はじめに 我々,理学療法士が臨床で日々,実践している理学療法の最 終的な目標は日常生活活動における「目的とする動作遂行能力 の獲得」であることから,身体機能の変化をいかに動作遂行能 力の改善へと効率的に繋げるかに焦点をあてることが重要とな る。また,背景となる生活環境場面での動作能力次第では活動 と参加における制限と制約によって QOL に大きな影響を及ぼ す可能性がある。人の生活基盤は家庭であり,地域であるとい える。さらに一人ひとりの住環境や地域環境のみならず対象者 の生活様式や人生観なども個々で異なっており,様々な要因が 複雑に交絡して日々の生活が営まれている。このような背景で 生活環境支援理学療法研究部会は 1997(平成 9)年,専門領域 研究部会の発足時から部会として障がい者・障がい児,高齢者 に対する生活環境を支援するための理学療法介入のあり方につ いて模索しながら取り組んできた経緯がある。今回,司会者の 立場で生活環境支援理学療法研究部会のこれまでの変遷,生活 環境支援分野の概念等について総論的に述べ,その後 4 名のシ ンポジストに生活支援の実践や今後の支援活動に対する課題等 も含めてそれぞれの立場からご意見をいただきたいと考えて いる。 専門領域研究部会から分科学会へ(図 1) 大峯 三郎 1.生活環境支援専門領域研究部会の変遷1‒3) 専門領域研究部会は 1997(平成 9)年日本理学療法士協会が より高度な専門知識に基づく理学療法の実践と専門理学療法士 の育成とを目的として 7 つの専門領域を発足させたが,生活環 境支援研究部会もその一領域としての役割を担い今日に至って いる。生活環境支援理学療法研究部会では地域,健康増進・参 加,介護予防,補装具の 4 領域を支援領域として現在までその 活動を推進してきた。具体的には高度な専門理学療法士の育成 を原点として研究会や障がい者スポーツセミナー,福祉用具セ ミナーの開催,学術大会および学術集会セミナーさらに 4 領域 の認定必須研修会等の企画と運営,生活環境支援ポイント認定 審査,専門理学療法士の認定審査などがそのおもな内容である。 2009(平成 21)年には新専門理学療法士・認定理学療法士制度 への移行を経て 2010(平成 22)年以降からは生活環境支援専門 領域研究部会主催による学術集会への取り組みが開始された。 2014(平成 26)年,生活環境支援研究部会は老年学,在宅支援 ならびに保健領域を基盤とする日本地域理学療法学会,義肢・ 装具療法,福祉工学やロボティクス技術に関連する領域として の日本支援工学理学療法学会,健康増進,スポーツ活動,介護・ 転倒予防など,広く予防に関わる領域に特化した日本予防理学 療法学会の三学会へと分科して現在に至っている。しかしなが ら生活を共通基盤とすることからもその特性を生かしながら三 学会による協力体制下での学会運営が今後も強く望まれる。 2.生活環境支援理学療法の支援分野における概念 生活環境支援理学療法の支援分野については,「人的環境支 援」,「物的環境支援」,「社会的環境支援」の視点でその内容を 整理しておくとイメージしやすい。具体的には人的環境支援で は地域リハビリテーションにおける在宅ケアや施設ケアなどが その分野となる。物的環境支援では住宅改修,福祉用具や特に 義肢・装具などが,さらに社会的環境支援では社会資源として の各種制度,ボランティア活動や障がい者・高齢者スポーツな どが含まれる(図 2)。このように支援分野が多岐にわたると の特性から,これらの支援はけっして一時的ではなく,臨床に
我々が考えてきた生活環境支援
*
─過去から現在,そして未来への提言─
大 峯 三 郎
1)奥 田 邦 晴
2)原 和 彦
3)新 田 收
4)河添竜志郎
5)生活環境支援理学療法研究部会
*The Physical Therapy in Life Support and Environmental Adjustment: The Proposal from the Past, the Present and to the Future
1) 九州栄養福祉大学リハビリテーション学部 教授 (〒 800‒0298 北九州市小倉南区葛原高松 1‒5‒1)
Saburo Ohmine, PT, PhD: Kyusyu Nutrition Welfare University 2) 大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科 教授 Kuniharu Okuda, PT, PhD: Osaka Prefecture University Graduate
School of Comprehensive Rehabilitation
3) 埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科リハビリテーション学専 攻 教授
Kazuhiko Hara, PT, PhD: Course of Rehabilitation Science, Department of Health and Social Services, Graduate Course of Health and Social Services, Graduate School of Saitama Prefectural University
4) 首都大学東京大学院 教授
Osamu Nitta, PT, PhD: Tokyo Metropolitan University Graduate School
5) 株式会社くますま 代表取締役
Ryushiro Kawazoe, PT: KUMASUMA Inc.
