾であり, 左聴力は正常であった(図5)。左聴力の経過を観 察すると,症例1と同様に,日時の経過とともに 急激な聴力低下を示した(図6)。左聴力を音域別 に経過観察すると,低音域では緩やかに聴力低下 が進行し聾に至っているが,高音域ではより急激 な聴力低下が認められ,より早期に聾に至った(図 7)。  治療経過:8月26日(左難聴発症前日)より9 月6日までソルコーテフ200mg/day, ATP 40 mg/day,ネオラミン3BIA/dayによる点滴療法 を施行した。発症前からの治療開始にもかかわら ず,聴力の改善傾向は全く認めなかった。 考 察  ムンプス難聴は,大多数の患者において一側性 の高度な急性感音難聴として発症し,聾に至る非 可逆性の難聴として知られている。一般にその発 症年齢は学童期以前がほとんどであり,野村ら1) の報告では49例中34例(69.4%)が15歳以下で あったとしている。また性差については一般にな いとされている。その発生頻度はEverbergら2) によるとムンプス罹患者中0.005%で発症すると 推定しており,我が国においても西岡ら3)がムン プス罹患者約1万8千人に1人(0.0056%)と報告 している。ムンプス難聴は一般に一側性であり,大 島ら4)のように28例中4例(14%)の両側罹患例 の報告もあるが,両側性のものは極めて稀とされ ている。今回我々は両側羅患例1例(症例2)を経 験したが,片側性難聴発現後比較的早期にステロ イド投与を開始しており,このことが免疫力の低 下をもたらし反対側の難聴を惹起したという可能 性も否定できない。しかしながら一側性及び両側 性難聴の発現機序の差については現在のところ明 らかな確証はなく,今後の研究報告が待たれると ころである。  ムンプス難聴の内耳の病理組織学的研究におい てはLindsayら5)による報告があるが,これによ ると内耳病変の主体は蝸牛の血管条・コルチ器の 87 変性・萎縮である。これは内リンパ性迷路炎(endo lymphatic labyrinthitis)と呼ばれるものであり, 病原体であるムンプスウイルスが血行性に血管条 に至り炎症変化を起こし,内リンパ腔にまで及ぶ ために起こるものであると考えられている1・6)。今 回我々が経験したムンプス難聴2症例は,いずれ の症例においても低音域に比して高音域における 障害の程度がより急激であると考えられた。立木 ら7)によると,同様の経過をたどった3症例を提 示したうえで,蝸牛の病変が高音域(基底部)か ら低音域(頂部)に向かって急激に進行するので はないかと推察している。前述のLindsayらの報 告によると,血管条・コルチ器の変性は蝸牛の中 上部から頂部に比べ基底部において病変の程度が より強いとされている。このことは,我々や立木 らの推論を考えるうえで病理組織学的に大きな根 拠になり得るものと思われる。  ムンプス難聴の治療は一般に突発性難聴に準じ て行われていることが多く,今回の我々の症例の 様にステロイドやビタミン剤の点滴療法がその中 心である。しかしながらこれらの治療はほとんど 無効であり,現在のところ確実に有効といえる治 療法はない。岡本ら8)によるとガンマグロブリン 製剤の点滴療法(2,500 mg/day,3日間)により難 聴が改善した1例を報告している。ガンマグロブ リン製剤の投与がステロイド投与に比べより有効 であるという明らかな確証はないが,我々の症例 2の様なステロイド投与による症状増悪の危険を 考慮すると,ガンマグロブリン製剤の早期からの 投与や,ステロイド及びガンマグロブリン製剤の 併用療法は,難聴改善を期待するのみでなく,難 聴の進行や他側の発症を防止する意味で今後施行 されるべきかと考える。  前述のように,ムンプス難聴に対する治療効果 はほとんど期待できないため,予防が重要といえ る。予防についてはMMRワクチン,おたふくか ぜワクチンの接種が勧められているが,1989年頃 よりワクチンの副作用による髄膜炎が問題となっ ている9)。さらなる問題として,古賀ら1°)による と,MMRワクチン接種によって起こるとみられ る難聴が世界的にみても数例と極めて低頻度なが Presented by Medical*Online

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88 ら存在すると報告されている。以上を考慮したう えで我々は,小児の一側性高度難聴でムンプスの 既往のない症例に対して,比較的安全とされてい るおたふくかぜワクチンの予防接種を勧めてい る。今後のワクチン接種の在り方として,その必 要性を考えたうえでさらに安全性にっいても考慮 されなけれぼならず,今後十分な検討並びに研究 が期待される。 ま と め  ①聴力推移を観察できたムンプス難聴2症例 を報告した。  ② ムンプス難聴2症例のいずれも急激な進行 性の聴力低下をきたし,聾に至った。  ③臨床経過及び病理組織学的見解から,低音 域に比べ,高音域の聴力障害の方がより急激に進 行すると推察された。  ④現在のところムンプス難聴に対して明らか に有効と考えられる治療法はない。  ⑤ ムンプス難聴に対してはワクチン接種によ る予防が重要であると考えられるが,その安全性 についても十分な検討・研究が必要である。   47,1988 2) Everberg G:Deafness following mumps.   Acta Oto−Laryngologica 48:397−403,1957 3) 西岡出雄 他:ムンプス難聴の発生頻度と臨床   {象 日耳鼻88:1647−1651,1985 4) 大島弘至 他:流行耳下腺炎性聾の臨床的観察.   日耳鼻59:/351−1362,1956 5) Lindsay JR et al:Histopathology of deafness   due to postnatal viral disease. Arch otolaryn−   gol 98:258−264,1973 6)村上嘉彦:ムンプス難聴.JOHNS Vol.10:929−   934,1994 7)立木 孝 他;発症から聾になるまでの聴力推   移を観察し得たムンプス聾の3症例.厚生省特定   疾患急性高度難聴調査研究班 平成元年度研究   業績報告書.135−137,1990 8)岡本牧人 他:ムンプスによる感音難聴一ろう   でない症例について一.日耳鼻88:616−625,   1985 9)村瀬敏郎 他:おたふくかぜワクチンとMMR   ワクチン.小児科臨床43一増刊号:2564−2572,   1990 10)古賀慶次郎他:MMR予防接種後に起こった   両側急性高度難聴.厚生省特定疾患「急性高度難   聴」調査研究班 平成元年度研究業績報告書.   141−143, 1990 文 献 1)野村恭也 他:ムンプス難聴.耳鼻臨床81:41一 Presented by Medical*Online

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