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民主主義指標と「プラグラマティック・アプローチ」 経済成長の説明要因としての民主主義に関する計量分析

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民主主義指標と「プラグマテ

ィック・アプローチ」

*

経済成長の説明要因としての民主主義に関

する計量分析

鎌原 勇太

** * 本稿の執筆にあたり,小林良彰教授および河野武司教授から 有益なコメントを頂戴した.また,匿名の査読者からは,本 稿の議論の不十分な部分を改善するのに大いに役立つご意見 を頂いた.ここに記して感謝の意を表したい.本稿は,科学 研究費補助金(特別研究員奨励費)「民主主義の新たな測定次 元とその効果測定」(課題番号:21・56591)の研究成果の一 部である. ** 著者は慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程・日本 学術振興会特別研究員(DC1). ※ 本稿はレフェリーの審査を経たものである. 2011 年 12 月受理. 民主主義はよい結果をもたらすのか.このよう な問題意識にもとづいて,経済成長や内戦といっ た様々な事象の説明要因の一つとして,民主主義 が考えられてきた 1).そして,こうした問題を検 証するために,民主主義を変数として扱うことを 可能にする民主主義指標が利用されている.その ため,多くの民主主義指標がこれまでに開発され ており,最近ではPublic Choice誌においても民 主主義指標に関する論文が発表されている(e.g., Cheibub et al. 2010). この よう に, 民主 主義 指標 は, 経済 学や 政治 学を問わず,民主主義を扱う研究にとって非常に 重要な分析道具である.それにもかかわらず,先 行研究は,民主主義指標の質や多様性に関して無 関心であったといえる.なぜならば,それぞれの 民主主義指標の間の相関係数が非常に高いことか ら,一つの分析においてどの民主主義指標を使用 しても分析結果は変わらないと考えられてきたか らである.そのため,本来ならば,指標選択に関 して,理論的に正当化しなければならないにもか かわらず,多くの先行研究は,ある特定の民主主 義指標を恣意 的に選択して きた.これに 対し, Casper and Tufis (2003) は,用いる指標によっ て分析結果が異なることを示し,計量分析におけ る民主主義指標の選択の重要性を明らかにした. それ では ,こ れま で開 発さ れて きた 民主 主義 指標のなかから,最適な指標をどのように作成・ 選択すればよいのであろうか.残念ながら,その ための一つの決定的な指針など存在しない.そこ で,本稿では,指標を恣意的に選択するというこ れまでのアプローチと異なり,研究対象と合致し た民主主義概念やその構成要素にもとづいて指標 を作成または選択するという理論的正当化を意識 したプラグマティック・アプローチを提示する. 本稿の構成は次の通りである.第 2 節では, これまで開発されてきた民主主義指標の多様性に ついて,2 つのレビュー論文に依拠して概観する. 第 3 節では,プラグマティック・アプローチの 1) 民主主義と経済成長の関係については Barro (1996) を,民 主主義と内戦についてはHegre et al. (2001) をそれぞれ参照.

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定義とその意義について論じる.第 4 節では, プラグマティック・アプローチを用いて,民主主 義と経済成長の関係に関する計量分析を行う.民 主主義が経済成長に及ぼす影響に関しては,様々 な仮説が提示されている.そこで,プラグマティ ック・アプローチにもとづいて,各理論に合った 指標を選択することで分析結果の解釈が容易にな ることを明らかとする.最後に,第 5 節で,本 アプローチの問題点を議論する. 2. 民主主義指標の概観―共通点と相違点 本節では,Munck and Verkuilen (2002) と鎌 原 (2011) による既存指標のレビューに依拠して, これまでの民主主義指標の特徴を概観する. 多くの実証研究において,民主主義は「手続き 的」(procedural)に定義されており,民主主義 指 標 も こ の 手 続 き 的 定 義 に 依 拠 し て い る (Munck and Verkuilen 2002, p. 9).民主主義の

手続き的定義とは,民主主義という概念のなかに, 独裁や民主主義において発生した暴力や貧困とい った政治的帰結を含めないことを意味する.つま り,民主主義を手続き的に定義することで,民主 主義と政治的帰結との間の関係を分析するために 適した民主主義を概念化できるのである(ハンチ ントン1995, 6-7 頁; Munck and Verkuilen 2002, p. 9). それでは,手続き的定義という点で共通する民 主主義指標は,どのような点で異なるのであろう か.ここでは,指標の構成要素と当該指標が連続 変数であるか否か,という2 点から議論する. 2.1 多様な構成要素 既存指標の多くは,ダール (1981) の二次元に 依拠している(Munck and Verkuilen 2002, p. 9). ダ ー ル は , 政 府 に 対 す る 異 議 を 容 認 す る 「公的異議申立て」(または「政治的競争」)と異 議が可能な市民の「比率」を表す「包括性」(ま たは「参加」)という二次元によって,民主主義 が成り立つと考えた(ダール 1981, 5-10 頁). 鎌原 (2011) は,このダールの二次元を元に, 既存指標の構成要素の特徴を分類した.まず,既 存指標の「公的異議申立て」の次元は,次の 5 つの下位要素の組み合わせから成り立っていると される.これらは,それぞれ(1)政党間の競争 が実現している選挙を意味する「自由選挙・複数 政党制」,(2)競争的な選挙の過程や結果が不正 な手段によって歪められていない「自由で公正な 選挙」2),(3)選挙の結果として多党制が成立し ていることを 表す「最大政 党の獲得票数 や議席 数」,(4)「政権交代」,最後に,(5)組織や表現 の自由,政府の抑圧からの自由といった「政治的 自由」である.次に,「包括性」は,(1)国家に 属する全成人が選挙権を有する「普通選挙権」, (2)選挙権だけでなく,その権利を実際に行使 することを重視する「投票率」,そして(3)市 民の一票が等 しいことを前 提とする「票 の等価 性」という異なる下位要素の組み合わせによって 操作化される(鎌原2011, 112-116 頁). また ,こ の二 次元 の他 に, 軍部 など の非 選出 権力による重大な介入を許さず,選挙で選ばれた 議員や政府が実際に政策を決定する「選出された 議員の議題設定能力」(agenda-setting power of elected officials ) と い う 構 成 要 素 も あ る (Munck and Verkuilen 2002 )3). さ ら に ,

