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小児鼠径ヘルニアにおける最近の外科治療の現況

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(1)

轡無二繍,。嘉応

〔綜 覧〕

小児鼠径ヘルニアにおける

最近の外科治療の現況

東京女子医大第二病院外科

講師 今 泉 了 彦

イマ イズ竃 ・サ・ト ビコ (受付 昭和49年11月5日)

Recent Progress hl t』e Freatments of 1戯9血al He㎡as並

h蝕ncy and Cbi1曲ood S飢ohiko】MAIZUM1, MD

(Department of Surgery, Tokyo Women’s Medical Co11age I Ind Hospita1)

There is al皿ost universal acceptance of operative treatmellt of inguinal hernia as soon as the diagnosis

is made, because of the known high incidence of incarceration, especially in patients less than I year of age.

504cases of inguinal hernia in i面mcy alld childhood were seen during last 5 ycars in our Surgical Department. Clinical data are reviewed and our operative technic of simple herniorrhaphy with pre− and post operative cares is presented. Contralateral exploration is discussed also.

1. はじめに 50人の子供のうち1人が何らかの型のヘルニア を持っていると言われ,そのうち,もちろん外激 径ヘルニアが圧倒的に多い.魚径ヘルニアは小児 外科領域で取り扱う疾患中,最も頻度が高く,過 去5年間われわれの施設においては小児手術総数 の約半数を占めている. 小児蝋径ヘルニアは,男女とも胎生期における 腹膜鞘状突起が,生後も閉じないで存在し,たま たま腹圧が加わることにより,腸,卵巣等の内臓 が脱出して起るものである. したがって小児の蝋径ヘルニアは,全例が外蝋 径ヘルニアであることも特徴の1つである. 筋肉や結合組織の萎縮・退行変性による支持組 織の脆弱性が原因の成人魚径ヘルニアとは,病態 発生的に異なっており,小児魚径ヘルニアの治療 方針や手術術式も成人の場合と異なって当然であ る. 最近の小児麻酔の進歩とあいまって,激径ヘル ニアの手術は100%安全に行なわれるが,嵌頓ヘ ルニアでは一歩誤まれぽ現在でも生命が危険にさ らされることがある. 乳児期ではヘルニアが嵌頓し易く,また現在の 段階では,各症例について自然治癒を確実に予診 することは困難である. 以上の理由から,その手術時期は,ヘルニアの 診断がつき次第積極的に勧めるべきものと考えて いる.

一1一

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本論文では,嵌頓ヘルニアの紹介を含めて,最 近の小児二二ヘルニアの治療現況を報告したいと 考える次第である. 2.対 象 東京女子医大第二病院外科では,昭和45年1月 から昭和49年8月までに,計504名の小児魚径ヘ ルニアの手術を行ない,性別では男373:女131 (≒2:1),左右別では右:左:両側=53.7%1 32。5%:13.4%(≒5:3:1)となっている. 年度別の症例数およびその平均手術年齢の推移 は表1に示した.この間の死亡例は1例もなかっ た. 表2 ヘルニア認知年令と嵌頓既往の有無 (反応側再発は,それぞれを認知年令とした.) 認、知年令 表1 われわれの施設でのヘルニア症例数と 平均手術年令 0年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1 年 年 度 症例数 S. 45. 1∼12 75 S. 46, 1∼12 S. 47. 1∼12 S.48. 1∼12 99 107 S.49. 1∼8 92 131 平均手術年令 2 年 3 年 4年3月 4 年 3年10月 5 年 6 年 3年8月 7 年 3年8月 8 年9 年 2年6月 10 年 計 504 11 年 12 年 次にヘルニアの認知時期について病歴記載から みてみると,約3割が6ヵ月以前に気付かれてお り,更に全症例の1/8が3歳までに発見されてい た。逆に学童期以後に発症するものも数は多くな いがあることを示している. ヘルニア認知時期とヘルニア嵌頓既往の有無を みると,6ケ月以内に気付かれたヘルニア症例で は42%,6ヵ月から1歳までは38%と高率に嵌頓 がみられている.一方,3歳過ぎて発症した症例 では嵌頓は比較的稀と言える(表2). 表3は手術年齢とヘルニア嵌頓既往を示したも ので,6ヵ月以前に手術を受けた症例では68傷, 6ヵ月から1月までの症例では51%に嵌頓既往が あり,嵌頓する症例では積極的に手術を行なって いることを物語っている. ヘルニア発症の誘因については,詳細な検討を 13 年 14 年 15 年 症例数 48 32 32 11 10 9 12 16 12 13 8 17 75 62 44 26 26 24 23 16 5 8 7 3 3 0 1 嵌 頓 既往有 25 16 10 5 5 3 5 7 5 4 5 6 23 14 1 1 3 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 % 45.1% 41.0% 30.6% 22.6% 5.0% 加えるに至らなかったが,症例の中には以下の疾 患の合併又は既往をみており,これらの疾患が腹 膜鞘状突起の開存,異常な腹圧の負荷などヘルニ ア発症に関与があったものと考えている. 未熟児 先天性奇型(心奇型,鎖肛等) 神経筋疾患(Epilepsie,斜頚) 発熱疾患(麻疹,リウマチ熱灰) 呼吸器疾患(気管支喘息,気管支炎,肺炎) 腹部疾患(幽門狭窄,イレウス,巨大結腸症, 便秘症,腸重積,消化不良症,肝疾患,腹膜炎 等) なお大半の症例で誘因が不明であったが,今後

