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介護老人保健施設の看護・介護スタッフによる日常生活における自己決定支援の積み重ねが認知症高齢者に及ぼす効果

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Academic year: 2021

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(1)老年看護学 第 24 巻第 2 号 2020.1. 原 著. 介護老人保健施設の看護・介護スタッフによる日常生活における 自己決定支援の積み重ねが認知症高齢者に及ぼす効果 Effect on Elderly People with Dementia of Self-determination Support in Daily Life Built Up by Nursing and Care Staff at Long-term Care Health Facilities. 渡辺 陽子 抄録 ●. ● . 本研究の目的は,介護老人保健施設における看護・介護スタッフによる自己決定支援の積み重ねが,認 知症高齢者に及ぼす効果と支援実施の課題を明らかにすることである.介入実施者であるスタッフ 27 人が, 間食・更衣など 4 つの活動場面で認知症高齢者に行動の選択肢を提示し,選択理由をたずねる支援を 8 週 間実施した.評価項目は認知機能検査(MMSE),前頭葉機能検査(FAB),精神機能障害評価票(MENFIS), QOL 評価尺度(DHC)得点として,ベースライン期間,介入期間,フォローアップ期間での群内前後比較 で評価した. 分析対象となった認知症高齢者 16 人への平均介入回数 79.6 回,実施度 63.5%であった.介入前後の FAB(p = 0.007),MENFIS(p = 0.014),DHC(p = 0.005)が有意に改善した.スタッフからみた認知 症高齢者の変化は『「ありがとう」ということばが増えた』『選択の機会があることで笑顔がみられた』な どであった.日常生活における自己決定支援の積み重ねが,認知症高齢者の生活によい影響を与えること が示された. ● Key. words:自己決定支援,認知症高齢者,スタッフ,介入研究 老年看護学,24(2): 65 ─ 75(2020). 大限に高める支援であり,生活を変える支援となるはず. Ⅰ.はじめに. である. 現在わが国では,認知症の人の意思が尊重され,でき. 認知症の人の自己決定について,認知症の人自身を対. る限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続. 象とした研究は多くない.Smebye らは,認知症の人の. けることができる社会の実現が目指されている.2018. 日常生活を参加観察し,日常生活行動については自律的. 年には,厚生労働省より「認知症の人の日常生活・社会. な決定が行えていたこと(Smebye et al., 2012)を報告. における意思決定支援ガイドライン」が出された.認知. した.食事や更衣などの日常動作では, ケア提供者が 「選. 症の人は決して意思がないのではなく,意思表出の困難. 択肢を提示」して「待つ」ことで選択できること(渡辺. さゆえに,周囲からみえにくくなっているだけである.. ら,2010:渡辺,2011) ,問い方によっては自分の意思. 多忙な実践現場でケア提供者が,認知症の人の意思表出. を答えられること(新里ら,2013:内ケ島,2009)が. を支援し,暮らしのなかで実現することは容易ではない. 報告されている.認知症の人自身が「自分が(決定の). が,自己決定への支援は,認知症の人の保たれた力を最. 中心にいることを望み」 「可能な限り最期まで自分で決 めることを望んでいる」 (Fetherstonhaugh et al., 2013) ことも報告されている.これらより,認知症の人も選択. 受付日:2018 年 11 月 30 日 受理日:2019 年 7 月 10 日 Yoko Watanabe:県立広島大学保健福祉学部 Faculty of Health and Welfare, Prefectural University of Hiroshima. 肢の提示, わかりやすい説明などにより自己決定ができ, それを認知症の人自身も望んでいることが明らかであ. 65.

(2) る.しかし多忙な実践現場で,日々の生活における自己. 行研究から予測される効果を〔  〕で示す.. 決定の支援が可能なのか,意思を尊重されることで認知. 本支援では,行動の選択を促しながら,認知症高齢者. 症の人の生活はどう変化するのか,について言及した研. の思いをより深く知るために選択の理由をたずねる. “第. 究はみられない.. 1 段階としてスタッフは, 「どちらがいいですか?」と. また近年では,意思決定の神経回路の実態が明らかに. たずねながら「選択肢を提示」し,2 段階では,認知症. なりつつある.Rangel らは意思決定研究をレビューし,. 高齢者の選択を「待つ」 . ”これは,選択機会があること. 好き嫌いや快不快の条件づけの選択は扁桃体が,習慣の. で自己決定への欲求が自覚され, 内側から動機が生まれ,. コントロールでは背側線条体が重要な役割を果たし,報. 動機達成の満足が得られることから設定した(Deci,. 酬の獲得に向けた目標指向型の選択には前頭前野皮質が. 1980 / 1985) .認知症高齢者は自己決定したいと内発. 関連していると述べた(Rangel et al., 2008) .Wimmner. 的に動機づけられ,<意思表出を待たれていると感じ,. らは,直接的に経験したことのない選択肢間の決定では. 迷いながらも,好き・嫌いなどの嗜好や過去の習慣を基. 海馬の活性化がみられることを報告した(Wimmer et. に選択する>〔扁桃体・線条体・海馬の活性:Rangel. al., 2012) .認知症高齢者に自己決定の支援を 2 週間継. et al., 2008,Wimmer et al., 2012〕 . “第 3 段階の「選択. 続した結果,動機づけの改善傾向がみられたという報告. 理由(思いや経験)をたずねる」 ”という支援は, 「無知. もある(渡辺ら,2010) .自己決定支援が,認知症高齢. の姿勢」 (Anderson et al., 1992 / 2014) で「 な ぜ?」. 者の認知機能や精神機能の改善につながる非薬物的介入. と問うことが「相手の世界(思いや経験)に近づく」こ. となることも予測される.. とから設定した.認知症高齢者はスタッフにたずねられ. そこで本研究では,介護老人保健施設において,看護・. ることで,<選択理由を考える>〔海馬の活性〕 .決定. 介護スタッフによって自己決定支援が積み重ねられるこ. を受け入れられることで<尊重されていると感じ,周囲. とが,認知症高齢者に及ぼす効果を明らかにする.