Title
地盤構造物の信頼性設計法の構築と設計の観点からみた地
盤工学の課題( 内容の要旨(Summary) )
Author(s)
大竹, 雄
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(工学) 乙第070号
Issue Date
2012-12-31
Type
博士論文
Version
none
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/47962
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。59 -氏 名 ( 本 籍 ) 学 位 の 種 類 学 位 授 与 番 号 学 位 授 与 日 付 専 攻 学 位 論 文 題 目 学位論文審査委員 大 竹 雄(東京都) 博 士(工学) 乙第 70 号 平成 24 年 12 月 31 日 生産開発システム工学専攻 地盤構造物の信頼性設計法の構築と設計の観点からみた地盤工学の課題
(Development of geotechnical reliability based design and challenges in geotechnical design) (主 査)教 授 能 島 暢 呂 (副 査)教 授 本 城 勇 介 教 授 佐 藤 健 教 授 小 高 猛 司 (名城大学) 論 文 内 容 の 要 旨 現在,世界中で多くの設計コードが,信頼性設計法に準拠した形式に書き換えられている.その主要なも のには,欧州では「Structural Eurocodes」,北米では「AASHTO LRFD Bridge Design Specifications」な どがある.我が国においても,2007年に改訂された「港湾の施設の技術上の基準・同解説」をはじめとして 主要な設計コードの改訂はこの方向に動いている.特に,我が国で最も広く活用されている設計基準である 「道路橋示方書」が,性能規定化と信頼性設計法の導入を柱とした改訂作業が進みつつある中,近い将来に 信頼性設計概念が,設計一般に浸透していくことは間違いない.これらの設計コードは,信頼性設計レベル Ⅰ(部分係数法)による照査式で記述され,設計者は信頼性解析に精通しなくても容易に設計が行える反面, 汎用性に乏しい照査方法となり,やや過度に”安全側の設計”となるように係数が決定される.従って,今後 は,設計者がより直接的に信頼性設計(レベルⅢ,確率分布に基づく方法)を実施することが求められるであ ろうし,設計コード開発のために整えられた荷重や材料に関する統計資料は公開されており,それを実行す るための環境が整いつつある. このような背景の中,国内外において,構造物基礎や土構造物などの地盤構造物設計に信頼性理論を導入 するための研究が活発化している.しかしながら,これらの研究事例を見ると,鋼やコンクリートを材料と した構造工学分野で発展・構築されてきた信頼性理論を,構造物の特性に大きな違いがあるにも関わらず, 安易に転用した事例が多く見られる.構造工学分野の信頼性解析で問題となる不確実性は,荷重側の本来的 な不確実性であり,材料(抵抗)特性に関しては,物理的な不確実性も統計的不確実性も小さく,かつ定量 的に把握されている材料とみなされる場合が多い.これに対し,地盤材料は,サイト毎に材料特性を調査・ 決定しなければならないし,その材料が本来持っている空間的ばらつきも工業製品である鋼やコンクリート に比べてはるかに大きい.従って,対象構造物の特性が大きく異なる地盤構造物の信頼性設計を考える上で は,構造工学を中心に発展してきた信頼性評価理論を地盤構造物に即した方法に抜本的に変換する必要があ ると考えられる. 本研究の第1のテーマは,「地盤構造物の特性を考慮した地盤構造物の信頼性設計体系の構築」である.地 盤構造物の信頼性解析で考慮すべき不確実性の分類とそれぞれの定量化方法を示すとともに,簡易で実務的 な信頼性解析法のスキームを提示している.その主要課題は,空間的にばらつく地盤材料の強度,特性が構 造物の性能に与える影響の評価と地盤パラメータ設定(設計定数の設定)に関わる統計的推定誤差の定量化で ある.地盤材料は,空間的に材料特性が大きくばらついて存在し,サイト毎に実施した限られた地盤調査に 基づいてモデル化しなければならない.地盤パラメータの空間的ばらつきをモデル化し,設計に反映するこ とを考えると,現時点で最も合理的と考えられている方法は,確率場と仮定して評価する方法である.ただ し,このモデル化にあたり,当てはめた確率場の統計量を限られた地盤調査(サンプル)から推定するときの 誤差,すなわち,「限られたサンプルからの母集団の推定」として統計的不確実性が入り込む.この不確実性 は,地盤調査の量や質(地盤調査の種類など),構造物の建設位置と調査位置の相対的な位置関係(地盤調査 位置に近い程信頼度が高く離れるほど低くなる)の影響に支配されていると考えられる.本研究では,「空間 的ばらつきと統計的推定誤差の簡易評価理論」と呼称し,理論的背景に基づいて,”空間的ばらつき”と”統計 的推定誤差”を分離・定量化し,簡易に設計に反映させる方法を定式化している.この提案は,極めて新規的