一2一

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表3 ヘルニア手術年令と嵌頓既往の有無 手術年令 0年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 1G月 11月 12月 1 年 2 年 3 年 4 年 5 年 6 年 7 年 8 年 9 年 1Q 年 11 年 12 年 13 年 14 年 15 年 症例数 15 11 15 12 8 4 11 14 14 14 17 4 77 62 44 26 26 23 23 17 6 8 7 3 3 0 1 嵌 頓 既往有 10 7 9 正0 5 3 6 7 4 7 10 3 24 14 1 1 3 1 0 0 0 0 0 o 0 0 1 % 67.7%

憶∴

(Y

▲ 51.3% 31.2% 22.6% 5.0% 各症例につき詳しい問診を行なうことから,ヘル ニアにおいてもある程度の予防医学的な道が開か れ得るものと考えられる. 3.われわれの行なっている手術々式(図1) 男児ヘルニア手術(Pott,s8)法又はS董mple her皿iorrLaphy) 皮膚切開=下腹部の恥骨上部皮膚溝に一致し て,右又は左に約3㎝の横切開をおく.嵐二三の・ 高位に相当しており,ヘルニア嚢の高位結紮が容 易であり,美容的な意味からもこの皮膚切開を採 用している.皮下脂肪を鋭的,学的に分け,表在 筋膜を開き,外腹斜筋腱膜に達する, 嵐二丁の開き方:丁丁靱帯,二二径輪を確認 後,猟径管を外嵐三輪より上方にて約4cm腱膜の

A.∼D.Simple hemiorrhaphy. E. Koop固定

図1ヘルニア手術本式 線維走行に沿って開く.蝋径靱帯と内膜斜筋の下 縁を剥離露出しておく. ヘルニア嚢の剥離と処理=Fascia spermatica externaを長軸方向にペアン鉗子で充分に聞くと 容易にヘルニア嚢の一部が現われる.無鈎摂子等 で血管,精管,睾丸挙筋を剥離し高位に向う.腹 膜前脂肪組織をみるまで剥離できたところで嚢を 開き,内輪を確かめてから高位2重結紮,離断す る。断端は腹腔内へ落ち込む感じになる.遠位ヘ ルニア嚢は血管の少ない場所で縦に3∼5㎝開く だけとし,切除はしない. 閉創:睾丸を充分陰嚢内にけん引してから,外 腹斜筋腱膜を3∼4針縫合して魚径管を閉じる. 表在筋膜は4−Ocat gutにて1∼2針をかけて 寄せておく.皮膚縫合は同様に4−Ocat gutに て結節埋没縫合する. 女子鼠径ヘルニア手術(KoOP13)固定) 皮切,猟径管の開き方は男児と同様である.ヘ ルニア嚢には円靱帯の一部がすでに分れて密着分 布しているので,容易に剥離でぎるもののみ落と し,高位で2重結紮離断する. 近位の結紮糸を内膜斜筋の裏面に縫着固定し,

一3一

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・嘉灘熱田臥

鰯汐 、艶1

麓鶯難 臨..

