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全文

(1)

日本に関係する領有権問題への視座

著者

齋藤 洋

著者別名

Saito Hiroshi

雑誌名

東洋法学

56

2

ページ

81-112

発行年

2013-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00004085/

(2)

一   序論―問題の所在と目的― 二   本論―国際法学上の問題点と二つの視点― (一)領土問題における国際法学上の問題点とその影響   ( 1)領土問題の一般的問題点― critical date と適用法の確定問題―   ( 2)日本の有する領土問題の根本問題―竹島・尖閣問題を素材として―   ( 3)根本問題の連動性と矛盾の発生―北方領土問題に関する法論理と政治的主張― (二)領土問題に関する二つの視点   ( 1)領域主権観念の変遷―帰属から管理へ―   ( 2)国際関係論における認識―時間という視点― 三   結論―まとめと課題― 一   序論―問題の所在と目的―   第二次世界大戦後の国際社会に緊張をもたらしていた東西冷戦体制が崩壊し、全世界が資本主義的な意味での自 《 論    説 》

日本に関係する領有権問題への視座

 

    

(3)

由主義の潮流に飲み込まれ、同時に様々な分野で新しい発展と問題が発生している現代国際社会では、領土問題あ るいは領有権問題といういわば政治的・軍事的勢力圏に関する古い問題が、天然資源の確保あるいはそれに連動し た管轄海域の拡大という意味を有して、改めて生じる様になった。つまり地球上の空間の分割問題が、現代的意味 を与えられて再登場あるいは再問題化しているのであ る ( 1) 。このような状況の中、日本は、北方領土問題、竹島問題 及 び 尖 閣 諸 島 問 題 を 領 土 問 題 (以 下、 「領 有 権 の 帰 属 問 題」 と 同 義 で 使 用 す る。 ) と し て 抱 え て お り、 未 だ 解 決 に 至 っ ていない。   例 え ば 北 方 領 土 問 題 に つ い て は、 日 ロ 双 方 の 主 張 が 有 る が、 そ の 中 で も 日 ソ 中 立 条 約 の 有 効 期 間 中 で あ っ た 一九四五年八月九日にソ連[当時]は対日攻撃を開始し、その結果として北方四島を占領し、現在に至っていると いう条約違反の点、及びサンフランシスコ平和条約で日本が放棄した千島列島には当該四島は含まれないという点 で、 問題化してい る ( 2) 。 また竹島問題については、 韓国側は 「『粛宗実録』 の記述を基に、 安龍福は干山=松島= (今 日 の) 竹 島 が 朝 鮮 領 で あ る こ と を 告 げ て 同 島 水 域 を 日 本 人 が 侵 犯 し な い よ う に 守 っ た、 と 主 張 し て い る ( 3) 」。 そ れ に 対 し て 日 本 側 は、 「元 禄 九 年 正 月 に 欝 陵 島 渡 航 禁 止 の 指 令 が 出 さ れ て お り、 安 龍 福 が 来 た 同 年 五 月 に は 日 本 人 は 渡 航 し て い な い、 し た が っ て 同 人 の 供 述 は 事 実 に 反 す る (鎖 国 の 禁 を 破 っ た 言 い 逃 れ で あ る) 、 と し て 記 録 と し て の 価 値 を 否 定 し て い る ( 4) 」。 ま た 一 九 〇 五 年 (明 治 三 十 八 年) 一 月 二 十 八 日 に 内 務 大 臣 の 精 議 に よ っ て 竹 島 の 日 本 領 土 へ の 編入を閣議決定し、同年二月二十二日付で島根県知事は同県告示第四〇号をもって「…本県所属隠岐島司ノ所管ト 定メラル」と告示したが、当該決定と島根県告示に対して韓国側は、 「[国際法上の]無主物先占の法理によって領 土編入したというが編入当時竹島は韓国領土であって無主物ではなかった、また韓国に通報されなかったから、先 占は無効である」と主張したが、日本側は「歴史的に日本の領土であったものを近代国際法上の形式に則り領有意

(4)

思を確認し公示したもので、…[中略]…編入当時もそれ以前も竹島が韓国領土であったことはない、国際法上通 告は先占の要件ではない」 と反論し た ( 5) 。 さらに一九一〇年の韓国併合 (一九一〇年 (明治四十三年) 八月二十二日 「韓 国 併 合 関 ス ル 条 約」 を 締 結、 同 月 二 十 九 日 に 施 行) に 関 連 し て、 日 本 側 は、 「竹 島 は、 韓 国 併 合 に よ り 韓 国 の 一 部 と し て日本領土となったわけではなく、併合後、行政区域上朝鮮総督府の管轄に移されたこともな い ( 6) 」と述べている。 加えて尖閣問題に関しては、日本は一八八五年以降の慎重な現地調査に基づいて清国の支配が及んでいる痕跡が無 い こ と を 確 認 し た 上 で、 一 八 九 五 年 一 月 十 四 日 に 正 式 に 日 本 領 土 に 編 入 す る こ と と し た が、 中 国 は、 日 清 戦 争 (中 日甲午戦争) を通じて日本が当該諸島を奪い取ったと主張してい る ( 7) 。   このようにみると、日本の有する領土問題はそれぞれ異なる問題であり、異なる解決方法等が存在するように思 わ れ る。 北 方 領 土 問 題 は 日 ソ 中 立 条 約 違 反 か ら 始 ま り、 竹 島 問 題 は も と も と 韓 国 (朝 鮮) の 領 土 で あ っ た も の を 日 本 が 一 方 的 に 編 入 し た と い う 主 張、 尖 閣 問 題 は 中 国 (清) の 領 土 で あ っ た も の を 武 力 に 基 づ い て 奪 取 し た こ と が 原 因であるという主張等々である。つまり北方領土についてはサンフランシスコ平和条約やヤルタ協定等の内容が論 点の様に映り、竹島と尖閣諸島に関しては、本来の領有権の帰属先が歴史上の事実の提示によって論点に成ってい るように理解されている。   しかしここで生ずる疑問は、中立条約違反という事実自体が非難され得る問題なのか、また竹島および尖閣諸島 が日本以外の国家の領土であったとしても、武力で奪取することが問題なのか、という根本的な問いである。この 疑 問 は、 pacta sunt servanda (合 意[条 約] は 守 ら れ る べ き で あ る) と い う 法 格 言 を 前 提 に し て 条 約 違 反 を 非 難 す る 考えに基づいたり、武力による領土取得は違法であるがゆえに元の所有国に帰属するのが当然であるという考え方 に基づいている主張に対する懐疑から発生している。つまり現在当然と思われている、そして現代では当然のこと

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なのであるが、このような考え方は第二次世界大戦後の時代の産物であって、当該問題が同大戦前あるいは同大戦 中に発生したのであれば、当該発生時点での有効な法規範あるいは法原則に基づいて評価されなければならないの である。ここに critical date (決定的期日) 及び適用法の確定が、上記領土問題に大きく関係することになる。   このような視点に基づいて、本稿は、領土問題がまさに問題化していることの理由あるいは原因を戦争観念の根 本的変化という事実に求めることで、現在[二〇一二年]の関係国政府がそれぞれ「領土問題は存在しない」と繰 り返し述べあっているにも拘らず問題化しているという事実を、整合的に矛盾なく説明し得ることを提示するもの である。したがって、当該領土の帰属先を特定するものではないこと、および本稿の内容はあくまで筆者の個人的 見解であり学会の見解ではないこと、ならびに本稿では紙幅の関係で本文及び注釈については必要最小限のものを 除き割愛したことを付記す る ( 8) 。 二   本論―国際法学上の問題点と二つの視点― (一)領土問題における国際法学上の問題点とその影響 ( 1)領土問題の一般的問題点― critical date と適用法の確定問題―   一 般 に 具 体 的 事 件 を 法 学 あ る い は 法 律 学 を 用 い て 解 決 す る と い う 行 為 は、 当 該 事 実 に 対 す る 評 価 を 与 え る ― 合 法・ 違 法、 権 利 義 務 の 帰 属 先 の 決 定 な ど ― と い う 形 で 行 わ れ る。 そ の 時 の 評 価 基 準 が 法 規 範 (実 定 法 や 慣 習 法 な ど) である。   通常、特に国内法の問題に関しては、適用条項の解釈問題はしばしば発生するが、評価基準たる適用法自体はあ まり問題にならない。つまり、法の一般原則などで「法の枠」が作られるため、係争者間で適用法に関する共通の

