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特集:「ファイナンスにおける人工知能応用」「ファイナンスにおける人工知能応用」にあたって

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Academic year: 2021

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260 人 工 知 能  36 巻 3 号(2021 年 5 月) 1.は じ め に 今日の金融分野での活動において情報技術は必要不可 欠なものとなり,すでに情報産業になっていると言って も過言ではない.大規模データ解析による市場取引の高 度化やブロックチェーン技術による決済のディジタル化 などを含むフィンテックの潮流は,金融分野と情報技術 の結び付きをますます強めている.また制度のうえでも, 1990年代末から始まった金融自由化の流れも,情報技 術による金融業務の効率化の必要性を高めた.この流れ の中で,深層学習を発端とする人工知能ブームも合わさ り,金融分野における技術革新は一気に訪れた. この新たな金融技術の流れの中で,各金融機関はそ れまで用いた金融モデルや金融サービスの改良を強く求 められるようになる.当然ではあるが,深層学習を用い た新たな取引モデルの作成が試みられることになる.そ れに加えて,深層学習は数値データだけではなく,画像 や文書データなどを対象にした研究のほうが多いことか ら,これらのデータを用いたモデルも検討され始められ る.しかしながら,画像や文書データはオルタナティブ データ(代替データ,もしくは非伝統的データ)と呼ば れ,今まで金融モデルではあまり用いられてこなかった. つまり,金融機関は新しい技術の導入に加え,オルタナ ティブデータの活用も検討することになった. 本特集では,上記の流れの中で金融分野に対する人工 知能技術がどのように発展してきたか,もしくは,発展 しているのかを 6 本の記事としてまとめることにした. 特筆すべきは,6 本の記事すべてが金融機関,もしくは金 融機関に関連する企業に所属する方々に執筆していただ いているという点である.もちろん,共著の記事も存在 するため,大学に所属する研究者も共著者には存在する. 金融に対する人工知能応用における技術紹介として, 2件の記事を執筆いただいた.1 件目は,スパークス・ アセット・マネジメント株式会社の水田孝信氏と工学院 大学情報学部システム数理学科の八木 勲教授に,マルチ エージェントによる人工市場シミュレーションの動向に ついて紹介していただいた.特に,日本取引所グループ との共同研究で,人工市場シミュレーションを用いて注 文価格の最小単位である呼値の縮小を検討した事例を紹 介いただいた. 2件目は, 城大学大学院理工学研究科の鈴木智也教 授,野村アセットマネジメント株式会社の中川 慧氏,三 井物産株式会社の伊藤友貴氏と東京大学大学院工学系研 究科の坂地泰紀により,金融におけるテキストマイニン グと機械学習応用について紹介させていただいた.テキ ストマイニングを用いて ESG 評価を行う研究の紹介や, 個々の投資家と会社との関係をモデル化し,新たなアン サンブル・進化計算手法を提案した研究を紹介した.加え て,深層学習モデルのブラックボックス問題に対処する ために構築された解釈可能なニューラルネットワークモ デルを用いた金融テキストの分析についても紹介した. また,上記に述べたようにオルタナティブデータを用 いた分析も進められていることから,こちらに関する 2 本の記事を執筆いただいた.1 件目は,野村証券株式会 社の水門善之氏にオルタナティブデータを用いた経済分 析に関する研究について紹介いただいた.水門氏は東京 大学大学院工学系研究科の博士学生でもある.こちらの 記事では,衛星画像データや高電力需要データ,携帯電 話 GPS データを用いた分析について紹介いただいた. 加えて,2 件目として,(一社)国際資産運用センター 推進機構の中尾友治氏,有友圭一氏,竹腰尚美氏,東海 林美咲氏には,日本におけるオルタナティブデータ活用 の現状について紹介していただいた. 最後に,実際の金融の現場で利用されている人工知能 技術と,今後金融分野から期待したい人工知能技術につ いて 2 本の記事を執筆いただいた.1 件目は,株式会社 大和総研の加藤惇雄氏と大和アセットマネジメント株式 会社の長尾慎太郎氏に金融実務者による人工知能技術の 実装について紹介いただいた.2 件目は,同じく大和ア セットマネジメント株式会社の長尾慎太郎氏から資産運 用ビジネスにおける人工知能とデータサイエンスの可能 性と題して,資産運用会社から見た人工知能技術につい て述べていただいた. 2.金融情報学研究会について 金融への人工知能の応用に関する研究会として,金融 情報研究会(SIG-FIN)が 2008 年から活動している. 金融情報学研究会は,人工知能学会の第 2 種研究会であ り,日本における金融への人工知能技術の応用をけん引 してきた.金融情報学研究会では,マルチエージェント を用いた人工市場や自然言語処理・データマイニングを 用いた金融テキストマイニング,知識ベースシステム・ 意思決定支援システムなどを用いた投資支援などに関連 する研究が発表されてきた. 発足当時は,大学や研究機関に所属する研究者からの

