デジタル経済と税制(JTI)
プラットフォーマーとギグエコノミーへの対応
2018年11月15日
東京財団政策研究所研究主幹
中央大学
法科大学院特任教授
森信茂樹
1シェアリングエコノミー・ギグエコノミーと税制
プラットフォーマーの下で労働力などを提供するギグ・エコノミーの問題が
生じている。「働き方改革」でますます増加。
1、簡素な申告制度の導入。日本型記入済み申告制度
2、資料情報を入手する制度の整備、プラットフォーム企業からの情報入手
3、少額の事業主の申告インセンティブの供与(シェアリング控除の導入)
4、縦型に設計されたセフティーネットの再構築
今後の課題
・AIの発達に伴う失業問題へのセフティーネット・BIの提言、
・そのためには財源が必要で、AI(無形資産)への課税(ロボットタック
ス)も検討
2所得税の区分
• 給与所得は、源泉徴収、年末調整、給与所得控除という経費の
概算控除がセットとなっており、年末調整の結果多くの給与所
得者は税務署に申告をすることが不要とされている。
• 事業所得は、経費の概算控除、源泉徴収制度はなく、自ら申告
をする義務を負い、予定納税制度が導入されている。ただし、
税理士、弁護士、司法書士などに支払う報酬に対しては、源泉
徴収制度が導入されている。
• 事業所得と雑所得の区分。事業所得は、給与所得など他の所得
との損益通算や、青色申告を要件に損失の繰越控除ができるが、
雑所得であれば、他の所得との損益通算や損失の繰越控除はで
きないので、この区分も重要となる。
クラウドソーシング(発注者・受注者・プラットフォーマーとも国内)
発注者
(法人
*/個人)
受注者
(法人
*/個人)
プラットフォーマー
業務委託契約
業務
契約金額-源泉徴収金額-プラットフォーム利用料
サービス利用契約
代理受領契約
国税:法人税 消費税 (消費税込) (消費税込) 支払額=契約金額-源泉徴収金額+プラットフォーム利用料 (消費税込) 国税:所得税/法人税 消費税 契約 サービス提供 お金の流れ 課税売上=発注者プラットフォーム利用料+受注者プラットフォーム利用料 (消費税込) (消費税込)サービス利用契約
契約金額-源泉徴収金額+プラットフォーム利用料
(消費税込) (消費税込) 国税:源泉徴収所得税 源泉徴収が必要な 報酬・料金等の場合 は源泉徴収を行う プラットフォーム利 用料はオプション (消費税込) 受取額=契約金額-源泉徴収金額-プラットフォーム利用料 (消費税込) (消費税込) 一部の報酬等につい ては源泉徴収済み 所得区分は事業所得または 雑所得。一般的には損益通 算できる事業所得の方が有利。 経費の切り分けが不明確。 課税売上げ等に係る消費 税額から課税仕入れ等に 係る消費税額を控除 利用料に係る消費税 *:日本国内にPEを有する外国法人を含むデジタル経済研究会作成
シェアリングサービスの課税関係
法人税 所得税 消費税 プラットフォーム 法人 居住者 課税 ─── 課税 非居住者 不課税 ─── 課税 リバースチャージ方式または事業者申告納税方式により 納付(役務の性質等による) 提供者 法人 居住者 課税 ─── 課税 プラットフォームが外国法人の場合にはリバースチャージ 方式で納付する場合もある(役務の性質等による) 非居住者 不課税 ─── 役務の提供を国内で行った場合、および電気通信役 務の提供に該当する場合は課税対象 国外事業者申告納税方式により納付 個人 居住者 ─── 所得の性格により、事業所得、雑所得、譲渡所得に区 分(事業所得であれば必要経費が認められる) 生活に通常必要な物品の売買は非課税 源泉徴収される場合もある 生活に通常必要な物品の売買は不課税、それ以外の 対価を得て行う資産の譲渡、役務の提供等は課税対 象 課税売上高が1,000万円以下の場合は納税免除 非居住者 ─── 役務の提供を国内で行った場合は所得税の対象 源泉徴収される場合もある 電気通信役務の提供に該当する場合および役務の提 供を国内で行った場合は課税対象 購入者 法人 居住者 経費参入可能 購入するサービスが、源泉徴収が必要な役務の場合には源泉徴収を行う 課税(仕入控除の対象) 非居住者 ─── ─── 購入するサービスの提供を国内で受ける場合は課税対象(納税義務なし) 個人 居住者 ─── ─── 課税(納税義務なし) 非居住者 ─── ─── 購入するサービスの提供を国内で受ける場合は課税対象(納税義務なし)デジタル経済研究会作成
先進諸国の情報入手
フランス
フランスでは、インターネット上で様々な取引の仲介等を行う事業者が、当該取引の当事者