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合意が成り立っているからである。   こ の 点 を も う 少 し 掘 り 下 げ て み る と、 ひ と つ の 社 会 に は 共 通 の 認 識 あ る い は 常 識・ 良 識 ま た は 価 値 観 な ど が あ り、それを土台にして当該社会の法規範が成り立ち、かつ有効性の一端を保持している。そのため国内法上の適用 法確定は、根本的な所では当該共通認識等によって担保されているともいえよう。つまり、まず初めに当該事件の 発生時点を確定し、次に当該時点で有効な法規範を確定することで、評価の基軸を設定し、あとは法解釈学を用い て事実の評価を行うという一連の行為になるのである。   さ て、 国 際 法 に お け る 領 土 問 題 に 関 し て も 同 様 の 手 法 が 採 ら れ る。 当 該 係 争 事 実 が 発 生 し た 時 点 ( critical date ・ 決 定 的 期 日) を 確 定 し、 続 い て 評 価 基 準 た る 適 用 法 を 確 定 す る。 し か し、 こ と 領 土 問 題 に な る と、 critical date の 確 定 に つ い て 係 争 国 間 で 共 通 の 認 識 が 成 り 立 ち 難 い。 特 に ア ジ ア 地 域 の よ う に 古 い (歴 史・ 伝 統 の あ る) 国 家 が 多 い と、 そ れ ぞ れ の 歴 史 認 識 上 の 当 該 領 土 の 位 置 づ け が 異 な る か ら で あ る。 さ ら に critical date と 関 連 し て、 適 用 法 の確定についても一層困難となる。第二次世界大戦を挟んで、国際法規範の土台となる観念が、無差別戦争観から 侵略戦争違法観に大転換したため、同大戦の前後では適用法及びその基礎となる法観念が異なってしまうからであ る。   評価基準たる適用法が異なれば、事実に対する評価も異なる。つまり日本の有する領土問題については、 critical date と 法 観 念 及 び 適 用 法 の 確 定 の 段 階 で、 係 争 国 間 に 共 通 の 認 識 と 合 意 が 形 成 出 来 て い な い の で あ る。 こ の 点 に ついて竹島・尖閣問題を例にして、説明しよう。

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( 2)日本の有する領土問題の根本問題―竹島・尖閣問題を素材として―   現在 (二〇一二年) 、 日中間に―今回の 「中」 は中華人民共和国を示すことにする (「中」 が中華民国 (台湾) であっ た と し て も 北 京 政 府 の 立 場 か ら は「一 つ の 中 国」 故 に、 法 論 理 上 の 問 題 は な い と さ れ て い る。 も ち ろ ん 中 華 民 国 に と っ て は 大問題であるが) ―いわゆる尖閣問題が存在する。識者によって主張内容は異なるが、 critical date を中国は第二次 世 界 大 戦 以 前 に 発 生 し た 日 本 の 武 力 に よ る 取 得 時 と し、 日 本 は 当 該 諸 島 を 実 効 支 配 し て い た 一 九 七 一 年 (こ の 時 点 で中国の領有権主張が始まったとされる) としながらも、 他方で尖閣諸島自体がもともと中国 (清) の領土ではなかっ た こ と を 合 わ せ て 主 張 し て い る。 ま た 竹 島 に つ い て 韓 国 は、 当 該 島 は 本 来 韓 国 (朝 鮮) の 領 土 で あ っ た が 日 韓 併 合 により法論理上朝鮮は日本の領土となった。しかし当該併合自体が国際社会における違法行為であり、違法行為の 結 果 は 無 効 に な る ゆ え に 朝 鮮 (韓 国) が 改 め て 独 立 を 回 復 し た 後 は 竹 島 は 韓 国 に 帰 属 す る こ と に な る と い う。 こ れ に対して日本は、日韓併合とは無関係に竹島自体はもともと日本の領土であったことを主張している。ここに、二 つ の 点 が 見 出 さ れ る。 第 一 は、 武 力 に よ る 領 土 取 得 の 問 題 で あ り、 第 二 は、 係 争 対 象 (島・ 諸 島) が 無 主 地 で あ っ たかという点である。この二点の関係は、第一点目の武力による領土取得が合法であったならば第二点目は特に主 張する必要のないことであり、武力による取得が違法であったならば、日本にとっては主張すべき重要な内容とな る。   それでは、何故に第一の点に関する議論がなされていないのであろうか。この点が、後述する法論理と政治的主 張 の 矛 盾 (北 方 領 土 問 題) に 密 接 に 関 連 す る と 考 え ら れ る か ら で あ る。 現 段 階 で は 中 国 と 韓 国 は 係 争 対 象 (島・ 諸 島) が 本 来 自 国 領 土 で あ っ た こ と を、 第 一 の 点 ― つ ま り 武 力 に よ る 領 土 取 得 の 違 法 性 ― を 当 然 の 基 礎 に し て 自 ら の 主張を展開しているのに対して、日本は第一の点には言及せず、係争対象の無主物性および日本の領土であったこ

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とに重点を置く主張を展開せざるを得ないという理解が成り立つ。これらのことを以下で簡略に説明する。   最初に第一の点、すなわち武力による領土取得の合法性あるいは違法性の問題である。この問題はいわゆる戦争 観念と密接に結びついている。一般的に国際法学における戦争観念の変遷は、①戦争が日常茶飯事であった時代、 ②正当戦争論、③無差別戦争観、④侵略戦争違法観に分類され、③と④の間に戦争違法化の萌芽の時代を入れる場 合もある。重要な点は、侵略戦争違法観の始まった時期である。大沼保昭『戦争責任論序説―「平和に対する罪」 の 形 成 過 程 に お け る イ デ オ ロ ギ ー 性 と 拘 束 性 ―』 に よ る と、 第 二 次 世 界 大 戦 終 了 後 の 東 京 裁 判 (あ る い は ニ ュ ー ル ン ベ ル ク 裁 判) に お い て 初 め て 戦 争 の 違 法 化 が 明 確 に 始 ま っ た と い わ れ て い る。 つ ま り 第 二 次 世 界 大 戦 前 お よ び 同 大 戦 時 は 無 差 別 戦 争 観 の 時 代 で あ っ た。 同 観 念 の 特 徴 は、 武 力 行 使 (戦 争) を 外 交 手 段 の 一 つ と み な し て 合 法 化 し て い た こ と に あ り、 い わ ゆ る 戦 時 国 際 法 (ジ ュ ネ ー ブ 法 体 系) を 発 展 さ せ た。 そ の 典 型 的 な 帰 結 と し て 武 力 に よ る 領土取得 (植民地獲得) も国際法上の合法行為であった。   し か し 米 国 は、 独 立 以 来 の 伝 統 的 な 国 是 (中 立) を 変 更 す る た め に、 戦 争 の 違 法 化 は 第 二 次 世 界 大 戦 前 に 既 に 成 立していたという論理―後の侵略戦争違法観―を前面に掲げて国内世論を動かし、諸援助法を成立させ、同大戦に 参戦したのである。その結果、終戦後に「違法行為者」を審理する裁判を設置しなければならなくなった。ところ が 米 国 を 除 く 他 の 戦 勝 国 (敗 戦 国 も 含 む) は、 同 大 戦 は 無 差 別 戦 争 観 の も と で 実 施 さ れ た と い う 認 識 で 共 通 し て い たので、枢軸国に対する裁判は実質上戦勝国間での利益の分配会議になるはずであった。しかしそうなれば米国政 府の主張していた侵略戦争違法観が誤りであったことを認めることになるので、米国代表ジャクソンによる他の戦 勝 国 に 対 す る 説 得 が 行 わ れ、 最 終 的 に 極 東 国 際 軍 事 裁 判 条 例 (現 在 で は「極 東 軍 事 裁 判 所 憲 章(東 京 裁 判 憲 章) 」 と 表 現 さ れ て い る) に、 「平 和 に 対 す る 罪」 と い う 犯 罪 類 型 で 侵 略 戦 争 違 法 観 が 明 記 さ れ る こ と に な っ た。 そ し て 当 該 規