さら. への興味や関心も広がり,自分の思いを伝えるようにな. には,自己決定を支援する際の具体的な支援方法・内容. る>〔感情表現の広がり〕 . “第 4 段階の「選択結果の共. と,支援の課題を示すことも目的とする.ケア提供者に. 有」 ”で認知症高齢者は,行動達成により生じた<感情. よる自己決定支援の効果,さらには実践するうえでの課. をスタッフと共有し,自己決定への欲求が充足され, 「次. 題が明確になれば,認知症高齢者の自己決定支援を進め. も自分で決めたい」と思う>〔前頭前野の活性:Rangel. るうえでの一助となり,意義は大きいと考える.. et al., 2008,動機づけの向上:渡辺ら,2010〕 .以上の. 〔用語の操作的定義〕. 支援過程を通してスタッフは, “たずねることで認知症. 認知症高齢者の日常生活における自己決定:認知症高. 高齢者の意思が表出されると気づき,独自の選択理由や. 齢者が認知能力に合わせた支援を受けながら,日々の食. 経験を知り,次の支援へとつながる. ”影響し合う関係. 事,更衣などの日常生活に関する行動を自分の意思で決. が促進され,援助場面での支援が 8 週間繰り返し積み重. めること.自分の意思とは支援者が行動の選択肢を準備. ねられることで,認知症高齢者の認知機能,前頭葉機能,. し, 「どちらがいいですか」とたずねたことに対してう. 精神機能,生活の質が向上すると仮説を立てた.. なずく,好みの選択肢に視線を向ける,笑顔になる,な ど表情や態度で示す意思も含む.. Ⅲ.方 法. スタッフ:看護職(看護師・准看護師)と介護職(介 護福祉士・介護士)の両者を示す.. 1.研究デザイン 研究デザインは準実験デザインとした.本研究は療養 棟全体での介入となり, 対照群の確保が困難なため, ベー. Ⅱ.認知症高齢者への自己決定支援過程と研究の. スライン期間,介入期間,フォローアップ(以下,フォ. 枠組み. ロー)期間を設定し,群内比較により,介入効果と効果 本研究では,4 段階の自己決定支援過程を作成し,人. の持続性を評価した.各期 8 週間, 全 24 週間を設定した.. の意思決定に関する先行研究の知見から介入効果の枠組 みを構成した. 以下に支援過程におけるスタッフの態度・. 2.研究協力施設および対象者の設定 本研究は,調査期間が延べ 24 週間にわたる.かつ自. 感情を“ ” ,認知症高齢者の態度・感情を< >,先. 66.

(3) 老年看護学 第 24 巻第 2 号 2020.1. 調査期間 24 週 ベースライン期間 8週. 測定. 介入期間 8週. フォローアップ 期間 8 週. 測定. 尺度名. 測定. 測定. 尺度の内容. 測定者. MMSE:認知機能検査(MiniMental State Examination). 国際的に広く使用されている簡易認知機能テストで,言語性テス 調査者が検査を実施. ト 5 問,動作性テスト 6 問で構成される.得点範囲は 0 ∼ 30 点.. FAB:前頭葉機能検査(frontal assessment battery)(Dunois et al., 2000:小野,2001). 「概念化課題」 「知的柔軟性課題」 「行動プログラム課題」 「反応選 調査者が検査を実施. 択課題」「GO / NO-GO 課題」「把握行動課題」の 6 課題からな るテストで,前頭葉機能を評価する.得点範囲は 0 ∼ 18 点.. MENFIS:精神機能障害評価票 (mental function impairment scale)(本間ら,1991). 「認知機能障害」「動機づけ機能障害」「感情機能障害」の 3 項目 で構成され,13 の行動観察の下位項目があり,主介護者による 情報が必要となる.おのおの独立して評価が可能である.「全く 障害なし 0 点」から「完全な障害 6 点」まで 7 段階で評価する. 得点範囲は 0 ∼ 78 点で,得点が高いほど障害が高度となる.. 研究仮説を知らせていな い認知症看護認定看護師 が対象者の行動を観察し, 看護師長,主任,介護主 任に行動を質問し評価.. DHC:QOL 評価尺度(Dementia 半構造化面接で介護家族に対象者の最近 1 週間の様子を聞く. 「表 対象者が施設生活のため, Happy Check̶Home Care 情の変化」 「会話の様子」 「立ち居振る舞い」 「身だしなみへの関心」 研究者が,本人の状況を Version̶)(森本ら,2002) 「活動への参加態度」の 5 項目を「適応の様子が全くない 0 点」 よく知る看護師長・主任, から「適応の様子が十分にある 10 点」の 11 件法で評価.得点範 介護主任に面接し評価. 囲は 0 ∼ 50 点. 図 1 評価尺度の測定時期と尺度内容. 己決定支援介入を施設スタッフに依頼する.施設側から. mentia rating(CDR; 臨 床 的 認 知 症 評 価 法 ) と Mini-. 多大な協力を得るため,調査者が長年にわたり研究協力. Mental State Examination(MMSE;認知機能検査)の. をいただき,定期的に通うことが可能な場所にあり,施. 測定結果を組み合わせて,調査者が評価した.. 設長,看護部長,棟管理者(看護師長・看護主任)から. 2 )介入効果の評価. 承諾を得られた,A 介護老人保健施設認知症専門棟(以. 図 1 に示すように,ベースライン期間開始時,ベース. 下,療養棟)で実施した.. ライン期間終了時(介入期間開始時) ,介入期間終了時. 療養棟 A 棟・B 棟入所者 75 人のうち, 取り込み基準 (①. (フォロー期間開始時) ,フォロー期間終了時の 4 回,4. 65 歳以上,②入所後 2 か月以上,③原因疾患診断あり/. つの尺度を用いて,テスト法と行動観察法による評価を. 脳血管疾患既往あり,④発語可能) ,除外基準(①治療. 行った.. 中の急性疾患,②退所予定,③棟管理者が介入により状. 3 )スタッフからみた認知症高齢者の変化や支援への意. 態が不安定になる可能性ありと判断)該当者は 22 人で,. 見. ベースライン期間退所者 2 人,同意が得られなかった 1. スタッフからみた認知症高齢者の変化の有無,理由な. 人を除外し 19 人に介入を実施した.フォロー期間退所. どについての自由記載を求める自記式質問紙を作成し,. 者 3 人は分析から除外し,最後までの完了者は 16 人で. 介入期間終了時,フォロー期間終了時に回答を求めた.. あった.. 支援実施中のスタッフの発言などは,フィールドノー トに記録した.. 3.データ収集 1 )基本属性. 4.介入方法. 対象認知症高齢者の年齢,性別,認知症の原因疾患,. 1 )自己決定支援プロトコルの作成. 重症度,ADL(activities of daily living;日常生活動作). 本介入では, 「認知症高齢者自身が決める」ことが重. を情報収集した.年齢,性別,ADL(バーセル指数;. 要である.先行研究から自己決定できることが示されて. BI)はカルテから情報収集した.重症度は,clinical de-. いる「間食」 「更衣」 「レクリエーション」 (以下,レク). 67.