60 -な提案であり,これにより,地盤調査の数や実施間隔の最適化の議論が可能となる. 第2のテーマは,「空間的ばらつきと統計的推定誤差の簡易評価理論」の検証である.空間的ばらつきが構 造物の性能に与える影響評価方法の検証では,浅い基礎の弾性変形問題,弾塑性(支持力)問題,斜面安定の 剛塑性問題を例に,その影響を直接評価しうる詳細評価方法(確率場の生成と有限要素法を組み合わせたモ ンテカルロシミュレーション解析)と提案する簡易評価理論のキャリブレーションにより,具体的な活用方 法を示すとともに,その有効性の検証した.また,統計的推定誤差の評価の検証については,一種の交互検 定(cross verification)法により検証を行った.既往の高密度CPT試験結果を活用し,そのデータセットの一 部を活用して,CPTが実際に計測されている地点における地盤パラメータ推定を行い,その結果と実際の CPTデータを比較する.この操作を繰り返し行うことで,統計的推定誤差を定量評価し,その的中の程度を 調べることにより検証を行った. 第3のテーマは,この設計体系を多数の具体的な設計例題へ適用して,信頼性解析の具体的な手順・方法 を示すとともに,その不確実性の分析から,設計の観点からみた地盤工学の優先課題を導き出すことにある. 対象とした設計例題は,いずれも実際の構造物であり,実際の地盤調査データを活用した事例である.対 象とした構造物は,浅い基礎(直接基礎)の変形・安定問題,深い基礎(杭基礎)の変形・安定問題,軟弱地盤上 の盛土の安定問題,仮設土留め工の変形・安定問題,液状化判定,液状化地盤上の長大水路の挙動評価であ り,多種多様な例題に適用した.地盤調査の内容は,N値のみによる一般的な設計や載荷試験など現場で直 接地盤構造物の耐力を計測した事例も含まれている.さらに,設計手法については,設計基準に示されてい る設計式を活用したものから有効応力動的FEM解析などの詳細な解析方法を活用した設計まで,多様な方法 を用いた例題を対象としている. これら様々な設計例題の結果を踏まえて,地盤調査の数や位置関係,調査内容の違い,設計手法自体の精 度等の不確実性が,最終的な設計結果へ及ぼす寄与度を分離・定量化することにより,「何れの不確実性が設 計結果を支配しているか」が見えてくる.これらを総合的に分析整理することにより,構造物の計画,設計 の観点からみた,解決すべき地盤工学の優先課題を示している. 論文審査結果の要旨 この論文では,従来の構造工学中心で発展してきた信頼性設計の考え方を大幅に見直し,地盤構造物の特 性に沿った信頼性設計法を提案したものである.さらに,その結果を種々の地盤構造物に適用し,それぞれ の構造物を設計する過程で支配的な不確実性を抽出することによって,地盤構造物設計改善のための課題を 抽出している.提案されている信頼性解析手法は,地盤構造物全般の実務的な信頼性解析法として発展する ことが期待されるとともに,設計の観点から地盤工学において何を解決すべきかといった本質的な問題を論 じている点において,この研究成果は高く評価することができる. したがって,審査の結果,この論文を学 位論文に値するものと判定した. 以下に,細目の研究成果の概要を示す. (1)地盤構造物の特性を考慮した実用的な信頼性設計体系の構築 地盤構造物の信頼性設計で考慮すべき不確実性の分類とそれぞれの定量化方法を示し,それに基づいた実 用的な信頼性設計スキームを提案している.不確実性の定量化方法における主要課題は,「地盤パラメータの 空間的ばらつきと統計的推定誤差の評価理論」の定式化にある.これにより,理論的背景に基づいて,上記 の不確実性が合理的かつ容易に定量化できるとともに,地盤調査位置と設計地点の位置関係(相対的な離隔) による統計的推定誤差の効果を評価できる点が特に優れている.また,実務的な観点から,信頼性解析は, モンテカルロシミュレーションに基づくことを基本とし,有限要素法などのやや複雑な地盤解析を設計に用 いる場合には,性能関数を応答局面で代用する実用的な信頼性設計スキームを提案している点も特徴的であ る.この方法は,地盤解析と信頼性解析を基本的に分離し,地盤解析から導く応答曲面を用いたモンテカル ロシミュレーションにより,両者を再結合して信頼性評価を行うものである.これにより,新しく開発され てくる地盤解析法を容易に信頼性解析に取り込むことができ,地盤構造物全般の実務的な信頼性解析法とし て発展することが期待された.
