【 論
文 】
片付けごみを仮置場以外で排出する要因の検討
―― 平成 30 年 7 月豪雨の倉敷市の事例より ――
多 島
良 * ・ 森 嶋 順 子 *
【要 旨】 本研究は,家の中の片付けに伴う災害廃棄物 (以下,片付けごみ) が仮置場以外に排出され, 災害廃棄物の処理に支障をきたすことを予防することに向け,仮置場以外に排出する被災者の行動実態 とその要因を明らかにすることを目的とした。ごみ出し行動等に関する既往研究と,災害廃棄物処理事 例の既報を参考に,距離,広報内容の理解,車両の確保,自宅前の道路幅員,発生量,記述的規範の 6 要因が影響すると想定した。平成 30 年 7 月豪雨で被災した倉敷市民を対象としたアンケート調査,多 項ロジスティック回帰分析を含む調査結果の統計解析等の結果,仮置場が自宅から遠くに設置され,片 付けごみを運搬するための車両が確保しにくく,広報により排出場所が理解できない場合に,仮置場以 外への排出が促進されることなどが明らかとなった。これらの結果をふまえ,被災が想定される地域に まんべんなく仮置場候補地を確保することなどの事前準備について示唆を得た。 キーワード:災害廃棄物,ごみ出し行動,平成 30 年 7 月豪雨,倉敷市,多項ロジスティック回帰分析1.研究の背景と目的
災害が発生すると,家の中の片づけに伴う災害廃棄物 (以下,「片付けごみ」) が多く発生する。片付けごみは, 災害廃棄物を集積,分別,保管等するために自治体が一 時的に設置・管理する場所である一次仮置場 (以下, 「仮置場」) に被災者が持ち込むことが基本とされてい る1)が,実際には仮置場以外の場所にも排出され,市中 に片付けごみがあふれる事態が多くの災害で生じている。 たとえば島岡らは,2000〜2008 年の間に発生した水害 廃棄物発生事例の調査から,自治体による仮置場の設置 が遅れると住民が独自に設置した集積場所に廃棄物が排 出される課題を指摘している2)。こうした課題はより最 近の災害事例でも認識されている。関東・東北豪雨で被 災した常総市では,ごみ集積所や地域の自治会がやむを えず指定した場所等の仮置場以外の場所に一部の片付け ごみが排出された3)。平成 29 年九州北部豪雨で被災し た朝倉市においても,当初は想定していなかった地域ご との集積場所が 50 か所程度発生し,処理の負担となっ た4)。平成 30 年 7 月豪雨においても,自治体指定の場 所とは違う「勝手仮置場」が多数発生しており5),特に 本研究の対象である倉敷市では至る所に排出された片付 けごみの撤去が発災初期の最大の課題であったと報告さ れている6)。こうした排出の帰結として,渋滞を引き起 こして緊急車両の通行に支障をきたし6),災害に起因し ない廃棄物 (通称「便乗ごみ」) の排出が誘発される7) ことが知られている。また,片付けごみに付着した汚 水・泥や片付けごみの腐敗により,悪臭・害虫等が発生 し公衆衛生を悪化させることもある8)。さらに,平時の ごみ出しに使用している集積所での排出は,片付けごみ と通常ごみが混ざることで収集・処理の効率が下がり, 問題であることも報告されている3)。このため,仮置場 以外に片付けごみが無秩序に排出され,市中にあふれる 事態は可能な限り予防すべきである。しかしながら,被 災者視点では仮置場以外に排出せざるをえない状況があ ることも指摘されており9),普及啓発のみで事態が大き く改善するとは考えにくい。このため,仮置場以外に排 出する被災者の行動実態とその要因を詳細に理解し,そ の要因に応じた対策を立てる必要があると考えられる。 しかし,実際の排出者であった被災者の行動実態を把握 原稿受付 2020. 8. 6 原稿受理 2021. 1. 27 * (国研)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 連絡先:〒 305-8506 茨城県つくば市小野川 16-2 (国研)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 多島 良 E-mail : [email protected]した研究はほとんど見当たらない。千崎ら10)は水害の被 災世帯へのアンケート調査より片付けごみの排出過程モ デルの構築に取り組んだが,排出行動の要因は検討され ていない。浅利ら11)は災害廃棄物に関する被災者の意 識・行動を調査しているが,片付けや分別への意識と, 行動の情報源に着目したものであり,仮置場以外の場所 への排出については検討されていない。 そこで,本研究では,災害初動期において意図せず仮 置場以外の場所へ片付けごみが排出される事態を防ぐた め,被災者が片付けごみを仮置場以外で排出する要因を 明らかにする。
2.研究の枠組み
2. 1 片付けごみ排出先を規定する要因に関する仮説 環境配慮行動を規定する要因とその構造に関する研究 は多く,たとえば松井ら12)によるごみ分別行動の規定因 の検討等が存在する。これらの研究は,広瀬が提案した 環境配慮行動の規定因モデル13)や,その基となっている Ajzen の計画行動理論14)(およびその派生形) に立脚し, 規定構造の仮説を設定したうえで,データにより実証し ている。こうした研究を横断的にレビューした Steg ら15)の整理では,規定因の種類として態度,規範,情緒 等の意図にかかわる要因 (motivational factors),状況 にかかわる要因 (contextual factors),習慣にかかわる 要因 (habitual factors) が指摘されており,想定する行 動によっては意図にかかわる要因よりも状況にかかわる 要因のほうが強く影響することが示唆されている。災害 時の行動について事後的にその規定因を解析する本研究 では,①行動に先行する意図要因は事後的な測定が困 難である (たとえば,態度の影響を検討するには,片付 けごみの排出行動前の態度を知る必要があるが,実際に とった片付けごみ排出行動に起因して当初の態度が変化 すると考えられるため,事後的に行動前の態度を把握す ることが難しい),②災害時という切迫した状況下では 状況要因のほうが支配的と考えられる,③解析の精度 を高めるために説明変数を絞るべき,という 3 つの理由 から,状況要因を中心に特に検討に値すると理論的に考 察できる要因にのみ着目することとした。 