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定に基づいて東京裁判が実施されたのであ る ( 9) 。   こ の と き を 持 っ て、 侵 略 戦 争 違 法 観 が 国 際 社 会 の 主 流 な い し 土 台 と な り、 戦 後 の 諸 々 の 国 際 法 制 度 も 当 該 観 念 (及 び 人 権 保 障 観 念) に 基 づ い て 構 築 さ れ、 同 時 に 担 保 す る よ う に 構 成 さ れ て き た の で あ る。 つ ま り 歴 史 上 の 事 実 か らすれば、第二次世界大戦前及び同大戦中は無差別戦争観とそれに基づく法規範が適用される社会であったが、終 戦後は侵略戦争違法観とそれに基づく法規範が適用される社会に大きく変化したのである。   こ の よ う な 事 実 を 前 提 に す れ ば、 竹 島 お よ び 尖 閣 諸 島 問 題 の critical date を 同 大 戦 前 又 は 中 と し た 場 合 に は、 例 えば同島・諸島が武力行使の結果日本に帰属することになったのであったとしても、それは合法的な帰属であり、 ま た 尖 閣 問 題 の 場 合、 同 大 戦 後 の 一 九 七 一 年 を critical date に し た と し て も、 当 時 実 効 的 支 配 を し て い た 日 本 に 帰 属することになるので、問題化することにはならないはずである。だが係争相手国の主張をみると、戦争観念の部 分に大きな相違が見出される。   係争相手国は、侵略戦争違法観が米国の主張の通りに同大戦前に既に成立しており、適用法も当該観念に基づい て成立し、解釈・運用されなければならないと論ずるのである。このような主張に対して米国自身は、自らの作り だ し た フ ィ ク シ ョ ン (虚 構) を 承 知 し て い る た め ( 10) 、 無 差 別 戦 争 観 と 侵 略 戦 争 違 法 観 の 時 代 を 分 け る 日 本 の 主 張 に 与 することはできず、一方で国際政治の関係から係争相手国に与することもできないまま、当事国同士の解決を希望 し て 一 歩 身 を 引 い て い る 状 態 に あ る。 換 言 す れ ば、 係 争 相 手 国 は、 フ ィ ク シ ョ ン と し て 作 ら れ た 侵 略 戦 争 違 法 観 が、戦後の国際社会で明らかに確立している事実に依拠して、さらに米国という強大国の主張に与することによっ て、第二次世界大戦前にすでに成立しており、日本への竹島と尖閣諸島の帰属は違法行為であるため、戦後の領有 権の主張と実効的支配という法的効果は無効であると論ずるのである。さらに、領土帰属の国際判例に鑑みて、そ

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こでは「最近の実効的支配」が判断規準にされている場合が多い―地域的慣習国際法の成立とみなす―ので、現実 に実効的支配を行おうとしているのである。勿論、国際法学上は当該判断規準と「一貫した反対国の法理」との関 係という興味深いテーマが見出されるが、係争相手国は実務的な判断に依拠しつつ、国際法戦略に依拠していると いえよう。   こ の よ う な 視 点 で 領 土 問 題 を 考 察 す る な ら ば、 日 本 の 有 す る 領 土 問 題 (竹 島、 尖 閣、 北 方 領 土) の す べ て に つ い て、 critical date (決 定 的 期 日) が 問 題 で あ る と い う よ り も、 よ り 一 層 根 源 的 な 部 分、 す な わ ち 適 用 法 規 範 の 土 台 と なる観念―この場合は戦争観念―に共通性を欠いている点が、当該事態を引き起こしている主要かつ根本的な原因 であると考えられるのである。   一方、日本で盛んに行われている歴史的事実の詳細な調査は、結局のところ、当該係争問題が無差別戦争観に基 礎 を 置 く も の で あ ろ う と、 侵 略 戦 争 違 法 観 に 基 礎 を 置 く も の で あ ろ う と、 ど ち ら に し て も 武 力 行 使 の 結 果 で は な く、 平 和 的 に 日 本 に 帰 属 し て い た こ と を 証 明 す る と い う 目 的 と 意 義 を 有 す る こ と に な る ( 11) 。 係 争 対 象 (島・ 諸 島) が 無主地であったゆえに平和的に自国領土にしたという主張である。しかし歴史上の証明は極めて困難なことが多い とも言えよ う ( 12) 。同時に戦争観念の相違という問題を前面に提示することは、後述する北方領土問題にも大きく影響 することになり、現段階では日本は、観念問題に踏み込むよりは、無主地であったという主張を展開する他に、法 論理的な選択肢が無いといえよう。   この様に考えるならば、日本及び係争相手国との間には、法規範の土台となる観念についての相違があり、それ に 基 づ く 適 用 法 及 び そ れ に 係 る 解 釈・ 運 用 の 相 違 が 顕 在 化 し て お り、 そ の た め、 竹 島 問 題 お よ び 尖 閣 問 題 は 未 だ (国際) 法上の問題―法解釈上の問題―にすることが出来ないのである。

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( 3)根本問題の連動性と矛盾の発生―北方領土問題に関する法論理と政治的主張―   このような状況下で日本が歴史上の事実に依拠して無差別戦争観に基づいた主張を行った場合、竹島問題と尖閣 問題については一定の結論を出せるかもしれない。しかし他の領土問題―北方領土問題―に重大な影響が生じると 推測できる。   北 方 領 土 問 題 に つ い て、 日 本 の 主 張 は、 日 本 の 敗 戦 が ほ ぼ 決 定 し た 段 階 で ソ 連 邦 (当 時) が 日 ソ 中 立 条 約 を 破 り、 北 方 領 土 を 不 法 占 領 し た と い う も の で あ る ( 13) 。 そ の た め 係 争 相 手 国 (現 在 の ロ シ ア) に 対 し て 同 諸 島 の 返 還 を 要 求している。だが、もし日本が竹島問題や尖閣問題で無差別戦争観を主張するのであれば、北方領土問題も同じ時 代 の、 同 じ 戦 争 観 に 基 づ き、 適 用 法 や 解 釈・ 運 用 も 同 じ に し な け れ ば な ら な い。 と い う こ と は 武 力 行 使 (戦 争) は 合法であったゆえに、そして当時の枢軸国は絶対主権観念に基づいていたために、係争相手国にも同様にそれらを 認めなければならなくなる。   ここで絶対主権観念とは、国際法学上の主権観念の一つであり、自然法的国家主権観念に対抗して創られたもの で あ る。 両 者 の 相 違 は、 国 家 主 権 観 念 が「最 高・ 絶 対・ 何 も の に も 服 さ な い」 と い う 性 質 の も の で あ っ た と し て も、 そ れ で も 自 然 法 (時 代 に よ っ て 神 の 法・ 理 性 の 法 と も 呼 ば れ て い た) に は 従 わ な け れ ば な ら な い と い う こ と を 認 め る か 否 か で あ る。 ボ ダ ン、 グ ロ チ ウ ス、 ヴ ァ ッ テ ル な ど の 系 統 に 属 す る 自 然 法 的 国 家 主 権 観 念 は そ れ を 認 め る が、一方、当該観念のイデオロギー性を見抜き、対抗観念として創られたのがヘーゲル、ラーソン、イェリネクら の系統に属する絶対主権観念であって、自然法を認めない。ラーソンに至っては国際法は対外的国内法ゆえに国際 法否定説に帰結する。イェリネクは、絶対主権観念に基づくと国家主権を拘束するものが無いにもかかわらず何故 に 国 家 は 条 約 に 拘 束 さ れ る の か、 と い う 問 題 に 対 し て、 「国 家 の 自 己 拘 束 説」 を 提 唱 す る こ と で 回 答 し た。 つ ま り

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国家は条約に拘束されているように見えるが、実は国家自身が当該条約を順守しようと決めているから客観的には 拘束されているように見えるだけであり、国家が自己の意思で条約順守を中止ないし放棄したならば当該条約に意 味がなくなる、という考え方であ る ( 14) 。この観念に基づいて第二次世界大戦中のドイツは周辺諸国との関係を築いて いたのである。   明 治 政 府 下 に お い て ヨ ー ロ ッ パ 大 陸 法 体 系 を 受 容 し た 日 本 (当 時) は、 こ の 絶 対 主 権 観 念 を も 受 容 し た 蓋 然 性 が 非 常 に 高 い。 そ う で あ る な ら ば、 枢 軸 国 の 連 携 が、 自 然 法 的 国 家 主 権 観 念 を 担 う 英 仏 を 主 と す る 当 時 の 支 配 国 グ ループに対抗するために結成されたことも、論理的に充分に推測できる。   そこで国家行動の基本となる主権観念を異にする国家グループ間に適用される国際法の最も根本的な原則は、相 互 主 義 ( reciprocity ) で あ る た め、 第 二 次 世 界 大 戦 時 の 枢 軸 国 対 連 合 国 の 関 係 に も 相 互 主 義 が 当 て は ま り、 こ の 点 で、 現 在 の 日 本 が 竹 島 問 題 や 尖 閣 問 題 に 対 し て 無 差 別 戦 争 観 及 び そ の 対 (つ い) と な る 絶 対 主 権 観 念 を 主 張 す る の で あ れ ば、 ロ シ ア (当 時 の ソ 連 邦) に 対 し て も 同 様 の 事 を 認 め な け れ ば な ら な い。 そ の 結 果 は、 当 時 の ソ 連 邦 に よ る日ソ中立条約を一方的に失効させる行為は条約違反を構成しない―「国家の自己拘束説」に基づいても説明され 得 る ― と 云 う こ と に な り、 武 力 を 持 っ て 占 領 さ れ た 北 方 領 土 は 係 争 相 手 国 の 領 土 と し て 認 定 さ れ て し ま う の で あ る。   ここに領土問題に関する法論理上の問題が存する。日本は自然法的国家主権観念と侵略戦争違法観を認めなけれ ば、法論理上、北方領土の返還を要求できなくなる。同時にそれは竹島や尖閣の領有権を―係争相手国が主張する ように武力行使の結果、日本へ帰属したのであるならば―主張できないことになる。領土問題には、このような法 論 理 上 の 根 本 問 題 の 連 動 性 と、 政 治 的 主 張 (返 還 要 求 な ど) と の 間 に 矛 盾 が 存 在 す る の で あ る。 こ の 点 を 解 決 し な