(4) に,日中すごす場所の選択として「姿勢・活動」を加え. で比較し評価した.さらに, 認知症の重症度別に分類し,. た.また職種・経験にかかわらずスタッフ全員が自己決. 介入前後,介入前とフォロー終了時を Wilcoxon の符号. 定支援過程に沿って支援するためには,具体的な行動を. 付き順位検定で比較した.統計解析には SPSS ver23.0. 示して共有する必要があると考え,先行研究や文献(渡. を使用し,有意水準 5%,有意傾向 5 ∼ 10%とした.ス. 辺, 2011, 2014)を参考に「自己決定支援プロトコル(以. タッフの自記式質問紙の自由記載は,認知症高齢者の変. 下,プロトコル) (案) 」を作成した.その後,スタッフ. 化を感じた(感じなかった)理由について,類似した記. が業務のなかで継続可能かという視点で A 棟・B 棟の. 述をまとめて分類しカテゴリー化した.. 管理者と討議した.討議後のプロトコルを図 2 に,棟ご との方法を表 1 に示す.. 6.倫理的配慮. 2 )スタッフへの介入方法の説明と介入の実施. 本研究は,所属機関の研究倫理委員会の許可を得て. 調査者がスタッフ全員と個別面談し,書面を用いて研. 行った(承認番号第 14 MH044 号 -01) .認知症高齢者に. 究目的・方法を説明した.協力同意や拒否の意思表示は. は研究開始前に口頭での説明を行い,了解を得た.家族. 棟管理者を通さないようにした.29 人全員の同意が得. に対しては,協力棟の管理者の協力を得て,研究内容・. られた後,介入開始直前に 1 ∼ 2 人ごとに図 2 を用いて. 方法と, 研究は自由意思であり同意後も取り消せること,. 介入方法を説明した.介入期間中は介入方法を変更しな. 介入実施時や評価尺度測定時に否定的反応がある場合は. いこと,フォロー期間は意図的な介入は継続しなくてよ. 無理に実施しないこと,などを説明し,書面での同意を. いことを伝えた.介入開始後 1 週間程度は,調査者が連. 得た.収集データは ID を用いて扱い,個人が特定され. 日伺いスタッフと介入を実施した.それ以降はスタッフ. ないようにした.データ類は鍵のかかる棚に保管し,他. 主体で実施を行い,調査者は対象者を含む他入所者と関. 者の目に触れないようにした.. わりながら,選択物品の準備などスタッフの支援実施の サポートに努めた.2 人が部署移動し,最後までの実施. Ⅳ.結 果. 者 27 人(看護職 9 人,介護職 18 人)で,女性 24 人, 男性 3 人,年齢中央値(四分位偏差)43(7.00)歳,看. 1.基本属性 対象者は女性 13 人,男性 3 人で,年齢の中央値(四. 護職/介護職経験年数 15(7.00)年,認知症ケア経験 年数 7.50(3.51)年であった.. 分位偏差)は 87(4.00)歳,原因疾患はアルツハイマー. 3 )介入の実施と介入の実施状況の確認(介入実施の保. 型認知症 6 人,血管性認知症 4 人,レビー小体型認知症 疑い 1 人,脳血管疾患既往あり 5 人であった.BI の中. 証). 央 値( 四 分 位 偏 差 ) は,42.50(25.63) 点 で あ っ た.. 介 入 は,A 棟 2015 年 7 月 27 日 ∼ 9 月 18 日,B 棟 2016 年 7 月 4 日∼ 8 月 24 日の各 8 週間実施された.生. MMSE の中央値(四分位偏差)は 9.50(4.88)点,重. 活の場での介入であり,実施できない状況も予測された. 症度は軽度 1 人,中等度 7 人,重度 8 人であった.. ため,実際の介入実施回数の記録が必要と考え,スタッ フに実施有無の自己申告(実施できなかった場合に各対. 2.自己決定支援の実施状況. 象者への介入記録表に「×」を記載)を依頼した.介入. 自己決定の支援実施状況について,介入実施者である. 期間中は週 3 日間程度,調査者が介入時間帯に療養棟に. スタッフの自己申告による介入実施回数を対象者ごとに. 出向き介入状況を確認しスタッフからの質問に答えた.. 集計した結果を表 2 に,スタッフの自記式質問紙への回 答や実施時のスタッフの意見を以下に「 」で示す.各 対象者への介入回数は,平均 79.6 回(67 ∼ 89 回)で,. 5.データ分析方法. 実施度は 63.5%であった.活動別で実施回数が多かった. 認知症高齢者,スタッフの基本属性は単純集計した. スタッフ記載の支援実施回数は単純集計し,実施度は実. のは間食で,予定回数 40 回のうち平均 31.4 回,実施度. 施予定回数のうち実施回数の割合を算出した.介入効果. も 78.4%と高かった.スタッフからは「いちばんはっき. は,4 つの評価尺度の得点をベースライン期間開始時と. り選択できていた」 「またあれが飲みたいといわれた」. 終了時, 介入期間開始時と終了時, 介入期間開始時とフォ. との感想があった.更衣の実施回数は 12.9 回と少なかっ. ロー期間終了時について Wilcoxon の符号付き順位検定. たが,事前に選択肢となる靴下を準備しており,実施度. 68.