Freedom House (2011) は,経済的な諸権利や自 由,「法の支配」といった民主主義とは直接関係 の な い 要 素 も 考 慮 に 入 れ て い る (Munck and Verkuilen 2002, pp. 9-12). 鎌原 (2011) の議論からも明らかなように,既 存の民主主義指標は,多様な構成要素の組み合わ せから成り立っている. 2.2 多様な得点化 4) 民主 主義 指標 は, その 得点 化の 段階 にお いて も多様である.1990 年代以降開発された指標は, 2) 「自由で公正な選挙」には,「自由選挙・複数政党制」の要 素も必然的に含まれているといえよう.

3) さらに,Munck and Verkuilen (2002) は,公職が選挙によ

って決められることを意味する「公職」(offices)を民主主義

にとって不可欠の要素と考えている.

4) 本項は,鎌原 (2011) の第三章と第四章第三節に依拠してい

る.

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3 種類の得点化の方法のいずれかを採用している. まず ,民 主主 義を ,民 主主 義か 否か とい う二 値 的 な 概 念 で あ る と 捉 え る 指 標 が あ る (e.g., Przeworski et al. 2000; Cheibub et al. 2010). これに対し,民主主義と権威主義(または独裁) という 2 つの分類では捉えきれない体制分類が 存在すると主張する研究がある.ダールの二次元 である競争や参加が達成されている民主制やそれ らが欠如している独裁制とは異なり,競争や参加 が 不 十 分 な 半 民 主 制 が 存 在 す る の で あ る (Diamond et al. 1989, pp. xvi-xvii).したがっ て,このような想定を採用した場合,民主制,半 民 主 制 , 独 裁 制 と い っ た 三 値 の 指 標 と な る (Gasiorowski 1996; Mainwaring et al. 2001;

Reich 2002).さらに,民主主義は,高低といっ た「程度」で表すことができる連続的な概念であ る と 考 え る 研 究 も 多 い (Bollen and Jackman 1989; 例 え ば Coppedge and Reinicke 1990; Freedom House 2011; Marshall and Jaggers 2009; Vanhanen 2000).以上のように,多くの 研究が,二値や三値,そして連続変数という 3 つの方法によって民主主義を得点化してきた(鎌 原 2011, 116-120 頁). しかし,1980 年代までは,これら 3 つの方法 以外でも民主主義の得点化が試みられた.それは, 民主主義を経験または継続してきた「年数」とし て定義するものである(e.g., Muller 1988).だ が,Bollen and Jackman (1989) によると,民 主主義の経験または継続年数には,民主主義と政 治的安定という異なる概念を区別できないという 問題があるとされる.したがって,民主主義を年 数の観点から得点化する方法は使われなくなった と考えられる(鎌原 2011, 110 頁). 本節では,既存指標に関する 2 つのレビュー に依拠し,指標の構成要素と得点化の観点から, その共通点と相違点を概観した.表 1 は,この 議論をまとめたものである.本表からも明らかな ように,民主主義指標は,その作成方法や特徴に 関して様々である. それ では ,民 主主 義指 標を 作成 する 際, この ような種々の構成要素や得点化の方法のなかから, どのように適切な方法を選択すればよいのか.ま た,計量分析の際,これら様々な指標のなかから, どのように適切な指標を選択すればよいのであろ うか. 3. プラグマティック・アプローチ―定義とその 意義 既存の民主主義指標に関するこれまでの議論か ら明らかなように,民主主義指標は非常に多様で ある.しかし,民主主義指標を作成するための一 つの決定的な指針など存在しない. そこで,指標作成では民主主義の定義が一つの 重要な基礎となる.民主主義を測定するために必 要十分な下位要素の選択や,「二値」としての民 主主義と「程度」としての民主主義との間の選択 は , す べ て こ の 定 義 に 依 存 し て い る (Munck 2009, p. 120; Munck and Verkuilen 2002, p. 7). しかし,第 2 節で論じたように,同じ手続き的 定義を採用し,競争と参加という構成要素に合意 したとしても,その下位要素の定義は大きく異な る.それでは,作成者は,どのような民主主義の 定義を選択すればよいのであろうか. また ,非 常に 多く の指 標が ある ため ,そ の利 用者にとって適切な指標の選択は難しい.これま で,それぞれの民主主義指標の間には高い相関関 係があることから,どの指標を分析で使用しても 構わないと考えられてきた.そこで,各指標の民 主主義の定義を十分に検討せずに,対象国の数や 対象期間,そして慣習などの点から特定の指標が 利 用 さ れ て き た (Casper and Tufis 2003, pp. 196-197).特に,内戦研究をはじめとする国際 関係論では Polity スコア(e.g., Marshall and Jaggers 2009)が,経済成長に関する研究では Freedom House(e.g., 2011)が一般的に使用さ れる(Vreeland 2008, p. 420; Brunetti 1997, pp. 167-171).