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ければ、日本の有する領土問題は―政治的決断で問題となっている島々の領有権の主張を放棄する以外に、あるい は係争相手国が放棄する以外に―解決できないことになるといえよう。 (二)領土問題に関する二つの視点   領 土 問 題 は 学 問 的 に み れ ば 領 有 権 あ る い は 領 域 主 権 の 問 題 で あ る。 現 段 階 に お い て は 当 該 問 題 は 膠 着 状 態 に あ る。しかし、長期的には領域主権観念自体が帰属から管理へと変遷しつつある傾向を見出すことができ、ある種の 領土問題の建設的な解決に繋がる可能性も出てきた。その一方で、各国家の行動原理を時間観念あるいは時代観念 を持って類型化すると、少なくとも東アジアにおける領土問題の解決は容易でないことも予想できる。 ( 1)領域主権観念の変遷―帰属から管理へ― Ⅰ.従来の領域 (領土) 取得と判断規準   これまでの領域取得については、①原始取得 (先占、添付) 、②承継取得 (割譲、征服、併合、時効) を領域権原と し て き た。 こ れ に 疑 義 の あ る 場 合、 そ の 紛 争 を 解 決 す る た め に、 第 一 に 実 効 性 の 原 則 (主 権 的 行 為 の 継 続 的 発 現) 、 第 二 に 競 合 す る 主 権 的 活 動 の 相 対 的 強 さ、 第 三 に 黙 認・ エ ス ト ッ ペ ル ( estoppel ・ 反 禁 言) 、 第 四 に ウ テ ィ・ ポ シ デ ティス ( uti possidetis ) の原則 (現状承認の原則) 、第五に条約 (割譲条約・国境画定条約) を主要な規準とし、かつ、 個別具体性を有する諸事実とこれら諸規準とを組み合わせることによって判断されてき た ( 15) 。しかし、どちらにして もこれらは、係争地域の帰属先の決定、あるいは何処の国家の領域になるのか、という発想に基づく解決規準と方 法であった。

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Ⅱ.領域主権の法的性質に関する学説   領 土 主 権 の 法 的 性 質 に 関 し て は 物 権 説、 空 間 説、 権 限 説 が 主 に 唱 え ら れ て き た。 立 作 太 郎 (タ チ   サ ク タ ロ ウ) によれ ば ( 16) 、物権説は最も古く、土地所有権の観念が国家の領土に関する権利に準用され、領土の取得喪失について 土地所有権の取得喪失に関するローマ法の法理が自然法の名を持って国家間に有効とされ、そこから国家が領土に 関して物権的権利を有すると考えられたのである。これに対して唱えられた空間説は、領土は国家の要素であり、 国 権 の 行 使 さ れ る 地 理 的 範 囲 即 ち 空 間 に 他 な ら な い と す る も の で、 国 家 が 領 土 に 関 し て 物 権 (又 は 主 権) を 有 す る ことを認めない考えである。また権限説は、領域とは領土高権が国際法上の国際人格者に許与する場所的権限に関 する場所的限界である、という思想に基づくものである。   し か し 立 は、 空 間 説 に 対 し て は、 [一 九 二 九 年 当 時 の] 領 土 に 関 す る 種 々 の 国 際 法 上 の 現 象 を 十 分 に 説 明 す る こ とはできないことを指摘し、権限説に対しては、国家の有する国権自体が国際法によって許与された権限であると いう観念が現時[一九二九年]の国際団体の法律的確信に適していないと批判している。つまり、いずれの国家も 国権あるいは主権が国際法に基いて初めて許与される権限であると認めることはほとんどないということである。   続 け て 立 は、 物 権 説 に 対 す る こ れ ら 二 つ の 新 説 が 唱 え ら れ た 理 由 を、 フ リ ッ カ ー ( Fricker ) の 説 を 採 り 上 げ て 説 明 し て い る。 と い う の も フ リ ッ カ ー が イ エ リ ネ ッ ク ( Jellinek ) に 先 立 っ て、 い わ ゆ る 国 家 三 要 素 説 を 唱 え た か ら で あ る ( 17) 。フリッカーの見解は一八六七年に著されたものであり、領土をめぐる争いを続けていたヨーロッパの現状を 土台とし、その中で物権説を検討することから始めている。つまり人にとって有益な土地・財産、特に所有地を動 産 の 総 計 で あ る と し、 そ れ と 所 有 者 (人) と の 関 係 で は 後 者 (人) は 動 く[移 転 す る] こ と が 無 い の で、 代 わ っ て 前 者 (土 地) が 動 く[移 転 す る = 所 有 者 の 変 更 に よ る 移 転] こ と と な り、 こ れ を 承 認 す る と、 国 家 に 対 す る 領 土 と

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は国家の拡がりと関係することになるので、領土とは国家の拡大によって定められる国家の所有地、ということに な る ( 18) 。そして既に認知されてきた国民・国家権力と並んで、国家の客体としての領土が規定さ れ ( 19) 、国家三要素説の 原型になったのであるという。   だ が こ の 見 解 は 、 物 理 的 な 人 の 可 動 性 と 土 地 の 固 定 性 と い う 性 質 の 相 違 を 中 心 に し て 国 家 と 土 地 ( 領 土 ) と を 深 く 結合させて、当該領域に入ったものを支配できるという考えに至り、国家と領土との関係は本質的であるゆえ に ( 20) 、 国家の領土の変更は国家自身の変更となり、領土の取得喪失によって前国家と異なる新しい国家が生ずるというこ とになるのであ る ( 21) 。このフリッカーの見解は極端であるが、しかし国家の要素として人民と政府並びに領土とする 見 解 は 広 く 行 わ れ て お り、 こ の よ う な 見 解 に 基 づ い て 国 家 が 領 土 に 対 し て 物 権 を 有 す る こ と (物 権 説) を 否 認 す る ものが少なくないと云われてい た ( 22) 。その結果、先に述べた空間説、権限説が唱えられるようになったのである。   しかし、立自身も、この様な見解は総ての時代を通じ、総ての国にわたって国家の法規上の本質を明らかにする ものではない、と認めているよう に ( 23) 、いわゆる学説ないし見解は、それぞれの時代及び社会的背景を基にして形成 されている。立も当該状況に依拠して所説を批判的に検討しているのである。   このような学説に対する評価が正当であるならば、立には否定的に評価された見解が、現代[二〇一二年]では 異 な る 評 価 を 受 け る こ と も あ り 得 る。 例 え ば 石 村 は 権 限 説 に 対 し て、 「こ の 思 考 が も つ 長 所 と し て、 二 〇 世 紀 以 降 にあって多く成立することとなった国際機構・団体に対しても、ここに国際法から付与された権限があるとするこ とで、国家の領土と国際組織を同位に扱うことを可能とした点にある。むしろ国家は領土を離れて存立し、その権 限行使がなされるという現象が将来において展開されるであろうという見通しがこの説からは展望できることにな る ( 24) 。」 と 積 極 的 に 評 価 し て い る。 確 か に 例 え ば 宇 宙 開 発 に 関 し て、 一 九 六 七 年 発 効 の 宇 宙 条 約 が 領 有 禁 止 原 則 (第