(5) 老年看護学 第 24 巻第 2 号 2020.1. 第 1 段階:選択肢を提示し意思をたずねる 行動の選択肢を提示し,どちらにするかをたずねる 飲食 例)(間食を渡し た後)コーヒー とお茶,どちら にしますか?. 更衣 例)(衣類を着用 後)どちらの靴下 にしますか?. レクリエーション (レクリエーション を実施しながら) 手芸と風船バレー, どちらにしますか?. 姿勢・活動 例)(排泄援助後) 机に戻りますか? ソファーに座りま すか?. 提示の際は,視覚・嗅覚・触覚などの感覚刺激を与えることを意識する □軽度・中等度(MMSE15 以上):ことばで伝える.選択肢を目の前に提示できる活動については,選択肢をみせる □中等度・重度(MMSE14 以下):選択肢を目の前にみせるだけでなく,手で触れられるものは自由にさわってもら う.食べ物(飲み物)はにおいを嗅いでもらう 第 2 段階:対話をしながら選択を待つ(潜在している自己決定への欲求の自覚を薦める) 「どちらが好きですか?」 「どちらでもいい」 など,いい方を少し変え て,再度たずねる 「あなた選んで」 など援助者に委ねる 「なぜいらないのです か?」と聞く 「したくない」 「いらない」と □軽度・中等度 いう (MMSE15 以上)/ 言語理解良好 ・「もの」を介して援助者 まったく意思 や他入所者とやりとり 表示しない し,選択を促す. 答えをせかさ ず,反応を 10 秒程度待つ. 「こちらがいい」 など選択の意思 を示す. 選択の意思を 示さない. 「こちらにしましょう か」と提案しながら 支援者が選択する. 選択理由をたずね, 選択が状況に 「もの」を介して会話 そぐわない をしながら,状況に 合わせた選択ができ るよう促す. □中等度(MMSE14 以下)・ 重度/言語理解困難 ・援助者や他利用者が行動 している場面をみせ, 選択を促す. 「こちらがいい」 など選択の意思 を示す. 第 3 段階:選択内容についての思いや経験をたずねながら行動を支援する 選択の理由をたずねたり,過去の経験の想起を促す会話をする 例)「なぜコーヒーにしたのですか?」「お子さんといっしょに塗り絵をされていましたか?」など. 「色がよかったから」 「昔,よく遊んだから」 などの理由を示す 「だからこちらにされたのですね」など,感じた思いを伝える 第 4 段階:選択した行動の結果を共有し欲求の充足を薦める 行動が終了した後,いかがでしたか?とたずねる. 「おいしくなかった」「楽しくな かった」など不快の感情を示す. 「楽しかった」「おいし かった」と快の感情を示す 「よかったですね」「私もうれ しいです」など,快の感情を 共有することばをかける. 「そうですか」など不快の感情を共有することば をかけ,「次は,違うものを選びましょうか」な ど,次につながることばをかける. 第 1 段階へ 枠内にスタッフの声かけ,態度を示している.予測される認知症高齢者の反応(斜体)に応じて矢印方向に進む.. 図 2 自己決定支援プロトコル. 69.

(6) 表 1 本研究での支援方法と決定理由 間食. 更衣. レク. 姿勢・活動. 通常の支援 A 棟:間食時にお茶を出す 衣類の入った袋が,スタッ 入 浴 や 集 団 リ ハ ビ リ テ ー 日中は自室外ですごす人が 方法 B 棟:間食時に牛乳を出す フによって事前に用意され シ ョ ン 等 の な い 午 後 に 実 多い.それぞれに日常的に る.入浴後に更衣する 施.誕生会,おやつづくり 座る場所が決まっている なども企画される 本研究での A 棟:入居者全員に対して 対象者の衣類袋を準備する 2 種類のレクを準備し,対 実 施 場 面 2 種類の飲み物を提示し, 際に,靴下を 2 種類入れて 象者に対してはどちらがい (理由) 対 象 者 に は 選 択 時 に「 な おく.入浴後の着衣時に, いかたずねる ぜ?」と理由を聞く 2 種類の靴下からどちらを B 棟:間食時には牛乳を飲 履くかをたずねる み,その後,対象者に 2 種 (上着類の 2 着準備が困難 類の飲み物を提示する.希 な場合あり,靴下とした) 望者にも提供する 予 定 回 数 A 棟・B 棟共に 1 回/日計 A・B 棟共に 2 回/週計 16 (理由) 40 回:5 回/週× 8 週間 回:2 回/週× 8 週間 ※平日 5 日 間. A 棟:排泄援助後に戻る場 所をたずねる B 棟:1 日の可能な時間帯 (たとえばレクの後)のな かで,移動した後に戻る場 所をたずねる. A 棟 1 回/日,計 40 回 A・B 棟共に 1 回/日 B 棟 2 回/週,計 16 回 計 40 回:5 回 / 週 × 8 週 (B 棟では毎日のレク実施は 間 困難). (n=16). 表 2 介入実施予定回数と対象者ごとの実施回数,実施度 ID 1 2 3 5 6 8 9 10 12 13 4 7 11 14 15 16 平均. 棟. 間食(40 回 a)) 回数・実施度 b). 更衣(16 回 a)) 回数・実施度 b). レク(A:40 回/ B:16 回 a)) 回数・実施度 b). 姿勢・活動 (40 回 a)) 回数・実施度 b). 計 回数・実施度 b). A. 33 28 32 15 33 33 33 32 33 32. 82.5% 70.0 80.0 37.5 82.5 82.5 82.5 80.0 82.5 80.0. 13 13 13 13 13 13 13 13 13 13. 81.3% 81.3 81.3 81.3 81.3 81.3 81.3 81.3 81.3 81.3. 22 22 21 21 21 17 21 21 22 23. 55.0% 55.0 52.5 52.5 52.5 42.5 52.5 52.5 55.0 57.5. 6 19 16 18 9 21 5 5 10 21. 15.0% 47.5 40.0 45.0 22.5 52.5 12.5 12.5 25.0 52.5. 74 82 82 67 76 84 72 71 78 89. 54.4% 60.3 60.3 49.3 55.9 61.8 52.9 52.2 57.4 65.4. B. 33 33 33 33 33 33. 82.5 82.5 82.5 82.5 82.5 82.5. 13 13 13 13 13 12. 81.3 81.3 81.3 81.3 81.3 75.0. 13 13 13 13 12 13. 81.3 81.3 81.3 81.3 75.0 81.3. 25 25 25 25 22 25. 62.5 62.5 62.5 62.5 55.0 62.5. 