キーワード: 障がい児の生活環境支援,障がい者スポーツ,義肢装 具支援
おける義肢・装具の活用,ロボティクス技術の導入など新しい 理学療法介入手段の構築や地域リハビリテーションでの福祉用 具や諸制度の利用を含めた社会的資源の有効活用など,急性期 から維持期(生活期)に至るまでの幅広い支援が必要となる。 さらに神経系,運動器や内部障害などの専門領域との横断的支 援が必要になることも生活環境支援専門研究部会の大きな特徴 となっている。 3.三学会の将来とその方向性 生活環境支援専門研究部会は前述したように三学会に分科 し,それぞれの特徴を生かした学術的活動を今後推進すること になる。しかしながら対象者の生活を基盤とする介入支援であ るとの共通認識は不変であり,その意味でも合同での学術大会 の開催は多くの会員にとって有益であると信じている。専門領 域研究部会発足から 10 数年の間に理学療法の対象者を取り巻 く医療・保健・福祉の環境も少子高齢化をキーワードとして大 きく変化している。第 49 回学術大会のテーマにあるように生 活を支えるという視点での理学療法介入の重要性が今後さらに クローズアップされることは間違いないと思われる。そのため にも生活に視点をおいた理学療法介入の成果の検証と生活環境 支援に対する科学性としてのエビデンスの構築が求められるこ とは想像するに難くなく,我々がこの役割を担っていく必要性 図 1 生活環境支援理学療法研究部会の変遷概略(部会から分科学会へ) 図 2 生活環境支援理学療法における支援分野
を強く感じている。 障がい者の地域社会参加における理学療法士の役割 奥田 邦晴 理学療法士とは,「ケガや病気などで身体に障害のある人や 障害の発生が予測される人に対して,自立した日常生活が送れ るよう支援する医学的リハビリテーションの専門職です。(協 会ホームページから引用)」とある。一般的に,理学療法や理 学療法士を説明する際には,この文にもあるように障害という 語や障害のある人,つまり障がい者という語が数多く用いられ る。また,現在では形骸化の感はあるものの,理学療法士およ び作業療法士法において,理学療法とは「主として医学的リハ にあって,身体に障害のある者に対し,主としてその基本的動 作能力の回復をはかるため,治療体操その他の運動を行わせ, および電気刺激,マッサージ,温熱その他の物理的手段を加え ることをいう」として定義されており,その対象が身体に障害 がある者,すなわち障がい者に言及されている。理学療法士・ 作業療法士以外の医療専門職の定義においてこれほどまでに明 確に対象者を明示しているものはない。 平成 24 年度の社会保障制度改革推進法の基本的な考え方で, 国民の生活は,自らが働いて自らの生活を支え,自らの健康は 自らが維持するという自助を基本とすることを強く打ちだして いる。特に障がい者は,障害があるゆえに生涯にわたる運動習 慣の定着や健康維持・増進のニーズが大きいため,スポーツは 自助を促し,理学療法士はその専門性をもって共助的役割を務 めるとともに,一層,コミュニティに溶けこみ,ともに支え合 う互助の役割を担うという,自助・共助・互助の最適な組み合 わせモデル,すなわち理想的な理学療法士による自立生活支援 モデルを展開できる。 1.リハビリテーションとスポーツ 国連・障がい者に関する世界行動計画(1982)において,リ ハビリテーションは,「身体的,精神的,社会的に最も適した 機能水準の達成を可能とすることによって,各人が自らの人生 を変革していくことをめざし,かつ時間を限定したプロセスで ある」と報告されている。本定義では,的確な評価に基づいた 時間すなわち期間設定を前提とした goal oriented の重要性が 強調されており,通常の医学的リハビリテーションではこの ゴールを退院に置いている場合が多い。しかし,これは一時的 ゴールであって,理学療法の最終目標は自立生活支援にある。 一方,障がい者のリハビリテーションを,筆者は「自らの人 生を変革していくための手段である」と定義づけている。つま り,理学療法士は障がい者の人生を変革していくための手段を 提供しようとするものであり,どれだけ豊かな人生を送っても らえるかということが大きな目標になる。そのひとつの手段に スポーツがある。 身体障害があるがゆえに,障害がない人に比べ,日常的なス ポーツ活動の実践が健康な身体状況を保ち続けることにつな がっていく。