しかし,Casper and Tufis (2003) は,このよ うな民主主義指標の違いに無関心な姿勢を批判し ている.彼らによる分析の結果,同じ分析モデル でも使用する指標によって結果が異なることが示

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表 1 民主 主義指 標の多 様性 指標 国家数 データ期 間 ダールの 二次元 他の構成 要素 民主主義 指標の 得点範囲 二値・三 値・ 程度・ス トック 公的異議 申立て ( 競争) 包括性( 参加) 最低点 最高点 C oppe dg e a nd R ei ni ck e ( 19 90 ) 163 198 5 自由で公 正な選 挙 政治的自 由 なし なし 10 0 程度 G asi or ow sk i ( 19 96 ) およびそ の拡張 版である R ei ch (2 00 2) 147 独立 –1 99 8 自由で公 正な選 挙 政治的自 由 普通選挙 権 議題設定 能力 1 b 3 b 三値 G er rin g et a l. ( 20 05 ) a 202 195 0– 200 0 複数政党 の選挙 なし 議題設定 能力 – 604 .6 4 637 .6 3 ストック Fr ee dom H ous e ( 20 11 ) 204 197 2– 自由で公 正な選 挙 政治的自 由 普通選挙 権 票の等価 性 議題設定 能力 アカウン タビリ テ ィー 学問の自 由 経済的自 由 法の支配 など 7 1 程度 M ai nw ar in g e t a l. (20 01) 19 194 5– 199 9 自由で公 正な選 挙 政治的自 由 普通選挙 権 議題設定 能力 1 b 3 b 三値 Po lit y I V (M ar sh al l an d J ag ge rs 2 009 ) 189 180 0– 複数政党 の選挙 なし 議題設定 能力 –1 0 10 程度 Pr ze w or sk i e t al . ( 200 0) および その 拡張版で あ る C he ib ub et a l. ( 20 10 ) 199 194 6– 200 8 自由選挙 ・複数 政 党制 最大政党 の得票 数 ・議席数 政権交代 なし なし 0 1 二値 V an ha ne n ( 20 00 ) 191 181 0– 200 0 最大政党 の得票 数 ・議席数 投票率 なし 0 47. 08 程度 出典 ) 本表は , M un ck (2009) , T abl e 2. 1 お よび 2.3 , Pem st ei n, M es er ve, a nd M el to n ( 20 10) , T ab le 1 , そして 鎌原 ( 201 1) , 表 1 およ び 図 1 を元に , 筆者が , 本稿で挙げた指標に関する情報を選択・修正・追加し 作成したものである . 注 ) a. D em ocra cy S to ck は , 指標作成にお いて Po lit y スコアを 主に 利用している . b. 実際に数値は割り 当てられていないが , 3 つの政治体制を区別する三点尺度 としても扱われる ため便宜上の数値を割り当てた .詳しくは各指標を参照.

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され,分析において指標の選択が重要であること がわかっている.したがって,指標間の特徴の違 いを考慮しない指標選択は問題といえる. それでは,民主主義指標の作成や選択における 決定的な指針がないような状況で,どのように指 標を作成し利用したらよいのであろうか.本節で は,その一つの指針となりうる「プラグマティッ ク・アプローチ」(pragmatic approach)を紹介 する. 本稿でのプラグマティック・アプローチとは, 安易に特定の指標を選択するのではなく,民主主 義概念そのものや構成要素,得点化というそれぞ れの点で研究目的と照らし合わせることによって, 仮説検証に対して最も望ましい指標を作成・選択 す る こ と で あ る . こ の ア プ ロ ー チ は , 元 々 , Collier and Adcock (1999) によって提示された 方法で,民主主義という概念を定義し指標として 操作化する際に,民主主義は二値なのか程度なの かという問題に対する一つの解決策として提示さ れた.彼らは,民主主義を二値的に捉えることも 程度として捉えることも可能であるため,民主主 義を常にどちらか一方で捉えることは不可能であ ると主張した.そこで,彼らは,研究目的や研究 対象に応じて民主主義を概念化するという「プラ グマティック・アプローチ」を提示した.例えば, 民主化といった体制移行が研究対象であるとき, その移行が急激な事象であった場合は二値を,漸 進的な事象であった場合は程度を選択するという 方法である(pp. 552-553). 本稿 では ,こ のア プロ ーチ の適 用対 象を 民主 主義指標の作成に関するすべての段階に拡大する ことで,研究目的と合致した指標の作成または選 択が可能となるアプローチとして再定義する. まず,民主主義指標を作成する場合,指標作成 の対象を明確にする必要がある.例えば,民主主 義体制下における選挙だけに注目しているのか, それとも政治的自由に焦点を合わせているのかを 明確にしなければならない.民主主義に多様な下 位要素があるなかで,仮に,作成者の研究目的が 選挙を導入することで達成される民主主義を対象 とするならば,作成者の「民主主義」にとって不 可欠な制度や基準,特徴は,自由で公正な選挙で あろう. また ,指 標の 利用 者は ,そ れぞ れの 指標 が測 定している民主主義の定義やその構成要素の内容 を十分に吟味したうえで,自分の想定する民主主 義概念や因果メカニズムに合った適切な指標を選 択しなければならない(Casper and Tufis 2003, p.203).例えば,Hegre et al. (2001, p.33) は, 半民主制では,抑圧によって不満が生じるなか部 分的な自由によって政府に抵抗する組織が結成さ れやすいため,内戦の危険性が最も高くなると考 えた.しかし,彼らの分析では,民主主義の構成 要素に自由を含まない Polity スコアが使用され ている.したがって,彼らの選択した指標は,仮 説を検証するのに望ましいとはいえない. 得 点 化 の 選 択 の 場 合 も 同 様 で あ る . 先 述 の Collier and Adcock (1999) の指摘のように,民 主主義指標の目的によって得点化の方法は異なる. 政治体制の分類や急激な移行を研究対象とするな らば,二値や三値といった指標が用いられる.こ れに対し,民主主義の程度の評価や段階的な体制 移行,さらには民主主義国間の民主主義の程度を 分析するならば,連続的な指標が用いられよう. したがって,指標の作成者や利用者は,その利用 目的に沿って異なる得点化の方法や指標を決定す る必要がある. この よう に, プラ グマ ティ ック ・ア プロ ーチ を採用することで,曖昧であった指標の作成基準 や選択基準が明確になる.もちろん,既存の研究 でも研究者個人の理論にしたがって指標を作成・ 選択している研究は存在する(e.g., Przeworski et al. 2000).近年では,民主主義の構成要素に 注目し,適切な民主主義変数を選択する研究も発 表されている.Pinto and Timmons (2005) は, 投資や人的資本といった経済成長に資する事象と 政治的競争との関係に注目し,Polity スコアの構 成要素の一つである政治的競争の変数のみを用い て分析している.また,Boix (2011) は,民主主 義全体を表す Polity スコアと,その構成要素の な か で 行 政 府 に 対 す る 制 約 を 表 す Executive Constraints を区別し,それらと経済成長との関