検討する具体的な要因は,災害廃棄物処理事例の既報, ごみ出し行動の既報,不法投棄・ポイ捨ての要因に係る 既報を参考に,表 1 に示す 6 要因とした。まず,近い排 出場所のほうが利用されやすく,遠くに設置された仮置 場には排出されにくくなると想定されることから,排出 場所までの距離 (以下,「距離」) を要因と考えた。既往 研究でも,リサイクル施設との距離が近いほど,その利 用が向上することが明らかとなっている16)。同様に, Lange ら17)もリサイクル施設との距離に着目し,物理的 な距離よりも認知した距離がリサイクル参加に強く影響 していることを示した。次に,上村4)が指摘するように, 自治体の周知のタイミングと輸送車両の保有状況と被災 状況も影響すると想定される。前者について,片付けご みの排出場所・方法は平時のごみ出しとは異なったルー ルの下で行われることから,広報が影響することは想定 できる。本研究では,タイミングではなく広報により排 出場所を理解できたか (以下,「広報理解」) を要因と考 えた。後者については,片付けごみに含まれる藁製の畳 は,水分を含むことで 1 畳あたり 38 kg 程度の重量にな 表 1 本研究で検討する仮置場以外に排出する要因 要 因 想定される影響 測定用の設問 * 状況要因 距 離 仮置場が遠いと,仮置場以外に排出する 「災害ごみを出す場所までの距離は無理せずに通える範囲 (車で 10 分以内) だった」 広報理解 (仮置場に排出するべきとの)広報が理解されないと,仮置 場以外に排出する (市の出した案内への評価とし て)「どこに災害ごみを出せばよ いかわからなかった」 車両確保 車両が確保しにくいと,仮置場以外に排出する 「災害ごみを十分に運ぶことのできる車を用意できた」 道路幅員 自宅前の道路が広いと,仮置場以外 (自宅前) に排出する 「自宅の前 (敷地外) に,災害ごみを置いておく十分なスペース があった」 発 生 量 量が多いと,仮置場まで運びきれず仮置場以外に排出する 軽トラック約何台分の災害ごみを出したか (実数記入) 意図要因 記述的規範 周囲が指示を守って仮置場に排出していないと,同調して 仮置場以外に排出する 「近隣の人たちは,市の指示を 守って災害ごみを出していた」 * 「発生量」以外はいずれも 5 件法 (「とてもそう思う」「どちらかというとそう思う」「どち らともいえない」「どちらかというとそう思わない」「全くそう思わない」) で賛同の程度 を尋ねたるとの報告18)があるように,重量のある片付けごみを遠 方まで手で運ぶことは現実的ではなく,運搬手段の確保 は必須となる。車両の保有と被災状況を両方加味して, 片付けごみを運搬するための車両の確保がどの程度可能 だったか (以下,「車両確保」) を要因と考えた。また, 自宅前道路の幅員が十分にある場合に,自宅前への排出 が促進されると考えた (以下,「道路幅員」)。 これらの他,ごみのポイ捨ての抑制方法について検討 した既往研究で先行ごみを除去することが有効と指摘さ れている19)ことを参考に,「記述的規範」(観察された他 者の行動が,自分が行うべき行動と考える規範) も影響 すると考えた。周囲の他者がルールを守っていれば,自 分もルールを守る (逆もしかり) という想定である。な お,規範は意図要因に含まれると整理される15)が,記述 的規範は周囲の他者がどのような行動をとっていたかの 認識であり,事後的にも把握することは可能と考え,検 討する要因に含めている。最後に,実際に排出した片付 けごみの量 (以下,「発生量」) も要因と考えた。発生量 が多い程,仮置場まで運ぶことが困難になると考えられ る一方,発生量が多い程,排出行動をより多く行うため 次第に適切な排出に変わるとも考えられ,影響の仕方に ついては明確に想定できなかった。発生量については, 軽トラックの荷台に片付けごみが積載されている写真を 提示し,何台分に相当する量を排出したかを尋ねた。 以上の 6 要因のうち,「距離」と「広報理解」につい ては発災後の市による対応に応じて決まる状況要因であ り,事前準備によってその影響をコントロールできるも のである。「記述的規範」は意図要因,「車両確保」,「道 路幅員」,「発生量」は個人的な状況要因であり,自治体 がその状況を直接変えることは難しいが,その影響につ いて理解しておくことは発災後の対応方法に示唆を与え る。なお,これら 6 要因の背景には,ボランティア等に よる片付けごみの排出支援の有無,年齢 (特に高齢世帯 か否か),情報へのアクセス性等の間接的な要因が影響 することも考えられる。本稿では,災害時の片付けごみ 排出行動を直接規定する要因をまずは検討することとし, これらの背景要因を含めたマルチレベルモデルや共分散 構造分析による検討は今後の課題とする。 2. 2 事例の選定 本研究では,仮置場とそれ以外の場所に実際に廃棄物 が排出された水害事例のうち,多量の災害廃棄物が排出 された事例として,平成 30 年 7 月豪雨における岡山県 倉敷市を選定した。倉敷市では,小田川を含む複数の河 川の堤防決壊・損傷により,真備町を中心に約 1,200 ha が数日間にわたって浸水した。浸水深は,最大で 5 m 程度と推計されている。その結果,59 人の命が奪われ, 5,977 棟の住家が被害を受けた (うち 4,646 棟が全壊判 定) 20)。災害廃棄物等の発生量は約 35 万 ton,うち片 付けごみが約 9.7 万 ton と推計されている21)。35 万 ton という規模は,平時に同市が 1 年で処理している一般廃 棄物の約 2 倍の量であり,近年の水害の中で特に大量の 災害廃棄物等が発生した事例である22)。 倉敷市における片付けごみへの初動対応について,文 献調査と担当行政職員へのインタビューを行なった (イ ンタビュー日:2019 年 4 月 24 日)。大瀧9)によれば,比 較的浸水深の浅かった地区では 7 月 8 日 (日) 早朝に水 が引いており,7 月 9 日 (月) にはごみ集積所周辺の空 きスペースに片付けごみの排出が始まっていた。さらに, 他の地区においても水が引き,本格的に片付けごみの排 出が始まったのは翌 10 日 (火) からであった。倉敷市 としては,7 月 9 日 (月) に吉備路クリーンセンター横 の多目的グラウンド (約 1.1 ha) を,翌 10 日 (火) に はマービーふれあいセンター (約 1.1 ha) を仮置場とし て開設し,その後も被災した小中高等学校のグラウンド 等を順次,仮置場として開設していった。