の収入等に係る情報を税務当局に報告する法定調書が2020年から導入される予定。
フランスでは、2014年に、インターネット取引を通じて稼得された所得に係る課税漏れの増
加等に対応する観点から、調査対象者が特定されていない段階でも、税務当局が第三者に対
し一定の条件を指定し、該当する取引情報等の提供を要請することが可能とされた。
イギリス
イギリスでは、税務当局が不特定の納税者に係る情報提供要請を行う仕組みについて、2013
年・2016年の法改正により、一定の条件の下で、情報提供要請の対象となる第三者の範囲が、
様々な取引の仲介等を行う事業者等に拡大された。
ドイツ
ドイツでも、判例に基づき税務当局が不特定の納税者に係る情報提供要請を行うことが可能
であったが、2017年の法改正により、こうした権限が法律上明文化された。
エストニア
2017年から、ウーバーが運転手の同意の下で、その運転手の収入情報を国税庁に提供し、国
税庁が記入済み申告書に反映する仕組みを導入。
スウェーデン
ウーバーを含めたすべてのタクシー業界について、各運転手が民間の報告センターに運転情
報を報告し、国税庁は報告センターに情報の提供を求めることができる。
米国
銀行やクレジットカード等の支払決済会社のほか、ペイパル等の第三者決済代行業者に対し、
売上等の決済情報を税務当局に報告する法定調書が存在している。インターネット取引の拡
大等を踏まえその提出範囲の拡大も提案されている。
また、法律に違反した可能性があると信じるに足る合理的な根拠が存在する場合などには、
ジョン・ドゥ・サモンズ(不特定者に対する行政召喚状)という司法的手段による資料提出
が可能。
政府税制調査会資料を筆者加工日本型記入済み申告制度のイメージ
家内労働者の定義
• 第2条
2
この法律で「家内労働者」とは、物品の製造、加工等若しく
は販売又はこれらの請負を業とする者その他これらの行為に類似
する行為を業とする者であつて厚生労働省令で定めるものから、
主として労働の対償を得るために、その業務の目的物たる物品
(物品の半製品、部品、附属品又は原材料を含む。)について委
託を受けて、物品の製造又は加工等に従事する者であつて、その
業務について同居の親族以外の者を使用しないことを常態とする
ものをいう。
(国税の説明)家内労働者等とは、家内労働法に規定する家内労
働者や、外交員、集金人、電力量計の検針人のほか、特定の人に
対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする人をいい
ます。
家内労働者の特例の拡充
• 租税特別措置法第27条(家内労働者等の必要経費の特例)
• 家内労働法
第二条
第二項に規定する家内労働者に該当する個人、外交
員その他これらに類する者として政令で定める個人が事業所得又は雑
所得を有する場合において、その年分の事業所得の金額の計算上必要
経費に算入すべき金額及び雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべ
き金額の合計額が六十五万円(当該個人が給与所得を有する場合にあ
つては、六十五万円から・・・給与所得控除額を控除した残額・・)
に満たないときは、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算
入する金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額
は・・・六十五万円を政令で定めるところにより事業所得に係る金額
と雑所得に係る金額とに区分した場合の当該区分したそれぞれの金額
とする。
家内労働者等
の事業所得・雑所得(公的年金以外)の
必要経費
の合計額
が65万円に満たないときは、65万円を必要経費として控除できる。
デジタルサービスを巡る議論
• OECD・BEPS-ポストBEPSとして2020年の最終報告に向けて
議論中
• 欧州委員会ー暫定案と包括案の2案を提示、議論中
enhanced cooperationの可能性
• 英国のデジタルサービス税(2018年11月)公表
• 各国の個別対応(英国・フランス・イタリア・・)
• 焦点は、来年G20議長国の日本のとりまとめ
案
概要
メリット
デメリット
PEの拡張
物理的なプレゼンスを求めるPE
を拡張し、データの収集などを
基準とした
Significant Economic Presence
があればPEとし、そこに帰属す
る所得を計算する。
デジタル経済に対応した
課税権の配分になる
Significant
Economic
Presence
の具体的定義は?
帰属所得の計算方法は?
