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ジベレリン溶液浸漬処理によるキクバオウレン種子の発芽促進効果

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Academic year: 2021

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北陸作物学会報(The Hokuriku Crop Science)55:40 ~ 43(2020)

ジベレリン溶液浸漬処理によるキクバオウレン種子の発芽促進効果

水島智史

(*福井県立若狭東高等学校,小浜市,〒917–0293)

Germination Promoted by Soaking Gibberellic Acid Solution in 

Coptis japonica

(Thunb.)

Makino var.

anemonifolia

(Siebold et Zucc.)H. Ohba Seeds

(*Fukui Prefectural Wakasa East High School,Obama,917–0293,Japan)

キーワード:キクバオウレン,ジベレリン,発芽予措,薬用植物

Key Words:Coptis japonica(Thunb.)Makino var. anemonifolia(Siebold et Zucc.), Gibberellic acid, Medicinal plant, Pregermination treatment

 キクバオウレン種子の発芽促進を目的に,播種前種子をジベレリン溶液で処理し,その効果を調査した.発芽 試験に用いた種子は 5 月~ 10 月まで土中に埋蔵して後熟させ,10 月に種子を掘り出して,発芽試験に供した. 6℃の冷蔵庫内で種子をジベレリン溶液で 24 時間浸漬処理し,処理終了後に蒸留水で洗浄して発芽試験を行った. ジベレリンの濃度は,0,25,50 および 100 ppm の 4 段階とした.発芽試験は,全期間 6℃の冷蔵庫内で実施した. 発芽開始は,100 ppm 処理区で播種後 30 日目と最も早く,50 ppm および 25 ppm 処理区では播種後 40 日目,0 ppm 区では播種後 60 日目であった.最終発芽率は,100 ppm 処理区で 100%,次いで 50 および 25 ppm 処理区 では 96%,0 ppm 区では 82%であり,100 ppm 処理区と 0 ppm 区の間で有意な差が認められた.平均発芽日数は, 100 ppm 処理区で 73 日,次いで 50 ppm 処理区の 77 日,25 ppm 処理区の 80 日と続き,0 ppm 区では 86 日であり, 100 ppm 処理区と 0 ppm 区の間で有意な差が認められた.以上のように,播種前にキクバオウレン種子をジベ レリン溶液に浸漬処理することにより発芽日数の短縮および発芽率の向上が可能であり,本試験の条件では,発 芽促進に有効なジベレリンの濃度は 100 ppm であった. Satoshi MIZUSHIMA*  オウレンは,林内のやや暗いところに生えるキンポウゲ 科の多年草であり,本州から北海道西南部に分布する我が 国原産の植物でキクバオウレン(Coptis japonica(Thunb.) Makino var. anemonifolia(Siebold et Zucc.)H. Ohba), セリバオウレン(Coptis japonica(Thunb.)Makino var.

major(Miq.)Satake),コセリバオウレン(Coptis japonica

(Thunb.)Makino var. japonica)の 3 変種にわけられ,薬 用に用いられるのはキクバオウレンとセリバオウレンであ る(北中ら 2015).これらのうち,福井県ではキクバオウ レンとセリバオウレンが分布しており,両者の収量や品質 は同等である(仙城・酒井 1958).2016 年におけるオウ レンの日本での使用量は 41931 kg であり,そのうち日本 産は 1501 kg,残りは中国産である(山本ら 2019). 特用林産物生産統計調査によると,福井県における 2018 年のオウレンの生産量は,600 kg でありすべて栽培 したものであった(林野庁 2019).オウレンの栽培にあたっ て,採種は 5 月上旬頃に行い,種子と砂を混ぜて水がたま らない雨露のあたる土中に埋めて秋まで貯蔵し,12 月上 旬頃に掘り出して播種する(長岡 1901).また,仙城・三 鍋(1967)によると,オウレンは開花がはじまるのは 4 月 上旬,結実が終わるのは 5 月下旬から 6 月上旬,栽培時の 播種期は 9 月下旬から 11 月中旬までであり,発芽するの は翌春である.このように,オウレン栽培では,5 月頃に 採種して,種子を土中に埋蔵し,その後にそれを掘り出し て播種する栽培体系がとられている.その要因として次の ようなことが明らかにされている.採種して土中に埋蔵し た種子の胚は,7 月下旬まで成長・肥大し,その後は成長 や分化がとまり 10 月下旬まで休眠を続け,越冬中に成長・ 分化が再開されて春に発芽する(林・小渕 1983).オウレ ン種子は,土中での埋蔵中に種子の後熟が進み,その後の 低温遭遇により発芽が始まることから,オウレン栽培では 採種から発芽まで長い期間を要する.また,オウレン種子 の発芽適温は 5 ~ 6℃であるが,土中に埋蔵した種子を 11 月 13 日に播種して 6℃で管理したときの発芽率は 3 月 12 日で 88%,3 月 30 日で 94%であり,発芽が揃うには約 3 ~ 4 か月を要する(高橋・小河原 1980).土中に埋蔵した 種子を播種しても種子の発芽までには長い期間を要するた め,これまでにオウレン種子に対する発芽促進処理が試み られている.高橋・小河原(1980)は,シャーレにろ紙 1 枚を敷きジベレリン溶液を入れて発芽試験を行い,オウレ