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二 条 ( 25) ) を 規 定 し た と き か ら、 宇 宙 物 体 に 対 し て「動 く 領 土 原 則」 ( the floating territorial principle ) の 適 用 を 主 張 す る見 解 ( 26) や、より固定的な宇宙ステーションに関する管轄権への問題を提起する見 解 ( 27) 、さらに月面という天体上の基 地及びその管轄範囲の問題など、国際法の分野では領土自体の意味ないし位置づけに対する検討の必要性が提起さ れ続けている。特に宇宙空間に関しては、民法上の財産権の概念を援用する無主物説と共有物説、また行政法上の 公物性の概念を援用する説などが唱えられてお り ( 28) 、これも科学技術の発達と時代の変化及び関係分野の特殊性に基 づ い て 発 生 し た 見 解 と い え よ う。 し か し 後 述 す る よ う に、 領 土 (領 域) 主 権 と の 関 連 で い え ば、 宇 宙 空 間 に お け る 研究は一種の先取り的な意味をもつものと考えられる。 Ⅲ.領域主権の法的性質に関する今日的傾向―社会変化と領域管理原則―   領 土 (領 域) 主 権 も そ れ に 関 す る 諸 学 説 も、 社 会 の 現 状 認 識 が 大 き く 影 響 し て い る。 国 際 社 会 に 関 す る 認 識 に つ い て は、 第 二 次 世 界 大 戦 後 に 様 々 な 理 論 が 国 際 関 係 論 で 提 示 さ れ 始 め た。 現 実 主 義 か ら は 勢 力 均 衡 論・ 覇 権 安 定 論・ 覇 権 循 環 論・ ポ ス ト 覇 権 シ ス テ ム な ど で あ り、 理 想 主 義 か ら は 国 際 統 合 理 論 (新 機 能 主 義 理 論・ 相 互 作 用 主 義 理 論) ・ 新 制 度 主 義 理 論 (相 互 依 存 論・ 国 際 レ ジ ー ム 論) 、 ま た 構 造 主 義 か ら は 従 属 理 論・ 構 造 的 暴 力 論・ 世 界 シ ス テ ム 論などが順次提唱されて来た。そこでは「自由主義者はしばしば主権が縮小後退していくことが、善であり進歩で あるかのように論じ、現実主義者はそれを否定する議論を展開して対立してき た ( 29) 。」のである。   特に戦後の国際社会では侵略戦争違法 観 ( 30) とそれを担保する民主主義あるいは人権保障を大きな土台として、国際 制 度 な い し 法 が 形 成 さ れ て き た が、 「領 土 の 不 変 更 (憲 章 の「領 土 保 全」 ) の 実 現 は、 事 実 上 の 武 力 不 行 使 の 一 つ の 帰 結 と い っ て も よ い。 [中 略] 『無 主』 の 領 土 は な く な っ た し、 [中 略] こ の 結 果、 主 権 の も つ 意 味 は 二 〇 世 紀 前 半

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と 較 べ 大 き く 変 容 し た。 [中 略] 今 や 国 内 主 権 は 国 際 法 上 の 管 轄 権 に、 対 外 主 権 も 少 な く と も 先 進 国 間 で は 事 実 上 各種の外交権という性格が著しく強くなったのであ る ( 31) 」。そして、 「主権についての誤解は管轄権の国際化と国家の 役 割 の 縮 小 の 混 同 か ら 生 じ て い る。 [中 略] そ れ は 国 家 が 一 国 単 位 で 管 轄 す る の が 難 し く な っ た 分 野 に 国 家 の 同 意 によって世界的、地域的な国際組織などのいっそう普遍的、実効的な管轄能力を取り込み、自らの管轄を補完しつ つ拡大していると見るべきであろ う ( 32) 」という認識も可能である。   つまり国際関係論の理論を用いると、ポスト覇権システムにおける覇権国グループが世界システム論における中 心国グループと重なりつつ戦後の様々な制度を用いて国家間関係を固定化あるいは安定化させ、同時に国家が単独 で対処できない事項が増大してきたため、国家自らの意思で関連する国際制度を設けて、不足部分を相互に補完さ せ て い る と 考 え ら れ る こ と に な る。 も ち ろ ん こ の 様 な 現 状 を 国 際 協 力 あ る い は 統 合 と 評 価 す る こ と も 可 能 で あ る が、この点は研究者ごとに異なるといえよう。   どちらにしても特に冷戦後の国際社会は経済分野、科学技術の発展に伴うその他の分野でも一国だけでは対処し 難 い 事 項 が 生 じ て い る。 と り わ け 近 年 で は 領 域 管 理 原 則 (国 家 は、 他 国 の 法 益 を 侵 害 す る 結 果 を 導 く 領 域 の 使 用 お よ び 使 用 の 許 可 の 権 利 を も た な い) が、 裁 判 実 践 お よ び 環 境 保 護 の 分 野 で 繰 り 返 し 確 認 さ れ て い る ( 33) と い う 認 識 お よ び 見 解 が 拡 大 し て い る。 こ の「領 域 使 用 の 管 理 責 任」 概 念 は、 領 域 主 権 の 本 質 を 解 明 し た パ ル マ ス 島 事 件 (常 設 仲 裁 裁 判 所 一 九 二 八 年 四 月 四 日) に お い て そ の 端 緒 が 示 さ れ た。 当 該 事 件 の 仲 裁 人 で あ る フ ー バ ー ( Max Huber ) は、 最 初 に 主 権 と 領 域 に 関 す る 一 般 所 見 が 必 要 で あ る と し ( 34) 、 そ の 中 で 次 の 様 に 述 べ た。 「国 家 間 関 係 に お け る 主 権 は 独 立 を 意 味する。地球の一部分に関する独立は、その範囲内で、他のいかなる国家をも排除し、国家の機能を行使する権利 で あ る ( 35) 」。 そ し て「領 域 主 権 は、 一 般 的 に、 国 際 法 に よ っ て 認 定 さ れ た い わ ゆ る 自 然 境 界 に よ っ て 又 は 外 部 に 向

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かった誰もが認めた限定のしるしによって、あるいは関係近隣諸国間で有効な法的取決によって、もしくは確定し た 国 境 を 超 え な い 諸 国 家 の 認 定 行 為 に よ っ て、 空 間 的 に 限 定 さ れ 且 つ 認 定 さ れ た 状 態 ( situation ) で あ る ( 36) 」。 こ の こ と を 前 提 と し て、 領 域 主 権 は、 「国 家 が は っ き り と 諸 行 為 を 行 う こ と の で き る 排 他 的 権 利 を 含 む。 こ の 権 利 に は、 原 則 と し て 次 の よ う な 義 務 が 含 ま れ る。 す な わ ち、 他 国 領 域 に お け る 自 国 民 の た め の 各 国 の 有 す る 請 求 権 と と も に、自国領域内において他国の権利、とりわけ平時及び戦時における保全と不可侵の権利を保護する義務」である と い う ( 37) 。 こ の 義 務 の 考 え 方 が コ ル フ 海 峡 事 件 (国 際 司 法 裁 判 所 本 案 一 九 四 九 年 四 月 九 日) に 受 け 継 が れ、 特 に 環 境 保 護に関する右記の「領域使用の管理責任」概念を生み出したといわれてい る ( 38) 。   この領域管理原則のわが国における理解については、概ね二つの潮流に分けることができよう。その端緒になっ た と 考 え ら れ る の は 国 際 行 政 法 の 研 究 で あ ろ う。 そ こ で こ こ で は 社 会 状 況 の 変 化 と 合 わ せ つ つ 具 体 的 な 現 象 (例 え ば 多 く の 国 際 行 政 組 織 及 び そ の 活 動) と、 そ れ を 整 合 的 に 説 明 し よ う と す る 諸 学 説 (概 念 を 含 む) を 歴 史 を 追 っ て 順 次示し、いわゆる超国家的な国際行政機能設定と各国の国内行政機能の対外的発動という二つの異なる認識あるい は学説を概観することで、各研究者の社会認識や傾向の相違によってそれぞれの見解が提示されていることを明ら かにできるものと考えられる。   そ の 中 で 山 本 草 二 は、 「一 六 世 紀 い ら い、 個 人 の 追 求 す る 生 活 利 益 が、 国 家 利 益 と 原 理 的 に 同 一 の も の と さ れ、 国 際 関 係 の 面 で も 国 家 の 次 元 に 編 入 ・ 吸 収 さ れ て 、国 家 を 通 じ て そ の 利 益 の 実 現 が は か ら れ て き た ( Durchstaatlichung ) 体制が、一九世紀から崩れた」ので「国家と市民社会の相互浸透現象と、近代国家の領域的な統治主権を修正する 機 能 主 義 的 な 原 理 が 登 場 し て く る 時 期」 に な っ た と い う ( 39) 。 つ ま り、 「市 民 社 会 の 利 益 が、 国 家 だ け で は な く 国 際 的 な産業社会を通じて制度的に実現され保護される現実の必要性が出てきたからであ る ( 40) 」。これに対処するため、 「国