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係を分析している5) この よう に, 民主 主義 指標 の作 成や その 構成 要素の選択に関して重要性は高まっているものの, 先述のように,指標の利用者の多くが,特定の指 標を無自覚に利用しているのが現状である.つま り,一部の研究を除いて,これまで多くの研究が, 異なる研究目的や理論的想定に対して妥当な指標 を選択していたのではなく,ある特定の指標を恣 意的に選択していた.この状況で特に問題となる のは,民主主義とある政治的帰結との間に想定さ れる因果関係が複数存在する場合である.例えば, 選挙によってある政治的帰結が引き起こされるの か,それとも政治的自由があることによってその 政治的帰結の発生確率が高くなるのか.このよう に,異なる因果関係を想定する複数の研究の間で, 一つの共通する民主主義指標が利用された場合, どの因果関係が実証されたか判断することは困難 である. した がっ て, 指標 の利 用に 際し ては ,研 究目 的に対して最適な特徴をもつ指標をその都度選択 することが望まれる.仮に,これまで論じてきた 既存の民主主義指標のなかに適した指標がないの ならば,既存指標の改善,または新たな指標を作 成する必要があろう. 4. プラグマティック・アプローチの適用例―経 済成長 の説明要因と しての民主主 義に関する 計 量分析 ここまで,種々の方法論や指標群のなかから適 切なものを選択するための方法として,プラグマ ティック・アプローチについて論じてきた.本節 では,このアプローチの有用性を明らかにするた めに,経済成長を従属変数とし,民主主義指標を 独立変数とした計量分析を行う. 5) Boix (2011) が行った分析より,(1)行政府に対する制約は 経済成長を促すとともに,その成長が行政府に対する制約を 強化すること,(2)その経済成長が民主主義を促進すること が示唆されている. 4.1 先行研究 民主 主義 は経 済成 長に 寄与 する のか .経 済成 長に対する民主主義の影響に関しては,理論的に も実証的にも一貫していない(Sirowy and In-keles 1990).それでは,民主主義と経済成長に 関して,どのような仮説・理論がこれまで提示さ れてきたのであろうか 6) まず ,民 主主 義の 一次 元で ある 公的 異議 申立 てと経済成長との関係に関する二つの仮説・理論 を論じる.第 1 に,政権交代を可能とする選挙 が行われる国家では,政治家が再選可能性を上昇 させようとする.そのため,市民の富を増やすた めの経済成長を促す政策が行われたり,汚職の防 止といった制度能力が改善されたりする結果,経 済 が 成 長 す る と さ れ る (Olson 1993; 福 味 2006).第 2 に,表現の自由といった個人権や所 有権などの政治的・経済的自由が経済活動を活発 にするため, 経済成長が促 進すると考え られる (Goodin 1979; Olson 1993). 次に ,民 主主 義の 包括 性の 側面 と経 済成 長と の関係については,多様な政治的アクターや利益 集団が政治過程に参入することで生じるレントシ ーキングや政治的圧力の結果,経済成長が阻害さ れると考えられる(Haggard 1990; 福味 2006). また ,政 治体 制に おけ る権 力の 観点 から ,民 主 主 義 と 経 済 成 長 と の 関 係 に つ い て 論 じ る . Olson (1993) は,無政府状態から独裁政府が誕 生する過程や,民主主義体制も独裁体制も指導者 の自己利益の追求という点で経済発展に寄与しう ること,独裁制からの民主化などについて説明を 試みた.Olson (1993) の議論によると,ある一 人または少数の人間に権力が集中する独裁体制下 では,その社会の秩序が安定するとともに,権力 者が自己利益最大化のための行動をとるため,ア ナーキーな社 会よりも経済 が成長すると 考えた (pp. 568-570).その一方で,先述の通り,民主 主義体制下でも,選挙での勝利のために,多数派 の富を増大させる必要性から,経済が成長すると 6) 本稿で議論する仮説・理論はごく一部である.詳しくは,

Sirowy and Inkeles (1990) や Przeworski and Limongi (1993) などを参照.