写真1術後rヵ月の手術創, て皮膚切開が置いてある. 恥骨上皮膚溝に沿っ 皮膚埋没縫合し た創は目立たず治癒している. ヘルニア再発防止と子宮後屈を予防している. 滑脱ヘルニアの場合は,ヘルニア嚢を開き,内 側より滑脱臓器(卵管,膀胱,盲腸等)をヘルニ ア嚢より剥離し,臓器の腹膜欠損部に針糸をかけ て止血および漿膜で覆ってから腹腔内へ納め,ヘ ルニア嚢の高位結紮を行なっている. なお,われわれはKoOP固定にヘルニア再発防 止と円靱帯の固定の意味を求めたが,女児におい ても3imple hemioπhaphyで充分とする考えもあ り,今後に結論を待ちたい. 巨大陰嚢ヘルニアの手術 手術に先立ち,ヘルニア内容を腹腔内に完全に 還納しておくことが以後の手術操作を容易にす る.成人の場合と同様に,精索全体にテープを通 してからヘルニア嚢の剥離を進める方が安全であ り,いきなり巨大ヘルニア嚢を剥離して行くと, しばしぼOrientationがつき難くなることがある. 巨大ヘルニアでは内輪拡大を認めるものが多 く,承径靱帯と内腹斜筋間に1∼2針かけて前壁 補強(Fergu30n7)法)するが,精索後方で腹横筋 膜と共に内腹斜筋と猟径靱帯間に1針かけて内凧 径輪を前方に転位 (警鐘径輪転位法一木本法7)) させるが,最近では巨大ヘルニアでも猟径管の 補強の必要性について疑問視しており,3imple hemioπhaphyのみで終る傾向にある. 4. 術前検査および術前衛後の管理 術前routine検査として全例に胸部レントゲン 撮影と血算検査(血小板数と白血球際を含む)を 行なっている. 既往歴,理学的所見に異常を認めたり,合併奇 型があれぽ,更に心電図,検尿,出血凝固時間, 血液生化学,肝機能検査等も行なう. 小児ではしぼしば感冒,上気道炎等に罹患した ため,予定手術が延期されるが,この場合は下熱 後少なくとも7∼10日の間隔をおくことが望まし い.麻酔医と充分協議の上,無理な手術の強行は 避けるべきである. 次に局所に脱腸帯使用やおむつかぶれ等の皮膚 炎,湿疹があれば,創化膿予防の面からも術前に 治療しておく. 術後管理の面では,嵌頓ヘルニアを除き輸液, 抗生物質は不要と考えている.手術創のガーゼ交 換の必要はなく,患者は手術の翌日退院させ,1 週間後に外来でガーゼを除き全治している. 脱腸帯使用については,圧迫による皮膚炎,皮 下結合組織の萎縮,或は圧迫帯使用による事故 (腸管圧迫壊死等)も考えられること,ヘルニア嚢 の炎症・肥厚・癒着がみられることから,われわれ は特別な場合を除き使用しないことにしている. 次に圧迫帯使用症例を紹介する. 症例 2ヵ月男児.生直後より時々左陰嚢に及ぶヘ ルニアがあった.2ヵ月のとき,先天性胆道閉鎖症にて 開腹手術を行なったが,術後腹部膨満が強くなり,ヘル ニアは増強した.開腹後1週間してヘルニアが嵌頓し, 嘔吐,腹部膨満,四肢が冷たく,イレウス症状を呈し た.非観血的に嵌頓整復し,その後3週間圧迫帯を使っ て,開腹手術の影響がとれてからヘルニア根治手術を行 ない全治せしめた. 5.ヘルニア手術の麻酔 原則として患者は手術前日に入院し,麻酔医の Preroundで身長,体重,頭部,鼻腔,口腔,咽 頭,頚部,胸部,腹部,四肢の順で全身のcheck を受けている. 乳児では,ミルクは術前4時間まで摂取を許可 しており,3時間前までは水分はむしろ積極的に 与えるようにしている. 前投薬は,Dawson&Ly皿6)らのScheduleに