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家相互間でも、科学技術文明の各分野で国際的な行政機構を創設し、それを通じて行政の調整・標準化を図るよう に な っ た の で あ」 り、 「窮 極 的 に は、 近 代 国 家 の 領 域 主 権 に 基 づ く 法 秩 序 (地 的 管 轄 権 配 分 の 原 則 に 基 く 領 域 権 能 の 法 理) を 多 少 と も 克 服 し、 新 た に 科 学 技 術 文 明 の 即 物 的 な 基 準 を 単 位 に し た (機 能 主 義 の 原 則 に 立 っ た ) 国 際 社 会 を 制 度 的 な も の と し て 再 構 成 せ ざ る を 得 な い で あ ろ う ( 41) 。」 と い う 。 さ ら に 国 際 的 公 共 事 務 ( se rv ice public international ) の 問題を論じる際に人間の生活や国内社会の発展過程において、国家と国際社会の構成要素も変わらざるを得ないと 認 識 し、 次 の よ う に 指 摘 し て い る。 第 一 に 領 域 的 要 素 に 代 わ っ た 地 域 的 要 素 に つ い て は、 「 一 九 世 紀 に お け る 欧 米 諸 国 の 国 民 経 済 と こ れ を 結 ぶ 世 界 経 済 は 、 領 域 の 分 割 取 得 ・ 拡 張 の 基 礎 の 上 に 発 展 し た が 、 今日 [一九六九年時点] で は も は や そ れ は 不 可 能 で あ っ て、 地 域 的 に 密 接 に 結 合 し 限 定 さ れ た 分 野 で 経 済 の 拡 大 発 展 が 行 な わ れ る だ け で あ」り、このようにして「地域的な結合と統合は、国家の支配権または私的所有権の基盤であった領域の意義を変 え、今日[一九六九年時点]の行政国家の任務を実現するための機能的な基盤として、領域をみなすようになって い る ( 42) 」。 こ の 指 摘 は 特 に 新 し い も の で は な く、 既 に ケ ル ゼ ン が Allgemaine Staatslehre ( 1925 ) に お い て、 国 家 の 領 域 と そ の 地 域 的 な 組 織 化 を も っ て、 「国 家 ま た は 組 織 の 機 関 の た め の、 抽 象 的 な 権 能 の 範 囲」 、「国 家 法 及 び 超 国 家 法の法規範の範囲」という新しい空間理論を立てていた、とも指摘してい る ( 43) 。また第二に、専門職能的要素につい て、 「伝 統 的 に 国 家 の 権 力 作 用 の 対 象 で あ っ た 領 域 が、 専 門 職 能 に 基 づ く 事 項 別 に 再 区 分 さ れ て 国 際 的 に 統 合 し、 複 数 の 専 門 的 行 政 的 法 秩 序 の 構 成 単 位 に 変 わ る の で あ る (た と え ば、 経 済 的 自 由 化 の 原 則 が 実 現 さ れ る 場 と し て、 国 際 的 に 経 済 地 域 が 形 成 さ れ る ( 44) ) 」 と い う。 そ し て 第 三 に、 時 間 的 要 素 に つ い て、 「一 定 の 行 政 目 的 を 国 際 的 に 設 定 し 実 現するための『過程』という側面が、重視されるようにな る ( 45) 」のである。このような事態は「国家の伝統的な管轄 権の基盤であった空間的時間的な要素を超克し転換させるものである以上、主権概念の側からする激しい抵抗に直

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面 せ ざ る を え な い ( 46) 」 と も 指 摘 し て い る。 こ の よ う な 見 解 は、 「二 国 間 の 対 抗 関 係 で は 実 現 で き な い 国 際 公 益 が 設 定 されるとともに、国際公益を実現する国際公共事務を実施するにあたり、伝統的国家の管轄権のストレートな適用 が制限ないしは排除される。ここに、地的管轄権配分の原則に基づく領域権能の法理としての、領域主権の修正・ 克 服 を み る こ と が で き る ( 47) 。」 と 評 さ れ て い る。 特 に 国 際 環 境 法 の 分 野 で も「領 域 性 を ま と わ な い 新 た な 国 際 共 通 利 益 (海 洋 環 境・ 共 有 資 源・ 地 球 環 境 な ど) を 国 際 法 益 と し て 設 定 し、 そ の 実 現 の た め の 権 限 と し て、 領 域 主 権 を『機 能化』することである。そこでは、領域は、共通利益を実現するために、一定程度に国際的に統一された立法や措 置 が 実 施 さ れ る 空 間 と な る ( 48) 」。 こ れ は「領 域 主 権 を、 国 際 法 益 の 実 現 の た め に、 そ の 行 使 を 国 際 法 に よ り 規 律 さ れ る機能的権限へと変更することにおいて、実現されているのであ る ( 49) 。」とまとめられている。   こ の 見 解 に 対 し て、 「領 域 を 基 準 と し て、 国 際 法 が 国 家 の 基 本 的 権 利 と 基 本 的 義 務 を 決 定 し、 国 家 の 権 利 相 互 の 関 係 を 規 律 す る 根 本 原 理 の 展 開」 が 領 域 管 理 原 則 の 発 展 で あ る と し、 領 域 主 権 の「相 対 化」 を 主 張 す る 見 解 ( 50) も あ る。 こ こ に い う「相 対 化」 に つ い て は、 「国 際 法 が 領 域 主 権 を す べ て 国 家 に 付 与 し て い る が ゆ え に、 同 時 に、 国 際 法は領域主権相互の対立が現実化した場合の、調整の法理を生み出さなければならない。つまりこの調整は、領域 主 権 原 理 が む し ろ『内 在 的』 に 要 請 す る も の で あ り ( 51) 」、 そ こ に「相 対 化」 の 意 味 も あ る と い う。 そ し て 領 域 管 理 原 則とは「対等な権利の調整の法理であ る ( 52) 」とする。   これらのほかには、領域主権に限らず国際社会においては主権が一般的に制限される傾向にあることを指摘する 者 も い る。 例 え ば B・ コ ン フ ォ ル テ ィ は、 実 際 に 締 結 さ れ て い る 多 く の 条 約 を 例 に 出 し、 特 に 人 権 保 護 関 係 (拷 問 禁 止 条 約 な ど) を 例 示 し な が ら、 そ の 中 の 国 家 に 対 す る 義 務 規 定 な ど に よ っ て 国 家 主 権 の 具 体 的 発 現 に 対 す る 制 限 あ る い は 規 制 が 行 わ れ て い る ( 53) 、 と い う。 ま た ノ ッ テ ボ ー ム 事 件 判 決 (国 際 司 法 裁 判 所 一 九 五 五 年 六 月 四 日) を 採 り 上

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げ、従来、国家主権の問題とされてきた国籍付与に関しても、その効力は国内法の段階においてはともかく国際法 の段階においてはいわゆる真正結合無しに国籍の付与を国際的に正当化できると考えることはできな い ( 54) 、といい、 少なくとも国際的な場面における主権の規制という現状及び事実を指摘している。この見解は、国家を超えた超国 家的傾向という理解ではなく、国家主権の存在と発現の自由を前提にして、国内法制度との整合性を念頭におきつ つ条約を作成し、加入するという現実も含まれていることから、第二次大戦後の国際法社会の大枠あるいは示唆さ れた方向性の中で、主権間の調整を当該方向性に合わせながら実行している状況であるとも理解することができよ う ( 55) 。   ところで、これら見解の相違は何処から来るのであろうか。執筆者のすべての文献を精査したわけではないが、 そ れ ぞ れ の 根 拠 の 相 違 が 見 解 の 違 い に 現 れ て い る よ う に 考 え ら れ る。 す な わ ち 前 者 (山 本) は、 国 際 社 会 で 実 際 に 生 起 し て い る 様 々 な 国 際 (行 政) 機 関 と そ の 背 景 た る 状 況 に 基 づ い て、 実 態 的 に 導 き 出 し た 認 識 に 基 づ い て 主 張・ 展 開 さ れ て お り、 国 家 を 超 え る と い う 考 え 方 に つ な が り 易 い と 考 え ら れ る。 そ れ に 対 し て 後 者 (対 等 な 権 利 の 調 整 の 法 理) は、 主 と し て 国 際 裁 判 の 分 析 に 依 拠 し て い る。 法 律 学 と し て は 判 例 を 扱 う の は 常 で あ り、 そ の 意 味 で は 全 く問題はないが、未だ十分に組織化されていない―ゆえに国際行政法の研究も行われているのだが―国際社会にお ける裁判は、紛争当事国の利害の調整という民事法的な傾向を色濃く残している場合が多く、そのような裁判例に 基づいて領域管理原則を研究するならば、国家を超えるという性質よりも紛争当事国それぞれの領域主権の調整と いう性質が見出される蓋然性が高くなる。また最後の見解は、前二者にも共通している国際法社会の大枠をより直 接的に反映した認識に基づいて表されたものと考えることができる。このような視点でこれらの見解を理解するな らば、それぞれは対立するものではなく、共通の理解に基づきながら、領域主権あるいは領域管理原則の一側面を