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される.また,独立した司法によって個人権や所 有権が保障される結果,経済が成長しうることを 論じた(pp. 570, 572).民主主義が国家の独占 的で非効率的な行動を抑制させるという議論を踏 ま え る と (Przeworski and Limongi 1993, p. 57),政権交代の可能性の存在という意味での権 力の抑制と独立した司法機関の存在といった権力 の多元性が経済にとって重要であるといえる. それ では ,民 主主 義と 独裁 の間 の中 間的 な体 制と経済成長との関係はどのように考えられるで あろうか.Olson (1993) は,この問題を検討し てはいない.ここで,Gurr (1974) が提示した中 間体制である「アノクラシー」(anocracy)が示 唆を与えてくれる.これは,多元的な権力が制度 化されている民主主義や独占的な権力が制度化さ れている独裁と違い,権力が制度化されていない 体制を表す(p. 1487).そして,アノクラシー国 家は,国家の能力が低いとされ,内戦が発生しや すいとされる(Fearon and Laitin 2003).つま り,権力が集中しておらず国力の弱い体制は,経 済成長のために資源を投入するような権力の地位 が安定してないと考えられる.また,独裁制のよ うに秩序を安定させることも困難である.したが って,権力の集中する独裁体制と権力が多元的ま たは抑制されている民主主義体制の方が,その中 間的な体制よりも経済が成長しやすいことになる. つまり,民主主義と経済成長との関係は U 字型 であると解釈できる. これに対し,Barro (1996) の実証分析では, 民主主義と経済成長との間に,非線形で逆 U 字 型の関係が観察された.彼の解釈によると,独裁 制における政治的権利の拡大は,政権の権力を制 限することで経済成長に寄与するが,民主主義体 制では,所得再配分の圧力が高まるため経済成長 は疎外される .このように ,権力の集中 と抑制 (または多元化)の観点から,民主主義と経済成 長の関係を検討した場合,アノクラシーに依拠す る議論と Barro (1996) の分析結果や解釈とは一 貫していない. 最後に,Gerring et al. (2005) は,ある時点に おける民主主義の「程度」(level)が高いほど経 済が成長するのではなく,民主主義を経験した年 数 が 長 い , つ ま り 民 主 主 義 の 「 ス ト ッ ク 」 (stock)が多いほど経済が成長すると主張する. なぜならば,民主主義体制が持続することで,意 思決定の質が改善される「学習」(learning)と 統 治 機 構 や 意 思 決 定 の 手 続 き な ど の 「 制 度 化 」 (institutionalization)が行われるため,より良 い政策が実行されると考えられるからである. 以上 のよ うに ,民 主主 義と 経済 成長 との 間の 因果関係には,様々な,時には対立する仮説や分 析結果がある.もちろん,それぞれの仮説には, 理論的な類似点がみられる.しかし,それぞれの 仮説が強調する点は,選挙や政治的自由,多様な アクターの存在や権力,そしてストックといった ように異なる.したがって,対立する仮説がある なかで,選択する民主主義指標によって分析結果 が異なることは重大な問題である.特に,恣意的 に選択した一つの民主主義指標を用いた計量分析 の結果では,これらの仮説のなかでどの仮説が実 証されたか判別できず,研究者の解釈に頼らざる を得ない.つまり,それぞれの仮説・理論に最適 の指標を選択する必要がある. 次項 では ,本 項で 挙げ た仮 説・ 理論 を検 証す るために,プラグマティック・アプローチによっ て各仮説・理論に適した指標を作成・選択し,計 量的に分析を行う. 4.2 分析枠組 Gerring et al. (2005) は,経済成長の要因とし て,ある時点の民主主義の程度ではなく民主主義 を経験してきた年数(=ストック)に注目した. そこで,彼らは,程度とストックを表す両指標を 作成して計量分析を行い,民主主義の程度ではな くそのストックが多いほど,経済が成長しやすい と結論付けた.彼らの方法論は,本稿で提示した プラグマティック・アプローチの実践であるとい えよう.研究目的によって選択する指標の性質が 異なるならば,Bollen and Jackman (1989) な どに否定された民主主義経験年数を選択すること も可能である.民主主義の経験年数と経済成長と の関係を検証するという研究目的は,民主主義概

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念を程度とストックに区別し,経験年数の観点か ら民主主義を操作化する正当性の根拠となるから である. しかし,Gerring et al. (2005) の分析では,民 主主義の程度と経済成長に関する因果メカニズム について詳細な検討が行われたとはいえない 7). そこで,本稿では,彼らのデータセットと分析モ デルに依拠し,前項で挙げた各仮説・理論を表す のに最適な指標を用いて分析を行う. 4.2.1 変数設定 まず,従属変数である経済成長は,Gerring et al. (2005) が 用 い た 一 人 当 た り GDP 成 長 率 (GDP Growth)を利用する. 次に,独立変数について論じる.Gerring らは, いわゆる条件付き収束率を表す変数として,対数 変換した一人当たりGDP(GDP pc (ln))を用い ている. 続い て, 民主 主義 に関 係す る変 数に つい て論 じる.まず,Gerring et al. (2005) の分析では, 民主主義の程度を表す変数として Polity スコア が使われた(Imputed Polity 4)8).彼らは,複 数の民主主義指標を利用することで,Polity スコ アの値が欠損しているケースを補完している. これ に対 し, 彼ら は, 学習 効果 や制 度化 によ る民主主義経験の蓄積を,1900 年から分析対象 年までの民主主義の程度の蓄積であると考えた. ただし,過去の民主主義の程度の価値は毎年 1% ずつ低下すると考え,以下の式によって民主主義 ストック (Stock)を算出した(Gerring et al. 2005, p.348). democracy stocki, t

= − t s s t 19000.99 democracy leveli, s こ こ で ,i は 国 家 を , t は 年 を 表 す . ま た , democracy level は,先述の Imputed Polity 4 で ある.

従属変数のGDP Growth から Stock までの 4

7) Boix (2011) の分析に関しても,行政府に対する制約以外の

民主主義の側面と経済成長との間の因果メカニズムについて, 十分な検討が行われてはいない.

8) 本 稿 の 参 考 文 献 に 挙 げ ら れ た Polity IV( Marshall and

Jaggers 2009)のバージョンとは異なる. 変数は Gerring et al. (2005) のデータセットの 変数をそのまま利用する 9). それでは,前項で論じた仮説・理論に対応する 民主主義変数はどのようなものであろうか.まず, 第 1 の仮説,つまり,選挙における再選や政権 交代がもたらす政治家の合理的な行動と経済成長 との関係を検証するためには,民主主義体制下に おける競争的な選挙と政権交代を測定し,政治的 自由といった他の構成要素を含まない指標が望ま しい.また,そのような競争的な選挙という事象 は,実施されるか否かという二値的なものである と 考 え ら れ る . し た が っ て ,Cheibub et al. (2010) の DD 指標が最適であろう(表 1 参照). 次に,第 2 の仮説は,民主主義体制下の個人 が有する政治的権利や政治的自由,そして民主主 義と密接な関係にある経済的自由を重視している. Freedom House (2011) の指標は,政治的権利を 測定するPolitical Rights と表現・組織の自由, 法の支配,経済的自由を測定するCivil Liberties の二次元で構成される.本指標は,法の支配のよ うに第 2 の仮説の強調する政治的・経済的自由 を越えた要素も測定している.だが,既存の民主 主義指標のなかで経済的自由を測定している指標 はFreedom House に限られる.そこで,既存指 標 の な か か ら 選 択 す る と い う 限 り に お い て , Freedom House の指標が最適であろう. それでは,Freedom House の指標をどのよう に 利 用 す れ ば よ い の で あ ろ う か .Barro (1996) は,前者の Political Rights を主に利用してい る 10).しかし,第 2 の仮説では,政治的・経済 的自由は相互に密接な関係があると考えられるた め,Freedom House の二次元のどちらか一方だ けを変数として利用することはできない.ある概 念を表すためにすべての構成要素が不可欠である 場合,それら をすべて掛け 合わせる必要 がある (Vanhanen 2000, p. 256).そこで,本研究では,