片付けごみを 持ち込む車両が押し寄せたため,たとえば吉備路クリー ンセンターでは搬入待ちの車両が 2 km にわたり渋滞し た9)。仮置場への排出が本格化する状況と並行し,仮置 場以外の場所への排出も進んだ。国道 486 号線沿いには 全長約 2 km にわたり片付けごみが積みおかれ,2 車線 道路の 1 車線がふさがった9)。その他の幹線道路や鉄道 高架下にも数百 m〜数 km にわたり片付けごみが排出 される場所が 10 か所以上発生した (インタビューより)。 また,一部地域では狭隘な生活道路にも片付けごみが排 出されていた23)。こうした状況も加味し,本来は仮置場 への持ち込みが原則となるが,倉敷市は仮置場への持ち 込みを基本としつつ,自宅周辺の空き地等への持ちだし を認める方針とした24)。 7 月 9 日 (月) 時点の NHK の字幕放送では,災害ご みはできるだけ持込施設に搬入し,家の前に出す場合は, 一般廃棄物対策課へ連絡するよう案内されていた一方で, 市のホームページや災害臨時広報では,家の前・ごみ集 積所回り・空きスペースに交通の支障にならないよう排 出する旨が案内されており,広報媒体によって内容が異 なっていた。 なお,国道 486 号線沿い等の仮置場以外の場所に排出 された片付けごみは,自衛隊や応援自治体等の特別収集 により撤去され,8 月 25 日 (土) にその撤去が完了し た時点で,家の前や空きスペースへの排出が禁止され た9)。
2. 3 研究の方法 発災当時における片付けごみの排出行動の実態と,関 連する当時の状況について,倉敷市真備町の被災者に対 してアンケート調査を行なった。多量の片付けごみを排 出したと想定される世帯を対象に効率的に調査票を配布 するため,郵便局の配達地域指定郵便物によるポスティ ング調査とした。配布対象地区は,図 1 のとおり浸水の 程度が著しかった真備町川辺,真備町岡田,真備町辻田, 真備町有井,真備町箭田の 5 地区とし,3,509 世帯に対 して配布した。2019 年 5 月 25 日に調査票の配布を開始 し,7 月 2 日までに到着した 988 の調査票を検討対象と した。回収率は 28.2 % であった。調査の実施は,(株) サーベイリサーチセンターに委託した。なお,住民基本 台帳データによれば,調査対象とした 5 地区において被 災直前の 2018 年 6 月末から調査票配布時の 2019 年 6 月 末の間で世帯数が 6,226 世帯から 5,432 世帯へと約 13 % 減少していたものの,このことは分析に影響しないと考 えた。 調査項目は,①平成 30 年 7 月豪雨災害における片付 けごみの出し方に関すること (排出場所,片付けと排出 の時期,避難生活の時期,排出量,ボランティアへの支 援依頼状況),②片付けごみを出した時の状況の認知 (表 1 の各項目),③片付けごみの出し方・分別で困っ たこと (自由記述),④災害廃棄物の出し方に関する情 報の受け取り方 (情報取得媒体) と内容の認知 (理解や 賛同の程度),⑤属性項目 (年代,性別,家族構成,居 住形態,建物被害状況,当時の停電・通信遮断の状況), ⑥その他の調査項目 (分別状況,災害廃棄物の分別排 出への態度,普段のごみ分別行動,他) で構成される合 計 25 項目であった。なお,調査票の案内文において, 災害廃棄物のうち被災した自宅を片付けて出たごみ (= 片付けごみ) の状況について尋ねていることと,平成 30 年 7 月豪雨で片付けごみを出さなかった場合は調査 対象外であり質問票を破棄してほしい旨を明記した。 2. 4 分析方法 排出の実態を明らかにするため,排出の時期,場所, 量について基本統計量を整理した。そのうえで,2. 1 に 整理した諸要因を説明変数とし,仮置場以外への排出を 説明する回帰分析を行った (回帰分析の詳細については 4. 1 に詳述)。最後に,統計分析の結果,自由記述式設 問への回答結果,倉敷市における初動対応の実態把握結 (出典:国土地理院25)に著者加筆) 図 1 倉敷市真備町の浸水域と調査対象地域 (黒破線),仮置場 (黒丸),その他の主な片付けごみ排出場所 (黒四角)
果を総合し,排出場所の規定因と仮置場以外への排出を 抑制する対策について考察した。なお,以下の各種統計 処理は R (ver. 3. 6. 1) を用いて行なった。
3.片付けごみの排出実態
3. 1 分析対象とした回答者の属性 事例における片付けごみの排出実態を把握するために 用いたサンプルについて,回答者の属性情報を表 2 に示 す。性別は男女で大きな偏りはなかったが,年代は 60 代が 22.3 %,70 代が 31.8 %,80 代以上が 4.96 % と,比 較的高い年代からの回答が多かった。被災直前の統計 (2018 年 6 月末現在)26) では,真備町全体で 20 代以下 が 25.8 %,30 代が 10.0 %,40 代が 14.1 %,50 代が 10.3 %,60 代が 15.5 %,70 代が 15.7 %,80 代以上が 8.75 % という年代分布であったことに照らすと,20 代以下の 年代以外はおおむね母集団と近い分布の回答が得られた といえる。居住形態はほとんどが一戸建てであり,集合 住宅に居住する回答者は 2.12 % であった。建物被害の 観点では 82.5 % が全壊と多いが,倉敷市全体の全被害 棟数 5,977 棟の約 78 % にあたる 4,646 棟が全壊判定を 受けていることから,市内の状況を把握するうえで被害 状況の観点から大きな偏りのないサンプルが得られたと 理解できる。 3. 2 対象事例における片付けごみ排出実態 3.2.1 排出時期 国土地理院地図25)によれば,7 月 8 日 (日) 14 時時点 では真備町のほぼ全域,9 日 (月) 12 時で真備町の約半 分が浸水しており,10 日 (火) 14 時でおおむね浸水が 収まっていた。片付けごみの排出日を複数回答で尋ねた 結果を図 2 に示す。水が引きはじめた 8 日 (日) には約 11 %,翌 9 日 (月) には約 40 %,その 2 日後の 11 日 (水) には約 63 % の被災者が片付けごみの排出を開始 しており,その後は少なくとも 15 日 (日) までは前日 と比較して排出している被災者の割合の増減率が 5 % 以内であり,同程度の割合の被災者が排出していたこと がわかる。