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それぞれ表しているものと考えることができよう。 ( 2)国際関係論における認識―時間という視点―   組織化された社会のほとんどの法制度は時間制度であ る ( 56) 。年齢計算、定年の設定や労働時間、授業時間等々、法 制度の相当の部分が時間の制度になっているあるいは時間を基礎にして成立しているということである。その時間 制度は、いわゆる直線的時間制度であり、それゆえに過去・現在・未来、先進・途上、進化・発展といった観念お よび表現が使用されている。ということは、本稿で取り上げた領域主権観念および学説も、時間経過による変化で あ り、 地 域 別・ 分 野 別・ 項 目 別 に 領 域 主 権 観 念 が 相 違 す る と 云 う 指 摘 も そ れ ぞ れ の 分 野 の 実 質 的 な 時 間 経 過 (発 展 段階ともいい得る) の相違を云い表している。   そ れ と 同 時 に、 各 分 野 別 に 異 な っ て い る 時 間 経 過 が、 現 在 と い う 同 一 の 時 間 帯 に 併 存 し て い る。 こ の 併 存 状 態 は、それぞれの分野における国家の行動を基礎づける原理ないし原則の相違を確定する。しかし、異なる時間的性 格を帯びた原理・原則が現在という同一の時間帯に併存している限りは、当該原理・原則も現在の枠組みの中で存 在および行使が許されるのであり、当該枠組みから逸脱すれば、通常は国際法違反行為 (国際不法行為・国際違法行 為) と 認 定 さ れ る こ と に な る。 と い う の も 中 央 集 権 化 さ れ て い な い 国 際 社 会 で は、 多 く の 正 義 が 併 存 し て い る た め、 国 際 紛 争 と は い わ ば 正 義 対 正 義 の 衝 突 と い う 性 格 を 有 し て お り (大 抵 が 共 通 の 事 実 に 対 す る 評 価 の 相 違 ― つ ま り 規準たる法規範の相違―である場合が多い) 、どちらの正義がその時間帯および地域あるいは項目における国際社会共 通の正義に近いかという規準で判断されることになるからである。当該時間帯が同じで、原理・原則もほぼ共通化 し、正義の共通性の程度が高いところでは、紛争の平和的解決のなかでも裁判による解決の成功率が高くなると考

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えられる。   領 域 主 権 の 問 題 に 関 し て、 こ の よ う な 法 的 な 視 点 と は 別 の と ら え 方 が、 国 際 関 係 論 な い し 国 際 (関 係) 学 に あ る。 例 え ば 田 中 明 彦『新 し い「中 世 ( 57) 」』 で は、 こ の 異 な る 時 間 帯 の 併 存 と い う 発 想 及 び 認 識 と ほ ぼ 同 様 の こ と を 別 の表現で表している。それは、第一圏域・第二圏域・第三圏域という分類および「近代」と「新しい中世」のきし み、 と い う 指 摘 で あ ろ う。 そ の 中 で 特 に 東 ア ジ ア に 関 し て は、 「第 一 圏 域 に 属 す る 日 本 は、 一 方 で『新 し い 中 世』 的国際関係に身をおきながら、他方で未だに『近代』的な要素をぎらぎらと輝かせている国々と対峙しなければな ら な い ( 58) 。」 と 指 摘 さ れ て い る。 な お 同 書 の 執 筆 時 と 現 在 (二 〇 一 二 年) で は、 国 際 関 係 に 変 化 が 生 じ て い る 点 に も 注 意しなければならないだろ う ( 59) 。   こ の よ う な 思 考 に 基 づ け ば、 「ヨ ー ロ ッ パ 地 域 の み な ら ず 他 の 地 域 と 比 較 し て も、 と く に、 極 東 地 域 は、 経 済 的 な相互依存が著しく緊密化しているにもかかわらず、紛争処理システムの適用環境に大きな格差があるように思え る ( 60) 。」 と い う 状 況 の 東 ア ジ ア 地 域 に 発 生 し て い る 諸 問 題 (領 土 帰 属 問 題 を 含 む) も、 紛 争 当 事 国 の そ れ ぞ れ が 依 拠 し ている時間的性格を帯びた原理・原則を解明し、それを現在という時間枠の中で許容される方法で処理することが 必要である。 三   結論―まとめと課題―   以上述べてきたように、日本の有する領土問題は、単に事実関係のみを提示しても解決には結びつかない。係争 国間に適用法及びその土台となる観念の相違が存在するからであり、日本にとってもそれぞれの領土問題が法論理 的に関連してしまうからである。それを承知の上で、各問題に於いて関係諸事実が有する意味を明確に理解して調

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注 ( 1)   一つの問題が時代の変遷を経て異なる意味を有する問題として継続している例として、海洋漁業資源が従来の経済的資源とい う観点からの保護だけでなく、当該資源自体が他の生態系とともに環境問題化していること、そして国連海洋法条約のみならず、 査・提示するのであれば、それなりの意義を有するであろう。   そして、国際法学の視点からは領域主権観念が帰属から管理に変遷しつつあること、また実際に日韓の間でいわ ゆ る 北 部 協 定 と 南 部 協 定 が 締 結 さ れ て (と も に 一 九 七 八 年 発 効) 、 南 部 協 定 に 於 い て 大 陸 棚 に 関 す る 共 同 開 発 区 域 (J D Z / Joint Development Zone ) が 設 け ら れ て い る と い う 現 実 を 考 え れ ば、 領 域 主 権 の 管 理 原 則 へ の 変 更 も 現 実 味を帯びてくるだろう。   しかし国際関係論の視点の一つをとれば、日韓での共同化が可能になったのは、日本が第一圏域で、韓国は第二 圏域でありながらも第一圏域にも架かっている位置にある国家同士であることが理由となる。だが日中間では、中 国は明らかに第二圏域に属しており、そこでは未だ武力の行使が国際関係の重要且つ現実的な選択肢の一つとして 挙 げ ら れ る 故 に、 異 な る 圏 域 間 で 共 通 す る 紛 争 解 決 方 法 を 見 つ け 出 す の は、 非 常 に 困 難 で あ る と 言 わ ざ る を 得 な い。   こ れ ら の 諸 要 素 が 絡 み 合 い つ つ 領 域 (領 土) 問 題 が 存 在 し て い る こ と が、 日 本 の 有 す る 当 該 問 題 を 解 決 に 導 く こ とが出来ない理由と考えられるのであり、国際法、国際関係論及びその他の研究を総合しなければ、解決の方向性 を見出すことが出来ず、それが今後の課題であると思料できる。 以上

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そ の 他 の 条 約 等 に よ っ て 環 境 問 題 化 し た 漁 業 資 源 の「環 境 保 護」 が、 複 数 の 制 度 に よ っ て 実 施 さ れ て い る こ と な ど が 挙 げ ら れ よ う。 (都留康子「海洋漁業資源ガバナンス現状と課題―重層化する制度の協働の模索―」 『世界法年報』第二十七号、二〇〇八年、 所収) 。 ( 2)   調査及び立法考査局(塚本孝) 「北方領土問題の経緯【第四版】 」国立国会図書館