84 84 84 84 80 83. 75.0 75.0 75.0 75.0 71.4 74.1. 31.4. 78.4%. 12.9. 80.9%. 18.0. 63.0%. 17.3. 43.3%. 79.6. 63.5%. a)予定回数:1 週間の実施予定回数× 8 週間 b)実施度(%):実施回数÷実施予定回数× 100. は 80.9%と高かった.スタッフからは「早く着衣してい. 動の実施度 10%台の 3 人は,移動が自立していた.. ただく必要があるので慌ただしい」 という意見もあった. レクが予定回数・実施度共に少なかった理由は,毎日 2. 3.自己決定支援の効果. 種類のレクの実施は困難だったためである.スタッフか. 1 )評価尺度の得点変化. らは「レクの種類で好みがあった.利用者単位でレクを. 4 つの評価尺度の得点,比較結果については表 3 に,. しようと思う」との感想があった.姿勢・活動の実施度. 個人の得点変化を表 4 に示す.得点はすべて, 中央値 (四. が最も低かった理由として,歩行自立・車いす自走の人. 分位偏差)で示している.. は自らの意思で移動していたことが一因である.対象者. 認知機能検査(MMSE)得点:ベースライン期間開. 別では,間食の実施度が 30%台の 1 人は嚥下ゼリーを. 始時 9.00(5.00) ,介入期間開始時 11.00(7.00) ,介入. 摂取しており,選択肢の準備が困難であった.姿勢・活. 期間終了時 12.00 (6.50) , フォロー期間終了時 12.00 (6.50). 70.

(7) 老年看護学 第 24 巻第 2 号 2020.1. 表 3 認知症高齢者の評価尺度の得点変化と比較結果 中央値(四分位偏差) 得点範囲 尺度名 (得点範囲). 人数. p値. 介入期間開始時 介入期間終了時 フォロー ベースライン (ベースライン (フォローアッ アップ 期間開始時 期間終了時) プ期間開始時) 期間終了時. ベース ライン 前後. 介入前後. 介入前 フォロー アップ後. MMSE (0 ∼ 30). 15. 9.00(5.00) 0 ∼ 30. 11.00(7.00) 0 ∼ 30. 12.00(6.50) 1 ∼ 30. 12.00(6.50) 0 ∼ 30. 0.420. 0.253. 0.669. FAB (0 ∼ 18). 14. 4.00(2.00) 0 ∼ 10. 3.00(1.63) 0 ∼ 10. 4.00(1.00) 0 ∼ 13. 3.50(3.13) 0 ∼ 13. 0.039 **. 0.007 ***. 0.134. MENFIS 総得点 (0 ∼ 78) 認知機能障害 (0 ∼ 42) 動機づけ機能 障害(0 ∼ 18) 感情機能障害 (0 ∼ 18) DHC(0 ∼ 60). 16 16 16 16 16. 38.00(10.25) 39.00(9.88) 18 ∼ 62 14 ∼ 61 21.00(7.63) 24.00(8.00) 6 ∼ 37 3 ∼ 36 6.00(3.38) 7.50(2.88) 3 ∼ 14 3 ∼ 13 6.00(1.50) 7.00(1.50) 2 ∼ 13 1 ∼ 13. 36.00(10.88) 40.00(10.63) 12 ∼ 61 9 ∼ 68 20.50(6.88) 24.50(6.88) 3 ∼ 38 3 ∼ 38 6.50(3.25) 7.00(4.00) 3 ∼ 13 2 ∼ 15 4.50(3.13) 6.00(2.75) 0 ∼ 10 0 ∼ 15. 0.878. 0.014 **. 0.955. 0.719. 0.060 *. 0.636. 0.958. 0.026 **. 0.606. 0.417. 0.022 **. 0.773. 28.00(5.00) 10 ∼ 50. 30.00(9.00) 29.00(10.50) 14 ∼ 48 14 ∼ 48. 0.273. 0.005 ***. 0.001 ***. 27.00(5.00) 10 ∼ 46. * p < 0.1,** p < 0.05,*** p < 0.01 Wilcoxon の符号付き順位検定. (n=16). 表 4 対象者ごとの介入期間前後の得点変化 MENFIS ID. 原因疾患 (既往). 重症度. 軽度. MMSE. FAB. 総得点. DHC. 認知機能 障害. 動機づけ 機能障害. 感情機能 障害. 前. 後. 前. 後. 前. 後. 前. 後. 前. 後. 前. 後. 前. 後. 30. 30. 10. 13. 14. 12. 3. 3. 5. 5. 6. 4. 36. 40. 17 11 17 14 13 × 16. 14 10 13 15 16 × 18. 4 3 4 3 4 × ×. 4 3 5 4 5 × ×. 27 46 33 40 38 26 26. 16 33 36 37 36 22 25. 18 29 17 23 18 15 18. 10 21 19 21 18 14 17. 4 10 9 10 10 4 5. 4 8 9 9 8 3 5. 5 7 7 7 10 7 3. 2 4 8 7 10 5 3. 30 22 28 20 26 46 30. 38 22 30 24 34 48 40. 1. レビー疑い. 2 3 4 5 6 7 8. 血管性 脳梗塞 ラクナ梗塞 脳梗塞 血管性 血管性 AD. 9. 脳梗塞. 13. 16. 10. 12. 23. 22. 19. 19. 3. 3. 1. 0. 30. 42. 10 11 12 13 14 15 16. 血管性 AD AD AD AD 脳梗塞 AD. 7 8 5 2 1 2 0. 12 7 6 1 3 3 2. 3 1 3 0 0 3 0. 5 4 3 0 3 3 3. 36 44 46 46 57 59 61. 27 40 46 38 61 58 58. 25 31 31 35 36 36 36. 20 30 31 31 38 35 36. 5 5 11 6 13 13 12. 5 4 11 3 13 13 12. 6 8 4 5 8 10 13. 2 6 4 4 10 10 10. 28 40 20 26 14 18 10. 30 44 26 22 14 18 16. 中等度. 重度. AD:アルツハイマー病 ×:測定拒否 ■:前後で改善(MENFIS は得点低下で改善). で,介入前後で中央値の上昇はみられたが,有意な変化. 下した(p = 0.039)が,介入前後で有意に改善した(p. はなかった(p = 0.253) .. = 0.007) .. 前 頭 葉 機 能 検 査(FAB;frontal assessment battery). 精 神 機 能 障 害 評 価 票(MENFIS;mental function. 得点:ベースライン開始時 4.00(2.00)点,介入開始時. impairment scale)の「総得点」 :ベースライン開始時. 3.00(1.63)点,介入終了時 4.00(1.00) ,フォロー終了. 38.00(10.25) ,介入開始時 39.00(9.88) ,介入終了時. 時 3.50(3.13)であった.ベースライン前後で有意に低. 36.00(10.88) ,フォロー終了時 40.00(10.63)で,介入. 71.