すなわち,水が引きはじめてから 3 日後には 排出はおおむねピークに達していたと理解できる。10 日 (火) からは排出が本格的に始まったとする大瀧9)の 観察した傾向とおおむね一致していたが,実際には 1 日 前の 9 日 (月) の時点で多くの被災者がすでに排出を始 めていた実態がわかった。 次に,図 3 に片付けごみの排出を開始した回答者の割 表 2 回答者の属性 設 問 選択肢 回答数 割合 (%) 性 別 男性 557 56.4 女性 417 42.2 無回答 14 1.42 年 代 20 代以下 6 0.61 30 代 71 7.19 40 代 181 18.3 50 代 136 13.8 60 代 220 22.3 70 代 314 31.8 80 代以上 49 4.96 無回答 11 1.11 居住形態 一戸建て 954 96.7 集合住宅 21 2.12 その他 4 0.40 無回答 9 0.91 建物被害 全壊 815 82.5 大規模半壊 103 10.4 半壊 34 3.44 一部損壊 14 1.42 その他・不明 12 1.21 無回答 10 1.01 図 2 片付けごみ排出者割合の推移 (n=941) 図 3 片付けごみの排出を開始した被災者の割合の推移合 (実線) と,片付けを開始した回答者の割合 (破線), 避難中の回答者の割合 (点線) の推移を示した。避難者 の割合は,避難したすべての日を複数回答で尋ねた結果 から算出した。まず,排出のピークを初めて迎えた 7 月 11 日 (水) の時点では全体の約 75 %,その 3 日後の 14 日 (土) に約 92 %,7 月末にはほぼすべての被災者が 排出を開始していたことがわかる。また,片付けを開始 した被災者の割合の推移と,片付けごみの排出を開始し た被災者の割合の推移を比較すると,前者のほうが早く 高い割合に達しており,たとえば 90 % に達するまでの 日数を比較すると 2 日程度の差があった。さらに,避難 者の割合は発災直後の約 70 % から 7 月末の約 50 % ま で緩やかに減少していたことがわかる。被災者の半分以 上は,避難先から被災した自宅に通いながら片づけ作業 や片付けごみの排出を行なっていたことがわかる。 3.2.2 排出場所 倉敷市は真備町内 7 か所とそれ以外の地域に 5 か所の 合計 12 か所 (合計約 15.2 ha) に仮置場を開設し,災害 廃棄物を受け入れた21)。これ以外に,自宅前,ごみ集積 所周り,国道 486 号線沿いを含む道路端,鉄道高架下等 の空きスペースへの排出があったことが報告されている。 そこで,本調査の対象者が実際に排出した可能性が比較 的高い場所として,倉敷市の一般廃棄物処理施設 (倉敷 環境センター,水島環境センター,児島環境センター, 玉島環境センター,水島清掃工場,倉敷西部清掃工場, 東部埋立事業所),真備町内の仮置場 7 か所 (TSS1:吉 備 路 ク リ ー ン セ ン タ ー,TSS2:真 備 浄 化 セ ン タ ー, TSS3:マービーふれあいセンター,TSS4:真備中学校, TSS5:真備東中学校,TSS6:真備綾南高校,TSS7: 呉妹小学校) と,自宅前,ごみ集積所周辺,地域の広場 等の空きスペース,自宅前以外の道路端,その他を選択 肢として,排出した場所のすべてと,最も多く排出した 場所一つを回答してもらった。 図 4 に,一度でも排出した場所と主に排出した場所の 集計結果を示した。なお,一般廃棄物処理施設の選択率 はいずれも 2 % 以下と低かったため,図では表記を省 いた。「その他」の内容の自由記述には,「自宅の敷地」 等が含まれていた。まず,最も多くの被災者が利用した 排出場所は TSS1 (吉備路クリーンセンター) と TSS3 (マービーふれあいセンター) であり,いずれも 50 % 以上の被災者が利用していた。排出がピークを初めて迎 えた 11 日 (水) 時点で真備町に開設されていた仮置場 はこれらの 2 か所であり,同日には片付けごみの排出場 所として SNS 等で周知されたためであると考えられる。 この他にも,TSS5 (真備東中学校) の利用も比較的多 かった。TSS2 (真備浄化センター) と TSS4 (真備中学 校) は少なくとも一度排出した被災者は 10 % 程度いた が,主な排出場所とした回答者はいずれも 1 % 程度と 低かった。仮置場以外の場所については,自宅と道路端 に 30〜40 % の回答者が少なくとも一回は排出しており, 主 な 排 出 場 所 と し た 人 の 割 合 も 高 く,TSS1 お よ び TSS3 と同水準であった。ある場所に排出した人々のう ち,その場所を主な排出場所としていた回答者の割合は, 道路端が最も高く 43 %,続いて空きスペースが 38 %, 自宅前が 35 % であった。仮置場では,TSS1,TSS3, TSS5 がそれぞれ 30,30,35 % と比較的高かった。
4.排出場所の決定要因
4. 1 分析の方法 倉敷市において被災者が片付けごみを排出した主な場 所 (3.2.2 で示した 7 か所の「仮置場」,「自宅前」,「ご TSS1:吉備路クリーンセンター,TSS2:真備浄化センター,TSS3:マービーふれあいセンター, TSS4:真備中学校,TSS5:真備東中学校,TSS6:真備綾南高校,TSS7:呉妹小学校 図 4 各排出場所の利用割合み集積所周辺」,「地域の広場などの空きスペース」,「自 宅前以外の道路端」) のうち,「自宅前」と「ごみ集積所 周辺」は,被災家屋からの距離が近い,面積が小さい, 排出の匿名性が低い,管理されていないという点で排出 場所としての特徴が類似しているため,「自宅前・集積 所」として統合できると考えた。同様に,「地域の広場 などの空きスペース」と「自宅前以外の道路端」は,浸 水地域内に存在したことから,平均的にみると被災家屋 からの距離が「仮置場」より近くて「自宅前・集積所」 よりも遠く,面積は大小さまざま,排出の匿名性が高い, 管理されていないという点で特徴が類似しているため, 「空き地・道路端」として統合できると考えた。「仮置 場」は,平均的にみると被災家屋からの距離が最も遠く, 面積は大小さまざま,排出の匿名性が低く,管理がある という特徴がある。