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右卵巣,卵管切除と,ヘルニア根治手術を行なった.術 後の経過は良好で2日後退院したが,卵巣嵌頓でも長時 間かけて無理な整腹は行うべきでなく,早期に手術して いれば卵巣切除は避けられた筈である. 写真3は卵巣の切除標本の病理組織所見であるが,臓 器判定が困難な程著しい壊死を示している. 以上ヘルニア嵌頓の2症例を紹介したが,一旦 嵌頓を起せば,単にヘルニアではなく,症例1の 如く,腸閉塞,腹膜炎であり,重篤な状態とな 写真3 卵巣ヘルニア嵌頓の病理所見(池○春 ○例). うっ血と壊死が著しく,組織 学的に臓器の判定さえ困難であった.

藝難

写真4 卵巣ヘルニア嵌頓の手術所見.循環障害 のため,卵巣は腫大している.この症例 では,壊死はみられず,整復のみで手術 は終っている. る.前記統計の示す如く,乳児期のヘルニアは嵌 頓し易く,手術時期は診断がついた時点で積極的 に勧めるべきことを重ねて強調したい. 卵巣嵌頓の場合は,嘔吐,腹満等は軽度である が,循環障害のため卵巣は腫大し,被膜は緊張し て強い痛みを訴える(写真4).暴力的な整腹はさ けて早期に手術的に無憂,根治手術を行なうべき である. 7.術後合併症 文献では,ヘルニア手術の合併症は,10∼15% とされており22),全身的なものと局所の合併に分 けられる. 手術時間も麻酔時間も短かいこともあって,;わ れわれの手術例では,術後問題になるような肺合 併症は1例も見られなかった. 発熱は時々経験するが,術前充分なcheckがし てあれぽ,特別な処置は不要であり,全例が1両 日で解熱している.逆に術前,咽頭,扁桃,胸部 の聴打診等の厳重なcheckが必要と考えている. 局所の術後合併症には,創感染,膿瘍形成,縫 合糸膿瘍,血腫,睾丸高位,水腫形成,ヘルニア 再発などからみられている. 血腫形成は,術中止血を充分確認し,遠位ヘル ニア嚢の剥離切除をしなくなってから最近は経験 していない。出血傾向があり,小児科的に精査を 受けた女児の1例に血腫形成をみたが例外的と言 える. 縫合糸膿瘍は比較的多い合併症であるが,4− Ocat・gutにて,表在筋膜,皮膚埋没縫合を行な うようになって少なくなっている. なお,術後局所の深部に膿瘍を形成し,一見ヘ ルニア嵌頓様の硬結をみた6才男児,4ヵ月女児 の2例は,再入院して全麻下に創を開き,膿瘍を 誘導し,2週問で全治さている. ヘルニア根治手術後の睾丸高位は,Bassini法 を採用していた昭和45年頃に4企みているが,最 近は全く経験していない.しかし,術中特に魚鉛 管を閉じる際には,睾:丸を陰嚢内に充分下げてお くことが必要である. 睾丸萎縮,精管狭窄等の合併の報告4)もあり,

一6一

(6)