(8) 前後で有意に改善していた(p = 0.014) .下位項目「認. た選ばせてくれる?」との思いを伝えてこられた」 ( 『 「あ. 知機能障害」は,ベースライン開始時 21.00(7.63) ,介. りがとう」ということばが増えた』 ) , 「昔の話をしたり. 入開始時 24.00(8.00) , 介入終了時 20.50(6.88) , フォロー. 普段笑顔がみられない人から笑顔がみられた」 ( 『選択の. 終了時 24.50(6.88)で介入前後の改善傾向がみられた(p. 機会があることで笑顔がみられた』 )などであった.変. = 0.060) . 「動機づけ機能障害」 はベースライン開始 6.00. 化無と感じた人は介入後 12 人, フォロー終了時 17 人で,. (3.38) ,介入開始 7.50(2.88) ,介入終了 6.50(3.25) ,フォ. 「いつ聞いてもどっちでもいいという意見が多かった」. ロー終了時 7.00(4.00)で,介入前後に有意に改善し(p. ( 『こちらがよいという明確な意思表示がなかった』 ) 「そ. = 0.026) , 「感情機能障害」はベースライン開始 6.00. の場では決定できるが持続されなかった」 ( 『選択をたず ねた場面だけの変化だった』 )などであった.. (1.50) ,介入開始 7.00(1.50) ,介入終了 4.50(3.13) ,フォ ロー終了時 6.00(2.75)で,介入前後で有意に改善して いた(p = 0.022) .. Ⅴ.考 察. QOL 評価尺度(DHC;Dementia Happy Check-Home Care Version)得点:ベースライン開始時 28.00(5.00) ,. 1.認知症高齢者に対して日常生活における自己決定支. 介入開始時 27.00(5.00) ,フォロー開始時 30.00(9.00) ,. 援を積み重ねることの効果 本介入により,前頭葉機能の評価尺度である FAB が. フォロー終了時 29.00(10.50)点で, 介入前後(p = 0.005) だけでなく,介入前とフォロー終了時でも有意に改善し. 有意に改善した(p = 0.007) .FAB はベースライン期間. ていた(p = 0.001) .. でも有意に低下しており,外的環境による変動のしやす. 2 )介入効果の重症度別評価. さがうかがえるため,自己決定支援による改善とは言い 切れない.しかし,本研究で認知症高齢者は,情動や習. 軽度の 1 人は除外し,中等度者 8 人(MMSE は 7 人, FAB は 6 人) , 重度者 7 人で, 介入前後, 介入前とフォロー. 慣,目標指向的な選択を繰り返し,選択した行動達成の. 終了時を比較した.以下の得点は,介入前・介入後・フォ. 満足を得る経験を 8 週間積み重ねた.目標指向的な選択. ロー終了時の順に示す.MMSE は中等度(p = 0.923) ,. における前頭葉の関与(Rangel et al., 2008) , 再度学習(繰. 重度(p = 0.121)共に有意な変化はなかった.FAB は. り返し学習) (Kawashima et al., 2015)による認知症高. 中等度者が 4.00(1.25) ・4.50(1.50) ・5.50(2.25) ,重. 齢者の前頭葉機能改善が報告されている.重症度別比較. 度者が 1.00(1.50) ・3.00(0.50) ・0.00(1.50)と,いず. でも,重度者に改善傾向がみられており(p = 0.059) ,. れも介入前後で改善傾向がみられた(p = 0.059,p =. 進行しても目標に向かい動機づけられ行動を繰り返すこ. 0.059) .MENFIS は中等度者のみ,介入前後の「総得点」. と,行動達成の満足感を積み重ねることによる前頭葉の. (p = 0.058)と「動機づけ機能障害」 (p = 0.063)で改. 賦活が期待できるといえ,自己決定支援が効果的な支援. 善傾向がみられた. 「総得点」は 30.0(6.75) ・29.0(7.00) ・. となる可能性が示されたと考える.加えて,精神機能を. 35.0(8.50) 「 ,動機づけ機能障害」7.00(3.00) ・6.50(2.75) ・. 評価した MENFIS が改善し(p = 0.014) ,感情機能が. 7.00(3.25)であった.DHC は中等度者が 29.00(3.50) ・. 有意に改善した(p = 0.022) .スタッフは,笑顔や感謝. 36.0(8.00) ・38.0(8.75) で, 介 入 前 後(p = 0.018) ,. のことばがみられるようになったと感じていた.感情機. 介入前とフォロー終了時(p = 0.018)で有意な改善が. 能 の 改 善 は,2 週 間 の 自 己 決 定 支 援 介 入( 渡 辺 ら,. みられた.重度者は 20.0(7.00) ・22.0(7.00) ・22.0(7.00). 2010)では認められなかった変化である.野口は「確か. で,介入前とフォロー終了時の比較で有意な改善がみら. にケアされたと思え,思わず相手に感謝したくなる瞬間. れた(p = 0.014) .. がある」 「相手に信頼され,相手を信頼していると思え るような関係が,ケアされたという感覚を生み出す」と 述べる(野口,2002) .日常生活援助を通してスタッフ. 4.認知症高齢者の変化についてのスタッフによる自由. による自己決定支援が繰り返し積み重ねられたことで,. 記載 介入終了後とフォロー終了時に,スタッフからみた認. スタッフへの信頼が生まれ,感謝の気持ちや笑顔が引き. 知症高齢者の変化有無,理由の記載を求めた. 「 」は. 出されたと推察され,関係性の構築を促すケアとしても. 記述, 『 』はカテゴリーを示す.変化有と感じた人は. 重要であるといえる. しかし有意に改善した前頭葉機能,精神機能はフォ. 介入後 15 人, フォロー終了時 10 人で, 「ありがとう」 「ま. 72.