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- 41 - ン種子に対するジベレリンによる発芽促進効果が認められ たと報告した.林・松田(1984)は,ジベレリンを含む寒 天培地にオウレン種子を播種し,ジベレリン処理は室温下 で種子の胚の発育を促進すると報告した.このように,オ ウレン種子に対するジベレリン処理が発芽や胚の成長を促 進することが示されているが,これらの報告ではジベレリ ンとオウレンの種子が常に接触している条件で試験されて いる.しかしながら,実際の栽培では,オウレン種子は土 壌に播種されることから,ジベレリンが常に存在する条件 で発芽させることは難しいと考えられる.  そこで本研究では,薬用に使われるキクバオウレンを用 いて,実際の栽培を想定して播種前に種子をジベレリン溶 液へ浸漬処理し,播種後はジベレリンが存在しない状態で あっても発芽促進効果を得られるか検討した. 1.種子の土中での埋蔵条件  試験は採種から種子の土中埋蔵を経て発芽に至るまで長 期間にわたるため,その経過を第 1 表にまとめた.2014 材料および方法 年 5 月中旬に福井県嶺南地方の自生地で採種されたキクバ オウレンの種子を入手した.5 月 28 日に底に新聞紙 1 枚 を敷いた育苗箱に培養土(体積比で赤玉土:鹿沼土= 1:1) を入れ,表面に種子をばらまき培養土と混合した後,その 上に培養土を約 1 cm の厚さとなるようにかけ,種子を土 中に埋蔵した.育苗箱は福井県立若狭東高等学校の農場に 置き,乾燥しないように適宜灌水して管理した.10 月 18 日に種子を掘り出して蒸留水で洗浄し,発芽試験に供した. 土中埋蔵中の気温推移は,埋蔵場所から直線距離で約 700 m 離れた場所にある小浜市のアメダスによると,第 1 図 のとおりであった. 2.発芽試験の条件  10 月 18 日に直径 9 cm のシャーレにろ紙(No.1)を 2 枚敷き,0,25,50 および 100 ppm に調整したジベレリ ン A3(ジベレリン水溶剤,協和発酵バイオ)溶液をそれ ぞれ 6 mL 加えたところに土中埋蔵した種子を置床し,6℃ の冷蔵庫内で 24 時間,浸漬処理を行った.ジベレリン浸 漬処理終了後,種子を取り出して蒸留水で洗浄し,直径 9 cm のシャーレにろ紙(No.1)を 2 枚敷き,蒸留水 6 mL を加えた後に種子を 15 粒播種して蓋をした.試験は各濃 度とも 3 反復行った.播種後,シャーレの外側にアルミ箔 をまいて遮光し,6℃の冷蔵庫内にシャーレを置いた.蒸 留水の補給は,発芽調査の際に種子が水没しない程度に 行った.年末年始の期間を除いて播種後当日~ 105 日目ま で 10 日に 1 ~ 2 回の頻度で発芽個体数を調査した.なお, 種子から幼根が突出した状態を発芽と定義した.播種後の 発芽データをもとに発芽率を算出するとともに,平均発芽 日数を求めた. 第1表 試験の主な経過. 第 1 図 種子の土中での埋蔵期間中の気温の推移. 福井県小浜市にあるアメダスのデータをもとに作成.  オウレン種子の貯蔵中の温度は,その後の発芽に影響す る.オウレン種子を 6,10,15,20 および 25℃の恒温で 貯蔵した場合,種子はまったく発芽しないことから,種子 の後熟には 25℃前後の高温とそれに続く低温が必要と考 えられている(高橋・小河原 1980).本試験の土中埋蔵期 間の温度管理は,野外で行ったため成りゆきであったが, 近隣のアメダスの気温データを見ると,平均気温は土中埋 蔵開始から 8 月にかけて徐々に高くなり,8 月には約 30℃ を記録する日もあったが,その後は徐々に低くなり,埋蔵 を終了した 10 月には 20℃以下を記録する日が多かった(第 1 図).埋蔵終了後に引き続き行った発芽試験は 6℃で行っ た.このように,本試験は採種後の種子が埋蔵中に高温に 結果および考察 第2図 キクバオウレン種子の発芽率に及 ぼすジベレリン濃度の影響. 図中の縦線は標準誤差を示す(n=3).

