34 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2021, vol. 44, no. 1 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2021, vol. 44, no. 1, p. 34-35
特集:新型コロナウイルスパンデミックにおける日本のプライマリ・ケア[活動報告]
新型コロナウイルス感染症により面会禁止の中で,「大切
な人の側にいる」という患者家族のニーズを満たすため
の,地域がん診療病院の訪問診療
Home-visit Medical Services Provided by a Community-based Cancer Care Hospital to Meet Families Need for Being Close to the Patient as the Person They Care about despite the Prohibition of Visitation Due to COVID-19 Infection
酒 井 達 也
1)大上永利子
2)齋 藤 隆 弘
3) Tatsuya Sakai1), Eriko Ogami2), Takahiro Saito3)要 旨 新型コロナウイルス感染症により.多くの病院で入院患者の面会禁止や制限が実施されている.石垣島で新型 コロナウイルス感染症患者が発生し,当院でも面会禁止を実施した.面会禁止後に,終末期患者及び家族から の在宅療養の希望が増加した.面会禁止によって患者と家族の「大切な人の側にいる」というニーズが満たさ れなくなったことが,在宅療養の移行に繋がった可能性が考えられ,がん診療病院の訪問診療の必要性を認識 した.
Keywords :緩和ケア(Palliative care),在宅医療(home medical care)
はじめに 当院は沖縄県の人口約 5 万人の石垣島に立地してい る.八重山医療圏唯一の総合病院であり,地域がん診 療病院かつ感染症指定医療機関である.石垣市には令 和 2 年現在,当院を含む 4 箇所の医療機関が訪問診療 を担っている.主に当院の担う訪問診療は終末期の患 者を対象としており,総合診療医師と緩和ケア認定看 護師からなる訪問診療チームで対応している.直近 5 年の在宅看取りは年間 8∼30 件の実績だった. 令和 2 年 4 月に石垣島でも新型コロナウイルス感染 症の患者が発生した.その後感染拡大を防止する目的 で,当院でも入院患者に対する面会禁止が実施された. また石垣市内の他の医療機関も当院と同様の面会禁止 が講じられた.当院では予定入院や手術など可能な範 囲で延期する方策を取りながらも,救急医療,周産期 医療,がん診療は従来通りの対応を継続した.その中 には終末期がん患者も複数おり,面会禁止となり,入 院療養継続か在宅療養か,療養先の再検討を迫られる 事態となった. 方 法 令和 2 年 4 月 1 日∼5 月 31 日までに当院で在宅で の看取りを希望し,訪問診療の導入となった患者のカ ルテを後方視的に分析した.カルテから①年齢 性別② 原疾患③在宅療養の希望理由④在宅療養期間⑤行われ た医療処置を抽出した. 結 果 2 ヶ月間で新規の訪問診療の導入は 8 件であり(表 1),うち 5 件が面会禁止を理由に在宅療養を希望して いた.すでに死亡した 5 例を分析すると,在宅療養期 間は,平均値 13.2 日であった(最小日数 3 日間,最長 日数 25 日間).調査期間に再入院となった症例はなく, 全例が自宅で家族に見守られながら永眠した. 1)沖縄県立八重山病院総合診療科 2)沖縄県立八重山病院地域連携室緩和ケア認定看護師 3)沖縄県立八重山病院内科 著者連絡先:酒井達也 沖縄県立八重山病院総合診療科[〒907-0002 沖縄県石垣市真栄里 584-1] email: [email protected] (受付日:2020 年 8 月 24 日,採用日:2020 年 12 月 3 日) Ⓒ2021 日本プライマリ・ケア連合学会
日本プライマリ・ケア連合学会誌 2021, vol. 44, no. 1 35 表 1 年齢 性別 主病名 在宅療養理由 在宅療養期間※ 医療処置 84 歳 男 急性白血病 面会や看取り時に人数制限がある 3 日間 在宅酸素 PCA ポンプ 65 歳 男 胃癌 本人 家族が在宅療養希望 25 日間 無し 98 歳 女 急性 T 細胞性白血病 面会や看取り時に人数制限がある 14 日間 在宅酸素 67 歳 女 乳癌 面会や看取り時に人数制限がある 20 日間 無し 93 歳 女 老衰 面会や看取り時に人数制限がある 4 日間 在宅酸素 84 歳 男 末期腎不全 面会や看取り時に人数制限がある 継続中 無し 75 歳 男 肝内胆管癌 本人が在宅療養希望 継続中 無し 64 歳 男 胆嚢癌 本人が在宅療養希望 継続中 無し ※在宅療養期間;看取りまで自宅で過ごした日数を言う 考 察 令和 2 年度に訪問診療を新規導入した患者のうち 3 分の 2 弱が,面会禁止や面会の人数制限を理由に,在 宅療養を選択していた.先行研究によると,入院中の 終末期がん患者にとって,家族との面会は,生きがい の一つとなっている1) .また「大切な人の側にいる」と いうことは,終末期がん患者と家族の療養場所の選択 に影響を与えることが報告されている2) .新型コロナウ イルス感染症による面会禁止は,終末期がん患者と家 族の生きがいとなるニーズを阻害する因子となった. また当院以外の医療機関でも面会禁止となっているこ とから,患者と家族は転院の希望がなく,ニーズを満 たすことが可能な在宅療養を希望されたと考えられ た. また在宅療養期間が 1 ヶ月未満と短い症例が多く, 後方的に見ると在宅療養に早急に移行する必要性が あった.そのような中で,以前よりがん診療病院では あるが,当院が看取りを目的とした訪問診療を実施し ていたことから,速やかに患者と家族の希望に応じる ことができた. ただし佐藤らは在宅診療中止の関連因子として①明 確に在宅死を希望していない,②在宅療養を開始時に 家族の不安の 2 点を挙げている3) .今回面会禁止を受け て在宅療養を選択した患者家族は,面会禁止が実施さ れるまでは,在宅療養の意思を示していなかったため, 再入院を希望することも予想された.このような患者 と家族の心理面に配慮する必要があった.杉琴らは バックアップ機能を持つ後方病院の存在が,患者家族 にとって在宅療養の安心感になっている可能性を示唆 している4) .当院の訪問診療は「自宅にいるのが難しく なったらいつでも帰ってきていいよ」と,入院の選択 肢を患者家族に保証している.このような保証により, 患者家族が在宅療養を希望が促進された可能性が考え られた. 新型コロナウイルス感染症の状況によって,今後も 面会禁止になることが想定される.面会禁止となった 場合に,予後が短い終末期患者とその家族の「大切な 人の側にいる」ニーズを満たすために,在宅療養の移 行も一つの選択肢となる.速やかに在宅療養に移行す るために,地域がん診療病院が訪問診療を行うことは 一つの有効な手段と考える. 利益相反 本論文について著者および共著者に開示すべき利益 相反はない. 文 献 1)千田操,角田真由美,柿川房子.一般病棟における終末期 がん患者の生きがい.日本看護研究学会雑誌.2013;36 (1):113-121. 2)坂井桂子,塚原千恵子,岩城直子,他.進行がん患者の療 養の場の選択の意思決定に影響を及ぼす患者・家族の要 因.石川看護雑誌.2011;8:41-50. 3)佐藤一樹,橋本孝太郎,内海純子,他.在宅緩和ケアを受 けた終末期がん患者の在宅診療中止の関連要因.Pallia-tive Care Research.2015;10(2):116-123.
4)杉琴さやこ,古賀友之,西垣千春.終末期医療における在 宅療養の課題.社会医学研究.2009;27(1):9-16.