また,障がい者にとってのスポーツは,障がい者 が自己責任のもと,主体性をもち,生き甲斐を感じながら自立 した生活を送るための一助となっている。各々の選手のスポー ツを行う目的,価値観,考え方に相違はあるものの,スポーツ は,多くの選手に対してポジティブな影響を及ぼし,前向きで, より積極的な社会生活を実現可能にするものである。スポーツ をするかしないかは本人の選択であるが,選択するために必要 なせめてものスポーツに関する正確な情報提供や,スポーツ体 験などは早期から行われるのがよい。 ボッチャ,電動車椅子サッカー等の重度の脳性麻痺アスリー トおよびスポーツをしていない障がい者計 100 名を対象に行っ たインタビューによるアンケート調査では,はじめてスポーツ を経験した時期は,特別支援学校での体育の授業が 45.2%,残 りの 41.9%の人は早い人で 19 歳,遅い人では 54 歳(平均 29.8 歳)であり,脊髄損傷者のような後天性疾患患者ではいざ知ら ず,先天性疾患である脳性麻痺者が特別支援学校卒業後,つま りスポーツ選手としては随分高齢になってから開始した人が圧 倒的に多かった。社会に出て行くためのひとつの手段としてス ポーツは重要な機能を果たすと考えられるが,スポーツをはじ めたきっかけが,友人あるいは知人それも同じ障害の人達から の情報提供が多く,一般病院から退院し,社会生活へ一歩足を 踏み入れる段階の架け橋的存在である理学療法士からの情報提 供がきわめて少ない状況であった。小児領域を専門とする理学 療法士への情報提供者としての期待が大きい。 その一方,スポーツを行っていない重度障がい者では,78% の人がスポーツに対して好意的であり,さらに 93%の人がス ポーツをしてみたいと思ったことがあると答えていた。 2.障がい者スポーツの様々な機能 1)セルフヘルプ機能 重度の障がい者にとって,スポーツはセルフヘルプグループ に類似する機能をもつことが考えられる。セルフヘルプグルー プとは,ある共通の問題に見舞われた個人が,自分ひとりだけ では解決できそうにない自身の抱える問題の解決,あるいは, その問題とともに生きていく力を得ていくために,自発的かつ 意図的に組織化したグループのことである。障がい者のスポー ツのチームメンバーは,自発的かつ意図的に組織化したグルー プという点ではセルフヘルプグループメンバーに類似している が,その目的において大きく異なっている。すなわち,その大 部分がただ単にスポーツを行いたいがために集まった人達で あって,ある共通の問題に見舞われた個人が,自分ひとりだけ では解決できそうにない自分自身の抱える問題の解決やその問 題とともに生きていく力を得ていくために合した集合体ではな い。しかしながら,「様々なメンバーの体験的知識に基づき自身 の問題を解決する」,「自らの生活をコントロールし得るという 体験を積み重ね,自分には力(能力)があるという感覚を高め る」,「自らの障害を適確に受け入れたうえで,前向きな生き方 をしていく」など,その個人に与える影響力は大きく,セルフ ヘルプ的機能を有していることは疑う余地のないところである。 2)エンパワーメント エンパワーメントとはクライアントに,日々の生活の中では 見いだすことのできなかった潜在力に気づかせ,獲得させるこ とを目的とした援助実践の過程である。かつその変化は受動的 なものではなく,主体性をもったものでなくてはならず,クラ
イアントは自身の力に自ら気づき問題解決の中心とならなくて はいけない。 身体運動を主体とするスポーツは,個人の病理すなわち欠如 しているものあるいは病的なものを対象として捉えるのではな く,個人が有する力「ストレングス」を重要視し,抽出しよう とする。スポーツでのプレーを通じて,あるいは同じスポーツ 仲間の行動力や生活環境等から自己の潜在能力を発見し,また 様々な情報交換等から得られた情報をもとに問題解決にむけて 取り組んでいくといったクライアント自身主体性をもった過程 が繰り広げられるのである。 チームという集団における自身の役割についても考えるよう になる。選手としての役割は当然のこと,スキルの向上ととも に指導者としての役割を担うようになることも多い。様々な障 がい者との狭間におけるこの自己の表出が,新たな自己認識を 促し,自己の有する潜在能力の発見,そして自己および他者の 存在,役割を客観的に理解することへとつながる。