準ずるが,乳幼児では通常Atropine O;02㎎/㎏

筋注単独又は幼児の精神状態を考慮してこれに

diazepam syrup O.4㎎/㎏の内服投与を行なって

いる. 私どもの症例は殆どがG−O−Fによるマスク麻 酔で手術を行なっている. ヘルニア手術時間は,通常15分前後で終ってお り,強い筋弛緩も不要なので深い麻酔は要求され ない. しかしながら極端に浅い麻酔下では,反射が残 り,術中睾丸をけん引したりした場合に,徐脈, 低血圧が現われるので,ある程度の麻酔深度は保 つ必要がある. 静脈確保もない,ケタラール筋注等の麻酔によ る手術は行なうべきでなく,また局所麻酔も乳幼 児下下ヘルニアの手術には適さない. 術後は通常3時間過ぎてから水分の経ロ摂取を 許可し,嘔吐,腹痛等がなけれぽ短時間のうちに 普通食へ戻している. 6.ヘルニア嵌頓について ヘルニア内容が非還納性に脱出し,ヘルニア門 で絞拒されて循環障害をみた場合は,緊急手術の 適応となる. 私どもはこれまでに6例の嵌頓ヘルニアの手術 を行なったが,いずれも1才以下の乳児であり, 幸い死亡は1例もなかったが,時には腸閉塞,腹 膜炎へと進行し,生命が危険にさらされることが ある. 著者が最近経験した症例を紹介する. 症例1 00大0 2ヵ月男児 昭和47年12月24日頃より時々嘔吐があり,不気嫌であ った, 12月30日,近医で右蝋径部にピンポン大の硬い腫瘤を 発見され,穿刺を受けている. 症状は改善されず,翌年1月1日になって高熱,チア ノーゼ,腹部膨満,極度の脱水,右陰嚢の発赤,腫脹を 呈して,東大病院小児外科へ救急車で搬送されてきた. 来院時の腹部単純レントゲン撮影では写真2の如く,著 明な腸内ガス像を認め,ヘルニア嵌頓に伴う絞拒性イレ ウスと穿刺後の腹膜炎による麻痺性イレウスの合併によ るものと考えられた. 急速輸液を行ない,アルコール散布,氷嚢等を使用し 写真2 嵌頓ヘルニア症例(桑○大○) 嵌頓 によるイレウスと腹膜炎が合併し,著 明な腸ガス像を示している. て体温を下げながら手術を行なった.下腹部右下正中切 開で開腹し,腹腔側よりヘルニア絞掘を解除したが,腸 管の壊死が著しいので,回腸切除端端吻合を行なった. 術後高カロリー輸液,プラズマネート,輸血等で全身 状態の改善を急いだが,1月6日創移開内臓脱出がみら れ,再手術を行なった.腹膜炎等の深部の化膿と低蛋白 血症がEvi3ceratioロの原因と考えられた.再手術後1 ヵ月で退院させることができたが,右睾丸は化膿性炎症 のため萎縮欠落している. (本症例は著老が東大小児外科在籍中経験した症例で あることを断わっておく.) 症例2 池○春0 8ヵ月女児 昭和49年6月11日右蝋径部に撫指頭大の腫瘤に母親が 気付いている.ミルクは飲んでいたが気嫌は悪かった. 翌12日近医を訪れ,ヘルニア嵌頓と診断され,長時間整 復を試みたが成功せず,他医に転移し再び麻酔下で非観 血的整復を試みているが不成功に終っている.当科を紹 介されて来院したが,局所は発赤,腫脹し,著明に痛が っていた.ヘルニア嵌頓の診断にて直ちに手術を行なっ た. 通常の右下腹部恥骨上溝に沿った皮膚切開でヘルニア 嚢に達する.ヘルニア嚢網には完全に循環障害に陥った 臓器が嵌頓しており,嚢を開き,内輪を拡げて腹腔内を 検すると,卵巣と卵管が子宮の近くで180度捻転して, 末檎が壊死に陥ったものであることが判明した.手術は

一5一

(7)

