北 陸 大 学 紀 要 第
20
号 (1996 ) PP,
1〜7
1
臨床 薬
物 動 態 論
の
履
修
を
目
的
と
し
た
学
生
実習
に お け る
流 水 力学 系
モ
デ
ル
の
活 用
宮
本
悦
子
* ,村
田
慶
史
山
田
小
藤 恭 子
* ,毎
田
千 恵
子
* ,河
島
豊
* ,進
*Use
ofthe
simpleflow
model oflearning
clinicalpharmacokinetics
in
a student exerciseEtsuko
Miyamoto
* ,Yoshifumi
Murata
* ,Yutaka
Yamada
* ,Kyoko
Kofuji
*,Chieko
Maida
*,
Susumu
Kawashima
*Received October
31
,1996
は じ め に近
年,
薬 物 療法
は疾 患の治 療方法
の90
・i
。以上 に対 して併 用 ある い は単 独で 導 入 さ れてお り,今
日の医
療の進 歩の大き な要 因に なっ てい るこ と は 言う
まで もない 。 し か し な が ら,
患者個
々 の薬 物 動 態は一
律ではな く, また,
同一
患 者におい て で さ え も病 態に よっ て その効 果は変 動 し うること か ら,最
大の 治療
効 果を得るための投与
量 , 投 与間隔, 投与
方 法 を 的 確 に判 断 する こ とは副 作 用の 防 止と合わせ て極めて重要である。 ま た,
薬 物の 併 用によ る複 雑 な相
互作
用 の 出 現が多
数 報 告1) されて お り, こ れ まで の よう
に医 師の経 験に頼っ てい た処 方 設 計では も はや医
薬 品の 適 正 使 用 を行 うこ と は難しい 状 況になっ てい る。三 十年近 く に わ たっ て展 開さ れ て きた薬
物
動態
論は,
こ の数年
間の分析技 術
の 進歩
に よ り,
患 者の血 液や尿とい っ た個々 の患 者の体 液 中薬 物 濃 度の測 定 (薬 物 治 療 濃 度モ ニ タ リン グ ; TDM)
が容 易になっ たこ と に加
え , コ ンピュー
タ技
術の 飛躍的 な 進 歩で,体
内 薬 物 濃 度と薬 効や副 作 用との関 係が次 第に明ら か と な り,「
臨 床 薬 物 動 態 論 」 と して研 究の 場か ら医療
現 場 へ と頻繁
に登場
する ように なっ て き た 。 さらに,1981
年
の 医 療 法 改正でジ ギ タ リス 製 剤や フェ ニ ト イン な どの抗
て んか ん薬に対
して特定
薬 剤 治療
管理料
が新設 されたこ とで拍 車 がか か り,
今 日で は表1
に示 すような薬 物につ い て多 くの 医 療 機 関でTDM が実 施 さ れ,
薬 剤 師 も参
画し て患者個
々 の処方
設計
や その修
正 に 「臨床
薬 物動
態論」
が応用 さ れ,
疾 患の 治 療に大い に貢
献 して い る。 * 薬 学 部分 類 表
1
特 定 薬 剤 治 療 管 理 料が適 用 される薬 剤の例 薬 剤 名 対 象と な る患 者 て んかん薬 ジ ギ タ リス製 剤 アミノ配糖 体 系抗生物 質 グ リコ ペ プチ ド系抗生物 質 気 管 支 拡 張 薬 抗不 整 脈 薬 抗 炎症薬 抗腫瘍薬 免疫抑制薬 抗 精 神病 薬 フェ ノバルビター
ル,
フェ ニ トイ ン,
カル バ マゼ ピン,
バ ルブロ酸,
プリミ ドン,
エ トスク シ ミ ド,
クロナ ゼパ ム,
ニ トラゼパ ム ジァゼパ ム,
プロ マ ゼパ ム,
ゾニ サ ミド ア セ タ ゾ ラ ミ ド ジゴキ シン,
ジ ギ トキ シン ゲン タマ イシ ン.
トブラマ イシ ン.