これらは, 障がい者が社会生活を営んでいくうえで非常に重要な要素であ り,通常,スポーツ活動においてはごく自然に習得するもので ある。 3.障がい者リハビリテーションの再燃に向けて スポーツは障がい者が社会に踏みだす一歩としての重要な役 割を有しており,病院では患者,社会においては障がい者とし て見られがちな人達が,ひとたびスポーツの場面ではヒーロー になり得たりする。パラリンピックの選手にでもなろうものな ら,まさしく究極の自己実現を果たしたことになるかもしれな い。今後,スポーツに関する情報を積極的に提供することはも ちろんのこと,選手発掘・育成は理学療法士に課された使命で ある。また,オーバーユース症候群などに対するリスク管理や スポーツを行う前後の身体的・精神的コンディショニングの実 践に努めること,そして障がい者が安心してスポーツを行える 環境づくりやマネージメントが,理学療法士にとっての課題で ある。 約 20 年前から会員を対象とした障がい者スポーツ指導員養 成講習会を行っており,その甲斐があって,今では,大会など でコーチやトレーナー,クラス分け委員などを務める理学療法 士と顔を合わせる機会が多くなっている。また,パラリンピッ ク委員会の競技力向上のための科学的支援や研究活動にも障害 の知識を活かし積極的に関わる理学療法士が増えてきている。 東京 2020 パラリンピックを未来の理学療法へのターニングポ イントとし,障がい者リハビリテーションを再燃していきたい。 急性期から維持期を通した義肢装具支援における理学 療法士の役割 原 和彦 義肢装具という道具(物的環境)を調整して生活適応を支 援するプロセスには,ひとつの専門職支援では完結すること は難しいことが多い。特に退院後の生活期の医療と福祉の連 携によるつなぎ目のないサービスには専門職連携(IPW: inter-professional working)4)を提供できる支援システムが必要と なる。また高機能な補装具の機能を十分に使いこなすには,身 体と道具との接合部となる部(ソケットなど)の調整や装着練 習を通じた身体と道具の間を調整して支援することは不可欠で ある。近年,地域包括ケアシステムの構築が急がれているなか, 先送りされそうな義肢装具支援のあり方にスポットをあてて, よりよい義肢装具支援のために我々にできることを考えてみ たい。 1.切断者の実態と課題 障がい者の実態について疫学的データは少ないが,平成 18 年度厚労省による障がい者の推計では,身体障害者総数 357.6 万人の内,18%が下肢機能障害であり,なんらかの装具を必要 とする場合,推定 61 万人がその対象となると考えられる。下 肢切断にいたっては下肢機能障害の約 10%であり,6 万人程度 と推定される。このように下肢切断のリハビリテーションの対 象者は少ないが,糖尿病や循環障害を伴う高齢下肢切断者数は 増加している現状がある。義足適応支援に関するニーズ調査5) では切断者の義足ソケットの適合支援が優先事項であると考え られた。また,適合支援の質向上のためには,利用者本人,支 援側を含めて,困ったときに相談できる体制,義肢支援に関す る情報ネットワークの構築などの支援システム上の課題がある と考えられる。 2.切断の理学療法介入と生活支援理学療法の視点 切断のリハビリテーションでは,医学的管理の必要な周術 期,回復期,退院後は生涯にわたり,義肢適合支援を中心とし た生活適応を目指した支援が必要とされる。周術期の軟部組織 の修復が不安定な時期には,断端管理は特に重要となる(図 3)。 この断端管理には① soft dressing,② rigid dressing,③ semi-rigid dressing の 3 法がある。semi-rigid dressing は断端皮膚の状 況をチェックすることが難しく,循環障害による切断には向か ない。弾性包帯を使用した圧迫療法(soft dressing)は断端創 部の確認が容易であり,現在も多くの臨床現場で採用されてい る。しかし包帯では均一圧をつくり加圧する技術が難しいなど の課題もある。このため,近年では弾性包帯法に替わってシリ コーンライナー自体の弾性特性を利用して,術後からライナー を断端に装着した圧迫法が多く採用されつつある。ライナーは 材料費を無駄にせずに術後から仮義足装着まで移行できるサイ ズを選ぶことが多い。装着はロールアップ方式にて行うが,術 図 3 切断の理学療法介入の視点