これら 3 種類の場所のいずれに排出 するかを決定する要因を明らかにするため,「排出場所」 を 3 カテゴリの名義尺度目的変数,表 1 に示した 6 要因 をそれぞれ説明変数とする多項ロジスティック回帰分析 を行なった。「排出場所」は,3.2.2 で示した「主な排出 場所」のうち倉敷市災害廃棄物処理実行計画で一次仮置 場として記載されていた TSS1〜7 を「仮置場」,自宅前 と集積所を「自宅前・集積所」,空きスペースと道路端 を「空き地・道路端」とコード化して得た。なお,排出 場所として倉敷市の一般廃棄物処理施設を選択したサン プルと無回答のサンプルは以降の分析から除外した。ま た,「広報理解」の影響を解析するため,設問の中で 「市からの広報を受け取っていない」を選択したサンプ ルと,「広報理解」を尋ねた設問に回答がなかったサン プルについては,解析対象から除外した。これは,「広 報理解」を尋ねる設問文で「なお,市からの情報を何も 受け取らなかった方は,本設問をとばし,問 3−1 にお 進みください」と記載したため,市からの情報を受け 取った覚えのない回答者が設問を飛ばした可能性がある ためである。 そのうえで,目的変数と 6 つの説明変数に対する回答 の欠損割合を把握したところ,「排出場所」が 0 %,「距 離」が 1.9 %,「広報理解」が 0 %,「記述的規範」が 2.8 %,「車両確保」が 1.3 %,「道路幅員」が 1.4 %,「発生 量」が 6.4 % であった。いずれも低い値を示したため, リストワイズ除去により最終的な分析用データセットを 作成した。 各カテゴリの生起数は「仮置場」=300,「自宅前・集 積 所」=116,「空き地・道路端」=160 で あり,ロジ ス ティック回帰分析を行う際には最小カテゴリの生起数が, 説明変数の数 k に対して少なくとも 10×(k+1) が必要 であるとの指摘27)を満たしている。本研究では,p 1が 「仮置場」に,p2が「自宅前・集積所」に,p3「空き地・ 道路端」に排出する確率とし,式(1)に示す 2 つのロ ジット式により,R の nnet ライブラリ (ver. 7.3-14) に含まれる multinom 関数を用いてパラメータを推定し た。 log
p p1
=β0+β1x1+β2x2+β3x3+β4x4+β5x5 +β6x6, j=2,3 ( 1 ) ここで,x16は各説明変数,β16はカテゴリ j に関す る偏回帰係数である。β1は exp(β1) とすることで,x1 以外を固定しつつx1を 1 単位変化させたときのオッズ比 p/p1の平均的な変化を示す。たとえば,exp(β)は,説 明変数 x2:「広報理解」が 1 単位増加した時の「仮置 場」への排出確率と「空き地・道路端」への排出確率の 比を示しており,β>1 でより「空き地・道路端」に, β<1 でより「仮置場」に排出する可能性が高くなると 理解できる。 モデルの適合度を確認するため,一定モデル (logp /p1= β0) と本研究のモデル,式 (1) の対数尤度 (デー タとのあてはまりの良さ) が等しいという帰無仮説を検 定する尤度比検定28)を行なった。また,説明変数に連続 値を含む 2 項ロジットモデルについて,予測値と観測値 の比較から適合度を確認する Hosmer-Lemeshow 検定 を,多項ロジスティック回帰分析に拡張した一般化 Hosmer-Lemeshow 検定29)も行なった。さらに,ロジス ティック回帰モデルにおける決定係数として一般的であ る27)McFadden の疑似決定係数も調べた。 4. 2 分析に用いる説明変数の記述統計 仮置場以外に排出する要因に対する回答結果について, 回答数や平均値を含む基本統計量を表 3 に示す。「発生 量」は軽トラックの台数で換算して回答してもらったが, 右裾の長い偏った分布となった。このため,以降の分析 では対数変換した値を用いることとした。また,回帰分 析にあたっては,説明変数間で偏回帰係数の比較を容易 にするため,平均=0,分散=1 に標準化した値を用い た。 表 3 説明変数の基本統計量 説明変数 n 平 均 標準偏差 歪 度 尖 度 距 離 576 3.95 1.25 −1.09 0.102 広報理解 576 2.83 1.43 0.156 −1.34 記述的規範 576 2.89 1.23 −0.077 −0.896 車両確保 576 3.17 1.48 −0.268 −1.38 道路幅員 576 2.85 1.44 0.127 −1.39 発 生 量 576 2.98 0.953 −0.001 0.576説明変数間の相関関係 (スピアマンの順位相関係数) を表 4 に示す。「距離」と「車両確保」が 0.313 と最も 大きい相関係数を示したが,強い相関ではなく,他の説 明変数も絶対値が 0.3 未満と低かった。多重共線性を確 認するために VIF を算出したところ,値は 1.23〜1.63 の範囲にあり,注意を要する目安である VIF=1022)より も低いことが確認された。 4. 3 解析結果 表 5 に,式(1) に基づく推定結果を示す。尤度比検定 の結果,p=2.2e-16 であり,式全体として 0.1 % 水準で 有意であることが確認された。また,一般化 Hosmer-Lemeshow 検定の結果は p=0.897 と有意ではなかっ たため,観測値と予測値が異なるとはいえない。さら に,McFadden の 疑 似 決 定 係 数 は 0.12 で あ っ た。 McFadden の疑似決定係数は,目的変数が量的変数の 場合に算出する決定係数と比べて低い値が得られる傾向 にあり,0.2〜0.4 でデータとモデルが非常によく適合し ている (excellent fit である) と理解されている30)。こ れらのことから,式(1) に示したモデルがデータと適合 していると考えた。 続いて,偏回帰係数と wald 検定 (両側) による p 値 から, 5 % 水準で統計的に有意な説明変数のオッズ比 に着目し,基準カテゴリである「仮置場」への排出確率 との関係を図 5 のように整理した。有意な説明変数のう ち,オッズ比が 1 を超えた場合には「仮置場」から出る 方向に,1 未満の場合は「仮置場」に向かう方向に矢印 を描き,当該カテゴリが生起する確率が高まることを示 した。