Political Rights と Civil Liberties を掛け合わせ

9) 彼 ら の デ ー タ は , http://people.bu.edu/jgerring /Comparative_Politics.html からダウンロード可能. 10) ただし,Freedom House の測定対象期間ではない 1960 年 と65 年については,Bollen (1990) の指標を使用している.

(9)

表 2 「理論・変数」対応表 先行研究 変数 想定している関係 公 的 異 議 申 立 て 1. 選挙 DD 2. 政治的・経済的自由 FH 多 様 な ア ク タ ー の 参 入 3. 多様なアクター(政党) Competition 4. 多様なアクター(市民) Participation 5. 多様なアクター(政党と市民) ID 権 力 6. 権力の集中と抑制 XCONST 経 験 年 数 7. 民主主義ストック Stock 出典)本稿の議論を元に筆者作成.

注)Y 軸:Economic Growth,X 軸:Democracy Score

た変数(FH)を利用する11) 多様 なア クタ ーの 参入 によ って 経済 成長 が阻 害されると考える第 3 の仮説については,利益 集団に支援される政党と多くの市民が選挙に参加 することの 2 点から捉えることができる.先述 の通り,複数の勢力が政治過程に介入することで レントシーキングが生じるとされる.これは,政 権交代や競争的な選挙の影響というよりも,利益 集団やそれらを支援する政党が複数存在すること 11) Freedom House の指標は,数値が小さくなるほど民主的で あることを意味する(表1 参照).そこで,数字が大きくなる ほど民主的であると解釈できるように値を変換してある. によって生じる現象であると考えられる.そこで, Vanhanen (2000) が,最大政党の獲得票数(ま たは議席)割合を 100 から引くことで算出した Competition が最適の変数であろう 12).なぜな らば,この数値が高いほど,第一党の力は弱く, 他の政党の政治的影響力が強まると考えられるか らである.また,市民が選挙に参加するほど,つ まり投票率が高いほど,高等教育を受けた層や富 裕層以外の有権者の声は政治に反映されるやすく 12) この変数は,元々,ダールの二次元のなかの公的異議申立 て(競争)を表している.しかし,様々な政党の政治過程へ の「参加」の側面を示す変数としても利用できよう.

(10)

なる(Lijphart 1997).したがって,Vanhanen (2000) が投票数を全人口で割ることで算出した Participation が最適であろう.さらに,政党と 市民の参加は,相互に独立して経済成長に影響し ているとは限らない.つまり,政党と市民による 両者の影響が経済成長を阻害しているとも考えら れ る . そ こ で ,Vanhanen (2000) が Competi-tion と ParticipaCompeti-tion を掛け合わせることで作成 した民主主義変数であるID も分析で用いる. 最後 に, 権力 の集 中と 抑制 に関 する 仮説 を表 す 指 標 に つ い て 論 じ る .Barro (1996) は , Freedom House の 構 成 要 素 の 一 つ で あ る Political Rights を使用した.しかし,本指標は, 権力の多元性といった要素だけでなく,自由・公 正な選挙の実施や政党結成の自由といった要素も 含 む た め , 第 1・ 2 仮 説 を 表 す 変 数 ( DD や FH)との区別が難しい.そこで,権力の集中と 抑制をより直接的に測定した変数が必要となる. Polity IV の構成要素の一つである Executive Constraints(XCONST)は,意思決定において, 行政府の権力が,議会や政党,司法や軍部などの 他の機関によって制約される程度を測定している. そこで,本稿ではこの XCONST を使用する 13). この指標は,行政府の権力に制約がないことを示 す 1 点から,議会などの他の機関が行政府と同 程度かそれ以上の権力を有することで権力が分立 し,行政府の権力を抑制・制約していることを表 す 7 点までの 7 点尺度である(Marshall and Jaggers 2009, pp. 23-24). ここ まで 論じ てき た仮 説・ 理論 と変 数の 対応 は表2 の通りである. 4. 2. 2 分析手法 Gerring et al. (2005) の分析コマンドが公開さ れていないため,彼らの分析を完全に再現するこ とはできない.そこで,本稿では,彼らの記述か 13) 先述の通り,Boix (2011, pp. 819-820) は,分析の一部で, 当該変数を使用している.ただし,彼は,民主主義と経済成 長に関して線形関係のみを想定している.本稿では,仮説で 非線形関係が想定されているため,二乗項が使用される点が 異なる(4.2.2 参照). ら類推できる形で分析を再現する 14).まず,デ ータセットがパネル・データであることから,彼 ら と 同 様 , 一 階 の 自 己 相 関 を 考 慮 に 入 れ た Newey-West 標準誤差を用いた回帰分析を行う. また,各国の固定効果を考慮に入れるため,各国 ダミーを変数として投入する 15).さらに,一部 の仮説・理論では,経済成長に対する民主主義の 非線形効果が想定されている.そこで,本稿では, DD と Stock 以外の民主主義変数については,そ の二乗項も分析に投入する. 分析のケースは country-year で,分析期間は 1951~2001 年である.ただし,従属変数と独立 変数との間には1 年のラグを取っている 16). 4.3 分析結果 分析結果は,表 3 の通りである.各モデルの 上部に示されている変数名は,各モデルで投入さ れ た 民 主 主 義 変 数 を 表 し て お り , 左 の 列 の Democracy および Democracy^2 に対応してい る.