後の浮腫が強い場合はライナーの装着が難しいこともある。 これらの断端管理ひとつをとっても,経験のない理学療法士 が多くなり,経験に基づく知識・技術の継承が難しい現状があ る。我々の義肢装具領域における理学療法技術の質保証と,支 援体制は果たして十分であるといえるか。少なくとも利用者の 生活期の適合支援のニーズは高いことから必要な IPW につな ぐ体制を構築することも専門職としての役割のひとつであると 考えられる。 生活環境支援理学療法の視点は,個人と環境要因との適応性 を見きわめて介入することにあると考えられる(図 4)。義肢 装具領域の理学療法においてもその特殊性は同じようであり, 道具を利用した機能改善や生活に適応するための専門的な支援 であると考えられる。またこれは義肢装具士(以下,PO)の 専門性と近いところであり,連携協働することも多いと思われ る。それゆえ PO と理学療法士には切断者の残存機能に適応す るパーツ選択やその考え方を,本人や他職種に伝えるべき情報 として共有することが必要となる。そしてクリニック,カン ファレンスを通じて医師,PO 等の他職種との連携支援ができ るチームアプローチの体制をもつことがよりよい支援に繋が る。一方,理学療法士には残存する身体機能,代償機能を強化 していくことと,医学的リスク管理を行いながら,最大限に, かつ最短に身体条件を整えて,義肢装具の操作性を高めて,生 活に適応する介入支援を行い,その成果が求められることに なる。 3.理学療法士の課題と高齢化に伴う地域社会の課題 10 年前,第 39 回日本理学療法学術大会(2004 年,仙台市) において「生活環境支援専門理学療法の近未来を探る」という テーマで生活環境支援理学療法部会のシンポジウムが行われ た。その折に,当時の在宅や地域の最前線で活動を展開してい るシンポジストから,理学療法士は地域の現場でその人の生活 ニーズに合った具体的な支援や,行動変容を促すことを可能に する職種であり,その活動の役割や重要性について熱い答弁が 行われていた。10 年の歩みとこれからの 10 年,2025 年に向け た地域課題には,医療と介護福祉の連携,高齢者を含めた就労 支援,子育て支援,住まいと町づくり,フォーマルな制度政策 形成と NPO やボランティアなどのインフォーマルな活動支援 など,理学療法士の専門性をはるかに超える課題がある。 これらの地域課題の解決には,利用者本人,家族,地域住民 を含めた多職種による IPW が必要となる。いずれにしても, 今後の 10 年先に病気や障がい者となったとしても安心して暮 らすことができる地域社会システム(地域包括ケアシステム) の構築に貢献するべく,より多くの市町村での理学療法士それ ぞれが地域ニーズにあった理学療法士自身の行動変容を遂げる ことが必要であると考える。また,その人材育成の対応として, 現在,協会,各都道府県士会は,地域包括ケア推進,予防事業 推進のリーダー養成事業などの集中的・計画的投資を行って いる。 特に地域包括ケア体制の構築に向けては,他の職種連携と協 働による事例に基づいた体制づくりが必要と考えられる。その 中でも義肢装具領域の支援について考える場合,身体機能と生 活機能や環境(住環境,福祉用具,制度)との適合調整や理学 療法支援介入を行い,その方の生活に近い場で,必要に応じて 他職種と連携協働を行うことのできる理学療法士の活躍は,今 後益々期待されるところである。 障がい児の生活環境支援における理学療法士の役割 新田 收 1.障がい児に対する環境整備の考え方 脳性麻痺に代表される,運動機能に障害を有する者は,居住 環境に対する依存度が高い。これは日常生活上のごく身近な自 助具から車いす,施設設計上の配慮点まで多岐に亘り,生活全 般に及んでいる。このため日常生活上の自立度あるいは介助負 担の大きさが,居住環境によって決定される場合も少なくな い。障害構造において環境要因のもつ影響力は大きく,効果が あきらかな形で捉えることが可能である。こうした環境面の配 慮は,無数の環境的配慮の中から対象者が必要とするものを選 択することは容易ではない。環境整備が効果を示すか否かはい かに対象者に適応した環境が提供できるかが非常に重要であ る。ここでは,代表的な環境整備を例に挙げ,適応となる対象 者の基準を運動機能と知的状態という面から整理した。なおこ こで扱う環境整備の範囲は,身近な自助具から車いす,施設設 計上の配慮点までを含めるものとする。また環境整備項目は, あまり多くを取り上げることは不可能なので,一般的で適応頻 図 4 生活環境支援理学療法の視点