(9) 老年看護学 第 24 巻第 2 号 2020.1. ロー期間に低下し,介入前とフォロー終了時の比較で有. 支援方法・内容を環境に応じて検討することで,可能に. 意差はなかった.認知症高齢者の変化は,活動介入中の. なると考える.しかしながら,支援継続による認知症の. みであったという報告(窪ら,2017)と一致する.認知. 人の変化を感じなかったスタッフも多く,理由は『こち. 症高齢者には短期集中的なケアよりも,継続的に積み重. らがよいという明確な意思表示がなかった』などであっ. ねられるケアが効果的といえる.多忙な実践現場で,認. た.支援目標が, 「明確な意思(選択)を導き出すこと」. 知症高齢者自身の意思に基づく日常生活を支援するうえ. となっていたことがうかがえる.自己決定支援において. での課題の抽出,解決に向けた取り組みの実施が必要と. 重要なことは,意思表出の有無にかかわらず,また他者. なる.. に選択を委ねる(Deci, 1980 / 1985)か否かも,認知. 認知症高齢者の QOL 改善は,認知刺激療法(Woods. 症高齢者自身にたずねることである.たずねることから. et al., 2006)などによる効果も報告されている.しかし. 始まる相互のやり取りの積み重ねが思いの理解につなが. 特別なことではなく,生活のなかの小さな自己決定の積. る.ケア提供者の,意思決定の本質についての理解. み重ねが QOL を有意に改善させる(p = 0.005)という. (Fetherstonhaugh, 2013)を促していくことも,自己決. 結果は,認知症ケアを考えるうえで重要である.また,. 定支援を進めるうえでの課題である.. 介入により高まった QOL はフォロー終了時も低下せず, 介入前と比較し有意に改善していた(p = 0.001) .重症. Ⅵ.研究の限界と今後の課題. 度別の比較結果をみても,中等度者だけでなく重度者も 介入前と比較し有意に改善していた(p = 0.014) .自己. 本研究は,日常生活のなかで実施する介入研究であ. 決定支援を通してスタッフが,認知症高齢者個々人に目. る.予測し得る要因の制御に務めたが,自己決定支援以. を配りやすくなり,生活の豊かさに気づくようになった. 外の要因が結果に影響した可能性は否めない.認知症の. とも推察される.認知症高齢者だけでなく,スタッフに. 原因疾患,治療内容(薬物療法)が影響する可能性もあ. もよい変化を及ぼす可能性が示唆された.. るが,十分な人数確保には至れず,原因疾患の診断がな されていない人もおり検討できていない.実践現場でス タッフにより実施される介入研究として 8 週間は長期で. 2.認知症ケアの実践現場における自己決定支援の実施. あったが,認知機能の改善(維持)を検討するにはより. 可能性と課題 本研究における自己決定支援介入の実施度は 63.5%. 長期間の介入が必要である.対象者数の増加,長期的な. で,多忙ななかで高い実施度であった.内容を棟の状況. 介入実施が必要である.意図的な自己決定支援介入を終. に合わせたこと,支援過程を具体的に提示したこと,調. えると効果が持続しなかった.実践現場での継続的な支. 査者がスタッフの支援実施をサポートしたことが要因で. 援実施には研究者と臨床現場のスタッフが協働し,ス. あると考える.また,活動別では「間食」の実施度が高. タッフ自身が主体となり支援を進める必要があると考え. かった.認知症高齢者が選択しやすく,スタッフも選ぶ. る.研究手法についても検討し,長期的な支援継続につ. よさを実感できる活動といえる.色で選択できる 「更衣」. なげることも今後の課題である.. は,物品認知が困難な重度者も選択しやすいと考えられ るが,入浴後は慌ただしいとの意見があった. 「レク」. 【謝辞】. の選択支援も毎日は困難であったことから,生活援助の. 本研究の調査にご理解・ご協力くださいました高齢者のみな. 流れのなかでていねいに意思をくみ取ることの難しさが. さま,スタッフのみなさまに感謝申し上げます.またご指導く ださいました金城大学高山成子教授,石川県立看護大学川島和. うかがえた.認知症高齢者の理解力や判断力は,実際の. 代教授,林一美教授,小林宏光教授,長谷川昇教授,貴重なご. 行動場面で意思をたずねられることで発揮されると考え. 意見をくださいました県立広島大学古屋泉教授,中垣和子助教. られるため,多忙ななかでもスタッフが落ち着いて支援. に感謝いたします.. できる場面の検討が必要となる. 「姿勢・活動」では,. 本研究は,石川県立看護大学博士後期課程における博士論文. 認知症高齢者に適した環境として,空間の配置や居場所. の一部である.若手研究(B) (課題番号:24792583) ,挑戦的. の選択などにおける融通性が勧められる.自由にすごせ. 萌芽研究(課題番号:16K15963)の助成を受けた.. る環境づくりが自己決定支援になる. 以上より実践現場での生活における自己決定支援は,. 73.