特集「ファイナンスにおける人工知能応用」にあたって

和泉  潔

(東京大学)

坂地 泰紀

(東京大学)

(2)

261 人 工 知 能  36 巻 3 号(2021 年 5 月) 発表がほとんどであったが,近年は企業からの発表や企 業との共同研究成果の発表が増えてきている.図 1 に企 業関係者による発表件数推移を示す. 図 1 では,第 13 回から第 24 回にかけての発表件数, そのうち筆頭者が企業所属の発表の件数と,共著者に企 業所属の方が含まれる発表件数を示している.図 1 より, 年々,企業の方の発表と企業との共同研究による発表件 数が増えていることがわかる. また,現在の金融情報学研究会の幹事団の約半数は企 業所属の研究者であり,本分野が企業と寄り添う形で発 展してきたことを示唆している. 3.海外における金融における人工知能応用 前章で,金融情報学研究会が企業所属の研究者と連携 しながら,発展してきたことを述べた.国際的には,J. P. Morganがロボットの研究で有名なカーネギーメロン大 学のManuela Veloso教授をAIチームのヘッドに招聘し, 新たな組織をつくっている.さらに彼らは,国際会議 (2020 ACM International Conference on AI in Finance)

や AAAI のワークショップ(The AAAI-21 Workshop on Knowledge Discovery from Unstructured Data in Financial Services)を企画し,その活動をアピールしている.こ のように海外においても,企業における AI 活用が進ん でおり,特にアカデミアと連携することを精力的に行っ ている. 4.お わ り に 加藤氏と長尾氏による記事で言及されているように, 金融業界はその業務を遂行する中で,膨大な暗黙的知識 を蓄えてきたが,それを形式化するために AI を利用す るという発想は金融業界だけではなく,自動車メーカな どの他業種でもいえる.暗黙的知識は通常,口伝により 共有されてきたが,情報技術が発達した今こそ,形式化 し,社内共通の知識財産として利用すべきである.また, 各会社が業務で利用しているメモや報告者などにも,こ のような暗黙的知識や,もしくは,新たな価値が含まれ ていることもあり,積極的に活用していくことが期待さ れる.この暗黙的知識を形式的な知識に変えるような AI技術が次々と出現することを我々は期待している. 水門氏に執筆いただいた記事では,さまざまなオルタ ナティブデータを使った研究例を紹介いただいたが,オ ルタナティブデータの活用はまだ始まったばかりであ り,他に存在するであろうオルタナティブデータの価値 を我々は研究することで突き止めていくことになる.高 電力需要データを用いた分析例を紹介していただいた が,電力に関しては日本卸電力取引所での電力取引デー タも存在する. 金融における人工知能応用に興味をもつ AI 研究者の 方々が,本分野の動向を把握し,この分野に参加するきっ かけになれば幸いである. ① ① ① ① ② ② ② ② ③ ③ ③ ③ 図 1 金融情報学研究会における企業関係者による発表件数推移

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