度が比較的高いものとする。 2.環境整備類型化の目的 居住環境整備は,日常生活全般に亘り重要な課題となってい る。個々の自助具から車いす施設設計上の配慮点の適応につい ては先に述べた。ところで一般に障害者に対する居住環境整備 を考える場合,障害者の身体機能を的確に把握しなくてはなら ないことが指摘されている。居住環境整備もその重要性から 個々の問題点に対する個別対応的な導入ではなく,対象者の生 活全体を捉えたうえで環境全体として計画されるべきである。 ここでは環境整備を効果的に行うために計画された調査を紹介 する。もちろん脳性麻痺は個々に状態が異なるために調査結果 をそのまま臨床的に応用することはできない。しかし,ここに 示す情報は,環境整備を導入するときの基本的な指標を提供す るものと考える。 クラスター分析の結果,100 名の脳性麻痺はまず 2 群に分類 され,この一方がさらに 2 群に分かれるという構造があきらか となった。ここで分類されたグループを仮に居住環境 A,居住 環境 B,居住環境 C 群とするならば,居住環境 A に分類され た対象者は 61 名,居住環境 B には 10 名,居住環境 C には 29 名となっていた。 この結果,居住環境整備は ABC 3 種に類型化された。居住 環境整備 A では,重症な障害をサポートし,介護負担の軽減 を目的として,立位での介助動作を考慮した居住環境整備であ り,これらは運動能力および知的能力に重い障害を有する者に 対して提供されていた。居住環境整備 B では,重症な障害をサ ポートし自立度の向上を目的とした居住環境整備であり,運動 能力に重い障害を有するが,比較的高い知的能力を有する者に 対して提供されていた。居住環境整備 C では,車椅子上での 自立度の向上を目的とした居住環境整備であり,比較的簡便で あり運動能力障害が比較的軽度な者に対して提供されていた。 居住環境 A は自立度のもっとも低い群であり,日常生活の すべての場面で全介助あるいはそれに近い状態にあるために, 環境整備では介助を目的とした項目が多く挙げられている。た とえば移動関連では,リクライニング式車いす,排泄関連では おむつ,就寝関連では床面が高いベッド,入浴関連では機械浴, などである。居住環境 A では介助動作が円滑に行えることが 重要であることを示唆する結果となっていた。 居住環境 B では日常生活活動自立度において,入浴,階段昇 降以外の項目では,わずかな介助で自立可能な対象者が多かっ たが,これに対して,車いす上での生活を基本として,自立度 の向上を目的とした配慮が特徴項目となっていた。具体的には 普通型車いす,車いす用テーブル,食器固定台,特殊スプーン, 尿器,施設面での配慮として,床上の移動を配慮した床材,車 いすを自力駆動して生活可能な広さが挙げられた。これらの項 目は車いすを駆動し,車いす上で自助具を利用し食事すると いった一連の日常生活を表していると考えられる。居住環境 B の対象者は居住環境 A の対象者同様障害はかなり重篤と考え られるが,同時に移動,食事などの場面において自立を目的と した機器が導入されており,居住環境整備によって自立度の向 上をなし得る群と考えられる。 居住環境 C では全体に他群に比較して自立度が高かったが, 環境整備においても自立度の向上を目的とした配慮,たとえば 普通型車いす・歩行器・テーブル・スプーン・洋式便器・床面 が低いベッド・バスマット・特殊タオル・浴室のてすりが挙げ られた。施設面での配慮では,車いすを自力駆動して生活可能 な広さおよび施錠が挙げられた。これらの項目は,居住環境 B における機器と比較して簡便であるものの,利用をするために はより高い運動能力を必要とするものとなっていた。居住環境 C では自立生活を前提としたものとなっていた。 3.環境整備の今後 2007 ∼ 2025 年にかけて,生産年齢(15 ∼ 64 歳)人口は約 15%減少,労働人口は 5 ∼ 13%程度減少する一方,必要な介 護職員数は倍増が予想される。