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- 42 - 林喜三郎・小淵伸司 1983. 高知大学学術研究報告農学 . 32:23–30. 林喜三郎・松田育 1984. 高知大学学術研究報告農学 . 33: 33–41. 北中進ら編集 2015. カラーグラフィック薬用植物[第 4 版],廣川書店,東京,13. 長岡佐介 1901. 藥學雜誌 . 236:1030–1035. 林野庁 2019. 特用林産物生産統計調査 . < https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&touk ei=00501004&tstat=000001021191&cycle=7&year=20180 &month=0&tclass1=000001021192&tclass2=000001132663 >(2019 年 9 月 5 日閲覧). 仙城律・三鍋昌俊 1967. 日作紀 . 36:1–6. 仙城律・酒井正美 1958. 日作紀 . 27:143–144. 高橋隆平・小河原公司 1980. 日作紀 . 49:323–329. 山本豊ら 2019. 生薬学雑誌 . 73:16–35.    (2019 年 10 月 17 日受付,2020 年 1 月 16 日受理) 引用文献 遭遇し,その後は低温になる条件で行われており, ジベレリン未処理区(0 ppm 区)の最終発芽率 は 82%であった(第 2 表).したがって,本試験 において,キクバオウレン種子の採種後の温度管理は適切 に行われたものと考えられる.  ジベレリン 100 ppm 処理区では,播種後 30 日目に発芽 が認められ,4 処理区の中で最も早く発芽が観察された(第 2 図).その後,100 ppm 処理区の発芽率は,播種後 88 日 目で 80%以上となり,播種後 92 日目で 95%を超え,最終 調査の播種後 105 日目では 100%となった.50 ppm 処理 区では,播種後 40 日目から発芽が認められ,発芽率は播 種後 88 日目で 80%以上となり,最終調査の播種後 105 日 目では 96%となった.25 ppm 処理区では,50 ppm 処理 区と同様に播種後 40 日目から発芽が認められ,発芽率は 播種後 88 日目で 80%以上となり,最終調査の播種後 105 日目では 96%となった.0 ppm 区で発芽が認められたの は,播種後 60 日目であり,発芽率が 80%以上となったの は播種後 97 日目であり,最終調査の播種後 105 日目であっ ても発芽率は 90%に達しなかった.  最終発芽率は,100 ppm 処理区で 100%と最も高くなり, 次いで 50 および 25 ppm 処理区の 96%であり,0 ppm 区では 82%と最も低くなる傾向であった(第 2 表).100 ppm 処理区と 0 ppm 区の最終発芽率の間には,有意な差 が認められた.  平均発芽日数は,100 ppm 処理区で 73 日と最も短く, 次いで 50 ppm 処理区の 77 日,25 ppm 処理区の 80 日と 続き,0 ppm 区では 86 日と最も長くなり,ジベレリン濃 度が高くなるにしたがい短くなる傾向が認められた(第 2 表).100 ppm 処理区と 0 ppm 区の平均発芽日数の間には, 有意な差が認められた.  詳細な検討はしていないが,ジベレリン溶液に浸漬処理 して発芽した一部の種子を用いて,バーミキュライトを詰 めたセルトレイに植え付け,その後鉢上げして栽培したと ころ,正常に生育した(第 3 図).  以上のように,ジベレリン濃度を 100 ppm として種子 1)角変換後の数値を用いた Tukey 法により、同一列の 異なるアルファベット間に 5%水準で有意差あり. 2)Tukey 法により、同一列の異なるアルファベット間 に 5%水準で有意差あり. 第2表 キクバオウレンの最終発芽率および平均 発芽日数に及ぼすジベレリン濃度の影響. 第3図 キクバオウレンの生育の推移. A:播種前の種子,B:播種後 40 日,C:播種後 112 日, D:播種後 265 日. を浸漬処理することで,0 ppm と比較して平均発芽日数 が 13 日早まり,最終発芽率も有意に高くなった.一方, ジベレリン濃度が 25 ppm や 50 ppm では,0 ppm と比較 すると発芽の開始は早まるものの,平均発芽日数や最終発 芽率を著しく向上させることはできなかった.以上のよう に,キクバオウレンは播種前に種子をジベレリン溶液に浸 漬処理することにより発芽日数の短縮および発芽率の向上 が可能であり,本試験の条件では,ジベレリン 100 ppm で浸漬した区で最も効果が高かった.今後は,ジベレリン の濃度だけでなく,浸漬時間などの条件を変えることで, 好適な浸漬処理の条件を探索することが課題である.

参照

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注:一般品についての機種型名は、その部品が最初に使用された機種型名を示します。

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