ISSUE BRIEF NUMBER 697

『調査と情報』 第 六 九 七 号(二 〇 一 一 年 二 月 三 日) 二 頁、 六 ~ 七 頁 参 照。 落 合 忠 士『北 方 領 土 ― そ の 歴 史 的 事 実 と 政 治 的 背 景 ―』 (鷹 書 房、 一九七一年)参照。太壽堂鼎『領土帰属の国際法』 (東信堂、一九九八年)一九〇~一九七頁参照。 ( 3)   調 査 及 び 立 法 考 査 局(塚 本 孝) 「竹 島 領 有 権 問 題 の 経 緯【第 三 版】 」 国 立 国 会 図 書 館 ISSUE BRIEF NUMBER 701 『調 査 と 情 報』第七〇一号(二〇一一年二月二十二日)二頁参照。太壽堂、前掲書、一二五~一五六頁、一九七~二〇〇頁参照。 ( 4)   調査及び立法考査局、前掲論文(塚本) 、二頁。それによると、当時の朝鮮も鎖国であったという。 ( 5)   同論文、六頁参照。 ( 6)   同論文、七頁参照。同論文(九頁)によれば、対日平和条約作成過程で韓国政府から要求された修正案に対して、米国のラス ク 国 務 長 官 補 佐 は 国 務 長 官 に 代 わ り、 「合 衆 国 政 府 は …[中 略] … ド ク 島 ま た は 竹 島 な い し リ ア ン ク ー ル 岩 と し て 知 ら れ る 島 に 関 しては、この通常無人である岩島は、我々の情報によれば朝鮮の一部として取り扱われたことが決してなく、一九〇五年ころから 日 本 の 島 根 県 隠 岐 支 庁 の 管 轄 下 に あ る。 こ の 島 は、 か つ て 朝 鮮 に よ っ て 領 土 主 張 が な さ れ た と は 思 わ れ な い。 」 と い い、 当 該 修 正 要求を拒否したのである。 ( 7)   外 交 防 衛 課(濱 川 今 日 子) 「尖 閣 諸 島 の 領 有 を め ぐ る 論 点 ― 日 中 両 国 の 見 解 を 中 心 に ―」 国 立 国 会 図 書 館 ISSUE BRIEF NUMBER 565 『調査と情報』 第五六五号 (二〇〇七年二月二十八日) 五頁参照。 外務省情報文化局 『尖閣諸島について』 (一九七二 年)および緑間栄『尖閣列島』 (ひるぎ社、一九九三年)などを参照。太壽堂、前掲書、二〇〇~二〇六頁参照。 ( 8)   本稿は、拙稿「領土問題の根底にあるもの―日本の領土問題はなぜ解決に至らないのか―」東洋大学通信教育部『東洋通信』 第四十九巻第二号(二〇一二年五月)三十三~四十八頁に加筆修正したものであることを付記する。 ( 9)   大沼保昭『戦争責任論序説―「平和に対する罪」の形成過程におけるイデオロギー性と拘束性―』 (東大出版会、一九七五年)

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八 ~ 三 一 五 頁。 こ の と き の 様 子 を 同 書 は 次 の よ う に 記 述 し て い る。 「米 国 は、 国 際 軍 事 裁 判 所 条 例[東 京 裁 判 条 例] の 犯 罪 定 義 規 定に侵略戦争の開始、遂行を含めるよう強く主張し、さらに侵略の定義をも規定するよう主張したが、これは、米国代表ジャクソ ンが率直に認めたように、侵略戦争を犯罪として規定することが、自国民に対する米国政府の立場上必要であるという国内政治上 の要請に基づくものであった。つまり、米国政府は、一貫して国民に侵略戦争の違法性を説き続け、政策の基礎をその点に求めて きた。ここで侵略戦争を犯罪と規定しない条例を受け入れるなら、従来の米国政府の立場が誤りであったことを国民に対して認め ることになる。米国政府にとってそれは決定的な打撃故、条例には如何なる犠牲を払っても―それが受け入れられなければ、たと え条例が不成立に終わっても―侵略戦争が犯罪であることを規定しなければならない。ロンドン会議で侵略戦争違法観を強硬に主 張した米国政府の立場はこのようなものであった。米国政府にとって、侵略戦争違法観が、それ自身価値あるものとして考えられ て い る の で な く、 他 の 現 実 的 な 利 益 ― こ こ で は、 米 国 政 府 の 従 来 か ら の 立 場 を 条 例 に 表 現 す る こ と に よ っ て、 [米 国] 国 民 に 右 の 立場の正当性を事後的に証明し、国民の政府に対する信頼感を確保する―に仕える道具概念として用いられていることは明らかで ある」 。それゆえに、 「ジャクソンにとって、侵略戦争の開始は犯罪であり、如何なる政治的・経済的事情もこれを正当化できない という命題が否認されることは、従来の米国政府の、そして自身の立脚点の全面的否認を意味するものであった。ジャクソンは次 のように考えたのである。    『右 の 命 題 が 条 例 に 規 定 さ れ な い な ら、 米 国 政 府 は、 そ し て 自 分 は、 国 民 に 対 し て 虚 偽 の 主 張 な い し 誤 っ た 主 張 を し て き た こ と になる。しかし、国際軍事裁判所[東京裁判]は、自己を含む米国政府の政策が正しかったことを証明するためにこそ設立される のであって、それが虚偽であった、あるいは間違っていたと告白するために設立されるのではない。もし後者の結果がもたらされ るのであれば、国際軍事裁判所などは設立しないほうがましである。 』    ジャクソンは、右の考えを英仏ソ三国代表に率直に表明し、侵略戦争違法観が犯罪定義規定の中に受け入れられぬ場合は、国際 軍事裁判所の不成立も辞せず、という強い態度を示した。米国不参加の国際軍事裁判所が著しくその光彩を減ずることを熟知して いた他の三国代表は、右のジャクソンの恫喝を前に不承不承、米国の主張を認めた。かくして、条例には侵略戦争の開始、遂行が 犯罪として定義され、今日の『平和に対する罪』の一内容となったのである」 (同書、三六三~三七八頁) 。この戦争観念と東京裁

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判との関係については、拙著『戦後日本の課題と検討』 (虹有社、二〇〇九年)一~二十八頁参照のこと。 ( 10)   例えば侵略戦争違法観は第二次世界大戦前にすでに成立していたとする根拠を次のように言うが、それに対する反論がある。 す な わ ち、 例 え ば、 一 九 〇 七 年 の 第 二 回 ハ ー グ 平 和 会 議 で「契 約 上 の 債 権 回 収 の た め に す る 兵 力 使 用 制 限 に 関 す る 条 約」 (ポ ー ター条約・ラテン・アメリカ諸国が提唱)で、私人との契約履行のために本国が武力を用いて介入することを排除することを規定 し、 一 九 一 三 年 ~ 一 九 一 四 年 の「ブ ラ イ ア ン 条 約」 (ア メ リ カ 諸 国 間 の 二 国 間 条 約) で は、 一 定 の 紛 争 を 常 設 委 員 会 に 付 託 す る 義 務 を 定 め、 委 員 会 報 告 終 了 ま で 兵 力 の 使 用 を 禁 止 す る こ と を 規 定 し た。 ま た 国 際 連 盟 規 約 第 十 二 条 第 一 項 は 連 盟 理 事 会 に よ る 審 査、同第二項は三ヶ月の冷却期間内での戦争の禁止、第十三条第四項は判決に服する国に対する戦争の禁止、第十五条第六項は勧 告 服 従 国 に 対 す る 戦 争 の 禁 止 を 定 め て い た。 一 九 二 三 年 の「相 互 援 助 条 約 案」 で は「侵 略 戦 争 は 国 際 犯 罪 で あ る」 と 明 言 し、 一 九 二 四 年 の「国 際 紛 争 平 和 的 処 理 議 定 書」 (ジ ュ ネ ー ブ 議 定 書) で は、 国 際 連 盟 決 議 に 基 づ く 以 外 の 戦 争 を 禁 止、 一 九 二 八 年 の 「不 戦 条 約」 (パ リ 条 約 ま た は ブ リ ア ン・ ケ ロ ッ グ 条 約) 第 一 条 は「国 家 の 政 策 の 手 段 と し て の 戦 争 の 放 棄」 、 第 二 条 は「紛 争 の 平 和的解決」を定めていた。一九三二年の「スティムソン・ドクトリン」は不戦条約違反のあらゆる事態・条約・協定の不承認を主 張し、一九三三年の「ラテン・アメリカ不戦条約」 (中南米諸国間で締結)では侵略戦争を非難していた。    しかし、このような主張に対して次のような問題点を指摘することができる。すなわち、一見するとあたかも戦争の違法化が国 際慣習または慣習法として成立していたかのようであるが、その根拠となっている条約等を個別かつ詳細に調べると、どれも法的 な意味での慣習または慣習法の成立要因にはなり得ない、ということである。    例えば、一九〇七年の「ポーター条約」は、国家対国家における武力行使ではなく、私人の契約の履行に国家が武力を用いて介 入することを阻止しようとするもので、従来の無差別戦争観における国家の対外政策としての武力行使とは異なる対象を念頭に置 いているので、これをもって戦争の禁止が全世界に認められたというには、無理がある。また「ブライアン条約」は、委員会報告 までの兵力使用の禁止を定めているだけであり、その後の兵力使用については認めていることから、一定期間の戦争のモラトリア ム に は な っ て も、 兵 力 使 用 の 完 全 な 違 法 化 を 定 め て い る わ け で は な い。 「国 際 連 盟 規 約」 に お い て も、 戦 争 を 当 事 国 の 何 ら か の 戦 意 表 明 に よ っ て 成 立 す る 法 状 態 と 捉 え、 単 に 手 続 上 の 問 題 と し て 取 り 上 げ て い る に 過 ぎ な か っ た。 「相 互 援 助 条 約 案」 で は、 侵 略

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