現行のサービス水準を維持する ためには,労働力人口に占める介護職員数は現在の倍以上にな る必要がある。こうした状況の下で我が国の高いロボット技術 の活用が求められる。政府としての動きを以下にまとめる。 ・生活支援ロボットの基本・安全性・評価手法の確立,安全性 の確立したものについての普及の検討。(H21.6/18.閣議決定) ・介護機器(福祉用具)振興,生活支援ロボットの実用化。 ・世界的に優れた水準の介護機器(福祉用具),生活支援ロボッ トの開発・販売(H22.6.厚生労働省) ・介護機器(福祉用具)振興,生活支援ロボットの実用化。 ・世界的に優れた水準の介護機器(福祉用具),生活支援ロボッ トの開発・販売(H22.6.厚生労働省) ・介護・福祉ロボットの開発を促進し,世界市場を獲得する。 (H22.6.産業構造審議会報告書) しかし現実的には安全性の基準や技術が確立されておらず,本 格的な普及にはなっていない。この要因として,開発費が大き く,製品価格位が高い点が挙げられる。また,介護現場では懐 疑的意見もある。進化した工業技術でどのような機能でもつく り上げることは可能であり,人の機能を機械に置き換えること を競っていたように感じる。今後の発展を考えると課題が多 い。開発者とユーザーとをつなげるパイプが乏しく,多様な ニーズにきめ細かく応えていない。理学療法士は今後ユーザー の身体機能をもっともよく知るものとして,最先端ロボット開 発に積極的に関わることが重要である。 高齢社会の到来を踏まえた地域における理学療法士の 役割 河添竜志郎 介護保険がはじまり,私たち理学療法士を取り巻く高齢者 サービスの社会的な情勢も大きく様変わりしてきた。我々の技 術も,病院を中心とした医療の中での理学療法の提供ばかりで はなく,地域の中での理学療法の提供と,新たな技術の提供ス タイルがはじまっている。それに伴い,今までの常識は通用し ない場面も多くなり,理学療法士の質が問われる時代になって きた。今回のシンポジウムでは高齢者を中心として地域で働く 理学療法士の役割と必要な資質について経験を通して考えてみ たい。
1.大きく変化する地域 団塊の世代が 75 才以上の後期高齢者になる,「2025 年問題」 に対する国の施策として,「医療・介護サービスの提供体制の 改革」が行われている(図 5)。特に地域においては,図 6 の ように「地域包括ケアシステム」の構築に向けて,それぞれの 地域に合わせた形でのシステム構築への模索が続いている。図 6 を見ただけでも,様々な機関が利用者を取り巻き,多くの職 種や多くの方々が関わってくることがわかる。医療の中で使っ ていた言語や,あうんの呼吸などはまったく通用しなくなるこ とがわかる。そのような中地域にでてみると,地域の多くの人 たちは,病院にいる理学療法士は知っていても,地域でなにを する人(できる人)かはまったく知られていないという現実に 図 5 医療・介護サービスの提供体制改革後の姿 出典; 厚生労働省,介護保険最新情報(平成 26 年 2 月 13 日)「地域における医療及び介護の総 合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」 図 6 地域包括ケアシステムの姿 出典; 厚生労働省,介護保険最新情報(平成 26 年 2 月 13 日)「地域における医療及び介護の総 合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」
驚くことも多い。まずは“知ってもらう”ことからはじめるこ とが大切である。 2.理学療法士の役割と必要とされる条件 “知ってもらう”の次には,“使ってもらう”,“喜んでもらう” ことが重要である。また次に“使ってもらい”,“喜んでもらう” が続いてはじめて,その地域の中で役立つ存在となり地域の一 員となれる。そのためには,一度限りではなく何度でも使って もらうために,依頼内容に対し,専門性をもって効果を発揮で きる理学療法士とならなければならない。 そこには理学療法士としての基本的な知識や技術の向上も大 切ではあるが,そればかりでは必要とされる存在にはなれな い。対象者のウォンツに引っ張られすぎないように注意を払 い,ニーズを発見し,ディマンズの育成をはかり,社会の中で 意味のある価値を提供することが大切となる。高齢者は加齢に 伴う老いや,障害によって価値の喪失状態となっていることが 多い。