Gerring et al. (2005) の Table 1 の分析結果と 本研究で再現した Model 1 を比較すると,定数 項以外は同じである.したがって,本研究の分析 は Gerring らの分析を十分に再現できたと考え られる. Model 1 の結果より,民主主義ストックが有意 に経済成長を促進していることがわかる.その他 のモデルで民主主義指標が有意であったのは,政 治 的 ・ 経 済 的 自 由 を 重 視 し た F H を 用 い た Model 3 と,権力の集中と抑制を表す XCONST とその二乗項を用いたModel 6 である.Model 3 より,政治的・経済的自由が高いほど経済が成長 することが示唆される.また,Model 6 より, 14) なお,本稿の分析は Stata 10.1 で行った. 15) 本分析の目的は,プラグマティック・アプローチを用いて 作成・選択した民主主義指標を利用した同じ分析モデルの結 果を比較・検討することである.したがって,Gerring et al. (2005) の 分 析 手 法 の 妥 当 性 は 判 断 し て い な い . ま た , Gerring らは,人的資本などの諸変数を含んだ分析も行ってい るが,本稿で挙げているモデルを「ベンチマーク」としてい るため(p. 349),本稿もそれに倣った. 16) 従属変数が 1951 年のものである場合,独立変数は 1950 年 のものである.

(11)

表 3 分析結果

Original (Gerring et al.) Model 1 Model 2 Model 3 Model 4 Model 5 Level (Imputed Polity 4) Stock Stock (Replication) DD FH XCONST Democracy –0.028 0.006*** 0.006*** 0.067 0.032* –0.032 –0.028 (0.021) (0.001) (0.001) (0.261) (0.013) (0.043) (0.057) Democracy^2 0.002 (0.001) GDP pc (ln) –2.597*** –2.961*** –2.961*** –2.666*** –5.708*** –5.788*** –2.538*** (0.452) (0.488) (0.488) (0.448) (1.160) (1.186) (0.329) Constant 21.145*** 23.885*** 19.635*** 22.116*** 47.035*** 41.865*** 15.708*** (3.387) (3.670) (4.850) (4.353) (9.849) (10.082) (3.545) Adj-R^2 - - 0.124 0.128 0.146 0.147 0.126 Prob > F .000 .000 .000 .000 .000 .000 .000 N 6,264 6,264 6,264 6,080 4,330 5,333

Model 6 Model 7 Model 8 Model 9 Model 10 Model 11 Model 12 XCONST Competition Participation ID

Democracy 0.665* 0.005 –0.004 –0.001 0.014 0.012 –0.007 (0.278) (0.005) (0.016) (0.008) (0.019) (0.015) (0.026) Democracy^2 –0.091** 0.000 –0.000 0.001 (0.034) (0.000) (0.000) (0.001) GDP pc (ln) –2.529*** –2.737*** –2.746*** –2.694*** –2.650*** –2.762*** –2.804*** (0.329) (0.463) (0.467) (0.455) (0.475) (0.499) (0.531) Constant 14.401*** 29.883*** 29.864*** 29.959*** 29.600*** 30.075*** 30.349*** (3.587) (5.834) (5.843) (4.463) (5.986) (4.520) (5.976) Adj-R^2 0.127 0.120 0.120 0.120 0.120 0.120 0.120 Prob > F .000 .000 .000 .000 .000 .000 .000 N 5,333 6,081 6,081 6,081

注)Gerring らの分析結果は,Gerring et al. (2005), Table 1 より.すべてのモデルには,国別ダミーが含まれている.括弧内は Newey-West 標準誤差.*** p<0.001, ** p<0.01, * p<0.05, + p<0.1.なお,Stata では,Newey-West 標準誤差を用いた分析結果において決定係数が算出さ れない.そこで,Stata で通常の OLS を行った際に算出される修正済み決定係数(Adj-R^2)を記載することとする.ただし,Gerring らの分 析結果には,修正済み決定係数は記載されていないため空欄である.

(12)

表 4 分析結果(サンプル数を揃えて)

Model 13 Model 14 Model 15 Model 16 Model 17 Model 18 Stock (Replication ) DD FH XCONST Democracy 0.014*** 0.410 0.020 –0.000 0.106 0.831* (0.003) (0.370) (0.014) (0.042) (0.075) (0.387) Democracy^2 0.000 –0.096* (0.001) (0.049) GDP pc (ln) –5.941*** –5.313*** –5.332*** –5.364*** –5.329*** –5.274*** (0.767) (0.727) (0.725) (0.733) (0.725) (0.723) Constant 46.194*** 38.221*** 38.079*** 38.435*** 38.031*** 37.166*** (7.076) (6.482) (4.785) (6.539) (6.450) (4.831) Adj-R^2 0.151 0.142 0.142 0.142 0.142 0.143 Prob > F .000 .000 .000 .000 .000 .000 N 3,649 3,649 3,649 3,649

Model 19 Model 20 Model 21 Model 22 Model 23 Model 24 Competition Participation ID Democracy 0.015* –0.020 0.000 0.000 0.042* 0.004 (0.007) (0.024) (0.010) (0.026) (0.017) (0.039) Democracy^2 0.001 0.000 0.001 (0.000) (0.000) (0.001) GDP pc (ln) –5.365*** –5.453*** –5.255*** –5.256*** –5.455*** –5.513*** (0.730) (0.736) (0.735) (0.731) (0.742) (0.745) Constant 38.277*** 39.111*** 38.118*** 38.115*** 38.341*** 38.427*** (6.464) (4.845) (4.843) (4.828) (6.469) (6.474) Adj-R^2 0.143 0.144 0.142 0.141 0.143 0.143 Prob > F .000 .000 .000 .000 .000 .000 N 3,649 3,649 3,649 注)すべてのモデルには,国別ダミーが含まれている.括弧内はNewey-West 標準誤差.*** p<0.001, ** p<0.01, * p<0.05, + p<0.1.