(10) 【文献】. 野口祐二 (2002) :物語としてのケア;ナラティブ・アプローチ. Anderson H, Harold G (1992) /野口裕二,野村直樹 (2014) :ク. の世界へ,189,医学書院,東京.. ライエントこそ専門家である;セラピーにおける無知のアプ. 小野 剛 (2001) :簡単な前頭葉機能テスト,脳の科学,23 (6) ,. ローチ,S・マクナミー,K・J・ガーゲン編,ナラティヴ・. 487-493.. セラピー;社会構成主義の実践,43-64,遠見書房,東京.. Rangel A, Camerer C, Montague PR(2008): A framework for. Deci EL (1980) /石田梅男 (1985) :自己決定の心理学,誠信書房,. studying the neurobiology of value-based decision making,. 東京.. Nature Reviews Neuroscience, 9 (7) , 545-556.. Dunois B, Slachevsky A, Litvan I, et al.(2000): The FAB ; A. Smebye KL, Kirkevold M, Engedal K(2012): How do persons. Frontal assessment battery at bedside, Neurology, 55, 1621-. with dementia participate in decision making related to health. 1626.. and daily care? A multi-case study, BMC Health Services Re-. Fetherstonhaugh D, Tarzia L, Nay R (2013): Being central to. search, 2016 年 4 月 19 日,http://www.biomedcentral.com/. decision making means I am still here! ; The essence of deci-. 1472-6963/12/241. 内ヶ島伸也 (2009) :認知症高齢者の日常生活ケアに関わる 「選. sion making for people with dementia, Journal of Aging Study,. 択の表明」能力と 「論理的思考」能力の特徴,北海道医療大学. 27, 143-150. 本間 昭,新名理恵,石井徹郎,他 (1991) :老年期痴呆を対象. 看護福祉学部学会誌,5 (1) ,39-47.. とした精神機能障害評価票の作成,老年精神医学雑誌,2. 渡辺陽子,高山成子 (2010) :施設で生活する中等度・重度認知. (10) ,1217-1222.. 症高齢者の自己決定の機会を提供する看護介入の効果,老年. Kawashima R, Hiller DL, Sereda SL, et al.(2015): SAIDO. 看護学,14 (1) ,5-15.. Learning as a Cognitive Intervention for Dementia Care ; A. 渡辺陽子 (2011) :高齢者施設で生活する中等度・重度認知症高. Preliminary Study, Journal of the American Medical Directors. 齢者に自己決定の機会を提供する看護介入の有効性について. Association, 16 (1) , 56-62.. の検討,人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌,11 (1) ,. 窪 優太,中澤僚一,各務真菜,他 (2017) :回復期リハビリテー. 29-40.. ション病棟入院の抑うつ・アパシーを呈する認知症高齢者に. 渡辺陽子 (2014) :生活における自己決定の看護,高山成子編,. 対する集団料理活動の効果,老年精神医学雑誌,28 (8) ,. 認知症の人の生活行動を支える看護;エビデンスに基づいた. 899-904.. 看護プロトコル,80-87,医歯薬出版,東京.. 森本美奈子,柿木達也,柏木哲夫,他 (2002) :アルツハイマー. Wimmer GE, Shohamy D(2012): Preference by Association ;. 型 痴 呆 患 者 の Quality of Life 評 価 尺 度 「Dementia Happy. How Memory Mechanisms in the Hippocampus Bias Deci-. Check̶Home Care Version̶」の開発,老年精神医学雑誌,. sions, Science, 338, 270-273.. 13 (9) ,1051-1060.. Woods B, Thorgrimsen L, Spector A, et al.(2006): Improved. 新里和弘,大井 玄 (2013) :認知能力の衰えた人の 「胃ろう」 造. quality of life and cognitive stimulation therapy in dementia,. 設に対する反応,Dementia Japan,27 (1) ,70-80.. Aging & Mental Health, 10 (3) , 219-226.. 74.

(11) 老年看護学 第 24 巻第 2 号 2020.1. Effect on Elderly People with Dementia of Self-determination Support in Daily Life Built Up by Nursing and Care Staff at Long-term Care Health Facilities. Yoko Watanabe Faculty of Health and Welfare, Prefectural University of Hiroshima. This study aimed to clarify the effect that the build-up of self-determination support by nursing and care staff at long-term care health facilities had on elderly people with dementia and the challenges of implementing this support. Twenty-seven staff members performing interventions provided 8 weeks of support in which they presented a choice of actions to elderly people with dementia in four situations including snacking and changing clothes, and asked these elderly people why they made their particular choice. The endpoints were Mini-Mental State Examination (MMSE), frontal assessment battery (FAB), mental function impairment scale (MENFIS), and Dementia Happy Check (DHC), which were evaluated by intragroup comparisons between scores at baseline, during intervention, and during follow-up. The 16 elderly people with dementia who formed the analysis set underwent a mean number of 79.6 interventions with an implementation level of 63.5%. When compared with before the intervention, significant improvement after the intervention was seen for the scores for FAB (p = 0.007), MENFIS (p = 0.014), and DHC (p = 0.005). Changes in the elderly people with dementia perceived by the staff included “an increase in the words ‘thank you’” and “smiles were seen when an opportunity for choice was presented.” These results demonstrate that a build-up in self-determination support in daily life has a positive effect on the lives of elderly people with dementia.. Key words : self-determination support, elderly people with dementia, care providers, intervention study. 75.

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