61 -(2)地盤パラメータの空間的ばらつきと統計的推定誤差の簡易評価理論の検証 不確実性の定量化方法における主要課題である「地盤パラメータの空間的ばらつきと統計的推定誤差の評 価理論」の有効性を以下の方法に基づいて検証した. 空間的ばらつきが構造物の性能に与える影響の評価については,直接基礎の弾性沈下(弾性問題),極限支 持力(弾塑性問題)を対象として,提案する簡易評価方法と詳細評価方法(確率場の生成と有限要素法を組 み合わせてモンテカルロシミュレーション解析)を比較し,キャリブレーションすることにより,その有効 性を示した. また,統計的推定誤差の評価については,既往の高密度CPT試験結果を活用し,一種の交互検定(cross verification)により検証を行った.すなわち,高密度CPT試験結果の一部を活用して,CPTが実際に計測され ている地点の推定作業を繰り返し,その的中程度を調べた. 以上の検証により,提案する「地盤パラメータの空間的ばらつきと統計的推定誤差の評価理論」の有効性 を検証するとともに,具体的な活用方法を示した. (3)実構造物への適用による具体的な設計方法・手順の明確化と不確実性の寄与度分析 最後に,有効性が検証された設計スキームに従って,直接基礎,杭基礎,軟弱地盤上の盛土の安定問題, 液状化地盤上の長大水路の挙動評価など多種多様な実構造物の例題に適用し,具体的な設計手順を示した. また,分離定量化したそれぞれの不確実性が最終的な設計結果に及ぼす寄与度を定量化した.これらを総 合的に分析整理することにより,地盤構造物の計画,設計の観点からみた地盤工学の具体的な優先課題を示 した. 設計対象物により結果が異なるが,主として,SPTやCPTなどの簡易なサウンディング調査から設計地盤 パラメータに変換する際の誤差(変換誤差)や抵抗値の推定(モデル化誤差)などのあるひとつの極めて大 きな不確実性が設計全体のボトルネックになっている場合がほとんどであった.極めて大きなバイアスや不 確実性を含む設計方法によって得られた破壊確率の意義は極めて疑わしいものであり,設計法を改善する必 要があることを指摘した.また,設計法を過度に複雑にするのではなく,現行設計法を基本としつつ,それ に適した地盤調査や杭基礎の鉛直載荷試験などの耐荷力試験の実施により,大きく設計が改善することを示 した.これら地盤調査や耐荷力試験の効果的な実施と,信頼性解析に基づいて,その効果を設計へのフィー ドバックすることにより,設計法と調査・試験が有機的に結合した設計体系の必要性が指摘された. また,安定問題に比べて変形問題の照査の不確実性が大きく,サウンディング調査に基づく変形量予測の 精度が極めて低い.変形量照査が設計において十分に機能していない可能性も考えられ,変形量照査方法の 見直しとともに,地盤構造物の性能規定,終局限界,使用限界の明確化と変形量照査の位置づけを明確にす ることの重要性が指摘された. 最終試験結果の要旨 能島暢呂,本城勇介,佐藤 健,小高猛司で構成する審査委員会は,本論文および論文別刷りなどを慎重 に検討した.その結果,本論文は学位論文として十分完成された内容を有していることを確認した.最終試 験(公聴会)を平成24年11月21日(水曜日)午後 3 時より 5 時に,岐阜大学サテライトキャンパス(JR 岐阜駅前)で開催し,審査を行った.最終試験(公聴会)では,論文内容が約70 分で手際よく講演され,そ の後約50 分程度の質問を受けた. 講演後の質疑応答では,本論文の現実問題への適用性,モデル化誤差の意味について,信頼性設計法の研 究の進展の中での本研究の位置づけ,堤防など具体的な構造物への展開の可能性等多岐にわたる活発な質疑 が行われた.これらの質問に対して本人より十分な説明が行われた. 以上のことから,最終試験を合格と判定した.