まず,「仮置場」への排出確率と「空き地・道路 端」への排出確率の比をみると,「距離」のみ 1 より大 きく,1 単位増えると「空き地・道路端」に排出する確 率が倍に上がるほど大きな影響があると理解できる。他 方,「広報理解」「記述的規範」「車両確保」はいずれも 1 より小さいオッズ比であることから,「空き地・道路 端」に排出することを抑制する因子であると理解できる。 次に,「仮置場」と「自宅前・集積所」への排出確率の 比に着目すると,「距離」が 1.66,「道路幅員」が 1.97 と 1 より大きく,特に道路幅員の影響が大きいことが示 唆される。このため,家の前の道路幅員が大きい地域で は,空き地・道路端への排出確率は上がらないが,自宅 前や集積所への排出が多くなる可能性が高く,特に注意 するべきであるといえる。他方,「広報理解」,「車両確 保」,「発生量」はオッズ比が 1 より小さいため,「自宅 前・集積所」への排出を抑制する因子であると理解でき る。 以上より,仮置場以外への排出は,①仮置場が遠方 表 4 説明変数の説明変数間の相関 (スピアマンの順位相関係数) 距 離 広報理解 記述的規範 車両確保 道路幅員 発生量 距 離 1.000 広報理解 0.083 1.000 記述的規範 0.107 0.241 1.000 車両確保 0.313 0.140 0.194 1.000 道路幅員 0.203 0.093 0.065 0.214 1.000 発 生 量 0.031 0.031 −0.055 0.069 −0.098 1.000 表 5 多項ロジスティック回帰分析の結果 排出場所 説明変数 偏回帰係数 標準誤差 z 値 p 値* オッズ比 空き地・ 道路端 切片 −0.626 0.108 −5.81 0.000 0.534 距離 0.693 0.129 5.39 0.000 2.00 広報理解 −0.264 0.108 −2.44 0.015 0.768 記述的規範 −0.363 0.111 −3.28 0.001 0.695 車両確保 −0.421 0.121 −3.47 0.001 0.656 道路幅員 0.016 0.112 0.147 0.883 1.02 発生量 −0.175 0.107 −1.63 0.103 0.840 自宅前・ 集積所 切片 −1.19 0.137 −8.68 0.000 0.305 距離 0.508 0.136 3.73 0.000 1.66 広報理解 −0.311 0.130 −2.39 0.017 0.732 記述的規範 −0.007 0.131 −0.056 0.955 0.993 車両確保 −0.968 0.143 −6.78 0.000 0.380 道路幅員 0.675 0.137 4.92 0.000 1.97 発生量 −0.375 0.124 −3.02 0.003 0.687 * Wald 検定による。5 % 水準で有意な説明変数に網掛けを付けた 図 5 多項ロジスティック回帰分析の結果から推測される排出場所の決定要因の関係
にある (=他の場所の方が近い),②運搬車両が確保し にくい,③排出場所の案内が不十分で理解できない, という状況で促進されると整理できる。また,周囲も ルールを守っていないと感じる場合には,空き地や道路 端への排出が,自宅前の道路が広い地域で,片付けごみ の量が少ない場合には,自宅前や集積所という身近な場 所への排出が促進されると解釈できる。 4. 4 仮置場以外への排出を抑制するために 仮置場以外への排出が促進される要因のうち,「距離」 と「広報理解」は市が行う災害対応で左右されることか ら,自治体が行う平時の災害廃棄物対策に参考になる。 まず,「距離」については,片付けごみの排出源となる 主要な被災地 (被災住家の密集場所) から仮置場までの 距離が遠いことが一つの大きな要因であることが示唆さ れた。図 1 には,倉敷市の浸水域,本調査の対象地域と ともに,市が設置した仮置場と,特に排出量が多かった 道路端・空き地の国道 486 号線沿いの場所と井原線高架 下の場所を示した。発災直後から開設されていた吉備路 クリーンセンター (TSS1) やマービーふれあいセン ター (TSS3) は大きく被災した真備町川辺地区の住宅 街から直線距離で 2 km 程度あり,市が設置した仮置場 が近くに存在しない場所に多量排出場所が発生したこと がわかる。被災地内は災害ごみを排出する車両だけでな く,緊急車両を含むさまざまな災害関連車両で交通量が 増え,道路状況は混乱していた。実際,岡山県警からは 真備町内,特に国道 486 号で大きな渋滞が発生している ため,迂回への協力を求める依頼が一般車両に向けて出 されていた。平時であれば数 km の距離であれば 10 分 程度で往復することができても,当時は渋滞により長時 間かかっていた状況が推察される。こうした状況を総合 して,距離の要因による影響が大きいという結果が得ら れたものと推察される。平時から仮置場候補地をリスト 化することの重要性は多くの被災経験者が指摘するとこ ろであり,国としても推奨しているが,初動の混乱を軽 減するうえではその地理的な分布をハザードマップと照 らして検討しておくことも極めて重要であるといえよう。 「広報理解」については,広報を通じて排出場所を理解 することが仮置場への排出を促進することを示唆した。 倉敷市では,排出場所は仮置場を基本としつつも,家の 前や空きスペースへの排出も容認されており,具体的な 指示内容は広報媒体によって異なっていたことで,「よ く分からないけど家の前,空きスペースに出す」という 排出行動につながったと推察される。このため,仮置場 以外への排出を完全に防ぎたい場合は,排出すべき仮置 場を提示し,それ以外への排出は認められないとする明 確な広報が有効と考えられる。たとえば,令和元年東日 本台風 (2019) で被災した長野県内自治体では,仮置場 以外への排出があった場合は自治会の責任で処理するこ とになる旨が自治会長を通じて住民に周知され,仮置場 以外への排出が抑制された例があり,参考になる。また, 図 2 と図 3 に示したように,片付けごみの排出が発災直 後から急激に始まることを考えると,発災直後に排出場 所を確保・周知する必要があり,そのための準備を平時 から行うことが重要であると指摘できる。 状況要因のうち,個人の状況に依存するものについて は,自治体の事前対策によって変えることは難しいが, 発災後の対応方法に示唆を与える。