源泉徴収
国外からのオンラインサービス
の提供に対してその対価の支払
いに源泉徴収を行う
現在一定の投資所得に対
して導入されている
BtoC 取 引 に お い て 消 費
者に源泉徴収を課すこと
は困難。
WTO の 内 国 民 待 遇 に 違
反するおそれあり。
平衡税
内外事業者の競争条件を平等に
するための課税
( レ ベ ル プ レ イ ン グ
フィールドの確保)間接
税なので、租税条約の問
題が生じない
源泉地国と居住地国の二
重課税となる
WTO の 内 国 民 待 遇 に 違
反するおそれあり。
BEPS
3つのオプション
4-1
筆者作成
包括的解決案
(法人税)
暫定案
(間接税)
骨子
「重要なデジタルプレゼンス」(significant digital
presence)を恒久的施設とする
一定のデジタルサービスの売上に3%の売上税
(間接税)を新たに課す
納税義務者
(閾値)
以下のいずれか1つに該当することで重要なデジ
タルプレゼンスがあるとみなされた事業者
7百万ユーロ(9億円)超のデジタルサービスの
提供による売上 又は
10万超のデジタルサービスユーザーの存在
又は
3千件超のデジタルサービス契約数
一定のデジタルサービスの提供を行い、2つの要
件をいずれも満たすデジタル事業者
全世界での売上7.5億ユーロ(970億円)超、か
つ、
EU域内におけるデジタルサービスの売上5千
万ユーロ(65億円)超上
課税対象
独立企業原則(利益分割法)に基づき帰属所得を
計算。
(注)帰属所得の計算にあたり考慮すべき点の例 ユーザーデータの収集、分析、譲渡の価値(例:オン ライン広告) ユーザーが創出したコンテンツの展示等の価値(例: プラットフォームの提供)課税対象となるデジタルサービス3類型の売上金
額(VATを控除)
オンライン広告の売上
プラットフォーム提供の売上
ユーザーデータ譲渡の売上
留意点
導入にあたり、既存の租税条約の改定が必要
居住地国で外国税額控除の対象になり得る
導入にあたり、租税条約の改定は不要だが、
WTOの義務(内外無差別)に従い、国内事業者も
同様に扱う必要がある
居住地国で外国税額控除の対象にならない。但し
損金算入は可。
デジタル課税に関するEU提案
(2018年3月
欧州委員会)
筆者作成
英国 2015 年 4 月から迂回利益税(Diverted Profits Tax: DPT)を導入。英国内の経済活動によって創出されながら課税を回避し ていると認められる企業利益に対して法人税とは別に課税。税率は25%で法人税率 (19%)よりも高い。課税対象は、①外国 法人が人為的に英国における PE 認定を回避しているとみなされる場合、②英国内に課税拠点(子会社・PE)を有する外国法 人が、経済的 実質のない取引又は事業体を用いて、グループ全体の税負担を不当に軽減しているとみなされる場合。「Google 税」と呼ばれる。税収額(法人税も含む)は2016 年度 2 億 8100 万ポンド(約 417 億円、見込み)。 2017 年秋からは、知的財産権等の使用料(ロイヤルティー)に対する源泉徴収税の範囲をPEを有しない場合にも課税対象。 2019 年 4 月からは、軽課税国・無税国の関連者(知的財産権等の所有者)に対するロイヤルティー支払いには、英国内にPEを 有するか否かによらず源泉徴収税の課税対象とする。増収額は、2019 年度に 2 億 8500 万ポンド(約 423 億円、見込み)。 フランス 2003 年に音楽・映像コンテンツの売買・貸借等に対する個別消費税が導入された。2013 年には国外事業者によるオンライン 上のビデオ・オンデマンド・サービス(Netflix 等)に、2017 年からは広告収入を得て無償で提供される音楽・映像コンテンツ の提供サービス(YouTube 等)に拡張。 同税は、課税取引の対価の額(付加価値税を除く。)に 2%の税率(ポルノ又は暴力 的内容は 10%)で課される。税収は、フランス国立映画・映像センターの財源に充てられる。 イタリア 2019年1月からデジタル取引税(web tax)の導入が予定。電磁的方法でサービスの提供が行われる場合に、課税取引の対価 の額に3%の税率で課される。具体的には、Google や Facebook 等によるオンライン広告やスポンサー・リンクが課税対象。当 該サー ビスの提供が事業者間で取引され(B2B)、かつ顧客(対価の支払者となる事業者)がイタリア国内に居住する場合に、 同税が適用される。サービス提供者は、国内・国外を問わず課税対象、課税取引回数が年間 3,000 回以下である場合は対象外。 デジタル取引税の徴収及び納付は、課税取引の対価を支払う国内事業者が行う。増収額は年間 1 億 9000 万ユーロ(約 247 億 円)と見込まれている。 また、2018 年から、 PE の定義が見直され、物理的拠点を有しない場合でも、重要かつ継続的な経 済的拠点を有するとみな される場合には PE を構成し得るとの規定が置かれた。