新しい価値を提供しても,本人の希望と乖離し提供者の 自己満足になりやすいため注意が必要となる。ここは,病気の 治療や,できなくなった ADL の再獲得に同意を得やすい,急 性期から回復期の医療機関と大きく違うところである。 図 7 に地域で役に立つために学ばなければならないことを思 いつくまま挙げてみた。「①理学療法士としての知識や経験」 は,当然のことながら大切なことではあるが,地域においては 医師の診断によってはじまることばかりではなく,目の前の人 から突然の相談も受けることがある。そこで無理に判断をする 必要はないものの,様々な情報から利用者の状態を把握し,的 確に対処方法を判断できるよう,広く深い医学的な知識が必要 となる。また地域で働くと,たくさんの医師や専門医ともやり とりをすることも多くなるため,知識の幅はより広く深く必要 となる。「②制度の理解」は,地域では日々様々な相談事の中 に身を置くことになる。私たち理学療法士を利用してもらうた めの手段ばかりではなく,広く医療や介護,福祉などの制度の 全般を知り会話ができることは,頼りにされるために必要なこ とである。「③利用者,利用者の家族,関係者の現状の理解と 心理状況の把握」は,利用者本人や関連職種と医療機関の中に いるときのように毎日接しているわけではない。そのためお互 いの価値観のズレが,信頼関係の消失につながることとともに 大きな問題を引き起こすことにもなる。常に観察し仮説を立て 情報収集と理解に努める必要がある。「④連携」である。連携 の重要性がいわれはじめてから未だに連携がうまくいかないと いったことを耳にする。連携ということは,連絡を取り合うと いうことではなく,お互いに必要な存在として認め合うことで ある。相手をよく知り,信頼し信頼されるためにはどうすべき か考えることからはじめるべきと考える。その他まだまだ,多 くのことがあるが,大切なこととして最後に「⑤社会人として の振るまい」である。初見では挨拶から名刺の渡し方など信頼 に足る人物かどうかという視点で,細かなことまで観察されて いることを肝に銘じる必要がある。特にご自宅や他の事業所に お邪魔する際には,靴の脱ぎ方から,上着や荷物の置き場所, 相手に不快と思われないようなしぐさとはなど,多くのことを 自然にできるように学ぶことが大切となる。私たち理学療法士 にもっとも欠けている点だと感じている。 回復期リハビリテーション病棟ができ,「目標は自宅復帰」 という言葉を耳にすることが多くなった。しかし,私たち理学 療法士の役割はリハビリテーションの本質である「社会復帰」 という概念で,家庭や社会の中で役割をもち意味のある時間を 過ごすことができるように導くことである。そのことを忘れず に多くの方々に,“知ってもらい”,“使ってもらい”,“喜んで もらう”ことを心がけ,地域の中に理学療法士が必要不可欠と いった時代をつくらなければならない。 おわりに 本稿では各シンポジストに障がい者・障がい児の生活環境支 援の具体的なあり方と理学療法士の役割について論述していた だいた。障がい者の地域社会参加への糸口としてのスポーツ活 動の有用性,各病期での義肢装具支援における専門職連携の必 要性,障がい児の運動機能と知的状態からの居住環境整備の類 型化や高齢者を対象として地域で活動する理学療法士に必要と なる役割や資質などについてこれからの課題を含めて示唆に富 んだ提言がなされた。障がい者の生活に関与することで生活す ることの本質を理解し,理学療法士としてどこまで貢献ができ るのか,そのために我々に求められる資質はなにか等々,再考 の一助になれば幸いである。 文 献 1) 日本理学療法士協会(編):新人教育プログラム教本(第 9 版). 日本理学療法士協会.2008,pp. 97‒106. 2) 日本理学療法士協会(編):理学療法白書 2007.日本理学療法士協 会.2007,pp. 78‒82. 3) 日本理学療法士協会(編):理学療法白書 2012.日本理学療法士協 会.2012,pp. 10‒14. 4) 原 和彦:連携教育の実践と課題─理学療法学領域から─.PT ジャーナル.2009; 43(12): 1043‒1051. 5) 原 和彦,井上和久,他:切断者の義足適応支援に関するニーズ 調査.日本義肢装具学会誌.2009; 25: 189. 図 7 地域で役に立つために学ばなければならないこと