なお,Stata では,Newey-West 標準誤差を用いた分析結果において決定係数が算出されない.そこで,Stata で通常の OLS を

(13)

XCONST の係数の符号が正,その二乗項の係数 の符号が負であることから,権力の集中・抑制の 程度が中間的な体制で経済が成長しやすいという ことがわかる. 以上 の分 析結 果が ,各 民主 主義 指標 間の サン プルの違いから生じている可能性があるため,サ ンプルを揃えたうえで再度分析を行った 17).そ の 結 果 が 表 4 である.Model 13 の Stock と Model 18 の XCONST の結果は,表 3 とほぼ同 じで有意なままであった.しかし,Model 15 の FH は,表 3 の Model 3 と異なり有意ではなくな った.これに対し,表 3 では有意ではなかった Competition と ID が正に有意となった(Model 19 と 23).つまり,多様なアクターの参入によ り,経済は成長するという結果である.これは, 第3 の仮説・理論に反する結果となった. しかしながら,Stock と XCONST 以外の分析 モデルの結果はサンプルの違いに対して頑健では ない.そこで,本分析の頑健な結果より,次の 2 点が重要であると考えられる.まず,Gerring et al. (2005) と同様,民主主義の経験が長いほど, 経済が成長しやすくなることが示唆される.次に, XCONST と経済成長との関係は,逆 U 字型であ った.つまり,Barro (1996) の分析結果の解釈 が,より適切な指標を用いた分析によって追試さ れたといえる.ある程度は権力が制約されるもの の(権力が完全に集中している独裁ではない), ある程度は権力者が自分の意向で政策を実行でき る体制(市民の多数派のための行動を要求された り,権力が完全に分立したりする民主主義体制で はない)において,経済成長に有効な政策が実行 されやすいと考えられる. 5. おわりに これ まで ,民 主主 義指 標の 利用 者は ,既 存の 指標間に大きな違いはないと考え,無批判に利用 するとともに,ある特定の指標を慣習的に利用し ていたといえる.その一方で,多くの民主主義指

17) 指標間の比較を行った Casper and Tufis (2003) や Teorell

and Lindstedt (2010) もサンプルを揃えて分析している. 標が開発されてきた.だが,指標やその作成に関 する多くの選択肢のなかから最も適切なものを選 び出すことは容易ではない.本稿は,その選択の 一つの指針として,研究目的によって作成方法や 指標を選択するというプラグマティック・アプロ ーチを紹介した.このアプローチにより,想定す る理論と合致する最適の指標を作成または利用す ることが可能となり,より頑健で解釈の容易な知 見を得ることが期待される.本稿では,このアプ ローチの適用例として,民主主義と経済成長の関 係について分析を行った.理論や仮説に合致した 民主主義指標を選択したうえで分析を行った結果, 民主主義ストックと権力の集中・抑制が経済成長 に関係していることが示唆された. 以上のように,本稿では,プラグマティック・ アプローチの有用性に関して論じてきた.しかし, このアプローチに対しては 2 つの批判が考えら れよう.第 1 に,仮説検証に都合のよい指標を 選択したにすぎないという批判である.だが,実 証分析では,研究者の仮説を表すのに最も妥当な 指標を選択する必要がある(キング他 2004, 30 頁).たしかに,仮説検証の際に,理論的な想定 なしに指標を選択することは,仮説検証に「都合 のよい」指標を恣意的に選択したことになる.し かし,研究目的や想定する理論にもとづいて指標 を選択することは,仮説検証にとって「妥当な」 指標を理論的に選択したといえる. 第 2 に,プラグマティック・アプローチを用 いることで,さらに多くの指標が増加する可能性 がある.そして,分析結果がその乱立した指標の 選択に依存していると考えられるため,研究間で の分析結果が比較できないという批判である.し かし,このアプローチの採用が,必ずしも指標の 乱立を生むとは限らない.例えば,第 3 節で論 じたように,組織を結成するためのある程度の自 由と不満を生じさせる抑圧が存在する半民主制に おいて内戦が最も発生しやすいという仮説がある (Hegre et al. 2001, p. 33).その仮説を実証また は反証するならば,研究者は構成要素として自由 を含んだ民主主義指標を採用する必要がある.ま た,半民主制を分析するならば,二値変数を使用

(14)

することはできない.このように,研究対象が想 定している民主主義の概念や因果関係にもとづい て指標を選択する結果,実証分析が採用すべき妥 当な指標は一つに限定されるか,またはある程度 の数に限定される方向へと向かう可能性がある. それ では ,あ る一 つの 理論 を検 証す る際 に, 最適であると判断された指標が複数ある場合はど うであろうか.ここで複数の民主主義指標間で同 じ分析結果が示された場合,その結果は頑健であ ることを意味する.これに対し,指標によって分 析結果が異なる場合,研究対象である理論は頑健 なものとはいえない.これは,さらなる精緻な分 析や,因果関係を説明する理論自体の修正の必要 性を示す(Casper and Tufis 2003, p. 203; ヴァ ン・エヴェラ 2009, 39 頁).つまり,理論的に 妥当であると判断される指標が複数存在し対立す る研究結果が示されることは,研究対象に関する 仮説の精緻化や頑健な理論を作成することに寄与 するのである. 今後 ,こ のア プロ ーチ を自 覚的 に用 いる こと で,民主主義指標の選択理由が理論的に明確とな ろう.また,このアプローチは,選挙や政治的自 由を基礎とする既存の民主主義指標では捉えきれ ない民主主義概念に関心のある研究者にとって, 新たな指標を作成する契機となるであろう18). 参考文献

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Jour-nal of Conflict Resolution, 52(3), pp.401-425. (かまはら ゆうた)

表 2  「理論・変数」対応表  先行研究  変数  想定している関係  公 的 異 議 申 立 て 1. 選挙  DD  2. 政治的・経済的自由  FH  多 様 な ア ク タ ー の 参 入 3
表 3  分析結果
表 4  分析結果(サンプル数を揃えて)

参照

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