ア ミ カ シ ン,
カナマ イシ ン,
ス トレプトマイシ ン,
ジベ カシ ン,
ネ チルマ イシ ン,
イセパ マ イシン,
シソマ イ シン,
アル ベ カ シン バ ンコ マ イシ ン テ 才ブ イリン リ ドカ イン,
プロ カ イン ァ ミ ド,
N一
ア セ チルプロ カ イン ァ ミ ド,
キニ ジン,
ジソピラ ミ ド,
アプ リンジン アセ トアミノ フェ ン,
サリチル酸 メ ト ト レ キ セー
ト シ クロ ス ポ リン,
タ クロ リム ス ハ ロ ペ リ ドー
ル,
リチ ウム て ん か ん患者 心 疾 患 甑者 ア ミ ノ配糖 体 を数目問投 与さ れ てい る患 者 MI遇A感 染患者 気管支 喘息患者 不整脈の患 者 若 年性 リウ マ チ,
リウマ チ熱 及び1
曼性 関 節 リウマ チの患 者 悪性 腫 瘍 患 者 臓 器 移植 後の患 者な ど 精 神 分 裂病の患 者,
そ う うつ 病の患 者こ の よう な 状 況下
,
薬 学 教 育にお ける薬 物 動 態論
の履修
は不可欠である。 講義
や演 習に よ る だけ で な く,実
習に より
課題 を履修
さ せ ることで その理解を より深め る こ と が期 待で き る。 実 習におい ては, より臨 床に近づ けるべ く , 動 物 を用い た個 入 実 習 が 望 ま しい が, 動 物 自体の取 扱い , 血液や尿 などの生体
試料
の採取
や取扱
い 及び 測定
とい っ た技術的
な 問題 などを考
えた場 合,
制限 さ れた実
習時間内に学
生 が個
々 の デー
タ を得ること は困 難で あ る と 思 わ れ る。 そ こ で 本 学で は簡 単なin vitro 流 水 力 学 系生体モ デル 2冫 を導 入 するこ とで学 生 個 人 個 人に試 料 (血 液, 尿)
の採 取,
薬 物 濃 度の測 定,
さ らに デー
タ処理 とい っ た一
連の実
習 を行
わ せ,
薬 物動
態論
の履修
を試
み てい る。 こ こで はこ の十 数年
間の実 習 内 容の変 遷とその有 用 性につ い て述べ る。学
生 実 習
の概 要
流 水 力 学
系
モデル (図1 >
で は臓 器,
組織
とい っ た 生体
の複雑
さ を求
めるこ とは出来
ない も の の,
分布
容 積 あるい は ク リアラン スな どの薬 動 学 的パ ラ メー
タ を適 宜 に変 更で きる利 点 が あ る。
学 生 数,
約10
〜
12
名 /回(
学 生 総数
:約260
名),
課題 に対
する実
習時
間 は1
日約3
時
間 でデー
タ整理等
を含めて4
日間である。 実 習はフロー
チ ャー
ト (図2
)に従い , 以下に述べ る3
つ の実
習 を行
わせ てい る。 な お,
現在,実
習はマ イ クロ コ ン ピュー
タを利
用し た模 擬 実 験か らス ター
ト して い る。 薬 物 速 度 論の演 習 用に作 成,
公 開 された 「EDPRO7
」 3 )は 薬 物の体 内 動態
の解析
におい て最 も繁 用さ れ てい るコ ン パー
トメ ン トモ デ ル に基づ い て書
か れてい る。 人 体2
一
臨 床 薬 物 動 態 論の履 修 を 目 的とした学 生 実 習にお ける流 水 力 学 系モ デル の活 用
3
図 形 を画 面に登場
させ,脈
管 内 (例 :静 脈 内 注 射 ) あるい は脈 管 外 (例 :経口〉へ の薬 物 投 与 によ り体 内 薬 物の時 問 経 過をシ ミュ レー
シ ョ ン さ せ る。 以後に実 習 する内 容や 目的を視覚
か ら 理解させ るもの で あ る。 消 化 管 尿 図 1 流 水 力 学系生体モ デ ル 実 習1
瞬時 静脈内 投 与 実習2
繰り 返 し投 与 コ ンパー
トメ ン トモ デ ル に よ る解 析 投 与 設 計 消 失 速度定数,
生 物 学 的半減期,
全身ク リア ラン ス,
初 回 量,
維 持 量の算 出 腎クリアラン ス の算 出 最 大,
最 小血 中 濃 度の予 測 モー
メ ン ト法による解 析 法 予 測 値と実 測 値との比較 平均 滞留時 間,
消 失 速 度 定 数の推 定 実 習3
1次吸収 過 程 を含む薬 物 濃 度 推 移 残 差 法による吸 収 速 度 定数の 算 出 図2
実 習 概 要 実 習1
瞬 時 静 脈 内 投与
(個 人 実 習,
全 員)
こ の
実
習の 課題 は 生体試料 (
血液,
尿)
の 測定値
か ら薬動学
的パ ラ メー
タの算
出法
を理解
するこ とで ある。 流 水 力 学 系モ デル (図1