「車両確保」につい ては,災害ごみを運ぶ車両が発災後に手に入りやすい程, 仮置場への排出が促進されることが示唆された。自由記 述設問への回答にも,「ボランティアさんが来るまで車 がなかったので車の手配ができなかったのが不便だっ た」とある。(一財)自動車検査登録情報協会31)によれば, 2019 年 3 月現在,倉敷市の一世帯あたりの自動車保有 数は 1.42 台と全国平均の 1.06 台と比較して多い。しか し,倉敷市職員へのヒアリングによれば,浸水により被 災世帯の多くで車両が使えなくなり,仮置場までの持ち 込みが困難な世帯が多かったとのことである。片付けご みの多くは重量のある廃家財・廃家電であるうえ,浸水 によりその重さは約 1.8 倍にもなることが報告されてい る32)ことから,車両を使用せずに片付けごみを運搬する ことは現実的に難しいと考えられる。これらのことから, 一つは,災害時にボランティアを組織する社会福祉協議 会との連携を平時から深めて被災者への片付けごみ運搬 支援が円滑に届くようにすることが重要といえる。さら に,自動車保有率の低い地域では仮置場まで片付けごみ を排出しに行くことができない住民が多く,仮置場以外 への排出がされやすい環境にあることを念頭に,可能な 限りまんべんなく被災地に仮置場を配置したうえで,仮 置場以外の地域の排出場所を自治体と住民の共通理解の もとで想定しておくことも重要と考えられる。たとえば, 仮置場候補地が近くにない地域について,近傍にある児 童公園等の空きスペースを一時的に (かつ地区限定で) 片付けごみの排出場所としておき,自治体は当該場所か ら迅速に収集する体制を整えておくことが考えられる。 その際,自治体の設置する仮置場と同程度の管理はでき なくても,可燃系,不燃系,家電,畳等,最低限の分別 のみ実施する,あるいは,周辺の住環境と交通への影響 が少ない場所を選ぶ,などの配慮は必要である。この際, 既報7)で指摘されているように,「仮置場」「住民集積 所」「地域集積所」等の名称が混乱を生まないよう,定 義と名称の整理・統一が求められる。なお,仮置場をま
んべんなく配置した場合は管理要員が多数必要になるた め,民間事業者や応援自治体の協力を得る手段について も検討が必要になる。 「記述的規範」が強いと空き地や道路端への排出が抑 制されるが自宅前や集積所への排出には影響しないとい う結果が得られたのは,市として容認されていたとはい え,空き地や道路端への排出は良いことではないという 平時におけるごみ出しの感覚が働いたためと推察される。 管理の観点からは,仮置場以外への排出を発見次第,早 急に撤去し,当該場所への排出を禁ずる看板を立てると いった対策が有効と示唆される。「道路幅員」について, 家の前の道路幅員が広いほど,家の前や集積所に捨てる 確率が高まるという結果は,家の前に出す場合は緊急車 両が通行できる形で排出することを倉敷市が周知してい たことで,道路幅員が狭い地域では家の前の排出を控え たものと推察される。「発生量」については,量が多く なると家の前や普段のごみ出しで使用している集積所に 置ききれなくなるため,結果的に仮置場まで運搬された と推察される。これらの点から,家の前への排出が容認 された状況においては,道路幅員に余裕があり,比較的 被災規模の小さい地域で,家の前や集積所への片付けご みの排出が起こりやすく,発災後に状況を優先的に確認 すべきと示唆される。家の前の排出が容認されていない 場合にも同様のメカニズムが働くかは検証が必要である。 なお,自由記述設問への回答には「とにかく家をカ ラッポにしようと出すことに一生懸命だった」など,排 出を急ぐ気持ちになることも確認されており,こうした 意図要因 (2. 1 参照) の影響も実際にはあったと想定さ れる。この点については,今後の研究課題としたい。
5.結
論
本研究は,災害廃棄物,とりわけ初動期に発生する片 付けごみが市中に排出される要因を明らかにするため, 平成 30 年 7 月豪雨で被災した倉敷市民を対象としたア ンケート調査,調査結果の統計解析,市の初動対応の実 態調査を行なった。その結果,仮置場が自宅から遠くに 設置され,片付けごみを運搬するための車両が確保しに くく,広報により排出場所が理解できない場合に,仮置 場以外への排出が促進されることが明らかとなった。ま た,これらの要因に加え,家の前の道路に十分な空間が あり,被災の程度が比較的軽度の場合には家の前や集積 所に,先行する片付けごみが置いてあるなど,周りの 人々もルールを守っていないと感じる場合には空き地や 道路端に排出されやすくなることが明らかとなった。さ らに,これらのことから,今後の災害に備え,被災が想 定される地域にまんべんなく仮置場候補地を確保するこ と,すぐさま排出場所を開設して周知する準備を行なっ ておくこと,車両が確保できない被災者への対応として ボランティアとの連携を深めることと,仮置場以外の一 時排出場所を自治体と住民の共通理解のもとで想定して おくことなどが,事前準備として推奨されることが示唆 された。 災害廃棄物対策指針では,仮置場の必要面積や土地と しての条件は整理されているが,地域内における複数の 仮置場の配置について言及がない。本研究からは,地域 内における仮置場の配置について,仮置場以外の一時排 出場所を含めて留意すべきことが明らかになった。今後 は,本研究の結果を他の災害事例で確認し,排出行動の 規定因の背景についても検討を深めるとともに,仮置場 や地域の排出場所の最適な配置方法について検討するこ とが求められる。 【謝辞】 被災し復興のさなかにあるにもかかわらずアン ケート調査にご協力いただいた倉敷市民の皆様に厚 く御礼申し上げます。また,災害廃棄物処理の途上 にあり,大変ご多忙にもかかわらず,調査にご協力 いただき,本稿に重要な示唆をいただいた倉敷市一 般廃棄物対策課の職員の皆様にも厚く御礼申し上げ ます。 