長期の追求を要する. 他医にてヘルニア手術を受け,最近水腫形成を 認めて来院した1例があったが,初回手術で陰嚢 水腫が合併していたかどうか不明であり,した がってヘルニア手術後の水腫形成かどうか断じ難 い.いずれにせよ,遠位ヘルニア嚢を残しても, 充分に縦へ切開しておけぽ,水腫形成は予防でき ようし,陰嚢水腫を合併している場合は,ヘルニ アの手術と同時に水腫切開を追加しておく. 次に,手術直後に腸が脱出嵌頓した症例が2例 あったが,ヘルニア嚢の高位結紮が不充分で,し かもヘルニア嚢が裂けたまま剥離を行なったため ではないかと考えられる. いわゆる術後再発症例は,他医で手術を受けた 4才男児の1例を経験しているが,術後1ヵ月で 再発しており,再手術時の所見では,厳径管を開 いた形跡がなく,癒着や縫合糸もみられなかった ことから,ヘルニア嚢の高位結紮が行なわれてい なかったのではないかと思われる. 8.反対側ヘルニア再発の予知と対策について われわれの施設での両側ヘルニアの頻度は,前 述の如く13.4%であったが,諸家の報告7)9)21)も ほぼこれと同じ傾向を示している. さて,私どもの反対側再発の手術症例と再発ま での期間については,表4に示したが,文献で も反対側再発の頻度は1%∼31%にみられてお り7)16)17)23),臨床的にもまた患者・家族にとって も反対側再発は重大な問題であるので,ここで若 干の考察を行ないたい. 反対側再発がかなりの頻度にみられることから 表4 反対側再発期間と手術症例数 再発期間 ∼7日 10日 1月 1月∼3月 4月∼6月 手 術 症例数 2 1 3 2 5 再発期間 8月一し12月 1年∼2年 4年 計 手 術 症例数 5 3 1 22例 1967年頃までは,一側ヘルニアでも必ず反対側を 手術的に検索(予防的手術の意味もある)すべき だとする考えと5)10)11)15)16)19),これに反対する考 え2)7)21)22)の・問に論争が行なわれてきたが,結論 をみないうちに立ち消えている. Rothenberg&Barnett19)は,一側ヘルニアの症 例のうち,実に74%に反対側不顕性ヘルニア(腹 膜鞘状突起)があったとしているが,実際の反対側 再発の頻度とはかなりの差がある.またClausen ら5)は6ヵ月未満では73%に不顕性ヘルニアがあ ったが,2才未満では37%だったと述べている. Rowe, Copelson&Clatworthy20)らは,これらの 説明として,鞘状突起の自然の閉塞過程を述べて いる.一側ヘルニアの全症例のうち,40%は反対 側鞘状突起が生前または生後数ヵ月で閉じ,20% が2才以下で閉じ,残る40%の半数が臨床的に 反対側ヘルニア再発として現われるとされてい る. ヘルニア手術は100%安全に行なわれると断言 してよいが,前述の如く手術に伴なう合併症は絶 無ではなく,また睾丸萎縮,精管狭窄等は術後長 期の追求が必要だが,各施設によって結論が出て いない現在,著者は全例に反対側の手術を行なう ことに賛成しがたい. 反対側の不顕性ヘルニアの発見の努力は,造影 剤注入によるHerniography12)24),手術的なPneu− moperitoneum法1)8),消息子による検索等が試み られているが,発見されたにせよ,これが臨床 的なヘルニアか,将来閉じるであろう二二突起か の鑑別までは不可能であろうと思われ,またこれ らの検査が100%副作用なしと断言できないの で,私どもは積極的にこうした検査をしていな い. 従来通り,左側の大きなヘルニアで,反対側に Silk sighn陽性,外面径輪の拡大の所見があれ ば,一応反対側手術の適応と考えている. 9. まとめ 小児嵐径ヘルニアは,診断がつき次第,その手 術を勧めるべきで,乳幼児では特に嵌頓が高率な みられるからである.嵌頓ヘルニアの極端な2症 一 7 一

(8)

例を紹介した. 最近では,小児嵐径ヘルニアの手術は100%安 全に行なわれると断じて過言ではなく,われわれ の採用しているsimple hemiorrhaphyの術式, 術前術後管理,術後合併症について述べ,また反 対側再発の問題についても考察を行なった. 本稿中の麻酔事項に関しては, 授の御指導を賜ったことを付記し, す. 1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8) 9) 10) 当院麻酔科岩渕汲教 深く感謝いたしま 文 献

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