)の 構 成は消 化 管 膜 と腎 臓を表 す 定 流 量ポ ン プ (3m1
/min)
と生 体 を表
すビー
カー
(コ ンパー
ト メン トB
,
分 布 容 積 :100
又 は200ml
),
尿 を 表 す三角フ ラ ス コ (コ ン パー
トメ ン トC
)で ある。 経 時 的に採 取 し た 血中と 尿中の試料
の濃 度が デー
タ となる。血 中デ
ー
タの取 扱い :片 対 数プロ ッ ト (図3
>か ら薬 物の 消 失が1
次
反 応に従う
こと を確
認 し, コ ンパー
ト メ ン トモデル (One−
compartment model ,1
次 反 応で消 失 )に当て は めるこ とで
,
その消
失 速度定
数
生物学
的半減
期, 全身
ク リア ラ ン ス を算 出 する。
な お,
分 布 容積 を 変 化 させ
,
各パ ラ メー
タ間の 関 係 を履 修 させ,
分 布 容 積,V
, の変 化が ク リア ラ ン ス に100 10
(
一
E
為 ヨ 遡 鰹 犀 攤 日 10
20
40
60
80
100
時 間 (min ) 図3
生体コ ン パ
ー
トメ ン トか らの 薬物消失
尿 中デ
ー
タの取 扱い :患 者 か らの 血 中 試 料 を採 取 するにあたっ ては当 然, 制 限があること を 踏まえ,
比較的採取
の容易
な尿
中デー
タを 用い,
間 接 的に消失
速 度 定数
を算
出 する方 法 を 学 習 する。 履 修は排 泄 速 度一
時 間 曲 線によ る近 似 方 法 及び尿 中へ の累 積 薬 物 排 泄 量 を用い たシ グマ マ イナス法
の2 方法
に よる(
図4
)
。 尿 デー
タの取扱
い におい て 生 体にお ける尿生成の し くみ を鑑み,
薬 物濃
度では な く薬 物 量で 処理す
る必 要 性 を理解さ せ る。 また,腎機
能の指 標となる 腎ク リ ア ラン ス を尿 中へ の薬 物 排 泄 速 度 (排 泄 量 / 採 尿にか かっ た時 間 )と一
回の採
血(
採
尿 間の 中 間 点の 時間)
に よ る測 定値
を利
用 して近 似 的に算 出 する方 法を履 修 し, 医 療 現 場で の試料数,
測定時
間とい っ た試料採取
の限度 を理解
さ せる。
1000 oo 覃【
ε E 蔵 斗 聰 段 製 鯖 昏 瞹 興 10雄
100 畤面 (min 〕 瞳聞 {min〕 図4尿 中 排泄デ
ー
タからの消 失 速 度 定 数の算出 先に指 摘 し た ように臨 床の場で は得 られ る試 料には限 りがあ り, モデル化で きる測 定 値が得ら れ ない 場 合を も想 定 し なければな ら ない 。 その よう
な場 合につ い て は 薬物
の体
内 動 態 を確
率 過程
と捉
えるモデル非
依存
性の モー
メ ン ト法に よる解
析 を行 うこ とで, 投 与 計 画に利 用 する た め4
一
臨 床 薬 物 動 態 論の履 修 を 目的 と した学 生 実 習にお け る 流 水 力 学 系モデルの活 用
5
の消 失 速 度定
数 を暫
定 的に求め得
る こ とを履修
する (図5
)。実
際に学
生実
習で は デー
タ が ば らつ き , コ ン パー
トメン トモ デル に よ る方 法では薬 動 学 的パ ラ メー
タ の算 出 が 困 難 な 場 合 も見受
けら れ る。 臨 床 現 場で は試 料の取 り直 し は出 来ない の で あ る か ら,
こ の 場 合には再 実 習は行
わせず,各
自の デー
タを使
っ て台
形公式 を 利用 し た近 似 的方法
で 血 中濃
度一
時間曲 線下面 積(
AUC)
を算
出さ せ,単
純 な四則 計算
に よ り消失
速 度 定 数を推 定で きる こ と を 理解 さ せ る。 ま た,
こ の課題 を通 して処 方 設計
に用い られるパ ラメー
タの種
類,
患者
試料
が得
ら れ ない 場 合や 緊 急 時な どに は過 去の平 均 値 など か ら推 定 する必 要 性のあることも学 習 する。 60 50葺
940
誕
3。譲
盲
2° 10 0 20 40 60 時 間 (min ) 80 100 2000 宣軣
辜9
盤 1000X 目 0 0 20 40 60 80 100 時間 (min> 図5
モー
メ ン ト解 析 法に よ る作 図 なお,
表2
に は学生実習で算
出 さ れた各
パ ラメー
タの 平均値
を 示してある。 表 2 血 中デー
タ 消 失 速 度 定 数 (k
;min つ v−200mL
v=100mL
平 均 滞 留 時 間’
1 (MRT ;min ) 消失 速度 定 数 (1
/MRT ;min.