参 考 文 献 1 ) 環境省 環境再生・資源循環局 災害廃棄物対策室:災 害廃棄物対策指針 (改定版) (2018) 2 ) 島岡隆行,中山裕文,塚本 唯:近年の水害廃棄物発生 状況と処理における問題点に関する考察,第 20 回廃棄 物資源循環学会研究発表会講演集,pp. 9-10 (2009) 3 ) 関東地方環境事務所・常総市:平成 27 年 9 月関東・東 北豪雨により発生した災害廃棄物処理の記録,環境省 関東地方環境事務所,p. 184 (2017) 4 ) 上村一成:平成 29 年 7 月九州北部豪雨災害と小規模自 治体における廃棄物処理,廃棄物資源循環学会誌,第 30 巻,第 5 号,pp. 335-345 (2019) 5 ) 山田耕市:中国四国地方環境事務所における災害廃棄 物対策の取組について〜平成 30 年 7 月豪雨災害の教訓 から〜,都市清掃,第 72 巻,第 351 号,pp. 428-433 (2019) 6 ) 岡山県 環境文化部 循環型社会推進課・災害廃棄物対 策室:平成 30 年 7 月豪雨災害で発生した災害廃棄物の 処理について,都市清掃,第 72 巻,第 351 号,pp. 434 -441 (2019) 7 ) 環境省 中国四国地方環境事務所:平成 30 年度大規模 災害時における中国四国ブロックでの広域的な災害廃 棄物対策に関する調査検討業務報告,p. 142 (2019)8 ) 大島町・東京都環境局・(公財)東京都環境公社:大島町災 害廃棄物処理事業記録:大島土砂災害により発生した 災害廃棄物の処理経過報告,p. 83 (2015) 9 ) 大瀧慎也:平成 30 年 7 月豪雨による災害廃棄物処理に ついて,都市清掃,第 72 巻,第 351 号,pp. 442-448 (2019) 10) 千崎佑華,藤原健史,平山修久:水害廃棄物の排出過 程モデルと収集シミュレーション,第 21 回廃棄物資源 循環学会研究発表会講演集,pp. 40-41 (2010) 11) 浅利美鈴,奥田哲士,酒井伸一:災害廃棄物に関する 被災者の意識・行動調査〜2018 年平成 30 年 7 月豪雨 を中心に〜,第 30 回廃棄物資源循環学会研究発表会講 演集,pp. 135-136 (2019) 12) 松井康弘・大迫政浩・田中 勝:ごみ分別行動とその意 識構造モデルに関する研究,土木学会論文集,第 692 巻,Ⅶ-21 号, pp. 73-81 (2001) 13) 広瀬幸雄:環境配慮的行動の規定因について,社会心 理学研究,第 10 巻,第 1 号,pp. 44-55 (1994) 14) I. Ajzen : The Theory of Planned Behavior,
Organi-zational Behavior and Human Decision Processes, Vol. 50, pp. 179-211 (1991)
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Why People Choose not to Dispose at Temporary Storage Sites :
A Case Study on Japanʼs Heavy Flooding Disaster of July 2018
Ryo Tajima* and Junko Morishima*
* Center for Material Cycles and Waste Management Research, National Institute for Environmental Studies
† Correspondence should be addressed to Ryo Tajima :
Center for Material Cycles and Waste Management Research, National Institute for Environmental Studies (16-2 Onogawa, Tsukuba, Ibaraki 305-8506 Japan)
Abstract
This study aims to clarify factors that lead people to dispose of disaster waste from cleanup activities after homes were damaged (hereafter termed cleanup waste) at places other than designated temporary storage sites (TSS). Even when local government policy basically advises these wastes to be disposed of at TSS, they are found being discarded at curbsides and other open spaces. We studied actual disposal behaviors and potential determinants of Kurashiki City disaster victims following the flooding disaster of July 2018. The results of a questionnaire survey and its statistical analysis suggest that citizens tend to dispose of cleanup waste at places other than TSS. This happens for several reasons : the TSS is too far away ; access to vehicles for transportation is scarce ; public information on where to dispose of cleanup waste is not properly under-stood. Based on these results, we present recommendations for preparedness action, such as identifying open lands that can be modified as TSS in disaster-prone areas.
Keywords : disaster waste, disposal behavior, heavy flooding disaster of July 2018, Kurashiki City, multinomial regression