1) 全 身クリア ラン ス (k・
V m レmin > v=
200mL
v=100mL
腎ク リ ァラ ン スb (皿L/min ) v・
・
200mL 尿 中デー
タ 消 失速度定 数 (k
;Min・
1),
Vt=
200ml、
尿 中排泄速度一
時間 シ グマ マ イナス法 理 論 値O.
Ol50
.
03066
.
70
.
015
003
ら 」3,
0
55
∩ )000
測 定 値 (標 準 偏 差 〉0.
013
(0.
002
)0.
2
ア (0.
005
)78.
3
(141)0.
Ol3
(0.
002
)2
.
6
(0
、
5
)2.
7
(0
.
5
)2.
9
(0.
3
)0、
012
(0.
002
)0.
020
(O.
006
) 抽 出デー
タ数116,
:
;1
次モー
メン トAUMC / 次モー
メン トAUC b ; (平均尿 中薬物 排泄速度/ 平 均血中 濃 度)実 習
2
繰り返し投 与 (個 人 実 習, 全 員
)
実 習
2
の課 題は薬 物療法
の 開始
に あ たっ ての 処 方 設 計で 重要な連続投与
に よ る投与計画方
法
を理解
する ことである。 課 題には薬 物 (メ チ レ ンブルー
)の 治 療 域 (20 〜60
μg
/ml ), 理 想 的な定 常状態
で の 平均
血 中濃度 (
30
μg
/ml)
,希
望 する投与
間隔(
20
分〉
, 患 者の 分 布 容積 (
200ml
)とい っ た情 報 が 与 えてある。 マ イク ロ コ ンピュー
タ(PC
−
8801
) を利 用 し,各
個 人が実 習1
で得た消 失 速 度 定 数か ら初 回量,維
持 量を計 算4] し,
最 大,
最小の各
血中濃度
を 予測 する。実
験に よ り実
測値
との比 較,考 察
を 行 う (図6
)
。 同一
の装 置 (患 者 )に よる実 験で ある が, 幸い , 消 失 速 度 定 数が変 化 する場 合が多
く,
病 態の 変 化によ る影
響や測 定 値の バ ラッキ に よ るパ ラメー
タの変
動などにつ い て考察
させ る こ とが で きる。 また, 投 与 計 画上, 変 更 可 能 な 因子 (維 持 量, 投 与 間 隔 )とその 限 界につ い てコ ン ピュー
タ ブ ロ グ ラム 弔 を利用 し な が ら学
習す
る。 100(
一
ξ ヨ}
囲 艇 澤 鰍 仔 目 10 0 40 80 120 時間 (min ) 160 200 図6
静脈 内へ の繰 り返 し投 与 実 習3
1
次
吸収 過 程 を含む薬
物 濃 度 推 移 (2
人一
組,
選 択 実 習 )実 習
3
の課題 は残
差法
に よ る吸収
速度
定数
の算
出 法の履修
である (図7
)。 実 習で は吸 収 速 度 定 数〉消 失 速 度 定 数 と設 定 して実 施 する が, 実 際の医 療 現 場では徐 放 性 製 剤の普
及な どに よっ て
,
と ん ぼ 返 り現象 (
flip
−flop
phenomenon
)
力觀 察
さ れ る場
合がある の で, 得ら れ たデー
タの評
価 方 法につ い て も学 習 する。6
臨 床 薬 物 動 態 論の履 修 を 目的 とした学 生実習にお け る 流 水 力 学系モ デルの活 用